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第百八十三話 出発の準備は滞りなく済ませましょう その三

お疲れ様です。


本日の投稿になります。


それでは御覧下さい。




 闇夜を迎えたのにも関わらず歩道の上は普通に歩くのも難しい程の人口密度が構築されている。


 普段なら眉を顰め口から大きな溜息を吐きつつ移動するのだが。この狭さも双肩から体内を駆け抜けて行き荷物の重さによって苦い顔を浮かべている足の疲労感も今の俺には全く苦にならない。



 カエデがふとした拍子に見せてくれたあの笑みには人を強くする隠れた効果があるのかもしれない。



 これでもかときゅぅっと上がった口角に、三日月も地団駄を踏んで嫉妬してしまう弧を描く目元。そして体全体から滲み出る太陽の光を彷彿とさせる陽性な感情。


 彼女が描いた笑みには、人に感謝を示す際のお手本にすべき要素がこれでもかと詰められていた。


 いつもは表情を特に変えないカエデがあんな表情を浮かべるなんて、余程新作が読めて嬉しいんだろうなぁ。



 喜んで貰えて良かった。



 率直な感想はこれだけど……。これから彼女が背負うであろう気苦労を想像するとたかが本一冊程度で済ませて良かったのだろうかという新たな懸念材料が生まれてしまった。


 まぁ残りの謝意は帰って来てからって事で。



 人が犇めき合い鼓膜を多大に震わせる雑踏が行き交う王都中央から東大通りへと抜け。


 漆黒の夜空の下でカエデの笑みを思い浮かべては何度も味わう為に、大切に咀嚼しつつのんびりと足を進めていると。



「レ――イドっ!! ていっ!!」


 乾いた音と共に鋭い痛みが後頭部を襲った。


「いって!! おい。人の後頭部を勝手に叩いちゃ駄目って教わらなかったのか??」


「別にいいじゃん。レイド頭、叩き易いし」



 それは人を叩いて良い理由になりませんよっと。


 痛む頭を抑えながら振り返ると、そこにはえへへと明るい笑みを漏らすトアが俺と同じく大きな荷物を背負って立って居た。



「トア。レイドが困っているでしょ??」



 横着者の隣には黒みがかった茶の髪を煌びやかに揺らし、彼女の愚行を何とも言えない表情を浮かべてイリア准尉が大きく溜息を漏らしている。


 恐らく、トアが配備された前線でもこうしてしつこく彼女を叱っていたのだろう。


 同期が御迷惑を掛けてしまって申し訳ありません。


 言葉に出す訳でも無く、心でイリア准尉へ向かって謝意を放った。



「あ、ごめん。伍長付けた方が良い??」


「いえ。呼び捨てでも構いませんよ」



 そちらの方が親近感が湧くし。何より高い信頼関係を構築しておいた方が任務中も色々と捗るでしょう。



「そうそう。呼び捨てで十分なんです。先輩が態々了承を取らなくても構いませんよ」


「だからポンポン人の頭を叩くな!!」



 全くこいつは!!


 人前だってのに遠慮する処か、息をする様に人の頭を叩くから始末が悪いんだよ。



「あはは。ごめんね?? それより、大尉から渡された住所だともう直ぐ曲がるんじゃない??」



 ルズ大尉から受け取った住所はレイモンドの北東地区のとある住所が記されていた為、今は東大通りを東門へ向かって進んでいる最中なのだ。


 横暴な同期の言う様に目的地へは間も無く左折すべきなのだが……。



「なぁ。本当に合っているのかな??」


「そりゃそうでしょ。本人から直接渡されたんだし」



 こいつは何を言っているんだ。


 そんな表情で俺を見つめる。



「だってさ北東地区って裕福な家庭の者達が住んでいるし。ルズ大尉は裕福な家庭の出なのかなって」


「さぁ?? でも、ここにもいるじゃない。裕福な家庭の出の兵士さんが」



 俺とトアが同時に振り返り、ちょっとだけ珍し気に周囲へ視線を送っているイリア准尉を見つめた。



「な、何よ」



 いきなり四つの目を向けられたら驚くでしょうね。


 ピタリと足を止めて俺達を訝し気な表情で捉えた。



「大体、私はそういう色目で見られたくないから初対面の者には家名は出さない様にしているし。こうして武骨な軍属になったんじゃない。大方ルズ大尉もそういう感じじゃないの??」



