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第五十二話 天上知らずの美

お待たせしました!!


本日の投稿になります!!


ごゆっくり御覧下さい。




 薄いピンクの膜の前。


 足を踏み入れる寸前の所で足がふと停止してしまった。




 勿論、俺の意思は前へと進もうとしている。この騒ぎの首謀者様に懇願を述べる為に向かうのだからそれは当然なのですけども……。




 体が無意識の内にこの中へ足を踏み入れるなと拒絶してしまっているのです。




 此処に立っているだけでもう鼻の奥へと男の性を刺激する香りが、微風に揺らめき漂っており。警戒するのは至極当然。



 中に突入したら果たしてどうなる事やら……。




「すぅ…………」



 今の内。


 そう考えて肺の中を清涼な空気で満たし。



「よし、入るぞ……」



 咽返る女の香の中へと足を踏み入れた。





「――――。うっ!!!!」



 な、何!?


 この匂いと空気は!!



 先ず感じたのは花の香りにも似た強い香水の香。


 甘ったるくもあり、しかし何処か澄んだ香りもする。




 腕に生える細かい体毛に絡みつく様な粘度質な空気が体に絡みついて動きを阻害し。鼻腔を擽る艶めかしい香りが意識を惚けさせた。



 意識を保て……。


 ここで気を失ったら笑い種だぞ。




「……」



 頭を横に一つ振って、堂々と前を歩く皆に続いた。





「流石で御座いますね、レイド様」



 俺達の前を歩くグウェネスさんが振り返らずに話す。



「それはどういう意味ですか??」



 甘い空気の香りが意識を惚けさせるのだと体が判断し、咄嗟に口呼吸へと切り替えて問うた。


 変な声色に聞こえたら申し訳ありませんね。




「女性はある程度の魔力を御持ちであれば女王が放つ魅了にも耐えられます。しかし、男性の場合そうはいきません」


「と、言いますと??」



「相当強い力を持つ男で無ければ、容易く意識を失ってしまうのですよ」



 そうなると、俺には淫魔の女王様が放つ魅了にも耐えうる力が備わっているのか。



 ふふ……。


 今日まで鍛えて来た事は決して無駄じゃ無かったな。





「女王の夜伽の相手をする男性さえ見付ける事が困難……。いえ。今まで女王の魅了に耐えた男性は現れた試しがありません。 有能な力を持った男、そして。女王の魅了にも屈しない潜在能力。稀有な殿方の存在は……。我々淫魔にも貴重な存在です」



 そう話すと。



 此方に横顔を向け、僅かに口角を上げた。




 ふぅむ??


 ちょぉっとイケナイ方向に話が向かっていますね。



 俺の危機察知能力が咄嗟に機能したのは彼女の怪しい横顔だけではありません。





「「「「…………」」」」





 周囲の四名から浴びせられるこの冷たい視線。


 これが指し示すのは。




『変な気を起こしたら……。分かっているな??』




 恐らく、こういった意味が含まれているので察知出来たのです。



 皆様方。もうちょっと優しい顔で睨んで下さい。端整な御顔が台無しですよ――っと。





「ぐ、具体的に。魅了を受けた男性はどうなるのですか??」



 そっち方面に話が向かっていかない様に会話の方向転換を画策した。



「この空気に触れるだけで恍惚の表情を浮かべると意識を失い。夢の中で己が想像する理想の女性を胸に抱き、それはもう素晴らしい経験をなされます。試しに、覗かれてはどうですか??」




 拠点地内の兵舎と兵舎の間を通過する際。


 彼女が此方から向かって左手側。


 兵舎の窓を指すのでそこから中の様子を恐る恐る覗くと……。





「あぁ……。素敵だよ……」


「ふふふ……。さぁ、俺を喜ばせてくれ……」



 床に転がる数十名の男の兵達がにぃっと口角を上げ、各々が幸せを享受する笑みを浮かべていた。



 その奥、女性兵達も淫魔の女王の影響を大いに受けている様で??



「あぁっ。凄い……。もっとぉ……」


「私に触れて?? そう……。良いわよ……」



 例に漏れる事無く体をくねらせ、足を擦り合わし、甘い吐息を吐き続けていた。




 耳を澄ませばこの恍惚に染まった吐息と声が立ち並ぶ兵舎から漏れ続けている。


 一体何名の兵士から生気を搾取しているのだろう……。




 夢現で何だか可笑しな顔を浮かべていますけども。顔色自体は悪くないので、今の所は身体的に悪影響を及ぼしていない事にほっと胸を撫で下ろすが。




 ただ……。何んと言いますか……。



 そういった行為の最中って皆さんあの様な顔を浮かべるのですかね?? 

