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第百八十一話 集う生贄達

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 獣道と断定していい荒れ放題の道の左右から伸びている木々の枝を掻き分け、森の奥へと更に進み行く。


 案内役の彼は何度もここを通っている所為か、進行を妨げる木々の合間を器用に縫い普段の歩法と然程変わらぬ速度を維持していた。


 足の運び、芯の通った体そして肩口から滲み出る雄の香。


 俺は勝手に彼の事を案内人だと決めつけているがもしかしたらこの人が試験官なのかもしれないな。


 初対面の方に些か失礼かと思うが彼の背中を注意深く観察していると。



「試験会場へ案内する前に、試験が始まるまで他の受験者の方々と待機して頂きます」



 彼が歩みを遅らせて久し振りに口を開く。



「了解しました。待機所は離れた位置にあります??」


「いえ。もう目と鼻の先ですよ」



 彼が歩む速度を上げると険しい森の中に狭いながらも開けた空間が現れ。そして、見慣れた制服に身を包む四名の男女が鋭い目付きでこちらを捉えた。



 何気無く遠目から彼等の右肩の階級章を確認するが……。少尉に准尉に軍曹。何れの方も俺より階級が上である事にもう既に肩の荷が重くなってしまった。



 この中で一番低い階級は俺、か。指示があるまで迂闊に動くの止めておきましょう。



「こちらでお待ち下さい」


「はい。了解しました」



 案内人の方が踵を返すと視認出来てしまう程の重たい空気が周囲を包んだ。


 うぅ……。出来れば試験が始まるまで一緒に居て欲しかったな。


 上官四名に囲まれる俺の立場も考慮して下さいよ、案内人さん。



「…………。よっ、そこまで気を張らなくてもいいぞ」



 俺のガチガチに緊張した様子を見越してか、男性少尉が気さくに声を掛けてくれた。


 黒の短髪に優しい面立ちだが瞳の奥には芯の通った強さが潜んでいる。


 積載された筋力、体の中央から地面へ一直線に繋がる重心、そして何気ない所作にも隙が見当たらない。


 その全てを考慮すると、四人の中では彼が一番の実力者であろう。



「はっ。ありがとうございます!!」



 そうは言いますけど……。


 上官ばかりですので、確と敬意を示さなければならないのです。


 背筋をこれでもかと伸ばして彼の声に答えた。



「はは。真面目だな、伍長は。名前、聞いてもいいかい??」


「レイド=ヘンリクセンであります」


「レイド、か。うん。良い名前だね」



 人を警戒させない笑みを浮かべ右手をすっとこちらに差し出すので。



「俺の名前はコーザ。宜しくね」


「はいっ!! 宜しくお願いします」



 差し出された右手を気持ち良く受け取った。


 刹那。



「……」



 彼の表情が柔らかい顔から一転、険しい物に変容してしまった。



「どうかなさいましたか??」


「あ、あぁ。君、かなりやるようだね」



 おぉっ、やはり俺の予想は正しかったぞ。


 武を嗜む者は交わされた手を通して相手のある程度の力量を図る事が可能だ。


 恐らく少尉は今も熱く交わしている俺の右手からあらゆる情報を摘出しているのだろう。当然、逆もまた然り。


 腕に積載された筋肉の量、肉を食む握力、骨の髄まで染み込んだ戦の香り。


 少尉の肩書は伊達じゃない、か。



「少尉――。どうしたんですか――?? さっきから手握ったまま固まってるっすよ」


「ごめん。初対面なのにまじまじと見ちゃったね」


「いえ。お気になさらず」



 後方からの声を受けると険しい物が溶け落ち先程の柔らかい顔付きが戻る。



「そう言えば皆の紹介がまだだったね。今、俺に声を掛けてくれたのがポスタル軍曹だ」


「宜しく――」



 黒の長髪を後ろで纏め、軍属の者とは思えない軽い声を上げて地面に横たわる倒木に砕けた姿勢で腰かける。


 飄々とした感じを受ける人だな。



「その隣。大きな図体が嫌でも目立つのが、ハボク准尉」


「……」



 茶の短髪に角ばった顎と頭。


 身の丈は俺より頭一つ分程大きい巨躯で、丸太みたいな腕と分厚い胸板が沸き上がる力を誇示していた。


 こちらと目が合うと無表情のまま一つ頷いてくれるので。



「……っ」



 俺も慌てて彼に倣って会釈を返した。



「そして、紅一点のジャレット准尉だ」


「はぁい。レイド君、宜しくね――」



 長く淡い茶の前髪が顔に掛かりどことなく淫靡な印象をこちらに与える。


 声色も体に絡みつく感じで何んとなくだけど、エルザードに似た風貌だな。


