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第百三十一話 新年の御挨拶 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。


それでは御覧下さい。




 んっと。これは……味噌か。


 ウォルの街の店主がお勧めと言っていた奴だな。これを使った料理は如何だろうか??



「皆の御飯を作るの??」


「そうだよ」



 他に何か良い素材は……。一番手前の木箱の蓋を開けると美しい円筒状の葱が日の下に現れた。


 葱、味噌、そして白米……。


 むっ!! 閃いたぞ!!



「一人で大変ねぇ」


「最近はそうでも無いぞ?? 朝食は……まぁ相も変わらずだけど。昼食や夕食は手伝ってくれるようになったからな」


「ふぅん。さっきから何してんのよ。落ち葉なんか拾って」


「あぁ、これ?? ふふ。今日の朝食の材料なんだ」



 ウマ子が休む朴木の反対側に落ちている葉を拾い集めて行く。


 ちょっと枯れた奴がいいんだよな。



「は?? 落ち葉食べるの??」



 正気?? そんな怪訝な顔を浮かべてこちらを窺う。



「まさか。まぁ見てなって。エルザードにも美味しい朝ご飯を提供してやるからさ」



 よしっ、粗方集まったぞ。


 朝食の用意一式を手に取り、炭の前に座る。



「え?? 私の分も??」


「ついでだよ、ついで。それとも腹減ってないのか??」


「ん――。まぁ……程々に……」



 若干どもり気味の口調で答えた。


 腹が空いていない様なら、エルザードの分は少なめに作ろうかね。



「それなら丁度いいじゃないか。さぁて!! 準備開始だ!!」



 先ずは拾い集めた朴葉の汚れを洗い落として……水に漬けてっと。


 葉が水を吸う間。


 食べやすいように葱を小さく刻み。米をしっかり研ぎ、美しい白に仕上げる。


 ふふ、我ながら良い発想だ。



「何ニヤニヤしてのよ」


「顔にやついてた??」


「そりゃあもう。土の中で悠々自適に暮らすもぐらも目を丸くする程よ??」



 目が悪いもぐらさんが目を丸くする程の表情、ね。彼女の視界の中に映る俺の表情は余程滑稽に映るのだろう。



「それはさておき、エルザード。薪を組み直すから火を点けてくれないか??」



 葱を刻み終え、灰色に染まり役目を終えた炭を傍らに掃き。真新しい薪を組んで話す。



「火?? 良いわよ」


「悪いね。いつもはマイの役目なんだけど、生憎まだ就寝中だからさ」



 少し離れた位置で全く動く気配のない天幕を見つめる。



「酷いわよねぇ。男に料理を作らせるなんて」


「人の事言えるか??」


「しらな――い。はい、どうぞ」



「おわっ!!」



 エルザードが指を鳴らすと同時に薪が燃え上がる。


 危く手を火傷する所だった……。



「あのなぁ。まだ組んでいる最中だったろ??」


「ちゃんと加減してあるから大丈夫よ」



 そういう問題だろうか?? 安全確認を怠るべきでは無いと思いますがね。



「後は……。土鍋で米を炊いて……っと」



 石を組み上げ、その上に綺麗に研いだ御米を入れた土鍋を乗せて蓋をする。



「良い火加減だね」



 流石は海竜の先生。丁度良い火の塩梅に思わず頷いてしまった。



「そう?? もっと強く出来るけど」


「これ以上は御米が焦げちゃうから勘弁して下さい」


「あはは。うん、このまま見てるね??」



 軽かな笑い声が止むと大変心地良い環境音が俺達の間を流れて行く。


 ふつふつと煮える鍋の中の煮沸音。一日に備えて起き始めた鳥達の歌声。草を撫でる風の音。炭が弾ける軽快な音。


 早朝に相応しい音が奏でられると、この素敵な音を掻き消してはいけないと考えたのか。


 二人の口数が図らずとも少なくなり、只々音に身を任せて遅々とした時間の流れを楽しんでいた。




「なんか、さ」


「ん?? どした」


「いいわよね。こういう朝の光景って」



 ほぉ、俺と同じ事を考えていたのか。


 ふっと軽い笑みを浮かべて素晴らしい朝の景色を眺めている。



「いつもは寝ている時間だろ??」


「だらだらと惰眠を貪っているわね」


「容易に想像出来るな。偶には早起きもいいもんだろ」


「えぇ。毎朝、こうしてレイドが御飯を作ってくれるのなら最高よ」


「俺は給仕じゃないぞ……」



 全く、隙あらば使役しようとしてんのか??



