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第百十七話 庶民の懐事情

お疲れ様です。


本日の投稿なります。




 塵一つ存在しない美しい木目の床を踏むと鼓膜がうっとりとしてしまう音が静謐な空気の中に流れ。十二分に広い廊下の壁には視覚が思わず吐息を漏らしてしまう素人目にも高価であろうと判断出来る絵画が飾られていた。


 耳と視覚から入って来る情報では此処が飲食店であると判断出来ぬが、唯一嗅覚だけは

食事処であると理解している。


 何処からともなくふわぁっと漂う食欲を誘う香りが廊下に充満。


 それは恐らく、この先に厨房が設置されているからであろう。


 馨しい香りに触発された食欲の芽が咲かぬ様、そして卑しい腹の音を奏でない様に己の欲を抑えつつ、誰よりも大きな足音を立ててズンズンと廊下の奥へ進む店長の後ろに続き忙しなく視線を動かしていた。


 そりゃ目移りしちゃいますって。


 こんな豪華な物が飾られていたらさ。



「普通のお客さんはこの廊下を通れないんですよ??」



 ミュントさんが小さく、しかし確実に皆へ届く声量を小さな御口から漏らす。



「そうなの??」


「昔からの常連さん、ある程度の地位がある人。そして家族ぐるみで付き合っている人達しか通れません。ここに飾られているのは常連さん達が店長……」



「オォッホオォ――ンッ!!!!」


「……。ルンさんへ感謝の印しとして贈答された物から、店……。ルンさん個人で収集した物が飾られています」



 モリュルンさんが巨大な獣の咳払いで彼女の言葉を訂正したのは流すとして……。


 好意でこれだけの品を贈られるのだ。


 料理の味が良いのか、それともモリュルンさんの過剰な接客態度が良いのか。将又その両方か。


 お客さんが想像している以上の効用を得なければ贈答などしてくれまい。


 兎に角。モリュルンさん、そして昔馴染のお客さん達との交流の深さを眺めつつ奥へと進んでいた。



「はぁ――い。到着っ」



 モリュルンさんが通路の終着点、左右に設置されている扉の内。右側の扉をとても大きな手で開いてくれる。



 えっと……。あ、あぁ。やたら扉が小さく見えるのは遠近感の所為か。


 小人用の扉かと思いましたよ。



「ささ!! ズッポシ入って頂戴っ」


「失礼します」



 モリュルンさんに可愛く促され、普通の大きさの扉を通過する際に一つ小さくお辞儀交わした。



 俺達を迎えてくれたのは十人程度なら容易く収まってしまうだろうと確知させる広さの部屋。


 中央に丸い机が鎮座し、それを囲む様に高価な椅子が並べられている。


 机の上に敷かれた美しく艶を帯びた白い布がどこか厳かな雰囲気をこちらに与え。外の景色を御覧あれ!! と。これまた高級そうな窓枠が手招きしている。



 へぇ……。高級料理店の個室に相応しい広さと雰囲気だな。


 ある程度の権力とお金、そして親交が無ければ使用出来ないのも頷けるよ。



「さぁ、どうぞ。座って座って!!」


「は、はぁ……」



 喜々としたモリュルンさんの一言で各々が席に着く。


 流石に高そうなだけあって座り心地も良いな。



「席の前に品書きが置いてあるでしょ?? 私が帰って来るまでに決めておいてね――。それじゃっ」



 軽快な笑みを浮かべ、巨躯を揺らしつつ予想以上に静かな音で退室して行ってしまった。



「はぁ……。びっくりした……」



 品書きを取る前に一つ大きな息を漏らして椅子に背を預ける。


 どうやら己で思っている以上に緊張していた様だな。


 恐らくこの緊張感は捕食される側に与えられたモノと判断しても良いだろう。


 刹那にでも気を抜けばあの巨腕に拘束され、万力でグイグイと体を締め付けられ。食べ易い様に全身の骨を砕かれて巨大なバケツの直径よりも更に大きな円周を誇る御口へと飲み込まれてしまうのだ。


 それはさながら……。蛇の丸飲み??



