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第百九十八話 お帰りなさい。楽しい危険と恐ろしい冒険が待ち構えている現実世界へ その一

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 今からこの溢れ出る殺意をあのデカイ尻へ向かって全力で発散出来るかと思うと本当に心が高揚してしまう。



 一発目は尻のド真ん中、二発目は左側。そして三発目は右側の尻へブチかましてやろう。



 名の知れた芸術家は満足がいくまで作品の完成を良しとしないと言われている様に均等に痛みを与え、全く同じ角度で尻を膨らませてやらねば至極の作品は生まれないのよ。


 たった一つの事を突き詰めてこそ芸術作品は完成する。それは彼女の為でもあり、私の為でもあるのだから。


 さぁてぇ……。地獄の悪魔もやり過ぎだと呆れた顔を浮かべてしまう程の惨たらしいお仕置きの時間の始まりだ。



 殺意と魔力を籠めた強烈な拳を作り、各関節をポキポキと鳴らし。首を左右に傾けて最高傑作を作り上げる為に体を順調に解して行く。



「怖い音立てないでよ!! 手元が狂うじゃん!!」


「あ?? 手元??」



 クレヴィスの手元には何やら光り輝く水晶が握られており。それを遅々とした所作で中央の円筒状の根本のある箇所へ嵌め込もうとしていた。



「それは何よ」


「うん?? 分かんない。ここに来て、これをここに入れるのが今回の私の仕事だもん」



 こんな辺鄙な場所で良く分からない物を持たされて。剰え一人で作業を続けていたのか。


 彼女の立場を鑑みると多少は同情の念が湧くが……。



 テメェの仕事とぉ、私の憂さ晴らしはぁ別なんですよねぇ。



「え、えへへっ。エヘヘヘヘ!!!!! さぁさぁ――!! 早く逃げないと怖くてぇ、痛ぁいお仕置きが待っていますよぉぉ??」



 相手の正気度を狂わす狂気に塗れた声を放ち足に力を籠めて未完の芸術作品へと襲い掛かろうとするが。



「へ、へんな声を出すな!! よ、よし!! 後少しっ!!!!」


「そうはさせるかってんだぁ!!」


「く、来るなぁぁああ――っ!!」



 クレヴィスの手元の方が僅かに勝ってしまった。


 怪しいピンクの色を放つ水晶が円筒状の根本の窪みにピッタリ嵌ると、中央の円筒が強烈に発光。


 それが連鎖する形で左右の円筒が強く輝き出してしまった。



「うぉ!? な、何だ!?」


「不味いですね。この魔力……」



 左に二つ、そして右に一つある円筒の中から途轍もない力の波動が強烈な発光と共に放出され、空気を細かく振るわせながら今も高まって行く。



 強烈な発光から感じるそれはうちの母親クソババアやイスハ達と肩を並べる程に大きく、とてもじゃないけど真面であるとは思えなかった。



 あ、あはは。これはさ、流石にちょぉぉっと不味いかしら??



