第百三十三話 圧倒的な差
皆様、今週も一週間お疲れ様でした。
週末の深夜にそっと投稿を添えさせて頂きます。
甘美で心地良く更に何処までも広がる青い空の様に爽快な感情を胸に抱いたまま表に出ると、想像以上に酷い有様の男の姿を捉えた。
「ぐっ……。うぇぇ……」
薄汚れた服は更に土で汚れ、体中至る箇所に傷を負い、虫の様に地べたへ這いつくばっている。
口から気味の悪い液体を零して苦しそうに蠢き、輝きが消失した瞳を浮かべて痛みから逃れる為に地面の砂を握っていた。
ははっ、飛んだなぁ。
でもユウならもっと遠くへ飛ばせる筈だからコイツは命拾いしたのかもな。
だが……。放り投げただけでは俺の気持ちは収まる訳が無い。
「おい。立て」
地面で蠢く虫の頭上に立って促してやる。
「て、てめぇ。俺に手を出した事、後悔するなよ??」
「後悔?? する訳ないだろう。それにそれはこっちの台詞だ。お前達は俺の大切な仲間を傷付けた。その報いは決して軽く無いぞ」
「仲間だぁ?? けっ。女なんて只の性の道具だろ。黙って男に股を開いていりゃいいんだよ!!」
いかんなぁ。
こういう奴がいるから世の女性は涙を飲むんだ。
世の為人の為、俺が一肌脱ぐしかない様だな。
「おまえも……。ぜぇぜぇ……。アイツらと宜しくやってんだろ!?」
足に力を籠め、息も絶え絶えながら辛うじて立ち上がる。
へぇ、矮小な虫のくせに立つ力は残っていたんだ。
「それとこれは別だ。いいか?? お前は。俺の仲間に。手を出したんだ。それ相応の痛みを受けて貰うぞ」
虫の小さな脳味噌にでも分かり易いように態々区切って言ってやった。
「う、うるせぇぇええ――!! 死にやがれ!!」
はぁ、避けるのも面倒な拳だ。
中途半端な決意が籠った拳。そこに打って下さいと言わんばかりにがら空きの顎。無駄に開かれた上半身。堅牢な大地を捉えていない足。
こいつ、これでも傭兵か??
投げられただけなのに瀕死の上、びっくりする位に隙だらけの攻撃を仕掛けてくるし。
『ねぇねぇ!! どうやってこいつ。虐めようか!?』
『そうだな。先ずは……。腹に仕舞った物を出してやろうか』
『うんうん!! いいね!!』
向かって来る情けない拳を左手で弾き。
「は?? おぶっ!?」
そして、丹田の位置へ右の拳を態々優しく置いてやった。
「あっ……。あがっ……。うえぇぇぇぇ…………」
腹を抑え地面に情けなく膝を着き、そして吐瀉物を盛大に撒き散らす。
大きく開かれた口から流れ出す液体の音が俺の感情を更に逆撫でしてしまった。
この街の綺麗な土を汚すなんて……。失礼極まりない野郎だ。
「おい。この街の人に失礼だろ?? 綺麗に掃除しろ」
街の人がテメェの吐瀉物を見て気分を害したらどうするんだ。
責任を持ってもう一度腹に収めろよ。
「オェッ!! ゲホッ……。は、はぁ??」
「聞こえなかったのか?? 掃除だ。掃除」
「な、何を……。いでぇっ!!!!」
後頭部の髪を掴み、己が吐き出した吐瀉物の中へ顔を突っ込ませてやる。
消化の途中だったのか。中途半端に崩れた食物の欠片が男の顔に纏わり付く。
「お前が吐き出した物だ。責任を持って『掃除』 しろ」
「おぅぇっ!! む、無理です!! 口に入れられません!!」
じたばたと手足を無意味に動かす様が心地良い。
俺の力に対して必死に抵抗しているつもりだろうが……。
蟻程の力も感じなかった。
「もう一度言う。掃除しろ」
「か、勘弁して下さい!!!! もう二度としませんから!!」
こいつ……。
人の仲間を傷付けておいて、今更逃げ出すつもりか??
