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第二百話 自称総大将いざ出陣ッ!!

お疲れ様です。


連休中の深夜にそっと投稿を添えさせて頂きます。




 漆黒の闇夜から吹く冷たい風が頬の柔肌を傷付け、地面を震わす魔力の波動が足から体内へと伝わり駆け巡って行く。



 クレヴィス擬きから放たれる途轍もない魔力の圧は大魔のそれとほぼ同程度の力。



 ことごとく運の悪い狐の女王や全身どこを見ても卑猥なドスケベ姉ちゃん達と長い間過ごした母親クソババアと、幼い頃から幾度無く拳を交わした私にとってこの程度の圧は慣れたものさ。


 つまり!! 別にビビっている訳じゃないのよ。こうして足が震えているのは。


 広い机いぃっぱいに美味しそうな料理が並べられていたら誰だって嬉しいでしょ??


 ペコペコのお腹を満たす前の武者震い、とでも言えばいいのかしら。



 現時点での己の力が天井知らずの傑物共に何処まで通用するのか、きっと体は無意識の内に試そうとしているのでしょうね。


 ううん。試すじゃ駄目だ。


 私が負けたらきっとカエデや他の友人達にも尻デカ女の魔の手が迫る恐れがある。


 確実に張り倒して、そして……。気絶するまで尻を叩いてぇ、叩いて叩きまくってやる!!!!


 泣こうが喚こうが、そして口から血を吐こうがぜぇぇったいに折檻の手は止めん!!



 咽び泣いて私に許しを請う姿が陽性な気持ちを沸々と湧かせてくれるのだが……。



「ぬ、ぬぅぅ……」



 姿、形が見えぬ相手にどう戦えと言えばいいのかしら!?



 新生クレヴィスは短い距離の空間転移を得意としているのか。


 突如として姿を現しては私の素敵な御体に攻撃を加え、お返しとして襲い掛かってきた方向へ向かって猛烈な一撃を放つが……。時既に遅し。



 野郎は嘲笑を残して虚空へと消え、再び虚無の中から猛烈で激烈な殺意が渦巻くのだ。



 手汗でびっちょびっちょになった手の平で黄金の槍の柄を掴み、切っ先から感じ取る阿保らしい魔力の末端に呆れ果てて大きく息を漏らした。


 ま、参ったわねぇ。


 勢いに任せて前に出たはいいけど。目の前に相手が存在しなきゃどうにも出来ないじゃない。



「ほらぁ。こっちですよ――??」


「うっせぇ!! おらぁ!!」



 右後方。


 腹の立つ声が放たれた方向へ向かって鋭く槍を穿つが。



「はいっ、外れ」


 既にデカ尻女の姿は無く只々虚無の空間に切っ先が到達してしまう。


「うきぃっ!!」



 そして攻撃を外したと同時に、もう何度目か分からない程受けた激痛が背を通り抜けお腹ちゃんへと突き抜けて行った。



 や、や、やりにきぃ!!!!


 こっちが攻めれば蜘蛛の子を散らした様にそそくさと逃げ、逆に守に回れば至る所から常軌を逸した魔力が襲い掛かって来やがる。


 四方八方死角が無い相手ってのも厄介極まりないわね!!


 こちとら空間転移の魔法が詠唱出来ないってのに相手は容易く姿を消失。


 私の可愛い体をまるで緑に溢れた御山へ出掛ける時の様に楽しく鼻歌を奏でつつ折檻して来やがる。


 全く……。手の上で踊らされるのも楽じゃ……。



「はぁ――い。次は……」


「おらぁ!! 逃げんなぁ!!」



 黄金の槍を背へと横一文字に払いつつ叫ぶ。


 し、しまった!! また外した!!


 ぼ、防御態勢を……。



「そこじゃありませんよ??」



 ン゛ッ!? 上か!!



「せぇいっ!!」

「あはは。違いますよ――。こっちですっ」


「うげべぇっ!!」



 確実に捉えたと思った矢先。


 腹に火球が直撃し、体がくの字に折れ曲がり後方の石柱へと吹き飛ばされてしまった。


 この威力……。ドスケベ姉ちゃんと同程度じゃないの??



