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第百四十五話 掃討作戦開始 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿なります。


それでは御覧下さい。




 くっそぅ!! あのボケナスめぇ。


 別れ際まで私を存外に扱いやがってぇ!!


 向こうの班から別れ、随分と静かになった坑道内をこれでもかと憤怒を撒き散らしながら進んでやる。


 まぁ。


 投げ飛ばしたのは百歩……ううん。千歩譲って私が悪いとしよう。


 例えそうだとしてもだよ?? あの馬鹿を懲らしめたい、この苛立つ気持ちは万人に理解して貰える筈。


 だって酷いじゃん?? 私の事、飢えた野獣みたいな言い方するんだし。


 飢えた野獣……か。


 あり?? 意外と当たってるかも。



「どうした。マイ」


「え?? あ――。いや、ね。ほら、坑道に入る前さ。あの馬鹿が私の事を小馬鹿にしたじゃん?? それを思い返していて、腹が立ってきたのよ」



 私の隣を静かに歩くリューヴへ話してやると。



「そうか」



 一つ小さく頷くと再び前を向いた。


 そして私の直ぐ後ろには聞いていて心配になる足音を響かせているカエデが続く。



 う――む。よくよく考えたらこっちの班って……。


 口喧しい連中がいないじゃない。


 あっちと別れて数十分だってのにユウの快活な笑みとルーの能天気さがもう恋しい。



「ね、ねぇ!! そろそろおにぎり、食べない??」



 周囲はカエデの明かりによって照らされているとはいえ暗闇が大半を占める。


 気分もどこか沈みがちになってきたので場の雰囲気を変えようと努めて明るい声で話す。


 分隊の士気を保つのも隊長である私の役目なのだ。



「まだ早いです」


「あぁ。それに、腹は空いていない」


「「……」」



 会話、終――了――。


 再び無言の御遊戯が開催されると、三名の足音とどこからともなく響く水が滴り落ちる環境音が私の耳を退屈にさせた。



「退屈――。リューヴ――。面白い話してよ」

「断る」



 ちぃっ。顔も性格も御堅い狼め。



「カエデ――」


「最近、面白い本を購入したのですよ。その話で宜しければ」



 おぉっ!! いいじゃん!!



「何々!? 聞かせてよ!!」



 笑みを浮かべて後ろへ振り返る。



「売れ筋の本でして、ちょっと季節外れな内容が功を奏したのかも知れませんねぇ」



 にぃっと口の端を上げて笑う。


 カエデにしては恐ろしい笑みにどこか不安な気持ちが湧いてしまった。



「季節外れ?? どういう事??」


「まぁ、聞けば分かりますよ」



 左様ですか。




「オホンっ。…………。青年は何かから逃げ出す様に暗闇の中を我武者羅に駆けていた。口からは汚れた液体を零し、肺が張り裂けそうな痛みが襲っても彼は足を止めなかった」



 はい。嫌な予感的中。



「ちょ、ちょぉっといいかしら??」



 得意気に物語を話そうとするカエデの腰を折ってやる。



「何です??」


「その本の題名、教えてくれる??」



「題名ですか?? 『あなたに贈る初冬の恐怖百選』 ですけど??」


「「却下!!!!」」



 リューヴと見事に声を合わせて叫んでやった。



「面白いのに……。まだ半分も読み終えていませんが。短編が百話も続くのです。私の好きな作家さんも参加していまして……。これがまた……」



 ふふっと可愛い笑みを浮かべて話す姿がまた愛苦しい。


 私が男ならこの笑みを籠に閉じ込めてお持ち帰りしてしまうだろうよ。



「怖い話以外でなんか無いの――??」




「では、こういうのは如何です?? …………。一人の若い女性がセンリョウの枝先に群がる真っ赤な果実をじっくりと見つめていると、半袖の青年が何処かへと急いで駆けて行くのを見かけました。何をそんなに急いでいるのだ。そんな思いでセンリョウの実と遜色無い青年の背を見送りました」




 ふぅん。さっきよりはマシなようね。


 ってかセンリョウって何??


 食い物の名前?? それとも花の名前??




