第百三十四話 悦に入るケダモノ その一
お疲れ様です。
休日の深夜にそっと投稿を添えさせて頂きます。
それでは御覧下さい。
大の男が無防備な背中を此方に見せると口から悲壮に塗れた声を吐き出して、誰かに助けを請うかの様に四つん這いの姿勢で俺から徐々に遠ざかって行く。
主観的にも客観的に見ても既に勝敗は決した。だが、本当の恐怖はこれから始まるのだ。
はは、いいぞ。
恐怖に顔を歪ませながら何処までも逃げろ……。俺はお前の命を刈り取る為、現世に降臨した死神だ。
深紅の血で喉の渇きを潤し、絶望に塗れた声で心を満たしてやる。
さぁ……。お前の命を俺に寄越せ。
『えへっ。レイド君!! あのデカイ奴のさぁ……。腸、零してやろうよ!!』
『腸ぁ?? 生温く無いか?? どうせなら……。そう、心臓を抉り出して。あのデカイ口から捻じ込んでやろう』
『あはっ!! それいいねぇ!!』
な、んだ。この感情は……。
まるでこの世の全ての激情を吸収して己自身の力に変えているようだ。
負の感情が正の感情へと置き換わるこの不思議な感覚に囚われ続けているが。それを跳ね除けようともせず、只々身を委ねていた。
体中に漲る力。魂から止めどなく溢れ出す憎しみ。ドス黒い炎で燃え盛る魂。
あぁ……。こんなにも心地良い物なんだな。
憎悪とは。
さぁ、先ずは恐怖の饗宴の手始めにコイツの心臓を抉り出して悪魔に捧げてやろう。
俺の不穏な気配を察知したのか。
「な、何をするつもりだ!?」
デカ物が逃走を止めて此方へ振り返り、大粒の涙を瞳に浮かべて泣き叫ぶ。
「あ?? あぁ……。気にするな。痛みは一瞬だ」
腰に右手を回し、短剣を抜剣する動きを敢えて遅々とした所作で行う。
さてと、心臓か。
胸の肉を抉り、胸骨を一本一本叮嚀に裁断。太い血管をぷつりと切り裂き、こいつに見える様にドクドクと鳴動する心臓を取り出してやろう。
あれだけデカイ体だと出血の量は相当な物だろうなぁ……。
しまった。この街の綺麗な土が大量の出血で汚れてしまうぞ。
くるりと振り返り、汚物を見てやると。
「ひ、ひぃぃ……」
剥がれかけた爪に襲い掛かる激痛に耐えながら己の吐瀉物を埋める為の穴を掘削中であった。
よし、あいつに手で掘らせよう。ついでにこいつの墓穴もな。
頭の中で素敵な計画を纏めて振り返ると。
「おいおい……。お前、調子に乗るのもいい加減にしろよ??」
「ハ、ハークぅ!!!! た、助かったぜ……!!」
「そいつはもう戦意を失っている。俺が相手だ」
この雑魚傭兵達を一手に纏める金髪が英雄気取りで俺と対峙しているではありませんか。
一丁前に大地に足を着け、こちらと同じ目線、同じ境地にいるかの立ち振る舞いが大いに苛立たせる。
「聞いているのか?? 俺が相手だって言ってんだよ」
「あ?? あぁ、お前が相手を務めてくれるんだな??」
「そうさ」
既に勝利を確信して自信に満ち溢れたこの顔。
恐怖で歪ませ、咽び泣かせ、深紅の血で惨たらしく染めてやりたい。
「へへ。お前、ハークには勝てねぇぞ?? 何だって、格闘術を使うんだからな!!」
ほぉ、それは良い事を聞いた。
「悪い事は言わない。女を置いてさっさと失せな」
ハークと呼ばれる男が生意気にも体を斜に構えて型を取る。
全く……。
格闘術を使用するのなら俺とお前の実力差が分からない訳じゃないなだろう??
それとも金髪の目が節穴、若しくは蟻以下の理解度しか持ち合わせていないから理解に及ばないのか。
いずれにせよこの世には理不尽な強さを持つ傑物共がごまんと存在する事を身を以て分からせてやろう。
「おい、ウジ虫」
「あぁっ!?」
「あ、悪い。ウジ虫さんに悪いな。害虫、お前は格闘術を使うんだよな??」
「そうだ。体中の骨を折ってやるからな。覚悟しろよ??」
「ふぅん」
相手の間合いに真正面から無防備で入り、体の弱点を敢えて曝け出してやった。
ほら、好きに打って来い。
「お、おいおい。いいのか??」
「何が??」
早く打って来いよ。
もう二度と訪れないかも知れない千載一遇の機会だぞ??
