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第百三十八話 戦士達の束の間の休息 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




 激しい動悸を悟られぬ様、一度大きく深呼吸をして呼吸を整え。お風呂上りで火照った体が大変お目目に悪い御二人を迎えた。


 普通の服装で入って来るかと思いきや、浴衣姿だもんなぁ……。


 君達は過ごし易いかも知れませんがこちとら普通の性欲を持つ男性なのです。もう少し慎ましい着熟しで入室して頂ければ幸いで御座います。



「いったいなぁ。マイちゃん蹴らないでよ……。おぉおぉ!? 何!? それ!?」



 ふっ、漸く気付いたか。



「これ?? 人類が発明してしまった悪魔の化身。コタツだよ」


「コタツ!? と――おっ!!」



 言うが早いか。


 此方に駆けて来る速度を維持したままコタツへと豪快に足を突っ込む。


 んお!? 大丈夫か!?



「はわぁ――。あっらか――い」



 ふぅ、第一関門突破。


 ルーは俺から見て左側の面に寛いで座る。


 問題は……。



「ほほう?? 悪魔と来ましたか」



 こいつだ。


 一番知られてはいけない人物の行動に心臓の鼓動が速まる。


 ど――かお願いします!! 気が付きませんようにっ!!



「私を屈服出来るものならやってみなさいよ!! あっ、駄目。くあぁぁぁぁんぅっ……」



 勇んで足を突っ込むも数舜で龍の腰をヘニャリと折ってしまった。


 コタツの威力はどうやら龍にも通用するらしい。


 目尻を下げ、ほぼ九十度に曲がった上体が正面の机の上に覆いかぶさった。


 ふ、ふぅ――……。何んとか誤魔化せたか。



「ねぇ――。レイド――。これ、買って帰ろうよ――」


「無理矢理にでも持って帰ろうかしら?? 人はコタツを生み出す為に生まれて来たのかもしれないわね……」


「んな訳あるか。風呂はどうだった??」



 出来るだけアオイの存在に触れない様に話題を振る。



「おっきいし――。お湯も最高だったよ!!」


「まっ。イスハの所と比べるとアレだけどさ。楽しむには十分よ」



 毎度思うのですが、誰様です?? あなたは。



「マイちゃ――ん。何言ってるの?? 御風呂であれだけ蕩けた顔してたのに」


「だまらっしゃい。御風呂はそうやって入るものなの」


「そういうものかなぁ?? 御風呂も入って――。後は美味しい御飯を待つのみ。んっふっふ――。お腹空いたな――」



 ルーが満面の笑みを浮かべてコタツの上に顔を乗せる。



「そうねぇ。適度に時間も経過したし、これなら幾らでも食べられそうね」


「俺の分は食うなよ??」


「しっつこいわねぇ。お詫びとして、鬼饅頭あげたじゃない」



 くるりと怖い顔が此方を向く。


 大の男が満足する量じゃないけどねぇ。



「鬼饅頭、もう残っていないのか??」


「え?? あ――、もう全部食べちゃったわよ。ユウ達に一個ずつ渡して。残りは、ここ」



 己の腹をポンっと叩く。



「食い過ぎだろ」



 確か……。パッと見十個以上あった筈。



「おやつよ、おやつ。おやつと御飯は別腹なの」


「お前さんはそうでも他の人は違うからな??」


「胃袋が軟弱なのよ。私みたいに……」



 マイがそこまで話すと、再び扉が喧しく開いた。



「じゃ――ん!! 邪魔するぞ!!」


「「「…………」」」



 え?? ちょっと待って??


 ユウさん、抜き身の刀は大変危険なのですよ??