「シャラの木の白い花がぽとりと、花弁ごと落ち行く様に見惚れていると。厚い革の上着を着こんだ中年の女性が、随分と前に見たあの青年と同じ場所へ向かって静かに歩いて行きます。シャラの木の可憐な花にも見劣らない顔色を浮かべて。あそこを通る者は、一体どこへ向かっているのだろうと。女性は不思議に思いつつも花を愛でる事に力を注ぐのでした。…………。お終い」



「は?? もうお終い?? オチは??」


「もう話しましたよ??」



 へ??


 どういう事??



「よぉぉく、話を聞いていれば分かりますから」


「聞いてたわよ?? 綺麗な花を愛でる女性と、その脇を通る人達でしょ??」



 うん。


 間違っていない、筈。



「カエデ……。その者はひょっとしたら……。そういう事なのか??」


「世の中にはそういう人もいるみたいですよ。あくまでも創作の中の話ですけどね」



 リューヴは何かを理解したのか。


 目の端をピクピクさせ、若干上擦った口調でそう話す。



「何?? リューヴは今の話、理解出来たの??」


「あ、あぁ。出来てしまった……」


「はぁっ?? 私、ぜんっぜん理解出来ないんだけど!!」



 奥歯に何かが挟まって気持ち悪い感情が心を侵食していく。


 リューヴには理解出来て、どうして私は理解出来ないんだ!!



「それは兎も角。皆さんには一つ謝っておきたい事があります」



 世界最高の頭脳を駆使して思考を繰り広げていると、カエデがぽつりと言葉を漏らした。



「どうしたのだ??」


「こちらの道を選んだ理由は……。この奥に強力な魔力を感じたからです」



「……ふっ。そういう事か」



 あぁ。


 ボケナス達をこっちに向かわせたく無かったのか。



「あのね?? アイツをあんまり甘やかすのは了承出来ないわよ??」


「分かっています。しかし……何んと言いますか。強大な魔力同士が衝突して脱出不可能に陥ってしまう事を考慮してしまうと……」



 相変わらず甘ちゃんねぇ。



「私達は空間転移でどうとでもなりますが、向こうは……」


「そういう気遣いは無用。アイツらはカエデが思っている以上に頑丈且、強い。金輪際、甘やかすのは止めなさい」


「分かりました。そうします」



 きっと、こちらの道を選んだ大半の理由はボケナスの事を想ってであろう。


 龍の契約の暴走。それが気掛かりな筈。


 全く……。世話が焼けるわねぇ。



「私は今の一声を聞いてやる気が出て来たぞ。この先に強力な力を持った者がいるのだろう??」



 にぃっと嬉し気な笑みを浮かべ、先の見えぬ闇を見つめる。



「リューヴ。暴れるのは構わない……、構わなきゃ駄目か。暴れるのは程々にしなさいよ?? 落石を受けたらあんたでも倒れてしまうかもしれないし」


「ふふっ、安心しろ。向こうが暴れぬ様、確実に息の音を止める技を仕掛けてやる……」



 おっそろしい笑みねぇ。コイツが不必要に暴れない様に私が監視の目を光らせておかないと。


 隊長ってのは本当に色々とやる事があって大変だわ。



「カエデ」


「何です??」



 私の声を受けると愛苦しく小首を傾げる。



「さっきの話。どういう意味か教えてよ」



 奥歯に物が挟まる、そんな気持ち悪い気持ちのまま戦闘をおっぱじめたくないし。



「一つ、助言を申しましょうか」


「助言??」



「センリョウの実は冬に赤い実を結びます。そして、シャラの木は夏に。それはもう大変美しい白色の花弁を私達に見せてくれるのですよ」



 花の名前を言われても姿が出て来ないのが癪だ。


 私は花を愛でるよりも食に没頭していた方が好ましいし……。



「ふぅん。…………で??」


「助言は以上です」


「はぁ?? もう??」


「後は、前後の文を咀嚼すれば分かりますよ」



 前後って言ってもねぇ。


 確か……。


 センリョウって実を見つめていたら青年がどこかへと向かって行ったのよね??


 それで、シャラの木の花を見つめていた時もそうだった。


 えぇっとぉ。


 それでぇ……。そうそう!!


 服装にも触れていたっけ。



 センリョウの実の時は半袖で、シャラの木の花の時は厚い革。



 ……………………。


 ぬうっ!?


 季節にそぐわない服装じゃない。


 それと、外見にもちょっと触れていた。


 センリョウの実と遜色ない背、そしてシャラの木の花にも見劣らない顔色。


 つまり、赤と白って訳ね。


 赤と白。



 …………っ!!!!




