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第百二十五話 微塵子でも分かるっ!! 海竜さんの優しい付与魔法講座 初級編

お疲れ様です。


本日の投稿になります。


区切ると少々流れが悪くなる恐れがありましたので、二話分を纏めて掲載してありますので御了承下さい。




 今この場で提供出来る最大限の効用を受けた者達が柔らかい橙の炎を囲み、素敵な食後の余韻を享受している。


 塵一つ確認出来ない澄み渡った空に浮かぶ星の女神達は彼女達の安らぐ顔を羨んで見下ろし。冬の冷涼な風が何んとか憩いのひと時を邪魔してやろうと流れて行くがそれでもこの温かな空気を払拭する事は叶わなかった。


 主観的にも客観的に見ても一日の終わりに相応しい食後の姿に俺も双肩の力を抜き、薪が放つ橙の色を只々見つめていた。



「ふぅ――。食ったわねぇ――」



 この空気に誂えた声色でマイが宙へ言葉を放つ。


 満足してくれたのか、中々にこんもりと膨れ上がった腹をポンっと抑える。


 だらしなく地面に寝っ転がり、食事の余韻を余す事無く享受して目尻がいつもより柔和に垂れ下がっていた。



「美味かったか??」



 マイと同じく、大分寛いだ姿勢で問うてやる。



「そりゃもう!! 熱々ハフハフのおじやに、ゴツゴツした牛蒡の天ぷら。対照的な二人だけど手を組ませたら最強ね!!」



 屈託の無い笑みをこちらに向けてくれる。


 良い食事には良い笑顔が付き物と言われていますし、この笑みを何度も見る為に精進しましょう。



「そりゃどうも。さぁて……。食後の休憩はそろそろお終いだな」



 誰とも無しに言葉を発し、荷物の山の中からいつものクジ引き箱を手に取る。


 このままでは緩んだ空気に流されて眠ってしまいそうですからね。



「主。組手の時間か??」



 丸まっていた体から頭を動かしてリューヴがこちらを見つめた。


 組手と聞き、陽性な感情が湧いたのか。


 いつもは厳しい翡翠の瞳は今か今かと遊びを待ちきれない子供の様に煌びやかに輝く。



「そうそう。このままだとダラダラして寝ちゃいそうな奴もいそうだし??」


 だらしない姿で横たわるマイに視線を送って話す。


「うっさいわね。やる事はちゃんとやるわよ!!」



 はいはい、そんなに大きく叫ばなくても聞こえますからね――。



 今日の昼は師匠の所で時間を費やした所為か、遠征中に行われる組手を疎かにしてしまったし。


 ここは一つ気合を入れて取り組みたい。



 と、意気込む向上心は大変良い事なのだが。


 問題は相手なんだよなぁ……。俺以外、傑物揃いだし。



「じゃあ早速クジを引くぞ!!」



 そんな弱気を払拭するかのように声を荒げ、箱の中に手を突っ込んでやった。



「ちょっと待って!!」



 いざ紙を引こうと気合を入れると、マイの声がそれを阻む。



「っと。何だよ」


「ほら、いつもは最後まで残った人が片付け担当でしょ?? 今日は趣向を変えて……。一番初めに出た名前の人が片付け担当にしない??」



「別にいいけど……。皆はそれでもいい??」


「「……」」



 くるりと視線を動かし、各々の表情を窺うが異論はない様ですね。



「よぉ――しっ。では、引け!!!!」



 貴女に命令されなくてもちゃんと引きますから。


 そしてアオイさん??



