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第百九十二話 女性が等しく叫ぶアレの正体

お疲れ様です。


本日の投稿になります。


話を区切ると流れが悪くなる恐れがありましたので長文となっております。予めご了承下さい。




 頭の天辺から爪先まで余す所なく水で覆われ、そして水面に叩き付けられ体を突き抜けて行く衝撃波に目を白黒させてしまう。


 生物が生きていくには空気が必要不可欠。


 当然、私は元気一杯モリモリに生きている訳であって、例に漏れず空気を欲するのだが……。


 如何せん、空気のクの字も見当たらない水中では目的を達する事は叶わず肺がもう限界だと泣き叫んでいた。



 む、無理無理!! これ以上は流石にし、死ぬぅ!!


 濁流の勢いが呆れた衝撃波と共に収まり、私は空気を求め小さな手を兎に角必死に!! がむしゃらに動かした。



「ぶばぁぁああっ!! ゲホッ!! おうぇっ!!」



 ふかぁい水深から水生生物が真似できない速度で緊急浮上。


 水面に顔を覗かせ、真新しい空気を肺に送り込むとほぼ同時に嗚咽する。



 あ、あぶねぇ……。


 もう少して溺れ死ぬ所だったわ。



「ぷはぁっ!! ゴホッ!! はぁ――……。苦しかった」



 ちょっとだけ顔を顰め、綺麗な緑の髪が台無しになってしまったユウが私とほぼ同時に水面へと顔を覗かせた。



「よぉ!! へへっ、お互い無事だったな!!」



 こいつめ……。


 良くもまぁいけしゃあしゃあとぉ。



「あのねぇ。危険な出来事に友人を巻き込むのって、ちょっとおかしいんじゃない??」


「あはは!! 悪い悪い!! 逆の立場になったら今度は助けてあげるからさ!!」



 快活な笑みを浮かべて私の頭をポンっと叩く。


 私は依然龍の姿のままなので体が小さい。


 彼女の何気ない所作でも怪力が備わる腕から発せられる威力は絶大であって?? 私は物理の法則に従って再び水面へと沈下してしまった。



「うぶっ!! …………。テメェ!! 私を殺す気かぁ!!」



 再び水の中に送り込まれてしまったので水面に浮上するとユウの頭の上に飛び乗り、思いっきり爪を突き立ててやった。



「いっでぇ!! 禿げる!!」


「うっさい!! もっと深く突き立ててやってもいいのよ!?」



 全く!! 人の体の事を何だと思ってんのよ!!



「いてて……。ん?? おぉっ、見てみろよ。あたし達あそこから落ちて来たんだぞ」


「あぁっ??」



 顎をクイっと上げると、遥か上空から途轍もない勢いの水が滝の如くこの湖?? と思しき水面に流れ落ちていた。


 さっきまでは滅茶苦茶に走って、翼を動かして体が温かったから分かり辛かったけど。体温が平常時に戻って来ると水の冷たさが少々堪えるわね。



「うへぇ。あたし達、あんな上から落ちて来たんだ」



 気温の変化に物凄く強い親友は水の冷たさなどなんのその。興味津々といった面持ちで水面にプカプカと浮かび滝を眺めていた。



「私は落ちなくても良かったのよ!! ユウ一人で落っこちなさいよね!!」


「悪いって謝ってんじゃん」



 はい絶対っ!!!! 嘘っ!!


 駄々を捏ねるガキンチョを宥める母親みたいな口調だしっ!!