「……………………。カエデ」


「何です??」


「あんたねぇ。よくもまぁこんな話を思いつくわね」


「分かればちょっと怖いですよね??」



 私が感じている恐怖を素敵な笑みが少しだけ和らげてくれた。



「大体!! その女も何で何も理解出来ていないのよ!! おかしいじゃない!! 季節とあべこべの服装着ていたら!!」


「実話ではありませんよ?? 創作ですよ、創作」


「分かってるけどぉ……。ん――……。幽霊、ねぇ……」



 本物の幽霊に会った事がないので、そいつらがどんな存在か理解に及ばないから恐ろしく感じるのだろうか??


 ボケナス達と向かった幽霊屋敷で会ったのは魂だったし。



「マイ。その手の話は止めろ」



 右隣りから憤りの声が漏れる。



「そう言えばあんたもこういう類苦手だったわね」


「苦手では無い。得意では無いのだ」



 どっちも一緒でしょ。


 真っ赤な背の青年と、顔面蒼白の女性の姿を思い描いていると……。



「ぎゃっぴぃい!?」

「うわっ!?」



 首筋にひんやりと冷たい水滴が襲い掛かった。


 こ、こんなの。奇声を出すなって方が無理ってもんでしょ!!!!



「どうしたのですか?? 二人共」


「く、首に水が……」


「あ、あぁ……。べ、別に驚いた訳じゃないぞ!? 冷たかっただけだからな!!」


「そう、ですか。急に声を出したから驚きましたよ」



 眉をぎゅうっと顰めてカエデが話す。


 くっそう。


 二人同時に水滴に襲われるなんて。


 偶然にしては出来過ぎでしょ。


 びっくりして止めてしまった足を再び動かして前の闇へと進む。


 しかし。


 二度あることは三度ある、と言われる様にまたもや私達は水滴の餌食になってしまった。



「ばあっらんど!?!?」

「ひゃぁっ!!!!」



 リューヴさん?? 随分と可愛い悲鳴ですわね??


 それに比べて私の奇声、きっしょ……。咄嗟に出る声をもうちょっと可愛らしくする練習でもしようかしらね。



「つめたっ!! ちょっと!! この天井どうなってんのよ!!」



 天井をキッと睨むがそこには岩肌さんが大変申し訳なさそうな顔を浮かべて、口をムッと紡ぎ無言で私達を見下ろしているだけ。


 水滴が溜まるような突起も見られないし……。



「ま、た水滴ですか??」


「そうよ!!!! ったく!! こっちの心情を理解してるのかぁ!? このクソ天井は!!」


「怒りの矛、先が違いますよ。岩に感、情を露呈しても意味はありません」



 あんっ?? カエデちゃんよ。区切り方、おかしくね??



「分かってるわよ!! …………んん?? カエデちゃあん?? その眉の動きぃ。どういう事かなぁ??」



 話の区切り方に不自然さを覚え、カエデの方へ振り返ると。


 溢れ出す笑いを堪えているあの眉の動きを見つけてしまった。


 水滴がこうも的確に首筋へと落ちる訳が無い。


 しかも、二度も。



「眉?? いつも通りですけど??」



 ちぃっ。白を切る気か!!