「……っ」



 友人の顔を見る時はもっと柔和な瞳の色を浮かべて下さい。


 仇敵を見付けた様な恐ろしい瞳の彼女から手元のクジ箱へと視線を移すと、手を突っ込み。



「じゃあそういう事で。さぁて、最初に名前が出るのは……誰かなっと!!!!」



 勢い良く小さな紙切れを引き抜き、その名前を確認した。



「本日の片付け担当は……………………。リューヴです!!」



 ちょっとだけ皺が目立つ紙に書かれた名前を確認、そして皆に見える様に掲げた。



「な、何ぃっ!?!? 主!! 本当か!?」


「おっと……」



 灰色の狼さんから人の姿に変わり、目を疑う速さで紙を強奪。


 そして己の名前を見下ろして目を丸くしていた。



「んふふ――。残念ねぇ、リューヴ――」


「リュー、ちゃあんと隅々まで綺麗に洗わないと駄目だよぉ??」



 陽気な龍と狼が速攻で揶揄する声を出す。



「くっ!! も、もう一度引き直す訳にはいかないのか!?」


「い、いや。そういう決まりだし……。それに、ほら。ストースの街までまだ暫く日数もあるしさ。今日はついていないって事で諦めよう??」



 ずいぃっと端整な顔を近付けてくるリューヴを諭し、出来るだけ刺激を与えぬ様柔らかい口調で話した。


 ってか、近いです。



「諦めろって――。大体初めてじゃない?? リューヴが片付け担当するの」


「リューは片付け嫌いだし。それに何度か私が代わってあげたりしていたからねぇ――」


「ん……。確かに、そうだな」



 ユウとルーの言葉を受けて記憶を辿って行くが。


 確かにリューヴが片付けをしている姿は思い浮かばなかった。



「主ぃ……」



 何だろう。


 散歩を強請る子犬、じゃない。猛烈に親心を刺激してしまう子狼みたいな声とでも言おうか。


 何かを請う様に上目遣いで話す姿は強烈に甘い考えを誘う。



「だ、駄目だぞ!! そんな声を出しても!!」



 甘い誘惑を跳ね除け、ぴしゃりと彼女の懇願を遮断してやった。



「駄目元で言ってみたが……。そこまで甘くは無いか」



 ふっと、いつもの真剣な表情に変わりそう話す。


 リューヴも俺の性格を随分と理解してきたなぁ……。


 危く流される所だったぞ。



「驚かすなよ……。じゃあ次、引くぞ――」



 気持ちを切り替え、箱の中に手を入れた。



「ふんっ!! …………おっ。俺だ」



 さて。問題は次に出て来る名前だな。



「私を引きなさい!! 甘ったれた体と精神を叩き直してやるわ!!」



 おまえさんに言われる程、自分はだらけてはいません。


 人の姿に変わったマイをじろりと見つめそう心の中で呟く。



「レイド様ぁ!! 私を御引き下さいまし!! 二人だけで甘い一時を過ごし。今日こそ新しい生命を生み出しましょう!!」


「それは組手とは言いません」



 全く、何を勘違いしているのやら。



「俺の相手は…………。よいしょ。むっ!! カエデ、か」



 紙にはきっちりとした文字でカエデの名が横に並んでいた。



「私、ですか。海竜の恐ろしさをその身に刻み込み。一生忘れられなくしてみせましょう」



 ふんすっ、と鼻息を荒げ胸を張る。


 何んと言いますか、カエデがその姿勢を取ると妙に可愛く見えるな。


 強いて言うならば……。




『おかぁさぁ――ん!! 見てみてぇ――!!』


『うふふ。そんなに慌てなくてもお母さんは此処に居ますよ』



 小鴨が親鴨に見栄を張り、覚えたての泳ぎを披露しようと勢い良く水面へと飛び込み。そしてそれを温かく見守る親鴨の気持ちが心の中にふっと過るとでも言えばいいのか。


 絶対言わないよ??