 ユウが陽性な感情を惜しげも無く全面に押し出し、跳ねる様に部屋に入って来る。


 マイ達と同じく浴衣を着ているのはいいんだけど……。


 その、薄着になるとど――もあれが存在感を放つ訳なのですよ。


 健康的に焼けた肌に聳え立つ双子の山。


 浴衣程度の装甲ではそれを抑え込む事は叶わず、内側からギュウギュウと押し上げこれ見よがしに激しい自己主張を叫んでいる。


 針の先端が微かにでも触れようものならあっと言う間に胸元が開けて双子の大魔王様達が現世に降臨なされるであろう。



『頭が高いぞ、小僧。我の覇道を妨げる気か!?』



 もしも露見したのなら畳に額をくっ付けて許しを懇願しよう。


 人で溢れる世界を蹂躙しないで下さい、と。



「な、何だよ?? その化け物を見る様な瞳は」


「ユウちゃん?? 浴衣着てるんだからさ。下着、着けよ??」


「そうそう。剥き出しの刀身程危ない物は無いわよ??」


「へいへい!! ど――せ私の胸は……。おぉ!? 何じゃそりゃ!!」



 先に入って来た二人同様、目を丸くしてコタツを喜々とした表情で見下ろす。



「あぁ?? これ?? こた……」


「主、邪魔……。む!? 何だそれは!?」



 あ、丁度いいや。


 二度説明する手間が省けたな。



「史上最強の龍の腰を折る程の威力を持つ悪魔の発明品、これはコタツと呼ばれる品よ。入る前に一度心を決めてなさい。そう……。足を入れたら最後、二度と出られ無くなってしまう恐れがあるからね」



 俺の代わりにマイが堂々と、そしてあたかも以前から知っていたかの如く目を瞑って御高説を唱えた。



「コタツねぇ……。どれどれぇ??」


「ほぉ。中々に奇抜な形を……」



 ユウとリューヴがほぼ同時に足を突っ込むと。



「「はぁぁぁ…………」」



 同時にへにゃりと机の上に上半身を預けてしまった。


 雷狼さんとミノタウロスさんもコタツの威力には逆らえないのか。本当に恐ろしい武器だな……。



 そして、第三関門突破ぁっ!!


 いいぞ!! このままなら誰にも悟られる事無く過ごせそうですね!!



「こ、これ。やばいな……」


「でしょ?? 今持って帰ろうかって話してたのよ」



 正面。


 マイが此方から見て右側に座るユウに対して口を開き。



「不味いぞ。抜け出せなくなってしまう」


「だよねぇ。ポカポカして気持ちいいもんねぇ」



 ルーの右隣りに座るリューヴは怠惰の塊の様な顔を浮かべていた。


 いつもは眉をキっと尖らせ初対面の人は近寄り難い雰囲気を醸し出している彼女の珍しい顔を拝めたぞ。


 記念に頭の中に確と刻んでおきましょうかね。



「食事の時間まで温まっていくといいよ」



 今も俺の腹にひしと抱き着くアオイの存在を悟られまいとして机に上半身を近付けて地図を見下ろした。


 えぇっと。どこまで覚えたっけ……。



「レイド、どしたの?? 渋い顔しているけど」


「今の内に崩落し易い箇所を頭の中に叩き込んでおくんだ。ほら、二手に分かれた時。そっちに地図を渡そうと考えているからな」



「あふぁ……。あたらかぁい……」



 へにゃりと折れ曲がった上体を机に預けるマイと。



「まるで春の温もりの中に身を沈めている様だ……」



 今も目尻を下げているリューヴを見つめて言った。



「そっち?? あ――。私達の事かぁ」



 俺の言葉を受けても机の上に横っ面をくっつけてこちらを見ずに適当に返事をするハラペコ龍。



「態々済まない。苦労を掛ける」



 それに対し、はっと我に返り普段の凛々しい顔を浮かべて話す雷狼。



 どっちが好印象を受けるかと言われたら当然、後者だ。


 大体こいつは事の重大さを理解しているのさえ怪しいんだよ。



「ユウ――。なぁんか、面白い顔して――??」



 マイと同じく机の上に頬擦りしているユウへ問いかける。


 丁度、互いが顔を見つめ合う形になっているもんね。




「は?? 無茶振りすんなよ」


「いいじゃ――ん。ほら、暇だしさ――」


「仕方がないなぁ…………。せぇ――のっ、ふんぬぅっ!!」


「ぶっ!! あはははは!! な、何!? 今の顔!? 腐った沼で泳いで溺死寸前の鯉みたいな顔だったわよ!!」


「ひっでぇなぁ。ほら、今度はマイが変な顔しろよ」


「私?? ん――。今度は……。ぜぇいっ!!!!」


「ぷっ……あははははっ!! な、何だぞりゃ!! お婆ちゃんのお尻じゃん!!」




 君達、今の例えは一体何ですか??