「ふふ。緊張し過ぎですよ」


「誰でもあの大きさで見下ろされたら緊張しちゃうって」



 向かいの席で温かな笑みを浮かべるミュントさんに言ってやった。



「まぁ。慣れ、ですね――」


「慣れる気がしないって」



 ミュントさんの右隣りに腰掛けるシフォムさんへ苦言を呈す。



「途中、何度も食われるかと思ったぞ」



 頭の中であの瞳を思い返すと体が一つ震える。


 あの捕食者固有の目……。きっと幾人ものお客さんを此処で食らったに違いない。


 ま、まさかだよ?? 俺達を店の奥で拘束して、無理矢理餌を食わせて。体を太らせてから食うつもりじゃないよね??



「失礼ですよ?? レイド先輩。人を見た目で判断したら」


「以後気を付けます」



 此方の左隣、礼儀正しく座るレンカさんに言ってやった。



「昔馴染のお客さん達ってさ。あの店長見たさで来ているんじゃないの?? ほら。怖い物見たさって奴」



 些か失礼かと思うが鬼の居ぬ間に洗濯、と。廊下に漏れない声量で話す。


 ま、まぁあのドデカイ耳ならこの部屋で針を落としたとしても聞き取れてしまうでしょうね。



「小さい頃から見て来たからそこまで違和感は無いと思いますけど……」



 違和感って。


 同じ人間に使う言葉じゃないよね??



「ふふ。聞いて下さいよ――。レイド先輩。今はこうやって飄々としていますけどね?? ミュントは初めて店長を見た時、ビビり過ぎて彼女のお父さんの背に隠れて涙目で見上げていたんですよ??」


「ちょ、ちょっと!! 言わないでよ!!」



 声を荒げて右手に持つ品書きでシフォムさんの右肩を叩く。



「いた――。酷いな――も――」


「ま、まぁ。背が低ければ……驚くのも頷けるかな??」



 小さい子から見れば、多分山の様に見えるだろうなぁ。


 しかもあの顔。


 人の遠近感を狂わせる巨顔が迫って来れば誰でも泣きたくなるって。


 俺も幼少期にあの顔が迫って来たら泣き出すのを我慢出来る自信は無い。寧ろ、泣きべそを掻きながら逃走を図るでしょう。



「帰り際。さっきやったみたいに頬擦りしたら――。ミュント、我慢出来なくなって――」


「はいっ!! そこまで!! 早く食事を決めましょう!! お腹空いちゃった!!」



 バッサリと会話を断ち切り、意気揚々と品書きを手に持つ。


 泣き出したんだな。


 心中お察ししますよっと。



 さて!! 注文を決めないと恐ろしい巨体がにじり寄って来る可能性が高くなるのでちゃっちゃと決めちゃいましょうかね!!


 気持ちを切り替え、彼女に倣い陽性な感情を持ちながら品書きを開いた。



 そう、開いた……。までは良かった。




 普通さ。


 お店で提供出来る品が書かれていたらその隣か隅にでも矮小な文字で『値段』 が書かれているよね??


 ところが、この品書きはどうだい。


 値段のねの字も見付からない。



「あ、あの――。ミュントさん??」



 品書きから視線を外し、今から堪能するであろう食事を想像して楽し気な表情を浮かべている彼女に恐る恐る尋ねた。



「はい?? どうしました??」


「この品書き……。値段が記載されていませんよ??」


「そうですね。値段は時価になりますから。あ、この料理。美味しそう!!」



 いやいや、時価って。


 勿論、単語の意味は理解している。


 野菜や穀物類お肉等々、その時々の市場価格が反映された物だろ??


