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第百五話 与えられた最後の課題 ~解答編~

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




 緑に囲まれた部屋の中にまるで視認出来てしまいそうな重苦しい雰囲気が漂う。


 その空気を払拭させようと試みて誰とも無しに声を上げた。



「…………さて。これまた厄介な難題を提示されたな」


「「「……」」」



 皆一様に小難しい表情を浮かべているのは自明の理であった。


 そりゃそうだよなぁ。


 正解の形が全く以て掴めていないのが現状なのだから。



「提示された文章の中の重要そうな単語を拾うと……。深き深淵、七人の戦士。そして助言であった、こことそこでは見え方が違う。この三点に注目すべきでは??」



 リューヴがいつもよりも更に眉を尖らせて問題を紐解こうとする第一声を放つ。



「そうだな。でも、相も変わらず四方には違う色の花が咲いているし。色を選択する事には変わりないと思う」



 恐ろしい角度で眉を尖らせている彼女を見ながら話す。


 えっと……。俺は敵じゃないのだからもう少し柔らかい角度にして頂けます??



「七人の戦士。これは恐らく、虹を指しているのでしょう」


「私もカエデに賛成よ。色を選ぶって事から察するに大方間違いないと思う」



 カエデの意見にエルザードが一つ頷く。



「じゃあ、見え方が違うってどういう事だ?? 空から見下ろすって事??」


「馬鹿ね。それじゃあ青き深淵はどこに行ったのよ」


「馬鹿は余計だ」



 ユウの意見にマイがいつもの明るさで突っ込む。


 見え方の違い、か。



「なぁ。さっきの問題だとさ。捉え方の違いを求められたよな?? それなら、『見方』 と『味方』。こういう解釈も出来るんじゃない??」



 今しがた思いついた事を述べてみる。


 これが正解の糸口にならないだろうか??