「流石、龍の力を受け継ぐ者なだけはありますねぇ。これだけ攻撃を当てているのに倒れもしないなんて」


「あ?? 攻撃が温すぎて、超アツアツのおにぎりを握れる位に退屈よ。もっと腰を入れて打って来いや」



 もうちょっと休もうよ?? と。


 ふざけた台詞を抜かす両足に喝を入れて立ち上がり、もっと打って来いと言わんばかりに啖呵を切ってやった。



「まぁ、男勝りな台詞です事。あ、そうですよねぇ。お胸が薄い御方ですから、その……。クスクス。男性と遜色が無いのですよねぇ??」



「私の耳はおかしくなっちゃったのかしら?? も、もう一度。言ってみ??」



 お願いします。


 どぉ――か、聞き間違いでありますようにっ。



「胸の薄い大馬鹿野郎」


「張り倒すぞぉぉおお!!!! この不埒な肉付きの尻野郎がぁぁああ――ッ!!!!」



 上品に口元を隠して笑い続ける真正面のデカ尻女へと最短距離を突き進み。



「ぜぇいっ!!」



 柔らかそうな腹部へ風を纏った矛先を穿つ。



「わぁ――。凄い速さですねぇ。私以外でしたら、きっと捉える事が出来ると思いますよ??」



 残り一寸程度の所で躱され、槍が空を裂く。


 くっそう!!


 いい加減飽きてきたわよ。何も無い所を突くのは!!



「あの頼りない魔法使いよりかは遊び甲斐があって楽しいですよ??」



 宙にふわりと浮かび頭を下に、そして足を天へ向けたあべこべの姿で私を見下ろす。



「お、おいおい。それ、どんな魔法使ってるのよ」


「これですか?? 反重力の魔法ですよ。今、私の体は無重力状態なのです」



 手元に浮かべたまぁまぁデカイ水の塊をふよふよと浮かべさせて周囲へばら撒く。


 デカ尻女の言う通り。


 水は大きな塊の姿を保ったまま、地面へ落下する事無く彼女の周りを楽しそうに回り続けていた。



「ほぉん、無重力ねぇ……」



 重力ってのはアレでしょ?? 地面に向かって落下する力の事だ。


 ちゅまり!! 尻デカ野郎の周囲はその力が働かないって事になる。


 体が軽くなった分、力を受け止めにくくなるから不味いんじゃないの??



「便利ですよ。重たい胸で肩が凝る事も無いですし」


「そ、そうね!! 胸が重たいと肩が凝るわよねぇ!!」



 体をグゥンっと縦に伸ばし。私もまぁまぁ大きいお胸の所為で肩が凝っていますよ――っとさり気なく強調する様に肩をぐるりと回す。



「見栄を張って……。虚勢程虚しいものはありませんよね」


「きょ、虚勢じゃねぇし。じ、事実だし……」



 そう、いつかは……ね!! 大きくなる予定だから出世払いと同じ要領で今威張ってもいいのよ!!



「あ、そっか!! 貴女の場合は女性の柔肉じゃなくて。ビックリする位にシャツが盛り上がった男性ばりの胸筋の所為で重たいんですよね!!」



 キャハッ!! と。年相応の女の笑い声が響いた刹那。


 頭の中で何かがブッチィィンと派手に飛び散る音が鳴り響いてしまった。



「ち、地平線の果てまで吹き飛べやぁああぁああああ!!」



 ケラケラと笑う女の眉間目掛け、槍を突いてやるが。



「ふふ。もう少しでしたね??」



 周りに浮いていた水が鋭い槍へと変貌し、私の体に襲い掛かって来やがった!!



