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第百七十二話 まだまだ不眠不休は続く その一

お疲れ様です。


帰宅と同時に本日の前半部分を投稿させて頂きます。




 太陽の輝きが地平線の彼方へと消え失せ、街には一日の終わりを告げる松明の炎の明かりが灯り始めた。



「あはは!! 夕飯は何処で食べようか!!」



 誰かの陽気な笑い声が街の壁を伝い俺の耳へ届く。普段は別に何とも思わないのに、今この時だけは腹立たしく感じてしまう。


 誰だって体調が絶不調の時は他人の明るさがやけに眩しく感じてしまうものだろう??


 そう苛つかずに、しゃきっと歩けよ。


 負の感情に苛まれている自分にそう言い聞かせ、大いなる疲労を誤魔化しつつ本部へと続く大変暗い道を辿っていた。



 ベイスさんの屋敷を発ったのは昼と夕の合間の時。


 素晴らしい昼食を満足に平らげた後もレシェットさんの猛攻が止む事は無く寧ろ。



『ねぇ!! 御飯を食べ終えたら今まで受けて来た任務の話をしてよ!! これは命令だからねっ』



 栄養を摂った後の方が凄まじかった。



『し、仕事が残っていますので』



 そう何度も伝えてみても拘束は解かれる事は無く。



『はぁ?? 私の命令に逆らうの?? レイドを無理矢理軍から引き抜いて飼い犬として家で飼う事も出来るのよ??』



 脅迫紛いの言葉を受け、次の任務から無事帰還したのなら便りを送りますので、と。


 懇願にも似た悲壮な声を絞り出しても彼女はそれを良しとせず。俺の様子を見かねたベイスさんから放してやりなさいと強力な援護を頂き。



『うぅ――ん……。まだ仕事が残っているんだよね?? それなら仕方が無いか。あ!! でも、その書類をこっちに持って来れば……』


『で、では失礼しまぁ――すっ!!!!』



 天才的閃きを披露する前に彼女の言葉を無理矢理遮断。



『こ、こらぁ――!! 待ちなさいって言ってるでしょ――!!!!』



 背に彼女のお叱りの声を受けつつ脱兎も思わずポカンと口を開けてしまう勢いで屋敷を脱出して先程漸く王都に帰って来られたのだ。



 大体さぁ、とても十六の子が放つ雰囲気じゃないのよ。


 我が分隊長殿もレシェットさんと同じで十六だけど、昨今の若者は年上を脅かすのが得意なのだろうか??


 そんな下らない疑問さえ浮かんでしまいますよ……。


 鉄球がぶら下がっているんじゃないかと思わせる大変重い瞼と両足と格闘を続けていると、一つ目の目的地である本部が見えて来た。



 はぁ、やっと到着か。


 帰還の報告をしたら宿へ帰って、そしてあの忌々しい紙と再戦が待ち構えている。


 気が重いどころか精神的病に罹患してしまいそうですよ。



「失礼します。レイドです。只今帰還しました」



 歌上手の小鳥も思わずエ゛ッ!? と。二度見してしまう矮小な声を上げ、古ぼけた扉が放つ軋む音と共に普遍的な民家へ足を踏み入れた。



「おぉ――。お帰り。どうだった??」


「緊張と遜り。多大に気を遣い、大変な疲労が今も肩に重く圧し掛かっているのが正直な感想です」



 夕食を食べ終えた後なのだろうか。


 一日の終わりを迎える準備を終えて軍服をだらしなく着込むレフ少尉の傍らに立ち、そう話す。


 言葉を発するだけでも一苦労だよ。



「はは。ごくろ――さん。んで?? 大佐は何て言ってた??」


「はっ。四日後に行われる……」



 あれ?? これって他言無用だったよな??