「駄目だ。掃除しろ」
「ひ、ひぃぃ!!!!」
恐怖に慄き震える声。力が徐々に失せて行く体。抗おうとするもまるで歯が立たないと感じたのか、俺が放つ憎悪に従順になっていく様。
そのどれもが俺の体に歓喜の声を上げさせる。
『あははは!! いいね!! レイド君!! さいっこうだよ!!』
『骨の一つや二つ。へし折ったらこちらの要求を飲むかな』
『人間は痛みに敏感だからね!! やってみよう!!』
そうだな。
このままじゃ、掃除をしなきゃいけない地元の人に迷惑が掛かるし。
「う、うぶぶぅ!! ォェッ!!!!」
そう考え、決して口を開こうとしないこいつの右手に手を掛けようとすると。
「おい。てめぇ、そこまでだ」
傭兵の一人が俺に声を掛けて来た。
「…………。今度はあんたが俺の相手か??」
俺より頭二つ分程背の高い巨躯。浅黒い肌に、ゴツゴツとした頭部。
モリュルンさんを一回り小さくしたガタイだな。
こいつなら傭兵と言われても頷ける。
己が吐き出した吐瀉物に顔を突っ込み、情けない声を上げる虫とは大違いだ。
「そうだ。そいつを放せ」
「は?? 駄目だ。こいつはまだ掃除を終えていない。責任を果たしてから解放してやる」
「ひぃっ!! お、お願いします……。も、もう勘弁……。うぶぅっ!?!?!?」
「五月蠅い口だな。忙しなく動くのなら開ける事も可能だろ??」
「む、むり……。れすっ!! あぶっ!?!? うえぇぇぇ!!」
女々しく泣き叫びやがって。
この声を聞かされる地元住民の事も考えろよ……。
いっその事、心臓を捻り潰して黙らした方が得策なのか??
女性を道具として捉え、俺の大切な友人を傷付ける屑に生きている価値なんてないだろうし。それに誰もこの虫の為に涙を流さないだろうから。
「くそがぁ!! 放せって言ってんだろ!!!!」
っと。
背後からの急襲を躱し、デカ物の正面に堂々と立ってやった。
「けっ。速さだけは一丁前だな??」
「速さ、だけ??」
こいつは何処に目を付けているんだ。
傭兵とは名ばかりなのか??
「おい。お前は速さに自信があるようだ。だが、俺はこれに自信がある」
大きな拳をこちらに突き出し、もう既に勝ち誇った笑みを浮かべている。
「力、勝負か??」
「そうだ。互いに一撃ずつ放ち、先に気を失った方の負けだ」
へぇ!! 面白そうだな。
「但し。相手の拳は決して避けるな。それが決まり事だ」
「能書きはいい。ほら、さっさと打って来い」
面倒な奴め。
「はっはっ!! いいぞ!! お前!! 馬鹿正直に俺の誘いに乗るのは、お前が初めてだ!!」
「そうか。…………。おい、どこへ行く??」
「へっ!? い、いや。勝負の邪魔になるかなぁって……」
道の端へさり気なく逃げ出そうとする汚物を纏った虫の動きを見逃さなかった。
「掃除をしろと言っただろ。口で出来ぬのなら、手で穴を掘れ」
「て、手で!?」
「俺に二度同じ事を言わせるな」
「は、はぃいぃ!! う、うぅ……」
吐瀉物の近くに手を突っ込み、痛みで顔を歪ませながら穴を掘り始める。
てめぇにお似合いだ。
何なら自分の墓穴も掘らせてやろうか??
「さぁ、始めるぞ!!!! 先ずは……俺の番だぁぁああ――――っ!!!!」
あぁ、すまん。
勝負の途中だったな??