 辺鄙な場所へ空間転移で送られちゃうから。



「宜しくな」


「こちらこそ」



 視線が合うとふっと互いに口角を上げる。



「カエデちゃんと組めていいなぁ――。ねぇ、レイド――。代ってよ」


「クジで引いた結果は変更不可なので悪しからず」



 組手云々より、魔力の扱い方を勉強したいと思っていたからね。


 丁度いいや。後で聞こうっと。



「この調子でどんどん行こう!! お次は……。はいっ!! マイです!!」


「おっしゃあぁ!! 相手は誰!?」



 拳を合わせて乾いた音を叩き出しながら話す。



「相手は。……………………うおっ」



 やっべぇ。最凶最悪の組み合わせだ。


 引き直そうかしら。


 引き抜いた紙を箱に入れ直そうとすると、マイが俺の手元から紙をふんだくっていってしまう。



「見せろ!! 私の相手は……。へぇ?? そう……」



 紙に記された名前を見下ろすと。


 血に飢えた獰猛な熊も腰を引いて恐れ戦く恐ろしい笑みを浮かべた。



「レイド様?? 汚物の相手は誰が務めるので??」


「誰が汚物だってぇ!? てめぇの相手は……この私だ!!」



 飄々と尋ねるアオイに向かってマイが紙を投げつける。



「まぁ、そうですの。嫌ですわぁ。私の着物を汚物で汚されたらどうしましょう……」


「こ、このっ……!!」


「わぁ!! まだだよ!! マイちゃん!!」



 破壊と混沌を司る権化をルーが羽交い絞めにして止めてくれた。


 止めて無きゃ速攻でおっぱじめていただろうよ……。



「残りは、ユウとルーね」



 もう引かなくてもいいでしょう。


 残る二人にそう告げてやった。



「おう!! ルー、そこの暴れん坊を放してあげな。あたし達は向こうで始めようか」


「は――い。マイちゃん、暴れてもいいけど。地面を焦がさないでね??」



「喧しい!! ぬっふふ……。日頃の怨みぃ。その横っ面に叩き込んでやらぁ」


「はぁ……。レイド様ぁ。直ぐに汚物を滅却して参りますので、終わりましたのならアオイとぉ。あまぁい時間を過ごしましょうね??」



 潤んだ瞳と、女性が持つ恐ろしい威力を備えた二つの武器の組み合わせで俺の体にひしとしがみ付く。



「い、いや。俺はカエデと組むから」



 これ見よがしに憤怒を撒き散らす御方を容易く退治するのはかなりの労力を費やすので……。直ぐに終わらせるのは不可能かと思います。



「んぅもう。カエデ、いいですか?? レイド様にちゃんと魔力の扱い方を指南するのですよ??」


「言わずもがな」


「あれ?? 良く分かったね。俺が頼もうとしている事」



 こいつは意外だ。



「ふふ。御顔を見れば分かりますわ……」



 細く白い手を俺の頬にスっと添えて話す。



「ど、どうも。さ、さぁ始めようか!!」



 少しだけ大袈裟に仰け反り、甘い香りから脱却した。


 不意打ちは卑怯ですよっと。



「任された。レイド、私達はあっちに行きましょう」



 各々が散っていく中、二つの平らな岩が寂しそうに夜空を見上げている地点を指差す。



「あそこ?? 了解」


「あそこなら邪魔が入っても直ぐに対処出来そう」


「邪魔??」


「誰かが吹き飛んで来ても、と言った方が正しいかな」



 あ、成程ね。



「おらぁ!! さっさと来いやぁ!!」


「まぁ。何て汚い言葉ですこと……。吐瀉物を撒き散らすだけでは飽き足らず、言葉までも汚くするのですねぇ……」


「あぁあぁ!? テメェの腹を引き裂いて、零れ出て来た腸を犬に食わせてやらぁ!!」



 土の中で寝ているモグラさんが思わず常軌を逸した速度で上体を起こしてしまう殺気をこれでもかと周囲に撒き散らしながら離れて行く。




「あの二人。大丈夫かな??」


「大丈夫……。多分」


「最後の方をちゃんと言って欲しいかな。まぁ、仲間内だし。殺し合うって事は無いでしょう」



 そうあって欲しいものだ。



「二人共優しいからね」



 優しいねぇ。


 アオイは兎も角、深紅の龍には甚だ疑問が残ります。



「さ、私達も始めましょう。時間は有限です。限られた時間の中で最良の結果を残す為、貴重な時間を有効に使わなければなりません」


「お、おう」



 スタスタと無機質に歩き始めるカエデの後を慌てて追う。


 何だろう。


 彼女のしゃきっと伸びた背筋が物凄くデキる指導者に見えて来てしまう。


 まぁ、魔法初心者の俺にとっては素晴らしい指導者である事には変わらないのですが。



「到着。そこに座って??」


「了解しました」



 夏に比べて元気の無い草の平原の上に横たわる平らな岩。


 少しひんやりと冷たい岩の表面に胡坐をかいて座った。



「さて、今から指導を始める訳なのですが。先ずはおさらいをしていきましょう」


「おさらい、ですか??」


「魔力の源を発現させる事。覚えているよね??」


「勿論。アオイに教えて貰ったからな」



 つい先日、平屋の縁側で開催された指導内容が頭に浮かぶ。



「宜しい。では、早速発現させて下さい」


「分かった。集中しなきゃいけないからちょっと待ってね」


「ゆっくりでいいですよ。私は先生と違ってせっかちではありませんので」



 そう話すともう片方の岩へちょこんと座る。


 行儀良く座るなぁ。どこぞの誰かさんも見習って欲しいものだ。



 さてと、集中しなきゃ。


 意識を切り替えて目を閉じて呼吸をゆっくりと深く。心の音が遅々とした速度で鳴るまでこの呼吸を続ける。



 龍の力を発現させる様、静かにそして確実に体の奥底へと意識を向けた。



 前は海辺に佇む球体を思い描いたよな??


