表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
523/1237

第百二十四話 伍長殿のお手軽料理教室 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




「んっしょっと……。ほら、どうですか?? 自分で申すのもなんですが。かなり上手にささがきが出来たと思いますわ」



 明るい笑みを浮かべる二人の女性が持ち運んで来てくれた受け皿の中には俺が想像していた以上に美しい牛蒡のささがきが完成していた。


 細長い三角形に浮かぶ断面の白、まるで計算し尽くされた様に一つ一つが均等な薄さに刻まれ。そして丁寧にアク抜きされてしっとりとした水気を纏う。


 これなら食感もそして味も損なう事も無いだろう。


 料理の初心者が出来る芸当では御座いませんね。



「おぉ!! 二人共、ありがとうな!!」


「い、いえ。レイド様を支えるのは私の役目ですので」


「これくらい、当然」



 ふっと照れ笑いを浮かべるアオイに対し、カエデはどうだと言わんばかりに胸を張る。


 対照的な姿に陽性な感情が湧いてしまった。



「あはは、助かったよ。お次はこの牛蒡を揚げちゃおうか」



 受け皿の水を捨てて牛蒡を笊の上に置く。


 こうやって水を切らないとねぇ。



「直ぐにそこの溶液に漬けないの??」


「え?? あ――。先ずは水を切らないと。溶液と上手く絡まないし、それに油が水を撥ねちゃうからさ」



 少しだけ首を傾げているカエデに言ってやった。


 器用だけど料理の工程までは流石に分からないか。



「水と油。ふむ……。アオイとマイ、みたいな感じ??」



 カエデが的を射た言葉を放つ。



「…………無きにしも非ず。とでも言っておきましょうか」


「ちょっと。まな板の名前を出さないでくださいます?? 美味しい御飯が吐瀉物で穢れてしまいますわ」



 ちょっと。止めよ??