「うん?? おぉ!! カエデ達発見!!」



 先に岸に辿り着いたのか。ユウが水面のずぅっと先に見える明かりを捉えると陽性な声を上げた。


 美しい橙の色が周囲を淡く照らしてここまでその光が届く。


 あの光のお陰で周囲が見えているんだ。そうじゃなければここも闇の中よねぇ。



「おら、泳げっ」


「いってぇ!! 爪立てんな!!」


「鋭い爪で頭皮を葡萄の皮みたいに剥かないだけでも有難く思えや」



 乗馬で手綱を握るが如く馬鹿タレの頭皮をギュッと掴み、巧みに操り岸へと到着した。



「御二人共、御無事でしたね??」



 人の姿に戻り、水をたぁっぷりと吸い込んだ服がへばりついているカエデが私達を迎えてくれる。


 こちらに振り返ると美しい藍色の前髪からポツリと一滴、水滴が滴り落ちた。



 う、うぅむ。水も滴るイイ女って言葉が良く似合う出で立ちよね。


 しかも絶妙に良い肉付きをしてやがる。



 程よく育った双丘、きゅっとしまった腰つき。そして清流の如く流れる藍色の髪。



 母さんやい。


 どうして私はここまで情けない胸をしているのだい??


 あの極悪非道の権化の体付きを継承しちゃった為か、姉さんに比べて貧相な胸板に若干の憐憫さを感じてしまうのは私だけでしょうか。


 ここに居ない母親クソババアに愚痴を零し、カエデの前に浮かぶ火球の前へと降り立った。



「いやぁ――。中々良い経験だったよな??」


「ぜんぜんっ!! 余計な経験よ!! あんたが私を無理矢理水に引き込まなきゃ、溺れそうになる必要もなかったのに……」



 人の姿へと変わり、あたたかぁい火の前でちょこんとしゃがんで体を乾かす。


 ふぅ――……。火に当たると休まるわねぇ。ここにお芋さんがあれば火球の熱で焼いて……。


 無い物強請りをしても始まらん。今は大人しく水で冷えた体温を戻しましょうかね。



「なんじゃ。お主も結局落ちて来たのか」


 直ぐ隣。


 良い感じに金色の髪が乾きつつあるイスハが呆れた瞳で私を見下ろす。


「私は落ちたくなかったのよ。所で、私の荷物は見掛けなかった??」



 闇に包まれている周囲へ忙しなく視線を動かす。


 あの中には私の大切な食料が詰まれているのだ。紛失するのは超痛手なのだよ。



「これですか?? 水底に沈んでいたので回収しておきました」


「おぉ!! 助かるわ!!」



 カエデの背後から私の大事な背嚢が出て来たので堪らず駆け寄り、御口ちゃんを開いて中の状況を確認すると。



「どれどれぇ……。あぁ――……。やっぱり、パンは駄目かぁ」



 水を吸い込んでグズグズになってしまった可哀想なパンさんが御目見えしてしまった。



 仕方が無い、諦めよう。


 私の後方。少し離れた位置にそっと優しく置き、両手を合わせてあげた。



「――――さって。他はどうかしらねぇ」



 祈る想いで干し肉さんを摘まみ出す。



「んっ!! 大丈夫!!」



 多少水を吸ってしまったが。それが丁度良い塩梅に硬いお肉さんをふやけさせ、火に当てれば十分に食べられそうだ。


 早速目の前に浮かぶ火球に当てて、水分を蒸発し始めた。



「んふふ――。良い香りっ!!」



 時間が経つにつれて、お肉が焼ける芳ばしい香りが周囲立ち込める。


 塩っ気が強いから水を含ませた方が良かったのかもっ。


 これこそ正に怪我の功名って奴ね!!



「ほぅ、良い香りじゃな」



 この素晴らしい匂いにつられたイスハが端整な形の鼻をスンスンとひくつかせる。



「それは何の肉じゃ??」


「これ?? 鹿の肉よ。ほら、来る途中で食べたじゃない」


「鹿の肉のぉ。ほれ、一つ寄越さぬか」


「へいへい」



 無造作に背嚢の中へ手を突っ込み、水分を吸った干し肉を手に取って渡してあげる。



 この干し肉。


 ここへ来る前にエルザードがスープに入れて提供してくれたのよね。


 ドスケベ姉ちゃんは料理が苦手だと思ってたのに、その味はボケナスとほぼ遜色が無いものであった。


 伊達に長生きしてないわよねぇ。私も彼女みたいに長生きしたら料理が上手くなるのだろうか??