「やった――――!! 大成功っ!!」


「良く無いわ!! あんた、何をしたか分かってんの!?」


「ひゃんっ!!」



 四つん這いのままうっとりとした表情で光を見つめているクレヴィスの尻を叩いてやった。



「叩くなって言ってるでしょ!! 当然理解しているわよ!! 滅魔ってつよぉい人達を起こしたのよ!! 初めて仕事を完遂したかも」


「余計な事しやがってぇ!!」



 恐ろしく叩き易い尻に二度目の折檻をぶち込んでやる。



「ぴゃんっ!! 止めてよ!! 人のお尻を何だと思って……。はれ?? 何?? これ」



 クレヴィスの声を受けて彼女のぷっくりと丸い尻から視線を外すと、先程まで屈強に閉じていた正面の円筒状の蓋がぽっかりと開いてしまっていた。


 中の空洞には光りが届かないのか、それとも光を飲み込んでしまう黒い何かが潜んでいるのか。


 左右から迸る光が当たっているってのにその全容は明らかにならず、只々漆黒だけがそこに存在していた。



 光を拒絶する漆黒に思わず背筋がゾクっと泡立ってしまう。



「クレヴィス。悪い事は言わない。そこから早く離れなさい」



 い、一体何だってのよ。これは……。



「え、えぇ、そうね。それじゃ……」



 最大級の警戒心を抱き、出来るだけ闇を刺激しない様にゆるりとした所作で立ち上がりこちらへ歩みを進めるが。



「「「ッ!!!!」」」



 円筒状の空間の闇の中から突如として出現した複数の長い漆黒の腕がクレヴィスを拘束してしまった!!



「きゃあぁぁああ――――ッ!? ちょ、ちょっとぉ!! 何よこれぇ!!」



 彼女の体全てを拘束し、黒い中へと引きずり込もうと徐々に引き寄せ始めてしまう。



「た、助けてぇ!!」



 本来であれば奴は敵の立場であり、私は彼女を助ける義理は無いのだが……。



「おい!! 手を掴め!!」


「う、うんっ!!」



 黒き腕に拘束されて恐怖で怯える彼女の顔を捉えた刹那、自然と手が伸びてしまった。



 へっ、敵に塩を送るなんて私もまだまだ甘ちゃんね。


 さっさと黒い腕を引き剥がして、んで。間も無く登場するであろう滅魔達をぶっ潰したらこってりと尻を叩いてやろう。


 その為に私はコイツを助けるのだよ。



 自分に体の良い言い訳を言い聞かせ、しっかりと掴んだ手を此方側に向かって引き寄せようとするが……。



「ぬ、ぬぅっ!?」



 黒き腕の力は思いの外強力で、全力で引っ張る私の力を物ともせず彼女の体を取り込もうと引き寄せ続けていた。



「ちょ!! ぜ、全然止まらないんだけど!? 何んとかしなさいよ!!」


「うっせぇ!!!! わ――ってんだよ!! んぎぎぃっ!!」



 だ、駄目だ!!


 このままじゃ……、芸術作品が未完のまま消失されてしまう!!



「助っ人登場!!」


「少々鼻に付く癖がある御方ですが。居ないと居ないで寂しいですからね」



「ユウ!! カエデ!!」



 ユウ達が私の腰を掴み、頼れる力で円筒状の物体の反対方向へと引っ張ってくれるが……。


 三人がかりでも取り込まれるのを多少長引かせる程度の時間しか生み出せない様だ。


 毎秒数センチ程度ずつ引き寄せられて行ってしまう。



 く、くっそう!! こうなったら一か八か。


 私の黄金の槍で黒い腕を全部切り落としてやるっ!!!!



「ユウ!! 私と場所を……」


「――――。手、放して」


「は、はぁ!?」



 こいつは本当に馬鹿なのか!? 助けてやろうってしてんのに!!



「あんた達まで巻き込まれる事は無いわ」


「ふっざけんな!! こんな物、私の力でぇ!!」



 何の為に鍛えているのよ!! おらぁぁああ!! 動けぇぇええ!!


 訳の分からん黒に未完成の作品を奪われて堪るかってんだ!!



「実は、さ。ちょっとだけ嬉しかったのよね。あんた達が私を助けようとしてくれた事」


「下らない事言ってないで、あんたも力を出しなさいよ!!」



 や、やばい!! 左手が外れた!!


 辛うじて踏み留まった右手に渾身の力を籠めて、彼女の微かに震える手を万力で握る。



「あはは……。ば――か。あんたって本当に馬鹿ね」



 今から自分に襲い掛かる恐ろしい結末を想像したのだろう。


 恐怖でカタカタと微かに震える体、そして涙を零すまいとして必死に堪えている目元から地面に向かってハラリと一筋の光が流れ落ちて行く。



「な、泣きそうな面すんな!! 私が何んとかしてやんよぉ!!!!」


 私がそう叫ぶと。


「うん、そうだね」



 恐怖に塗れた顔で、精一杯の優しい笑みをふっと漏らした。


 こ、こいつ。まさか!?



