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第百二十一話 それでも私はやっていない

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 二十二年という数字、これは人生という尺度に当て嵌めると決して長くは無い。


 一人の人間はこの数字が過行く間に一体幾つの出来事を経験をするのだろう。


 長年の恋が実り花を咲かせて素敵な恋人が出来たり、仕事が上手く行き裕福な家庭を設けて幸せな経験をする人もいれば。


 残念ながら心痛める失恋をしたり、経営している店が破産したりと不幸な経験をする人も少なからずいる筈。



 俺の場合、魔物達と出会う事以外は可もなく不可も無くといった感じであったが……。本日でそれは覆される事となった。



「…………。おい」



 己のベッドの上で布団に包まり、目元だけをこちらに覗かせている深紅の龍へと向かい。人生の中で五指に入る憤りを籠めた声色を放つ。



「何でございましょうか??」


「理由を聞かせろ。理由を」


「理由ですか?? 一体何のです??」



 コ、コイツ……。普段は汚い言葉を何の遠慮も無しに次々と放つというのに、何でこういう時だけ丁寧な言葉使いなんだよ!!


 布団の中でビクビクしつつ、俺の様子を窺いながら放つよそよそしい叮嚀口調が癇に障った。



「分からないのか??」



 俺は大変怒っていますよと、産まれたての赤子にでさえも理解出来る憤りを全開放。


 何かから怯える様に姿を隠す龍を、鼻息を荒げて見下ろしてやる。



「貴方様が御怒りなのは理解出来ますが、その理由は皆目見当も付きません。も、もしかすると勘違いしか知れませんよ??」


「勘違いぃ??」


「え、えぇ。わ、私以外の者が貴方様に危害を加えた可能性も御座いますので」



 この野郎……。


 この期に及んで白を切るつもりか!?



「そうか……。それなら言ってやる……」



 肺に大きく空気を取り込み、喉に力を入れた。



「俺が知りたい理由は只一つ。他人様の顔になぁ!! 吐瀉物を吐き散らかした理由だよ!!!!!!」


「うぐぐぅ……」



 俺が力の限りに叫ぶと、大変気まずそうに小さな龍の手で布団を掴み中に潜って行ってしまった。



 己の顔の真上から他人の吐瀉物を享受する数奇な人なんて早々いやしないだろう。


 少なくとも俺の人生では一度たりともなかった。


 まぁ、先程までの話ですがね!!!!



「ほ、ほら。さっき言ったじゃん。私と遊んでいたってさ。だからマイちゃんが全部悪いんじゃなくて、私も悪いの」



 お惚け狼が助け船を出す。



「よっ!! ルー!! あんたは良い事言った!!」



 これで増長するのだから困るんだよ。


 こいつは!!



「遊ぶ分には構わん。だけど……。限界が来るまで遊ぶな!! カエデ達を見習え!! そうやって遊んでいる間。魔法陣の構築や己の肉体の鍛錬に励んでいるんだぞ!! そうだよな!?」



 自分のベッドで休んでいるカエデ達の方へと振り向く。



「ま、まぁ。あたしはボチボチだな」


「偶にはレイドも良い事言う」


「主の言う通りだ。マイ、遊ぶのは構わんが……。迷惑を掛けるのは了承し難いぞ」


「分かってるわよ……。謝ったんだから許してくれてもいいじゃない……」



 カエデ達の言葉を受け布団の中から渋々と小さな声を絞り出す。



 後、海竜さん?? 偶にはってどういう意味?? 自分は常日頃から良い言葉を選んで発しているつもりですよ??




「全く。人の顔に吐瀉物を吐きかける女性なんて見た事も聞いた事もありませんわぁ。レイド様ぁ。あんな汚らしく、穢れきった不浄の大地なんて捨てて。私と共に桃源郷へ向かいませんかぁ??」



