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第百四十二話 嫌な事はお湯に流すに限る

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




 温かい湯の水面に映る泡沫の月の姿を茫然と見下ろす。


 体は湯の効能で満遍なく温まり快適の二文字が体内に染み渡るが、心は温かさとは無縁の冷涼な暴風が吹き荒れる状態であった。



「はぁ……」



 長く漏れ続ける己の吐息が湯の蒸気を流して水面を揺らすと、月が見事な円から形容し難い形へと変貌を遂げてしまった。


 湯から痛々しい傷跡が残る右腕を取り出して淡い月明りの下へ曝け出すと、腕に纏わり付く重々しい空気が確実に感じられてしまう。



 全く……。生を得る代わりに難儀な力を与えられたもんだ。



 本来なら人の為、大切な笑みを守る為に使用されるべき力。


 しかし、ほんの少し。


 矮小な砂粒程度の間違いを起こせば力の方向は捻じ曲がり正しい方向へとは向かわない。


 結局の所、俺の甘い考えや判断の間違いが起因なんだよね。


 燃え盛る感情を制し、豪炎の激情を殺す。そして心は澄み切った水面の様に清らかで静謐に。


 師匠の教えは今回の一件を見越して俺に叩き込んだのかもしれない。


 駄目な弟子だなぁ。


 ちっとも理解していないじゃないか。


 カエデに説かれ、マイの叱咤激励を受け随分と楽にはなったけど……。



「精進が足りぬ証拠だよなぁ」



 再び水面に映る月を吐息で揺れ動かすと己を戒め、豪快に湯を顔に掛ける。



 うっし!! 今日この時から一念発起だ!!