「そんな無防備な構えでもいいのかって聞いているんだよ。お前も格闘術を使えるんだろ?? 俺との実力差を思い知らせてやるから、構えやがれ」
はぁ――。
俺の想像通り昨今の傭兵共は己の実力と相手の実力を測る力を持っていないらしい。
「いいのか??」
「いいっつってんだろ!! 早くしやがれ!!」
仕方が無い。
惨たらしく暴力の塊をぶつけてやりますか。
「……」
肩幅に足を開き、斜に構え、両手を上げ。世界最強の型を構えてやると。
「…………っ!?」
俺の放つ圧を受け、害虫の体が刹那に硬直してしまった。
はは。早速一本、貰ったな。
「――――。どうした。打って来ないのか??」
「え?? あ、あぁ。勝負を始めるぞ!!」
相手の間合いに入ったままで気を切らすなんて……。
素人もいいところだ。
「くらえぇ!!」
格闘術を齧っている事もあり、人体の弱点へ的確に拳を放って来る。
弱点を熟知しているこちらにとってそれは好都合だ。
攻撃の軌道、着弾までの速さ、一本一本の筋線維の動き。害虫の全ての動きが手に取る様に分かってしまう。
ほら、右が来るぞ。
「だあぁぁ!!」
お次は流れた体を利用して左足を軸に放つ右上段蹴り。
「だっ!!」
参ったなぁ。
こうも相手の動きが手に取る様に理解出来てしまうと弱い者虐めが楽しくなってしまうじゃないか。
空を切った右足を大地に着けて再び右の正拳が襲い来る。
「はっ!!」
茶番はこれくらいでいいよな??
次の左の拳に合わせるぞ。
「おらぁっ!!」
ふふ、頭をちょいと揺らそうかな。
右手で拳を逸らして左の拳を金髪の顎先へ掠らせてやった。
「うおっ!? へへ。中々速いじゃないか!!」
「ど――も」
「動きそして体捌き。今まで相手した中でお前程…………。あ、あれ??」
得意気に話している最中に体を襲った平衡感覚の混乱によってがくりと両膝を地面に着き、地面に倒れまいとして上半身を支える為に両手で大地を捉えた。
「か、体が……」
「驚いたか?? 薄皮一枚顎先へ掠らせてやったんだよ」
四つん這いになる金髪の前に立ち、悠々と見下ろして言い放ってやる。
「そ、そんな。お、俺は負けてねぇぞ!? 此処からが本番だからな!?」
「あはは!! そうそう、悔しいよなぁ?? 無様だもんなぁ?? 四つん這いの気持ち悪い姿勢で俺に見下ろされたら腹が立つよなぁ??」
情けなく這いつくばる姿はお前さんに良く似合っているよ。
絵描きさんにこの姿を一枚描いて欲しいくらいだ。
題名は……。
『地面に這いつくばる害虫』 だな。
「て、てめぇえ!!」
害虫が分かり易い憎悪を解き放ち、歯を食いしばって立ち上がり再び俺と対峙した。
「良い気合だ。ほら、俺は立っているぞ?? 倒して見せろよ。害虫」
「く、くそが!! あぁぁああああ――ッ!!!!」
左右の素早い連打とその合間を縫った強力な烈脚が俺を襲う。先程と比べて数段上の殺意が籠められた攻撃は敵ながら天晴だとは思う。
だが……それだけだ。明確な意志を持った攻撃も当たらなければ意味が無い。
「当たれ……。当たれよぉ!!」
悔しさで顔を歪ませ、空を切る拳と脚に憤りを感じて目に薄っすらと涙を浮かべる。
大の男が情けないなぁ。
「面白い遊びをしてやろうか??」
「あぁ!?」
「俺が宣言する場所へ攻撃を当ててやる」
「やれるもんならやってみやがれ!!」
一応、伝えたからな??