 そんな事を口走ってしまったら目を吊り上げて速攻で怒りそうだけど。



『私の方が絶対可愛いし!! あんたの目は節穴なの!?』



 こんな感じでね。


 事実、美しさの尺度を量る天秤が存在すれば確実に淫魔の女王様の方へと傾くだろう。彼女の美は正直天井知らずですから。




「ど、どうも」



 取り敢えず大きく頷き、全員の名前と顔を頭の中に叩き込んだ。



「召集を受けたのはこの五名ですか??」


 コーザ少尉に問うてみる。


「いや。後二名来るみたいだよ??」



 後二名、合計七名が試験を受ける訳か。確かイリア准尉も選抜試験を受けるって言ってたよな??


 試験日は伺っていなかったけど、今日受けに来るのだろうか……。


 もし来られないとしたらもう二名、名前も顔も知らない人が来るんだよね??



「ねぇ、レイド伍長」


「はいっ、何か御用でしょうか。ジャレット准尉」


 大佐の屋敷でのやり取りを思い出しているとこちらにお呼びが掛かる。


「私、肩凝っちゃったから。優しく揉んでくれる??」


「畏まりました!!」



 上官の指示には絶対服従。


 ビッグス教官及びレフ少尉から体に叩き込まれたこの教えに従い返事と共に行動を開始。


 颯爽と彼女の背後に回り女性らしい肩へと指をあてがう。


 そして痛みを伴わせない様に遅々として力を籠めた。



「んっ……。そうそう、良い感じよ??」


「ありがとうございます」


「はは――。伍長も大変だな?? 来て早々顎で使われるなんてよ」



 ポスタル軍曹が笑みを浮かべてこちらを揶揄ってくれる。



「上官の命令ですので……」


「へぇ。今の御時世には珍しく真面目なんだな?? 真面目頑固一徹のハボク准尉といい勝負じゃん」



 そう話すと、ハボク准尉の大きな肩をポンっと叩く。



「御二人は知り合いなのですか??」


「んっ……。はぁっ……。気持ち良い」



 時と場所を考えて欲しい声色を放つジャレット准尉越しに問う。



「前線で何度か会ったよね?? 覚えている??」


「あぁ。お前の投擲技術には何度か救われたな」



 目をきゅっと瞑ったままハボク准尉が答えた。風貌通りの声の低さですね。



「ポスタル軍曹は投擲が得意なんですね」



 おっ。ここ、凝っているな。


 念入りに揉んでおこう。



「へへっ、見る??」


「是非」



 胸元から取り出した小型のナイフを器用に手で回し、何を思ったのか。


 こちらに目掛けて投擲するではありませんか!!!!



「あぶっ……!! ――――。おぉ!!」



 空気を切り裂く音が頬先を掠めていくと背後の木から乾いた音が響く。


 その音の発生源を確かめる為に振り返ると木の幹に留まっていた小さな昆虫の背を鋭い切っ先が捉えていた。



 へぇ、あの距離から命中させたのか。見事な手先だな。



「どうよ??」


「見事なお手前です。自分には到底出来そうにありませんね」



 准尉から手を放し、後方の幹に深く刺さったナイフを引き抜く。



「あんっ。手、放しちゃ嫌」



 その卑猥な声。どうにかなりませんか??



「准尉――。ここは発展場じゃないんっすよ??」



 それを受けたポスタル軍曹が呆れた声を出す。



「だってさぁ。レイド伍長の手付き、やばいもん」



 やばい……。その言葉は素直に喜んで良いのだろうか??


 整体の心得は嗜む程度にしか持ち合わせていないのでまぁ褒め言葉として受け取っておきましょう。



「軍曹。お持ち致しました」


「おう、ありがとう。気が利くな」


「いえ」



 にっと軽快な笑みを浮かべて俺からナイフを受け取った。



「早く続けてよ――。肩、重くてしょうがないんだもん」


「しょ、少々お待ち下さいね!!」



 慌てて踵を返し彼女の背後へと回って凝り固まった筋力を解す為に施術を再開させた。



「んっ。そうそう……。はぁ、いいわぁ」



 ――――。


 何やってんだろうなぁ。


 ここへは選抜試験を受けに来たのに、待ち構えていたのは女性の肩揉みときたもんだ。


 何となく気が抜けてしまいますよ。



「レイド伍長はどこの前線基地に配属されていたんだ??」



 左向かい。


 太い木の幹に背を預けて座るコーザ少尉が俺の目をしっかりと捉えた。



「自分はパルチザン独立遊軍補給部隊に所属していますので、前線には配備されていません」


「聞いた事が無い隊だな??」



 そりゃそうでしょうね。


 隊員数僅か二名のとぉっても小さい隊ですから。



「隊員数も僅か二名。とても小さな隊ですので、前線に配備された方々は耳にした事が無いと思われます。任務の内容は主に書簡の配送や、上層部からの雑務を主にこなしています」