「おぉ!! それっぽいね!!」


「ルー、すぐさま飛び付かない。じゃあさ、味方が違うって事は敵になるって事?? それだと問題と答えに矛盾しない?? ほら、色を選ぶんだからさ」



 ん――……。そう言われてみれば……。


 マイにしては鋭い指摘だ。



「まな板のくせに中々的を射ているではありませんか」


「あ??」



 これこれ、お嬢さん達。喧嘩は問題を解いた後にしなさい。


 お父さんは疲れていて君達のじゃれ合いを止める元気は無いのですからね。



「色を選ぶ事に変わりありません。何故。その色を選ぶのかが問題です」


「何故、か。ん――」



 カエデの言葉を受け、改めて四方の色を確認する。


 正面に緑、右に赤、左に青、そして後方は紫。


 いかん。どれも正解に思えて来た。



「青き深淵……。青色の補色って何??」


「ん?? 橙だよ」



 マイの言葉に答えてあげる。



「橙……。無いわね」


「うん。補色じゃ無いと思うんだ」



 恐らく、というか十中八九違うと思う。


 今までと同じ答えだったらそれこそ肩透かしだろうし。



「青い……か。あたしがぱっと思いついたのは海だな。ほら、カエデと出会った海岸。凄く綺麗だったよな――」


「えぇ。懐かしいですね」


「無人島の海も綺麗だったよねっ!! 私もう一回行きたいよ!!」


「そうですわねぇ。しかし、あそこは筍が余計でしたわ」



 各々が懐古に浸り、頭の中に美しい海を思い描いている様だ。


 かく言う、俺もその一人。


 無人島……か。


 美味しい魚に友人達との素敵な会話に温かな温泉。そして海も入ったよなぁ。



 足の裏が大喜びするサラサラの砂浜、何処までも澄み渡り広がる大空、そしてその下には透明度抜群の海。


 休暇を過ごすのにはもってこいの場所であった。


 只、それ以前に……。


 皆様の水着姿の方が自然環境よりも断然に破壊力があり過ぎたのでそっちの方が記憶に新しいのが本音です。



 誰だよ。


 あんな恐ろしい武器を開発したのは。



「海って青いし。青でいいんじゃない??」


「マイ。それでは七人の戦士、見え方の違い、初めに消え去りし者に該当しません」



 カエデの鋭い指摘が飛ぶ。



「くそっ。あぁ!! もぅ!! 分かんない!!」


「少し黙って頂けません??」


「はぁっ?? さっきから一々突っかかって来てあんた何様なのよ」



 睨み合う二人を他所に頭の中で水着姿では無く、海本来の雄大な姿を思い浮かべていると。



 昔、孤児院の皆で出掛けた遠足の風景が浮かんで来た。


 はは。


 あの時は色々無茶をやったなぁ……。




「どうしたの?? レイド。変な顔して」


「え?? あぁ。昔さ孤児院の皆で遠足をしたんだ。海に向かってね。その時の思い出し笑いだよ」



 不思議そうな表情を浮かべているエルザードに言ってやる。



「遠足?? 楽しそうだね!!」



 俺の話に興味を持ったのか、ルーが陽気な声を上げた。



「楽しかったぞ?? 海辺の近くに天幕を張ってさ。昼は釣りをしたり、海水浴をしたり。んで、釣った魚とか、持ち運んだ食料で夜は皆で鉄板の上で料理をしたんだ。体中痛くなるまで日焼けして……。夜に肝試しと称して抜け出して……。オルテ先生にこっぴどく叱られたなぁ……」



 うわっ。懐かしい。


 夜中に見つかった時、こっぴどく頭を叩かれた痛みが思い出される。



「意外と横着だったのね。アンタの幼少期って」


「子供のする事は大体横着だろ。マイだって色んな事してグシフォスさんに怒られただろ??」


「そりゃぁ……。まぁ……」



 しどろもどろに答えるあたり、グシフォスさんに堪える程叱られたのだろう。


 あ、いや。教育的熱血指導はフィロさんが受け持っている可能性の方が高いな。



「うぐぅ……。思い出したら脳味噌が耳の穴から出て来そうになっちゃった」



 ほら、頭を抑えて顔を顰めているし。



 でも、それでいいんだ。


 子供の頃に横着を繰り返して良い事と悪い事の分別を、身を切る覚悟で覚える。


 それが子供の仕事なんだよ。



「他には!?」


「他に?? ん――……」



 まだまだ聞き足りないのか。


 ルーのお代わりに当時の光景を思い浮かべた。



「これと言って他には……。あっ」


「ん?? なぁに??」



「そうそう!! こんな話も思い出したよ。ほら、海ってさ。凄く青くて綺麗だろ??」


「そうだねぇ。あの青さが素敵なんだよねぇ」



 しみじみと頷くルーを見ながら思い出を語っていく。



「両手で海水を掬ってオルテ先生に掛けたらとんでもない仕返しが来てなぁ……。その時さ、ふっと気付いたんだよ」


「気付く??」




「海は青くて綺麗なのに、手のひらに浮かぶ海水はどうして透明なんだろうって。オルテ先生は。あぁ――。青色は恥ずかしがり屋さんだからね。見つめられると照れて隠れちゃうんだよ。そう言ったんだ。今思えば幼稚な回答だけど、子供の時分はそれで納得しちゃったよ」



「あの先生、中々面白い事言うじゃない」


「だろ??」



 厳しい顔から一転、柔らかい表情を浮かべるマイに言ってやった。


 今度また長い休暇が出来たら皆で海に出掛けるのも一考かしら??


 勿論!! 向かう先は変なモノが出て来ない観光地に絞りますけどね!!




「…………レイド。もう一回今の話をして」


「へ??」


「私も聞きたいわ。なぁ――んか。妙に引っ掛かったのよねぇ……」



 カエデとエルザードが眉を顰めて俺を見つめて来る。


 御二人共、端整な顔が台無しですよ??



「別にいいけど……。幼い頃さ、遠足で海に行って……」

「ごめん。もっと後」



 あ、はい。


 エルザードの指摘で言葉を端折って話していく。



「――――。それで、オルテ先生が青色は恥ずかしがり屋さんだから。照れて隠れちゃうんだ。そう言ったんだよ」



 これで宜しいか??


 言い終えて二人の様子を窺うと。



「…………。そっかぁ!! はぁ!! 良くやったわ!! レイド!! あ――スッキリした!!」

「レイド。良くやりましたね」



 俺の思い出話から何かを掴んだのか。


 エルザードが喜々とした表情を浮かべ、カエデの口角も僅かに上がっていた。


 あのぉ……。


 私、何かしましたでしょうか??



「これ。何か分かったのなら儂らにも説明せい」


「師匠の仰る通りだ。答えが分かったの??」



 俺達を他所に喜ぶ二人に問うた。



「そ。もう完璧に正解に辿り着いたわよ。ね――??」


「レイドのお陰です」



 いやいや。ね――??


 じゃなくて正解を知りたいのだが??