「だっ!!」
着弾までの間、熱い御茶に息を吹きかけてゆるりと冷まして飲めてしまいそうな速さの右拳が向かって来た。
「左、脇腹」
「うぐっ!!」
丁寧に左で弾き敢えて折れない強さで指摘箇所を打ってやると、脇腹を庇い俺から一歩後退。
「みぞおち」
「あうっ!!」
がら空きの胴体へ左の追撃を放つと両腕で腹を抑え、地面に膝を着けまいとしてその場に留まる。
「ぜぇ……。ぜぇ……。おらあぁあ!!」
「右頬」
「あがっ!?」
あっ、悪い。
まさか撫でるだけで倒れるとは思わなかったよ。
俺の拳を受け取ると右膝を着き、痛む節々を抑えて今にも泣きだしそうな瞳で俺を見上げていた。
「額」
「がっ!!」
左足の爪先で軽く蹴り飛ばし、引き続き仁王立ちで害虫を見下ろす。
ごめん。
拳を出すのも面倒だったからつい蹴っちまった。
「首」
「いぎっ」
どうぞ好きに打って下さいと俺に懇願する害虫の首へ向かい、少しだけ力を籠めて蹴りを放つ。
はは、今ので折れなかったな??
ちょっとは鍛えているようだ。褒めてやるよ。
「右胸」
「あぁっ……」
「背中」
「うっ……」
俺の攻撃を受け続けて行くと徐々に瞳の光が消え失せ、体中の胆力が失われて行く。
右に打てば左に流れ、下から打てば上に跳ね上がる。
まるで横着な子供の破壊行動に抗えない壊れかけの人形の動きが実に滑稽に映った。
「左頬」
「はうっ……」
「鼻」
「んぎっ……!!」
鼻から大量に出血して顔が深紅に染まる。
よし、徹底的に鼻を攻撃し続けて二度と鼻呼吸出来ない体にしてやろう。そうすれば二度と今回の様な愚行を行わないかも知れないし。
それに……。醜い鼻の形になればこの害虫に近寄って来る女性も居なくなるだろうから一石二鳥じゃないか。
右の拳に力を籠め、勢い良く振り抜こうとした刹那。
「も、もう……」
「もう?? 続きを聞かせろ」
「もう……。許して下さい……」
大量に出血する鼻を抑えて情けない声で俺に許しを請うてきやがった。
「駄目だ」
「か、勘弁して下さい!! あなた達に手を出した事は謝ります!! もう二度と愚かな行為はしませんから!!」
恥も外聞もかなぐり捨て、血と涙で汚れた醜い顔で見上げる。
「鼻」
「は?? がはぁっ!!」
中途半端に力を籠めた拳で鼻を穿ってやる。
実に心地良い音だ……。骨と肉の衝突音が耳に心地良く、乾ききっていた心に恵みの雨が降り注ぎ潤ってしまうぞ。
「お、折れた……。は、鼻がぁ!!!!」
「鼻くらい折れても構わんだろう。死ぬ訳じゃあるまいし」
「い、たい……」
このクソ野郎。
この期に及んでまだ俺の感情を逆撫でする気か!?
「痛い?? そうだ。それが痛みだ。お前が、お前達が彼女に与えた痛みはそんなもんじゃないぞ。分かるか……。心の苦しみはなぁ、決して癒される事は無いんだよぉ――!!!!」
「え?? ぎぃぃやぁぁああ――――ッ!!」
右の爪先で害虫の腹を蹴り上げて宙へ放り出してやった。
『あははっ!! 飛んだねぇ!!』
後方へと吹き飛んで行き、地面の上を転がり続ける様はまるで子供が無邪気に蹴り飛ばした蹴鞠の動きにそっくりだ。
「ぐっ……。えぇぇぇ……」
使い古されたボロ雑巾のなれの果てよりも酷い恰好で地面の上に横たわる。
クズ中のクズにはお似合いの姿だ。このまま命を刈り取ってやってもいいが……。
「おい」
「は、はい……」
「さっさと失せろ。お前達の顔は二度と見たくない」
害虫から踵を返し、いつの間にか遠ざかってしまった食事処へと歩みを進めた。
『え――!?!? 許しちゃうの――!?』
『もう二度と愚行は繰り返さないだろう。これだけ痛めつければな』
『や――だ――!! もっと血を見たい――!! 腸っ!! 心臓っ!! ピカピカで新鮮な五臓六腑を日の下に引きずり出そうよぉ!!』
その意見には賛成だがな。
どんなクズでも生きる権利はある。それを俺一人が好き勝手に奪うのは……。
だが、クズであるが故に再び過ちを犯すかも知れない。そうなると此処で命を断った方が賢明なのか??
