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第百十六話 未知との遭遇 その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿なります。




 仕事と休日。この両者の明確な差とは何か。


 それは責任と自由の差であると考えている。


 仕事の成果である給料が発生する以上、対価としてこちらは労働力を提供しなければいけない義務が発生し。


 一方。


 休日は自由を謳歌しつつ日頃の蓄積した疲労を解き解し、万全な体調で仕事へと望むのが正しい過ごし方である。



 俺の場合体が資本の仕事であるが故。休日ともなると例え少ない時間だとしても。


 疲労を拭い去る為に心を温寧に保ち、疲弊した筋力と負傷した怪我を癒して次に控えている任務に備えなければいけないのだが……。


 前を歩く三つの元気の塊はそれをよしとはしなかった。



「ねぇ――!! レイド先輩っ!! どこに食べに行きましょうか!!」


「レイド先輩の迷惑になるから服を引っ張らないで」


「お腹空いた――。早く連れてって下さい――」



 行き交う人達は彼女達の放つ眩い明るさを受け、一部は子犬と親犬との喧噪を想像したのか朗らかな笑みでこちらを見つめ。


 多くの者は、全く最近の若い者は……。と呆れ顔を浮かべつつ溜息を漏らす。


 喧しくしてしまって大変申し訳ありません。


 慙愧に堪えない思いがいつまでも胸の中に居続けもう既に心が弱音を吐いていた。



「もうちょっとさ。静かにしたら?? ほら、人の往来がある場所だし」



 俺の上着をちょこんっと摘み、金の髪を楽しそうに揺らして前へ前へと進むミュントさんに言ってやった。



「五月蠅いですかね?? いつもこんな感じですから」


「そ、そう」



 ビッグス教官達も苦労するよなぁ。こんなに元気な子犬達の世話を請け負って。


 入隊して間も無く一年目。


 そろそろ国を守るという仕事の重責を自覚して貰いたいものだよ。



「今日は久々の休日なの??」



 少しの溜息を交えて口を開く。



「そうですよ!! ビッグス教官は。『最近、お前達は弛んでいる!! 休日返上で訓練を叩き込んでやるからそのつもりでいろ!!』 って、顔をこ――んな怖い感じで言って中々休めなかったんですよっ」



 目くじらを立てて、ビッグス教官の強面風を演出するが……。


 可愛い顔ではどう頑張ってもそれは無理がある。


 頑張る様が余計可笑しな顔になり、多分に笑いを誘った。



「あはは。そりゃ大変だ。スレイン教官はどうなの?? 指導教官でしょ??」


「それが……。最近、ちょっと様子がおかしいんですよ」



 レンカさんが此方へ振り返って話す。



「おかしい??」


「はい。一週間程前からでしょうか。何をしても心此処に在らずって感じでぼ――っとして。普段では有り得ない忘れ物をしたり、私達訓練生に間違いを指摘されたりと普段の冷静な姿とはかけ離れた姿で困惑しています」



「ほぉん。あのスレイン教官がねぇ……」



 冷静沈着。四角四面。


 これらの文字を当て嵌めた性格なのになぁ。



「あ、それと――。妙に嬉しそうな顔もしてましたよ――??」



 シフォムさんが呑気な声で言う。



「嬉しそう?? 指導で失敗したのに??」


「えぇ。廊下をすれ違った時、微妙に口角が上がっていましたからね――」



 あのスレイン教官の口角を上げる良い出来事とは一体何だろう……。


 美味い飯でも食べたのかな??


 ぱっと思いついたのはそれくらいだけど……。



「きっとアレね。男性絡みよ」


「あ――。それなら納得出来るね――」


「スレイン教官の浮いた話か。何だか、余り想像出来ないな」



 端整な顔立ちに整った体付き。


 私服姿で街中を歩けば誰しもが刹那に視線を奪われてしまうでしょう。


 一見、超完璧な美人さんにも見えるが……。スレイン教官には致命的な弱点がある。


 そう、手料理という名の恐ろしい凶器だ。


 彼女の料理を口にした者は口を揃えてこう話す。


『もう二度と口にしたく無い』 と。


 その弱点を遂に克服したから嬉しそうな表情を浮かべていたのかしらね。



「あぁぁあっ!!」


「っと。どうしたの?? 急に声を張り上げて」



 通常の声量より一段大きな声をミュントさんが上げる。


 その通常の声量も大きいんだけどね。



「思い出した!! そうですよ!! ビッグス教官とデートするんですよ!!」


「…………。あっ」



 そう言えば以前指導に赴いた時、そんな賭け事をしていたな。


 俺はその巻き添えを食らってこうして彼女達に付き合っている訳なのだが……。



「それなら納得ね」


「でしょ!? 今日は指導教官達も休みだから……。ぬふふ。ひょっとしたら街中にいるかも??」



 悪戯心満載の顔でミュントさんが周囲へ視線を送る。


 おっと、此処で釘を差しておかないと。



「こらこら。教官達の束の間の休日を邪魔するなよ?? 只でさえ疲れているってのに」



 明日から始まる任務に備えてある程度の体力は残しておきたい。この広大な街中を縦横無尽に連れ回されて体力を枯渇させてしまうのは由々しき事態ですからね。



「私達も疲れているんですよ??」


「そ――そ――。毎日馬みたいに走らされて、叩かれて。体が悲鳴を上げています」



 あ――……。


 まだ親心を理解していないのか。



「ん――。何て言えばいいのかな……。この前さ、レンカ達に指導した際感じたんだけどね?? 教官達は訓練生一人一人の事をしっかりと見ているんだ。こいつはもう少し筋力を付けた方が良いから回数を増やしてみるか?? とか。座学で頭を悩ませている人にはしっかりと理解してもらう為、力を出す事を惜しまない。訓練生から見たら鬼の様にも見えるけど……。任務に就く様になったら彼等の指導が本当に有難く感じる場面が多々見られた。今はキツイと感じるかも知れないけど、それは思いやりだから。 『叱ると怒るは違う』 それは忘れない様に」



