第百六十四話 早朝に不釣り合いな恥辱の姿
皆様、お早うございます。
休日の早朝にそっと投稿を添えさせて頂きます。
随分と長くなってしまった瞬きを繰り返しつつ特に何をする訳でも無く。虚ろな意識のままで暁に染まる窓の外を何んとなく眺めていた。
「あ――……。夜明け、か」
体中に圧し掛かる倦怠感。こめかみに感じる僅かな痛みと夜通しの作業を受けた影響で腹が減り、首と腕の筋力が悲鳴を上げる。
友人に万全の体調かと聞かれたら即答でこう答えよう。
『絶不調』 であると。
大体、たった二日でこれを仕上げろってのが無理難題なんだよ。
しかも!!
今日これから行政特区レンクィストへ向かい、レナード大佐の面談を受けなければならない。
午前中……いや。
下手を打ったら移動と面談だけで丸一日潰れてしまうかもしれないのだ。
「今日も徹夜、なのかなぁ」
一日の始まりの挨拶を元気良く交わす太陽を恨めし気に睨み、彼?? 彼女?? とは対照的に疲労の塊を口から大きく吐き出した。
「とおっ!! レイド――。はよっ!!」
「あ――。ルーか」
肩にずっしりとした重みが圧し掛かり、灰色のデカイ狼の顔が横からにゅっと生えて来た。
普段は何ともない重みだが今はやけに重たく感じてしまう。
「元気無いね??」
黒い鼻頭を此方に向けて話す。
「夜通し作業していればそうもなるさ」
「徹夜してたの!? あらまぁ――……」
「それで?? 何か用??」
体を動かすのも面倒なのでだらりと腕を垂らしたまま。
傍から見れば無気力な状態で問う。
「用?? 別にないよ?? 起きたから挨拶しただけ!!」
「そう……」
いつもはこの陽気が嬉しいんだけど、疲労の蓄積の所為かちょっとだけ煩わしい。
「ほらほら!! おはようの挨拶は!?」
「おはようございます」
一切の感情を籠めず、簡単な挨拶の単語だけを口から放ってあげた。
「元気が無いっ!!」
「勘弁して下さい。これから、出掛けなきゃいけないんだよ……」
双肩に乗るモフモフの毛に覆われた両足をやんわりと払い、泥酔した犬も心配になる足取りで己のベッドへと向かう。
「お出かけ?? どこに行くの??」
「言ってなかったっけ?? レンクィストに行くんだよ」
重い足を引きずりベッドへ命辛々到達すると、へにゃりと体の力が抜けてベッドの上に溶け落ちてしまう。
はぁ――――、最高だ。このまま何も考えずに眠ればどれだけ心地良い事か。
だが今眠ってしまえば恐らく明日の明け方まで眠ってしまうだろう。
ちょっとだけ、そう……。ちょっとだけ。
硬くも、柔らかくもないベッドの感触に感謝しつつ目を閉じた。
「え――。そうなんだ。ここで待っていても暇だし私もついて行っていい??」
「駄目に決まってんだろ。仕事で行くんだよ。それと、あの街は入場許可が必要だから……って。何してんの??」
何やら腹に重みを感じたので、人間二人分の力で閉じられてしまっている瞼を無理矢理こじ開けて確認すると。
「へっへ――。レイド元気無いから、私の元気を分けてあげようかと思ってさ!!」
大型の狼が腹の上に堂々と座り。口から獣臭を垂れ流して長い舌をこれ見よがしに俺の顔へ伸ばそうとしている場面であった。
もう既に嫌な予感しかしないのは気の所為かしらね。
「結構です。十分だけ休んでから出発するから大人しくベッドに戻りなさい」
多分、休みの日の父親はこんな感じなんだろうなぁ。
忙しい仕事の合間に訪れてくれた偶の休み。ベッドの上でゆるりと休んでいたら子供が腹の上に跨りギャアギャアと騒ぎながら遊びを強請る。
父親は日頃の疲れからか、子供の願いを邪険に扱いその後。妻にこっぴどく叱られるのだ。
これから始まるであろう『強請り』 は子供のそれとは一線を画すと何故かお父さんは理解してしまった。
「嫌ッ!! ふふ――。狼流の元気の付け方、教えてあげるね!!」
「いやぁぁああああ――――ッ!!」
顔中を襲う嗚咽感を誘う酸っぱい獣臭と粘度の高い唾液を纏わせたざらつく舌。
両手で無駄にデカイ狼の顔を押し退けようとしても徹夜明けの所為か、全く力が入らない。
「ふんふんふんふんっ!!!!」
「お、お願いします!! や、やめて……」
鼻腔の奥へにゅるりと侵入する唾液。獣臭が喉の奥から酸っぱい液体を召喚し、それを持てる全ての力を総動員して押し止める。
せめて目玉は死守しないと惨たらしい結末を迎える破目になると考えるが……。
頑丈に閉じていた鉄の門も屈強な筋力が備わった舌で無理矢理こじ開けられ、眼球が陽気な狼を捉えると悲しみの汗を流してしまった。
こちとら頑張って仕事をしていたのに、何で朝っぱらからこんな惨たらしい襲撃を受けなければならないの!?
