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第四話 ちゃんと説明、しようか

 ごゆっくりと御楽しみ下さい。




 草を分け、枝を分け。首を長くして相棒が待つ泉へと進む。

 大人しく待ってくれているだろうか?? 

 賢いウマ子の事だ。俺を置いて何処かへ向かう事は無いと思うけど……。


 見覚えのある木の脇を抜け、空から零れ落ちる光を煌びやかに反射させる泉に到着すると。


「ウマ子!!」


 出た時と変わらぬ姿で待ち構えていてくれた。

 俺を見付けるなり、早足で駆け寄り長い舌で親愛の挨拶を交わす。


「ははっ!! 止めろって!!」


 嬉しさを爆発させたのか、いつもより長い愛情表現に心が温まった。



「この子、ウマ子って名前なの??」


 今も左肩に留まるマイさんが話す。


「そうですよ。ほら、ウマ子。龍族のマイさんに御挨拶」


 襲い掛かる長い顔を押し退け、左肩を指差す。


『……』


 初めて見る魔物に困惑しているのか。

 円らな瞳でじぃっと見つめ、大きな鼻でフンフンと匂いを嗅ぐ。


「でっけぇ鼻。体が小さくなると世界が変わって見えるわね」


 小さな御手手でウマ子の鼻をペシペシと叩く。

 それを攻撃と捉えたのか、若しくは彼女のイケナイ何かを刺激してしまったのか。



 あ――ん、っと。大きく口を開き。



「ン゛――――!?!?」


 マイさんの上半身に齧り付いた。


「まべがびえない!!」

「ウマ子。食べたらお腹を壊すから止めなさい」


 飲み込んで、腹の中で暴れられても困るし。


『そうか』


 程よく咀嚼を楽しみ、そしてぺっと吐き出した。


「おっぇ!! くっさっ!! ちょっと!! 躾がなっていないわよ!!」

「ははっ。まぁ、親愛の挨拶みたいなもんだって。丁度泉があるし、洗い落としたら??」


 荷物を纏めつつ、憤りをこれでもかと現わしているマイさんへそう言ってやった。


「まぁいいや。丁度喉も乾いていたし、泳ぎながら洗い落そう……」


 ふよふよと宙を飛び、御風呂に入る時の様にチャプンっと泉へと潜って行った。




 さて、と。

 生き返って早々忙しくなりそうだな。


 先ずはここから南へと向かい、マイさんをミノタウロス?? だっけ。その里へと送り。そこで別れた後、南海岸まで抜ける。そこから西へと進みルミナへ……。


 うん。

 記憶は混濁していない。


 大切な書簡を手に取り、与えられた任務の内容を反芻。

 自分の記憶が間違っていない事を改めて、己に言い聞かせた。



「ぷはっ!! ふ――!! 気持ち良かった!!」


 洗い立ての犬の様に、体を震わせ飛沫を放つ。


「つめてっ。ところでさ」

「ん――??」


「ほら、マイさんは人の姿から魔物に変わった訳でしょ??」

「そうね」


「服とか、一体どういう状態になってるの??」


 まさかとは思うけども。今は全裸です――ってオチは無いよね。


「あ――、それ。えっとね?? 服を着た状態で魔物の姿に変わると」


 変わると??


「何だっけ。粒子?? 胞子?? みたいになって体にくっついて。んで、魔物の状態の時にぃ。攻撃を食らうと服にも傷が付く?? みたいな??」


「随分と抽象的ですよね」


「仕方が無いでしょ。私、魔法方面すっごい苦手だもん」


 なんとなくそんな気はします。

 言いませんよ??