苦しい自問自答を繰り返し、重い足取りで元居た店へと歩んで行くと。
「お、俺は……。負けて、ねぇ……。は、はは。殺して……やる。殺してやらああぁあぁ――ッ!!!!」
憎しみ、義憤、憤慨。
負の感情に身を委ねて右手に殺意の塊を握り締め向かって来た。
…………。
抜いたな??
「はああぁあぁああぁ!!!!!!」
俺にぶつける明確な殺意。相手を刺殺しようとする確固たる決意。
そうだ、最初からそうすれば良かったんだよ。中途半端に調子に乗るから要らぬ傷を負うんだ。
右手を腰へ回し、地面に針が落ちる音よりも静かに短剣を抜剣した。
「死ねぇぇええええ――――ッ!!」
「……」
害虫の短剣を振り向き様に真っ二つに切り落としてやると。
「――――。えっ??」
美しい鉄の断面を覗かせた己の刃を呆気に取られて眺めていた。
「おい。抜いたな??」
「え」
「抜いたって事は……。それ相応の覚悟がある訳だ」
「ち、違います。お、俺は……」
俺が放つ圧に体が耐えられなくなったのか。
すとんと腰を落として情けない姿で後退りを始める。
「相手を殺す覚悟がある者。それは殺される覚悟も当然ある。そう捉えても構わないな??」
「そ、そうじゃない!! や、止めて……。こ、こ、殺さないで!!」
「酷いな?? お前は俺を殺そうとして抜剣したんだろ?? 俺にもその覚悟を持たせてくれよ」
俺は生まれて初めて明確な殺意を籠めて短剣を握り締めた。
これが……。人を殺める気持ちか。意外と何も感じないんだな。
乾いた砂漠に吹く風の様に無味乾燥な感情が心の中に静かに吹く。
「だ、誰か……。助けて……」
「それだけか?? 遺言は」
後、数十歩。
「い、嫌だ!! 俺は死にたくない!!!!」
「そうだよなぁ。いつもと変わらない日常を謳歌していたら……。突如として惨たらしい死が訪れるのだからな。襲い掛かる理不尽な死を嘆いて無意味に足掻こうとするその気持ちは分かるぞ」
後……。数歩。
「ひぃっ!! た、た、助けて下さい!! お願いしますから!!!!」
『殺せ……殺せ……殺せ……殺せ……殺せ……殺せ……。アはハはハァッ!!!! 殺しちゃえ!!!!』
あぁ、分かっている。
こいつは……。生きていてはいけない人間だ。
冷たい大地に尻もちを着き股から情けない液体を漏らす男へ向かい、俺は非情の刃を振り上げた。
『……………………。レイド!!!!』
「ッ!?!?」
うあっ!?!?
いざ短剣を振り下ろそうとすると、頭の中に突如として轟雷が降り注いだ。
い、今の声は……。カエデ??
あ、あれ?? 俺は一体……。
茫然自失になり、右手に持つ厚みのある短剣をぼうっと見つめていた。
『正気に戻りましたか??』
『へっ?? あぁ。うん……』
自分が何をしたのか明瞭に記憶は残っている。しかし、何故自分がこんな恐ろしい行為を行おうとしたのかが理解出来ないでいた。
まるで……。
他人が俺を意のままに操り、俺は第三者の視線で己の内側から見ていた様な。
そんな不思議な感覚だった。
「ゆ、許してくれるのですね??」
「え?? あ、おう。残りの面子を連れてこの街から出て行ったら??」
「は、はい!! あ、ありがとうございます!!」
流石にや、やり過ぎたかな。
あそこまで怖がる必要は無いのに。
でも自業自得、だよね??
そそくさと立ち上がり、残りの傭兵たちを引き連れ。街の出口へと向かって弱々しい足取りで駆けて行く。
「あ、お――い!!」
「は、はい!!」
「もう二度とこんな行為はしないでね!!」
「分かりましたぁ!!」
「後ぉ!! この制服を見たら気をつけてよ!! 俺より強い奴がゴロゴロいる軍隊だからなぁ!!」
「「「失礼しま――す!!!!」」」
よしっ!! 釘を差しておいたし、もう大丈夫でしょう!!