 龍の力だかなんだか知らないけど、俺の体を自由にさせてなるものか。


 項垂れていた顔をぱっと上げて淡く青い光を放つ月を見上げ心を入れ替えた。



「おぉ!! 真っ暗な温泉もいいね!!」


「月明りがあるから真っ暗じゃないでしょ」


「マイちゃんは一々細かいなぁ……」



 うん?? マイ達も温泉に浸かりに来たのか。


 静寂から一転。


 心地の良い騒々しさが男湯と女湯の間に立ち塞がる壁越しに聞こえて来た。



「と――うっ!! たっは――!! やっぱ温泉は気持ちが良いね――」


「ちょっと。少し掛かったわよ??」


「あぁ。はいはい……。ごめんねぇ」


「それ、絶対悪いと思っていないでしょ」


「えへっ。ばれちゃった??」


「そんな惚けた奴には……。会心の一撃を食らわす必要があるわね!! とぉうっ!!!!」


「ちょっ……!! わぁぁ――ッ!!」



 女湯側で水飛沫が豪快に立ち昇り、ここまで飛沫がパラパラと降り注ぐ。


 風呂場で何してんだか。



「はっは――!! どよ??」


「ぷっはぁ!! マイちゃん!! 波で溺れちゃう所だったよ!!」


「んぉ。もう派手に暴れてるのか」


「喧しいですわねぇ……」


「いつもの喧噪。そろそろ慣れるべき」


「隣で湯に浸かる主に迷惑が掛かるだろう。静かにしろ」



 あれまぁ……。マイとルーだけでは無くて全員集合ですか。


 静寂もあっという間に肩を窄ませてしまう喧しさが空へと乱反射しながら昇って行く。


 リューヴの言う通り、もっと静かに入って貰いたいものさ。


 湯に浸かるのに喧噪は必要無いのだよ。



「おぉ!? 隣にレイドいるんだった!!」



 もうお忘れですか?? 雷狼のお嬢さん。



「レイド――!! いる――――!?」


「お――。いるぞ――」



 ルーの軽快な声に対し、若干声量を抑えた声量で返してやった。



「そっちの湯加減は如何でございますか?? レイド様」


「ん――。熱くも無く、冷たくも無い。肌の隙間からぬるりと快適な温度が染み渡って……。丁度良い感じだ」


「まぁ、そうですの。こちらもいい湯でございますわよ」


「はは、そっか。ゆっくり……。それで?? 何でここにいるの?? 東雲」



 漆黒の闇に紛れ、一羽の烏が俺の右肩にそっと留まり艶のある羽を休めていた。



「アオイ様からの御命令でございます。安心して下さい。千里眼は使用していませんので」



 それなら……まぁ。


 ちゃんと目も瞑っているし。



「それはさておき。レイド様」


「ん――??」



 左肩に湯を掛けながら何とも無しに返事をする。



「本日の御一件についてです。アオイ様同様、私もレイド様の胸中を知ると胸が張り裂ける思いでした。大変お辛い感情を抱いていたのですね……」


「あ――。そっか。アオイの中で聞いていたのか」


「はい。何も出来なかった……いえ。気付けなかった事を恥じている所です……」



 分かり易く頭を項垂れて俺の心の痛みを受け止めてくれる。


 アオイと一緒で優しい心の持ち主なんだな。



「東雲は俺じゃないし。何でも分かれって方が無理だよ。でも、東雲がそうやって俺の事を心配してくれていた事は素直に嬉しいぞ??」


「本当で御座いますか!?」



 むんずっと黒くて丸い顔が眉間に急接近する。


 御主人様と同じく正常な距離感を保って欲しいですね。近過ぎる顔に焦点を合わせるのは難しいのです。



「お、おぉ」


「あぁ、レイド様から頂いた今の御言葉……。私は一生忘れる事は無いでしょう」



 言い過ぎじゃないですかね??



「大袈裟だって」


「ふふ、素晴らしき心地良さで御座います……」



 クルんと丸みを帯びた頭を一つ撫でてそう言ってやった。


 水を弾く構造なのかやたらツルツルしてて、相変わらず撫で甲斐のある羽だ。



「レイド」



 背の高い木製の壁越しにカエデの声が届く。



「どうした?? カエデ」


「その……。ペロがどうしてもそっちに行きたいようで……。泣き叫んでいて五月蠅いので向かわせても宜しいですか??」


「いいぞ――」



 一羽も一匹も変わらないし。


 それに一人で浸かっているのはちょっと寂しいと考えていた所だ。


 隣の陽性な騒ぎがそうさせてしまったのであろう。



「では……」



 漆黒の夜空へ向かって眩い光が漏れると。



「にゃっほぅ!! 史上最強の使い魔っ!! ペロ様の登場にゃ!!」



 ペロの軽快な声色が美しい星空の下に響き渡り。



「むむっ!? 私の前に聳え立つ壁めっ!! そんなちんけな高さでは私の行進は止められにゃいっ!!!! とぁっ!!」



 何かが壁を伝い這い上がって来る乾いた音が聞こえて来た。


 爪で登っているんだろうなぁ。木製の壁に猫の爪が引っ掛かるシャカシャカとした音が響いているし。


 目に見えぬとも一匹の猫が懸命に壁を登っている様が容易く想像出来てしまう。



「ぜぇ……ぜぇ……。にゃはははぁ!!!! 登り切ったにゃ!!!!」


「高くて怖くない??」



 男湯と女湯を隔てる壁の高さは凡そ二階建ての建物程の高さを有している。


 現実味のある高さって妙に怖いんだよねぇ。


 腰に手を当て、聳え立つ壁を踏破して胸を張る一匹の虎猫へ言ってやった。



「へっ?? 全然?? 寧ろちみ達を見下ろしているのが心地良いにゃ!!」



 左様で御座いますか。



「それにしてもいい眺めにゃね――。こっちはレイドにゃんの裸体。んでぇ。こっちは世の男共、垂涎の的の体が六つも……」



 垂涎の的……。



 いかんぞ、俺。邪な想像は止めなさい。


 今日から一念発起して心を乱さないと決めたんだろう??