 天候やその他の影響を受けその時々の収穫量が変動するから料理の値段も変動する。これこそが時価の意味です。



 我々庶民は食事を始める前に大雑把に決めた予算内に収まる様、頭の中に計算式を思い描いて料理を決めるのだ。


 それがこの品書きときたらどうだい。


 庶民のちっぽけな銭勘定さえ叶わぬのは、流石に億劫になるのですよ。




「あ、そ、そうなんだ。へぇ……。ジカね……」


「レイド先輩!! この肉料理も美味しそうですよ!!」



 ミュントさんが品書きから顔を上げると、夏の陽射しを真正面で受け続けている向日葵も思わずうわっ!! と顔を背けてしまう明るい笑みを浮かべて此方を見つめた。


 そ、そんな明るい顔しないで!!


 先輩としての威厳を保てるかどうかの瀬戸際なんだから!!




「肉、かぁ。俺はあんまりお腹空いていないから。パスタにしようかな」


「駄目ですよ?? しっかり食べないと。体が資本の仕事なんですからねっ」



 出来る事なら肉汁滴るこんがりと焼かれた肉に齧り付きたいよ??


 さり気なく肉料理の文字が並べられている品書きに目を通すと。



『若牝牛の一枚肉。果実のソース添え』



 と、心臓に悪い文字がしっかりとした文字で載っていた。


 普通はさ、牛の一枚肉とかじゃない?? 書くとしたら。それに果実のソースときたもんだ。


 若牝牛って……。若いって事はそれだけ商品価値が高いって事だ。


 端的に言えば、べらぼうに高い肉。


 それを意気揚々と食える程の給料は貰っていないのですよっと。



「ん――。でも……。いつもの奴にしようかな……」


「いつもの??」



 再び品書きに視線を落とした彼女に問う。



「ここに来たら必ず注文する品があるんですよ。私はいつもそれを食べて、他の人が注文した料理をついばむ感じですからね」


「因みに、その料理って??」


「野菜類がトロトロになるまで煮込まれたシチューと、こんがり焼いた厚いベーコンと野菜が挟まれたパンです」



 ふぅむ。


 まだ牝牛の一枚肉よりそっちの方がお得そうだな。



「ほら。違う料理を頼むよりさ、いつもの方が良いんじゃない?? 変わらない味って奴だよ」



 若干捲し立てる様に話すが……。


 俺の心中を察してくれるのだろうか。



「そうですねぇ……。けどぉ……」


「いや――。変わらない味は大事だよ――??」


「んん――。もうちょっと考えますっ」



 はいっ。もう好きにして……。


 行儀が悪いかと思うが、背もたれにだらりと体を預けて大きな息を漏らした。



「お待たせぇ――。お水、持って来たわよぉ」



 扉が静かに開けられるとあの巨躯が舞い戻って来た。


 超弩級の大きさを誇る右手に子供のおままごと用の大きさの盆を乗せ、その上には蟻の御口に合わせた水差しと人数分のコップが置かれている。



「あ、すいません。頂きます」



 コップが目の前に置かれると、漸くこれは人が使用すべき大きさであると理解出来る。


 並々と注がれていく水を見ながら礼を述べた。



「どうしたしましてぇ。料理は決まったのかしらね??」



 随分と高い位置から声が降り注いでくるので。



「え、えぇ。大まかにですが……」



 上空に向けて顎をクイっと上げて答えた。


 普通の人間と会話する顎の体勢じゃないよね。



「うん?? 何か気にある事でもあるの??」


「い、いえ!! 大丈夫です!!」



 しまった。


 これじゃあからさまに何かが気になっていますよ、って言っている様なものじゃないか。



「ふふぅん。当ててみせましょうか??」



 丸太みたいな腕の先にある太い指を顎に当てて言う。



「あれでしょ?? 値段の事が気になるんでしょ」


「…………まぁ。無きにしも非ずって事ですね」



 長年店を営業していればそれ位お見通しってか。



『予算は如何程で??』


 右耳に妙に高い声の耳打ちが届く。


『大体、一万ゴールド程度でお願いします』



 育ち過ぎた瓜の顔に引っ付いている大きな御耳に耳打ちを返してあげた。



「うんっ。安心しなさい。それで何んとかしてアゲルわ」


「すいません……」



 満足気にこちらを見下ろす店長に対して肩を窄めて話した。



「じゃっ、皆。食べたい物を御伺いしましょうかね!!」


「私からっ!! いつもの奴でお願いします!!」



 素早く挙手したのはミュントさんだ。


 そして、俺の推した品を注文してくれる。


 良い子だぞ。



 そうだよ。変わらない味ってのは大事ですからね!!



「じゃあ私――。季節の根菜のスープと、若牝牛の一枚肉。果実のソース添えで――」



 くそぅ!! やっぱり来たか!!