 また殴られて痛い思いをしたくありませんので。


「もう一つ気になった事がありまして」


 腹部と背部。

 その両方に穴が空いたシャツを脱ぎ捨て、新しいシャツを着用しつつ伺う。


「何よ」


「俺を生き返らせてくれた魔法ってどんな魔法なのですか??」




 死から蘇生させる魔法。




 まるで神が起こした奇跡だ。マイさんがその魔法を使用出来るというのであれば、彼女は神様に等しき力を宿しているという事となる。


 いや、神様そのものか。


「あ、それ?? 龍の契約って奴」


 ウマ子の頭にちょこんと座って話す。


「龍の契約??」


「そ。限られた龍に与えられた力よ。一生に一度だけ。自分の力を相手に分け与える事が出来るの」


「そ、そんな大切な力を俺に!?」


 長い人生の中、使用出来る回数はたったの一回。

 それを見ず知らずの俺に……。


「一応庇ってくれたじゃん。あのままあんたがくたばったら私も夢見が悪いし。血が混ざり合う儀式も済んでいたし。ちゃちゃっと術式を組んで、パパっとやって、はいお終い!! って感じよ」


 そのちゃちゃっと、パパっとが多大に気になるのですが……。


「槍で胴体を貫かれて、マイさんに激突して……。まぁ大体の事情は分かりました。後、最後に……」


「まぁた質問――?? あんた質問ばっかじゃん」


「マイさんにとって常識なのかも知れませんが自分にとっては非常識なのです。そこを汲んで頂ければ」


 先程まで普通の生活を営んで……。

 いや、任務中だから普通とは言い難いけど。それでも突如として魔物に出会って、魔法やら龍の契約やら。


 困惑しない方がおかしいのです。


「はいはい。質問をど――ぞ」


 ウマ子の頭の上で横になり、随分と寛いだ姿勢で話す。


「先程、力を分け与えたと言いましたよね?? 具体的にどんな力を与えてくれたのですか??」


「あっ、それは言っておかなきゃいけない奴だった」


 えへへと笑みを浮かべ、上体を起こして後頭部を掻く。


「そんな大事な内容なの??」

「いい?? 耳の穴よぉくかっぽじって聞きなさい」


 真剣な面持ちになったので、こちらもそれに倣い姿勢を正す。







「あんたはもう人間じゃないの」







「――――――――。はい??」



 己が体を見下ろすが……。

 人間そのものの体であった。


「もっと詳しく説明しましょうか」


 宜しくお願いします。


「私があんたに龍の力を与えた。つまり、あんたの体の中には龍の力が宿っているの」

「はぁ」


「私達魔物の平均寿命は約千年。龍の力を与えられたあんたも、私達と等しく千年生きる事が出来るのよ。あ、いや……。違うわね。 あんたからして見れば『生きてしまう』 か」