傭兵達が立ち去る背を腕を組んで満足気に見送った。
さて。お次はっと。
踵を返してマイ達が待つ店の前へと駆け出す。
『ちょっと。驚かさないでよね』
『悪い悪い。脅かしてやろと思ってさ』
片眉を吊り上げ、訝し気な表情で俺を迎えるマイへ言ってやる。
『ちょっと聞きたいんだけど、さ』
『ごめん。その前に……』
何かを聞きだそうとするマイを他所に、俺はユウの目の前へと歩み寄った。
『よう。へへ、悪いね?? あたしの為にさ』
『ユウ、ちょっとごめん……』
右手をすっと前に出して彼女のか細い顎へそっと触れた。
『へっ?? ふぇっ!?』
顔をぐいっと近付け、打たれた箇所をじっくりと見つめるが……。
はぁ、良かった。これなら跡にはならないな。
『ユウ。申し訳無い!!!!』
『ほっ!?』
『人間は……。あんな醜い連中だけじゃないんだ。彼等の代わりに謝らせてくれ』
顎から指を外して彼女に対して深々と頭を下げた。
人間は、本来は他者を思い遣る温かな感情を持つ生き物だ。
アイツ等の様な腐った心を持つ人間はほんの一部であると理解して貰いたい……。これは俺の切なる願いだ。
『あ、あぁ。うん。大丈夫!! 分かってるからさ』
『本当か!?』
ユウの肩に手を掛け、お互いの吐息の温かさを掴み取れる距離で問う。
『いぃ!?』
『ユウ、ありがとう……。人間を嫌いにならいでくれて本当にありが……。いってぇぇ!! 何すんだ、マイ!!』
目玉が飛び出してしまいそうになる衝撃波が後頭部から顔面へと駆け抜けて行き、堪らず振り返って叫んでやる。
「……っ」
そこには大好物の肉を美味そうに食らっている獰猛な野獣も思わず口からお肉をポロっと落としてしまう、この世のモノとは思えない恐ろしい顔を浮かべている深紅の髪の女性が居た。
えっと……。ごめん。
睨まれただけで心臓が止まってしまいそうだから、一旦素の面白い顔を浮かべようか??
『距離感』
『は??』
『距離感、間違っているわよ??』
『…………。おわっ!! ご、ごめん』
『お、おぉ……。う、うん。別に大丈夫』
どうりで甘い香りがする訳だ。ユウに謝る事で頭が一杯だったし……。
互いに真っ赤になった顔で正常な距離感へと身を置いた。
『さ、さぁて!! あたし達の食事は出来ているかなぁっと!!』
右手と右足。
そして左手と左足を同時に動かし、ヘンテコな歩き方でユウが店内へと入って行ってしまう。
彼女にはまた後でしっかりと謝らなきゃなぁ。
『ユウちゃん待ってよ――!!』
『おらぁ!! 私が一番乗りだ!!』
ユウの可笑しな歩法を合図に各々が何事もなかったかのように入店していく。
本当に……。何事もなくて良かった。
だけど、徐々に鮮明になりつつあるあの声。このままでは彼女達の声が届かなくなるのでは無いかと、得も言われぬ恐怖心に押し潰されてしまいそうになるが。
『あはは!! ユウちゃんガッチガチの歩き方だねぇ!!』
『喧しい!! だ、誰だってあんな風に急接近したら驚くだろうが!!』
『ユウ!! レイド様とあの様な不必要な接近は私が今後一切許しませんわよ!?』
陽気な後ろ姿達を見つめていると、それがどうでもよくなってしまった。
まっ……。こうして喧しさの中に身を置いていればいつか聞こえなくなるでしょう。
自分に都合の良い言い訳を言い聞かせ、随分と機嫌の悪い腹を宥めながら陽気な背中達を追い始めた。
お疲れ様でした。
深夜の投稿になってしまい、申し訳ありませんでした。
べ、別に新しく購入したゲームに夢中になって投稿が遅れた訳ではありませんからね!?
とまぁ体の良い言い訳を放ち、この後も夜がどっぷり更けるまでプレイするのですけどね。勿論、プロットも執筆しますので御安心?? 下さいませ。
余り投稿が遅い様だと読者様達から激烈な往復ビンタをブチかまされてしまいそうなので程々にプレイします。
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それでは皆様、お休みなさいませ。