 こちらからは死角になっているので、見えないのが非常に残念だ……。



「ユウ。悪いけど今の顔を見せてくれ」



 地図からふっと視線を外し、今も互いの顔見つめ合いながらケラケラと笑うユウに話し掛けた。


 マイのはさっき見たし。ユウの変な顔は是非とも拝んでみたい。



「え?? ん――。ちょっと無理かなぁ。恥ずかしいしさっ」



 へへっといつもの快活な笑みを浮かべてこちらを見つめる。



「そう、か。マイ、もっと分かり易く説明してくれよ」


「はぁ?? 無理無理。今のが精一杯だって」



 くそう。気になる……。



「ほら、ユウ。もう一回してよ」


「ユウちゃん!! 私も見ていい!?」


「お――。構わんよ??」



 机の上に突っ伏しているユウの顔の正面にマイとルーが陽性な感情を剥き出しにして座る。



「じゃあ、行くぞ?? ……………………。うんぬぅっ!!」


「「ぎゃはははは!!」」



 気合の入った声と共に、二人の笑いが爆ぜて室内に乱反射した。



「あ、あはは!! だ、駄目!! 腹筋取れちゃう!!」


「ユ、ユウちゃん。そんな才能あったんだねぇ!!」



 だ、駄目だ!! 気になって地図処じゃ無い!!



「ユウ!! 頼む!! 俺にも見せてくれ!!」


「え――。恥ずかしいから駄目って言ったじゃん」



 その気持の良い笑みは嬉しいけど……。


 違うんだ!! 俺も腹筋を鍛えたいんだよ!!


 ぐっと足に力を籠めて腰を上げようとすると。



「…………っ」

「ぬおっ!?」



「ん?? どうした。主??」


「え?? あぁ。いや?? 何にもですよ??」



 腰を元居た位置へと大人しく戻してあげた。


 やっべぇ。


 動こうとして腰を上げようとするとアオイの腕が俺の体を放すまいとより強く絡みついて来た。


 柔らかいお肉が太ももに当たりか細い腕が腰に絡む。


 ユウの顔を見たいが……。


 動けばきっとアオイがコタツの中からこんにちはと姿を出してしまうだろうし。


 それを見た龍が怒りを露わにして、気持ちの良い眠りへと誘う拳を俺の顎にぶち込むだろう。


 うぅ……。仕方が無い。今日の所は我慢するか。


 ケラケラと笑い合う二人を羨望の眼差しで見つめていると。



「――――。お邪魔します」



 笑い声が何度も往復する部屋に一人の可憐な降り立った。


 まだ熱が籠っているのか、蒸気した頬と細い首。紺碧の海を連想させる藍色の髪は風呂上りの艶を帯び、しっとりと潤った白い柔肌がトクンっと心臓を鳴らす。


 いつもとは違う珍しい浴衣姿が俺の視線を釘付けにしてしまう。


 いかん。見過ぎだ。


 慌てて視線を逸らし、机の上の地図へと二つの眼球を向けた。



「おぉ!! カエデちゃん御風呂上がったんだ!! ペロちゃんの説教は終わった??」


「えぇ。先程、きついお灸を据えておきました」



 カエデの説教かぁ。


 出来る事なら勘弁願いたいね。



「ところ、で。随分と楽し気な笑い声が扉の外まで漏れていましたけど。何かあったので??」


「ユウの面白顔を皆で見て笑っていたのよ」



 マイがむくりと上体を起こし、扉の方へ顔を向けて話す。



「ユウの??」


「そうそう。ユウちゃん!! カエデちゃんにも見せてあげて!!」


「へいへい」



 そう話すと此方にくるりと背を向け、カエデを正面に捉えた。


 そして。



「ふんぬぅぅぅぅ!!」

「……」



 ユウの面白顔を見たカエデの眉がぎゅぅっと顰める。


 最近気付いたんだけどね。あの眉の動きは必死に笑いを堪えて居る姿なのだ。


 皆に御高説を唱えている時、時折お惚け狼と龍が冗談を放つのだが……。


 偶にそれが彼女の笑いを大いに刺激する様で??