よ、世の中は理不尽過ぎますよ……。
「や――!! えへへ――。楽しい……。うん?? 何、カエデちゃん??」
カ、カエデ??
ねちゃつく涎で開き辛くなった瞼を開け、デカイ狼の顔越しに彼女の姿を探す。
「何をしているのですか??」
あ、居た。
本日も寝癖は盛大の御様子で美しい藍色の髪は夜明けの方向と日が沈む方向へ向かってピンっと伸び。
ちょっとだけ皺が目立つ楽な部屋着のままでルーを冷酷な瞳を浮かべて見下ろしている。
「何って。元気を分けてあげようかなって!!」
「そうですか。それがルーのやり方なのですね??」
「そうだよ!! ってな訳で。お代わり、いきますかぁ!!」
カエデの方へ向けていた顔が此方へ向き、狼のお口をきゅっと上げてしまう。
二度目の襲撃に果たして胃液の噴出を抑えられるかどうか……。
残念ながらその自信は無かった。
「や、止め……。んぶぶっ!?」
「それそれぇ――!!」
眼球、鼻の穴、口……の中は流石に不味いと考えたので必死に閉じて耐えていたのだが。
最早それは風前の灯であった。
黒い鼻頭を鼻にムチュっと当てられ、獣臭と唾液に塗れた舌が口の中に侵入しようと一気呵成に突きつけられてしまう。
あ、やばい。もう……限界かも。
前歯の下に柔らかい舌の感覚を覚えて腹を括った刹那。
「後……。少しぃ……。んびびぃっ!?!?」
「へっ??」
体の上からふっと重みが消え失せた。
何事かと思い、周囲を見渡すと。
「アヂャヂャヂャ!?!?」
背に燃え広がる炎を消そうとして灰色の毛玉が床に転がっていた。
「どうです?? 正気に戻りました??」
「ひ、酷いよ!! カエデちゃん!! 私の毛を焦がすなんて!!」
カ、カエデが助けてくれたのか。
右手の先に深紅の魔法陣を浮かべ、氷の大地も尻尾を巻いて逃げ出す冷たい瞳を浮かべて涙目のルーを見下ろしていた。
「レイドはこれから任務へ赴くのです。しかも、徹夜明けで。それなのにあなたという人は……」
「今は狼だから、正確に言うとちょっと違うね!!」
ルー、カエデの状態を良く見てから発言しろ。
「……は??」
うおっ!? 何!? 今の声!?
内臓が捻り潰されてしまいそうなドスの利いた声が朝靄に包まれて静かな部屋に響く。
「あぁ、はいはい。怒ってるね??」
「それを越えています」
「ま――。レイドもちゃんと起きたし、終わり良ければ総て良しって事で!!」
「難しい言葉を良く知っていますね?? …………。待ちなさい」
尻尾を横にフリフリと振り、何事も無く颯爽とベッドへ向かおうとするルーを引き留めた。
床から生えた鋭い氷柱付きで。
「あっぶな!! 喉に突き刺さったらどうするの!?」
「加減したから大丈夫ですよ。もし、仮に突き刺さったとしても、何んとかするので余計な心配は御無用です」
その何んとかってなんだろう??