 

 そんなどうでもいい疑問がふと湧いてしまった次第であります。





「うぇ。きっしょ……」



 皆と肩を並べ。中を覗いていたマイが顔を顰めてポツリと漏らす。



「お、おい。言い過ぎだぞ。彼等には非が無いのに」



 あなたの食事中の顔も同列、若しくは。若干上を行く可笑しな顔を浮かべていますよ?? 


 と、言えればいいのだが……。



 今はそれ処ではありませんので口を閉じておきましょう。それと、余計な暴力を受けるのは頂けませんからね。




「精神に影響は無いのですか??」



 カエデがグウェネスさんに尋ねる。



「えぇ、その点に付いては御安心下さい」




 拠点地の奥へと、再び進み出しつつ彼女が口を開いた。




「生気を吸収してはいますが、彼等の精神に影響を及ぼすのには数日以上掛かります」



「えっと……。では、女王様が食事を終えるのは何日の予定なのですか??」




 一月とか勘弁して下さいね??


 精神処か肉体が滅んでしまいますので。


 カエデに引き続き、質問を投げかけてみる。




「さぁ?? 分かりかねますね。何分、我々の女王は気分屋ですので」


「こ、ここを早く解放して頂く為にはどうしたら宜しいでしょうか??」




 数日間の遅れがこの先に居る兵士達の死活問題に繋がる恐れもあるのだ。


 早急に解放される事を望みたい。



「それも分かりかねます。女王に問うてみたら如何ですか??」



「その女王は何処に居るのよ」



 此処に入ってからずぅっと眉を顰めているマイが話す。



 眉、疲れないのかな……。




「此方の兵舎の中で待機しておられます。皆様、くれぐれも粗相の無い様に」



 兵舎に挟まれた道の終着点で足を止め、クルリと此方に振り返りそう話した。




 後方に立ち並ぶ兵舎よりも頑丈な作りの木造の平屋。


 作りから察するにある程度の位の高い方が使用する建物だと理解出来るのだが……。


 問題はこの建物から漏れ続ける厭らしい空気ですよね。




 此処に近付くにつれてその香りが強烈に高まっている事に気付いていたけど、いざこうして目の当たりにすると流石に尻窄んでしまいそうだ。




「どうぞ、お入りください」



 グウェネスさんが若干仰々しく頭を下げ、木製の扉へと手を招いた。



「み、皆。準備は良いか??」




「「「…………っ」」」



 俺が促すと皆一様に静かに一つ頷く。



 それを合図と捉え、大変硬い生唾をゴクリと飲み込んで扉を開いた。





 ――――――。





 左右に広く開いた室内。


 大部屋の隅には報告書の束だろうか。沢山の紙類が大切に保存されている棚が並び。


 正面にはそれ相応の位の者が使用するであろう大きな執務机が置かれている。






 そして、その奥に存在する一人の女性が俺達を迎えた。






 白いシャツが目に涙を浮かべ勘弁して下さい!! と、懇願する程の大きさと丸みを帯びた双丘が彼をぐぐぅっと内側から押し上げ。


 濃い桜色の長髪に誂えた様な鮮やかな色の牡丹色の上着を可憐に着こなす。


 美しい流線を描く眉に良く似合う大きな瞳。


 細く、そしてしなやかな顎の線は額に入れて時間の経過も忘れてずっと眺めてしまいそうになる程の構図だ。





 俺達パルチザンの軍服とは明らかに違う服を身に纏う女性が、優しく口角を上げ椅子にもたれながら此方を窺っていた。








「――――――。いらっしゃいっ」





 たった一言。


 そう、たった一言だ。



 彼女の言葉を受けただけで背の肌が一斉に泡立ち。


 痺れる感覚が腰へと抜け、爪先へと駆け抜けて行った。




 濃い桜色の長髪を細く白い指で悪戯に触り。ふっ、と耳に掛ける。


 その仕草で幾千の男性が恋に落ちれば。




「黙っていないでこっちに来なさいよ」




 耳からぬるりと体の中へと侵入し、精神を侵す声色を放てば世の男性は皆すべからず彼女に心を打ち抜かれるであろう。



「は、はい。失礼します」



 一歩、また一歩。



 踏み心地の良い木の床の上を進む度に女の香が強烈に香り、正常な意識を侵食。


 彼女の下へと駆け出したい気持ちを抑える事に精一杯になってしまった。




 美人??