 込み上げる笑いを堪える為、あぁやって眉をぎゅうっと動かすみたい。



「おぉ?? よく耐えたねぇ――」


「驚く程に面白い顔でした」



 にやりと笑うルーに話す。



「ユウちゃんの今の顔。例えるなら何??」


「そう、ですね……。旬が過ぎ、誰からも相手にされない痛んだキャベツ。とでも申しましょうか」


「ひっでぇな!! あたし、そんな顔していないぞ!?」


「ふふ。冗談ですよ」



 軽い笑みを浮かべ、俺から見て右側の面のコタツにちょこんと座り。


 白く美しい足をコタツの中に入れる。



「はぁ――。これが、コタツですか」


「ん?? カエデは知っていたの??」



 何気無く彼女へ問う。



「えぇ。小説の中で良く登場しますから。どんな感触か伺い知れませんでしたが……。これは、中々に強力ですね」



 ふぅっ、と。


 小さな口から大きな溜息が漏れた。


 それだけ大いに心地良いのだろう。



「レイド。東雲からの報告なのですが」



 おっと、突然ですね??


 広げられた地図を見つめながらこちらに話し掛ける。


 もう少しコタツの感触を味わってからでも良いんじゃないのかい??



「アオイから報告を受けた所。山腹には約百体のオークが確認出来ました」


「百?? かなりの数だな」


「それと。ほら、以前会敵した巨大な個体も確認出来たとの事です」


「えぇ!? あのデカブツもいるのかよ!!」



 アオイの里の西。以前、オーク共の最前線を調査しに行った時会敵した相手だ。


 アイツがいるのか……。


 骨が折れるんだよなぁ――……。以前は全員掛かりで倒したし。



「安心して下さい。以前会敵した大きさよりも二回り程小さいそうですよ」


「あ、そうなんだ。でも、二回りだろ?? 負担が減る訳じゃないし。それに……。この地図を見て気付いたんだけどさ。結構奥の方まで続いていると思わないか??」



 何気なく地図を指し、誰とも無しに話す。



「戦闘を継続させながらの進行ですから……。戦闘結果次第では一日掛かりかも知れませんね」


「えぇ!? それじゃあ途中でお腹が空いちゃうじゃない!!」



 敵戦力の規模云々よりも、やっぱりお前さんの心配の種はそれかい。


 がばっと体を起こしてこちらを睨む。



「安心しろ。ルーティーさんにおにぎりを作ってくれるように頼んでおくから」


「頼んだわよ!? もし、おにぎりが無かったらあんたを恨むからね!!」



 恨むって……。


 まぁ、マイだけでは無く皆の体調も考慮しなければならんし。


 腹が減ると力も出ないだろうしさ。


 ニ十個位でいいよね?? いや、それだけで足りるかな??