 今回も前回と同じ様に頭の中で想像してみよう。



 等間隔で押し寄せる波。夏の陽射しを受けて足の裏を焦がす熱量を帯びた熱砂。


 熱砂の熱さを打ち消す為、波打ち際に素足を置き。両の手を体の前に翳すと宙に黒き球体が現れた。


 その球体にゆっくりと触れて力の胎動を己の体へと流し込んで行く。



「うん。いいですね」


「ふぅ――……。この状態を保つだけで一苦労だよ」



 精神を統一して騒ぐ心を鎮める。


 少しでも気を抜くとこの状態は解除されてしまうだろう。


 腹の奥底から滲み出て来る蛍の瞬きと同程度の光量を見下ろして大きく息を吐いた。



「右腕に魔力を集中させたら爆ぜたのですよね??」


「え?? あぁ、うん。途中までは上手くいったんだけど。頭の中で声が響いたと思ったら……」



 今も痛々しい跡が残る右腕。


 あの時に受けた幻痛がすっと体の中を駆け巡って行く。



「用心に越したことはありません。右腕に魔力を集中させるのは止めましょう」


「そうだな」



 もう二度と御免です。あの常軌を逸した痛みは。



「では左腕に宿してみて下さい」



 宿してと申されましても……。


 要領が分からぬのだからやりようが無い。



「あの、カエデさん?? 端的に説明して頂けると助かりますです。はい」


「いいでしょう。お子様にでも理解出来る言葉で説明します」



 俺はもう成年しているのですが……。


 言わないでおこうかな。


 満足気に口を開こうとしているし。



「以前話した通り、魔力は体の中を巡り絶えず流れています」


「血液……みたいな感じだよね??」


「似て非なる物ですが、感覚的には正解です」



 良かった。合ってたぞ。



「血液と違い。魔力の流れは自分の意識で清流にも、濁流にも変化をさせる事が出来ます。当然、留める事も可能であり。この留める作業がレイドの当面の目標となります」



 ふむふむ。



「つまり、俺は魔力の流れを意識的に動かし且留めなきゃいけないのね??」


「理解が早くて助かります」



 コクリと小さく頷く。



「カエデはさ、魔力を宿しての戦闘は苦手って言ってたけど。出来ない事は無いんだよな??」


「えぇ。見てみます??」


「是非」



 興味津々といった感じで素早く頷いた。



「では……。初めに、私の魔力の源を御覧になって貰いましょうか」



 カエデらしい静かな口調で話すと目を瞑り大きく息を吸い込む。



「すぅ――……。ふぅ――……」



 静かに大きく。


 呼吸が落ち着いて行くとカエデの体の奥底から閃光が迸り周囲を明るく照らし出した。



「眩しいっ!!」



 目の前にまるで小さな太陽が現れ、その光量の強さに思わず手で光を遮る。



「っと……。失礼しました。ちょっと張り切り過ぎたみたいです」



 落ち着いた口調と共に光の強さも徐々に弱まり、やっと肉眼でカエデの姿を捉える事が出来た。



「張り切り過ぎた??」


「魔力が強い種族は当然宿す魔力の源も強力です。アオイが見せてくれた魔力の源は……。そうですね。凡そ、一割程度の強さかと思います」



「あ、あれでたったの一割!?」



 俺の放つ光と変わらないのに……。