 ふむ、それは一理あるな。


 親の七光り、威光を笠に着る、媚び諂う。そして虎の威を借りる狐……。は俺にとってちょっと意味が違って来るな。



『虎の威など要らぬっ!! 儂一人で十分じゃ!!』



 誰よりも先に立ち、俺達を導いてくれる狐さんの姿が思い浮かびますもの。



 兎に角、そういったのを嫌って准尉の位まで昇進したのだ。彼女の努力は俺達では計り知れないだろうさ。



「そうですよね――。ほら、こっち曲がるわよ」


「へいへい。…………。袖、掴むの止めて??」



 散歩中の犬じゃないんだから。



「勝手に迷われても困るからね」


 俺は目を離した隙に何処かへ行ってしまう子供か。


「ふふ。二人は仲が良いのね」



 俺と横着者の行為を見て背後から柔らかい笑い声が漏れて来た。



「イリア准尉、こいつに教えてやって下さい。親しき中にも礼儀ありという言葉を」


「だって??」



 イリア准尉がニコリと笑みを浮かべながらトアを見つめる。



「いいんですよ、これくらいで。先輩は知らないと思いますけど。こ奴は目を離すと直ぐに雌へ襲い掛かる始末の悪い雄なのです。私がしっかりと手綱を持っておかないと、街は混乱に包まれてしまう恐れがありますので」


「人の事を盛った犬と勘違いしていないか??」



 左腕の袖を今も引っ張られながら睨んでやる。



「違うの??」


「断じて違う!! はぁ――……。これから先、思いやられるよ」


「おう?? こぉんな綺麗な女性二人と行動を共に出来て光栄だとは思わないのかね?? 君は」



「イリア准尉が綺麗な事は認めるよ?? 凄い綺麗な髪の色しているし。それに対し、お前さんと来たらガミガミとあらぬ事を抜かし、剰え俺の事を犬扱いする始末。世の綺麗な女性はそんな事しません。ね?? そうですよね。准尉…………。准尉??」



 くるりと振り返ると。


 そこにはえらく色っぽく頬を朱に染める准尉が微妙な表情を浮かべて歩みを進めていた。


 風邪、かな。



「へっ?? え、えぇ。仲間を犬扱いするのは良く無いわよね」


「ほらな!! 准尉が認め……。お、おい、トア。その拳をどうするつもりだ」



 左の拳をぎゅうっと握り、猪も思わず突進を躊躇ってしまう覇気を放つ同期が俺を睨む。



「どうするって?? こう……するのよっ!!!!」


「うぐぅっ!?」



 彼女が勢い良くそして最短距離で拳をお腹さんへ突き刺すとそれはもう大変素晴らしい威力の波動が広がっていった。


 明確な殺意、鍛え抜かれた筋力、そして相手を撲殺出来る的確な位置。


 流石、軍属の者と頷ける威力が腹筋の装甲を傷付けてしまった。



「ゴホッ!! お、おい。いきなりなんで殴るんだよ」


「知らない!!」


「はぁ??」



 捨て台詞を残し、一人スタスタと先へ進んで行ってしまった。



「何だよアイツ。一人でカッカして……」



 女性という生き物の感情の移り変わりは恐らく大賢者が生涯をかけて開発した全てを紐解く方程式にも当て嵌らないのだろうさ。


 さっきまで機嫌良さそうだったのに、突然これだもんな。



「レイドはもぅちょっと女心を理解した方がいいかなぁ??」


「はい??」


「ふふっ、独り言よ。それよりトアが見つけたらしいわよ?? ルズ大尉の家」



 正面奥。



「ここ――!! 見付けたわよ――!!」



 もう地面の石畳の小石を見付ける事も困難になった暗い道の先にトアがこちらに向かって手を振っている。


 夜なのですからもう少し静かに行動しなさいよ。


 俺達は彼女の手の動きに導かれる様にして大尉の家へと向かい始めた。



「ここ、よね??」


「あぁ。住所だと間違いなくここだな」



 手元の住所と正面の家を交互に見つめながらトアと確認する。


 だが、何んと言うか……。


 立派な家である事は間違いないのだけど。富裕層が住む場所にはちょっと物足りない気がするし、けれど普通の家に比べれば十二分に豪華でもある。


 要は俺達が勝手にあれこれと豪邸を想像していたのが悪いんだよね。


 白を基調とした二階建ての建物。


 正面の扉は、多少は傷付いていながらも人を迎えるのには十分過ぎる程の出で立ちでこちらを歓迎している。


 一人で住むのには大き過ぎるし、家族と同居しているのかな??