 シフォムさんが何の遠慮も無しに注文を放つ。



「焼き方はぁ??」


「しっかり火を通して下さ――い」


「はぁ――いっ」



「では、私も注文させて頂きます。若鳥の香草焼き。それと、パンで」



 レンカさんがいつもと同じ、落ち着いた口調で話し出す。



「ふむふむ……。焼き方はぁ??」


「あ、彼女と同じで」


「はいはぁいっ」



 店長。その妙な体のくねらせ方は何んとかなりませんか?? 気になって仕方が無いのです。



「じゃあ自分のを……。ニンニクと唐辛子のパスタ。それと、彼女と同じパンを御一つ下さい」


「それだけぇ?? もっと食べないと。おっきくならないわよ??」


「今日は然程動いていませんので」



 これは勿論体のいい言い訳ですよっと。


 懐事情を考慮した結果の品なのです。



「んぅもう。男の子は沢山食べないとイケナイのにっ。注文は以上で宜しいかしら??」



 大きな瞳が俺達を見下ろすが、開く口は無かったのでそれを察して一つ頷く。



「じゃっ。伝えて来るわね――」


「宜しくお願いします」



 巨躯を左右に揺れ動かしながら扉へと向かうモリュルンさんにお辞儀をしながら伝えた。



「いえいぇ。注文を伝えたらまた戻って来るわね?? それじゃね――」



 ヒラヒラとデカイ手を揺れ動かして退出して行く。



「もう戻って来なくても良いですよ――」


「いやよ!! 彼の事、もっと知りたいもんっ!!」



 ミュントさんの声に噛みつき、さり気なく恐ろしい言葉を残して姿を消してしまった。


 そして、モニュルンさんの声であの高価な窓枠に嵌る硝子がビリビリと矮小に動いたのを見逃さなかった。


 とんでもない声量だな……。



「ふふっ。レイド先輩の事。大分気に入ったみたいですね??」


「ミュントさん。退路はあの窓だけ??」



 部屋の一面にぽっかりと口を開けている高価な窓枠に視線を移す。



「はい??」


「あ、いや。気にしないで」



 キョトンと首を傾げる彼女へ振り向き、慌てて手を翳した。


 食われそうになったら……。


 そうだな。


 あの窓枠をぶち抜いて、この建物を脱出。そして息が続く限り地平線の果てを目指して走り続けよう。


 去り際に残したモリュルンさんの怪しい瞳は、俺にそう決意させるだけの妖力を備えていた。



「ふぅ――。結局迷った挙句、いつもの頼んじゃったなぁ」


 天井を仰ぎ、大きな息と共にミュントさんが息を漏らす。



「美味いんだろ?? それならいいじゃないか」


「そうですけどぉ。ほら、小さい頃からずっと変わらない料理を頼み続けていたら。『こいつ。小さい頃と変わっていないじゃないか』 って思われるじゃないですか」



 あ――。成長したと思われたい訳ね。



「お酒は??」



 成長したと分かり易く背伸びするにはこれだろう。



「少し位なら飲めますけど……」


「ミュント、すんごくお酒に弱いんですよ――」



 隣のシフォムさんがすかさず揶揄う。



「シフォムも人の事言えないじゃない」


「そっちより強いから大丈夫――。レイド先輩は??」


「俺?? 人並み……かな?? 酒類は摂取しない様に心掛けているんだ」



 水をくいっと一口飲んで話す。



「何故です??」



 レンカさんが小さくポツリと呟く。