 ちょっとだけ憐憫を含めた瞳で己が発する光を見下ろした。



「ち、因みにぃ……。最大火力で発光すると、どうなる??」



 興味本位で彼女へ問う。


 魔法戦を得意とする彼女の源、一体どれだけ強力なのかちょっと見てみたい気がするし。



「最大で?? ん――。試した事はありませんが。いいでしょう。物は試しです。やってみましょうか」


「ありがとうね」



 この気持ちは恐らく。怖いもの見たさって奴だな。


 カエデの本気を拝めるまたとない機会だ。


 両の眼に確と刻もう。



「行きます。んっ…………!!」

「どわぁっ!!!!」



 藍色の瞳が閉じると同時に、真夏の昼間が目の前に突如として出現。


 先程の光量が生温く感じてしまう程の光に対抗する為。一分の隙間も無く目を閉じるものの、瞼の肉壁では光を遮る事は叶わず。


 猛烈な光量から逃れる為に両手を翳して光の突進を遮断させた。



 眩しいってもんじゃない。


 これは……。一種の武器にも成り得るな。



「こら――!! カエデ――!! 眩しいわよ――――!!」



 どうやらこの光量は方々にも届いている様で??


 マイの声が光のずぅぅっと後方から飛んで来た。



「……ふぅ。如何でした??」



 馬鹿げた光量が収まるといつもの可愛らしい顔が現れ、仄かに口角を上げて感想を尋ねる。



「何と言うか……。目が凄く痛いです……」



 目では無く目の奥が痛いと言った方が正しいかもしれない。


 目頭をきゅっと抑えてチカチカと明滅する痛みを誤魔化した。



「まだ本気には程遠いですが、今ので半分程でしょうか」


「は、半分!?」


「えぇ。今の程度ならアオイでも余裕で可能です」



 はぁ……。相変わらず、常軌を逸した力を御持ちな事で。



「今の光量は武器にならないの?? ほら目眩ましに使えそうじゃん」


 先程感じた己の思いを話す。




「まさか。私はまだ死にたくないのでやりません」




「うん?? どういう事??」


「魔力の源を発現させるという事は、己の弱点を露出させる事と同義です。アオイから聞きませんでした?? 魔力の源は第二の心臓と」


 あ、そう言えば言っていたな。


「聞いたね」



「戦いの際、心臓を剥き出しにして戦う人はいない様に。魔力の源を発現させる者もいません。いたら余程酔狂な御方でしょう」



 心臓を剥き出しにして、か。


 おちおち戦っていられないね。一突きされたら、絶命に至るし。



「魔力に特化した者は如何に魔力の源、そして魔力の流れを隠して戦うか。それに長けています」


「前衛で戦う者で言うと、体重移動や構え方。みたいな感じ??」


「厳密言えば違いますけど……。所作や、気の持ち方。その在り方がそれに通じるかもしれませんね」



 むぅ……。違ったか。



「レイドはまだ魔力、そして魔法に関しては素人……。いえ。歩き方も分からない赤子同然です」


「あ、赤子??」



 酷いなぁ。もっとましな言い方があるでしょうに……。



「ふふ。唇を尖らせても駄目ですよ?? 安心して下さい。赤子同然と言う事は。これから幾らでも学べるという事です。変な癖が染みついていない分、こちらとしては助かります」