顔を元の位置に戻すと、これ見よがしにデカイ拳を振り翳して俺の腹部へと突き刺した。
「へへ。どうよ??」
拳を引き抜き、自信たっぷりの表情で俺を見下ろす。
「……。終わり、か??」
拍子抜けもいいところだ。
師匠の激烈な一撃に比べれば……。いや、比べるのも失礼に値する威力だな。
「おぉ!? 速さだけじゃなくて、体も頑丈だな??」
「次は俺が打っていいんだよな??」
男の言葉を無視して拳を打ち易い位置に身を置く。
「そうだ。好きに打っていいぞ?? 俺の体は頑丈なんだ」
ふふんと得意気な顔を浮かべる。
苛つく顔だ……。コイツも捻じ曲がった性格を矯正してやらんといかんな。
「へぇ。俺と一緒じゃないか」
「お前と一緒にするな!! ほぉら――。顔でもいいんだぞ――??」
さぁここに打って来いと、デカイ顔が降りて来る。
その無防備な横っ面を殴り倒して頚椎を捻じ切ってやってもいいけど……。
まっ、楽しみは後に取っておこう。
「いや。おまえさんと一緒で腹に打つ」
「鍛え抜かれた岩の様な腹筋を貫く事が出来るかなぁ??」
鬱陶しい言葉使いをしやがって。
これも後で矯正してやろう。汚物の後処理に性格の矯正……。忙しくなりそうだな。
「いくぞ」
右拳に少しだけ力を籠めて腰を落とす。
「そんな小さな拳じゃ……。うげぇえぇっ!!!!」
おっ、良い音だ。
脇腹の二、三本は折れたかな?? それともひび程度で済んだか。
今しがた感じた肉と骨の感触に拳が喜びの声を上げた。
「ぐぅぅっ……。はぁっ……はぁっ……。い、良い拳。じゃないか!!」
「へぇ!! 良く堪えたな!!」
脇腹を抑え、膝が笑っているデカ物へ言ってやった。
「が、頑丈なんだよ!! 俺様はな!!」
「ほら。お次はお前さんの番だぞ?? 打って来い」
「言われないでも……。やってやらあぁああああ――――!!!!」
殺気を籠めた拳が地を這い俺の顔へと向かって来る。
欠伸を放ち終えてじわりと出て来る涙を拭き取れる暇さえある遅い拳だな……。丁寧に左の拳で弾き、伸びあがった体に穴が開く勢いで拳の豪雨を降らせて……。
あっ、そうだ。避けてはいけない決まりだったな。
仕方ない受けてやりますか。
やっと気合の入った拳を打ってくれるんだ。
受けなきゃ失礼ってもんだ。
デカ物の拳が顎を捉えると鈍い音が顎の骨から響き、俺の心模様に似た分厚い雲が広がる空模様を視界が捉えた。
「ど、どうだ!! 俺の拳は何人もの顎をくだ……。はぁっ!?」
「ん。次は俺の番だな??」
「お、おかしいだろ!! お前!!」
「オカシイ??」
小首を傾げて驚愕の表情を浮かべるデカ物へ問うてやる。
「お、俺の拳は大勢の顎を砕いて来たんだぞ!? そ、それを受けてあっけらかんとしやがって!!」
「お前の拳より俺の顎の強さが勝っただけだろ。ほら、打つぞ??」
デカ物の前に立ち拳を握ってやる。
「来やがれ……。俺の番になったら……。てめぇの……んぐぶぅええぇぇ!!!!」
最初は右の脇腹。当然お次は左の脇腹だ。
左右均等に痛みを与えないと……。
またしても小気味の乾いた良い音が奏でられ、漆黒の心が潤う。
いいぞ、お前。もっと俺を楽しませろ。
「お、折れ…………」
「はぁ?? 頑丈なんだろ?? そんな筈は無い。気の所為だ」
地面に膝を着け、今にも泣きだしそうな顔を浮かべているコイツに言ってやった。
「そんな訳ねぇだろ!! く、くそがあああぁぁあぁ!?!?」
既に放った二発の拳以上の拳圧。そして、相手を確実に殺傷しようとする揺るぎない意志。
漸く真面な拳が俺の顔に目掛けて放たれる事に安堵の息を漏らした。
やれば出来るじゃないか。
そうだ。中途半端な拳は必要無い。必要なのは……相手を撲殺しようとする明確な。
殺意だ。
「どうだぁ!? 顔面に直撃……。ぃいぃい!?」
「どうした??」
ん……。血、か。
生温かい液体が唇の合間を縫って口に侵入する。
鼻頭に直撃したんだ。血くらいは流れるよな。
舌で深紅の液体を舐め取り心地良い鉄の味を口内で転がす。
良い味だ……。
殺意を高めてくれる薬液に心が躍ってしまう。
血を出させたお礼をしなきゃなぁ。
「ひっ……」
俺の姿が恐ろしくなったのか。
デカ物が纏っていた先程までの気持ちの良い殺意が霧散してしまった。
おいおい。これからだろう?? 楽しくなるのは。
俺を落胆させるなよ。
「次は俺の番だよな??」
「く、来るな!! ば、化け物!!!!」
「酷いな。俺は人間だぞ」
情けなく顎を細かく震わせ、口腔内から乾いた音を鳴らして後退りを始めるデカ物に対し。恐怖感を骨の髄まで埋め込んでやる為に敢えてゆるりとした足取りで近付く。
ほぉら、お前の命を刈り取りに来た死神の足音を存分に味わえ。
「に、人間!? てめぇみたいな人間がいるか!!」
「いるじゃないか。目の前に」
「わ……。わあああぁあぁあぁぁああぁ――っ!!!!!!」
恐怖で我を忘れた拳が再び鼻頭を直撃。
体の重心が僅かに後ろへと逸れてしまったが、それでも俺の意識を奪う事は叶わない。
そして……。
「……」
鼻頭にいつまででも残る情けない拳越しに、明確な殺意と憎悪を籠めた瞳でデカ物の恐怖で歪んだ顔を睨みつけてやった。
「あ……」
低能でもこれから起こる事は理解出来たみたいだな。
ぎゅっと奥歯を噛み締め、今から襲い掛かるであろう極限の痛みに対し備えた。
「があぁぁああああああっ!?!?!?」
その場から再び右の脇腹に苦痛を与えてやると己の拳が歓喜乱舞する素敵な破壊音が周囲に鳴り響く。
いいぞ、今の音は完全に折れたな。
「うぐぅぅえぇぇ……」
道に倒れ込み腹を抑えて気色悪く足を動かす。
分からるぞ、五臓六腑に迸る痛みを誤魔化す為だよな??
