第五十四話 狐の里へ、お邪魔します その二
引き続きの投稿になります!!
少々御話しが長くなってしまったので、区切らせて頂きました。
それでは、どうぞ!!
人の文明の残り香である侘しく廃れた街道から外れ、自然豊かな道なき道を進む。
進行方向からしてどうやらギト山麓に広く広がる森へと向かっているのですが……。
「あ、あの。モアさん」
「はい?? 何でしょう??」
野菜でこんもりと膨れた籠を背負いつつ此方に振り返る。
「このままですと、あの森に入ってしまいますが……」
人々からは迷いの森と呼ばれ、立ち入り禁止区域に指定されている場所だ。
迷いの森と呼ばれる所以は文字通り。森の中で迷ってしまうから。それは誰にでも理解出来るであろう。
しかし。
問題なのは、どうして森の中で迷ってしまうのか。
その理由なのですよ。
「我々の里は森を抜け、山の麓に広がる平地にありますので御安心して下さい」
入ったら必ず迷う森の中でも道案内は可能なのだろうか??
甚だ疑問が残ります。
此方の心配を他所に明るい足取りで進む彼女の背を追い続けていると、件の森に到着してしまった。
う……む。
何処からどう見ても普遍的な森ですね。
「では、皆さん。私からはぐれぬ様、後ろを付いて歩いて下さいね」
「「はぁ――い」」
もう少しシャキっとした声で返事をしなさい。
マイとユウの気の抜けた声を受け、モアさんが再び進み出した。
森に足を踏み入れた刹那。
頭の天辺から爪先へと形容し難い何かが抜けて行った。
「うおっ!?」
な、なんだ!?
今の感覚。
「ふ、む。成程……」
「カエデ、何か感じたの??」
何処か満足気な表情を浮かべている彼女に問う。
「この付近に方向感覚を狂わせる力が宿っていますね」
「え?? 森自体にそんな力が備わっているって事??」
「いいえ。正確に言えば、誰かがこの森にその様な魔法を設置した。と言えばいいでしょうか。只、それは森の入り口付近に限定されています。足を踏み入れた瞬間、人体に影響を及ぼすのです」
「大丈夫なの?? 私達」
相も変わらずユウの頭の上に乗っかる龍が話す。
「えぇ、大丈夫ですよ。魔物、若しくは強い力を持っている者であれば影響はほぼありません」
ほぼ、って事は多少なりにも影響を受ける訳だ。
モアさんの背中から視線を外さないでおこう。
今も楽し気に揺れ動く野菜達に向かって話しかけた。
「この森を抜けるのにどれ位の時間がかかりますか??」
ワラビにゼンマイ等山菜類があれば、丸みが美しい春キャベツもある。
目立つ赤のトマトさんに。
そして、新じゃがに新牛蒡と大地の恵みを受けた根菜さん達が元気良く俺に手を振ってくれていた。
ほぉ……。
これまたどれも美味しそうな野菜ですねぇ。
「山を広く囲ってはいますが、深くありません。三十分もあれば抜けますよ」
「成程。それを聞いて安心…………」
う……ん??
何か変な色が混ざっていないか??
籠の中の野菜達に視線を送っていると、妙な気配を感じてしまった。
見間違い、かしら??
シパシパと瞬きを繰り返し、目頭をぎゅっと抑えて再び注視すると。
「…………」
え!?
何、あれ!?
真っ赤なトマトさんの合間に妙な色の物体が混ざっていた。
あれを例えるのなら……。黒と黄色が交互に入り混じった縞々のトマト擬き、か。
しかし……。
あんな色の野菜は世の中に存在しない筈。
自家菜園で採れた。つまり、あの野菜達はモアさんが御作りなられた物。
と言う事はですよ??