「そういう事じゃないんだけどなぁ」



 そういう事とは一体どういう事だろう……。要領を得ないな。


 微かに首を捻り彼女の言葉の意味を考えていると、土鍋さんから御米が炊き上がりましたよとの知らせが届く。



「よし!! 米の出来上がりだ!!」



 意を決して蓋を開けると、そこは美しい雪原が広がっていた。


 朝日に照らされた白の大地は光り輝き、まるで名画にも勝るとも劣らない美しさを放っている。



「わっ。おいしそう」


「ふふ。俺の腕も捨てたもんじゃないだろう??」



 手袋を嵌めて土鍋を火から外す。



「毎日作っているだけあるわね」


「エルザードは料理……しないか」


「失礼ねぇ。こう見えても色々と練習してるのよ??」


「本当かぁ??」



 怪しいもんさ。



「むっ。そんな事言っていいのかなぁ――。もう魔法教えてあげないぞ――??」



 むぅっと可愛い唇を尖らせて話す。



「悪い悪い。ついつい、ね。さぁて……。白米を盛り上げる、脇役の登場だ」



 竹筒に入った味噌、水を含んでしっとりとした朴葉、そして刻んだ葱を取り出す。



「鉄板なんか引いて何するの??」


「ふっふっふ。まぁ見てなって」



 竹筒から味噌を取り、朴葉の上に乗せる。



 そして、ここで葱と混ぜ合わせます!!


 程よく熱を帯びた鉄板の上に朴葉を乗せ、夏の陽射しを浴び過ぎたワンパク坊主並みに小麦色に焼けた味噌達にじっくりと火を伝えていく。



「あぁ。だから葉っぱを使ったのね」


「そうそう。ほれ、先ずはエルザードが試食してくれ」



 お椀に慎ましい量の米を盛ってエルザードに渡す。



「いいの??」


「年功序列さ。味噌が焼けるまでちょっと待って」



 その瞬間を見逃さない様にじぃっと味噌を睨む。


 いいか、俺。


 焦がすなよ??



「そんな怖い顔しなくても、味噌は逃げないわよ??」


「集中してんだよ。…………あっ。少し焦がしても美味いかも」



 くそう。何分初めての経験だ。


 要領が分からん。



「あはは。全部食べてあげるから安心しなさいよ」


「折角寄ってくれたんだ。失敗作を渡す訳にはいかんだろ」



 むむ……。後少し。


 味噌がぷつりと小さな泡を立て、葱と焼けた味噌の馨しい香りが周囲に漂い始めた。



「ありがとう、レイド」

「おう。…………今だ!!」



 素早く朴葉を鉄板から掬い上げて宙に掲げてやった。


 お、おぉ!! 我ながら見事な塩梅だ!!



