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第百九十四話 呑気なお散歩はここまで

お疲れ様です。


週末の深夜にそっと投稿を添えさせて頂きますね。


それでは御覧下さい。




 八つの足が石畳を踏み鳴らす心地良い乾いた音が壁に反射して私の鼓膜へと届く。


 受け取り方によっては陽気な律動を刻む音楽にも聞こえない事も無いけど、暗くて湿って怖い闇がそこら中に存在する場所ではどう考えてもそういった陽気な発想は生まれなかった。



 鼻に届く変な匂いと誰かの呼吸音がしんっと静まり返った空気の中に漂う。



 くらぁい通路の中では特に何かが変化する訳でも無いので、どちらかと言えばつまらない環境が私達を包んでいた。


 この道はイスハさんが最初に選んだ道だけど……。


 今の所、問題無く進めている事に大きな不安を感じてしまっていた。


 でもそれを顔に出すとリューに馬鹿にされちゃうしっ。私はちょっと怖がっていますよ――という可哀想な感情を誤魔化す為に口を開いた。



「ねぇ――。何かお話してよ――。静か過ぎて飽きてきちゃった」



 マイちゃん達と行動していると、こちらから何も言わなくても色んな話をしてくれるんだけどさ。


 こっちに来ている皆はどちらかと言えば普段は物静かなんだよねぇ。


 ――――あ。


 エルザードさんは口煩いけど。今はイスハさんが居ないから静かなんだよね??



「遊びに来ているのでは無いのだ。いつ敵が襲い掛かって来るか分からん。集中しろ」



 何と真面目。


 リューのこういう性格は嫌いじゃないけどさぁ。


 私のお願いを少しは聞いて欲しいものだ。



「むぅ――。アオイちゃん!! 面白い話をしてよ!!」


「面白い話、ですか」



 私のちょっと後ろを歩く綺麗な顔を捉えて話す。



「そうそう!!」


「こういう遊びは如何ですか??」



 遊び!?


 アオイちゃんからのお誘いなんて初めてだ。


 ワクワクした気持ちを前面に押し出して、彼女からの言葉を待つ。



「負けた方は、勝者からの許可を得るまで口を開いてはいけない。いいですわね??」


「うん!! いいよ!!」


「では、取り決めを説明しますわ。私とルー。どちらかが先に何か言葉を発したら負けですわ」


「分かった!! 今から始めるよ!!」



 なぁんだ。超簡単な遊びじゃん。


 何かを話した時点で負けなんだよね??


 だったらずっと黙っていればいいんじゃん!!


 ふふ――ん、ふんっ!!



 軽い足取りで進みつつ口を横一文字に閉ざしていると、ふと可笑しな点に気付く。



 …………。あれぇ??


 これって話したら負けだし。私が話しちゃったら、勝者はアオイちゃんになるんでしょ??


 じゃあアオイちゃんが命令するまで、私話せないじゃん!!!!



「アオイちゃん!! この遊び意味無いんだけど!?」


「はい、私の勝ちですわ。私の許可があるまで、その口を閉ざしていなさい」



 ふっと小さな笑みを浮かべ、やっと気付いたのかと。


 ちょっとだけ小馬鹿にした視線で私を見つめた。



「やだ――!! ずるいもん!! もっと違う遊びしようよぉ!!」



 狼の姿になり、アオイちゃんの真正面から肩に足を掛けてやる。



「前が見えませんわよ!! それに獣臭いですわ!!」


「遊んでくれるまで、絶対離れないよ!!」



 私を小馬鹿にした罰だ!!


 私の黒い鼻頭をアオイちゃんの小さな鼻さんにむんずっとくっつけてやった。



「ちょっと二人共。もう少し緊張感を持ちなさい」



 一番前を歩くエルザードさんがいつもよりちょっと硬い口調で注意を促す。



「持ってま――す!! ね?? アオイちゃん!!」


「何度言えばいいのですか!? 臭いですわよ!!」



 わわっ。


 細い手で顎をぐぃいっと持ち上げられ、本当に良い匂いが逃げてしまった。



 残念――。


 アオイちゃんの匂い好きだから嗅いでいたかったけど、エルザードさんが言う通り。


 少し緊張感を持とうかな!!


 でもぉ。どうやって持てばいいのかなぁ??