「ねぇ。そう言えば、アオイちゃんは??」



 頭の中でおにぎりのどんぶり勘定していると、ルーの一声が俺の心をざわつかせた。



「そう言えば見ていないな。東雲を迎えに行くって風呂から出たけど……。レイドは見ていない??」



 机から不意に顔を上げたユウが話す。



「いいや?? ルー達が来るまでコタツの中で寝てたし」



 うむ、我ながら名演技だ。


 声色を変えぬ様、平然を保ちつつ地図を見下ろしながらユウへ言ってやった。



「ふぅん。そっか」



 ほっ、どうやら誤魔化せたようだ。


 と、言いますか。


 恐らく顔だろうが、柔らかい感触が腹にまで登って来て気が気じゃないんですよね。


 これ以上余計な詮索が来ぬ様祈っていると、扉から乾いた音が響いて来た。



「失礼しま――す。おっ。皆こっちに居たか。お食事の用意が出来ましたので、食事処までお越しくださいね――」



 ルーティーさんが軽快な笑みを浮かべ、食事の知らせをくれる。


 それに真っ先に呼応したのは深紅の髪。



「ッ!!!!」



 誰よりも先にがばっと立ち上がり、ルーティーさんの脇をすり抜け食事処へ駆けて行ってしまった。



「おっとぉ。あはは!! 相当お腹空いていたんだねぇ。ほら、皆も冷めない内に食べてよ!!」



 そう話すと陽気な笑みを浮かべ扉をそっと閉めてくれた。



「マイの奴が横着しないように、行くとしますかね」


「だね――。あ――お腹空いたな――」



 ユウとルーの声を皮切りに各々が立ち上がり扉へと向かう。。


 しかし、俺はじっと機を窺っていた。


 頼むぞ――……。そのまま何事も無く部屋を出て行ってくれ。


 ユウ、ルー、リューヴ。


 順調にその姿が扉へと吸い込まれて行く。


 よぉし、いいぞぉ。そのまま順調に流れて行きましょうね。



 心急く思いで彼女達の背を見送り続けて居ると、カエデが扉の前で不意にその動きを止めてしまった。



「――――。レイド」

「へっ??」



 うむ、盛大に声が上擦ってしまいましたね。



「コタツの中の人を起こしてから来て下さいね??」


「……。気付いていたの??」


「海竜は何でもお見通し。アオイも疲れているから仕方ないとは思うけど……。正直、羨ましいです」


「え?? 何??」



 後半の部分を上手く聞き取れなかった。



「気にしないで下さい。それより姿を現すのが遅いと。痛い目に遭いますからね??」



 真冬の軒先に生える冷たい氷柱よりも冷たくて痛々しい言葉を残し、若干の怒気を部屋に置いて去ってしまった。



 はぁ――……!!


 やっぱりカエデには隠し通せなかったか……。



「アオイ。起きて??」



 布を捲り、今も安らかな寝顔を浮かべているアオイへと話し掛ける。


 ん??


 あぁ、皆が入った所為で熱が籠ったんだな。


 先程より頬がふっくらと蒸気しており汗ばんだ肌が妙に男心を擽る。



「アオイ??」



 肩を揺すり、話し掛けるも。



「…………」



 新鮮な空気が余程心地良いのか。


 寝顔が更に柔和な物へと変容してしまう。


 参ったなぁ。無理矢理起こすのも憚れるし……。



「起きろって」



 肩を揺するも動じず。それより下は流石に触れる事は出来ぬ。



「参ったなぁ。頭でも撫でるか??」



 声に出してぽんっと白く美しい頭に手を乗せると……。



「……っ」


 にへらと口角がきゅっと上がる。


 …………。


 んん??


 乗せた手を退けると。



「……」



 むぅっと口が尖る。


 こ奴め……。役者よのぉ。いつ起きたんだろう??



「もう一度、頭を撫でようかなぁ――」



 ワザとらしく声を上げて手を動かす所作を見せると。



「……っ」



 こちらの雰囲気を察してか再び笑みを浮かべた。



「こら、起きているんだろ?? 御飯が冷めるから先に行くぞ」



 腰に絡む腕を強制的に解除してすっと立ち上がる。



「んふっ。大変素敵な一時でしたわ」



 コタツの中から顔だけをひょこりと覗かせ、悪戯な笑みを浮かべて俺を見上げた。



「あのね。そっちは楽しかったかも知れないけど。俺は気が気じゃ無かったの」


「いいではありませんか。私とレイド様。二人だけの秘密みたいで……。アオイは楽しかったですわよ??」


「カエデにバレてたぞ」


「足が触れてしまいましたからねぇ。それと、魔力を感知したのでしょう」


「成程。そこから起きたって訳か」


「えぇ」



 にぃっと淫靡な笑みを浮かべた。



「それより、東雲を迎えてあげなくていいの??」



 その為に誰よりも先に温泉から上がり、そして上がった勢いで俺の部屋に侵入したのか。


 東雲も可哀想だよな……。初の斥候の任を請け負い無事にその任を終えて帰って来ても誰も迎えてくれないのだから。


 時間があれば俺が出迎えてあげようかな??