 右肩に留まり、黒き甲殻を身に纏うアオイが話す。



「あぁ!?!? 誰に物を言ってんだ!?」


「貴女にですわ。と言うか、臭いので姿を見せないで下さります??」


「こ、この……」



 怒りで震える拳を突き出そうと布団の中から上半身を晒すが。



「マイ。アオイの言う事は正論だ。ちょっとそこで頭を冷やしてろ」


「う、うぅ……」



 大変冷たい視線でその行動を咎めてやった。



「流石レイド様ですわぁ!! 今の冷たい瞳……。アオイの体にも遠慮く無く突き立てて下さいましっ」



 細く短いチクチクとした体毛が生え揃った頭を首筋に当てて来る。



「くすっぐたい」



 それをいつも通りに指で優しく押しのけ、濡れた頭のままで己のベッドへと移動した。



「はぁ――……。さっむ」


「匂いは取れましたけど……。まだ髪の毛は乾いていませんね??」


「そうだな。カエデ、さっきはありがとう」


「いえ」



 深紅の龍の吐瀉物が顔面に直撃し、両目を襲う地獄の苦しみと常軌を逸した匂いから逃れる為に地面を転がり続けている時。



『こ、これは一体どういう状況なのですか??』



 カエデ達が部屋へと帰って来てくれた。


 カエデとアオイが服と俺の顔を水で即座に洗い流してくれなかったらどうなっていた事やら……。



「な、なぁ。レイド」


「うん?? どうした、ユウ」



 背後のベッドからいつものそれに比べて少々小さいユウの声が届く。



「ほら。マイの奴もルーも反省しているし。許してやれよ」



 本当かぁ??


 くるりと体を回転させ、両者のベッドに視線を送ると。




「「…………っ!!」」



 お惚け狼は何かを請う瞳を浮かべ、器用に前足を折り畳んで頭を垂れ。


 諸悪の根源はキチンと膝を折り畳んで正座をして、大変申し訳なさそうに両手を合わせて俺に向けていた。



「はぁぁぁ……。分かった。許すよ」



 俺も甘いよなぁ。


 ここはもっと厳しく言ってもいいんだけど。


 怒ったまま任務の話をするのも憚れると考え、悪の所業を許す許可を両者に与えた。



「はぁ――。良かったね?? マイちゃん」


「お、おぅ……」


「完全に許した訳じゃないからな?? そこは覚えておけよ」


「分かってるわよ!!」



 そうやって直ぐに声を張り上げて噛みつこうとする所が怪しいのですよっと。



「ふぅ――……。よしっ!!」



 いつまで腐っていても仕方が無い。


 気分を変える為両の手で頬を強く叩き、アイリス大陸の地図を片手に部屋の中央へと移動した。



「皆揃っている事だし。次の任務地、並びに任務内容について説明するよ」



 大小様々なひっかき傷が残る床へと地図を置きながら話す。


 この爪痕はルーのものだな。後で床に爪を立てない様にって言っておかなきゃ。



「今回の任務地は……。ルー、ちょっとそこを退きなさい」


「へ?? あぁ、ごめんね――」



 ふさふさの灰色の毛が生え揃う前足を地図から退かす。



「任務地は此処、ストースって名前の街だ」



 今しがたルーの前足が置かれていた箇所を指差して言った。



「おぉ――。随分と遠方だな」


「そう。ユウが話す通りレイモンドからストースまでかなり離れている。大雑把に見繕って三十日以上は掛かる計算だ」


「任務の内容とやらは??」



 リューヴが鋭い翡翠の瞳で俺を見つめる。




「ストースの街は北のクレイ山脈で採取される鉄鉱石を利用して武器防具を生産しているんだ。武器防具だけじゃなくて、勿論他にも生産している物もある。何を隠そう!! 俺が使っている鉄鍋もそこで生産された物なんだ!! アレはいいぞぉ。玄人垂涎の湾曲具合に使い手の事を考えられて取り付けられた柄。正に……」



 熱弁を振るおうと語気に強さを持たせた刹那。



「レイド。話が逸れていますよ??」



 カエデに速攻で軌道修正を余儀なくされてしまう。



「申し訳無い」



 本当に良い物なのだからちょっとくらい、回り道をしてもいいじゃないか……。



「で?? あんたはその街に何をしに行くのよ」



 人の姿に変わり、俺の真正面で腕を組んで地図を見下ろしているマイが口を開く。





「俺達パルチザンの少佐以上の階級に支給される武器防具の生産を請け負っているのがストースの職人さん達なんだけど……。それが一体どういった訳か、一月程前から生産が滞っているらしいんだ。何度も打診を続けているが向こうは。『暫く待て』 その一点張りらしくてさ。ストースの街は他の街と連携が強固。足並み揃えて訪れれば他の街にも影響を及ぼしかねない。 そこで、俺の出番が回って来た訳。パルチザンの最大の資金援助先のイル教の連中も相当ご立腹の御様子らしくてね?? どういった経緯でこちらの打診を拒否しているのかを知りたいらしいんだ」