「ねぇ、アオイちゃん」


「何ですの」



 乱れた髪を直しながら冷たい視線で私を見下ろす。



「緊張感ってどうやって持てばいいの??」


「心を研ぎ澄ませ、神経を張り巡らせればいいのです」



 研ぎ澄ませる……。神経……。


 難しい言葉ばかりで説明されてもなぁ。



「もっと簡単に説明してよ」


「これ以上ですか?? そうですわねぇ……。ルーはまな板と御飯を探す時、匂いを嗅ぎ取る事に集中しますでしょ??」


「うん!!」


「それと似た感じですわ。前に見えぬ敵が待ち構えていると考え、集中力を切らさない事。それが緊張感を持つことに繋がりますわ」


「おぉ!! ありがとうね!!」



 再び前足を掛けようとするが……。



「二度目は勘弁して頂けます??」



 するりと逃げられてしまった。



 アオイちゃん避けるの上手だよねぇ。私の攻撃も全然当たらないし。今度詳しく聞いてみようかな!!


 アオイちゃんに言われた通り、前方から流れて来る匂いに集中して四つの足を動かして歩いていると。



「へぇ――。やたら広いわね」



 エルザードさんを先頭にして私達は大きな部屋に辿り着いた。



 奥行と天井は入り口から見えない程に遠くて高い。左右の壁と壁の間は私が全力で走っても余裕が出来る程の広さだ。


 ここで何の考え事もしないで駆けられたら楽しいとは思うけど、壁際に埋められた円筒状の物がある所為でそれは叶いそうにもなかった。



 無色透明な硝子?? なのかな。



 良く分からない材質の透明な筒の中には気持ち悪い色の緑色の液体がたっぷりと詰まっていて、その中には色んな形のオークが沈んでいる。


 腕は蛸みたいにウネウネしていたり、蟷螂の鎌みたいな鋭利な直角を持っている個体も確認出来た。



 物凄く簡単にこの巨大な部屋を言い表すと……。うんっ!! 不気味で怖いね!!



「エルザードさん。これは一体……」



 アオイちゃんが物珍し気に壁に埋められている一つの筒に近寄り、興味津々といった感じで観察して話す。



「オークを……。改造しているのかしらね」



 エルザードさんがその隣に立ち、アオイちゃんと一緒に険しい瞳で観察を続ける。


 私もそっちにいこ――っと。ちょっと雰囲気怖いし。



「オークってこんな形していないもんねぇ」



 普通の奴らは人間に似たふっとい腕だし、こんな蛸みたいな腕じゃないものね。



「これなんか面白いぞ。背中から翼が生えている」



 リューの声を受けて振り返ると、彼女の目の前の個体の背中からは蝙蝠の翼に似たモノが生えていた。



「面白くないよ――。なんかさぁ、怖い雰囲気だから先に行こうよ――」


 エルザードさんの袖を優しく食み、前へ行こうと促す。


「生体研究の一環かしら……。それだと個体を生きたまま残す訳ないし」


「えぇ!? コレ、生きてるの!?」



 袖をパッと話して筒から距離を置く。



「微弱ながら魔力が感知出来ますわ」



 アオイちゃんが眉をきゅっと寄せて言う。



「おっ。流石フォレインの娘。この状況下で感知出来るなんて優秀じゃない」


「どういたしまして。オークを改造して戦闘能力の向上を図っているのでしょうか??」


「その線が濃厚よねぇ。この部屋はその為の場所……。つまり、誰かがここでオークを実験体として。夜な夜な恐ろしい顔を浮かべて体を切り刻んでいる訳だ」



 まぁたそうやって怖い事言う――。



「ルー。ちょっと奥を偵察して来なさい。他にも何かあるかもしれませんわ」


「絶っっ対っっ。イヤッ!!!!」



 アオイちゃんのお願いに対して首を左右に忙しく振って拒絶の意思を明確に表してあげた。


 何でこんな怖い所を一人で歩かなきゃいけないの。私は皆みたいに強く無いし、それに怖がりなのだっ!!