 上着の皺を伸ばし、いざ食事処へ向かおうとすると。



「…………。お呼び致しましたか?? レイド様」



 にゅうっと黒い顔がコタツから這い出て白の隣に並んだ。



「何時の間に……」


「アオイ様が湯から出た時に迎えて頂きました。そして、今はこのコタツの心地良さを享受しております。あぁ、羽を動かす筋力が解き解されていく様です。コタツとは気持ちの良い物ですねぇ」


「それより……。ありがとうな?? 斥候に向かってくれて。御蔭様で明日の作戦は上手くいきそうだよ」


「も、勿体ない御言葉です!! 初の実戦で緊張してしまって……。アオイ様へ送り届けるもぎこちなく……」



 若干シュンっと項垂れて話す。



「そんな事ありませんわよ?? 向こうの光景は確とこの目に届きました。良くやりましたわね?? 東雲」



 烏のつるりと丸い頭を細い指が伝う。



「あぁ……。至福の一時です……」


「ふふ、そのまま休んでいればいいよ。俺は今から食事に行って来るからね」



 さてと、出発しようかな。


 カエデが話す通り食事に遅れると痛い目に遭いそうだし。これ以上の痛みは明日の作戦に響く恐れがありますので。



「レイド様――。アオイはぁコタツの中で逆上せてしまってぇ。動けませんのぉ」



 扉へと進むと猫撫で声が背に届く。



「それはいけませんね!! レイド様。アオイ様がこう仰っているのです。食事等より、ここで横たわる華麗な女性を召し上がりませんか?? しっとりと……。たわわに実った果実はさぞやレイド様を興奮させる事でしょう。それに、この艶のあるお肌。女でさえ色を覚えてしまう光沢に私は……」



「先に行っているからね――」



「「えぇ――――……」」



 最後は見事に声を合わせて俺の背を見送ってくれた。


 そんな事をしてみなさい。


 四肢が綺麗に寸断され、千切れ飛んだ体の一部を狼さんが咥えて何処かへと放り投げ。余った部分はミノタウロスさんの剛腕の投擲によって大陸の端に移動、更に海竜さんの熱焼却によってこの世から存在を消失させてしまう。


 普通に死を迎えるよりも更に恐ろしい死が待ち構えているのだ。


 うぅ。想像しなきゃ良かった。


 背に走る悪寒を振り払い。



「あぁ――ん。レイド様ぁ――……。私ぃ、何だか熱っぽいかもぉ。胸元が異常に熱いですわぁ」


「レ、レイド様っ!! これが最後の機会ですよ!? アオイ様が何んと体調不良を訴えているのです!! 男らしく介抱すべきかと!! と、特にっ!! 汗ばんだ胸元を集中的にぃっ!!」



 そんなに激しくばっさばさと翼を動かすと羽が落ちてしまいますよ??



「それじゃ、お先――」



 意味不明な言葉を放つ御二人を部屋に置き去りにして若干冷たい空気が漂う通路へ出ると、周囲に漂う静けさを乱さず慎ましい速度で食事処へ進んで行った。




最後まで御覧頂き有難う御座いました。


コタツを登場させたのでどうせならこれを使った何かを書けないかなぁと考えての御話でした。


御使いの開始まで後数話挟みますのでもう少しだけ彼等のちょっとした日常にお付き合い頂ければ幸いです。


いいねをして頂き有難う御座います!!


少しずつですが上向きになりつつある体調に嬉しい知らせとなりました!!



暑い日が続きますが、読者様も体調管理には気を付けて下さいね。


それでは皆様、お休みなさいませ。

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