第五十三話 淫魔の女王の御戯れ
お疲れ様です!!
本日の投稿です!!
それでは、どうぞ!!
「ねぇ、早くぅ――」
申し訳ありませんが、そのたわわに実った果実を強調させるのはお止めください。
椅子に座った姿勢のまま前屈みになり、両腕でぎゅぅぅっと双丘を挟んで強調させる彼女に視線のシの字も当てられず。
宙と痛んだ木の床の傷跡を交互に見つめながら、妙案を練っていたが……。
辿り着く答えはどれもこの一択であった。
『皆、申し訳ない。一時撤退しよう』
相手は、我が隊の総司令が恐れる程の傑物だ。
何も戦う選択肢を態々選ぶ必要は無い。
例え選んだとしても、喜ばしくない結果が待ち構えている筈。
機を窺い、策を練り直して相対すれば良い。無策で来た時点で此方の負けは確定的であった……。
己の実力不足感は否めないし、此処の兵達には申し訳無いが。
忸怩たる想いを飲み込み、噛み締め。再び此処へと戻って来よう。
『反対よ!! 逃げても取っ捕まるに決まってんじゃん!! ここではったおして、ぶちのめせばいいじゃん!!』
それが出来ないと予想するから撤退するのですよ??
短絡的な考えは此処では御法度です。選択肢を間違えれば誰かが傷付く虞がある。
傷付くだけならまだマシだ。
最悪……。
誰かが命を落とす可能性もあるのだから。
『賛成ですわ』
アオイは俺の意見に肯定か。
戦闘に関し、冷静な彼女の肯定は素直に嬉しいですね。
『あたしも賛成。カエデがビビる位だからな』
『これは武者震いです。しかし、私もレイドの意見に賛成ですね。今から退却する為の案を練りますので皆さんは会話を続けて……』
会話を継続させて彼女の気を紛らわす作戦ね。
了解しました。
時間稼ぎの会話を考えつつ、エルザードさんの方へ振り向くと。
「――――――――。んふっ。作戦会議は終わった??」
「っ!?」
此方が有耶無耶な意思を伝える手前。
相も変わらず美しい顔でニッコリと笑みを浮かべ、此方の作戦を見透かした様な声色で話し掛けて来た。
ま、まさかとは思いますけど……。
此方の考えをお読みになったので??
「い、いや。ちょっと考え事をしていまして……」
『カエデ!! 念話の内容って盗み聞き出来るの!?』
『出来る訳ありません。レイドの顔に書いてあったのでは無いのですか?? 撤退の二文字が』
えぇ……。
俺ってそんなに分かり易い顔してるの??
海竜さんのお叱りの声を受けると、シュンっと気が落ち込んでしまいますよ。
「ふぅん……。そっかぁ。どんな作戦なのかなぁ――」
椅子から徐に立ち上がり、パチンっと指を鳴らすと。
「「「っ!?!?」」」
この部屋全てを包む分厚い結界が展開されてしまった。
「はい、これで袋の鼠。逃げ場無しっ。困ったわねぇ――。退却出来なくなっちゃってぇ……」
退路が塞がれるのは戦場に置いて最も危惧すべき事態だ。
訓練施設で受けた指導でもそう習ったのだが。今一、実感が湧かなかった。実戦の経験が無いからそう感じたのでしょう。
しかし!!
いざ、自分の身で体感すると……。こうも恐ろしいのですね。
「うふふ……。さぁ、遊びましょう??」
「え、えっとぉ。遊ぶ相手は他に居ると思いますよ?? ほ、ほら!! 世界は広いって言いますので!!」
不味いぞ!!
何んとか退路を確保しないと!!
「貴方じゃなきゃ…………。ヤッ……」
大好物を目の前にして迫る猫のしなやかな足取りで距離を削り、その場に留めようと体を拘束する甘ったるい声色が全身を襲った。
その声色はお止めなさい!!
はしたないですよ!!
「んふふっ。逃げないのっ……」
弱者を痛め付ける事を想像したのか。
淫らな液体を纏わせた舌で小さな唇をペロリと舐め。
嗜虐心が矢面に出てしまっているエルザードさんから後退りを始めると。
後方からとんでもない圧が放たれた。
「あ――もう!! 面倒だ!! 蜘蛛!! カエデ!! ユウとレイドと私が前に出る!! 後ろから援護しろ!!」
マイが己を鼓舞するように叫び、魔力を解放。
「ユウ行くわよ!?」
「上等だぁああああ!! マイ!! 行くぞ!! 来やがれ!! タイタン!!」
「おぉう!!!! こぉい!! 覇龍滅槍!! ヴァルゼルク!!」
二人が継承召喚を手に取ると同時に、か細い体へと襲い掛かった!!