「…………。ありがとう」


「ば、馬鹿野郎ぉぉおお――――ッ!!!!」



 最後の最後まで諦めずに握り締めていた私の手を払うと、クレヴィスは黒の中へと取り込まれてしまった。


 そして、猛烈な速度で蓋が閉まり。彼女の体は無情にも円筒状の物体の中へと姿を消した。



「くっそう!! こうなったら……。これごとぶっ壊す!!!!」



 待っていなさいよ!! クレヴィス!!


 腹の立つ敵だけど、何だか憎めないあんたを……。そこから助けてやるわ!!


 最後に右手に感じた奴の震える手、そして恐怖を克服しようとして浮かんだ彼女の涙が私の闘志に大火を点けた。




「いくわよぉ……。風よ!! 我と共に吹き荒べ!!!! こぉい!! 覇龍滅槍ヴァルゼルク!!!!」



 体内から溢れ出る魔力を全解放。宙に浮かぶ深紅の魔法陣から黄金に光り輝く槍を取り出す。



「はぁぁ……。ふぅ……」



 よしっ!!行くわよ。


 心に燃え盛る炎のままに私は槍を構え。そして、激烈な一撃を円筒状の物体へと叩きつけてやった。



「――――。ガッデェェッ!!!!」



 全てを切り裂くと自負している穂先が硝子っぽい蓋に着弾して強烈な火花が飛び散るが、蓋をこじ開ける処か傷一つ付ける事は叶わなかった。


 常軌を逸した硬度の物体を叩き付けた衝撃の余波が手の平から肩へと突き抜けて行く。



 な、何よ。コレ……。


 普通の硝子じゃないの??



「おいおい。マイの一撃でも穿てないのか??」


「こんなかったい物、初めてよ」



 不味いわね。


 こうしている間にもあの馬鹿が中で苦しんでいると思うと……。


 手の皮がずり剥けても構わない勢いで槍の柄を握りしめ、もう一撃ブチかましてやろうとして上段に構えた。



「マイ。救出は一旦お預けです」


「はぁっ!? どうしてよ!!」



 カエデの放った一言を受けて振り返ると、彼女の顔色は今まで見た事が無い程に緊張の色に染まっており。


 超最大級の警戒心を持って今にも開きそうな三つの蓋へ視線を送っていた。



「くそう……。待っていなさいよ!! 後で助けてやるから!!」


「な、なぁ。今にも開きそうだぞ」


「皆さん、滅魔さん達の御登場です……」



 カエデがぽつりと声を漏らすと。



「「「……」」」



 光り輝く三つの円筒状の蓋が静かに開き、濃霧が山の斜面を下り落ちて行く様に中から超濃厚なマナが地面へと垂れ流れ始めた。


 固唾を飲んで濃霧が晴れるのを待ち続けていると強烈な光の中から恐ろしい力を宿した三体が私達の前に降臨した。



「ぷはぁ!! はっは――!! 久々の外の空気はうめぇなぁ!!」



 右の円筒状の中から現れた一人の女性が軽快な口調を放ち、体をぐぅんっと名一杯に伸ばす。


 黒みがかった灰色の髪が光を吸収して髪の毛一本一本まで輝きを増している。


 前髪は左右均等に中央の額で分かれ、陽気な性格であると思わせる程に眉は弧を描き細めの金の瞳も弧を描く。



「んにゃ……。ふわぁ――……。まだねみぃ……」



 私達の存在を無視してまるで猫の洗顔かと思わせる仕草で手の甲をペロリと舐め、目の端を丁寧に擦っていた。


 いや、猫みたいじゃなくて。あれは完全に寝起きの猫の仕草よね??