 胸を張って言える事じゃないけどね。



「ふんっ。臆病者め」


「じゃ、じゃあリューが行って来なよ!!」



 今も物珍し気に筒を眺めているリューへ言い放ってやった。



「無論そのつもりだ。貴様と違って私は臆病者じゃないからな……」



 そう話すと、平然を装ってこわぁい闇が待ち構えている闇へスタスタと歩いて行ってしまった。



「ルー。リューヴ一人じゃ危ないわ。あなたもついて行きなさい」


「えぇ――……」


「姉妹が心配でしょ??」



 正確に言えば姉妹じゃないけど。


 まぁ――、心配と言っちゃあ心配かなぁ。何だかんだでリューも怖い事苦手だし。



「じゃあ行って来るよ。何も無かったら直ぐ戻って来るからね!!」


「用心して行くのですよ??」


「うん!! ありがとうね、アオイちゃん!!」



 筒の前からくるりと体を反転。


 小さくなって行くリューの背中目掛け駆け出した。



「――――とぅ!! やっぱリュー一人だけだと心配だから付いて来てあげたよ!!」


「別に貴様が居なくても大丈夫なのだが……」



 むっと顰め面で私を見下ろす。


 むふふ――。私は知っているのだよ?? リューが結構怖がっている事に。怖い顔とは裏腹に意外と怖がりさんだもんねぇ――。



「真っ暗だけど。私達なら何んとか見られるね」



 狼の目は夜目が効くのだ!!


 アオイちゃん達から届く光量だけでも十二分に視界が確保出来ている。


 普通の動物ならこうはいくまい。



「リュー、狼の姿にならないの??」


「まだ視界は十分だ。それに、急な襲撃に備えておかねばな」


「ふぅん。――――うわっ。ずっと筒が続いているね……」



 入り口付近からずぅぅっと奥まで。等間隔で気色の悪い形をしたオークの実験体?? って奴が筒に入れられて並んでいる。



「ちょっと可哀想だよねぇ。あぁやってさ、狭い筒の中に入れられて」



 私だったら狭いのが嫌で直ぐに飛び出しちゃいそうだよ。


 もしかしたら、あのオーク達も飛び出したいのかもねぇ。


 あ、でも今は出て来なく良いですよ――?? 私達がこの部屋から出て行ったら出て来て下さい。



「そうは思わん。あいつらは元々生きてはいないのだ」


「知ってるよ。倒すと、土に還るもんね」



 どうやって出来たのかは分からないけど、生物固有の生きた匂いがしないし。


 命が無くてどうやって動いているんだろう??


 凡そ、マナって奴をしょくばいにして動くのだ。


 アオイちゃんも多分そう答えるだろうね!!



「ねぇ――。結構奥に来ちゃったよ??」



 後ろに居るアオイちゃんとエルザードさんが私の小指の爪程度の小ささに変わってしまう。



「それでも終わりが見えん」


「ん――――。だねぇ」



 目にこれでもかと力を入れても終着点である壁は見えてこなかった。


 こういう時こそ、私の耳の良さが頼りになるのだ!!



「リュー。遠吠えしてもいいかな??」


「――――。は??」



 こいつは正気か??


 そんな感じで私を見下ろす。



「ほら。私、耳良いじゃん。だから、反響音から奥行を確かめようかなぁって」


「遠吠えは止めろ。奥に何が居るか分からん」


「へ――い。じゃあ……。チッッ!!!!」



 大きな舌で特上の舌打ちを放つと周囲の壁から音の反射音が耳に届き、円蓋上に広がっていく音が大まかな部屋の作りを私に知らせてくれる。


 そして、音の線が遥か遠くへ向かって行くと。



 ――――。んっ!! 届いた!!



「リュー!! 安心して!! ちゃんとこの先に壁はあるよ!!」



 ピンっと立てた耳に、微かな反響音が帰って来てくれた。



「壁はある。しかし、この部屋が終着点なのか。それとも先に続く通路があるのか分からんな」


「あ――。多分、通路は無い感じかなぁ?? 綺麗に音が返って来たし」



 壁に空洞があったらその部分が湾曲して歪に聞こえるからなぁ。


 それが聞こえないって事は、この先は行き止まりって事になるよね。



「成程……。このまま闇雲に進むのは了承出来ないな。一度、帰って報告するか」



 リューがくるりと方向を転換する。



「だね――。暗いから何か怖いもん!!」



 変な匂いも纏わり付いて来て私の怖い心に拍車を掛けているし。これ以上此処に居る理由は無いのですっ!!