 饒舌に話したのは良いが……。


 どうも要領を得ない様だ。



「「「……っ??」」」



 目の前の六つの瞳がパチパチと面白い動きを見せていた。



「あはは。ちょっと分かり辛かったかな??」


「叱ると怒るって一緒の意味、ですよね??」



 レンカさんが気難しい顔を浮かべてポツリと言う。



「厳密に言えば一緒かも知れないけど。ふふ、もうちょっと先になったら分かるよ」


「意地悪しないで教えて下さいよ」



 遊んで欲しくて親犬の足をちょいちょいと突く子犬の様に、ミュントさんが俺の袖をクイっと引っ張る。



「それは自分で経験したら分かるよ。さ、どうする?? 中央屋台群に到着するぞ」



 陽性な感情のまま会話を続けていると、お昼時には少し早い時間帯だというのに常軌を逸した数の人々が中央屋台群の中を蠢いていた。



「いらっしゃ――いっ!! 美味しい豚肉の炭火焼きは如何ですか――ッ!!!!」


「本日限り二割引っ!! ちょいとお昼は早いけどうちのパンは買って損は無いっ!!!!」



 彼等が放つ陽性な感情の数々が冷たい空気を温めて真夏の熱気を彷彿させ、そしてそれに呼応する形で屋台群の店主達も熱を帯びた声を発して目の前を通り過ぎていく客を逃さすまいと躍起になっている。



 本日も超大盛況ですなぁ。


 経済が潤滑に回っているのは喜ばしい事ですけども、程度ってもんがあるでしょ。


 何、アレ。蟻の大群もドン引きする量の人混みじゃないか。



「うわぁ……。すっごい人」

「ちょっと堪えますね」

「通りたくな――い」



 普段は顔見知りばかりが揃う訓練所内で生活を続ける彼女達にとって、この常軌を逸した熱気は流石に厳しそうだな。



「ここで食事は無理そうなら……。どこか店にでも入る??」



 人の波に飛び込むのを躊躇している三名へ何とも無しに問うた。



「賛成です!! 私良いお店知っているんですよ!!」



 俺の提案を受けたミュントさんが誰よりも先に挙手する。



「良いお店??」


 味、が良いのかな。


「はいっ!! 値段良し、味良し。量は……まぁ女性なら満足する位の量ですけど……」



 …………。


 あっ、俺の事を気遣ってくれているのか。



「安心して。あんまりお腹空いていないから」



 起きてから然程動いていないし。


 それに、右腕の痛みが先程から声を大にして叫んでいる。


 おっかしいなぁ。朝はそれ程痛まなかったのに……。


 あれだけの深手だ。数日の間で治るものでもあるまいよ。完治に至るまでもう少しの我慢って所ですかね。



「あはっ、良かった!! じゃあ、お店は東大通り沿いにあるので行きましょう!!」


「了解です。ミュント隊員、君が分隊の前方へ出て誘導しなさい。俺達は縦一列に続き、あの人波を避けて進むぞ」



 出掛ける前にレフ少尉から言われた様に俺もいつかは分隊長を任されるかもしれない。


 遊び半分だけどこうして後輩達へ命令するのも一考かも。


 いざ本番になっても焦らない様に今の内に慣れておきましょうか。



「はっ!! 了解しました!!」



 姿勢を正し、爪先を四十度の角度で開いて腰を十度に曲げる。


 脱帽時の敬礼を披露してくれるのだが……。どうも私服姿だとやたら可愛い敬礼に見えてしまいますね。



「おっ。ノリがいいね??」


「こういうのは得意なんです」



 えへへと笑い、陽性な感情を惜しげも無く出す。


 う――む。年相応の明るい笑みだ。


 この明るい笑みをおかずにしたら食べあぐねている白米もサラサラと頂ける事でしょう。


 素敵な笑みにウンウンと頷いて居ると。



「…………。レイド先輩」


「何?? どうしたの??」



 私は大変不機嫌でありますよと、誰にでも容易く看破出来てしまう程に眉を顰めているレンカさんがいた。


 急に不機嫌になると言う事は……。お腹が減っているのかな??


 マイも空腹の時はこんな顔しているし。あ、いや。アイツの場合は常に怒っている印象だ。



「別に。何でもありません。ほら、ミュント。分隊長の命令よ。迂回路を先行して道を確保しなさい」



「貴女が命令しないで。レイド先輩、行きますね!!」


「お、おう」



 何だろう。今の微妙にピリっとした空気は。



 不穏な空気が刹那に漂い、何か得体の知れない寒気がすっと俺の背を撫でて行く。


 正直、今の空気は苦手です。


 マイとアオイの喧嘩……とは毛色が違うな。


 女性って生き物は男と違って、余り物事を詳細に話さないからなぁ。


 女心の理解、そこだけが難点ですよ。


 俺達と同じく迂回路を進み続ける人の波を容易く掻き分けて此方を先導する頼もしい背を追い続けながらそんな事を考えていた。




お疲れ様でした。


現在、後半部分を編集中ですので次の投稿まで今暫くお待ち下さい。

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