「焼いた味噌。それをどうするの??」


「ふふふ。これを……御飯の上に掛けて食うんだ」



 エルザードの隣に座り、朴葉の上に乗る味噌を美しい雪原に掛けてやる。



「わっ。良い匂い」


「だろ?? ほら、食べて感想を聞かせてくれ」


「いいわよ。それじゃあ、頂き……」



 米を持ち上げようとするが、その手がぴたりと止まる。



「うん?? どうした」


「あのね。近い」


「うぉっとぉ!! こりゃ失礼した」



 いかん。感想を心待ちにし過ぎた。


 いつの間にか間近に迫ってしまった端整な御顔から距離を置いた。



「では、頂きます」



 小さな口へ、米と味噌がゆるりと入って行く。


 あぁ……。美味そうだ。



「……ん!! 美味しい!!」



 一つモグリと咀嚼するとぱぁっと顔が光り輝き、丹精込めて作った料理を肯定してくれた。



「そ、そうか!! いやぁ。思い付きで作ったけど……。良かった」


「いや、これ。本当に美味しいわよ?? するするお米が入っていくもん」



 もぐもぐと口を動かし、お椀の中の米が彼女の胃袋へと次々に消えていく。



「気に入ってくれて良かったよ」


「おかふぁり!!」



 はっや。お椀に入れる米が少な過ぎたな。



「ほれ。今度は普通盛りだ」


「えへっ。ありがとうね?? でもさ。大丈夫??」


「何が??」


「私だけ朝ご飯食べちゃって」



 あぁ、何だそんな事か。



「安心しろ。多分もう直ぐじゃないかな??」


「え?? 何が??」



 きょとんとした表情で俺を見つめる。



「俺の予想だと……。ほら、出て来たぞ!!」


「何を言って……。あぁ、そういう事ね」



「…………っ」



 天幕の入り口の間から鼻をひくつかせ匂いに引かれる様に、赤き龍の顔がぬるりと這い出て来た。 


 堅牢な大地の上に芋虫の様に体を這わせ、只々匂いの下へと進む。



 初めて見た時は本当に気持ち悪い動きだと思ったが……。今じゃあれは日常の一部だ。


 ヘッコヘコと腰を動かし、大きめの障害物に当たってもその進みは止まる事は無い。


 時折匂いの下を確かめる様に一時停止して赤き鼻をピクピクと動かし、匂いを掴み取ると再び此方へ向かって来る。



「気色悪い動き方ねぇ」


「もう慣れたよ。寝ていても匂いにつられて向かって来るんだ」


「……。嘘でしょ??」


「本当だって。ほら、目を醒ますぞ??」



 俺とエルザードの前に這って来た芋虫がぱちりと目を醒ます。



「ふわぁぁぁぁ……。良く寝たぁ……」



 そして人目も憚らず大口を開けて欠伸を放ち、瞼をガシガシと手の甲で拭き取ると。



「ふわあぁぁん……。ン゛ッ!? エルザード!? 何であんたが此処に居るのよ!!」


「おはよ。芋虫さん」


「あぁっ!? 誰が芋虫……。ぬわぁぁあああぁぁ――!!!! ちょっと何、それ!?」



 意識が明瞭になって漸く彼女の手元の存在を確知したのか。


 エルザードが美味そうに箸を進めている物を見つめてあわわと口を開く。



「レイドが朝ご飯作ってくれたのよ。私だけの為に」


「おい。誤解を招く言い方は止めて」


「み、味噌とお米?? そ、そんな……。ず、ずるい!! 絶対美味しい奴じゃん!! ボケナス!! 私の分も早く作ってよ!!」


「構わんぞ?? だが、条件が一つだけある」


「何っ!? 蜘蛛を引き裂け、とか!?」



 そんな物騒な事を俺が頼むと思ったかい??