「ほぉん。今正直に言えば、擽りの刑は勘弁してあげるわ」



 堂々と腕を組んで話す。



「ふふっ。申し訳ありません。ちょっと場を和ませようと二人に悪戯を仕掛けました」



 ペロっと舌を出す姿がまぁ可愛い事で。



「だとさ、リューヴ」


「一度ならまだしも、二度は……な」



 へぇ!! 珍しいじゃない。


 私の悪戯に乗る気だ。



「な、何ですか?? 二人共」


 にじり寄る私達から後退りして話す。


「さっき擽りの刑は許すと言ったわね??」


「えぇ。その様に伺いました」



「――――。あれは嘘だ」


「え?? きゃあっ!?」



 風を纏ってカエデの背後に回り込むと、大変貧弱な両腕をがっしりと拘束。


 そして、もう一人の女性が指を鳴らしながら一歩ずつ確実にこちらへと歩んで来た。


 その姿はさながら刑の執行人ね。



「カエデ。私が幼い頃、里ではな?? 私も色々としたものだ」


「そ、そうなのですか。マイ、放して下さい」


「嫌よ」



「ルーが父上の稽古を良くさぼってな?? 折檻の為に、と。母上と共に奴の脇腹を擦ってやったものだ」



 ワキワキと十の指が有り得ない速さで動き回る。


 うへぇ、擽ったそう。




「や、やめるべきだと思います」


「ほう?? マイ」


「仕方が無いわねぇ。許してあげ…………。なぁんて言う訳ないでしょうがぁ!! リューヴ!! やっておしまい!!」


「了承した。覚悟しろ、私の指に敵う者はいないからな!!」


「や、やだ……。やめ……。アハハハッ!!!!」



 有り得ない指の動きが細い体を蹂躙する。


 程よくポニポニと育ってしまった憎たらしい乳房から腹へ伝えば、腹から内太腿へ。そして果ては脇へ。


 的確に人体の急所を攻める動きに思わず固唾を飲んでしまった。



 え、えっぐぅ……。


 これは罰というよりも拷問じゃん……。



「アハハ!! やめてぇ!! お腹壊れちゃいます!!」



 カエデが大声上げて笑うのって珍しいわよね。


 それだけ擽ったいって事か。



「わ、わ、笑い死に……アハハ!! 死んじゃいます!!」


「ふぅ……。こんなものか」


「えぇ。今日のところはこれ位で勘弁してあげるわ」


「はぁっ……。はぁっ……」



 力が消失した体がくたぁっと地面にへたり込み、蒸気した頬が艶を帯びる。


 う、うぅむ。いろっぺぇ。



「へ、下手な魔法より強力です、ね」



 生まれたての小鹿みたいに足を振るわせて立つ。



「通常なら今の擽りが三十分以上続くんだ。ルーもこれが恐ろしくて暫くの間は大人しく稽古に顔を出したものさ」


「暫くって事は。忘れた頃にさぼったのね??」



 ルーらしいわねぇ。



「奴の頭は能天気だからな。…………。さて、こちらの陽気に誘われたお客の登場だな」


「違うでしょ?? 私達がお客で、あっちが家主よ」



「「「グルルルゥ……」」」



 闇の中から数十の怪しい光が揺れ動きながらこちらへと向かって来るのを捉えた。


 さぁ……。皆さんお待ちかね!! 宴の始まりよ!!



「ここで時間を食うのは了承出来ませんね。少し魔力を溜めますので、それまで御二人は前の客……、家主さん達の相手を頼みます」


「了承した!! 行くぞ!! マイ!!」


「おうよぉ!! 乱暴なお客さんのご登場だぁあああああ――――いッ!!」



 二人同時に地を駆け一陣の風となって黒い塊の群れへと向かう。



「グッアァ!!!!」


「遅い!!!!」



 先頭のオークの一刀を躱し、右の拳を顎へ叩き込む。



「ガッ!?」


「はぁっ!!!!」



 ピンっと伸び切った体へリューヴの鋭い踵がめり込み、黒い塊が後方へと吹き飛んで行った。



「うっし!! 先ず一体!!」



 さぁて……。


 次はどの個体にしようかしらねぇ。


 向かって来る奴からぶちのめそうと拳に力を溜めていると。



「私に合わせろ!!」



 暴れん坊の困った狼ちゃんが敵の群れの中へと飛び込んで行ってしまった。



「はぁ!? あんたが私に合わせなさいよ!!」



 その背を慌てて追うのはいいけど、ちょぉっと囲まれ過ぎやしないかい??



「ガッアアアア!!!!」


「ブガァァ!!」



 ほら、来たぁ!!


 左右から鉈と手斧の一撃が私達に降り注ぐ。


 当然。


 こんな欠伸の出る速さの攻撃に後れを取る私達では無い。



「どりゃあ!!」

「ふんっ!!」



 私は鉈を、リューヴは手斧を弾き飛ばして相手の態勢が整うまでの数舜に拳と烈脚を頭部へと叩き込む。



「ガルアァ!!」



 おっほう!!


 味方を盾に、死角から槍を放り込んで来ましたか!!