「成程ねぇ。どんな色にでも染まれるって事か」



「出来の良い子になるか。将又、親のいう事を聞かないやんちゃな子に育つか。私達の手に委ねられています」


「教育熱心な保護者ですか??」



 先程よりもっと唇を尖らせて言ってやった。



「熱心……。うん、そうかも。目の前でこちらの想像より二回りも早く成長して行く弟子が現れたら嬉しくありませんか??」


「まぁ、そりゃあねぇ」



 俺に弟子はいないけど、教えを咀嚼し。正しく理解をして成長して行けば目を細くして見つめるのは当然だろう。



「さてと。雑談はここまで、です。魔力の宿し方のお手本を見せましょう」


「宜しくお願いします」



 丁寧にカエデ先生へと頭を垂れた。



「魔力の源から徐々にゆるりと。感覚的には小さな欠片を移動させ、手の中で一つの塊に集める感じとでも言いましょうか」



 会話を続けている今も矮小な光が体の中を移動し、カエデの右手へと集まっている。


 目に見えるのは非常に助かるな。



「ふむ……。龍の力を発動させる時と感覚が似ているね」


「そうなの??」


「砂粒を集め、右手の中でぎゅっと集約させて石礫を作る感覚で発動させているんだ」



 藍色の瞳の彼女へと簡単に説明してやった。



「確かに……。酷似していますね」


「感覚は似ているけどさ。利き腕じゃない方へ移すのは初めてだから若干不安かな??」



 失敗するのが恐ろしいのもあるけど。


 また腕が爆ぜたら……。そう考えると億劫にもなるさ。



「慣れる事が大切です。箸を持つ様に、常日頃から行っていれば嫌でも慣れます」



 慣れ、ねぇ。



「魔力を宿す戦闘方法。その長所は筋力と魔力を合一させる事です。筋力だけでは破壊出来ない物も、合一させたそれは可能にします」



 光る右手をぎゅっと握って拳を作る。



「それは……。こんな感じです!!!!」



 そして、腰かけている岩の端に握り作った拳を勢い良く叩き下ろした。



「うおっ!?」



 パキっと乾いた音と共に、硬い岩に亀裂が走る。


 カエデの小さな拳が岩を割るなんて……。



「ふぅ。上手く出来ました」



 ぱっと拳を開き、大袈裟に振って見せている。



「不得意って言ってたけど……。普通に出来るじゃん」


「苦手ですよ?? マイやユウ。そしてルーとリューヴ。彼女達は私の倍以上にこれを上手く扱います」



「ば、倍??」



「えぇ。見ていて分かりませんか?? 風よりも速く動き、堅牢な大地を裂き、雷を宿して戦う。普通の魔物には到底叶わぬ行為を、息をするより容易く行っているではありませんか」