「ま、この中じゃ私とカエデ位しか知らない事だから」


「じゃから!! 説明せいと言っておろうが!!」


「それ、人に物を頼む態度??」


「き、き、貴様ぁ!!」


「わぁっ!! お、落ち着いて下さいぃ!!!!」



 食って掛かろうとする師匠を背後から羽交い絞めにして、力強い行進を止める。


 ここでひと悶着は勘弁して下さいよ。



「ん――。頭の中に筋肉が詰まっている馬鹿にも分かる様に説明するのはどうすればいいのかしらねぇ……」


「先生。先ずは光の性質から説明した方が分かり易いかと」


「ん。それもそうね」



 光の性質?? 何だ、そりゃ。


 物を照らして確知させる事かしら??



「いい?? 私達が色を認識出来るのは光のお陰なの」


「ふんっ!! それ位、分かるわ!! 馬鹿にしおって!! 暗くては見えぬからな!!」



 顎下の金色がそう叫ぶ。



「ば――か。そういう事じゃないのよ」


「ば、馬鹿?? 貴様!! 何度儂を馬鹿にすれば気が済むのじゃ!!」



 師匠。心急く思いなのは分かりますが……。


 少し口を閉じて頂けると幸いです。


 絶対、言わないけどね?? 物凄く怒られるし。



「今も降り注ぐこの光。この光にはぁ……。何んと驚き、色が含まれているの」



 天を指差して話す。


 光に色??


 それは初耳だな。



「色ってさ。その物自体の色が光に映って、その色を認識出来るんじゃないの??」



 恐らくこういう事だと思うけど……。



「残念ながらそれは違うわ。例えばぁ……。ほら、マイの髪を見て」


「「「……」」」



 エルザードの言葉を受けるとこの場に居る全員が狂暴龍の髪へと視線を送る。



「あんっ?? 何見てんだオラ」



 見れと言われたから見ているだけですので、猛犬みたいに鼻に皺を寄せるのは止めましょうか。



「あのぺちゃんこちゃんの髪は赤いわよね??」


「誰が馬車の車輪に轢かれてペチャンコになった蛙だごらぁ!!!!」


「髪が赤く見えるのは……。あの髪が光に含まれる赤い色を反射しているから赤く見えるのよ。つまり光が無いと赤は見えず、光を当てると赤が見える」



 獰猛な猛犬の叫び声を無視してエルザードが言葉を続ける。



「人間が見える範囲に含まれている光の色は七色。つまり、虹色の事ね。これが示す事は、七人の戦士は虹。これを大前提に問題を紐解いていくの」



 ふぅむ。虹、ねぇ。



「虹の事は先程解いたじゃろうが。はよぉ正解を言え」


「五月蠅いわねぇ。私のありがたい解説を黙って聞けないの??」


「くっ!!」



 おっとぉ!! これ以上前に進んじゃ駄目ですよぉ!!


 慌てて腰を踏ん張り、小さな巨人の大進撃を引き留めた。



「光。この存在があるから私達は色を認識出来るの。その光にも波長ってのがあってね??」



「「「波長??」」」



 俺と師匠。


 そして解説をする二名を除く、全員が仲良く声を揃えて物思いの方向へ首を傾げた。



「そう。長い物もあれば、短いのもある。丁度、こんな感じです」



 カエデが細い指を上下にウネウネと揺れ動かし、波打つ様を分かり易く行う。



「光の波長には特徴があって。


『波長の長い光は水に吸収され易く、散乱され難い』

『波長の短い光は水に吸収され難く、散乱され易い』


 波長の違いによって全く異なる性質を持っちゃうのよ」




 …………ほぅ??