 私のきゃわいい顔へ向かって来る的確な槍の一閃を薄皮一枚で躱し、盾役のオークごと蹴り飛ばしてやった。



 醜い豚へ向かって左右の拳の連打を浴びせ、その合間を縫って襲い掛かって来る敵の攻撃を回避。


 攻撃を繰り返しつつ互いの死角を無くす為に目まぐるしくリューヴとの立ち位置が変わる。



「だぁぁああ!! せぇいっ!!!!」


「「ギィヤァアアッ!!!!」」



 リューヴの連撃かぁ。食らいたくないわねぇ。


 大勢のオークが彼女の連撃に弾き飛ばされ、鋭く尖った岩肌へ無慈悲に叩きつけられると耳を疑う鈍い音が響く。



「行ったぞ!!」



 リューヴの食べ残し?? が宙を舞い、こちらへと無防備で飛んで来た。



「合点!!!!」


 同じく宙へ舞い、くるりと回転して踵を腹部へと突き刺す。


「ガッハァァッ!!!!」



 私のすんばらしい攻撃を受けた体が歪な角度で折れ曲がり、地面に叩きつけられると同時に土へと還った。


 意外と硬い装甲だけど私の一撃には耐えられないか。


 絶え間なく与え続ける攻撃を通して己の成長ぶりを改めて実感した。



「しかし……。数が多いな」



 頬を伝う汗をそっと拭いリューヴが話す。


 私達の行く手を阻む数はざっと見繕って残り……。三十体位かしらね。



「まぁ。それがこいつらの戦法だし、しょうがないんじゃない??」


「漸く体が温まって来た所だ。もう一暴れ、するか??」


「もち。あんたが暴れた分、私は準備運動もしていないんだけどねぇ――」


「ふっ、申し訳無い。少々張り切り過ぎたな」


「あんたらしいっちゃらしい……けどねぇ!!!」



「ガァッ!!!!」



 会話の途中で先頭の一体が殺意の塊を引っ提げて強襲を図る。


 長剣の切っ先が目の前の空気を切り裂き、乾いた音が鼓膜を強烈に刺激した。


 殺意は合格よ??


 けど……。



「速さがてんで足りないわ!!」


 相手の長剣の手元を蹴り飛ばし。


「そこだぁ!!」


 無防備なった体にリューヴの脚が襲い掛かる。



「ギャラァァアア――――ッ!!」


「飛んだわねぇ……。ってか、私が相手の剣を蹴り飛ばすって良く分かったわね??」



 今の動きはそれを予想していないと出来ない感じだったし。



「筋肉の動き、目線、気迫。マイの動きは凡そ理解出来るからな」


「成程、納得」



 常日頃から組手を重ねているだけはあるわねぇ。



「「「ウグルルル…………」」」



 あれまぁ、奴さん達。ちょいとプッツンしてね??


 蹴り飛ばされた個体を見下ろすと、更に激情を加えた醜い豚の顔が私達に突き刺さる。



「怒り心頭って感じ??」


「怒りでは私達に勝てぬ事を……身を以て知らせてやるか」


「了――解。後、三十。テキパキ片付けるわよ!!」



 勢い良く向かって来る群れに対し、腰を落として迎撃態勢を整えた。



「…………。漆黒の闇の刃よ。死の旋律を奏で、嘯く声を断て!!」



 ぬっ!? 何!?


 この肝っ玉がヒィ!! っと情けない声を出してしまう魔力は!?


 背後から背筋が凍る程の魔力の塊が放出されると刹那に身構えた。



闇夜の隠者(ダークネスハーミット)!!!!」



 カエデから放出された複数の禍々しい闇の刃が空気を鋭く切り裂きながら醜い豚共へと向かって行く。


 つ、ま、り。


 私達にもあの馬鹿げた威力の刃が襲い掛かるって訳よねぇ。



「あっぶねぇ!!!!」



 美味しそうな餌を齷齪探し求めるカエルの如く地面に伏せ、一切の遠慮無しに襲い掛かって来た闇の刃を間一髪回避する事に成功した。



「どこに目ん玉つけてんだ!! あぁっん!? ちゃんと前を見て放てや!!!!」



 立ち上がるとほぼ同時に罵声を浴びせてやった。


 危く、首と体がお別れする所だったじゃない!!



「御二人なら容易く躱すと考えていましたので」


「避けなかったらどうするつもりなのよ」


「…………。何んとかくっつけます」



 何を?? そしてどうやって??