 まだこのお店の雰囲気に緊張しているのかな。それとも店長が残していった不穏な空気に当てられたのか……。



「酒類は正常な判断を狂わせる。それに出所が分からない陽性な感情が苦手なんだよ」



 以前。ネイトさんの里で記憶が吹き飛ぶ程の量を飲んだが……。


 その翌日は本当に酷い目に遭った。



『ギャハハ!! ボケナスぅ!! おら!! 吐け吐けっ!!』


『あはは!! レイド――。あたしも経験あるけど吐いた方が断然楽になるぞ!?』



 意地悪な龍とお節介なミノタウロスが二日酔いの状態で唸り続ける俺を無理矢理吐かせようと画策し、意地汚い言葉を浴びせられたのは今でも忘れない。


 いつかあの二人には同じ目に遭わせてやるぞ。



「真面目ですねぇ」


 小さな口で水を飲みながらミュントさんが言う。


「真面目なのが丁度良いんだよ。口喧しい……」



 っと。



「うん?? どうしました??」


「――――。口喧しい同期の連中に囲まれていたからね。嫌でもこうなるって」



 危ない。


 マイ達の事を口に出してしまうところだった。



「ふふ。レイド先輩の事、もっと教えて下さいよ」



 ミュントさんが両手で頬杖を付き、興味津々といった瞳の色で俺の顔を真正面で見つめる。



「俺の事?? 聞いても面白く無いぞ」


「興味ありますもん。出身はどこですか??」



 こうしてグイグイ攻めて来る所はミュントさんらしいな。



「出身は此処から西へ向かった先にあるランバートって田舎町だよ。王都へと繋がる街道沿いにひっそりと佇む田舎さ。酪農が主な産業で、そこで生産されたチーズは中々の味だぞ」



 酸味がちょっとだけ強いけど、それが癖になる味だ。



「へぇ!! 良い所じゃないですか」


「何にも無いぞ??」



 夜は暗闇に包まれ、それがどこまでも続く感じで……。


 幼少期の頃は生まれ育った街であるのにも関わらずあの暗さが恐ろしくも感じてしまった。



「こことは違って。静かで……落ち着いて過ごせそうじゃないですか」


「まっ、その点は認めようかな。夜は静かで過ごし易いしさ」


「そんな静かな街で育ったんですねぇ……」



 頬杖を付きながら器用にコクコクと頭を動かす。



「御両親はどんなお仕事をされているのですか?? この際だから聞いちゃいます」



 この際って。


 その質問はどう答えたらいいのやら……。


 明るい場を壊したくないしなぁ……。



「ミュント。その事は別にいいでしょ」



 レンカさんが少しだけ語尾を強めて話す。



「は?? 別にいいじゃん。レンカに聞いている訳じゃないんだし」


「誰にでも両親がいると思ったら大間違いよ?? …………あっ」



 はっと口を抑え、レンカさんがこちらを見つめる。



「はは。もうその質問には慣れっこだよ。両親は……いないんだ。レンカさんと一緒だよ」


「そ、その……。ごめんなさい……」



 頬杖を解き、頭を下げて言ってくれた。



「孤児院で育ってね。その施設の先生に、俺はどういった経緯で俺を預けられたか問うと。吹雪が舞う悪天候の中、二人の老夫婦が突然訪れてこう言ったんだ。『街の外。何も無い雪原に赤ん坊の泣き声がこだましていた』 って。それでその二人が俺を拾い上げ、街の施設に運んだって訳。もし、あの時。二人が俺を見付けて居なかったら俺は今頃土の養分になっていた所さ」