「……。あなたの隣で目覚めるのは最悪」



 猫っぽい仕草の隣の女性があからさまに嫌悪感を抱いたじっとりとした瞳で彼女を睨む。


 どちらかといえば端整な顔立ちの下半分は服の襟で隠れ、更に黒いマフラーで口元を隠し陰湿な印象を覚えてしまう。


 春の生命を感じさせてくれる薄い翡翠の髪を後ろで纏め、背に流していた。


 気怠そうなじっとりとした緑の瞳。それに反して背筋を立てる出で立ちは怜悧が似合うと言いましょうかね。


 背はそこまで高く無く、カエデと同じ程度であろう。



 私よりもちょっと高い位か……。まぁでも私はこの背が本来の身長じゃないからね!!


 自分にそう言い聞かせつつ、警戒を解かない様に彼女達の一挙手一投足を見逃すまいと注視していた。




「あぁ!? んだよ!! ゼツも目覚めたのか!?」


「……。悪い??」


「悪くねぇって!! おぉ!? シャンも目覚めたの??」


「あぁ、心地良い感覚に包まれていたが……。突如として体に衝撃が迸れば誰でも目を醒ますだろう」



 最後に現れたのは短めの黒髪の女性だ。


 鋭利な切っ先を彷彿とさせる切れ長の目で猫っぽい奴をじろりと睨む。


 三人の中で一番背が高く、口調そして引き締まった体がどこかリューヴを連想させる。



「クレプト。前回やられてから何年程経過したか分かるか??」


「分からん!! でも、いいじゃねぇか。こうして復活したって事はだよ?? 誰かが、私達を必要としたのかも知れないし」



 ふぅん。そうやって目覚める時もあるって事か。


 時間経過で目覚める訳じゃないのかな??



「時間が経てば自然に目覚める時もあるだろう……」



 シャンと呼ばれた女性が大きな溜息を吐く。


 ほうほう。では今回の場合は尻デカ姉ちゃんが強制的に起こしたって感じかしらね。



「だなぁ!! ――――。さて、待たせたな?? 大魔の諸君??」



 猫野郎のクレプトがちょこんとしゃがみ、私達を挑発する様な鼻に付く視線を向けた。


 良かったぁ。存在自体を無視されているかと思ったわよ。



「えぇっとぉ。初めまして?? とでも言えばいいのかしらね??」



 黄金の槍を担ぎ、肩の上でポンっと動かす。



「おいおい。てめぇ……。私をぶん殴ったあのクソ女に似てんなぁ??」



 あ、そう言えば……。母さんが猫の滅魔を退治したって言ってたっけ。



「似てるも何も。その娘よ」


「へぇ!! 通りでその……。クスッ、胸が大変残念なんだよなぁ」


「あぁ!? あんたも私と変わらないでしょ!!!!」



 こんにゃろう。


 初対面だってのに随分と失礼な奴だ。



「残念でしたぁ、私の方が大きいですぅ――。ほぉれぇ。寄せれば多少はあるしぃ??」



 黒い服を寄せ、何んとか出来上がった双丘を私に見せつけて来た。



「わ、私だって!! ……………………。はぁ」



 両腕に万力を籠め、さぁ!! 我の下に集え!! と。


 昼寝中の神様も慌てて飛び上がって馳せ参じてしまう最高指令を放ち、胸の周りに存在するお肉ちゃん達に集合の号令を掛けるが……。



 誰一人として私の下に馳せ参じはしなかった。



 う、うん……。駄目だ、こりゃ。


 も、もうちょっと体が成長してから再び号令をかけてみようっと。



「だはははは!!!! だっせ――!!」



 クレプトと呼ばれた彼女が大口を上げ、ゲラゲラと私の胸を指差して笑い転げる。



「うっせぇ!! ちょ、ちょっと位私よりデカいからって、いい気になんなよ!?」


「は――――……。目覚めて速攻で笑わせてくれるなんてなぁ。お前、気に入ったよ」


「気に入られて残念よ」


「あっそう。お前達がここに居るって事は…………。そういう事なんだろ??」



 うっ!! 何よ、こいつ。


 陽性な目付きが一瞬にして殺意を籠めた物に変わると、史上最強の私でさえも思わず慄いてしまう程の魔力が放たれた。


 一見隙だらけの座り姿。


 だけど……。我武者羅に突っ込んだら、間違いなく叩き落とされてしまうだろう。



「まぁね――。あんたらをぶっ潰しに来たのよ」


「……愚直」



 ゼツと呼ばれた彼女の口回りを覆う黒いマフラーから小さな言葉が漏れる。



「アレコレと細かい事言うよりかは単刀直入に言った方が伝わるでしょ?? 回りくどい話は嫌いなのよ」



「それもそうだな!! どれどれ。ちょっと…………。味見しようかなぁ。っとぉ!!」



 やばい!!!!