 いいや。そんな言葉じゃ彼女を言い表せない。



 強いて言い表すのならこの言葉であろう。






『言い表す言葉が見つからない美を持ってしまった可憐な女性』






 執務机の前へと慎重に足を進ませ、彼女の姿を机越しに拝見させて頂いた。




「初めまして、私の名はレイド=ヘンリクセンと申します。彼女達は……」



 後ろに控える者達の自己紹介を端的に行おうとするが。



「あ、大丈夫――。グウェネスが聞いていた会話の内容で大体察しているから」



 彼女が此方の話の腰を折り。




「私の名前は、エルザード=レ=ウルカ。宜しくねっ」




 片目をパチンっと瞑ってお名前を聞かせて頂きました。



「早速ですが本題に入らせて頂きます」



「あら?? 世間話は無しなの??」



 その通りです。


 これ以上、この常軌を逸した空気晒され続けたら俺の精神が持ちそうにありませんので。




「この拠点地は我々人間にとっては大切な場所なのです。彼等は西へと人員を送る任務へと就いています。彼等の任務に支障をきたしますと、この先に居る者共へ多大なる影響を及ぼす恐れが懸念されるのです」



「ふんふん。続けてっ??」



 コクコクと小さく顔を動かして話す。



「エルザードさんに対して、大変無礼かと存じ上げますが。此処を解放して頂けませんでしょうか??」



 此処に立って気付いたのですが。


 彼女は大変短い青のスカートを御着用されているので。




「ふぅん。そう……」




 俺の願いを聞き終えると。



 すっ…………。


 と、艶めかしい色白な肌を覗かせて足を組んでしまう所を捉えてしまった。




 もしも、俺が彼女の親であれば。



『もう少し裾の長いスカートを履きなさい!!』



 頑固おやじの定型文を言い放ってやるのだが……。如何せん、身分が違いますのでね。


 強く言えないのが残念です。




「私が此処でナニをしているのか。知らない訳じゃないんでしょ??」



「はい、グウェネスさんから御伺いしました」



「食事中に邪魔されたら誰だって腹を立てるわよね??」



 その通りです。


 特に、食いしん坊の龍の飯を取り上げるものなら暫くの間。水しか飲めない顎になってしまいます。




「私、困っちゃうんだよな――。ぜ――んぜん体力回復してないしぃ――」



 何んと言いますか……。




 ボーさん然り、アレクシアさん然り、フォレインさん然り。


 種族を纏める御方は皆謹直な御方だと考えていましたので……。



 こうして飄々とした姿を見せられると、どうも肩透かしを食らった気分になるな。




「で、では。何か条件はありますか??」



 不機嫌そうな顔を浮かべ、ぷいっとそっぽを向いてしまった彼女へ問う。



「え――。どうしよっかなぁ――。私のお願い、結構難しいよ??」



 おぉ!!


 在るには在るのですね!!




「是非お聞かせ下さい!!」



「んふっ。聞くじゃ駄目――。絶対、ぜ――ったい実行してくれると約束してくれなきゃ嫌っ」




 依頼の内容を聞く前に了承するのは憚れますが……。


 背に腹は代えられない以上、やむを得ないか。




「分かりました。その願い、受け賜わりましょう」


「本当っ!?」



 机の上に両手をバンっと立てて、急に立つものだから驚きましたよ。



「男に二言は無いわよね!?」


「え、えぇ。殺人、又は人に対して暴力を与えるといった行為は了承出来ませんけど」



「そんな暴力沙汰を頼むなら、私が出張った方が早いから頼まないわよ。私のぉ……。お願いはぁ……」




 そう話すと、俺の目を真っ直ぐに捉え。


 淫靡に口角を上げてしまった。



 不味い……。大変不味いです。


 この目を浮かべる女性は非常に宜しく無い考えを御持ちなのです。




「ちょ、ちょっと待って下さい。やっぱ……」




「私の男になってくれれば、此処を解放してあげるっ!!!!」



 お、おぉう。


 これは早速やらかしてしまいましたね……。




 拒絶を伝える前に、願いを唱えられてしまった。



「え、えっと。それはつまり……。エルザードさんと友好的な関係を構築するといった事でしょうか??」



 お願いですから肯定して下さい。



「ううん、ちが――う。男と女の関係になってくれって事よ」



 う、む……。


 やはりそうか。



「申し訳ありませんが、出会って間もない二人がそういった関係を構築しても長続きはしないかと……」



「ベッドから始まる恋もあるって言うじゃん。さっ!! 二人で早速楽しもう――っ!!」



「も、申し訳ありません!! 出来ません!!」



 前屈みになって机越しに手を取るものだから、見えちゃいそうなのです!!!!