 暗い話を努めて明るく話してやった。



「名前はその施設の人が付けてくれたのですか??」



 レンカさんが問うてくる。



「俺を包んであった毛布に書いてあったんだって。平凡な俺に誂えた様な名前だよ」



 俺を捨てた両親は良心の呵責に苛まれ断腸足る想いで手放したのか。それとも望まない形で生まれて来たから手放したのか……。


 まぁ。酷い吹雪の平原に捨てられていたのだ。


 恐らく後者であろう。


 そして、孤児院の人達には返しても返しきれない恩を受けて育った。


 俺が子を授かった時にオルテ先生の下へ尋ねて真っ当な人生を歩んでいる事を見せるのが恩返しになるのでは無いのか。


 自分勝手な考えだが、朧げにそう考えてもいる。


 勿論経済的な支援も忘れてはいない。俺の給料から毎月孤児院宛てに送金されているからね。



「何か、ごめんな?? 暗い雰囲気にさせちゃって」


「い、いえ!! 尋ねた私が悪いのですから……」



 バツが悪そうに項垂れてそう話す。


 この空気、どうしたものかね。努めて明るい話題を振ろうと口を開いたその時。



「じゃあぁん!! 料理が来るまでの間ぁ。私とお話しましょぅ!!」



 室内の少し沈んた空気をいとも容易く吹き飛ばしてくれる音が響き渡った。



 真夏の太陽も尻尾を巻いて逃げるのではないか??


 モリュルンさんの笑みにはそんな力さえ感じてしまう。



「うん?? 暗い??」


「いえ。お気になさらず」



 きょとんとした顔を浮かべる彼……彼女?? にそう言ってやった。



「料理はちゃぁんと注文して来たからねぇ――」


「は、はぁ……」



 俺の空いている席の右隣り、ルンルンと浮足立った感情のままデカイ尻を窮屈そうに椅子の上に置いた。



 出来ればもうちょっとだけ距離を開けて欲しいのですが……。


 右隣りの肩口から今も熱気がムンムンと伝わって来る。



「……っ」


 そして、さり気なぁく椅子をずらして此方へと向かって接近を画策。


 このままでは獰猛な狩人に捕食されてしまうので、モニュルンさんが近付いた分だけ俺も椅子をずらして正常な距離を保つが。


 それをヨシとしない彼……。彼女は更に距離を削って来る。


 救助要請を請うても良いが常連であるミュントさんが居る手前それは流石に憚れるので……。



「「……ッ」」



 早く料理よ届けと、微塵も動こうとはしない扉を恨めし気に睨みつつ。猛りに猛った鼻息を放つ捕食者との一進一退の攻防を繰り広げていた。




最後まで御覧頂き有難う御座いました。


先程、漸く移動パートのプロットを終え。お次は目的地に到着してからの御使いパートのプロット作成ですね。


頭の中には話の流れが完璧に入っているのですけどそれを文字にして伝えるのはやはり難しいです。


そんな難しい作業を円滑に進めてくれる本日の御供は……。


キアヌ・リーヴス主演の『リプレイスメント』です!!


キアヌ・リーヴスといえばマトリックスやら、スピード。そして最近ではジョンウィック等々。超有名な映画に出演していますが。この映画に出演しているとは余り知られていないのではないでしょうか。


それもその筈、この映画は日本では余り浸透していないアメフトの映画だからです。


映画の大まかな流れは、アメフト界に大規模なストが発生して選手が足りなくなり。主人公であるキアヌ・リーヴスに代理選手として出場してくれないかという誘いが来ます。


映画のタイトルであるリプレイスメント(代理、跡継ぎ、取り替え)はそこから取られているんですね。


この映画も年に一度や二度見たくなる映画の筆頭であり、光る箱へ文字を打ち続ける事が疲れたら映画を見て一息ついていました。



いいねをして頂き有難う御座います!!


暑さで参りかけている体に嬉しい知らせとなりました!!



それでは皆様、お休みなさいませ。


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