 大まかな任務内容を話したら目玉を丸くするだろうか、敢えて包んで話そう。


 魔物と行動を共にしていますとも言えないし。



「雑務ねぇ。その割には随分と武に精通しているね??」


「上層部から与えられる雑務をこなす際、とある武術を嗜んている方に出会い御教授して頂きまして。毎日反芻を続けている内に鍛えられた。そんな感じです」



 狐の女王に師事しています。


 これは間違っても口にしてはいけません。



「ふぅん。何て名前?? その流派は」



 ポスタル軍曹が手元で器用にナイフを回しながら問う。



「極光無双流です」


「聞いた事ねぇなぁ。少尉、あります??」


「いいや。だが、その師はかなりの使い手だな。弟子であられる伍長の腕前を見れば自ずと見えてこよう」



 かなりどころか。この大陸最強の使い手かもしれません。


 両の拳は容易く岩を砕き、列脚は空間をも断裂させ、迸る魔力は空の雲を霧散させる。武を嗜む者なら真正面から対峙しようとは思わないだろう。


 それどころか、勝負をする前に降参の二文字を口から放ち。遠い地平線の彼方へ向かって駆け始めてしまう。


 そんな傑物ですよっと。



「だからかぁ。こぉんなに立派な手をしているのも」



 何か温かい感触が手に重なったと思い見下ろすと。


 にぃっと淫靡な笑みを浮かべているジャレット准尉が俺を見上げ、女性らしい手を重ねていた。



「お褒めの言葉、有難く頂戴いたします」



 彼女の肩からすっと手を放す。


 いけませんよぉ。試験前ですからね――。


 いや、試験後でも駄目なんだけどさ。



「うふふ、初心なんだからっ」


「は、はぁ……」



 何とも言えない気持ちを胸に抱いているとこちらへ向かって来る人の気配を感じた。


 誰だろ?? 気配から察するに……。


 三人か。



「どうしたの??」


 ジャレット准尉が不思議そうな視線で此方を見上げる。


「あ、いえ。お気になさらず」



 多分、さっきコーザ少尉が仰っていた残る二人の受験者と案内人さんであろう。


 不穏な気配はしないし。



「ねぇ、それよりぃ。早く肩揉んでよ」


「あ、はい」



 これ、いつまで続ければいいのかしら……。


 微妙な力加減がかえって疲れるんだよねぇ。



「んっ。最高っ……。レイド伍長って、彼女いたりするの??」


「自分でありますか?? いえ、いませんよ」



 彼女と呼べる存在が居たとしてもこの仕事に携わっている以上、普遍的な交友及び時間の構築は難しいので出来ないのが当然かと思われます。


 それ以前にやるべき事が山の様に積み重なっているのでそれ処じゃないのが本音かな。



 べ、別に欲しくない訳じゃないよ??


 出来たとしても恋人らしいお付き合いが出来ないと言いたいだけですから。



「そっかぁ。じゃあ私の下につきなさいよ。可愛がってあげるからさ」


「配属は上層部が決定する事ですし……。自分には決定権はありませんので」


「え――。配属願い、出してよ――。ここまで私を蕩けさせたのはあなたが初めてだもん」


「ははは!! 伍長、災難だな!!」



 ポスタル軍曹、笑っていないで助け船を出して下さい。


 飄々とした彼の笑みに対してはにかんだ顔で応えていると。




「――――全く。そうやって良い様に男を使う所は変わっていないわね??」



 柔和な空気を吹き飛ばしてしまう恐ろしい圧を纏った女性の声が響いた。



「ちっ。鬱陶しい奴が来たわね」



 鬱陶しい??