あのトマト擬きもモアさんが……。
「どうされましたか??」
「へ!? あ、いや。別に……」
そこまで話すと、再び言葉を切ってしまった。
後方で楽しそうに日常会話を続ける彼女達に気付かれぬ様、物凄く速い腕の動きでトマト擬きを右手に取り。
あっと言う間に懐に仕舞ってしまったからだ。
な、何ですか?? 今の所作は……。
そして……。ソレは見られたら不味い物なのでしょうか。
「えっと。モアさん、今何か手に取りましたよね??」
恐る恐る問うてみる。
「いいえ?? 気の所為デスよ」
そう話すと、横目で此方をチラリと伺う。
「っ!?」
弧を描く柔和な目元なのですが。
薄っすらと覗く瞳には生気が宿っておらず。その生気が消失した瞳はこう言っていた。
『何も言うな。口に出したら……。な??』
「そ、そうですよねぇ――!! いやぁ――!! ふぅ!! 今日も暑いな――!!」
「初夏ですからねぇ」
こういう時は何も見なかった事にしよう!!
うん、それが一番さ!!
倒れている倒木に躓かない様にそれを跨ぎ、跨いだ衝撃で冷たい汗が頬を伝い落ちて行きますが一切気にしません!!
落ち着かない心を宥め、それを体現するかのように視線を忙しなく動かしていると。
「皆さん、森を抜けますよ」
モアさんの声を受けると同時に、森の向こう側に明るい光を捉えた。
そして、森を抜けると……。
「ほぉ――」
太った雀が第一声を放った。
森から抜け、先ず視界が捉えたのは左右に広がる美しい草原だ。
山から降り注ぐちょっとだけ強い風に草がさぁっと揺れ、肌に纏わり付く鬱陶しい汗を乾かしてくれる。
ユウの里も、そしてアオイの里も自然に囲まれて素敵な場所なのだが。
此処も風光明媚な場所であると体が自ずと理解してしまった。
そして、堂々と聳え立つ山の姿を有難く見つめつつ歩いて行くと。
「到着しました。此処が狐の里ですよ」
此方から一直線に伸びた道の先の左右に存在する多くの家屋。
家屋の前には人の姿をした狐さん達が明るい笑い声と共に各々が素敵な時間を楽しんでいる。
只、狐の里と呼ばれているのに件の狐さんが一頭も見当たらないのは何処か不思議な感覚を覚えますね。
そんな俺の下らない思考を汲んでくれたのか。
モフモフの尻尾が二つもある狐さんが此方に向かって駆けて来た。
「モアさん、お帰りなさい!!」
「「狐だ!!!!」」
マイとユウが口を揃えて、声色からして女性であろう狐さんを迎えた。
そりゃあ狐だから、狐と叫びたくなる気持ちは分かりますけども。
もうちょっと真面な声で迎えなさいよ。
「只今戻りました。レイドさん、厩舎は里の入り口にあります。そこでお馬さんを休ませてあげて下さい。彼女が係の者ですので」
「ウマ子。申し訳無いけど休んでてくれるか??」
『分かった』
「では、此方へ案内しますね。んしょっと……」
二対の尻尾を持つ狐さんの体から光が放たれると。
此方の予想通り、女性の姿が光の中から現れた。
「「人だ……」」
今度は残念感が満載された声でマイとユウが口を揃えて話す。
物珍しくない者に対して、辛辣ではないですかね??
ウマ子から荷物を下ろし、一纏めにして背負うと。狐の里へとお邪魔した。
「「…………」」
普遍的な家屋が立ち並ぶ左右から、珍妙な者を見る様な瞳を浴びせ続けられると思いきや。
「こんにちは――」
明るい会釈を交わしてくれる人も多々居る。
第一印象としては、悪くない印象を受けますね。
まぁ、他所の者の俺達を迎えてくれるだけでも有難いと思わなきゃね。
少々気まずい足取りで山の麓へと向かって行くと。
「モア、お帰り!!」
「ただいま」
一人の女性が軽快な足取りでモアさんを迎えた。
黒く長い髪に整った鼻筋が目立ち。
狐さんっぽい若干の釣り目で彼女を見つめ、モアさん同様の服装に身を包む。
やれこの野菜が上手く出来た。
やれ今度は失敗だとか。
随分と親しく会話をされていますが、親しい間柄なのだろうか??