 直属の上司には伝えても宜しいものだろうか……。


 ラテュスさんの言葉を思い出し、慌てて口をギュッと閉じた。



「四日後に何が行われるんだよ。早く言え」


「あ、いえ。大佐からは他言無用との命令ですので……」



 これが真っ当な理由でしょう。



「はぁ?? 私はお前の直属の上司だぞ?? こちらの任務にも支障が出るかもしれん。さっさと伝えろ」



 冷たい瞳がじろりとこちらを見上げた。


 レフ少尉が話す通り、支障が出たら困るし……。


 大佐、ラテュスさん。申し訳ありません。命令を反故する事をお許し下さい。



「――――了解しました。四日後に行われる特殊作戦課の選抜試験を受けろと命じられました」


「おいお――い。お前、何勝手に引き抜きを了承してんだ??」



 足を組んだまま、左足の上に乗っかっている右足でこちらの脛をポンっと蹴る。



「あいだっ。引き抜きだとは一言も仰っていませんでしたよ?? 恐らく、選抜試験に受かれば大佐の下で任務を行うのだと思われます。部署の移動には正式な書類が必要ですし」



「だ、か、ら。向こうは非公式の部署だろ?? 正式の書類なんて必要だと思うのか?? お前さんは」



「――――。あっ」



 そう言われてみれば……。



「そんな間抜けな顔を浮かべているって事はそこまで頭が回らなかったようだな。まぁいい。その選抜試験に合格しても、部署の移動は出来ない様に裏で手を回しといてやる」


「ありがとうございます」



 方法は問いませんよ??


 聞いても肝が冷えるだけですから。



「選抜試験ねぇ……」



 何かを思い出す様に、夜の闇が支配する外をふっと見つめて話す。



「レフ少尉も召集を受けた事があるのですか??」


「ある訳ないだろ。私は後方勤務のか弱い女性だぞ。召集を受けた事があるのはビッグスだよ」


「ビ、ビッグス教官が!?」



 こいつは素直に驚いた。


 まさか、教官が召集を受けていたなんて……。



「召集を受けて、選抜試験に合格したんですか??」



「召集が掛かった時、あいつは前線に張り付いていたんだ。んで、召集に応じようとしたんだけど。ほら、怪我して入院したって聞いた事あるだろ??」


「えぇ。仲間を救出する際に負傷し、そのまま入院したと御伺いしましたね。――まさか。それが原因で召集に応じられなかったと??」



 これが多分正解でしょう。



「正解。でも、行かなくて良かったぞ。御用聞きの途中。何気なぁく書類を覗き見て知ったんだけど」



 はい、立派な軍規違反ですね。


 軍法会議を受けて罰せられても俺は一切知りませんっ。



「その任務に参加した兵士は全員帰らぬ人になっちまったし」


「ぜ、全員ですか。余程の激戦だったんですね……」



 屈強な兵士達、全員が帰還出来なかった。


 任務の内容は分からないけど彼等の死闘が目に浮かぶ。



「それからだよ。私があの部署に疑問を持ち始めたのは。一兵士達の命を只の数字としか見ていないってな」


「ですが……。彼等が残した功績は……」


「ある訳ないだろ、そんな物。残ったのは任務失敗と新たな戦死者の計上、そして遺族への戦死通知だ。無駄死にとは言いたくは無いが……。第三者から見れば、犬死だな」



 非公式の任務を認めたくない気持ちが現れたのか。


 ぶつけようの無い怒りを持て余す様に拳を力強く握って仰った。



「お前もこれから参加しようとしているのはそれだけ危険な任務なんだぞ?? 分かっているのか」


「死と隣合わせの過酷な任務になるとは思いますが、選抜試験に通りましたのなら受諾しようと考えております。俺達の功績がこの大陸に住む者達の為になれば、と」



 この気持ちに嘘偽りは無い。


 本より、その為に入隊したのだから。



「その気持が偽善であったり自己陶酔によるものだったら、先ずお前は生きては帰って来られない。この国に、真に忠を尽くす者だけが生還する。それだけ過酷な任務になる事だけは覚悟しておけ」


「はっ!!」



 うむ、今の言葉は胸に響くものがあった。



『真に忠を尽くす』



 己の身を鑑みず只々武の塊となって敵を殲滅。それが忠を尽くす真の戦士足る本来の姿だ。


 レフ少尉も偶には良い事言うよなぁ。


 犯罪行為スレスレの事をしている人とは思えない言葉だよ。



「まぁ、試験は四日後なんだろ?? さっさと報告書を仕上げて、体調を整えてから試験に臨め。目の下のクマ。えらい事になってるぞ」


「徹夜、してますからね」



 報告書。


 この言葉が高揚した俺の気持ちを、光さえも届かない深海のどん底へと叩き落としてしまった。


 そうだよ、まだまだ未完じゃないか。


 試験云々より目先の問題を片付けなければ。



「明日中に持って来いよ?? 私はここで寝ないで待っていてやるから」


「了解しました。では、引き続き作業に戻ります」


「ん――」



 確と頭を下げ、踵を返すが。



「あっ。おい、待て。渡すの忘れるところだった」


「はい??」



 渡す?? 何を??