「ふっ。気が小さい奴め」



 リューがポツリと漏らした言葉にちょっとだけ怒ってしまう。



「そんな事言ってさ――。私達が小さい頃、ソーちゃん達と夜の森に肝試しに行った時。リュー、びびって腰抜かしてたじゃん」



 うわぁ、懐かしいなぁ。


 確かあの時は五歳位だった筈。


 夏の蒸しあつぅい夜、ソーヴァンちゃん達と家をこっそり抜け出して肝試しに行ったのだ。


 楽しい事が満ち溢れている昼の森とは打って変わり、夜の森はこわぁい深い闇がそこかしこに存在して、幽霊さん達が木々の間から覗いている様な錯覚に陥ったっけ。


 リューがそんな物いる訳ないだろうって大見得張って、一人でずんずん進んで行くもんだからさ。



『ねぇねぇ。ちょっとおどかしてあげようよ』


『ふふっ、それはいいあんだ』


『あはは。ルーちゃんはひどいことかんがえるなぁ』



 私達がリューに内緒で、彼女の後をついて行くのを止めたんだ。


 そしたら数分後。



『き、きさまら!! なぜわたしについてこないのだっ!!!!』



 血相を変えて、半べそかいた子狼がキャンキャンと情けない声を出して帰って来た。


 私達は木の裏に隠れて、リューが現れたと同時に大声を出して驚かしてやったらさぁ。



『ぎゃぁっ!!!!』



 目を真ん丸にして、あわあわと口を開いて情けなくペタンと地面に腰をつけたんだよねぇ。


 あの時のリューの顔……。ふふっ、凄く可愛かった。



「忘れた!! そんな古い出来事は!!」



 頬が朱に染まって私から一瞬で顔を逸らす。


 はい、嘘――。覚えていたら、そんな反応はしません――。



「絶対嘘じゃん。今でも覚えているよ?? リューがなっさけない声出して半べそかいてたの」


「忘れたと言っているだろう!! いいか?? マイ達や……。特に!! 主には絶対話すなよ!?」


「苦しいぃって!! 分かった言わないよ!!」



 おっそろしい顔を浮かべて私の喉を両手でぎゅうぎゅうと締め上げて来る。



「コホッ……。マイちゃん達には何となく分かるけどさ。どうしてレイドに話しちゃ駄目なの??」



 馬鹿力の両手から逃れ、ちょっとだけ荒くなってしまった呼吸を整えてから話す。



「どうしてって……。ほら、主にはそういう恥ずかしい過去を知られたくないのだ」



 あぁ、そういう事。レイドには強く見られたいんだね。



「別に話してもいいと思うよ?? レイドだって昔の失敗を話してくれたもん」


「主の??」


「うん。小さい頃、孤児院の皆で海に出掛けた時にさ。夜の森で迷った話を聞いた事無い??」


「……無いな」



 ちょっとだけ寂しい声を出す。



「あっ、そっか。これは鉱山でリューと離れた時に聞いたんだ。今度レイドに会ったら聞いてみなよ」


「ふっ。そうだな……。主の失敗した話か。興味がそそるぞ」



 だろうねぇ。


 嬉しそうな顔しているもん。



 顔は殆ど一緒だけど、やっぱリューってカッコイイよねぇ。



 きりっとした眉に鍛えられて整った体と長い四肢。


 私より手足が長く見えるのはどうしてかな??


 でも!!


 胸は私の方がぽよんってして柔らかいんだから!!



 ぬふふ……。今度レイドにあったらさり気なく強調してやろう。



 あ、でも。天下無双のおっぱいを持っている人がいるからや――めた。


 頑張って張り合っても絶対アレには勝てないし。


 何となく一人勝手に落ち込んだ気持ちで歩いていると、足の裏に何か違和感を覚えてしまった。



「ん――?? リュー、ここ穴空いているよ??」



 足の裏を退かすと、リューの拳大の穴が開き。


 ズズズ――って乾いた音を奏でながら今も静かに地面の底へと沈んでいた。



「変な場所を触ったのか??」


「ううん。普通に歩いていたらこうなったの。床が壊れちゃったのかな」



 鼻頭を空洞部分に向けてじぃ――っと観察。穴から放たれる音が完全に止むと。



「びゃっ!? な、何!? 何っ!?」



 空気が一瞬で酷く重たい物に変わってしまった。


 え、えぇ!? 只でさえ暗くて怖いのに、どうしてもっと怖い雰囲気が漂うのかな!?