 もう思い出したくないんだけど……。


 あの悲惨でおぞましい光景が頭の中をすっと横切り、何だか酷く落ち込んだ気分になってしまった。



「アオイ。もうその話はしないで」


「あぁ、おいたわしやレイド様……。苦痛な思い出は、このアオイの体で忘れさせてあげますわ……」


「はぁ――い。牛蒡の水が切れたので溶液につけま――す」


「もぅ。良い所でしたのにぃ」



 するりと絡みつて来る体を躱し、一纏めにして牛蒡を溶液に漬けてやった。



「こうして……。一塊にするのがコツなんだぞ。カエデ、そこの油を鉄鍋に入れて?? 入れたらそのまま火にくべて」


「任された」


 油が入った木の樽の栓を抜き、最高傑作の鍋へと注いでいく。


「これ……くらい??」


「おう。丁度良い量だ」



 鍋の底から、七割程度。


 油が熱をもつまでの間、牛蒡を纏めていこうかしらね。


 溶液に浸して形を整え。せっせと牛蒡の天ぷらを固めていく。



「レイド。それ、面白そう」


「へ?? あぁ……。そう見える??」



 再びあの目を浮かべたカエデが俺の手元をじぃっと見つめていた。



「……やってみる??」


「何でもやってみる事が大切。失敗したらそれは成功の糧となる」


「いやいや。失敗しても作り直せるから」



 揚げた失敗作を直すのは難しいけどね。



「こうして……。形を整えるんだよね??」



 細い指がぎこちなく動き牛蒡を集めて綺麗に整えていく。


 おっ。上手いね。



「そうそう。余りぎゅって固めたら駄目だよ?? 空気が入らなくてふわっと出来ないから」


「へぇ。そうなんだ」



 本に書かれていた指南の御言葉ですけども。それは言わないでおこう。



「よし。油も丁度良い温度に上がったね」



 菜箸を油に浸すと、菜箸の先端から小さな気泡がプツプツと湧き表面に浮きあがって来る。


 これが揚げる時の温度の合図だ。



「じゃあ、揚げるぞ」



 整えられた形の牛蒡を菜箸で摘み、油の中に投入。



「「おぉ……」」



 油が跳ねる小気味の良い音がうら若き女性の声を誘い、食欲がぐっと湧き上がる香りが漂い始めた。



 いいねぇ、この音と香り。


 今から楽しい食事が始まりますよって知らせだな。


 勿論この音は鍋の周囲にだけ響く訳では無く、当然広い範囲に広がって行く訳だ。


 とどのつまり、物言わずとも食欲の権化の耳にも届いてしまう。



「ぬぅっ!? 何!? この素晴らしい音は!!」



 ほらね?? 聞こえちゃったみたい。



「ボケナス!! それ、何よ!!」


「いてっ。頭の上に乗るな」



 両手、両足の爪ががっちりと俺の頭皮を掴み。


 喜々とした声が頭頂部から下りて来た。



「牛蒡の天ぷらだよ。まだ出来ないから待ってろ」


「うぐぅぅ……。ほ、ほら!! 味見!! 味見役がいないと駄目でしょ!?」


「味見は俺がする。揚げる時間、硬さ、風味。色々吟味しなきゃいけないの」



 当然だろ。


 一つでも欠けたら美味くならないし。



「嫌だ!! 私がするの!!」


「爪が痛い!! 頭皮が剥ける!!」



 鋭い爪の先端が頭皮に深々と突き刺さり、複数の箇所で発生する痛みが俺を苦しめていた。



「マイちゃ――ん!! 早く戻って来て!! 最後の仕上げが残ってる――!!」


「ほら。ルーが呼んでるぞ」


「むぎぃいいぃ!! 直ぐ戻って来るからね!! 用意しておいてよ!?」


「はいはい……」



 痛みから解放されて安堵の息を漏らす。


 血、出ていないよね?? 恐る恐る頭皮に触れて指を確認するが……。


 出血の痕跡は見られなかった。



「全く……。卑しい豚ですわねぇ……」



 アオイが大きな溜息をつき、ほぼ完成した天幕の方へと視線を送る。



「そう言うなって。腹が減れば誰でも苛々するだろ?? アイツの場合。それが人より少し大袈裟なだけだって」



 訂正しよう。少し、じゃあないな。


 一人よりも食欲が多い分、苛つき具合も数倍以上だ。



「むっ!! 揚がったか!?」



 衣が美しい小麦色に変化した瞬間を見逃さず、沸々と揺れ動く油の海から掬い上げて受け皿へと置く。


 うむ、良い色だ。


 白濁の液体から一転。


 小麦色にこんがりと日焼けした牛蒡の天ぷらに塩の雪をぱらりとふりかけ、白化粧で味を整えた。


 どれ……。



「頂きます」


「どうですか??」



 こちらを覗き込む様にアオイが尋ねた。



「ふ……。ふまい……」



 小麦色の衣はさくっと、そして衣を突き破れば牛蒡の風味が口内に優しく挨拶を交わしてくれる。


 一つ噛めばゴリっとした硬い触感が歯を喜ばせ。


 二つ噛めば塩と衣と牛蒡が手を繋ぎ、魅惑の園へと舌を誘う。



 噛めば噛むほど深い味が絡みつき、いつまでも咀嚼を続けていたくなる。


 我ながら、いい出来だ。



「まぁ!! それは良かったですわね。アオイにも一口下さい」


「ん」



 菜箸を渡すと受け皿の牛蒡を摘まむ。


 そして、俺の咀嚼痕が残る牛蒡へ小さな口を開き、愛でる様な瞳を浮かべてかぶりつく。



「……。美味しいですわ!!」



 一噛みすると傍から見ても美味そうな表情へと変貌を遂げた。



「だろ?? 自分が作った料理って人一倍美味しく感じるよね」


 分かるぞ、その気持。


「ふふ。それだけじゃ、ありませんけどね」


 隠し味は特に入れていないけど??