しまった!!
出遅れた!! せめて作戦を伝えてから襲い掛かって下さいよ!!
慌てて龍の力を解放し、大変心強い御二人の背中から急襲を開始した。
「あらっ。やっぱり大魔の血を引く者達よねぇ。強いつよぉい」
俺達の攻撃を見透かしたのか。
瞬き一つの間に己自身を守る結界を展開。
「ちぃっ!! 鬱陶しい結界張りやがって!!」
「マイ!! レイド!! もっと強く叩け!!」
「やってるわよ!!」
「こっちもこれが精一杯だ!!」
三人が上下左右に強打を放つも……。
彼女が展開した自身を守る結界は綻びる事は無く。
「ふわぁぁ……。もっと腰を入れて攻撃しなきゃ駄目じゃない」
その中で彼女は呑気に此方を眺め、剰え大きな欠伸を放っていた。
その姿に触発されてか。
防御よりも『攻撃』 する事が大好きな御二人の攻撃が単調な物へと変化してしまった。
「ぜ――んぜん駄目。落第点以下の点数しかあげられないわ。あ…………。胸の話じゃないから安心してねっ??」
「こ、このっ!!!! ふしだらな女めぇええええ!!」
本日二回目の禁忌発動に対し、狂暴な龍の頭の中から何かがプチっと切れる音が発せられる。
空気を裂く勢いで黄金の槍を上段へと構えたが……。
「はいっ、後ろに吹き飛びますよ――」
「ぐぉっ!?」
見えない衝撃波がマイを襲い、彼女が話した通り小さな体が後方へと吹き飛び。
「きゃぁっ!?」
後方から援護しようとしているカエデの御顔に、深紅の女性の丸い臀部が直撃した。
うわっ。
痛そう……。カエデ、大丈夫かな……。
「いてて……。腰、いったぁ――」
「ふぁい!! 退きふぁさい!!」
「ひゃんっ!!」
戦いの最中に何て声出すんだよ、アイツは……。
「レイド!! あたしに合わせろ!!」
上段から振り下ろされた銀色の大戦斧が結界を打つ。
「おうっ!!!! ここだぁ!!!!」
大戦斧の刃が鈍い音と共に弾かれると同時に、右の拳を一気苛烈に捻じ込んでやった。
どうだ!? 手応えは十分過ぎる程あったぞ!!
祈りにも似た感情で突き出した拳を引くと…………。
「あらっ?? こぉんな所がひび割れちゃった――」
ほんの僅か……。蟻の胴体程の大きさではあるが。
結界に綻びが生じた。
呑気に割れた付近を見つめ、全く危機を感じさせない声色で話す淫魔の女王。
しかし。
この機を逃す者は、此処に存在しなかった。
「ユウ!! あそこに攻撃を集中させるわよ!!」
「分かってる!!」
カエデの御顔を緩衝材として利用したマイが風を纏って復帰。
ユウと共に綻びへ向かって黄金の槍と、大戦斧を翳して己の膂力の限りに叩きつける。
「アオイ!! 行きますよ!! 立ちはだかる敵を穿て!! 氷槍!!!!」
「分かっていますわ!! 焼き殺せ!! 紅蓮牡丹!!!!
カエデが氷の槍を上空から降らせれば。
いつの間にかエルザードさんの後方へと移動していたアオイが紅蓮の大火球を放射。
前後左右。
逃げ場無しの攻撃は正に圧巻を極めた。
「二人共避けて下さい!!」
「「あいよう!!!!」」
氷の槍が結界に突き刺さり、火球が着弾すると同時に爆音と肌を焦がす熱波が生じ。
燻す煙が室内に充満する。
や、やったか??
煙が晴れ、そこから姿を現したのは……。
「あはっ。割れちゃったっ」
己を守る術を失ったというのに、それを微塵さえも感じさせない余裕の笑みで飄々と話すエルザードさんが現れた。
好機到来!!!!
ここで勝負を掛けるぞ!!!!
俺と同じ想いなのか。
全員が持てる力の全てを出し尽くすと決意に満ちた表情で苛烈な攻撃を再開した。
「貰ったぁあああああ!!」
ユウの膂力が上空から細い体へと急襲。
さ、流石にそれは駄目でしょう。
真っ二つにしたら話し合い処か。種族間の戦いが始まってしまいますよ!?