「うげぇっ!!」



 咄嗟に槍の柄、そして腕で防御するが……。


 直撃は免れずに皮膚を切り裂いてお肉に水の槍が突き刺さってしまった。



「あらぁ。痛そうですねぇ」


「はっ。この程度の攻撃じゃ温いって言ってんのよ。もっと重いの撃って来いや」



 腕から沸き上がる深紅の水を舐め取りながら話す。



 くっそう……。啖呵を切ったのはいいけども。


 正直八方塞がりね。


 此方がどれだけ速く動こうとも相手に見切られ、死角へと移動されてしまう。


 問題はあの連続で行われる空間転移よねぇ。


 あれさえどうにかすれば、こちらに勝機が訪れると考えているんだけど……。


 カエデと蜘蛛みたいに魔力の感知に優れている訳じゃないし。



「ん?? どうしたんですか??」


「あ?? あ――。あんたの横っ面にどうすれば気持ちの良い一撃をぶち込めるか、すんばらしい計画を考えていたのよ」



 今度は真面に地面に立つ彼女へと言い放つ。



「考えて下さいねぇ。まっ、あなたの空っぽな頭ではそれは叶わないと思いますけどっ」



 こ、この野郎。


 ちょぉっと賢くなったからって随分と余裕みせてくれんじゃん。



 ここで相手の挑発に乗るから駄目なのよ。


 うん。先ず一旦、落ち着こう。



「すぅ――……。ふぅぅぅ……」



 大きく息を吸い、肺の中に新鮮な空気を送り込む。


 うむっ、カッカしていた頭が冷えて来たわよ。


 頭は冷静に。だけど、闘志は熱く燃え滾らせる。


 基本よ、基本。



「あら?? どうしたんですか?? いつもみたいに猪みたく突撃を繰り返さないのですか??」


「馬鹿の一つ覚えじゃあんたに勝てないのよ」



 熱き心を胸に宿し足を肩幅に開き、槍を中段に構える。



「学習したんですねぇ。偉いですよ」



 そりゃど――も。


 さてとっ、一丁戦法を変えてみましょう。


 本当ならクレヴィス擬きが言ったように、馬鹿みたいに暴れ回るのが得意なんだけど。ここは一つ、集中力を高めてみるか。


 槍を持つ手の力を抜き、強張っていた肩の筋力を抜く。



「ん――。諦めたんですかぁ??」


「…………」



 無視よ、無視。


 只々深い呼吸を続け、相手の殺気、膨れ上がる魔力、筋線維の一本一本を見逃すまいと注視を続けた。



「動かないのなら、こちらから行きますねぇ」



 さぁ、来るわよ。


 馬鹿げた魔力が目の前から消え失せ、私の周囲に幾つもの殺意と魔力の塊が浮かんでは消失する。



 眼球の動きだけでは追えぬ消失と出現。



 ここで先に動いては相手の思う壺よね?? あの憎たらしい顔と態度が向かって来るまで待ちの一手よ……。



 槍を持つ手にじわりと汗が浮かぶ。



「――――はいっ。お終いッ!!」

「そこだぁああぁ!!」



 左後方から突如として現れた声と魔力の塊の下へ槍を穿つが。



「ざ――んねんっ。そっちは紛い物ですよぉ」

「ごぶらぁっ!?」



 顎下から途轍もない衝撃が走り、顎が跳ね上がると私の体がふわりと宙へ浮かんでしまった。


 あ、あぶねぇ!! 意識を失う所だった!!


 数舜で体勢を整え、これでもかとあんよちゃんに力を籠めて大地をしっかりと踏む。



「おぉ、今の攻撃で倒れないのですか。感心感心っ」



 パチパチと手を叩く姿がまた腹が立つことで。



 おっかしいわねぇ。完璧に捉えたと思ったのに……。



「完璧に捉えたと、考えていますね??」


「まぁねぇ」


 私ってそんなに表情に出やすいのかしら??


「今のは仕方がないですよ。幾つもの魔力を周囲へ出現させて、幻惑させていますので」



 ほぉ、今一分からんがそうなのか。



「あの情けない海竜さんは見抜く事が出来ます。ですが、魔力に敏感過ぎるのも難点。魔法に精通すればする程引っ掛かるのです」


「おいおい。私に教えてもいいのか??」


「別に構いませんよ。あなた、お馬鹿さんだから魔力の感知に乏しいですし」



 ぶ、ぶん殴りてぇ……。



 で、でも落ち着きさない?? 横着な私。


 折檻は憤怒が募れば募る程、楽しくなるものだからね??


 捉えたと思った矢先のこの失態。


 頭を冷静に、そして熱い魂でも駄目。まだ何か足りないのかしら……。



「よぉく相手を観察しましょうねぇ――」



 うっせぇ!! 言われなくてもそんな事は分かっているのよ!!


