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第百九十七話 我慢、我慢も限度がある その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 あの訳の分からん円盤を調べていたら突如として目の前に激しい閃光が迸り、その数舜後。体がふわぁっと宙に浮かび何処か知らない遠い世界に送られてしまったのかと思いきや……。


 私の体は地獄の底へ繋がっているんじゃないかと有り得ない妄想を掻き立てるながぁい下り坂を気持ちよぉく下り続けていた。


 ツルツルで摩擦が一切感じられぬ傾斜の床に、人一人が滑るのに適した広さの空洞内。時間を追う毎に体は加速度を増して体にぶつかる風が勢いを増して行く。



 一体全体これはどこまで続いているのかしらねぇ。もしかしたら地獄に繋がっているのかも。



 地獄で暴虐の限りに暴れ回る悪鬼羅刹さん達よ、大変こわぁい三名が間も無くそちらへ到着しますので歓迎用の茶菓子を用意しておいて下さい。


 もしもそれが無かった場合、とんでもなく理不尽な暴力が君達を襲うのであしからず。



『理不尽ッ!!!!』



 口から唾を吐いて泣き叫ぶ彼等の恐れ戦く顔が陽性な感情を湧かせ、この先に待ち受けているナニかを危惧するちょとだけの不安感が入り混じる。自分でも何だか良く分からない感情を胸に抱き。


 丁度良い塩梅の傾斜に後頭部を預けて滑り続けていた。



「ねぇ、馬鹿みたいに下っているけど。まだ先が見えて来ないわよ??」


「そうだなぁ。……ってか。あたしの腹を枕代わりにするの、止めない??」


「あいたっ」



 私と共に下り続けるユウが、手を器用に動かして頭をくいっと前に押し出す。



「丁度良い感じだったのよ。ほら、滑り続けるだけってのも暇じゃん??」



 それにユウの腹枕は世界一の安寧を与えてくれるのだよ。


 きっとその効能を知れば王族、貴族の方々も羨望の眼差しで彼女の腹を見つめる事だろうさ。



 だが、幾ら大枚を詰まれようがこれは決して譲渡せん!!


 何をしても眠れない夜でも、彼女のお腹の上に頭を乗せればあら不思議っ。たった数呼吸するだけで睡魔さんが訪れてくれるもの。


 しかしここで油断は禁物だ。万が一ユウが寝返りを打ち、横着な腕に頭を掴まれたら死を覚悟せねばならない。


 彼女の抱き癖が発動し、剛腕にガッチリと拘束された頭は死と危険が漂う魔境へと誘われてしまうのだから。



「はぁ……。カエデ、この先に何か感じる??」



 ユウが器用に体を捻り、膝を折り曲げてちょこんと座って礼儀正しく滑るカエデに問うた。



「いいえ。特に感じませんね」


「ふぅん。じゃあ、暫くはこのまま休憩って事ね」



 再び世界最高の枕へさり気なぁく頭を預けようとするが。



「前、見てろ」


 それを良しとしないユウが私の体をちょこんと蹴ってしまった。


「蹴るな!!!!」



 さっきの滝といい……。今の傍若無人な態度といい……。


 こんにゃろう、人の体を何だと思ってんのよ!!。


 悪魔も額に冷や汗を浮かべてしまう鋭い瞳でジロリと睨んでやった。



「二人共、集中ですよ??」


「集中ねぇ。――――カエデ」


「何ですか??」



 振り返ったついでに彼女のある部分に目を奪われてしまったので、その一点に付いて問うてみる。



「その下着。可愛いわね??」



 彼女は足を曲げて滑っているので、その隙間から綺麗な水色の下着が良い感じに御目見えしているのですよ。


 茶の長いスカートにぽっかり空いた空間から覗く綺麗な水面を彷彿とさせる水色。


 あの色合いからしてきっとまだ購入したばかりなのだろう。恐らく先日、ボケナスの同期から受けた尾行を撒く為に南大通り沿いの店で服を見ていたついでに購入したのでしょう。