「今、お前は二発連続で打ったよな?? もう一発分。俺には権利がある訳だ」
二匹目の虫の前に悠然と立って話す。
「か、勘弁して下さい……」
「この勝負を持ちかけたのはお前だ。お前にはこの勝負をやり切る義務がある。それに……」
「そ、それに??」
「始める前、お前は何て言った??」
「は、始める前?? ……………………っ!!」
おぉ、思い出したか。
気を失わせない為にも腹だけに攻撃を絞ってやったんだよ。
「そうだ。『気を失うまで』 確かにそう言ったな??」
「や、止めて下さい!! も、もう無理です!!」
「無理?? たかが骨の一本や二本折れただけだ。人間の骨は何本あると思っているんだ?? それくらい、どうということは無いだろ」
「ひっ……。ひぃっ!!」
腹を庇い、情けない姿勢で後退りを始める。
「お――い。俺はこっちだぞ??」
「た、助けて……」
「助ける?? 良く言えるな?? そんな台詞。人の大切な仲間にヘラヘラと気色悪い笑みを浮かべて手を出し。剰え痛みを与えた。彼女が受けた痛みはこんな生易しい物じゃないぞ??」
「ひ、平手で打っただけじゃないですか!!」
「違う。俺が話しているのは心の痛みだ。それに比べれば……。体に感じる痛みなんて……」
そう、こいつらは……。人間を大切にしているユウを傷付けた。
大切にしている人間から受けた理不尽な痛み。
彼女が受けた痛みは……。想像するだけで胸が張り裂けそうだ。
決して、拭い去れない痛みを今から与えてやるからな??
覚悟しろよ……。
悔恨の涙と粘度の高い液体を惜しげも無く垂れ流して逃げ失せようとする肉の塊を、とめどなく湧き続ける陽性な感情を胸に抱きながら追い始めた。
――――。
うわぁぁ……。あの男、ひっどい有様ねぇ。
ボケナスに気持ち良く投げられて薄汚れた服が更に酷い状態に変わり果て、体中に傷を負い地面の上に倒れていた。
傷つき倒れている野郎の姿を見ても尚、アイツの気は収まる気配を見せなかった。
寧ろ。
「掃除だ。掃除」
吐き出した吐瀉物に嫌がる傭兵その一の顔を無理矢理押し付けるではありませんか。
今にも泣きだしそうな傭兵その一の後頭部を掴み、何度も。何度も己が吐き出した吐瀉物へと無理矢理押し込んでいる。
さぞや恐ろしい表情を浮かべているかと思いきや……。その顔は普段の温かい雰囲気が一切掴み取れない無の感情が浮かんでいる。
普段の温和な姿からはとても想像出来ないエゲツナイ行為を平気でやってのけた。
さ、流石の私でもあそこまではぁ……。
いや?? 怒り心頭の状態ならやるかも。
『ね、ねぇ。レイド、どうしちゃったの?? あそこまでやる事ない、よね??』
ルーも私と同じ気持ちなのか。
慌てた表情で表通りの惨状を見つめている。
『ユウを傷付けたのだ。あれでは生温い。腕の一本、いや。四肢全て切り落としても御釣りが来るぞ』
それもどうかと……。
リューヴ程物騒じゃない事に人知れず胸を撫でおろした。
『まっ。あれ位で許すんじゃない?? 只、他の……。おっ!! 避けたわね!!』
デカイ傭兵がボケナスの後方から襲い掛かるが。
私達と共に鍛えている事もあり、蝶のようにひらりと容易に攻撃を躱す。
『流石レイド様ですわぁ……。躱す姿も愛おしい……』
おいおい。
待っているって言ったのに何でこいつまで表に出てんだ??