 魔法に関して私はカエデに逆立ちしても勝てない。そのカエデが手の平で踊らされる程の実力。


 なまじ、目が良過ぎるから騙される。



 つまり、だ。



「おやおや。目を瞑ってどうしたんです??」

「……」



 目に頼るのは止めよ、止め。神経を研ぎ澄ませる事に集中しよう。


 小さな針の先で空から降り注ぐ雨粒の芯を突く様に。極限まで神経を尖らせて相手の気配を捉えるのよ。



「じゃあ、遠慮なく攻撃させて貰おうかな――っ」



 声が途絶えた刹那。


 勘弁して下さいよっと思わず口から零れてしまう無数の魔力が私の周囲を包み込んだ。



 こ、これが奴の言っていた幻惑させるって奴か。


 無数の魔力の塊一つ一つにちゃんとした殺気と攻撃色が滲み出ている。


 どれが本物で、どれが紛い物か。全く以て区別がつかんっ!!



 まだよ。まだ何か足りない……。


 ふっと目を開き、己の右手を見下ろす。



「……むっ??」



 あぁ、はいはい。これの所為か。


 黄金の槍を掴む手が異常なまでに固まっていた事に気付き、継承召喚を収め。



「すぅ――……。ふぅぅぅ」


 再び瞳を閉じて集中力を高め始めた。


「あれぇ?? その槍、しまっちゃうんですね??」



 相手の声に惑わされるな。



「ど――こ――から。現れるかなぁ――??」



 そこも偽物よ。



「こっちが本物かもよ――」



 そっちも擬態。


 こうして体を弛緩させて心を落ち着かせると意外と見えて来るものねぇ。


 ボケナスと狐の女王様がいつも言っていた。



『澄んだ水面』



 その心を己に映し、肌、指先、そして髪の先にまで神経を張り巡らせ。本物の殺意が現れるまで只管に集中力を高めて行った。


 悪いわね。


 あんた達の技、借りるわよ……。



「もう遊ぶのは飽きましたから、次で決めますねぇ」

「……」



 旋毛の上から届いた声を無視し、右手の拳を軽く握る。


 頑丈な岩を砕く、馬鹿力は要らない。



「こっちかなぁ??」

「…………」



 耳元で囁かれた声を受け流して腰を落とす。



 今必要なのは……。そう、鋭く一点を貫く針の一撃だ。



 馬鹿みたいに広い直径の円を徐々に縮ませ、矮小な円を心の中に思い描く。


 あの円のド真ん中へ穿てばいいのよ。


 もっと、もっと……。己の精神を極限まで研ぎ澄ませ。



「首を刎ねて、あなたの墓標に添えておきますね」



 殺意とも陽気とも受け取れる声が体の中を通り抜けて行く。


 それと同時に深い闇の中に無数の点が動き回り、それが美しい光の軌道を描き始めた。


 闇の中に描かれる軌道は夏の夜空を横切る流れ星の様に光り輝き美しく尾を引く。



 カエデがいつも見ている視界がこれなのかしら。



 集中力を高めていくと幾つかの光の軌道が徐々に消失。


 指で数えられるまで減少していくと。その内の点の一つが強烈に眩く発光し、私との距離を徐々に縮ませた。



 ん?? ん――……。


 他の光に比べて強烈に強いナニかを感じる。つまり、それが示す事は……。



「――――では、さようなら」



 静寂の中に殺意が籠められた黒き声が響くと、闇の中の点が太陽の光量ばりに強烈に爆ぜた。



「……………………。貰ったぁあああああぁああああぁ!!」

「う、嘘!? ぐっ!!」



 鋭くカッ!! と瞼を開き。右斜め前へ正拳を放つと大変心地良い感触が拳を通り抜け肩まで到達。


 久方ぶりに感じた硬い感触によって、鉛色に染まっていた心の空模様がぱぁっと晴れ渡っていった。



「うっひょう!! 最高に気持ち良いわね!!」



 赤く腫れた頬を抑えるクレヴィスを見つめて言ってやった。



「ま、まぐれにしてはやるじゃないですか」


「まぐれぇ?? 実力よ、実力。あんたの馬鹿みたいな殺気を読み取って打ったのよ」



 腰に手を当て、どうだと言わんばかりに胸を張る。



「私はカエデみたいに理で動けない。その分、直感に優れているのよ」


「成程。動物的勘で読み取った訳ですね。いや、本能と言うべきかしら。動物は命の危機に瀕すると勘が鋭くなるらしいですからね」



 命の危機??