 咄嗟に首を捻り。失礼かと考えましたが、両手をパッと払ってやった。



「あ、嘘つき――。男らしくないゾ」



 嘘つきでも、債務不履行でも好きな様に罵って下さい。



 そういった行為は然るべき男女間の者が行うのです。




「――――――――。さっきから黙って聞いてれば……。何が、男らしくないゾ、よ」



 はい。


 厄介な人の憤怒に火が灯ってしまいました。




「マ、マイ。落ち着けって」



 屈強な戦士でさえも大粒の汗を流す声色に慌てふためき、振り返ると。



「ちょっと、そこ邪魔」



 深紅の瞳が更に激しく燃え盛り、今にも噴火寸前の狂暴な御方が堂々と此方に向かって歩いて来た。



「御免なさい」



 そして、たった一睨みで道を譲ってしまいましたとさ。




「よぉ、淫らな姉ちゃん。私達が此処に来た理由はそこのボケナスから聞いたわよね??」


「えぇ、聞いたわよ。残念な胸の小娘」


「…………」




 彼女に対して最大の禁忌とされる言葉を発した刹那。


 わなわなと肩が震え、ぎゅうっと拳を握り。


 口からは恐ろしい息が漏れ始めた。




「「わ、わぁっ!! 落ち着けって!!!!」」


「触んなっ!! 落ち着いているわ!!」



 絶対暴れるし!!


 これ以上問題を厄介にしたくないの!!



 ユウと共にマイを宥め、腕を掴みその場へと何んとか留めてやった。



 もうこれ以上耐えられる気がしませんので、お願いしますからその言葉は使用しないで下さい!!




「簡単な条件じゃない。彼を此方に渡して、あんた達は此処から去ればいいだけなんだし。たのしも――ねっ?? レイド」



 そんなウキウキした顔で此方を見つめないで下さい。


 大体。


 そういった男女間の関係を持った事が無いので、どうしたらいいのか分かりませんよ。




「レイド様は渡せませんわね」


「だな――。あたし達はレイドの任務を手伝いつつ世界を見て回る予定なんだ。カエデもそうだろ??」




 概ね良好な返事に胸を撫で下ろし、引き続き賢い海竜さんの御言葉を待つ。


 勿論、彼女は肯定してくれると考え言葉を待ったが……。



「…………」



 あら??


 無言ですか??



「ガルルルルゥ!!!!」



 今にも襲い掛かりそうな獣を宥めつつ、カエデの方を向くと。


 横一文字に口を閉ざし、信じられないモノを見る様な眼差しでエルザードさんを注視していた。




「カ、カエデ?? どうしたの??」



 いつもとは違う様子の彼女に問う。



「い、いえ。何でも……。ありません……」



 俺の声を受け、はっとしたのか。


 強張っていた全身の力を弛ませた。




「あはっ!! そっか!! この中で魔力探知に長けているのはその子だけだったんだ。御免ねぇ――?? もうちょっと魔力を抑えてあげようか??」



「結構です。私は、こう見えてかなり強い、ですから……」



 傍から見ても強がりに見える姿でそう話す。



「カエデ!! ビビっていないで言ってやりなさいよ。私達に歯向かうとえらい目に遭うわよ!! って!!」



「共に行動を続けて初めてマイを羨ましいと考えました。これだけの馬鹿げた魔力の潜在力に気付けないのですからね……」



「ねぇぇ……。どうするぅ?? 此処でぇ、私と戦って皆死ぬのか。私と添い遂げて彼女達を逃すのかぁ。早く決めなさいよぉ……」



 またとんでもない二択ですね……。



 腕を組み考えるも、浮かんでくるのは最悪の結末のみ。



 さて、どうしましょう……。


 此方の決断を大いに惑わす女の瞳に見つめられながら、中々出て来ない妙案に四苦八苦し続けていた。


お疲れ様でした!!


投稿時間が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。



それでは、また明日の投稿でお会いしましょう!!

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