「……っ!!!!」



 慌ててスカートを直し、真っ赤になった顔で私を睨む。



「お?? 今日、何色??」


「言う訳ありません」



 興味津々といった感じで振り返ったユウに対し、スカートの隙間を消失させて可愛くぷいっと顔を背けてしまう。



「んだよ――。あたしにも見せてくれてもいいのに」


「人に見せる程の物じゃありませんので」



 人に見せる程、ねぇ。


 アイツが見たらきっと卒倒するんじゃなかろうか?? あ、いや。真面目一筋且童貞君であるアイツの場合は……。



『ちょっ!? い、いやいや。別に見たくて見た訳じゃないからね!?』



 お風呂上りの茹で蛸さんみたいに顔を真っ赤に染めて速攻で顔を背けるだろうなぁ。


 まぁっ、もしもマジマジと見つめていたら黄金の槍の切っ先で腸切り裂いてやっけど。



「では、逆に聞きますが。ユウはどんな下着を着用しています??」



 おっと、カエデにしては大胆な質問ね。



「ん――……。上は緑で、下もそれかな」



 その言葉を受けたユウがシャツをくいっと開いて確認した。



「あんたの下着は中々見つからないのが欠点よねぇ」


「まぁねぇ。でも、さ。ほら、知ってる??」


「何??」


「なんかさぁ。この前、街を歩いてた時に聞こえて来た話なんだけど。下着屋で革命が起きたらしいんだ」



「「革命??」」



 私とカエデが同時に首を傾げて問う。



「そうそう。何でも?? 胸を大きく見せる下着が発売されたらしいんだよ」


「ッ!!!! へ、へぇ――……。そ、そうなんだぁ。ふ、ふぅん!! 私はぜっんぜんっ!! 興味無いけどそんな物が発売されたんだ――!!」



 ユウの言葉を受け取ると慌ただしく己の薄氷を見下ろす。



 決して妥協を許さぬ職人気質の直角さんも思わず。



『ふぅむ……。見事だっ』



 顎に手を添えてフムフムと頷く私の角度が……。崩れるだとぉっ!?


 人間は食に革命を起こしただけでは無く、決して覆らない角度にも革命を起こしたというのか!?!?



 あ、いや。決して覆らないってのは言い過ぎね。


 ほら、私はまだまだ成長期にある訳だし?? 望みは残されているのよ。



「それは興味深い話ですね」



 カエデが前のめりになって聞く姿勢を取る。


 へぇ、珍しいわね。本と怖い話以外で興味を持つなんて。



「でも、すんげぇ売れちゃってて。生産が追い付かないんだとさ」


「買えなかったら意味ないじゃん」



 ぬか喜びした私の気持ちを返せ。


 いや、別に??


 胸を大きく見せようとしている訳じゃないのよ?? ほら、多少!!!! 慎ましい胸だからさ。


 少しは私の角度も横着者になってもいいんじゃないかなぁって思った訳。



 大体。これは全部あの母親クソババアが悪いのよ。


 もう少し胸を大きくなるように生んで貰わないと、こちらとしても困るの。



「まぁ、あたしは要らないんだけど。形を整えてくれる効果もあるから見てみようかなぁって思ったんだ!!」



 あ――あ。禁じられた言葉を言っちゃった。


 知――らないっと。



「ユウ……」


「ん――?? どした?? カエデ」


「あなたはもう少し……。慎ましい胸に育つべきだったんですよっ」


「なっ!?!?」



 ユウの聳える双子の山を背後から荒々しくむんずっと掴み、上空へと持ち上げた。



「あはは!! や、止めろ!! カエデ!!」


「あり得ませんよ、この質量。中に子供でも入っているんじゃないですか??」



 揉みしだき、持ち上げ、左右へ引っ張る。


 うおぉ……。人の胸ってあんな大きく動くんだ。


 モチモチのプルプルで、ふにょふにょな動きを見ていたら何だか目玉が疲れて来た。



 私もた、試しに動かしてみようかしら。



「…………」



 二人にバレない様にそ――っと己の胸元に手を添えて持ち上げようと試みるが。



 う、動かない……。


 お願い!! 動いて!! 動きなさいよぉ――ッ!!!!