「カエデもどうだ??」



 アオイの隣。


 からっと揚がった牛蒡に羨望の眼差しを向けている彼女へ問う。



「頂く」



 素早く菜箸を操り、一口分に残った牛蒡をこれまた小さな口の中にしまった。



「……美味しい」



 半信半疑の表情から一転。


 大好物を食んだ犬の様な瞳に変わり、今もモムモムと細い顎を動かし続けている。



「頑張って作った甲斐があるでしょ??」


「……」



 コクコクと首を動かし、肯定していた。


 出だしは好調。


 後はある分だけを揚げるだけだな。


 続きを揚げようと意気込むと、隣の土鍋からお呼びが掛かった。



「主!! 見てくれ!!」



 おっ、米が炊きあがったかな??



「どう?? 上手く炊けた??」


「ふふん。余りの出来に腰を抜かすなよ??」



 リューヴが鍋の蓋を取ると、そこには……。


 穢れ無き一面の雪原が待ち構えていた。


 サラサラの新雪が積もり、足跡を着ける事さえ億劫になってしまう程の白さに俺は思わず唸ってしまった。



「うぅむ……。素晴らしい……」


「主の説明した通りに炊き上げたからな。私の腕では無い」


「いやいや。リューヴがちゃんと工程を守ってくれたからこうやって美味しそうに炊けたんだよ。謙遜するな」


「あ、あぁ。そうだな」



 火に当たって暑いのかな??