エルザードさんの右手側から襲い掛かりながらその様子を注視するが……。
「きゃあっ。私の体、両断されちゃう――」
「ちぃっ!!!!」
此処一番で緊張したのか。それとも相手を労わるユウの優しさ所以か。
怪力は頷けるものの、速度に陰りが見えてしまった。
避けられるか!? それなら、避けた先へ……。
これを捻じ込む!!
拳を熱く握り、エルザードさんの次なる一手を待った。
「ん――。威力はまぁまぁだけどぉ……。遅いわねぇ」
え!?
避けないの!?
上段から襲い来る大戦斧に対し。
全くの無防備で迎える淫魔の女王。
もう直ぐ体が両断されてしまう。
悲惨な光景が目の前に出現するかと思いきや、更にその上を行く珍妙な光景が出現した。
エルザードさんが右手をすっと掲げ、襲い来る刃に右手を翳すではありませんか!!
う、受け止めるだと!?
その細い腕でそれは無理だろ!!
「――――――――。ちっ!!!!」
「どうしたの――?? ほらっ、私の細い腕に敵わないのかなぁ??」
嘘でしょ!?
ユウが額に汗を浮かべ。大戦斧の刃を振り下ろそうとしても、彼女の右手がそれを易々と阻止してしまっていた。
有り得ないだろ!!
あんな細い腕で怪力を止められる筈がない!!
「はいっ。あなたは舞台から降りてね――」
「は?? どわっ!?」
エルザードさんの左手が光ると同時にユウの体が後方へと吹き飛び。
「ユウ!!」
吹き飛んだユウの姿を視線で追ってしまったマイは。
「戦いの最中に余所見は禁物――」
「あぁ!? ぐわっ!?」
ついでに吹き飛びなさいと言わんばかりの光球を腹に直撃させられ。
「いてて……」
「ユウ!! お尻が邪魔ですわ!!」
「んおっ!? 何?? あたしを受け止めてくれたのか??」
「そんな馬鹿な事言っていないで、今は戦いに……。っ!?」
結界間際で絡み合っている美しい花達へ、『真っ赤な御花の贈り物』 ですよ――っと。
大変お強い贈与者からの嬉しい贈物が届けられてしまった。
「ぬわぁぁぁあああああああああああ!!!!」
「は?? ばむぐっ!?」
くの字に折れ曲がった体の先。マイの臀部がユウの顔に直撃。
「こ、この!! 役立たず!! 退きなさい!!」
「誰が役立たずだぁ!! あぁぁぁぁぁあ!? 噛み殺すぞ!!!!」
「マイ!! 右手を動かすなぁ!! 出ちまう!!!!」
こうして、世にも珍しい花達が室内に咲き乱れ。複雑に絡み合う花園の完成となりました。
ってか、マイの右腕。
どうなってんの??
そんな事よりも!!!!
態勢を立て直す時を稼がねば!!
「カエデ!! 援護を……」
突撃の姿勢を構え、両足に力を籠めて援護を請うが。
「くっ!! ふ、不覚です!!」
我が隊の司令官の体に光の輪が浮かび。
四肢を、そして体をぎゅうぎゅうと締め付けていた。
な、何!? あれ!!
「あはっ!! 小さい体なのに、結構……。大きいのね??」
光の輪からはみ出る海竜さんのアレを見つめつつエルザードさんが話す。
うん。
華奢な体の割にカエデって意外と……。
「う、五月蠅いです!! レイド!! 厭らしい目でこっちを見ていないで!! 時を稼いで下さい!!」
「わ、分かっています!! 行くぞっ!!」
真っ赤に燃えてしまったカエデさんの御顔さんから刹那に顔を反らし、煩悩を全て捨て去り。
体の中心から力を右腕へと搔き集めて龍の力を最大解放。
同時。
心に闘志を灯し、己を鼓舞した。
さぁ……。
行くぞ!!!! 俺の力が何処まで通用するのか、試してやる!!!!
「んふっ。凄い圧ねぇ……。私、こわぁいっ」
この力に反応したエルザードさんが嬉しそうな笑みを浮かべ。此方へと無防備のままで歩いて来た。
魔法は得意だろうけど……。
接近戦には此方に分がある!!
脚力に全身の力を籠め、一気苛烈に彼女の懐へと侵入を開始した!!
「レイド!! 駄目っ!!」
「そ――そ――。藍色の髪のお嬢ちゃんの言う通りよ?? 私が接近戦に不慣れだと思ったのかしら??」
呑気に話しますけどね!?
もう突撃を開始しましたので、止められないのです!!