 いや……皆まで言うまい。



「カエデ、今の魔法。相手を切り裂くのが主な効果だな??」



 リューヴが前方を捉えたまま話す。



「えぇ。その通りです」


「奴ら……。平然と立って居るぞ??」



 リューヴの声を受けて視線を前に戻すと。



「「「……??」」」



 そこには己が体を不思議そうに見下ろしている醜い豚達がいた。


 あ、あり――??


 効いていないのかしら??



「効果覿面ですよ?? さぁ、先は長いのです。先を急ぎましょう」



 そう話して無警戒で私達の横を通過して行く。



「ちょ、ちょっと!! 構えるくらいしなさいよ!!」


「構える??」



 何で私がそんな事をしなきゃいけないんだ??


 そんな感じでこちらへ振り返り、ちょこんと首を傾げた。



「いやいや!! 後ろ!! 後ろだって!!」


「「「グルァァアア!!!!」」」



 華奢な背中に向かって全ての黒い塊が襲い掛かる。しかし、それでも彼女は動こうとはしなかった。



「あぁ、申し訳ありません。切れ味が良過ぎて、実感出来なかったのですか……」


「「は、はぁッ!?」」



 最後は見事にリューヴと声を合わせてしまった。



「「「グ、ゴ、ア……」」」



 オーク達が数歩前に進むと同時に体がバラバラに崩れ落ちてしまう。


 前方から後方へ。


 奴らが進む度にそれは面白い様に伝播して、気付けば通路内は土へと還ったオークの死骸がこんもりと盛られていた。



「す、凄いわね。今の魔法……」



 鋭い闇の刃が己の体を通過したにも関わらずそれを確知されないなんて……。


 鋭過ぎる刃、か。


 そう言えばボケナスが短剣を研いでいる時、誤って指を切った事があったわね。



『――――。んっ!! 切っちまった』


『別に切れてないじゃん』


『いや、ほら見てよ』



 私に負傷箇所らしき場所を見せた後、指先の切れ目からじわぁぁっと血が滲み出て来た。


 あれとよく似た感覚なのでしょう。



「まだまだですよ。先生ならもっと鋭く、そして視認出来ない程の薄い刃でやってのけますからね」


「それ、絶対私達に使用しちゃ駄目よ??」


「善処致します。さ、行きましょうか」


「善処じゃ駄目だって!! ダメ絶対!!!!」



 軽快な声を上げ、再び無警戒でスタスタと暗闇の中へと進む。



「おらぁ!! ちゃんと返事しろや!!」


「マイ、行くぞ」


「ちぃっ……。隊長である私が後で釘を差しておかないといけないわね」



 闇の中でぽぅっと明るく光る光球の下。


 そこでふるんっと軽快に揺れる藍色の髪を目印にして歩み始めた。



 カエデの魔法も上達してるわねぇ。


 さっきの重唱に今しがた放たれた常軌を逸した刃。


 う、うぅむ。


 肉弾戦の組手では完勝しているけど、魔法合戦となったら勝ち目は無いわね。


 海竜ちゃんを怒らせるのも大概にしておかなければ……。


 通路内に幾つも盛られた黒い土嚢を見下ろし、自分が土の養分になりません様にと祈りつつ前方の藍色を追って行った。




お疲れ様でした。


本文にも掲載した海竜さんが放った闇夜の隠者は番外編にて淫魔の女王様から頂いた厳しい指導によって得た新しい魔法になります。


まだ番外編を御覧になられていない方がいらっしゃればお時間のある時にでも読んで頂ければ幸いです。


皆様の本日の夕食は何でしたか??


お肉?? お魚?? それとも麺類??


体力が落ち込み胃が弱り、そして作るのが面倒になって来る週末。私の本日の夕食は青い箱にやたら可愛い虎の絵が描かれたコーンフレークでしたね。


丼一杯にバッサ――っと白い砂糖の粉雪を纏ったコーンフレークを盛り付け。ジャブジャブと牛乳を投下。


スプーンでそれを掬い取り、光る画面に文字を打ち込みながら食す。


勿論、それだけでは栄養が偏るので野菜ジュースも欠かせません。一見、健康に良さそうな食事ですがたんぱく質が足りないので明日はそれを補うために肉類を食そうかと……。


それも胃袋さんと要相談、なのですけどね。


聡明な読者様は決して私の食事を真似しない様にして下さい。しっかり食べて、しっかり休む。それが厳しい夏を乗り切る秘訣なのですから。



それでは皆様、お休みなさいませ。

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