 ちょっと頬が赤いぞ。



「さて、米は炊けたから……。そこの大きな皿に米を移してくれ」



 土鍋の隣。


 土の上で寂しそうに空を睨んでいる皿を指差す。



「このまま食わないのか??」


「うん。これからちょっとひと手間を加えるんだよ。カエデ!! 悪いけど、土鍋に水を入れてくれないか!!」


「任された」



 彼女の手元から一筋の水の流れが生まれ、土鍋にゆるりと水が注がれていく。



「ん…………。はいっ!! 止めて!!」



 俺が出した合図に従い水の勢いが止まってくれた。



「よしっ。リューヴ、薪を追加してくれ」


「了承だ」



 この間に商店街で店主との値引き格闘戦を経て、ほぼ底値で得た鰹節を削って……。


 塩、醤油、そして溶いた生卵を用意っと。



「主。それは何をしているのだ??」


「この白米はおじやにしようと思ってね」


「おじや??」



 初めて聞くであろう名詞に首を傾げる。



「まぁ食べてからのお楽しみって事で。おっ、沸騰してきた」



 土鍋の底から気泡が昇り水面を優しく揺らす。


 そこへ削った鰹節を入れ右回りでお湯をかき混ぜ始めた。



 どういう訳か、出汁の取り方は右回りが基本らしい。らしいと言うのは本で得た知識であって、職人に尋ねた訳では無い。


 いつかその道の人にその訳を尋ねてみたいけどね。


 出汁がしっかり取れたら鰹節をお湯から取り出して塩と醤油で味を整えていく。



「……うん。これくらいだ」



 舌に感じる海のまろやかな深みと、塩気が俺に材料投入の合図を出してくれた。



「ここへ……。米を投入!!」



 琥珀色の液体に白い雪が沈み素敵な配色が目を楽しませてくれる。


 この配色はちょっとずるいとは思いませんか?? 何故ならこの色が記憶の中にしっかりと残る素敵な味を思い出させてしまうからだ。



「一煮えさせたらとろりと溶いた生卵をかけて……。混ぜ合わせたら蓋を閉じて弱火で蒸す!!」



 ここが肝心。


 強火で土鍋を温め続けたら美味しい米を焦がしてしまうからね。


 まぁ……。その焦げが美味いんだけど、焦がし過ぎるのは了承出来ない。



「後は待つだけだから……。残りの牛蒡を揚げるぞ!!」



 参った、嬉しい忙しさで目が回りそうだ。


 土鍋と鉄鍋の間を右往左往。


 額に汗を浮かべ、餌を見付けて巣と現場を行き来する働きアリも飽きれる程の熱量を持って移動し続けていた。























 ――――。




 鼻が利くのは時に酷だと、この時ばかりはそう感じてしまった。



「う、うぬぅ!! ま、まだ蓋を開けないの!?」



 親の仇を見る様な目で俺と鍋を交互に睨みつける深紅の髪の女性。


 既に小さな腕にはお椀と箸を持ち料理の登場を今かと待ち侘びていた。


 鍋の蓋の穴。


 あそこから漏れ出ている香りが彼女を急かしているのであろう。



「待てよ。ほら、今レイドが皆の分の天ぷらを持って来てくれるからそれまでの辛抱だって」



 ユウが嘯く声を発する彼女を右手で制してくれる。


 毎度毎度有難うね、本当に助かるよ。



「くっそぉぉおお――ッ!! 早く揚げなさいよ!!」



 何でおまえさんの為に飯を作っているのに怒られにゃならんのだ。



「よいしょっと……。皆、待たせたね!! 牛蒡の天ぷら。完成だ!!」



「「「おぉぉおお――っ!!!!」」」



 マイを含めた数名が感嘆の声を上げ、大皿の上にこんもりと盛られた牛蒡の天ぷらを見つめる。


 夏の陽射しを受けてほんのりと日焼けした快活少女の小麦色の肌を纏い、牛蒡のゴツゴツしたささがきが見た目と食欲を増進させて唾液をじゃぶじゃぶと分泌。僅かな蒸気に乗って馨しい風味が漂い嗅覚をも刺激する。



 ふふ、どうだい?? 俺の腕前は??


