最古の悪魔との盟約
たった一人取り残された通路の中で俺の情けない嗚咽音と激情に塗れた激しい呼吸音が響く。
呼吸が熱い……。胸が締め付けられる様に痛い……。
失われゆく命を前にして俺は一体何をしているのだろう。
抗う事を止め、考える事を止め、剰え無力な自分に打ちのめされて。
憎い……。本当に、自分が憎い!!!!
自分自身を絞め殺してやりたい気分だ!!
あぁ、畜生……。俺は大切な友人を守れない程に弱い奴だったのか。
誰か、誰か彼女の温かい命を救う手立てを教えてくれ。
その為なら命だろうが、魂だろうが何でもくれてやる。
絶望を超える巨大な失望が重く体に圧し掛かる中、心臓が荒々しく跳ねる音が通路内にこだました。
『あはは――!! 今の言葉、本当かなぁ!?』
――――。
あぁ、嘘偽りは無い。
頭の中に響く声に答えてやる。
『へぇ!! 凄い執念だねぇ。そんなに彼女の事が大事なの??』
当たり前だ。
ユウを救えるのなら俺はこの世から消え去っても構わない。
『う――ん……。命の価値を量るのなら、死にかけのその子よりもレイド君の方がうぅんと価値があるんだけど??』
それはお前の主観だ。
俺は……。俺は!! ユウを救いたいだけなんだ!!!!
あぁ、くそ!! 憎い!! 憎いぃぃいい!! 己の弱さが憎い!!
何も出来ない自分を殺してやりたい!!
『レイド君の魂が黒き感情に塗り潰されていくこの感じっ。堪らないねっ!! そんなに彼女を救う力が欲しいの??』
『欲しい』
『レイド君の体。耐えられないかもしれないけどぉ?? それでもいいのぉ??』
『さっさと寄越せ』
『も――、怖いなぁ。折角私が素敵な力を与えてあげようかなぁって考えているのに。でも、いいよ!! じゃあ、私の手に触れて??』
暗い闇の中から禍々しい甲殻に包まれた黒き龍の腕が伸びて来る。
俺は何の躊躇いもなくその希望の光へと手を伸ばした。
『…………。後悔、しないよね??』
『あぁ、ユウを助けられるなら。この体、どうなってもいい』
『んふふっ――!! いい感情だねぇ。さぁ……。一緒に暴れようよ!! そしてこの世に最古の悪魔が復活した事を知らせてやろう!!!!』
「ウグググ…………。ギィィィヤアアァァァア――ッ!!!!!!」
漆黒の魔力の鼓動が体から溢れ出て周囲の闇を覆い尽くす。
薄れ行く意識の中。
冷たくなったユウの寝顔を見つめると俺はたった一つの願いを叶える為に立ち上がった。
ゼ、ったい。
ユ、うを……。救うンダ。
世界中の理を壊してでも叶えたい、たった一つの小さな願いを成就させる為。
この世の摂理を超える力を携え糞忌々しい壁へと立ち向かって行った。