 これからも美味しい物を山程食べて舌を肥えさせる自信は大いにある。


 しかし!! 美味い飯を作れと言われたら正直自信は無い。


 何より……。


 実家の台所には出入り禁止を食らっているし。料理上手になるきっかけが無いのだよ。



 まぁ……。例え上手くならないとしてもお手本にすべき人は、近くに居るけどね。


 超が付く程の馬鹿真面目で、可愛い女に弱くて、極々本当にたまぁに頼り甲斐のある男。


 今頃、呑気に平原をぼぅっとした間抜けな顔で歩いているのだろう。



 元気にしてっかなぁ――。


 ふわりと宙に浮かぶ火球の中に、朧にアイツの顔が浮かんでしまった。



「どした??」


 火の向こう側からユウが声を掛けて来る。


「ん?? ん――――……。別に」


「ふぅん。当ててやろうか??」


「は??」


「レイドの事、考えてたろ」


「なっ!? そ、そんな訳無いでしょ!! な、何で私がアイツの事考えなきゃいけないのよ!!」



 くそう。


 見透かされてしまった心の動揺を誤魔化す為についつい声を荒げてしまった。



「直ぐ否定する所がまた怪しいぃなぁ」


「うっさい!! …………でも、まぁ。心配なのは確かね」



 最強格である私達が居ないのにあいつは魔女の居城へと頼りない人間を引き連れて斥候に向かっている。


 ボケナスの実力なら生きて帰っては来れるとは思うけど。奴は仲間を重んじる性格だ。



 自分の事よりも仲間の身を第一に。



 その考え方自体は好感を持てる。


 けれど、数多大勢存在する人間如きに命をくれてやる必要は無いだろう。数名の人の命と、あいつの命を天秤にかける訳じゃないけどね。


 美味しい御飯が食べられ無くなる可能性が高いから無事に帰って来て貰いたいものさ。



「イスハさん」



 ふと訪れた静寂の中。カエデの声が小さく響く。



「ん――?? もう少し焼いた方がいいかのぉ……」


「彼は現在魔女の居城へと向かっています。無事に帰って来られるのか、正直な感想をお聞かせ下さい」



 何だかんだいって、カエデも心配だったのか。


 少しだけ心配そうな面持ちで火球を静かに見つめていた。



「そうじゃなぁ……。攻め込むのは不可能じゃが、見て帰って来るのなら容易いじゃろうて。儂の一番弟子じゃ、何も心配は要らぬ」



 ふぅん。


 一応は認めているのね、あいつの実力。



「そう、ですか……」


「何だぁ?? カエデもレイドの事を考えていたのかよ――」



 ユウが再びちょっかいを出す。


 知らないわよ?? こわぁいしっぺ返しを食らっても。



「勿論です。私達は七人で一つですからね」



 あら意外。


 すんなりと肯定しちゃった。



「そうよ。ユウが居ない間も何か欠けてたって気がしたし」


「おっ!! 嬉しい事言ってくれちゃって!!」


「本音よ、本音。まぁ、鬱陶しい奴は一人居るけど。欠けたら欠けたでぇ……。あぁ――。う――ん……。寂しいとは思う様で、思わない事も無いかしら」


「なはは!! 天邪鬼め!! いい加減アオイと仲良くせい」



 淫魔の女王様と犬猿の仲であるあんたにだけは言われたくなかったわ。


 そう言いたいのをぐっと堪えてやった。



「うっし!! や――けた!!」



 火に焙られた表面からじゅわりと肉汁が染み出て、ちょっとだけ焦げ目がついた干し肉を火から颯爽と離す。



 んふふっ!! 良い香りっ!!



「いただきま――っす!! ふぁむ!!」



 おっほぅ……。おいひぃ……。


 水分を飛ばした干し肉さんを奥歯でしっかりと噛む。歯の間からほんのりと零れるお肉の汁が舌に届けば、頭も自然と蕩けよう。


 肉本来の旨味と塩気が素敵だわぁ……。


 やっべ、ずっと噛んでいられそう。



「しっかし。ここは一体何の為の場所なんだ??」


「ふぁ?? ん――。あふぇじゃない?? みずあふぃする所ふぉ」


「これっ。口に物を入れたままで話すでない」



 それ、聞き飽きた台詞よ??