 かなり上達したと思うのだがね。


 鍋を中心に円状に広がり、その内径から各々へ牛蒡の天ぷらを取り皿に渡して行く。



「ほれ。マイの分な」


「ありがとう!! おっひょう!! こ、これは。やばそうね……」



 小さな鼻をひくつかせ、胸一杯に香りを閉じ込めている。


 器用に鼻を動かすなぁ……。



「さぁ……。皆さん、御待ちかね。もう一人の主役を紹介すると致しましょう!!」



 天ぷらを渡し終え、多少大袈裟に腕を動かして鍋の蓋に手を掛けた。



「いよっ!! 待ってたよ――!!」



 俺に相槌を打つのは、場を盛り上げるのが得意な狼。


 拍手喝采とまではいかないが、彼女が放つ柏手に俺の気分も高揚する。



「牛蒡の天ぷら、そしてこのおじや。今日の食事はカエデ、アオイ、リューヴが手伝ってくれて大変素晴らしい出来に仕上がったんだ。その事を忘れない様に」



 俺だけじゃ無く、皆で作った事を強調しておきたい。



「へ?? リューも作ったの??」



 俺の言葉を受け、ポカンとした表情でリューヴを見つめる。



「あぁ。白米を炊いた」



 自信満々に胸を張って見返すもう一頭の狼。


 あの出来栄えは自信を持ってもいいかな。凄く美味そうだったし。



「うっそ!! お米、焦がさなかった??」


「貴様……。私を何だと思っているのだ」


「リューは里でも滅多に料理作らなかったじゃん。ほら、覚えている?? お父さんに無理矢理食べさせた蛙の滅茶苦茶焼き。アレ、相当困った顔してたよ」


「ふんっ。昔の事は忘れた」



 えっと。


 何?? 滅茶苦茶焼きって。



「くっだらない事はどうでもいいのよ!! は、早く開けなさい!!」



 へいへい。


 これ以上待たせたら噛まれかねないな……。



「では……。自信作を御覧あれ!!」



「「ほぉおおおお――!!」」



 牛蒡の天ぷらと同程度の感嘆の声が周囲に響く。


 土鍋の蓋を開けると、そこはまるで何人にも犯されざる聖域であった。


 美しい黄色と白の配色が心を潤し、甘い香りと塩気を含んだ香りが混ざり合い鼻腔を大いに刺激する。


 見て楽しみ、舌で喜ぶ。


 土鍋を使った料理ならではって奴だ。



「はわぁぁ……。これ、全部たべたぁい……」


「駄目に決まってんだろ。皆で食べるんだ」



 鍋を見下ろし、蕩けた表情を浮かべるマイに言ってやった。


 この素晴らしい景色を独占したい気持ちは分からないでも無いけどさ。



「お玉でかき混ぜてっと……。各自お椀におじやを取ってな――」



 先ずは己の分だけを確保し、輪の一部に加わる。


 俺が座ると同時に腹を空かせた龍を先頭にして土鍋に歓喜の輪が生まれた。




「んおっ!! 本当に美味そうだな!!」


「ちょっと、ユウ!! お尻が邪魔!!」


「わ――。良い匂い――」


「苦労して炊いた甲斐があるな」


「これなら何杯でもお代わり出来そう」


「あら。珍しいですわね。カエデがお代わりを所望するのなんて」


「自分達で作った料理だから、かも」




 土鍋の周りに出来た輪が解け、各々が先程の位置へと戻る。


 それを確認してから声を上げた。



「よし!! じゃあ、食べようか!! 頂きます!!」


「「「いただきま――す!!!!」」」



 こちらの声を合図に待ち望んでいた食事が開始された。


 先ずは牛蒡の天ぷらから食べてみようかな。さっき味見した感じでは大丈夫だったけど……。


 口をあんぐりと開け、前歯で天ぷらを裁断する。



 すると。



「うん。美味しい!!」



 牛蒡の風味、そして衣のサクサク加減。


 どれも頭の中で想像した通りの味に思わず頷いてしまった。



「くぅ!! 牛蒡、いいじゃない!!」



 どうやら龍の舌も満足してくれたようだ。


 目尻を大きく下げ、天ぷらが物凄い勢いで小さくなっていく。



「マイ。牛蒡って噛み切るのに結構顎の力使うけど、疲れないの??」


 牛蒡を咀嚼しながら。


「うっめぇ……」



 俺の右隣でトロンっと目尻を下げているユウ越しにマイヘ言ってやる。



「全然??」



 左様で御座いますか。



「あんな細なっがい茶色の物体がここまで美味しくなるなんてねぇ……」


「意外だろ?? このサクサクの感覚を出すのは結構苦労するんだぞ」


「ふぅん。今度機会があれば教えてよ」


「マイに?? お前、確か台所に出禁食らってなかった??」



 確か、そんな事を聞いた気がする。



「実家ではね。母さんがとんでもない顔でそう言い放ったのよ」



 フィロさんの怖い顔かぁ……。


 龍族を統べる覇王であられるグシフォスさんもたじろいでいたし、どんな顔を浮かべていたのか気になるが。


 世の中、知らない方が良い事もある。


 見て肝を冷やしたく無いし、知らないままでいいや。



「時間がある時に教えてやるよ」


「うむっ。苦しゅうない」


「何様だ」



 いつものやり取りを行っていると、ユウが少しばかり大袈裟な声を上げた。



「うっめぇ!! レイド。このおじや、美味過ぎだろ!!」


「お、おぉ。ありがとう」



 端整な顔がぐぃぃっと急接近して来たので思わず目を白黒させてしまった。


 驚かせないで下さい、そして距離感が間違っていますのでもう少し下がろうか??



「米の甘味と塩気。んで、この卵の優しい味が堪らん!!」


「気に入ってくれた??」



 匙でおじやを掬い、今も勢い良く口に運んでいるユウへと言ってやる。



「最高だよ、最高。これなら毎日でも食べていたいね!!」



 毎日おじやだと飽きるでしょう。



「ふっまぁああぁい!!」



 今度は深紅の龍の大袈裟な声がこだまする。



「柔らかさの中にもちゃんと味がしっかり残って……。噛めば御口が喜び、心が蕩けちゃう……」


「熱いからあんまりがっつくなよ?? 火傷しても知らないからな」



 おじやはこんな優しい顔を浮かべているが油断していると、時に牙を剝く。


 表面は丁度いい温度でも、粘度が高い料理に良く見られる様に中は熱さを保持している場合があるのだ。


 俺も何度か熱さで舌を火傷したもんさ。


 まぁ、自称玄人であられる御方に限ってそんな愚行は無いと思いますがね。



「あっじぃいぃいい!! あひぃい!!」



 前言撤回しよう。


 面妖な顔を浮かべて舌を大袈裟にベェっと出す龍を呆れながら見つめていた。



「だから言っただろ?? 火傷するからなって」


「とんでもない目に遭ったわ……。甘い顔に騙された……」


「あはは。そうそう、油断大敵って奴だ」



 俺と似た感想に思わず口角が上がってしまう。



 …………。


 ちょっと待って、似た感想って事はだよ?? 俺、あんな奇想天外な言葉を言ったりしないよね??