「せ、千年……」


 つまり、人間の友人達は俺を残して先に逝ってしまう。知り合ったほぼ全ての人間が……。


「あのまま死ぬよりかはマシでしょ。あそこでくたばったらあんたの友人達にお別れも言えないし」

「そ、そうですね……」


「はい、そして。ここが一番大事な所よ」


 己の太腿をパチンっと叩き、話を強調した。


「龍の力が宿っていると言う事は、それを発現させる事も可能なの」

「どうやって??」



「最後まで私の話を聞け、ボケナス」


 相も変わらず口が悪いですね……。


「あんた右利きでしょ??」


 肯定を含め、一つ頷く。


「試しに、一回やってみっか。先ず、目を瞑りなさい」


 マイさんに促されるまま、両の瞼を閉じる。


「で。右腕に力の欠片を集めなさい」


 はい。もう分かりません。


「も、もっと具体的に教えて頂けます??」

「ちっ、要領の悪い奴め」


 いやいや。

 いきなり欠片を集めろと言われても……。


「頭の中で馬鹿デカイ力を想像してみ」


 馬鹿デカイ……。

 さっきのマイさんの姿でいいかな?? かなり格好良かったし。


 今の雀さん、とは雲泥の差ですよ。


「んで、それを細分化して。その小さな欠片を、ゆっくりと……。砂粒を運ぶ要領で胸の中心から右腕へと移動させるイメージを持ちなさい」


 ふ、む。


 深紅の龍の炎の欠片をイメージし、その小さな炎をゆっくりと。

 岩が風食によって砂粒に変化するように。

 矮小な粒へと変化させつつ、右腕に集めた。





 な、なんか。

 右腕が熱いぞ……。





 欠片が集まる度に右腕の体温がグングンと上昇していく感じだ。


「ほぅ……。初めてにしては上出来ね。ほれ、目。開けてみ??」


 マイさんに促され、目を開けて今も熱を帯びている右手に視線を送った。




「――――――――――――。な、何だ!? これ!?」




 人間の手は既に消失。

 変わりにゴツゴツした甲殻を備えた爬虫類擬きの手がそこにはあった。


 五本の指先から伸びた鋭い爪。

 鋭い斬撃をも跳ね返すであろう黒き甲殻。


 それが手首の先にしっかりと生えてしまっていた。


「龍の手よ。ほれ、私の手と似ているでしょ??」


 マイさんが差し出した手と、自分の手を見比べる。


「ほ、本当だ……。色は違いますけど形は一緒ですね……」

「因みに今の感覚は忘れない様に。これからいざ、戦うって時に発現出来なかったら宝の持ち腐れだからね」


「りょ、了解。具体的な能力とかあるの??」


「身体能力と治癒能力の向上よ。人間のソレとは比べ物にならない位上昇しているからね」


 実戦でいきなり使用する程怖い物は無い。

 物は試し、じゃあないけど。


「ちょっと試しに思いっきり跳んでみます」

「んっ」



 大殿筋をぐぐっと折り曲げ、下腿三頭筋に力を籠め。

 溜め込んだ力を一気苛烈に解放した。






「ぃぃぃっ!?!?」



 体は、遥か上方に伸びている木々の枝の間を猛烈な速さで通り抜け。





「ギィヤアアア!!!!」



 森の海が地平線の彼方まで、何処までも広がるのを視界が捉え。



「いやぁあぁあああ!!!!」



 天空へと伸びる力を無くした体は、重力に引かれて地上へと自然落下。



「ボグッ!?!? ブググ…………」



 両足から泉へと着水し、つめたぁいお水が口と鼻から侵入しましたとさ。




「こっわっ!! 怖い!! 今の何!?!?」


 両腕で体を擦りつつ、泉から飛び出た。



「あはは!! 飛んだわねぇ。加減をしないとあぁなるって教えておきたかったのよ」

「最初から言ってよ!! もう少しで死ぬ所だったじゃないか!!」


 着替えたてのシャツを乱雑に脱ぎ、これでもかと憤りを籠めて叫ぶ。


 着地した場所が泉で良かった……。

 硬い地面に着地してしまった事を考えると……。


「失敗から学ぶのが私の方針よ」


 デカ過ぎる失敗で体が消失したら元も子もないよ……。


「はれ?? 戻ってる……」


 ふと、右手に視線を送ると。

 正真正銘。

 人間の手がくっついていた。


「落ちた衝撃で集中力が切れたのね。これから毎日練習しなさいよ――?? 練習を熟せば、体に馴染んで意識せずとも発現出来るからさ」


「時間がある時にします。マイさん、ありがとうね。色々教えてくれて」


 親切な対応には、感謝を届ける。

 人としての礼儀です。


「ふんっ、最低限の知識を与えただけよ。後!! 敬称は止めて。背筋がゴワゴワすんのよ。呼び捨てで構わないから……」


 出会って直ぐの女性を呼び捨て、か……。

 ちょっと苦手なんだよね、いきなり呼び捨て呼ぶの。


「分かったよ。えっと、ありがとうね。マイ??」


「お、おぉ……。さぁ!! 行くわよ!! ここでまごまごしていても美味しい物は食べられないから!!」


 僅かばかりに頬を朱に染め、此方の左肩に留まった。


 マイが話す通り、ここで道草を食っている訳にはいかん。

 任務を優先しないとね。


 やれ女性の前だから脱ぐな。

 やれもっと筋肉を付けろ。


 等々。

 だったら目を瞑ったら如何ですかと問いかけたくなる文句を述べ続ける小さな龍を半ば無視しつつ、軍服に着替え一路南へと向かって行った。


最後まで御覧頂き、有難う御座いました!!

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