 新たな声色の登場を受けて視線を動かすと、俺は自分の目が正常に機能しているのか心配になってしまった。


 二名の女性兵士が獰猛な熊も思わずひぃぃ!! っと踵を返して逃げ帰ってしまう恐ろしい視線を俺に向けていた。


 一名はレナード大佐の愛娘であるイリア准尉。もう一名は……。

































「ト、ト、ト、トア!?!? な、何でお前がここにいるんだよ!!」



 ニ十期首席卒業の輝かしい成績を残し、鋭い剣筋は屈強な男をも屈服させ、体から放つ恐ろしい雰囲気は鷹をも寄せ付けない。


 成績上は文句の付け所が見当たらない程の超優等生。しかし、それはあくまでも紙の上での御話。


 現実の彼女は人に飯を作らせ、酒を飲んだら質が悪くなり、隙を見付けては人に面倒な仕事を押し付けようとする。



 そんなだらしなくも成績優秀な同期が現れ、驚きの声を思わず上げてしまった。


 だが、彼女は驚きよりも何故か憤りの方が勝っている様ですね。


 両手を腰に当てて、むっと眉を顰める顔は俺にこう言っていた。



『あんた。何してんの??』

「あんた。何してんの??」



 あ、一字一句見事に当たった。



「それはこっちの台詞だよ!! お前も召集を受けたのか??」



 ジャレット准尉の肩からぱっと手を放し。


 友人且同期の彼女の方へと歩み寄った。



「そうよ。あんたかここに居る事に驚いて、更に鼻の下を厭らしくデヘデヘと伸ばして女性の肩を揉んでいれば驚愕するでしょう??」


「鼻の下なんか伸ばす訳ないだろ」


 全く。どこに目を付けているんだ。


「ふぅん?? ――――。准尉の服の隙間から覗いていたんでしょ??」



 俺越しにちらりとジャレット准尉の階級とちょいと乱れている胸元を確認して、とんでもない事を言い放つ。



「はぁ!? そんな訳ないだろ!! 上官だぞ!!」


「別に私は構わないわよ――?? ほら、見るぅ――??」



 シャツの襟を細い指先できゅっと下げて此方に見せつけて来た。



 その仕草は止めて下さい。


 こいつは絶対に悪い方向に勘違いしますから。



「結構です!!」


「あはは!! 顔真っ赤にしちゃって。可愛い――」



 試験前に漂うべきでは無い剽軽な雰囲気が漂い始めると。



「ふぅ……。あんた、来る場所間違えてんじゃないの??」



 イリア准尉が大きな溜息を吐き、この空気を刹那に吹き飛ばしてしまった。



「はぁ?? それ、私に言ってんの??」



 彼女から溜息が発せられるとほぼ同時にジャレット准尉が噛みつく。


 険悪な空気が両者の間に流れ、負の感情が籠った視線同士が衝突すると一触即発の火花が激しく散った。



「ってか、あんたどうしてここに呼ばれたのよ?? あぁっ!! そっか!! 親の七光りって奴よね――。だっさ」


「五月蠅いわね。実力に決まってんじゃない。ねぇ?? レイド伍長??」


「え、えぇ。そうですね……」



 俺の右肩に手を乗せて話す。


 確実に可笑しな方向へ話が流れてしまうので、可能であれば此方に振らないでいただければ幸いで御座います……。



「ちょっと。勝手に触らないで」



 ジャレット准尉が苛立った声を放つと険悪な空気に拍車を掛けてしまった。



「いつからレイド伍長があんたの物になったのよ。あんたこそコネで召集されたんでしょ?? 昔から人に媚を売るのが得意だったし。大方予想は付くわ」


「はぁっ!?!? あんた、誰に物言ってんのか分かってんの!?」



 憎しみを籠めた瞳でイリア准尉を睨み、憤怒の雰囲気を放って立ち上がる。


 これから選抜試験が始まる以前に俺達は同じ軍属の者。仲間に向けるべき視線と雰囲気ではありませんよね。



「えぇ。よぉく分かってるわよ?? 中途半端な成績で十五期を卒業されたジャレット准尉でしょ??」


「あんたねぇ……。首席卒業だか知らないけど。良い気になってんじゃないわよ」


「ごめんなさいねぇ――。どこぞの誰かと違って私は優秀ですから」



 イリア准尉が徐々に迫りくるジャレット准尉を真正面で堂々と睨み返す。


 肝が据わった姿は流石だと思いますけど。


 これから試験なのですから、暴力沙汰は控えて頂くと幸いです。



「地面に這いつくばらせてあげましょうか?? 偉ぁい大佐はここにはいないのよ??」


「弱虫ちゃんに出来るの?? 一人じゃ無理だろうし。男の子、呼んで来てあげようか??」


「っ!!!! このぉっ!!!!」



 ジャレット准尉が敵意を籠めた拳を右手に作りイリア准尉へ。