 クレプトの脚に魔力が集中すると同時。常軌を逸した力の塊が私の真正面から向かって来た。



「ッ!?」



 黄金の槍の柄で彼女の鋭い右の爪を受け止めてやる。


 あ、あぶねぇ。視線を切ってたら間違いなく食っていた。



 踏み込みの速度良し、威力も申し分無し。


 たった一撃受けただけでも相当ヤベェ奴だと理解出来てしまうわね。



「おぉ!! やるじゃん」


「そりゃ……。どうも!!」



 槍をくるりと反転させ、石突で顎を穿とうとするが。



「ひょう!!」



 猫の様なしなやかな動きで超簡単に躱されてしまった。



 な、何よ今の動き。蛸がドン引きする位に柔らか過ぎるだろ……。


 確実に顎を捉えたと思ったのに……。そこにある筈の上半身がすっぽ――んと消失して華麗に躱されてしまった。



「やるじゃん!! 貧乳龍!!」


「うっせぇ!!!!」



 初太刀は見切ったけど。恐らく、今のは様子見って感じだし。


 あれより速さが上がるのなら私も本腰を入れないと当たりそうもないわね。



「クレプトの動きを見切ったか。貴様、中々の腕前だな??」


「そりゃど――も。なんなら、私一人であんたら三人を相手してやってもいいのよ??」



 カエデとユウの前に立ち、貧相……じゃない!!


 立派な胸を張って滅魔達に堂々と言ってやった。



「おいおい。独り占めは良くないぞ?? あたしにもやらせろよ」



 ユウが私の肩を優しく叩き隣に立つと。



「は、はぁ!? な、何だそりゃ!?」



 クレプトの三日月の目が、真ん丸お月様になってユウのアレに目を奪われてしまった。



「あ?? あぁ――……。これの事??」



 さっきのお返しだ。


 そう言わんばかりにユウが前屈みになり己の巨岩を寄せ、柔ませ、左右にぷるんっと揺らしやがった。


 妬み、嫉み。


 味方ながら僅かばかりに殺意が湧いてしまうのはどうしてかしらね??



 当然。


 私が感じるって事はクレプトも感じる訳だ。



「ふ、ふざけんな!! 卑怯だぞ!!」


「そうだそうだ!! 胸がデカイからって偉い訳じゃないのよ!!」



 声を荒げる彼女に合わせ、私も思いの丈をユウの巨岩へぶつけてやった。



「何でマイまで挑発に乗るんだよ……。んで?? さっきの可哀想な胸の谷間。もう一度、あたしに見せてみろよ」



 くいっと片方の眉を上げて猫の滅魔を見つめる。



「は?? お前、死にたいのか??」


「お――お――。やれるもんならやってみろよ」


「はぁ……。どうやら、頭に行く栄養はその馬鹿げた胸に吸収されちまった……。みたいだなぁ!!!!」


「ッ!!」



 げぇ!? は、はっや!!