 はっ。こいつは一体何を言っているのやら。



「おいおい。命の危機より先に、あんたの尻の心配をしたらどう?? これから楽しい楽しいぃ折檻が待ち構えているんだからねぇ」



 摩訶不思議な空間転移の動きには慣れるまでに時間は掛かるだろうけど。


 今の動きで大方のコツは掴んだし。


 後は足腰踏ん張り利かなくなるなるまでボコって、抵抗できなくなった体へ……。


 基。


 尻へと平手を何百と打ち込んでやる。


 覚悟しなさいよぉ。新しく生まれ変わった体の尻を更にピッカピカに磨いてやっからな!?



 さぁ――……。皆さん御待ちかねぇ。楽しくも残酷なお仕置きの時間の始まりだぁ……。



「今ので私の動きを完璧に見切った。そんな感じですね??」


「おうよ。もう私には効かないわよ」



 出来れば違う魔法で攻めて来て欲しいものだ。


 あれだけの集中力を続けるのは多大なる労力を費やすんでね。



「うふふ……。本当に楽しませてくれますね。あなたは遊び相手から……。戦うべき相手に昇華しました。光栄に思って下さい」



 冷たい瞳へと変容するとふわりと宙へ浮かび、クレヴィス擬きの両手に光り輝く光球が出現。


 ちょいと多くない?? と首を傾げたくなる光球が物凄い勢いで彼女の周囲を飛び回る。



 あの光、ちょっと宜しくない雰囲気ね。


 無数の光球から放たれる光量に目を細め、尻デカ女の姿を見失うまいとした。



「さぁ、踊り狂いなさい。愚かな血を受け継ぐ者共よ……」



 馬鹿げた魔力が爆ぜるとただでさえ多い光球が更に分裂を開始。


 思わずポッカァンと馬鹿みたいに口を開けてしまう夥しい量の光球が目の前に立ち塞がり、不規則な動きで宙を飛翔。



傀儡乱追閃ランペイジチェイサ――ッ!!!!」



 そして、クレヴィス擬きが私に対して手を翳すと夥しい量の光球が目を疑う速さで襲い掛かって来た。



 や、やっべぇ!! 逃げようにも逃げる場所が見つからんし、この光球に背を見せるのは得策じゃねぇ!!


 目玉の裏の筋線維を死ぬ思いで動かして、上下左右から襲い来る光球を捉えた私はゴックンと硬い生唾を飲み込んで決意を固めた。



 く、来るなら掛かって来やがれ!! 私はお腹がペコペコに空かない限り戦いからは逃げんっ!!!!



「だだだだっ!!!! うぉぉりゃぁぁああああ――――ッ!!」



 魔力を籠めた左右の手をこれでもかと動かし、複雑な軌道で襲い来る光を叩き落とし、弾き、吹き飛ばす。


 真っ赤に燃える拳で光球を捉えると目の前に網膜が焼け落ちてしまう程の白き閃光が迸り、拳に感じる重さと痛みが一発の威力が尋常では無いと知らせる。



 全力で私に向かって来るちっさい光の玉一つ一つが人を容易く倒せる攻撃力を備えている。


 一つでも弾き逃したら……。そこから綻びが生じて取り返しのつかない状況に追い込まれてしまうではありませんか!!



「んふふ。いつまで体力がもつかしらね??」


「温いって言ってんでしょ!! こぉんなちっさい光の玉なんかじゃ私を倒せないわよ!!」


「あら、そうなの?? じゃあ、はぁい。お代わりどうぞ――」


「ッ!?」



 うっげぇっ!!