「馬鹿な事言うな。皆を起こして来い。それがコレを作ってやる条件だ」



 エルザードの前に置かれている朴葉を差して言ってやった。



「お安い御用よ!!」



 言うが早いか。


 一陣の風を纏い、天幕の中へと飛び立って行く。



「相変わらず忙しないのねぇ……」


「それがあいつらしいのさ。お淑やかになったら逆に気味悪いだろ??」


「ん……。それもそうね」



「おらぁっ!! テメェら、朝だぞ!? 反芻しまくって寝惚けた牛みたいにいつまでも寝ているんじゃねぇ!!」



 マイが天幕の中に入り、数秒後。


 朝の清々しい空気を切り裂く悲鳴と罵声がここまで鳴り響いた。



『いったぁぁい!! ちょっとマイちゃん!! 尻尾を噛まないで!! 前にも言ったでしょ!?』


『うっさい!! 朝ご飯の為だから仕方ないのよ!!』


『うぎゃ――――!! マ、マイ!! あたしの胸を噛むな!!』


『喧しいぞ!! 貴様ら!!』


『まな板!! よくも私の美しい髪を踏みましたわね!?』


『水の槍よ……。私の体を蹂躙しかけた龍に天の裁きを!!』



 天幕が激しく揺れ動き、強烈な閃光を放ち、思わず肝が冷えてしまう悲鳴が飛び交う。



「「…………」」



 俺とエルザードはそのやりとりを見て、思わず顔を合わせた。


 そして。



「「あはは!!!!」」



 何の遠慮も無しに口を開き、腹を抱えて笑い合った。


 何十年来の友と交わす様な屈託の無い笑い。


 それは突き抜ける青の下に酷く誂えた様に映ってしまった。



「いたたたた……。カエデの奴。何もお尻に槍をぶっささなくてもいいじゃない」



 尻を抑え這い出て来た龍が俺達に再び笑いを与えてくれる。


 やめてくれ。


 朝から腹筋がつりそうだよ。



「へ?? あんた達。何笑ってんのよ」



 きょとんとした龍の顔を見つめ、俺とエルザードは息が続く限り笑い合い。共に陽性な感情に身を委ねていた。






























 ◇




 彼方に見えていた山の頂、そして稜線が日を追う毎に手の届きそうな位置に見えて来た。


 どっしりと構えた不動の姿はどこか尊厳を覚えてしまう。


 自然崇拝。


 天へ向かって聳え立つ山、空を切り裂く雷、灼熱の溶岩等自然現象に神秘的な力や存在を認めて崇拝する事であるが……。


 うん。


 これを見れば分からないでもないかな。


 師匠が暮らすギト山も立派な山だと考えるが、連なり不動の構えを見せるクレイ山脈もまた壮大であった。


 山を見て大きく息をつくのって久々だな。


 感銘を受けたとでも言えばいいのか。


 そして、その麓へ続く道を本日も変わらない足並みで進んでいた。



「ねぇ――……。リュー……」


「何だ」


「お腹空いたぁ……。その辺りで適当に野鳥、捕まえて来てよ」


「貴様が行け」


「嫌っ。お腹空き過ぎてもう動けないもん……」



 只、この変わらない速度の足並みが大魔の血を引く者達に少なからず悪影響を与えていた。


 こうなったのはとある事象が必然的に発生し、それが巡り巡って……。


 考えるのも面倒だ。


 早い話、アイツの所為。



「ユウ――。甘い物とか隠し持ってない――??」


「昨日まで懐に隠してあったけど。お前さんにバリバリと食われちまったよ」


「ちっ。カエデ――。ほら、クッキー買って貰ったでしょ?? あれ、残ってない??」


「三日前に食べ尽くされました」



「もう!! 誰か食べる物持ってないの!?」


「「「…………」」」



 憤るマイに対し、ほぼ全員の冷たい視線が彼女の体に突き刺さる。



「な、何よあんた達。その猜疑心に塗れた瞳は……」


「マイ。気付かないのか??」



 後方を歩くマイへ、振り返らずに話し掛けてやる。



「何??」


「一体誰の所為で、俺達がひもじい思いをしていると思っているんだ」


「あ、あぁ――。んん――。誰だろう……」


「分からないのか??」



「えぇ、おっかしいわね。天才的な頭脳を持つ私が幾ら頭を捻っても答えが出て来ないわ。これは本当に驚きよ」




 大馬鹿野郎が見当違いな答えを口走った刹那。


 頭の中から何かがプチっと切れ飛ぶ音が響いた。



「「お前の所為だよ!!!!」」



 憤りを籠めた声色でユウと共に声を合わせて叫んでやる。



「は、はぁっ!? どうしてそうなるのよ!!」



「いいか!? 俺は!! 態々多めに食料を買って備えていたんだ。こうならない為にな!! それなのにお前さんときたら……。毎日毎日目を離せばバクバク、むしゃむしゃと食料を食べ漁りやがって!!」



 堪らず歩みを止めて振り返る。



「あ、あぁ……。そう、なんだ。あ、あはは――。さて、目的地まで後僅かよ?? 気合入れて行きましょう!!」



 俺の憤りをスルリと躱してスタスタと歩き始める。



「おい。待て」

「ぐえっ」



 お惚け龍の襟を掴み、その場に留めてやった。



「まだ話は途中だ。いいか?? お前が飢えるのは自業自得だ。だけど、他の仲間にまで影響を及ぼすのは了承し難い!!」


「だって……」


「言い訳するな!!」



 珍しくまごついているマイへ向かって腕を組んで叱りつけてやる。



「悪かったわよ……。沢山あるからついつい……」


「ついつい?? お、お前って奴は!!」



 空腹から来る負の感情が俺にも影響している様だ。


 知らず知らずのうちに声が怒気を帯びてしまう。



「食費だって賄うのは大変なんだぞ!? 経費で多少は落ちるかも知れないが、俺の給料で補っているんだ!! 俺達が齷齪働いて得たお金が。お、お前の胃袋の中に収まっていると思うと……」



 いかん。


 両の目玉から涙が溢れてしまいそうだ。



「レイド。交代」

「た、頼む……」



 ユウと右手を合わせ、カエデが手綱を握る荷馬車と並走を始めた。



「今レイドが言った通り。今回はちょっとだけマイが悪いぞ??」


「ちょっとじゃない!!」



 ユウの甘い言葉に速攻で突っ込んでしまう。



「はは、悪い。大半はマイが原因だ」


「分かってるわよ……」


「ん。反省したか??」


「うん…………」


「よし。じゃあ、謝ってみようか!!」



 ユウの明るい声がこのふざけた状況の支えだ。


 本当に助かるぞ。



「その……。悪かったわね……。食べ過ぎて」


「まぁ。分かってくれればいんだ。いいか?? 今後二度と!! この様な事態が起こさない様にしろよ!!」



「わ――ってるわよ!! しつこいわね!!」



 し、しつこい??