 先程の一撃よりも更に二回り程速さが上昇した力の塊が風を裂きユウの下へと向かって行く。




「だりゃああぁあ――ッ!!」

「ぐっ……!!!!」



「ユウ!!!!」



 一応は視線で捉えてはいた様だが……。


 クレプトの右の拳を真面に腹の中心に食らってしまい後方へと飛ばされ石柱に衝突してしまった。


 石が砕ける音と共に、煙が立ち上り。今しがた放った一撃の重さを分かり易く知らしめてくれる。



 速さだけじゃなくて重さもある。


 全く……。とんでもない奴が現れたわね。



「はっは――!! 気持ち良いぜぇ!!」


「おい、私の親友に何してくれてんの??」



 こいつ……。


 良くもまぁ、私の前で大切な友達を堂々とぶん殴りやがったわね。



「何だ?? 次はお前の番か??」



 にぃっと苛つく顔を浮かべて私を正面で捉えた。



 上等ぉぉ……。御望み通り派手にやってやるわよ。


 ユウ、今からあんたが受けた痛みを倍にして返してやるからね!!


 槍に力をそして体に魔力を付加しようとすると。



「ふぅ――」



 巨大な西瓜をバルンバルンッ!! と揺らしつつ、ユウが何事もなかった様に軽い足取りで戻って来た。



「んっ、とんでもなく軽いな。あたしをぶちのめそうと思ったら今の十倍の力で打って来い」



 左右に首を傾け、各関節をコキコキと鳴らしてまだまだ元気一杯だと主張。


 そしてゴウゴウと真っ赤に燃える瞳で猫野郎を捉えた。



「ユウ!! 流石、おっぱいが大きいだけあるわね!!」


「へへ。後半は余分だっつ――の!!」



 右手をパチン!! と合わせ。肩を並べて滅魔達と相対した。



「へぇ――……。お前殴り甲斐がありそうだな。なぁ!! この西瓜のお化けは私が貰っていいか!?」



 クレプトが喜々とした様子でゼツとシャンに同意を促す。



「勝手にして」


「好きにしろ」



 彼女達二人はユウに対して然程興味が湧かないのか。


 ヤレヤレといった感じでクレプトへ頷いた。



「へへ、悪いね。おい、喜べよ?? 滅魔の中で一番強い私が直々に相手してやるんだ。頭を垂れ、この世に生まれた……」


「おらぁぁああああ!! 吹き飛びやがれぇぇええ――!!」


「ってぇ!! 話を聞けよ!!」



 ユウの剛腕を躱し、大道芸人ばりのバク転で後方へと距離を取る。


 体はやわらけぇし、足も速ければ攻撃力も絶大。それに加えて今の身の熟し。


 全く……。本当に世の中は広いわねぇ。こぉぉんな強い奴等がわんさかと居るんですもの。



「あ?? 前説がなげぇもんだから、ついつい手が出ちまったよ」


「人の話を聞けって教わらなかったのか?? 乳お化け」


「勿論習ったさ。だけどな?? 貧乳で頭が可哀想な馬鹿野郎の話は聞かなくても良いとも習ったからさ」



「「あぁぁぁんッ!?!?」」



 し、しまった!!


 またしても猫ちゃんと声を合わせてしまったぞ。



「だから何でお前さんも声を……。うぉ!?」


「良く受け止めたなぁ!? 広い所で遊ぼうぜぇ!!!! 阿保乳女!!」


「それはこっちの台詞だ!! 薄っぺらい胸板野郎!!!!」



「「口に気を付けろぉぉおお――ッ!!!!」」



 うむっ、あいつと私はどうやら性格が似ているらしい。


 三度声を合わせるって事はそういう事でしょうね。


 今度は上手にクレプトの一撃を受け止め、微乳と超絶最強乳は激しい火花を散らしつつ後退して行った。



 ユウ一人で大丈夫かしらね……。


 加勢してやりたいのは山々だが、目の前の二人を放置する訳にもいかん。



「「……」」



 ちょいと硬い生唾をゴックンと飲み込み。


 敵意とも興味とも受け取れる不思議な瞳の色で私とカエデを見つめ続ける二人と対峙していた。




お疲れ様でした。


本文でも触れた通り、先ずは前哨戦としてミノタウロスさんと猫の滅魔さんのじゃれ合いが開始されました。


互いに戦う相手を見付け順次戦闘が開始されます。


誰と誰が激しい火花を散らすのか、温かい眼で見守って頂ければ幸いです。



それでは皆様、お休みなさいませ。

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