「今までそういう目線で見ていなかったらからなぁ。これからは視線を変えて見つめる様にするよ」



 参考に出来れば、の話ですけどね。


 実力が離れすぎているとかえって理解出来ないかも知れませんから……。



「余り見つめなくても構いませんけど……」


「うん?? 何か言った??」


「いいえ?? 気のせいでは??」



 小首を傾げてこちらを見つめる。



「よしっ。じゃあ、試しにやってみましょうかね!!」


「失敗しても焦らない事。最初は誰でも躓くのが当たり前ですから」



 躓く程度で済めばいいけどね。



 物は試し。カエデが言う様に、失敗を成功の糧にしなきゃな。


 目を瞑り、呼吸と心を鎮めた。



 集中しろよ……。


 体の奥に沈む温かい球体に手を触れ、ゆるりと力の欠片を左手へ。


 砂粒を石へ……。石を岩へと作り替えていく。



「うん。良いですよ……。そのまま留める事に意識を集中させて下さい」


「くっ……。な、何かさ。左手が熱いんだけど??」


「魔力が集約されている証拠です。目を開けて、左手を見て??」



 カエデの言葉に従い、ふっと瞼を開ける。



「おぉ……」



『魔力が集約されている証拠』



 カエデが言う様に、左手に小さな光の塊が宿り瞬いていた。


 彼女と比べれば拙い光。


 しかし、それでも感じる熱量はしっかりと手から体中へと伝達していた。



「龍の力の扱いに慣れている御蔭、ですかね」


「慣れてはいないけど……。こ、ここからどうすればいいの?? 動かしたら直ぐに消えてしまいそうなんだけど!?」



 風前の灯火、とでも言おうか。


 小さな火を揺らめかせている蝋燭の如く不安になる火だ。


 少しでも動かそうものなら霧散してしまうだろう。



「左手の熱をぎゅっと握り、決してその力を離さないで下さい」



 カエデに言われるがまま左手で拳を作り、熱い感覚を手の中に閉じ込める。



「あっつ!! これ、握っても大丈夫!?」



 如何に小さくとも、火は火。


 熱さが手の中で煮え滾り皮膚を焦がす。



「大丈夫ですよ。それは疑似的な感覚です。熱さを感じる、即ちそれは火の魔力が宿った証拠です」


「火!? 俺って火の魔力が宿っているの!?」


「火、水、土、風、光、闇……。周知の通り世の中には幾つもの属性が存在します。当然、レイドにもその全ての属性が宿っています。今回は偶々火の属性が発現した様ですねぇ」



 ふむふむと、満足気に頷きながら俺の左手へと視線を送っている。


 カエデは楽しいかもしれないけど……。


 こちとら、握る作業だけで手一杯なのですよ!!



「うぐぐ……。これを閉じ込めたまま……。振り降ろす!!」



 カエデに倣い、勢い良く座っている岩へと拳を振り下ろすが。



「―――――。いってぇぇええ――!!」



 火の熱さは何処へ。


 いつもと何ら変わりない己の左手が大変硬い岩とこんばんはの挨拶を交わしてしまった。


 鋭痛、鈍痛。


 凶悪な組み合わせに顔を大いに顰める。


 大失敗って奴だな。



「ふぅむ。途中までは概ね良好でしたが……。拳を振り切る瞬間に意識が離れてしまいましたね??」


「と、言いますと??」



 若干涙ぐんで左手を抑えつつ話す。



「レイドは肉弾戦に慣れ過ぎています。恐らく、心のどこかでまだ己の魔力に疑問を抱いているのでは?? 疑問を抱く拳。失敗しても何ら不思議はありません」


「疑問、ね」



 確かに……。


 カエデが言う通り心のどこかでまだ魔力の力を信じていない部分があるのかもしれない。


 魔法という存在と出会ってまだ一年も経っていないのに全幅の信頼を寄せるのは無理ってもんか?? ましてや自分自身の内側に対してだしさ。


 きっと深層心理では俺なんかがと高を括っているに違いない。


 そこを塗り替えて行く必要がありそうだ。



「時間はあります。また始めからやりましょう」


「ん。了解しました」



 いきなり成功するとは思っていないさ。


 自分の力を完璧に信じられる日が来るまで、気長に練習を続けよう。


 それがこの問題の答えだ。


 慌ただしい心を鎮め、大きく呼吸を続けていると。それに待ったを掛ける存在が元気良く駆け寄って来た。




「あ、主!! 洗い物、全て完了したぞ!!」



 狼の姿でハッハッと息を荒げて舌を出し、地面にちょこんと座りこちらを見つめている。



「もう?? 随分と早いね??」


「あ、あぁ。それより、私の組手の相手を頼んでもいいか!?」



 いやいや。


 今は海竜先生の授業中なのですが……。



「ん――。カエデの指導が終わってからでもいい??」


「構わないぞ?? 何ならこちらの指導に加わっても構わぬが!?」



 でしょうね。


 びっくりする位の振り幅で尻尾を振っているし。



「じゃあ聞きたい事があるんだけど」



 魔力の宿し方。それに長けている者の意見は貴重だ。


 参考になるやもしれぬし、聞いておいて損は無いでしょう。



「何だ??」


「魔力の宿し方について……」



 いざ質問を投げかけようとすると、もう一頭の狼さんの声がこちらに届いた。



「ちょっと、リュー!!!! 洗い物、全然終わってないじゃ――ん!!!!」



 あらあら??