 大尉の家族構成をアレコレと勝手に考えていると正面の扉が静かに開き。件のルズ大尉が出会った時と変わらぬ姿でこちらを迎えた。



「良く来てくれたわね。さ、入って」


「「「はっ。失礼します」」」



 簡素な歓迎の言葉を受け、俺達は家主の許可を頂き家へと足を踏み入れた。



 家に入り先ず目に付いたのは正面の大きな机だ。四角の机に四つの椅子が綺麗に並べられて広い部屋の中央に鎮座している。


 左奥の台所にはそこにあるべき存在が見受けられず、割と大き目な台所が侘しそうに佇んでいた。



 食器、調理器具、食材が一切見当たらないな。


 違う場所に仕舞っているのだろうか??



 二階へと続く階段は右奥にあり、淡い火の蝋燭で照らされた室内では二階がどうなっているか伺い知れなかった。



「取り敢えず、そこに掛けて」


「了解しました」



 俺達は通行の邪魔にならぬ様に荷物を床へ置き、大尉に促されるまま椅子に座った。


 おっ、見た目とは裏腹に意外と座り心地が良いですね。


 正面にルズ大尉、右隣りにトア。そして斜向かいにイリア准尉の席順で座る。



「早速、明日からの行動を説明するわ」



 ルズ大尉がアイリス大陸の地図を取り出し、大きな机の上に広げた。



「我々は明朝八時に西門から出発し当面の目的地である前線基地、ヴェルトロへと向かう」



 彼女が指差したのは大陸南南西、第一防衛線の最前線基地だ。


 地図上では不帰の森との境目に建設されているが、恐らく人の足だと森まで丸一日掛かるだろう。



『トア、あの基地に行った事ある??』


 地図から視線を放さず、右隣りに座る彼女へ小声で問うた。


『ううん、無いわよ。でも超腕利きの人が駐在してて……。確か常時約二千人が大小の拠点地に駐在しているって聞いたわね』



 超腕利きの兵士が二千、か。


 魔女の居城から不帰の森へ、そして平原を抜けて来るオーク共を撃退するのにはそれ相応の人数が必要となる。


 そのオーク共は沈静化していると聞いたがそれでも心配は尽きないだろう。


 地図上の点で示されている箇所には今も約二千名の兵士達が南南西へと鋭い視線を向けている。そう考えると改めて気が引き締まる思いだ。



「大まかな道筋はこうだ。街道を西へ向かい進み、ギト山北部を通過……」



 ギト山南部は迷いの平原と呼ばれ、物凄く濃い霧が年中漂っていますからね。


 コンパスも役に立ちませんが、そこでも使える便利なコンパスをフォレインさんから預かっているのは内緒です。



「迂回を終えたら南南西へ進路を取り、ヴェルトロへ向かう。ここまでで何か質問はある??」



 地図から指をすっと離し、俺達に問う。



「補給は各町で済ますのですよね??」



 開口一番を務めたのはイリア准尉だ。


 地図をじっと見つめながら各地に点在する街や村を視線で追っていた。



「勿論そのつもりよ。ある程度の物資食料は既に用意されている。明朝、厩舎でそれを荷馬車へと積載して出発。物資が不足してきたら補給の為に街へ寄るわ」



「有難う御座います」


「あ、それなら。自分の馬が荷物を引きます」



 小さく頭を垂れたイリア准尉に続いて声を上げる。


 四名分の物資と食料だ。


 普通の馬なら直ぐに息を上げるだろうけど、我が愛馬ウマ子は違う。飄々とした面持ちのままに荷物を引っ張る姿は万人から一目を置かれていますからね。



「レイド伍長の馬が??」



 ルズ大尉が少しだけ驚いた顔をこちらに向け、黒い髪を耳に掛けて話す。



「はい。足は遅いですけど、力持ちでしかも体力がずば抜けて高い馬ですから」


『足が遅いという言葉は余分だな』



 俺の余計な一言に、ウマ子のしかめっ面が頭の中を過ってしまう。



「それは頼もしいな。是非、その馬を見てみたいものだ」


「顔はまぁ普通ですけど。飼い主の横着を見逃さない賢い馬です」


「トア。いつ、俺が横着をした??」



 あっけらかんとした同期の横顔をじろりと睨む。



「しょっちゅうしてるじゃない」



 頻繁に。と言って欲しいものだ。


 いやいや。そもそも横着なんてしていないから!!