 クレヴィス擬きが不吉な笑みを浮かべると背から大きな光の玉が現れ今に爆ぜようと膨張し続けていた。


 ただでさえ光を叩き落とすのに手一杯なのに、ここから増えるとなるとぉ……。


 これから己に起こる悲惨な状況を想像した所為か。


 酷く冷たい嫌な汗が背をツツ――っと伝って行った。



「では……。さようなら」



 背の光球が爆ぜ、もうちょっと勘弁して下さいよ!! と。頭を垂れたくなる無数の光球が牙を剥き出しにして無秩序な軌道で向かって来た。



「だだだぁぁああ――!! あんたに、さようならの一撃ぶち込んでやるから待っていなさいよぉぉおお――ッ!!!!」



 わ、私の腕は二本なの!!


 卑怯よ、卑怯!! インチキ過ぎてムカツクわ!!



 馬鹿げ威力の光球を殴り続けている所為か拳の感覚が大分薄れてきてしまう。


 ちゃんと拳握れているかどうかも分かんない。だけど、ここで休んだらこの光の玉の餌食だし……。


 ど、どうしたもんかね。


 真正面から襲い来る光球の数々に顔を顰めて対処し続けていると。



「――――休憩、終わりました」



 頼もしく、そして冷静を取り戻した友の声と共に淡い桜色の結界が目の前に張られた。



「カエデ!! いやぁ、助かったわよ!!」



 拳を下ろし、額から零れ落ちる大量の汗を手の甲で拭いつつ振り返った。



「あの威力の魔法を拳で叩き落としていたんですか??」


「え?? うん。いけるかなぁって思ったら、意外といけたのよ」



 真っ赤になった拳に、ふぅふぅと息を吐き続けて話す。


 うげぇっ!! 皮、ずるっと剥けてんじゃん!!


 薄皮が破れ、痛々しい真っ赤なお肉が御目見えしてしまっていた。


 後でお肉を沢山食べて傷を癒しましょう。



「普通はこうして結界を張って防御するものですよ。それか、巧みな体捌きで躱すか」


「結界張れないしそれに避けるのも面倒だったし。愚直に真っ直ぐ!! これに限るわ!!」



 若干呆れ顔を浮かべているカエデに言ってやった。



「まだ凝りていないのですか?? 弱虫の魔法使いさん」


「えぇ。負けっぱなしは示しがつきませんからね」



 右手に持つ樫の杖を前に翳し、クレヴィス擬きと対峙する。


 うむっ。頭も冷えたみたいだし、これなら何んとかなりそうじゃない??


 只、顔色が冴えないのが気掛かりね。


 まっ。そこは気合でどうにかするって事で!!



「さぁて?? クレヴィス擬きさんよぉ。こちとら、二人掛かりよ?? 今の内に尻尾巻いて、キャンキャンなっさけない声を喚き散らして退散したらどうよ」


「共闘、ですか。その考えには賛成です。二人であのデカイお尻を更に巨大な物へと昇華させてやりましょう」



 私と肩を並べ、頼もしい声色で嬉しい事を言ってくれる。



「良いわねぇ。尻を四つに増やしてやるわよ」


「勿論です。もう二度と私達に逆らえない程に真っ赤に染めますか」



 左肩から感じ取るカエデの魔力が私の闘志を燃え滾らせ、彼女が放つ不撓不屈の精神が心を高揚させてくれた。



 獰猛な獣も慄く史上最強の龍と大海を統べし賢い海竜の共闘だ!!


 これならいけるわよ!!!



 拳にじわっと広がるジンジンとひり付く痛みを堪え、頼もしい友人と共に相変わらずの不敵な笑みを浮かべる強敵と対峙し続けていたのだった。




お疲れ様でした。


本日も光る画面に向かって文字を叩き続けていたのですが、ひょんな事から番外編のネタを思い付き。筆のノリが良かった為一気に書き終える事が出来ました。


この後直ぐに更新させて頂きますのでお時間がある御方は御覧下さい。



私が住む地域は連休中日なのに生憎の空模様でした。まぁ大変涼しくなって過ごし易くなったのは良いですがどうせなら晴れて欲しかったですね。


雨の中、ガソリンスタンドへ寄り。そして出たついでに食事と買い物を済ませるという休日のテンプレみたいな過ごし方をしました。


この後も引き続き本編のプロットを執筆するのですが、少し小腹が減ったので近所のコンビニへ寄る予定です。



それでは皆様、お休みなさいませ。

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