 まさかとは思いますけど、追加の報告書ではありませんよね!?


 歩み出した両足を止めてくるりと振り返った。



「お前さん宛てに、手紙が届いていますよ――っと」



 後方の棚へ向かい、一通の美しい純白が目立つ便箋を取り出し。


 例の如くぽぉんっと机の上に無造作に放ってしまった。



「だからいつも投げないで下さいって言っていますよね!?」


「はは。その顔が見たいから投げてるんだよ」



 ったく!!


 これがなけりゃ素直に尊敬するってのに!!



「大切な知らせだったらどうするんですか!! …………うん?? はぁ!?」



 下官の者が浮かべるべきではない憤りを含めた瞳を浮かべ、便箋を手に取り。


 そして何気なく差出人の名を見つけてしまうと、驚きの声が口から意図せずに飛び出して来てしまった。



「麗しの皇聖ちゃんからのお手紙でしたわねぇ?? どうですかぁ――。嬉しいですかぁ――??」


「何ですか。その言い方は。別に嬉しく無いですよ……」



 魔物排斥を掲げる教団。そこから手紙一つ送られて来ても思わず身構えてしまう。


 まさか、マイ達の事じゃないだろうな??


 封を切り、少しばかり鼓動が早くなった心臓を宥めつつ便りの中身を確認した。



「…………へ??」


「おう。何だって?? シエルちゃんは」


「その言い方止めて下さい。なんか、食事に誘われちゃいました」



 読み終えた手紙を少尉へ渡す。



「どれどれぇ?? ――――拝啓うんたらかんたら……。本当だ。お前さん、皇聖とデキてんのか??」


「そんな訳ありませんよ。向こうは超有名人且、自分達の活動を資金面で支援してくれる御方ですよ?? こんな一般人に興味なんてありませんって」



 食事のお誘いは明日の夕刻と書いてあった。


 今から報告書を仕上げに掛かって間に合うかどうか。



 いや?? 別に行きたくて行こうと考えているんじゃないよ?? 忙しいとして断ってもいいですし。


 相手の真意を図りたいだけであって他意は無いのです。


 誰に言い訳しているか分からないけども……。



「でもぉ。興味が無いって訳じゃなさそうだなぁ。シエルちゃん、可愛いもんね――」



 俺の視線を別の意味で捉えちゃったのかしらね。



「もう何でも好きに捉えて下さい」


「冷た。シエルちゃんと食事を共にしたいのなら、もう報告書の作成に取り掛からないと間に合わないだろ」



 なんで見ていないのに俺の仕事の進捗具合が分かるのですか??



「今までの仕事の早さと、今日一日のお前さんの行動を鑑みればそれ位容易く分かるって」



 おっ。


 今度は俺の視線の意味を正しく理解してくれましたね??



「了解です。シエルさんの件は取り敢えず後回しにして、作業に戻ります」


「ん――。宜しく――」



 にっと悪戯心満載の笑みを浮かべ、右手をヒラリヒラリと動かして俺を見送ってくれる。


 良いよなぁ、少尉は。


 ちゃんと睡眠取れるんだもん。ひょっとしたら、俺は人生初の二日間ぶっ通しで起きていなければならないかも知れぬ。


 …………、死なないだろうか。


 これから待ち構えている更なる疲労と、頭を悩ませてしまう新たな問題を鞄に仕舞って宿屋へと向かい。


 棺桶の中でスヤスヤと眠る死人さんも思わず大丈夫ですか?? と。優しい声をついつい掛けたくなってしまう重い足取りで出発した。





お疲れ様でした。


現在、適当に食事を摂りつつ後半部分の編集作業に取り掛かっていますので。次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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