大人しく中で待ってろよ。
『ふむ……。どうやら、男らしく殴り合いで決着をつけるみたいですよ??』
カエデの言葉に視線を戻すと。
『うへぇ!! 痛そう!!』
ボケナスのみぞおちにデカイ傭兵の拳がめり込んだ。
ユウは顔を顰めて声に出すけど……。
アイツには効かないでしょうねぇ。
「……」
ほら、表情も変わっていないし。
そして、当然の如く猛烈な一撃をお返しした。
『あら――。直撃しちゃったかぁ――。レイドの拳、結構痛いんだよね――』
『龍の力も解放していないし、手加減……する訳無いか』
デカイ傭兵は苦痛に顔を歪め、たった一撃で戦意の大半を削いでしまった。
傭兵が弱い、のか??
用心棒又は戦闘を生業とする野郎共だ。痛みには慣れている筈。
それなのに……。
『ははっ、いいぞ。流石主だ。今の一撃は気持ちがしっかりと籠っていたな!!』
『リュー。物騒だよ?? あれじゃあ……。弱い者虐めになっちゃうよ』
弱い物虐め、か。確かに的を射た発言ね。
両者の間にはあからさまに戦力差がある。
片や聳え立つ山。片や平原……いや。海底かな?? 海の底と、山の頂上。実力の高低差は歴然としていた。
実力を見誤る程アイツは愚か者では無い。
今のアイツは、弱者をいたぶる暴君の様にも見える。
う――む……。なぁんか、違和感があるのよねぇ……。
霞の如くもやもやして掴めない感覚にちょっとだけ苛つきを覚えた。
しかし、それは次の瞬間。確信的な物へと変容した。
「……っ」
顔面への直撃を許し、鼻から出血した液体を味わった直後に零した笑み。
まさか、アイツ……。
『レ、レイド。すっごく怖い顔してる……』
『そうか?? 私には獲物を追う猛禽類の顔に見えるぞ。勇ましい顔じゃないか』
『だ――か――ら――。リューは物騒なんだよ』
『ルー。ちょっといい??』
狼二頭の会話に割って入る。
『うん?? 何?? マイちゃん』
『ボケナスに念話で話し掛けてみて?? 絶対こっちに振り向く様な、あっ!! と驚く台詞で』
『へ?? 急に難題を吹っ掛けないでよ……。ん――。む――……。えぇ――??』
しまった。こいつに頼んだのが間違いだったか??
カエデに頼むべきだったわね。
『おぉ!! 良い事思い付いた!!』
良い事?? 何だろ。
特に期待しないでお惚け狼の掛け声を待っていると。
『レイド――――!! 今日のリューの下着は青色で――!! カエデちゃんの下着は白色だよ――――!!』
『『ぶはっ!?!?』』
私を含むほぼ全員がルーの掛け声によって同時に咽てしまった。
な、成程ぉ。
これならブチ切れているアイツでも彼女達の色を確かめるべく、蜻蛉の華麗な空中転回も真っ青な勢いで振り向くだろうさ!!
『ルー!! き、貴様!! 主に対して、何て事を言うんだ!!』
『いったい!! 頭を叩かなくてもいいでしょ!?』
いや、私もリューヴの立場なら今みたいにスパン!! っと後頭部を叩くだろう。
叩く……。ぶん殴るかな??
『それに!! 何故色を知っているのだ!!』
『朝、天幕の中で着替えたじゃん。その時にね??』
えへっと笑って話すが、カエデの顔を見つけた瞬間。
健康的な顔色の顔からサっと血の気が引いた。
『カ、カ、カエデちゃん?? ど、どうしたのかなぁ??』
『……。沸騰』
『へ!?』
『体内の血液全てを沸騰させます。血を煮え滾らせ、恐ろしい苦痛で顔を歪めながら逝って下さい』
『こっわ!! ごめんなさい!! 許して下さいませ!! カエデ様!!』
キチンと足を折り畳んで正座し、カエデに対し頭を下げる。
『人の着替えを覗くのは許し難いですね??』
『カエデの言う通りだ。ルー、後で酷いからな??』
『え――。だってさぁ。マイちゃんだよ?? 変なお願いしたの』
ルーがすっと私の顔を指すと。
『『……っ』』
大変怖い顔が此方にぐるぅりと向いて私を捉えた。
おい!! お惚け狼!! 責任転嫁すんな!!