 どこぞの馬鹿タレも同じ言葉を良く口に出すし。



「水浴びねぇ」


「ふぉうふぉう。あのふぇんなにおいほしふぁいし」


「あれじゃない?? 水が匂いを吹き飛ばしているんだよ」


「ふぁ――。ふぉのふぇんもあっふぁか」


「どうして、会話が成立するのじゃ……」



 顰め面を浮かべ、御上品に干し肉を食むイスハが首を傾げてこちらを見つめた。



「ふぇいふぇんふぉ。ふぇいふぇん」


「は??」


「経験だそうです」



 火の温かさでぽうっと頬が朱に染まったカエデがそう漏らす。



「お主も分かるのか!?」


「何事も慣れ、ですよ」


「儂は慣れそうもないわ……」



 でしょうねぇ。イスハって、狂暴なくせに意外と行儀が良いし。


 それはきっと幼少期に受けた指導の賜物なのよねぇ。


 イスハを指導した人ってどんな人だろう?? 前々から気になってるけど、もう故人って言ってたから。聞くのも憚れるのよね。



 ガジガジとお肉を食みながら、いつものモフモフ具合が戻って来た五つの尻尾を見つめていると。



 ここの入り口で感じたあの形容し難い匂いが私の鼻腔をツンっ!! と刺激した。



「――――。んっ?? 何だ??」



 しっかりと咀嚼した干し肉をゴックンと飲み込み、若干の警戒心を持って周囲を窺う。



「どした??」


「いや……。ちょっと変な匂いを感じてさ」



 すっと立ち上がりじぃぃっと闇の中を見つめても特に変化は無い。


 しかし。


 頭と御鼻ちゃんを悩ませる匂いは刻一刻と強くなっていく。



「…………うむっ。どうやら休憩は終わりの様じゃ」



 私と同じく何かを察知したのか、五本の尻尾がピンっと立ち。


 いつも柔和に弧を描く眉が鋭角になり警戒を強めた。



「な、何だよ。二人して」


「――――。ユウって虫、嫌いだっけ??」



 ちょっとだけ慌てる表情を浮かべているユウへそう言ってやる。



「虫?? 好きでも嫌いでも無いけど……」


「そっか。じゃあ、ゆぅっくり、後ろに振り返って御覧なさい」



 私の言葉を受け取ると、



「はぁ?? ――――ッ」



 まるで錆びた鉄の門を力任せに開く様な、大変ぎこちない所作で振り返った。



「う、嘘だろっ!? 何だ、アレ!!」



 奴らの影を視界に捉えた刹那。


 草を食べ過ぎてゆっくり眠る乳牛さんも思わず肩をビクッ!! と上下させて驚いてしまう声を放ち。



「や、やっべぇじゃん……」



 慌てて立ち上がり私の隣に移動を果たした。



 そりゃあ誰だって、アレを見れば驚くでしょうね。



 昨今の若い女性はアレを見ると耳障りな悲鳴を上げるらしい。


 らしい……。と言うのは実際に金切り声を上げて叫ぶ女性を見た事が無いからだ。


 私の友人達はアレを見つけると。




 お惚け狼は前足でウリウリと突き、沢山楽しんでから何処かへと放り投げ。


 蜘蛛は見たくも無いのか。糸で雁字搦めにして窓の外へと吹き飛ばす。


 リューヴは接近すると酷い目に遭うぞと、大変不機嫌な雰囲気を滲ませて手を出さずとも撃退し。


 カエデは己に危害を加えない限り無視をするが、大切にしている本に近付こうとすると氷結させてから何処かへと空間転移させる。


 ユウはアレを見付けると、古紙の新聞紙を丸めてアレの体をぺちゃんこに叩き潰してから満足気に頷く。