「皆さん、此方は私の双子の姉妹のメアと申します」
「宜しくな!!」
成程、姉妹だからか。
モアさんのお淑やかな性格と違い、メアさんはどちらかと言えば陽気な性格ですね。
「おぉ!! 美味そうな新じゃが!!」
「今晩のおかずに出そうかと考えているの。どんな料理方法にしようか。迷ってしまいますよね」
「アオイ。あの人達の服装って分かる??」
里の奥へと向かい、散歩気分の歩調で進み始めた二人の後を追い。
右隣りに並んで歩くアオイに尋ねてみた。
「あれは浴衣と呼ばれる物ですわね」
「ふぅん。浴衣、ね」
初めて聞くな。
「着物と浴衣の大まかな違いは長襦袢を着るか着ないかの違いになりますわね。ほら、これが長襦袢で御座いますわよ??」
いや、御免なさい。
開いた胸元の一片を指しますけども、その……。盛り上がった双丘の谷間が見えてしまいますので直視出来ません。
「では、皆さんを里に迎える前に。里を治める者の所へご案内致します」
「モアさん、その御方はどちらに居られますか??」
余所者である俺達が、我が物顔で跋扈していたら恐らく里を治める者も驚かれるだろう。
お邪魔させて頂く挨拶を交わさないと失礼に値する。至極当然の行為さ。
この里の何処かに居るのだろうか??
「あそこですよ」
ん??
あそこ??
彼女が間近に迫った聳える山の中腹を指す。
「山に住んで居られるのですか??」
こんにちは、と。
すれ違い様、挨拶を交わして頂いた里の御方へと一瞥を送りつつ話す。
「そうだよ――。めっちゃくちゃ強いからな!! 粗相の無い様に!!」
メアさんが笑みを浮かべて、俺に釘を刺すのですが……。
刺す相手を間違えています。
此方では無く、後ろの方ですよ。
「ねぇ――。御飯まだぁ――」
そうそう。
今、失礼な言葉を発した人です。
「安心しなよ。飯ならたぁぁっぷり食わせてやるから!!」
「本当!? あ、まだ私達の名前伝えていなかったわね。私の名前はマイよ!! んで、こっちで里の皆の視線を集めてしまっている馬鹿げた胸の持ち主はユウって名前ね」
「自己紹介の代わりをしてくれてありがとうよ。只、馬鹿は余分だ」
「いでぇっ!! 何すんのよ!!」
「ははは!!!! 楽しい連中だな!!」
早速邂逅を遂げて頂き、光栄です。
こういう事に関して、あの二人の右に出る者はいませんでしょう。
互いに軽い自己紹介を終え。
馨しい大地の香りを堪能していると、山の中腹へと続くとぉぉっても長い階段が見えて来た。
石造りで若干綻びが見えるそれは長い時を過ごした証拠。
階段の日陰には苔が生え、それが情緒溢れる雰囲気を醸し出す。
うん。素敵な階段です。
ですが……。
問題はそこでは無い。
「あの、これを今から登るのですか??」
そう只、この一点に尽きるのです。
きゅぅっと目を細め、遥か彼方の石段を注視するも。
全く、先が見えん。
「そうですよ??」
何を今更??
そんな風にモアさんが此方へと振り返る。
「私とメアはこの先に居られる方の食事の世話を受け持っています。毎日ここを登っているんですよ??」
「は、はぁ……」
毎日、ね。
良い方向に考えると、体力が付きそうだ。
「では、登りましょうか。私とメアが先に登りますので後を追って来て下さい」
「お先――!!」
そう話すと同時に、ひょいひょいっと。
まるでここが平地であるかと此方に錯覚させる足取りで登って行ってしまった。
「皆……。行こうか」
さぁ、腹を括りましょう。
覚悟を決め、決意に満ちた声色で振り返ると。
『えぇぇぇ。これ、登るのぉ??』
と、皆一様に呆れ顔を浮かべていた。
「挨拶を交わさないと駄目だからね!! お先っ!!」
此処で油を売っていても始まらん!!
それに……。
あんな細い女の子達が易々と登って行くのだ。
終わりが見えないけども、そう長くは無いでしょう。
里を統べる者が待つ地へ。
とぉっても長い石造りの階段に記念すべき第一歩を乗せ、終わりの見えない足の上下運動の始まりの鐘が鳴り響いた。
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