「狼狽えるな。アオイ達と合流するぞ」


「う、うんっ!! 行こう!!」



 こういう時、足が速いのは本当に助かるよねっ。


 足に力を籠めて瞬き一つの間に元の位置へと帰って来た。



「た、ただいまぁ!!」


「お帰りなさい。…………それで??」


「なぁに??」



 エルザードさんが膝に手を置いて、私を屈んで見下ろす。


 お――。屈むとより一層おっぱいおっきく見えるなぁ。



「あんた達が何かしたから、ここの空気が変わったんでしょ??」



 あちゃ――。


 流石、カエデちゃんの先生だなぁ。直ぐにバレちゃった。



「えっとね。私が歩いていたら、変な穴が出来て。床の一部が沈んで行ったんだ」


「「……」」



 エルザードさんとアオイちゃんが私の一言で納得したのか。


 小さく頷くと、警戒心をより一層強めた。



「すまん。こいつの失態だ」


「そうやって人の所為にするのはよくないよ!!!!」



 駆け足で帰って来たリューに速攻で噛みついてやった。


 勿論。狼の牙じゃなくて言葉でね。



 私達が構え警戒を強めていく間にも、不穏な空気が濃くなり私の心がざわざわと騒ぎ出す。


 うぅ……。なぁんか嫌な予感しかしないなぁ。


 濃度が濃くなったマナがまるで濃厚な蜂蜜の様にネチャネチャと体に絡みつく様にへばりつく。


 振り払おうとしても空気だし。逃げ出したら何言われるか分かったもんじゃないし。


 どうしたもんかなぁ。


 毛皮の合間から伝い落ちる汗が頬を流れて一滴の雫となって地面に落ちると、左右の円筒状の物体が薄緑色に発光した。



「びゃっ!?」



 まるで夏の夜に蛍が放つ蛍光色だと思ってしまう程の煌めきに、一瞬だけ綺麗だと思ってしまう。


 しかし。


 蛍光色を背に受けたオーク達の体が浮かぶと、はっとして警戒を強めた。



「な、な、何か光ってる!!」



 人の姿に変わった私は速攻でリューの背後に隠れ。彼女の肩を掴みゆさゆさと揺らしてあれはきっと危険であると伝えた。



「分かっている!! だから肩を揺らすな!!」


「さぁって。何が出て来るのかしらねぇ……」



 緊張している私達に比べエルザードさんはこれから始まる何かを嬉しそうな顔を浮かべて待ち構えていた。



「ひ、光が奥に続いて行くよ!!」



 入り口から近い位置にあった筒の光が左右同時に明滅を開始。ゆっくりとした速さで奥へと続く。


 慌てふためいた私はリューの背中に隠れつつ、そ――っとその様子を窺っていた。



「一つの壁に……。凡そ二十五体。五十体ですか」



 アオイちゃんが低い声を出して私達の前に出る。


 背に流れる白い髪がはっと息を飲むほどに美しく、凛とした立ち振る舞いが頼もしくも見えた。


 かっこいいなぁ。アオイちゃん。


 こういう時でも全く慌てないもんねぇ。



「アオイ。準備はいいか??」



 リューがアオイちゃんと肩を並べて立つ。


 うぅむ。私も一応前に出た方がいいのかなぁ。


 でも怖いしぃ……。



「えぇ、整っていますわ」


「じゅ、準備万端だよね!!」



 よしっ。皆が頑張るなら、私も頑張らなきゃね!!


 きちんと心を切り替えて、リューの若干左後方に身を置いた。



「皆ぁ、そろそろ来るわよぉ――。魔力を高めて、戦闘態勢を整えなさぁ――い」



 高まる緊張感、張りつめていく空気の中。


 エルザードさんの気の抜けた声がどこか嬉しくも、間抜けに聞こえてしまう。


 緊張を解す為に出してくれたのかなぁ??


 でもその効果はてきめんっ。


 強張っていた体の内側から凝り固まっていた物がすっと抜け落ち。


 いつもの心と、体が戻って来た。



 よぉしっ!! こぉいっ!!


 これなら行けるぞ!!



 私は皆から若干後方気味の位置に身を置き、今にも筒の中から飛び出して来そうなオーク達に警戒を続け。


 程よい緊張感と一握りの恐怖感の影響を受けて五月蠅く鳴っている心臓を宥めつつ戦う姿勢を整えた。




お疲れ様でした。


読者様達は今度の土日は何をする予定でしょうか?? 徹底的に体を休めたり、秋らしく読書に勤しんだり、友人達とお出掛けする方々もいらっしゃるかと思います。


私の場合は……。まぁ殆どが光る画面に向かって文字を打ち込んでいますね。ですが、気分転換として買い物に出掛けようかなと考えております。


何か良い物を求めて某有名家電量販店やら、靴屋さんやら、服屋さんへ足を運ぼうかなぁっと。


久し振りの買い物なので羽目を外してしまいそうでちょっと怖いですけどね。




ブックマークをして頂き有難う御座います!!


土日のプロット執筆の嬉しい励みとなりました!!



それでは皆様、良い週末をお過ごし下さい。

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