 私は……。まぁ自分の食料に手を出さない限りは見逃すけど。


 近寄るものなら、口から炎を噴射し丸焦げにしてやった。



 たまぁに宿屋の隅に現れては、黒光りする体で素早く動く事に目を見張り。アレはどうしてあぁも速く動けるのかと不思議に考えていた。



 一匹、二匹ならまだしも。


 あれだけの大軍勢で来られると、流石の私でも身の毛がよだつ。



「「「「…………」」」」



 二本の触角を巧みに動かして口元は何かを求めるように蠢く。足に生えた毛は鋭くそして黒光りする体表は健在であった。



「ゴ、ゴ、ゴキブリ!?」



 そう、我が親友が発した言葉通り。


 私達の前には大人の男性よりも大きい体長を誇るアレが列を成し、あっと言う間に私達を取り囲んでしまった。



 うむっ。実に不快よ!!



「匂いにつられて出現したのでしょうか??」


「分からぬ。じゃが、どうやら……。敵意はあるようじゃぞ」



 でしょうねぇ。


 私達をどうやって食べようと考えているのか、徐々に包囲している輪が狭まりつつある。



「ど、どうする??」


「ユウ、らしくないじゃない。こういう時こそドンっと構えなきゃ駄目なのよ」



 照明用の火球に背を預け、姿の見えないユウに話す。



「誰だって、人よりデカイゴキブリに囲まれたら焦るだろ!!!!」



 そりゃごもっともで。



「さてさて、カエデさん?? こういう時はどうするか。分かってるわよね??」



 首を左右に傾け、腕をぐんっと伸ばし、体を解しながら問う。



「勿論です。数は凡そ……。百といった所ですかね」



 百かぁ。一人頭、二十五殺。


 滅魔って奴らに会う前の準備運動って所か。



「明かりの事は気にせず、只目の前の敵を駆逐して下さい。私は後方から援護します」


「各々、構えろ!!!!」


 イスハが警告すると同時。


「「「「ッ!!!!」」」」


 目の前のゴキブリの大軍勢が背の甲殻を大きく開き、でっけぇ羽を出現させた。




「「きっっっっしょっ!!!!!!」」




 図らずとも、ユウと一字一句声を合わせて素直な感想を叫んでしまった。



「上から来るぞ!! 迎撃じゃ!!!!」


「おっしゃあ!! 掛かって来いやぁぁああ――――ッ!!」



 女の柔肌に鳥肌を立たせてしまう空気と羽が擦れ合うブゥゥンっという音に負けじと声を張り上げる。


 軽く腰を落とし、握った拳に魔力を籠めて戦闘態勢を整えた。



 さぁ……。巨大昆虫退治といきますかぁ!!!!



「うらぁぁああああ――――!!」


 脚力を解放して宙へと舞い。


「ぜぇいっ!!」


「ギッ!?」



 私の大変美味しい体を食もうとする失敬な黒光りする体を鋭い列脚の一撃で吹き飛ばす。



「もう……。一丁っ!!!!」



 そしてテッカテカに黒光りする甲殻を蹴った勢いを生かし、背後から私の可愛いお尻ちゃんを摘まもうとするゴキブリの顔面に踵を食らわしてやった。



「意外と硬いけど。全然いけるわねっ!!」


「「ギ、ギギギッ……」」



 私の踵を食った個体は頭部を粉砕され、白く濁った体液を噴出させながら地面に横たわり足を無意味に動かす。


 装甲は並み程度。


 つまりぃ……。私達の相手を務めるのは役不足って事よ!!