 任務内容を端的に、皆に聞こえる声量で話した。



「ほぉん。じゃあ街がオークや魔物に襲われている訳でも無いし。一体どうなっているのか様子を見て帰って来いって訳ね??」



「そ。だからそこまで危険な任務じゃないみたい。職人組合の会長、コブルさんに書簡を渡して生産が滞っている理由を伺って帰還する。単純明快な任務さ」



 マイにそう言ってやった。



「任務自体は簡単そうですが。問題は経路の選択とそこまでに掛かる日数ですね」



 カエデが小さな声で話す。



「考えている経路は……。レイモンドを西へ進み、ギト山東方に到着したら北上しようと考えている。その経路が一番補給を受ける機会が多いしさ」



「ふむ……。問題無いと思います」



 カエデがそう話すのなら大丈夫だろう。


 自分が提案した経路に問題が無い事を受けてほっと胸を撫でおろした。



「食費もかさみますし、ギト山までは私が空間転移で送りましょうか??」


「いいの??」


「浮いた食費を北上分に回せば、掛かる費用は半分にまで減らせます。経費削減ですよ」


「助かるよ……」



 何せうちには大飯食らいが若干一名いるからなぁ。


 同じ考えに至ったのか、俺を含む何人かがその最たる原因の人物へと視線を送った。



「な、何よあんた達!! その真犯人を見付けて有頂天になった探偵みたいな目は!?」


「別に――?? 気にしないでいいよ――」


「そうそう。流せばいいんだって」



 心外だと言わんばかりと声を荒げる紛う事なき犯人に対して、ルーとユウが普段通りの口調で話す。



「ま、まぁっ。人よりもちょっと食べる量が多いのは認めているけども……。それでももっとマシな目の色で見つめなさいよね」



 アレがちょっと?? 君の食欲に対する尺度を我々一般人に対して一度キチンと説明して頂きたいものだ。


 だけど、朧げに自覚があるだけマシって事かな。


 

「ユウ。悪いけど……。五日分の食料を明日買い揃えてくれるか??」


「おう!! 任せておけ!!」


「お金は後で渡すよ。それと……。リューヴ、マイ。ユウを手伝ってやってくれ」



 一人で重たい荷物を持たせるのも良く無いからね。



「は――いはいっと。ユウ!! 余ったお金で御菓子買いに行こうよ!!」


「嫌なこった。どうせ金をせびられるのが目に見えているからな――」


「了承した」



「俺は明日の午前九時に本部に赴く事になっているから……。西門から出て街道沿いのいつもの丘の麓に十時半頃に集合しよう。各自荷物を纏めて、必要な物を買い揃えておくように。他に何か質問はある??」