 にやりと厭らしい笑みを浮かべて女湯を見下ろすペロから視線を外し、一呼吸して気持ちを整えた。



「レイドにゃん!! 我が御主人様の御体を見たくにゃい!?」


「結構です」


「そんにゃ事言って――!! 本当は見たいんでしょう?? 何でもお見通しにゃよ??」



 そりゃあ……。俺も男の端くれ。


 女性の裸体に興味が無いと言えば嘘になる。


 カエデの体……ねぇ。


 全部が全部想像出来る訳じゃないけど。きっと真正面で捉えたらつい溜息が漏れてしまう程に綺麗だろうなぁ。



「ぷるるんっと実った果実にぃ。温泉の湯が染み込んできっと艶々のもちもちにゃよ?? いやぁ!! これを見逃す手はにゃいよ――お客さん?? まだ熟しきっていないのがミソ!! 私が男だったら絶対噛みついているもん!!」


「ペロ」



 恐ろしい危機が己の身に切迫している事を知らせてやろうと考え、小さく注意を促してやった。



「にゃに――??」


「おまえさんの向こう見ずな言動は己の首を絞めている事に気付かないのか??」


「首を?? またまたぁ!! にゃにを……。ひぃっ!!!!」



 おっ、漸く気付いたか。


 頭上に光り輝く魔法陣を見上げるとさっと血の気が失せる。



「カ、か、カエデにゃ……様。そのぉ……。これは一体全体どういう事です??」


「この魔法。何か分かりますよね??」


「ひゃ、ひゃい。重水槍アクアヘビーランス……れす」


「どこに穴を開けられたいですか?? その空っぽな頭か、それとも最近運動不足で心配になっている妙に柔らかいお腹か」



 頭上に光り輝く魔法陣が一つから二つに増え、交互にチカチカと明滅する。


 いつ恐ろしい水の槍が降り注いで来るのか、気が気じゃないだろうなぁ。



「両方駄目に決まってる!! 大体!! カエデにゃんだって……。 『あぁ――。夜御飯食べ過ぎちゃったなぁ――。隣でレイドが美味しそうに食べているからついつい……。摂生しなきゃなぁ――』 って!! さっき浴衣を脱いだ時に……」