『ふ、二人共。よ――く落ち着いて聞きなさい』
『……』
じっと瞬きせずに私の顔をじぃっと睨む。
『アイツを見て御覧?? 今の衝撃発言を投げかけても一切こっちに振り向かなかったでしょ??』
『むっ。そう言えば、そうだな』
『まるで何かに取り憑かれているみたいですね』
そう、カエデの言う通りだと私は睨んでいる。
『多分、だけどさ。アレって……。龍の力の暴走じゃない?? 』
そうじゃないとあの怒り具合は説明し難いもの。
『お、おい。まさか……。いきなり体が引き裂かれるとかじゃないよな!?』
私の声にユウが目を丸くして反応する。
『それは無いんじゃない?? 魔力それと龍の力も感じないし』
『じゃあ……。何で??』
ルーが小首を傾げて私を見上げた。
いい加減立って観戦したら?? こっえぇ海竜と強面狼は許してくれたみたいだし。
『声でも聞いているんじゃない??』
『声????』
『ほら、前言ってたじゃない。声が聞こえたって』
体調不良の鳥姉ちゃんを救う為、捕食の森へ出発して負傷したあの時。確かそう言っていたから。
『で、では主は……。その声に付き従い体を動かしているとでもいうのか!?』
『本人に聞いてみない事には分からないわよ。私達の役目は一つ。アイツが……。殺人の罪を犯す前に止める事。いざと言う時は飛び出して取り押えるわよ??』
今のままでは恐らく……。
いや、十中八九その手をクソ野郎共の血で赤く染めてしまうだろう。
それだけは何としても止めなくては。
『マイちゃんってさ――』
『ん?? 何??』
『普段はだらしないけど。こういう時はしまっているよね――』
『黙れ!!!! 小娘が!!』
『びゃっ!!』
人様が折角!! 超真面目な話をしているってぇ言うのに。
こいつと来たら……。
『いや。ルーの言葉、正しいぞ』
『あぁ。大正解だな――』
リューヴとユウがお惚け狼に同意すれば。
『えぇ。的を射ていますね』
当然、カエデも同意する訳だ。
いいですよ――。
私はどうせ、お茶らけて、大飯食らいで、暴れん坊ですよ――っと。
『ついでに付け加えますと。汚物を撒き散らす、諸悪の根源ですわ』
『あぁっ!? テメェの汚物も通りにぶちまけてやんぞ!?』
こいつの一言は、いっっっっつも余計だ!!
人が大人しくしていればつけあがりやがってぇぇ!! 人の目が無ければ襲い掛かっているところよ。
落ち着けぇ。私……。今はアイツの変化を一挙手一投足見逃さないように注視しましょう。
ひぃひぃと情けない声を放って逃げ下がるデカイ傭兵に向かい。
敢えて相手に骨の髄まで恐怖を染み込ませるかの如くゆるりとした歩調で追い詰めていくボケナスを見つめてそう考えていた。
お疲れ様でした。
本日の夕食は暑い夏を乗り切ろうとして辛いカレーを頂きました。コイツ……。大体カレー食ってんな?? と思われるでしょうが。それ以外も食していますので御安心を。
そして、皆さん。今日は何の日か御存知でしょうか??
そ、そう!! ライブアライブのリメイク版の発売日です!!!!
いやいや!! やっと発売されましたね!! 念願叶って今日の夜から早速プレイするのだろうと思われているのでしょうが……。残念ながらお店の閉店時間に間に合わなかった為、明日以降の購入予定となりました。
先ずは未来編で恐怖を満喫して、西武編で沢山罠を仕掛け……。あぁ、今からワクワクが止まりませんよ!!
因みに私の推しメンは現代編の知力25です。
ブックマークをして頂き有難う御座いました!!
週末のプロット執筆活動の嬉しい励みとなります!! 暑い夏に負けない様に頑張ります!!
それでは皆様、良い週末を過ごして下さいね。