「では、荷物の運搬はレイド伍長に一任する。天候や行程によっては夜営も考慮されるが天幕は四人用の物を用意してあるから安心してくれ」



「――――。え、えぇっと。ルズ大尉??」



 何か言いにくそうにイリア准尉が手を上げる。


 凡その予想は付いていますけど。



「どうした、イリア准尉」


「そのぉ。一応、レイドは男性ですし。私達と別れて休んだ方が宜しいかと……」



 うむ。


 俺と全く同じ考えでしたね。



「自分もそうしたいと考えています。幸い、一人用の天幕も所有していますし」


「私は別に気にしないわよ??」



 大尉はそうかも知れませんがね。自分は多大に気にするのです。



「大尉。こいつは盛った犬も思わず二度見する程に性欲が盛んなのです。此度の任務中に私達が『世継ぎ』 を孕む恐れもありますので天幕は別にした方が賢明です」


「人の事を種馬扱いするな!!」



 流石にこれは聞き逃せない。


 とんでもない事を言い放った同期の頭をピシャリと叩いてやった。



「いった!! ちょっと!! 女に手を出すなんて何考えているのよ!?」



 お返しと言わんばかりに、気持ちの良い右拳が顎を捉えた。



「いでっ!! そっちが訳の分からない事を言うからだろ!?」


「虫も殺さない様な顔してるけど、男ですからねぇ。何があるか分かったもんじゃないわよ」


「ったく。何も殴る事無いだろ……」



「レイド伍長」

「はっ」



 やっべ、大尉の前で燥ぎ過ぎたかな。


 小さく冷静な声がルズ大尉の口から漏れた。



「レイド伍長は性欲旺盛なの??」


「いえ!! 人並程度であります!!」



 その人並がどうかは伺い知れませんけどね。



「ふむ。謙遜しているようだけどレイド伍長は大変素晴らしい雄の力を宿しているわ。それを抑え込むのは些か道理に反している」


「……と、申しますと??」


「優秀な雄の務めを果たせと言っているのよ」


「????」



 務め??


 誰かと戦えって事かしら。



「人は後世へ生を伝える為に生きている。そして、雌は優秀な雄を見抜く力を自然と携えている。私は別に構わないわよ?? レイド伍長の子を孕めと言われても」


「「「ぶっ!?!?」」」



 ルズ大尉の衝撃発言に三人同時に吹いてしまった。



「だ、駄目ですよ!? 任務中は!!」


「そ、そうですよ!! この阿保の子種なんて全然価値ありませんから!!」


「大尉!! 冗談は止めて下さい!!」



 三者三様。


 全く同じ角度と大きさで目を見開いて大尉を見つめた。


 そしてイリア准尉。


 危く聞き逃す所でしたが、任務中はという言葉の意味は一体全体どういう意味でしょうか??


 非番中でも、私生活中でもそういった関係の無い人に自分は手を出しませんからね??



「どうしてそこまで焦る必要があるの?? 今言ったじゃない。雌は優秀な雄の子を孕むべきだって」



 小首を傾げる様がまぁ可愛い事……。


 いやいや。駄目ですよ?? 上官に対しそんな事思っちゃ。



「ほぼ初対面じゃないですか!! こういう事はちゃんと段階を経て、然るべき時。然るべき場所を加味してですね」


「今時珍しい持論ね。兵士なんだからもっと強引な雄だと思っていたけど」


「倫理観を重んじているのですよ」



 どこぞの淫魔を相手に鍛えられた俺の持論はそうそう揺るぎませんよ??