ふと妙な疑問が浮かぶ。
「も――。分かったよ。謝ればいいんでしょ?? レイド――!! ごめんね――!!」
「もう金輪際、獣臭を吹きかけてくるのは止めてくれよ??」
「あはは!! 考えておくよ!!」
絶対反省していないだろ。
あの尻尾の揺れ具合で分かるんだよ……。
「大変でしたね??」
ルーから此方へくるりと体の正面を向けて話す。
「まぁ、ね。それよりちょっとだけ水を出して貰えるかな?? 臭過ぎて気分が悪くなりそうなんだ」
「臭くないもん!!」
己のベッドへ戻ったお惚け狼が何やら咆哮するが、それを無視してカエデに懇願した。
「構いませんよ??」
彼女がすっと右手を差し出すと、淡い水色の魔法陣の中から一筋の水が重力に引かれ落ちて行く。
新鮮な水を両手で掬いこれでもかと顔に掛けてやった。
「――――ぷはっ!! はぁ――。目が醒めた」
「はい。どうぞ」
「ん――……」
物言わずとも手拭いを差し出してくれるのが本当にありがたい。
これが察しと思いやりなんだよねぇ。
どこぞの獣とは大違いだよ。
「それで?? 帰りは何時頃になりそうですか??」
俺の正面のベッドにポンっと腰かけ、まだちょっとだけ眠たい顔で話す。
「さっきの話を聞いていたと思うけど。帰りは何時になるか分からない、かな」
「目的を御伺いしても宜しいですか」
あ、言って無かったね。
「特殊作戦課のレナード大佐って人から召集が掛かってるんだ。えぇっと……。ちょっと待ってね」
ベッドの下。
そこに纏めて置いてある荷物へ手を伸ばし、鞄から一通の便箋を取り出してカエデに渡してやった。
「そこに書いてある通り。召集の理由もどんな内容の質疑応答が行われるかも記載されていない。只、今日中に来いってだけ記載されてあるんだ」
「ふむふむ」
便箋から一通の紙を細い手で取り出して興味津々といった感じで読み始める。
「カエデには悪いけど、皆の面倒を頼む」
「構いませんけど。今日の午前中にユウを引取りに行きますので、その間は野放しになってしまいますけど大丈夫ですか??」
手紙から顔をふっと上げて話す。
「野放しって……。まぁ、子供じゃないし大丈夫だと思うけど」
ちらりと深紅の龍へ視線を移す。
「…………ふふがぁ」
おいおい。
この時期に腹出して寝ても君は大丈夫なのかい??
毎度おなじみの姿勢で惰眠を貪る姿にどことなく肩の力が抜けてしまった。
「分かりました。御飯は済ませてきますよね??」
「あ、うん。何時になるか分からないけど」
「昨日の夕食も摂っていないのに……。お疲れですね」
あ――。そっか。
カエデは寝ていたから知らないのか。
「昨日の夕食は摂ったよ?? 結構遅い時間だったけど」
「??」
この人は一体何を言っているんだ?? 一睡もしていなくて頭がヤラれてしまったのかしら??
そんな感じで首を傾げる。
「皆が寝静まった後にさ、夕食を求めて外に出たんだよ。勿論鍵を掛けて出発したから御安心を。んで、どこにしようか迷っていると同期に見つかっちゃってさ――。その勢いで食べて帰って来たんだ」
無意味に額を擦りながら昨晩の状況を報告した。
トアの奴、別れ際に石ぶん投げて来たからなぁ。
跡になっていなければいいけど。
「同期の方はどんな人です??」
「ほら、図書館見たでしょ?? トアだよ。前線で問題を起こしたみたいでさ、謹慎処分を食らって……。ふ……はは。本当、馬鹿な奴。トアがココナッツの看板娘さんを引き連れていたんでそのついでとして食事を共にして。その後、馬鹿みたいに酒を飲んで酔い潰れたトアを宿舎へ送り届けて帰ってきたんだ」
昨晩のやりとりが頭の中に浮かび、陽性な感情が生まれる。
久々に会ったけど、元気そうで良かった。絶賛謹慎処分中だから元気なのは不味いか。
「ふぅん……。そう……」
おやおや?? どうしたのですか??
急にころりと横になっちゃって。しかもこっちに背中向けているし。
「カ、カエデさん?? どうかなさいました??」
彼女の急な変貌ぶりに慌てて声を出す。
「別に。只、二度寝をしようかと考えたんです」
「そ、そう。え――っと……。食費、渡しますね??」
俺がそう話すと。
「……」
無言で左手が上がった。
成程。そこに渡せ、と??
恐る恐る。そしてこれ以上彼女を怒らせない様にたどたどしく手に渡す。
「さ、さぁって。着替えようかなぁ!!」
無意味に陽性な声を出し、壁に掛けられている制服の方へと歩み。
「今日も冷えるだろうし、気を付けて向かわないと怪我しちゃうかも」
さり気なくカエデの表情を窺おうとするが。
「……」
ありゃま、布団の中に潜って行っちゃったよ。
なんで臍を曲げたのかしら??