 どういう事ですか、リューヴさん。


 疑念に塗れて黒く澱んだ暗い視線を送ると……。



「……っ」



 俺から向けられる痛い視線に耐えられなくなったのか、フイっと顔を逸らしてしまう。


 ルー然り、リューヴ然り。


 嘘を付く時、若しくは罪の意識に苛まれていると必ず顔を逸らすんだよなぁ。



「食器の洗い方も中途半端だし――!! 鉄鍋も油ぎっているよ――!!」


「リューヴ??」


「何だ」


「向こうの狼さんはあぁやって言っていますけども。一体全体どういう事でしょうかね??」



「あれは奴の妄言かも知れぬ。気の所為では無いのか??」



 はぁ……。仕方が無い。



「リューヴ。道具や食器は洗わないと直ぐに駄目になるんだ。長い道のり。道半ばで道具が使用出来なくなったら困るだろ??」



「あ、あぁ。そうだな」


「こっちを見なさい!!!!」



 ふんっと逸らしているモフモフの毛に覆われた顔を両手でむんずっと掴み、無理矢理真正面に向けてやる。



「片付け担当の皆は文句を垂れつつも、確実に綺麗にしてくれた。リューヴだけを特別扱い出来ないのは分かるよね??」


「…………」



 むぎゅっと縮んだ顔がコクリと一つ頷く。



「俺達はまだまだ組手に勤しんでいるから、焦らなくてもいい。ちゃんと片付けをしてから戻って来て」



「ふぁかった」



 いつもより数段弱い翡翠の瞳が了承の意を伝えてくれると、垂らした尻尾を引きずる様に。ドンっと腰を据えて待ち構えている食器と道具の山へと向かって行った。



「逸る気持ちは理解出来ますが……。仕事を放棄してまでは了承出来ませんね」


「それ、納得。リューヴにとってこの時間は至福の一時なんだろう。誰と組んでいても楽しそうだしさ」



 叱られてシュンっと垂れている尻尾へと視線を移す。




「ほら!! ここと、ここも!! ぜ――んぶきったないよ!!」


「喧しい!! 言われずとも分かっている!! 大体、ユウとの組手はどうした!?」


「へ?? あ――。今ちょっと休憩中でして――」


「…………貴様。口を開けてみろ」


「いぃっ!? い、嫌だよ」


「この甘い香り……。組手をさぼってクッキーでも食ったんだろ!?」


「し、知らなぁい。兎に角!! 早く片付けをしなさい!!」


「貴様に言われなくても分かっている!!」



「「…………はぁ」」



 喧しい音に紛れ、カエデとほぼ同時に大きな溜息を付いた。


 そして視線が合うとふっと互いに口角を上げる。



『やれやれ。仕方が無い』



 二人が交わす笑みは同じ意味を表し、この場に酷く誂えた様に浮かんでいた。



お疲れ様でした。


皆様は愛用している物はありますか?? 靴、鞄、上着等々。それは多岐に渡ると思います。


私の場合は腕時計ですね。


愛用しているのはカシオが生み出した傑作。Gショックです!!


ガルフマン、マッドマン、レンジマンの三兄弟を良く使用していましで。特にレンジマンgw9400のカーキー色が気に入っています。


気圧、高度、方位の測定機能。日の出日の入り、更に電波ソーラーと至れり尽くせりの機能付き!!


今度色違いの黒を購入しようかと検討中です。




梅雨が終わったと思いきや、再び雨模様の日々が続いておりますが。皆様の体調は如何で御座いましょうか??


直射日光に当てられていなくても、湿度と温度で体力が奪われてしまいますので適度な水分補給を心掛けて下さいね。



それでは皆様、お休みなさいませ。


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