「っ!!!!!!」



 堂々とカエデの胸中?? を語ろうとするペロに水の槍が降り注ぐ。



「はにゃにゃにゃぁあぁあぁ!?!? どぶぐぇっ……」



 水の槍が四方八方から虎猫へ襲い掛かり、その衝撃を受けた体は奇妙な踊り方をして壁から落下。


 水面に力無く沈んでその数秒後。



「……」



 珍妙な水死体がぷかりと水面に浮かんだ。



「奇妙な死体ですねぇ……。所で、どこに埋めますか?? この猫」


「死んでにゃあぁい!! 東雲!! 勝手に殺すにゃ!!」


「つめてっ」



 水飛沫を飛ばしながら死体ががばっ!! と上体を起こして復活。


 四本足を器用に動かし、こちらへ向かってスイスイと泳いできた。



「いたたぁ。全くぅ――。使い魔に使用していい魔法とそうじゃにゃい魔法があるにゃよ――」


「主人に対する態度がいけないんじゃないか??」


「んぅ――?? 態度――??」



 立てに割れた瞳をきゅぅっと尖らせ怪訝な顔で俺を見上げる。



「そうそう。御主人様であられるカエデは至極冷静だろ?? それを見習ってお前さんも慎みを持って行動すればいいじゃないか」



 多分、そういう事でしょう。



「あ――。無理無理――。私はカエデにゃんのアレな性格を反映されてね?? どういう訳か慎みを持つって事ができにゃいのよ」


「ふぅん。そっか」



 カエデも大変だな……。


 よりにもよって心の底に仕舞っておきたい性格が反映されちまってさ。



「出来なくても、努力する事は出来るだろ」


「努力ねぇ――。苦手だにゃ――。ちょっと、股をもう少し開きにゃさい」



 一匹の虎猫が俺の上体にちょこんと背を預け、股に腰を下ろす。


 座り心地が宜しく無いのか。後ろ足でちょいちょいっと内太ももを蹴り、もっと開けと催促してきた。



「え?? こんな感じ??」


「そうそう!! はにゃ――。レイドの股座布団は最高だにゃ」



 股座布団って……。



「ほぅ……。それは中々に興味がそそられますね。ここが湯であるのが残念です……」



 右肩からぽつりと羨望の声が漏れる。



「にゃはは!! 東雲は浮いちゃうからね!!」


「どっぷりと羽に水を吸わせれば……。いや、しかし……。アオイ様の前に情けない姿で帰る訳には……。くっ!! どうすれば……!!」


「いやいや。無理して座ろうとしなくてもいいって」



 これ以上股が騒がしくなるのは御免被りたい。



「いいなぁ――。レイド――。私も股座布団座っていい――??」


 頭上から妙に鮮明なルーの声が届く。


「は??」



 声の出所を確かめる為、ふっと視線を上げると。



「えへへ、やっほ――!!」



 本当に楽し気な表情を浮かべたルーが、器用に顔だけをこちらに覗かせていた。



「駄目に決まってんだろ。……ってか。覗くな」


「逆は不味いけど、私達が覗くのは別に構わないんじゃない??」


「そうそう!! ほっほ――。レイドはそうやって湯に浸かるのかぁ――」



 今度は緑の髪がにゅうっと生えてこちらを見下ろす。



「ユウ!! どさくさに紛れて悪ノリすんな!!」


「別にいいじゃん。…………。え?? 何?? 登りたい??」



 誰かに体を突かれたようで?? ふっと下に視線を落とす。


 誰だろ。



「ちょっと待ってて。――――。せいっ!!」


「ふむ……。男性はそのようにして体を休めるのですね」


「カ、カエデさん!?」



 壁からにゅっと生えた藍色の目元が珍しい生物を観察するかの如くじぃっと見下ろす。



「よっと!! はは。どうだ?? 女三人に見下ろされる感じは??」


「居心地は大変宜しくありませんね」


「そうですわよ?? レイド様の御体は私だけが拝見出来るのです。ねぇ――?? レイド様っ」



 お次は白の出番ですか。



「それも了承出来ません」



 ペロがいてくれて助かったよ。


 丁度いい感じでアレがその……隠れているし。


 じろじろと見られるのは倫理観的に宜しくないのです。



「ねぇ!! 狼の姿ならいいよね!?」


「駄目です」


「レイド様は私の体を所望しておられるのですよ。それでは……失礼して……」



 白が隔絶の壁を乗り越えようとすると、壁の向こう側の灰色が待ったの声を掛けた。



「アオイ、主が困っているだろう。戯れはそこまでだ」



 おぉ!! いいぞ、リューヴ!!



「足を放しなさい!! あらぁ?? リューヴも見たいのでしょう?? レイド様の御体を」


「そ、そんな訳あるか!!」


「リュー。こっち空いているよ――??」


「そ、そうか??」



 おかしいなぁ。


 流れが大変宜しくない方向へと向かっている気がしませんかね??