「…………本当。冷えますわよねぇ」
「アオイは寒いのは苦手だからな」
「そうでございますわ。肌を刺す寒さ、心まで凍てつく風。冬は苦手です」
「アオイの里は蒸すからねぇ。――――所で。上着を着るから退いてくれる??」
天井から糸を伝い、右肩に見事な着地を決めたアオイに言ってやる。
「御断り致します。聞けば、あの忌まわしい地へ出立すると仰るではありませんか。レイド様の妻として危険な場所へ単身向かわせる訳にはいきませんから」
ふんっと息を漏らし……。
いや。
蜘蛛の姿だから良く分からないけど。
何となくそんな感じを醸し出して話す。
「妻と認めていないし、それに。右肩に蜘蛛を乗っけて面談を受ける奴がいると思うか??」
「居ますわよ?? ここに」
「俺は特異な者じゃありませんので。あしからず」
真ん丸お腹を左の指で摘まみ、カエデのベッドの上へ放る。
「あぁ――。愛が遠のきますわぁ――」
おぉ、今日も見事な着地だ。
宙でクルリと一回転。
カエデの頭らしき盛り上がりを見せる布団の上に、八つの足を広げて着地を決めた。
「ってな訳で。行ってきます」
「レイド様。怪我が痛むようでしたら直ぐにでもお帰り下さいまし」
「戦闘を行う訳じゃないから、多分大丈夫だと思うけど……。痛む様だったら直ぐに戻るね」
肩から鞄を掛け、まだまだ眠たそうな扉に手を伸ばして答える。
「いいですか!? レイド様お一人だけの体じゃありませんのよ!?」
「はいはい。じゃっ、慎ましく行動してねぇ――」
「行ってらっしゃいまし――」
前足二本をクワっと掲げ、器用に左右に振りながら見送ってくれた。
あれは一体どうやって動かすんだろう。蜘蛛の足は八本だろ?? 俺達人間の手足は四本。
つまり、四本分足りない訳だ。
足りない部分はどこか違う箇所を動かすのだろうか……。
今度機会があれば聞いてみようっと。
窓から射し込む光が強まり、間も無く開始される午前の知らせが燦々と降り注ぐ通路を面妖な考えを持ちながら進んで行った。
◇
「行ってらっしゃいまし――。…………はぁ。レイド様が行ってしまいましたわ」
彼の逞しい背中が扉の向こう側へ消えてしまうと、私の心の中に寂しい風が静かに吹く。
可能であるのならレイド様に寄り添い、傷ついた手を取って支えてあげたいのに。そんな小さな願いも叶わぬ事に若干の憤りを感じてしまった。
大体、レイド様は無理をし過ぎなのですっ。
アオイが御傍で怪我を癒して差し上げますと申してもやれ仕事やら、やれ御飯の準備やらで時間に追われ治療に割く時間さえもお作り頂けない。
そればかりでは無く!!
レイド様の妻である私に対して、清く正しい夫婦間の時間も作って頂けないのですよ!? 夫婦の契を交わして新しき命をアオイのお腹に宿すべきなのにっ!!
私がどれだけ寂しい思いを抱いているのか……。少しでもいいからアオイの気持ちも汲むべきなのですわっ。
「アオイ、退いて」
憤りが籠った言葉が発せられると同時。
「あらっ。ごめんあそばせ」
布団の中から左手だけが現れ、私を振り払う様にぶんぶんっと左右に揺れ動く。
「もう。そんなに邪険に扱わなくても退きますわよ」
天井へ向かって糸を伸ばし。それを伝って天井に張り付く。
ふむっ、ここからの景色も悪くありませんわね。
「カエデ。ユウを迎えに行くのは何時頃ですか??」
「……。考え中」
あらあらぁ……。レイド様が私達に黙って御友人と食事された事に対してまだむくれているのですねぇ。
私も一目置く聡明な彼女ですが、こういう所はまだまだお子様って感じですわね。
「御安心なさい。レイド様は同期の方に邪な感情を抱いておりませんわよ??」
「……」
「当然。私もあの女には多大な憤りを感じております!! 私の夫であるレイド様を掠め盗ろうとする泥棒猫ですわ!! 忌々しい泥棒猫め……。いつか、私の糸で雁字搦めに拘束し。民衆の前で恥辱を味合わせ……。あら?? 如何なさいました??」
泥棒猫に与えるべき恥辱の姿を考えていると、カエデが布団から目元だけを覗かせて私を見上げた。