「でやあぁああ!! 大地衝穿グランドインパクト!!」



 力強い土の魔力を籠めたユウが右拳を地面へと叩きつける。



「「「っ!!!!」」」



 それと同時に堅牢で鋭い岩の塊が地表から飛び出し、宙から急降下してくるゴキブリを貫く。



「水よ……。醜悪なる敵意を撃ち滅ぼしなさい。」



 淡い水色の魔法陣がカエデの足元に現れ徐々にその輪を広げて行く。



「「「ギィッ…………」」」



 その間にもカエデの肉付きの良い大変美味しそうな……。


 基。


 柔らかぁいお肉を食もうと画策したお馬鹿な連中が迫り来る。



「「「ギギギッ!!!!」」」



 上下左右から黒い影が彼女へと襲い掛かるが。



「大いなる水の力、敵を穿て!! 重水槍アクアヘビーランス!!!!」


「「「ッ!?!?」」」



 地表、宙から現れた水の槍に体を貫かれて絶命へと至る。


 胴体、頭部、又はその両方。


 穿たれた体は苦しそうに悶え、大量の白濁液を撒き散らし、数度痙攣した後に漸くその動きを止めた。



「やるじゃない!! 二人共!!」


「ギシャッ!?」



 正面から正々堂々と体当たりをかまそうとして来たゴキブリを返り討ちにして叫んでやる。



「余裕だよ、余裕――」


「物足りない位ですかね」



 でしょうねぇ。


 私達を相手にするのが可哀想に思うくらい……。よっと!!!!



「「ギッ!?」」



 左右から挟み撃ちにしてきたゴキブリを颯爽と回避。すれ違いざまに豪脚で宙へと放ってやった。


 だが、百を超える軍勢だったのに意外と少ないわよね。


 彼我兵力差はえっと……。二十五対一、なのに。




「うりゃりゃぁぁああ――――!! どうした!? お主達の実力はその程度かぁ!!」



 …………。


 あぁ、はいはい。


 通りで襲い掛かって来る数が少ない訳だ。



 好戦的、暴力的、そして武の結晶体である彼女は私達から離れた位置で思う存分己が力を発揮している。


 前後上下、四方八方。


 全方位から来襲する黒い塊を確実に一体ずつ吹き飛ばし、粉砕し、切断していた。



「ふんっ!!」


 迸る金色の魔力を拳に籠めて正面から向かい来たアレに打ち放ち木っ端微塵に霧散させ。


「はぁっ!!」


 燃え盛る炎を纏う烈脚が美しい円を描いて敵を裂く。



 流石、徒手格闘を得意とするボケナスの師匠名乗るだけはあるわね。



 美しく戦う姿に一分の隙も見当たらず、思わず見惚れてしまう戦いの舞を披露していた。



「イスハを食べようなんて。よっぽどお腹が空いていたのかしらね??」


「正確に言えば私達ですけど。上、失礼しますね」



 カエデが深紅の魔法陣を浮かべ、私の頭上へと掲げた。



「へっ?? うぉう!?」



 周囲の空気を焦がす無数の火球が遥か上空から迫り来る黒い塊を撃ち落として行く。


 無詠唱ながらその一発一発の威力は中々に強い。

 

 黒光りする体が火急の一撃を受けると。



「ギィィッ!?」



 小規模な爆炎が立ち昇り節足が千切れ、視界の範囲外へと吹き飛んで行く。


 無数の敵を相手にするにはうってつけの範囲魔法なのだが……。



「あっつ!! ちょっと!! もうちょっと離れてから撃ちなさい!!」



 私の髪の毛が焦げたらどうしてくれるのよ。


 もう少し周囲に気を配って欲しいものさ。



「マイでしたら熱さに強いですし、これしきの熱量で参る訳は無いと考えまして」



 いやまぁ、そうですけども。


 体は頑丈だけどね?? 髪の毛までは鍛えられないのよ??


 今も火球を放射し続ける彼女の足元にすっとしゃがみ込み。鋭い目付きで睨んでやった。



「ふんがぁああ――――ッ!!」


「「ギッ!?」」



 お、おいおい。


 ユウさんやい。左右の手で掴んだその二匹をどうするおつもりだい??