 各々の顔を見渡して様子を窺うが。


 口を開く様子は見られなかった。



「説明は以上だ、各自休んでくれ」


「は――い!! 山に向かうのかぁ」



 地図を折り畳んでいるとルーが誰とも無しに話す。



「目的地はルー達の里から山を挟んで南南東に位置するから、何度か見た事あるんじゃない??」


「勿論!! 夏は山の麓のから流れて来るお水が綺麗でね?? 元気な川魚が美味しいんだよ!!」



 ほう、風光明媚な場所って訳か。



「冬は山頂に雪が積もり美しい出で立ちに何度も心が洗われた。東西に連なる山々は、それはもう素晴らしい景色だぞ??」


「あはは。二人共、着眼点が違うな??」


「ん?? どゆこと??」



 ルーが首を傾げる。



「ほら。ルーは食べ物で、リューヴは景観って事さ」



 性格を考慮すれば納得出来るが、全く同じ姿なのにこうもはっきり違いが見えるのは面白いよね。



「あぁ――そういう事」



 しみじみと納得する狼に陽性な感情が湧いてしまう。



「風光明媚な場所は上官から伺ったよ。ストースは何も武器防具の生産だけじゃなくてね?? 温泉も有名らしいんだ。そっち側……。北側には温泉は無かったの??」



 似た姿勢で床の上にちょこんと座る狼二頭に問う。



「ん――。無かった、かな??」


「離れた場所にはあるが……。少なくとも山の周辺には見つからなかったな」



 まぁ、掘らないと出て来ないんでしょ。


 自然に湧く方が珍しいのかも。



「そっか。今も言ったけどさ。温泉も有名だし、宿でも取って二三日足を休めて帰るのも一考かもね」



 鞄の中に地図を仕舞い、己のベッドの上に腰かけて話す。



「本当!?」


「宿代と要相談です」



 目を輝かせ、ベッドに飛び乗って来たルーに言ってやる。



「ちょっと」


「どうした?? マイ??」


「宿を取るって事はだよ?? 当然、美味しい食事も出て来るんでしょうね??」



 やっぱりお前さんはそこが気になるんだよな。



「そりゃそうだろ。例え出ないとしても街として機能しているんだから食事処もある訳だし。外にでも食べに行けばいいだろ」


「うっしゃぁあ!! 待っていなさいよ!? 温泉と飯!!!!」



 アイツ。


 仕事で行く事、忘れていないよな??


 自分のベッドで小踊りする龍に、僅かながらに不安を覚えてしまった。



「吐いた後で良く飯の事、考えられるよなぁ」


「それがマイの長所だろ。ほい、お金」


「ん。ありがとね」



 どういたしまして。


 背後のベッドで寛ぐユウに現金を渡してやった。



「あ、そうそう。忘れる所だった……」


「ん――?? 何ぃ??」



 ルーが首を傾げて俺の手元に視線を送る。



「ほら、差し入れ。中途半端な時間だしさ。小腹が空くかと思ってパンを買って来たんだ」



 口喧しい後輩達を訓練施設へ送り返した後、宿へ帰るついでに贔屓にさせてもらっているココナッツへ立ち寄ったのです。


 南西区画の商店街で購入した土鍋を片手に立ち寄ったので、看板娘さんは。



『あれ?? 今夜は鍋、ですか??』



 等ときょとんとした顔で俺を迎えてくれた。


 任務地が遠い事と、寒い季節になってきたので土鍋を購入したのだと伝えると。



『いいですよね!! 寒い季節の鍋は!! 根菜をじっくり煮込んで頂くのもいいですし。古米をおじやにするのも捨てがたいです』



 と、聞いてもいない事を立て続けに話し掛けてくれた。


 忙しくて体調でも崩しているんじゃないかと心配していたが、それは杞憂に終わりました。



 そしてマイ達には内緒にしているが、任務地までの移動中にこの土鍋を使った料理を食わせてやろうと画策している。


 温かい土鍋の料理を食べたらきっと余りの美味さに腰を抜かすぞ??