「ほら。ここ……」


「むっ。すまん……。ほぅ?? 男湯はそうなっているのか」



 何だかんだで強面狼さんも参戦するのですね。



「あの、君達?? そんな所にぶら下がっていると風邪を引きますよ??」



 壁から生える色とりどりの花達へ向かって至極真っ当な理由を言い放つ。


 まぁ、聞きやしないと思うが。



「大丈夫!! 生まれてこの方、風邪引いた事ないからぁ!!」


「そういう意味で言ったんじゃないの。分かるか?? ルー」


「ううん?? 全然??」



 はぁ……。ほらね?? 聞こうとも考えようともしないから質が悪いんだよ。



「覗くなって言ってんの!! 大体!! 男湯なんて覗いても楽しくないだろ!!」


「そうか?? あたしは楽しいぞ?? ほら、こうしているとさ。皆で入っている感覚になるし??」


「あ――。それ、分かるかも」



 俺は全く分からん。



「レイド様ぁ。御隣、お邪魔しても宜しいですかぁ――??」


「勘弁して下さい」


「もう――。五月蠅いにゃ――。レイドにゃん。もういい加減諦めたら?? あの人達は人の言う事を聞く様な人達じゃないにゃ」



「諦めるって……。倫理観どこいったの??」



「男はどんっと全部受け止めるくらいの男気を見せなきゃ駄目にゃよ――」



 そういう男気はいらないなぁ。



「ペロ、良い事言いましたわね!! で、では、レイド様。私の愛を受け止めて下さいまし……」



 アオイの目元がにぃっと歪み、壁を乗り越えようと腕の力を籠める。


 しかし、それに待ったを掛ける存在を忘れてはいけない。




「お――お――。さっきから黙ってみてりゃあ楽しそうにプリンプリンと尻振りながら盛り上がってんなぁ?? えぇ??」


「は、放しなさい!! 汚らわしい!!」



 プリンプリンって。



「マイちゃんも見たいでしょ――?? ちょっと狭いけど、ユウちゃんの隣。空いてるよ??」


「見ん!!!!」


「そうそう。レイドにゃんも、マイにゃんみたいな男らしさを見習うべきよ??」


「おらぁ!! そこの駄猫ぉ!! 誰が男だってぇ!?」



 君は大切な話を聞き逃しても、悪口だけは絶対聞き逃さないよね。



「こっわぁ――……。とても女の子が使う言葉じゃにゃいね」


「同意するよ」



 ぽんっとペロの頭に手を乗せて言ってやった。



「こ、この馬鹿力!! レイド様!! 今暫くお待ち下さいませ!! 岩板を見事に打ち抜き、必ずや舞い戻って来ますわぁ!!」


「あ、帰って来なくてもいいからね??」



 狂暴な龍の力で足を引きずられ、震える腕で精一杯耐え忍ぶアオイに念を押しておいた。


 良く耐えれるなぁ。


 あの状態って力あんまり入らないし。



「辛辣ですわぁ――!! …………良くも人の美しい足に触れましたわね??」


「人様が湯を楽しんでるってぇのに、見たくも無い尻を見せられたらそりゃ苛つきもするわなぁ」


「あぁ、成程。素晴らしい体を見て耐えられなくなったのですわね?? みすぼらしい自分と比べると……。ふふ、申し訳ありませんわ。意識せずとも、あなたを傷付けてしまっていたのですわねぇ??」


「こ、この……」



 あ、そろそろ爆ぜるかな??



「その尻ぃ……。桃もドン引きする位に赤く染めてやらぁぁああ――――ッ!!」


「東雲!! 来なさい!!」


「はっ!! 只今!!」



 アオイの声が届くと同時に東雲が右肩から颯爽と飛び立ち女湯へと羽ばたいていく。



「おらぁ!! くらえやぁ!!!!」


「な、なんとおぞましい顔だ……」


「良く見なさい、東雲。あれがこの世の全ての穢れを吸い込んだ顔ですのよ」


「真面に見たら目が腐り落ちてしまいます。アオイ様、直視はいけませんよ??」



 おいおい。


 あの腹ペコ大魔王相手にそんな事言って大丈夫か??