「はぁぁっ!!」



 蠢く二匹の頭を自慢の怪力でぐしゃりと握り潰して、頭部内の粘着質な白濁液に包まれた繊維。若しくは臓器を万力で掴み。



「ふぅん!!」

「「ギッ!! ギギィィッ!!」」



 じたばたと暴れる二つの胴体を力任せに地面に叩きつけ。



「でぇい!!」



 黒光りする体の至る所から白濁液を噴出する両手の先の個体を、残り僅かになった群れの中枢へ投擲。



「はっは――!! 纏めて吹き飛びやがれっ!! 大地烈斬アースクエイク!!!!」



 投擲の衝撃で生まれた一瞬の隙を生かして両の手を合一。


 地面に浮かぶ深緑の魔法陣に叩きつけると鋭い剣山の波が群れを強襲。



「「「ギシャァッ!?!?!?」」」



 彼女のほぼ物理と思しき魔法を受け取ると群体が無残に飛び散り、体からワンサカ噴出する白濁の液体が私達の輝かしい勝利をきったなく彩った。



 どうせならもう少し綺麗な色で勝利を祝って欲しいわよねぇ。



「楽勝っ!! そっちは片付いたかぁ――??」


「ん――。終わったわよ――。そうでしょ??」



 膝に付着した埃を払いながら立ち上がり、藍色の瞳を見つめて問う。



「はい、状況終了です。お疲れ様でした」



 軽くお辞儀をするカエデに一つ頷いてやった。



「なんじゃ、もうお終いか。準備運動にもならぬわ」


「そう?? 私はちょっと温まったわよ」



 体中の関節が滑らかに稼働して筋肉も大分解れて来た。


 これなら滅魔って奴らが出て来ても問題無く戦闘に移れそうだ。


 問題なのは、ちょぉっとお腹が空いている事だけかしらね。



「お疲れ――。いやぁ、びっくりしたなぁ。あんなデカイゴキブリが出て来るとは思わなかったよ」



 いつもの快活な笑みを浮かべてこちらに駆け寄って来る我が親友。


 当然、笑顔で迎えてあげたいのは山々なんだけど。



「……」


「ん?? どした?? あたしの顔に何か付いてる??」


「鏡があったら見せてあげたいわよ。悪い事は言わない。今直ぐに、湖に入って。体に付着したそのドロドロの液体を落として来なさい」



 服、頭の天辺、そしてモチモチスベスベの頬。


 至る所に付着する白濁の液体を見つめて思いっきり顰め面を浮かべて言ってやった。



「あぁ――……。夢中になって気が付かなかった。一緒に浴びるか??」


「結構よっ!!」


「んだよ。冷たいなぁ――」



 唇を尖らせ、ぶつくさと文句を言いながら湖の方へと向かって行く。



 これにて一件落着!! と祝いたい所なんだけども。


 アレとの戦いはあくまでも前哨戦。


 この先に待つ滅魔とやらの戦闘に備えて警戒を継続させましょうかね。



「ユウ。服を乾かすの手伝います」


「お――、有難うね。カエデも一緒に浴びる??」


「結構です。水浴びと称して体を触られてしまいますので」


「へへっ、ばれたか。カエデも結構いい肉付きしているよなぁ――」


「ですから触らないで下さいっ!!」



 ユウ、横着も程々にしておきなさいよ?? 海竜を怒らせるとろくな事にならないのだから。



「いででで!! カエデ!! 雷の力を使用するのは禁止だって!!」



 夏の空から降り注ぐ雷鳴が轟くとユウの体が細かく痙攣する。


 あれだけの魔力を食らってもふつ――に会話が出来る親友の頑丈さに呆れた吐息を漏らして見送ってやった。




お疲れ様でした。


私事ですが、スマホのとあるアプリで時間がある時に遊んでいるのですが。そのアプリが間も無く九周年を迎えます。


毎年、この時期にキャラクターの進化情報やコラボ情報等を配信してプレイヤーさん達を楽しませてくれるのですが……。その前に、月末に行われるガチャイベントに新しい限定キャラクターが登場する事となりました。


そこで限定キャラクターを追うべきか、将又新しい情報を待つべきか。実に悩ましいですよね。




先程、代表作機能というものを知り。早速この作品を筆者の代表作として設定させて頂きました。


沢山の人に読んで貰って、少しでも読者様達の口角を上げたい一心で更新を続けておりますのでこれからも宜しくお願いします。



それでは皆様、お休みなさいませ。


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