 私、何か間違いを申しましたでしょうか??


 目を数度開いては閉じ、これでもかと眉をぎゅっと寄せているマイを見つめた。



「誰か首輪を持っていませんかぁ??」



 荷馬車の反対側。


 そこからアオイの声が静かに響く。



「アオイちゃん。どうしたの??」


「卑しい駄犬に着ける為に必要なのですよ。ほら、繋いでおけば悪事を働く事もありませんし??」


「…………ッ!!」



 マイがぎりりっと奥歯を噛み締め、姿の見えぬアオイを睨みつける。


 この非常事態を起こした張本人として言い返せないのが悔しいのだろう。



「レイド様ぁ――」


「何??」


「宜しければ、そこにいる駄犬を捨て置きません事?? 卑しい駄犬がいるだけで私達は迷惑しているのだと。お伝え下さいまし――」



 いや、無理だから。


 そんな事言おうものなら首を捻じ切られて玩具にされちまう。


 例え、腹を空かせていおうとも実力差は変わらないし。



「こ、殺してぇ……」



 拳をわなわなと震わせ、今にも食って掛かりそうな雰囲気だ。



「余計に腹が減るからやめとけ」


「分かってる。分かってるわ……。街に到着してぇ。栄養を補給したら、あのふざけた顔にぃ一生分の憎しみを籠めた一発をぶちこんでやらぁ……」



 いや、腹を満たしてもそれは叶うのだろうか。


 アオイの見事な体捌きに一発ぶち込むのは不可能に近いでしょうね。


 マイの場合、体中から溢れ出す殺気を読まれちゃうだろうし。



「皆さん喜んで下さい。街が見えて来ましたよ」


「本当!?!? どこどこ!?」



 カエデが腰掛ける御者席にルーが喜び勇んで飛び乗った。



「ルー。お尻が邪魔……」


「あぁ。はいはい」



 海竜さんのモチモチの頬っぺたが柔らかいお尻でググぅっと押され、これでもかと眉を顰めた彼女が若干乱雑にルーの臀部を押し退けた。



 嬉しいのは分かりますけど……。


 カエデも皆同様不機嫌なんだから。


 この中で一番怒らせたら不味い御方ですので、何卒失礼の無い態度を取って下さい。



「レイド」


「ん?? どうした??」



 早足で分隊長殿の隣に移動する。



「このまま進んで問題無いよね??」


「あぁ。皆人の姿だし。この調子だと……。昼までには到着するでしょう」



 本日も晴天……。では無く。


 重い雲が広がり、降りそうで降らない様子の空を仰ぎ見て答えた。



「ん、分かった。ウマ子。もう少し、頑張ろうね??」


『心得た』



 ちらりとカエデに振り返り、力強い瞳で答える。



「お腹と背中が――くっつきそうなのよ――。私は腹ペコで――。沢山食べたいお年頃なの――」



「「「五月蠅い!!!!」」」



 今度はリューヴまでもが俺達に声を合わせ、ふざけた歌を歌うマイへ言い放った。


 こいつは人を怒らせる天才だな。


 人の神経を逆撫でして何が楽しいんだ。



「ごめんごめん。もう直ぐ御飯が食べられると思うと、ついつい鼻歌が出て来ちゃうのよ」



 絶対反省していないだろう。



 にこっと笑みを浮かべているが、これに騙されてはいけない。


 フィロさんへ絶対告げ口してやるからな?? 覚悟しておけよ??



「ルンルルン――。アハッハ――ン」



 妙に鼻に付く面妖な鼻歌を口ずさみいつの間にか先頭に躍り出たマイの背を一睨みして、そう心に強く誓った。



 何はともあれ、漸く目的地に到着か。


 コブルさんに書簡を渡して、補給を済ませてから……。あ、いや。カエデに頼んで師匠の所まで空間転移で送って貰おうかな??


 これ以上の出費は流石に堪えますのでね。


 山の麓に見えて来た文明の影を視界に捉えつつ、己の懐事情と海竜様へのご機嫌伺い用の言葉を考えていた。



お疲れ様でした。


漸く移動パートを終え、次の御話からは御使いパートがいよいよ始まります。


本格的な作戦行動はもう少し後の話になりますが、何はともあれ。ここまで書き終えた事にホッと一息ついております。



いいねをして頂き、そしてブックマークをして頂き有難う御座います!!


暑さで参りかけた体に嬉しい励みとなりました!!



暑い日が続いておりますが、体調管理に気を付けて休んで下さいね。

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