「パン!? 頂戴!!!!」



 おっと。


 食い物の事になると、こいつの右に出る者はいないだろうよ。


 言うが早いか。深紅の翼をはためかせると夏の嵐も目を丸くする速さで颯爽と到着した。



「ほれ。人数分あるから分けて食べろよ??」



 馨しい小麦の香を放つパン達でこんもりと膨れた紙袋をマイへ渡してやる。



「うっひょう!! 全部食べていいの!?」


「話を聞いていたのか?? 分けろと言ったんだ」



 全く、己は見境が無いのか。



「ちっ。ほら、子分共取りに来なさい!!!!」



 マイの一声で各々が腰を上げ、好きなパンを手に取り己のベッドへと戻って行く。



「ふふ。流石、レイド様。アオイの好みを分かっていますね??」



 アオイが手にしているのは、ぴりっとした辛みが病みつきになるソーセージを挟んだパンだ。



「あ――。それ?? この前食べていたのを見かけたからさ」


「有難く頂きますわね」


「どうぞ。召し上がれ」



 そう話すと、自分のベッドへ寝転び天井を見上げた。


 はぁ――……。つっかれた。


 後輩達の面倒に、未知との遭遇、そして先程のおぞましい事件。


 明日から移動開始だってのに……。どうせ起きるのならもう少し慎ましい出来事を所望させて頂きたいです。




「レイドは食べないの??」


「ん?? ん――…………。ちょっと、食欲が湧かないんだ」



 ベッドに腰かけ、小さな御口でアンパンをモムモムと咀嚼しているカエデに言ってやる。



「食欲が無い?? 怪我の所為??」


「…………。今、言って良い物なのかな」



 怪我の所為ならどれだけ楽だろうか。



「構わないよ?? 皆、食事に夢中だし」



 カエデの声を受けて視線を動かすと。



「マイちゃん!! それ、私の!!」


「は!! 視界に入る全ての食べ物はぜぇぇんぶ私の物なのよ!!!!」


「うひょ――!! うんめぇ!!」


「この甘味。ふふ、舌が蕩けてしまうな……」


「ウ、ウフフ。このソーセージはレイド様のアレと見立てて……。そう!! 練習ですわ!! アオイは本当にイケナイ子ですわぁ」



 若干一名。


 良からぬ事を妄想している事は無理矢理目を瞑り流すとして。


 他はいつも通りの食事風景であった。



「じゃあ話そうかな。実は……」


「実は??」



「その……。マイから受けた攻撃が尾を引いているんだよ」


 カエデが俺の発言を受けると。


「…………っ!? コホッ……」


「大丈夫??」



 小さな御口で頑張って水を飲んだけど、まだまだ飲み込む要領が分からない為に咽てしまった子犬ばりに小さくせき込む。


 せき込む音、やたら小さいね??



「おほんっ……。その、つまり……。あの吐瀉物の所為で食欲が無い、と??」




「えぇ、その通りです。想像してみなよ。顔の上に跨り鋭い爪でがっしりと顔面を掴み、大きくあ――んっと口を開いたと思ったら……。喉の奥から湧き出て来る吐瀉物が目と鼻を急襲。人肌の生温かい温度に、鼻と心を不機嫌にさせる酸っぱくて吐き気を催す不快な匂い。あの光景は一生忘れられそうに無いよ」




 記憶の扉をそっと開いて僅かな隙間からチラっと覗くだけで全身に鳥肌が立ってしまった。



「ちょっと。食事中だよ??」


「だから言っただろ?? 話していいのかって」



 むすっと眉を顰めるカエデに言ってやった。



「災難。だったね??」


「本当だよ……。エルザードに頼んで記憶を消して貰おうかな」


「その記憶だけを消す事は不可能です」


「そこまで万能じゃない、か」



 ちょっと残念だな。


 一生思い出したく無い記憶なのだがね。



「それに……。先生を頼る前に、私に頼って欲しかった」

「おらぁ!! お惚け狼!! 返せや!!」


「や!! これ、美味しいもん!!」


「うん?? 何か言った??」



 お惚け狼と、暴飲暴食龍の所為で彼女の小さな声を聞き逃してしまう。



「ううん。何にも……」


「?? そっか」



 特に気にする様子も無く再びアンパンに小さな口をあてがう。


 いよいよ任務開始、か。


 危険な任務では無い事に不安は無いが、一抹の不安を覚えてしまう事象は既にこの部屋の中に渦巻いている。



「くぅぅう!! クルミパン、うっまぁい!!」


「それ見付けたの私だったのにぃ……」



 ベッドの下に隠してあった自分用に買って来たパンを探し当てた狼さんから無理矢理強奪したパンに威勢よく齧り付く深紅の龍。


 アイツの食欲を加味するとユウに渡した現金では足りない恐れが出て来てしまう。それどころか道中餓死するんじゃないかと突拍子もない考えの不安要素が首を擡げて現れた。


 満足気にパンを食い漁り燥ぎ回る龍を見つめていると、心の中にじわぁと滲んできた杞憂が神速で不安に塗り替わってしまった事を人知れず確信したのだった。




お疲れ様でした。


この話で日常パートはお終いになり、次の御話からは移動パートとなります。


その道中、ちょっと長いんじゃないの?? と思われる出来事が起こりますが。後の話に繋がる出来事なのでご了承下さい。


本日のお昼は少々出掛けておりまして、プロット作成が思う様に進まなかったのが悔やまれます……。


しかし!! 今から借りて来た映画を鑑賞しながらプロットを制作させて頂きます!!


そしてその御供は……。



大陸から離れた小島に建設され、脱出不可能だと言われた監獄。年月が経ち、そこは観光名所として栄え観光客が訪れる様になった。


しかし、観光客に扮して島に訪れたテロリストによって監獄は占拠されてしまい。彼等は観光客を盾にして政府にとある要求を突き付けた。


そう!! 私の好きな映画の一つでもある『ザ・ロック』 です!!


余り深く話すとネタバレになるので言えませんが、ニコラスケイジとショーンコネリー。更にはエドハリスと名優が揃って出演しているので彼等の演技。そしてアクションが見所ですよ!!


まだ御覧になられていない方が居れば是非ともお薦めしたい映画の一本ですね。



余り長々と話しているとさっさと書けやと冷たい視線を向けられてしまいそうなので、プロット作成に戻ります。


それでは皆様、お休みなさいませ。

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