「まぁ、それは追々受け取るとして……」



 何を受け取る気ですか。


 こちらがそう口を開く前に、続け様に言葉を放つ。



「任務の行程の話はここまで。各自、部屋に案内するからそこで明日の朝まで休んでくれ」


「御家族はいらっしゃらないのですか??」



 ふと思った疑問を問う。



「いないわ。私一人がここに住んでいる」



 ふむ、そうなのか。


 家族は他の家に住んでいるのかな??


 だが、余計な詮索はここまで。誰だって個人の領域をおいそれと浸食されたくないからね。



「二階へ続く階段を昇ると、四つの扉が目に付く筈。分かり易い様に扉へ名前の書いた紙が貼ってある。各自、名前が書かれた部屋で休む様に。私は紙の貼られていない部屋で休んでいる。何かあった時は扉を叩いてくれ。何か、質問は??」



 俺は特に無いかな。



「あ、あの。一つ宜しいでしょうか??」



 トアがちょっとだけ頬を朱に染めて手を上げた。



「何?? トア伍長」


「そ、そのぉ。夕食はどうするのでしょうか。適当に外へ食べに行っても宜しいので??」



 そう話すと、心地良く寝ていた牛も思わずモッ!? と。驚いて上体を起こす程の機嫌の悪い腹の音が部屋の中を駆け回った。



「ふ……。いや、済まない。夕食の事をすっかり忘れていたわね」



 その音を聞いたルズ大尉が冷たい御顔ながらも微かに口角を上げて仰った。


 偶にしか見せない微かな笑みって妙に破壊力があるとは思いませんか?? 少なくとも自分はそう思います。



「私は家事をしない。中央広場で何か適当に見繕って買って来なさい。このお金を自由に使って良いから」



 机の上にポンっと現金が置かれる。



「りょ、了解しました。ルズ大尉の分も買って来ますね…………」


「頼む。イリア准尉、二人の伍長を見てやってくれ。私は上で休んでいる」


「了解しました」



 イリア准尉の肩を軽く叩くと軽快な足取りのままで二階へ昇って行った。



「――――。トア」

「な、何よ」



 むすっと唇を尖らせて話す。



「お願いがあるんだ」

「だから、何」



「俺達二十期生一堂に恥じを塗る行為は控えてくれないか??」


「し、し、仕方ないでしょ!! 生理現象なんだから!!」



 それは分かりますけどね。


 もう少しお淑やかに腹の虫を鳴らして欲しいのですよ。



「まぁまぁ、二人共。お腹が減っちゃうと苛々するわよね?? パパっと御飯買って帰って来よう!!」


「賛成です。ほれ、出掛けるぞ。腹の虫さん」



 イリア准尉の提案に乗り席を立つ。


 これ以上グゥグゥ腹を鳴らされて寝不足になったらかなわないし。



「うっさい!!」


「いってぇぇ!! 顔面殴るなよ!!」


「殴り易い位置にあったからね。ほら、早く行かないと御飯無くなっちゃうわよ!!」


「お、おい!! だから引っ張るなって……」


「いいのっ!!」



 可愛らしく頬を朱に染めた女性が一人の男性の腕を無理矢理引っ張ると、想像していたよりも強い衝撃を受けた彼は慌てて態勢を崩してしまう。



「ったく。勢い良く引っ張り過ぎだぞ」


「あんたが鍛え足りないからそうなるのよ」


「へいへい。辛辣な事で」



 彼が態勢を整えるまで彼女は朗らかな笑みを浮かべて待つかと思いきや。



「遅い!! 早くしなさいよ!!」


「どわぁっ!! 止めろ!! 服が千切れちまう!!」



 余程腹の機嫌が悪いのか。彼女は有無を言わさずに男性を家から引っ張り出して、表へと出て行ってしまった。



「はぁ――。これからあの二人の面倒を見なきゃいけないのか。中間管理職も楽じゃないわね……」



 それを見た彼女達の上官は大きな溜息を付き、静かに家を出てから扉を礼儀正しく閉め。部下達が元気良く騒ぐ後ろ姿を温かい眼差しで見守っていたのだった。




最後まで御覧頂き有難う御座いました。


次話からは狂暴龍達の行動へと場面が変わります。



今現在、台風が日本列島を通過しております。大変危険ですので外出は控えて下さいね。


それでは皆様、お休みなさいませ。



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