 天変地異が起きても決して揺らぐ事の無い大地は本日も健在であった。



「カエデ!! もういいだろ!!」


「駄目です。私を見下した罪は重いですからね」


「そ、そうよ!! カエデは、世の女性の代弁者なのよ!! そのふざけたでっけぇ胸、取っちまいなさい!!」



 私の心に吹く虚しい気持ちをカエデの手に向けてやった。



「あはは!! と、取れちまうってぇ!!」


「慣れて来たら面白い物ですね。あれ?? 急に硬く…………」


「んっ!!」



 お――い。ユウさんや――い。


 こんな時にいろっぺぇ顔と、嬌声を放つのはお門違いですよぉっと。


 カエデの指技がユウの何かを刺激したのか。


 あまぁい声を漏らすと同時に何かを堪える仕草を取った。



「……うん?? 皆さん、そろそろ終着点ですよ」

「ひゃっっ!!」



 相変わらず巨岩の弱点を的確に攻めるカエデがユウの頭越しに先頭を険しい顔で見つめる。



「何か感じたの??」



 正面に意識を集中させるが、前に見えるのはくらぁい闇。そして耳を突く鋭い風の音のみ。


 これといった変化は無いわよねぇ。



「重い空気が渦巻いている。そんな感じです」


「ま、またデカイゴキブリとか出て来ないよな?? 後、いい加減手を放せっ!!」



 ユウの剛腕がカエデの細く白い手を強引に引き剥がした。



「残念です。もう少し、感触を楽しんでいたかったのですがね」


「お?? 何?? カエデはそっち系??」



 ユウがにっと口角を上げて振り返る。



「いいえ?? 私は普通ですよ。普通に……。そうですね……。恋をする女性です」



 恋??


 これまた意外な言葉が出て来たわね。誰か、気になる人でもいるのかしら……。



 カエデ程の女性を振り向かせる男性ねぇ。


 そんな野郎がこの世に存在するのかどうか怪しいものさ。


 なんたって九祖の血を引き、魔法に関してはエルザードに次ぐ使い手なのかもしれないのに。


 あ……。


 カエデの父親の方がまだ彼女よりも数枚上手なのかな??



「お、おい。ありゃなんだ??」



 あの真面目そうなカエデの父ちゃんの姿を思い出していると、ユウのびっくりした声色が後頭部から届いた。



 うん?? 何かしら、アレ。



 丁度良い広さの円の中を気持ち良――く滑っている訳なんだけど……。正面奥に濃い紫色の魔法陣が浮かび私達を待ち構えていた。


 つまり。


 このまま滑り続けていたら、あの光る魔法陣が自然と体に衝突する訳なのだ。



「ちょ、ちょっと!! あれ触れても良い物なの!?」


「――――安心して下さい。攻撃に関する魔力は一切感じられません」



 ほう、それを聞いて安心した。


 んじゃ、このまま滑ってよ――っと。



「ですが……」


「「ですが??」」



 私とユウが声を合わせて振り返った。



「触れるのはお薦めしません。感知魔法の一種かも知れませんからね」


「い、今言う事!?!?」



 やっべぇ!! もう直ぐぶつかる!!


 止まろうにもツルツルし過ぎて……、体を止められない!!



 策士策に溺れたりっ!!


 正に完璧な術中に嵌った私の体は減速する処か。



「先に行ってこ――いっ」



 私の直ぐ後ろに居る理不尽超乳破廉恥娘が背中を蹴った所為でより加速を増してしまった。



「テ、テメェ!! あ、後で覚えていろよ!? 絶対その乳もぎ取って乳牛の餌にしてやるからな!!!!」


「ん――」



 く、くそう!! 全然ビビってねぇ!!


 ちいちゃな子供を相手にする大人みたいにのんびりした声を放ちやがって!!


 大きな御口を開けて待ち構える魔法陣ちゃんへと向かい私は体に襲い掛かる衝撃に備え。超カッコイイ防御態勢を取って突っ込んで行った。




お疲れ様でした。


現在、後半部分の編集作業中ですので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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