「恥辱の姿ってどんな格好??」
ふふ、興味津々といった感じですわねぇ。
「百聞は一見に如かず。一度、御覧になられた方が早いですわ。ルー、ちょっとこちらへ」
「へ?? 何――?? アオイちゃん」
私の声に反応した一頭の獣がベッドから飛び降り、こちらへ向かって大きな体を揺らしながら歩いて来る。
「人の姿に変われますか??」
「うん?? ほ――い。これでいいよね??」
一頭の狼から光が迸りそれが止むと、一人の女性が光の中から現れた。
お馬鹿さんの身長、体重、そして胸囲。幾つもの要素を混ぜ合わせて彼女が決して素手では千切れない糸の強度の数値を割り出す。
ふむっ、決まりましたわ。
服を着ている事が少し残念ですけど、この際致し方ありませんわね。
「んふふ……。ちょ――っときついですけど。我慢なさって??」
天井から魔力を練り合わせた強力な撚糸を彼女へ向かって放射。
「はい?? きゃあぁっ!? ちょ、ちょっとアオイちゃん!? 何するの!!」
瞬き一つの間に両手、両足を絡め取って天井に吊るしてあげた。
「カエデが恥辱の姿を見てみたいと仰ったので。その姿になって貰おうかと考えているのですわ」
「ち、恥辱って何!?」
「大変恥ずかしいと思う事ですわ。さて、身動きが取れなくなったところで……。その姿を御披露目して頂きましょうか」
「ちょ、ちょ、ちょっとぉ!! やぁ――――っ!! 足を広げないでぇ!!」
器用に糸を動かして膝を僅かに曲げさせ、敢えて遅々とした動作で股を広げてやる。
ふぅむ、悪くは無いですが……。
「少し、足りない??」
どうやらカエデも私と同じ意見を持ったようで??
微かに頬が染まったルーの顔を見て何やら物足りなさを感じていた。
「えぇ。もっと顔を赤らめて貰いたいのですが……」
「十分恥ずかしいよぉ!! 早く糸を解いてっ!!」
糸の拘束を解こうとして無意味暴れてしまい拘束が緩んでしまう。
「その五月蠅い口は閉じて頂きましょうか」
「え?? ングッ!? ン――――ッ!!」
ま、まぁ!! 良いではりあませんか!!
猿轡をされた口の端から凌辱に耐えようとする嬌声が漏れ、恥部を晒した羞恥によって頬を真っ赤に染める。そして目に浮かぶ少しばかり涙が好印象ですわっ。
「うん。大分良くなった」
「ですわよね?? さ、て。お次は……。――――こう??」
「ンン――っ!!」
股を開いたまま両足を天高くピンっと伸ばす。
臀部と秘所が同時に露わになるので羞恥心を刺激するとは思うのですけど……。
四肢を器用に動かして暴れる様が雰囲気を台無しにしてしまう。
「両手を後ろに」
「カふぇでふぁん!?!?」
「その手がありましたわね!!」
両腕を背後で拘束すると……。
「ふぅむ……。糸に捕らわれ唯一動かせるのは己の瞼のみ。相手に行動を全て任せるこの姿勢。――――悪くありませんわ!!」
「ふぁなしてぇ!! だいふぁい!! 私、ふぁるい事してふぁいもん!!」
まぁ――、この子ったら。
いつまで白を切るつもりなんでしょうねぇ??
「ルー。レイド様にした行為。お忘れかしら??」
「ふぁ――。顔なめふぁらす??」
「左様で御座いますわ」
「ふぁのしかったふぉ!!」
そういう事では無いのですがねぇ。
「いいですか?? レイド様はお疲れであり、しかも御怪我をなさっています。それなのにあなたは……。うん?? どうかなさいました?? リューヴ」
今まで眠っていたのか。それとも静観しようと決めていたのか。
身動き一つ取らなかったリューヴが狼の姿で糸に吊るされたルーの下へと歩んで行く。
「アオイ」
「何でしょう??」
「こいつの体を逆さまに出来るか??」
んふっ、どうやらリューヴもこちら側の様ですわねぇ。
「勿論。可能ですわ」
「ふゅー!! いらふぁい事いふぁ……。ンンンッ――――!!」
拘束されたままの姿勢で逆さまになると一層苦しい声が糸の隙間から滲む。
女性特有の丸みを帯びた臀部が強調されてより強烈に恥辱の姿が輝きますわっ!!