「……ッ!!」



 対する彼女も真っ向から迎え撃ってしまった。




「――――。御二人共、間も無く試験が始まります。仲違いは終わってからでも宜しいのでは??」



 左手でイリア准尉の拳を、右手でジャレット准尉の拳を掴んで喧嘩の勃発を未然に防いだ。


 拳を通して互いの激情が俺の体へと流れ込み、体の中央で勢い良く爆ぜた。



 この衝撃と威力。二人共、本気で打ったな。



 とても仲間に向ける物じゃない。そこまでこの二人の仲は険悪なのか。



「ジャレット准尉、そこまでだ。レイド伍長の言葉が正しい」


「コーザ少尉……」



 静かに、しかし相手を確実に威圧させる口調で少尉が話す。


 その言葉に従い二人は剥き出しの激情を収めて荒々しい拳をすっと下ろした。



 はぁ、大事に至らなくて幸いだよ。



「先輩、そこまでですよ。レイドをぶちのめすのは一向に構いませんけど。同期の方を殴るのは良くありません」


「トア……」



 己の行為を恥じたのか、イリア准尉がポツリと言葉を漏らす。



「先輩?? トアとイリア准尉って面識あるの?? 後、物騒な事言わないで」


 意外な言葉を放ったトアに尋ねる。


「私が初めて前線に配備された時。配属されたのが、先輩が小隊長を務める小隊だったのよ」



 俺の言葉の後半部分を一切合切無視して話す。



「へぇ。イリア准尉、同期がお世話になりました。一応、こいつもニ十期首席卒業なんですけど。その……。雄らしく猛々しい性格が仇となって迷惑を掛けているかと思います。同期を代表して謝意を述べると共に……。どうした、トア??」



 俺がイリア准尉に礼を述べていると、細かく肩を震わせているトアが俺の肩を掴んだ。



「誰が、雄らしく猛々しいって??」



 おっと、こいつは不味い。



「他意はありません」


「ふぅん?? そっかぁ……。って、許す訳ないでしょ!!」


「ぐぇっ!!」



 男勝りどころか、余裕で男の力を超える勢いでこれでもかと胸倉を掴んでくるので息が詰まってしまう。



「誤解だって!! イリア准尉からも何か言ってやって下さいよ!!」


「う――ん。レイド伍長が話す通り元気一杯に駆け回っていたからなぁ。強ち、間違いじゃないかもね」


「ちょっ、先輩!! それじゃ自分が馬鹿みたいに走り回っていたみたいじゃないですか!!」


「ほ、ほら!! やっぱり俺の言った通り……。んぐぇっ!!!!」


「あんたは黙ってなさい。土の養分になりたくないでしょう??」



 今度は両の手を首に回す始末。


 試験が始まる前に気を失うんじゃないのかと首を傾げたくなる勢いでぎゅうぎゅうと軌道を圧迫してくる。



「あはは!! んだよ、レイド伍長。尻に敷かれ易いのかぁ??」


「はは。人は見た目によらないな??」



 ポスタル軍曹とコーザ少尉が俺達の戯れを見て明るい笑い声を上げる。その声が漂っていた不穏な空気を払拭させてくれた。



 まっ、この身を切って場が明るくなれば御の字かな??


 これから試験だってのに暗い雰囲気のままだと流石に、ね。



「軍曹殿。こいつは尻に敷くべきなんです。目を離すと直ぐに横着を働く駄犬でありまして」


「俺は犬じゃない!!」


「ちょっと黙ろうか」


「……。はい、御免なさい」



 身を切るのも決して楽では無い。


 ジロリと睨んで来る冷徹な瞳を真摯に受け止め、存分に肝を冷やして改めて理解したのだった。




お疲れ様でした。



今は昔のバビロニア。鋼の拳が天を突く。


何故私がGO!GO! ブリキ大王を口ずさんでいるかと申しますと。


先程、机の角に小指をぶつけてしまい。余りの痛さに腹が立ち、机に向かってバベルノンキックを放つものの彼の装甲を貫く事は叶わず。逆に足の甲を痛めてしまったからです。


今も右足の小指と甲が赤く腫れております……。皆さんも偶に訪れるこの痛みに気を付けて下さいね。



さて、下らない話はさておき。本当は選抜試験まで書こうと考えていたのですが。先の後書きでも申した通り、大幅な加筆修正を余儀なくされた為。今回はここまでとなります。


次話では選抜試験が行われますので今暫くお待ち下さいませ。




そして、ブックマークをして頂き有難う御座いました!!


足の痛みも嬉しさの余り全く感じません!! この勢いに乗ってプロットを執筆してきます!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

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