 どこからともなく心配の種が飛来して心の土壌に小さな芽を咲かせてしまった。


 人の振り見て我が振り直せ、だな。


 うん。気を付けよう……。


 体の芯にしかとその文字を刻み込んだ。



「レイド様?? どうしました??」


「え?? あぁ。残りの牛蒡も揚げちゃおうと思ってね」



 取り敢えず最低限の量も食べたし。


 このままだと足りないと絶対ぼやくだろうから、それを見越しての行動だ。



「宜しければ、手伝いましょうか??」



 アオイが立ち上がろうとお椀を置くが。



「大丈夫。そのまま食事を続けて。揚げるだけの単純な作業だから」



 それを右手でやんわりと御す。


 こういう時、さり気なく気を利かせてくれるのは素直に嬉しい。


 普段のとても了承し難い行為とはかけ離れているから余計にそう感じるのかも。



「そう、ですか。あまり無理はなさらないで下さいまし。レイド様の御体はレイド様だけの物ではありませんのよ??」


「うん?? どういう事??」


「まぁ……。ふふ。お分かりになりませんか??」



 はい、全く。



「レイド様とぉ、アオイはぁ……。つがい、なのですよ?? ですからこの御体はレイド様の物であって。レイド様の御体は私の物なのですっ」



 女の武器をこれでもかと強調して右腕に絡みつけて来る。


 こういう事をしなきゃずっと頭を垂れて尊敬するのに。



「はぁい。要領を得ませんので――。あしからず」


「あぁんっ。もぅ……。私ともぉっとお戯れても構いませんのにぃ……」


「ごらぁあ!! さっさと牛蒡を揚げろやぁあぁ!!」



 そんな叫ばなくてもやりますよっと。


 空気を切り裂き、思わず体の芯が揺らいでしまう罵声が飛んで来た。



「五月蠅い蝿ですわねぇ。御飯も黙って食えないのですか……」


「聞こえてんぞ!! その口ぃ、縫い付けて馬鹿貝みたいに開かなくしてやろぉかぁ!?」



 およしなさいよね。食事の時くらいは喧嘩を止めて欲しいものだ。


 でも、さ。正直嫌いじゃない雰囲気に肩の力を思わず抜いてしまう。



 茜色から黒一色へと変色を遂げた空の下。



 火を囲み、馬鹿騒ぎを続け、何の遠慮も無く食事を摂る。

 

 出来る事ならいつまでもこの関係を続けていたい。


 朗らかな気持ちを胸に抱き、跳ねた油に顔を顰めながらも正面で騒ぎ続ける彼女達を見つめ一人勝手にそう考えていた。




お疲れ様でした。


本日の執筆の御供は言わずもがな。いやはや……。中々に楽しめた内容でしたね。


本ノロから取捨選択した恐怖映像が流れれば。


おぉ!! はいはい!! これね!! この後、右下から出て来るんだよね――、と。


オチの映像に辿り着く前にテレビへ向かってオチを話し。



呪われた物件のロケ中ではスタッフの方々の懸命な音出し作業で驚く演者達の表情を見て、うむうむと大きく頷いておりました。


こういったホラー特集が流れると、夏本番がやって来たんだなぁっとしみじみと頷いてしまいますよ。



そして、ブックマークをして頂き有難う御座います!!


文字を打ち過ぎて猛烈に指先が痛んでおりますが、それを忘れさせてくれる嬉しい知らせとなりました!!



まだまだ暑い日が続きますので、エアコンの適切利用を心掛けて下さいね。


それでは皆様、お休みなさいませ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