「黙って見ていれば主の顔を舐め回し。しかも、カエデの言う事も話半分にしか聞かない。貴様はその姿勢で反省してろ」
「ふぃどい!!」
「酷く無い!!」
「フャン!!」
剥き出しになった臀部を前足でピシャリと叩くとベッドへと戻って行く。
今の炸裂音……。かなり効いたらしいですわね。
「ふぃたいよ――……」
与えられた痛みによって懺悔の雫が床へポトリと一滴静かに垂れていった。
「あら?? お仕置きはもうお終いですか??」
「あぁ、腹を立てたら疲れた。もうひと眠りする」
なんと勿体無い、これからが楽しい所ですのにぃ。
「あぁ……そうだ。アオイ。ルーの視界も奪ってやれ。そうすれば大人しくなるだろう」
「ふぁめてよ!! ふぁたしもおふぉるよ!!」
「「…………。怒る??」」
私とカエデの嗜虐心を含めた鋭い視線を理解したのか。
「ッ!?」
ルーの顔がさっと青ざめた。
「では……。漆黒の闇へご招待しましょう……」
一度付着したら決して剥せぬ粘度の高い糸を錬成。
懸命にフルフルと顔を横に振るお馬鹿さんの目元へ向かって放射してあげた。
「ふぃや――――!!!!」
あはは!! 蜘蛛は狡猾な生き物なのですわよ!?
レイド様が居ない今!! 貴女にはこの世に生まれた事を後悔してしまう程の恥辱を与えて差し上げましょう!!!!
――――。
「…………。んがっ!?」
私の心地良い眠りを妨げてしまった女の悲鳴を受けてがばっと体を起こすと……。
「ふぁすふぇれ!! もうしふぁせんふぁら!!」
「あはは!! 素晴らしい眺めですわぁ!! ありとあらゆる女性の恥ずかしい部分を惜しげもなく晒し出し、恥辱に顔を歪める姿がなんと滑稽かぁ!!」
蜘蛛が人の姿のルーを糸で拘束してしっちゃかめっちゃかな姿にしていた。
この場面を普通の人間が見たら一匹の蜘蛛がうら若き女性を捕食しようとしている姿に見えるだろうなぁ。
あぁ、きっしょ。
「もっとキツク拘束して。これじゃ全然駄目」
カエデが蜘蛛の隣にいるって事は……。
まぁ、あいつが何かやらかしたのだろう。
「ねぇ、リューヴ。ルーの奴、何かやったの??」
ベッドの上で心地良さそうに丸まりながらも、若干不機嫌そうな雰囲気を醸し出す強面狼に問う。
「早朝。主の顔を舐めまわしたんだ」
あっ、はいはい。そういう事ね。
「そのふぉえは!! まいふぁん!! たすふぇふぇ!!」
「あんたまた訳の分からない事したんでしょ?? 安心なさい。ここには女しかいないし。それに、あんたの尻を見て喜ぶ奴もいないから」
「あんふぃんのいみふぁちふぁう!!」
そうだっけ??
まぁいいや、まだ朝も早いし。
もう少し寝よ――っと。
「たふふぇて!! ふぉうなめふぁいから――!!!!」
お惚け狼の悲痛な叫びが部屋を駆け巡り。
「う、うふふっ。穴という穴から懺悔の雫を零すまではけぇぇっして拘束は解きませんわよ??」
それを聞いて昂るきしょい蜘蛛。
「成程……。人の辱めるのには恥部を曝け出して拘束すればよいのですか。勉強になりますっ」
片や妙に興奮している海竜は蜘蛛の熱心な姿勢制御に興味津々といった感じで頷き。
「ふぉ、ふぉうだふぇ――……。くるふぃくて起きていられふぁい……」
お惚け狼が襲い掛かる恥辱に観念すると、漸く強力な糸の拘束が解除。
懺悔の涙と形容し難いナニかの液体でびちゃびちゃになった床の上で彼女は麻痺性の毒を食らったかの様に口から小さな泡を吐いて細かい痙攣を続けていたのだった。
お疲れ様でした。
本文内で記載した同期との食事。実は番外編にて彼の同期である彼女の登場も予定しています。
彼が何故石を投げられたのか、番外編にて判明しますので番外編投稿まで今暫くお待ち下さいませ。
さて!! 先週は色々ありましたので疲労の蓄積からか。まだまだ眠り足りないのでお昼まで二度寝をします!!
その後は洗車、掃除洗濯その他諸々。忙しい家事が待ち構えていているのですよねぇ……。
そして、いいねをして頂き有難う御座いました!!
いつも応援して頂き、本当に嬉しいです!!
それでは皆様、引き続き良い休日を過ごして下さいね。