「おい、こら。そこのクソ鳥」


「クソ鳥では無い。私には東雲というアオイ様から直々に……カァッ!?!?」


「ヒラヒラと器用に避けるけどなぁ?? 私の前では児戯に等しいんだよ。この首、ぽきっといくか?? あ??」


「くっ……。は、放せっ!! 野蛮人め!!」


「はっは――。放してやんよ。壁にでも頬擦りしてなぁぁ!!!!」


「クァァ!?!?」


「いってぇ!! おい!! あたしの尻に当てるな!!」



 パチン!! と何かが弾ける音が響くと緑が去り。



「ちょっとぉ!! 何かお尻に挟まったんだけどぉ!?」


「な、何をする!? マイ!! 勝手に触れるな!!」



 騒々しい音が鳴り響くと二つの灰色も去る。


 このまま騒ぎが収まらなきゃ、いよいよ藍色の出番かな。


 今も無表情のまま俺をじぃぃっと見下ろす彼女へ一縷の期待を籠めて視線を送るが。



「――――。大丈夫です。直ぐ収まりますよ」


「は、はぁ」



 彼女は俺の期待に応える事無く只々此方側の観察を続けていた。



「いいの?? 放っておいて」


「えぇ。こっちの方が興味ありますし」



 何の?? とは言い出せず。


 カエデから視線を外して美しい夜空を仰ぐ。



「おらぁ!! 砕け飛べ!!!!」



 何かが弾ける音。



「はぁ。欠伸が出ますわねぇ」


「こ、こっち来ないで!! いったぁい!!」



 確実に物体が崩壊した鈍い音。



「マイ!! 落ち着けって!!」


「ユウちゃん!! マイちゃんの足を押さえつけてやって!!」


「おっしゃ!! 捉え……」


「ふんがぁっ!!」



「「おわぁっ!?!?」」



 爆ぜた龍の力によって吹き飛ばされて壁にぶつかる誰かさん。


 もうどうにでもなれと半ば諦め、無数に広がる星を一つずつ数えて行く。


 きっと数え終えるまでに収まるでしょう。これだけあるんだし??




「ペロ、股座布団の感触の感想を詳しく述べなさい」


「へっ?? え―—っとぉ……。巨人が愛用する無駄にデカイコップの側面に腰掛けている感じ?? ドンっと腰掛けても一切揺るがない所に安定感を覚え、踵をちょいと動かすとフニフニとしたやわらかぁい二つの感触が足を楽しませて……」



 星の数を丁寧に数えている最中。


 ふざけた台詞を吐いている虎猫の後頭部をスパンッ!! と静かに素早く引っぱたいてやる。



「いった!! ちょっとレイドにゃん!! 御主人様の御命令をすいこ――しているのに邪魔しちゃ駄目にゃよ!!!!」


「その通りです。レイド、ペロは感想を述べているだけですので邪魔はしないように」


「言って良い事と、悪い事の違いが分からないのか??」



 ドスの効いた声で虎猫を脅してやるが。



「にゃはは!! わからにゃ――いっ!! カエデにゃん!! 一度腰かけてみるといいよ!! 柔らかくもあり、中途半端に硬くて心地良いから――っ!!!!」


「ふむっ……。勉強になりました」



 分隊長殿、それは一体何の勉強ですか??


 もうどうにでもなれと自暴自棄になり、岩肌へ背を預けて巨大な溜息を星空へと届けてやった。


 相も変わらず騒動と言い表すのは生温い騒ぎを放つ女湯と、これだけの騒ぎだと言うのに全く動じないで観察を続ける海竜さんを他所に。


 俺は一人静かに息を漏らし、首の筋肉がいい加減休ませてくれと叫ぶまで美しい星空を見上げ続けていたのだった。




お疲れ様でした。


本日中にどうしても書き終えたかった部分を投稿し終えてほっと一息しております。


次の御話からはいよいよ作戦行動が始まります。彼等を待ち構えている危険を是非とも堪能して頂ければ幸いで御座います。



そして、ブックマークをして頂き本当に有難う御座いました!!


今回の長編が佳境へと向かう中、気合を入れて執筆しなければいけないので嬉しい励みとなります!!


暑い日が続いておりますが、引き続き体調管理には気を付けて下さいね??


それでは皆様、お休みなさいませ。

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