「ずあぁあああ!!」
右の拳に渾身の力を籠め、端整な顔を向けて放つが。
「う――ん……。速さは及第点をあげるけど。愚直過ぎ」
「へ!?」
確実に捉えたと思ったのに、気が付けば俺の体は空中でクルクルと。面白い回り方で数回転した後に。
「はい、ごっつん!!」
「いってぇ!!」
地面に叩きつけられてしまった。
今のは何だ!?
全く見えなかったぞ!?
「重力操作と風の魔法をちょいちょいっと使ったのよ」
「は、はぁ……」
ニッコリと笑みを浮かべて俺を見下ろす姿がまぁお似合いで……。
「さてと。私に攻撃を加えた罰を与えないとね」
「は?? うわっ!?」
彼女が指をパチンと鳴らすと、カエデの体を拘束している物と同じ光の輪が俺を拘束。
「はぁ――い。浮きま――す」
人差し指をクイっと折り曲げると。ふわりと宙へ浮き。
「んふっ。どんなぁ、罰が御望み??」
俺の首に両手を絡め、大変馨しい香りを確知出来てしまう距離へと体を寄せてしまった。
こんもりと盛り上がったお肉さんがまぁ、フニフニと柔らかい事で……。
「え、えっと……」
『カエデ!! 不味い!! 何としてくれ!!』
『分かっています!! けど……。拘束が解けないのです!!』
万事休す、か??
「ん――……。このまま殺しても面白くないしぃ……。ちょっと面白い遊びを与えてあげるわ」
「あ、遊び。ですか??」
指を一本ずつ折るとか勘弁して下さいね??
「今、パっ!! と思いついたんだけどね。明日には此処の人達を解放してあげる」
「本当ですか!?」
遊び云々よりも其方の方が嬉しいですね……。
これで任務は滞りなく……、では無いですけど。完遂出来る。
そう考え、ほっと胸を撫で下ろしたのが不味かった。
「その代わり。あなたの体と命を三日後に……。迎えに行くわ」
「へ?? 三日後って……」
安堵の息を漏らした刹那。
何を考えたのか。
俺のシャツをガバッと大胆に開き。
エルザードさんの右手の人差し指が怪しく光り輝くと同時に、俺の左胸付近へと突き刺した。
「うわぁああああああああああああああああ!!!!」
皮膚を切り裂く痛みと、神経が麻痺してしまう感覚が体内を駆け抜けて行く。
肉を焦がした燻す香りが鼻腔へと届き強烈な痛みから逃れる為、喉の奥から声を振り絞った。
な、何だ!! この痛みは!?
激痛って言葉じゃ足りないよ!!!!
「淫魔の女王様の所有物だぁって印を刻んでいるからね――。動いたらもっと痛いわよ――」
印!?
これで動くなって方が無理ですよ!!!!
「うぐぐぐぐぐ!!!! あぁぁああああああああああ!!!!」
熱したナイフで皮膚を傷付けられている感覚から逃れる為。
体が無意識の内に激しく痙攣し、無意味に足をバタつかせるものの。痛みからは解放される事は無く。
口からは絶叫が漏れ始めてしまった。
こ、これ以上は駄目だ……。
い、痛過ぎて死んじまう!!!!
「後少しっ。ほら、男の子でしょ?? 頑張りなさいっ」
「ぐぐぐぐぐ!! あがぁっ!!!!」
駄目だ……。
このままじゃあ……。意識が……。
襲い掛かる熱と痛みに項垂れ始めると。
「はい、仕上げはぁ……。こ――れっ。――――――――んっっちゅっ」
体に刻まれてしまった印に淫靡な唇を密着させ、体の中から溢れ出る怪しい紫の光を俺の体へと吹き込み。
それと同時に光の輪が消失した。
お、終わったのか??
「三日後に迎えに行くから、それまで余生を楽しむ事ね――。それじゃあ……」
エルザードさんが両手を掲げると、部屋全体に深紅の魔法陣が出現し。
「じゃあねぇ――!!」
彼女の体から眩い光が放たれると同時に視界全てが白い靄に包まれてその姿が見えなくなってしまった。
い、一体この魔法は何だ……。
白く霞む景色の中に包まれ、周囲から光輝く閃光が放たれ瞼を襲う。
目も開けていられない程の光量が放たれる白い霞みの中。
俺達は一切の身動きが取れず、只々呆気に取られながら白の中へと姿を消失させてしまったのだった。
お疲れ様でした。
最後まで御覧頂き有難う御座いました!!