 適当に頷いたが全く分からん。



「要領を得ないわね。結局、何が言いたいのよ??」


 マイが俺の気持ちを代弁してくれた。


「話は最後まで聞きなさい。今、私の夫が。何で海は青くて。少量になると透明になるのって言ったわよね??」



「あぁ、確かに言ったな。後、勝手に夫とか呼ばないで」



 エルザードへ肯定と否定を同時に伝える。



「少量の水では光に含まれる色を吸収出来ずに、散乱されてしまうけど。海の様な膨大な量になると話は別。光に含まれる青色が吸収されて、海は青く見えるのよ」



 あぁ。


 そう言ってくれると分かり易いな。



「はいは――い!! わかりませ――ん!!」


「右に同じ。青が見えるのなら、何で他の色は見えないんだ?? それこそ、色が吸収されるのなら海だって虹色に見えるべきだろう??」



 ルーとユウが堪らず声を上げた。



「ユウが疑問に思う事は概ね正しいわよ?? 他の色も勿論、吸収されているんだけど。色によって波長が異なるから散乱されたり、深く入る事で色が消えちゃうのよ」



「うぅ?? どういう事ですかね??」


「分かりませんっ!!」



 ルーとピナさんが頭を抱える。



「ここに来る時、虹色を辿れって言われたわよね??」


「はい!! その様に伺いましたよ!!」



「虹の色は外側の色が最も波長が短くなり、内側に行くにつれて波長が長くなるの。これが示す事はつまり……」



 エルザードの分かり易い説明を受けて漸く理解出来た。



「あ、成程。そういう事か。正解は赤、だな??」


「うん!! レイド、正解よ」



 ほっ、良かった。



「これ!! 儂にも説明しろ!!」


「あいたっ」



 一本の尻尾が後頭部を叩く。



「七人の戦士は虹色の事で、青き深淵は海の事を指しています」


「ふむふむ??」



 顎下の金色が上下にコクコクと動く。



「そして、一番初めに消え去りし者は……。光が海に入り、最初に消える色を指しているのですよ。エルザードが説明した様に波長が短い光。つまり、吸収され難く反射され易い。この事を踏まえると赤が、最初に消えちゃうのです。ですから答えは赤。だよな??」



 金色から桜色に視線を移して話す。



「合っているわよ。ってか、弟子に説明させるなんて……。だっさいわよねぇ」


「ぐぬぬぅ!!」



 はぁい。落ち着いてくださぁい。


 腕力を最大限に解放して師匠をその場に留め続けた。



「おぉ!! そういう事か!! あたしにも分かったぞ!!」


「あぁ、主の説明で理解出来た」



 ユウとリューヴの明るい声が背後から聞こえて来る。



「それで、マウルの言っていた見え方の違い。それは地上と海中の事だと思うの。地上では七色見えるけど、海中では全部綺麗に見えない」



「それに青き深淵。これは深海の事ですね。深く潜れば、潜る程色は消えていきますので。それと、『救う』と『掬う』 レイドが話していた水を掬った話も大いに役に立ちました」



 エルザードとカエデが補足説明をしてくれる。


 うん……。


 全く矛盾していないし、完璧な回答だな。



「凄いな二人共。良く分かったね??」


「光の魔法。その術式を構築している時にふと気付いたんですよ」


「そ――そ――。微妙――に色の使い方が違うなぁって。それと、レイドの思い出のお陰かな??」


「でも、俺じゃなくて。オルテ先生の発言じゃないか??」



 この場にはいないが感謝しておこう。


 先生。ありがとうございました、と。



「さて!! 天才の私が解いた色に向かうとしますかね!!」



 くるりと振り返り、妙に嬉しそうに髪を揺らしながら赤色の花の下へと向かう。


 背中からも嬉し気な気持ちが伝わってきそうだよ。


 それに対し。



「ちぃっ!! 儂の弟子の手柄が無ければ答えられなかったくせにぃ!!」



 我が師はぎゅっと下唇を噛み、込み上げて来る何かを堪える始末。



「聞こえているわよ――。ここに来てから足を引っ張ってばかりの誰かさんがほざいているわねぇ――。御荷物は口を閉ざしてねぇ」


「何じゃと!?」


「臭くなるわ。道を間違え弟子に迷惑をかけるわ……。ぷぷ――!! なっさけな!!」



 こ、これはいかん!!



「し、師匠!! 駄目ですよ!? もう直ぐ到着しますから抑えて下さい!!」


「ふ、ふんっ!! 分かっておるわ!!」


「あ――。これで問題が終わると思うと清々するわぁ。だってぇ――。御荷物さんが余計な問題を連れて来ないで済むもんっ」



 もんっ。


 じゃあありません!!


 押さえつけるこっちの気持ちも理解してくれ!!



「落ち着け、儂。落ち着くのじゃよ……」



 意外や意外。


 師匠にも自制心の欠片が残っていたようだ。


 わなわなと肩を震わせ、己の中から出でる殺意を必死に抑え込んでいる。


 でもなぁ。多分、直ぐに……。



「レイド――。ほらっ。いこ?? 私達で栄光の終着点に向かうのよ」


「何が栄光の終着点だよ。離れなさい」



 俺の後方へ移動し、腰に己が腕を甘く絡めるお惚け淫魔に言ってやった。



「そんなクソだっさい女なんか放っておいてさぁ。ねぇ――??」


「くすぐったい」



 細い指が背を伝う。



「それにぃ……。優秀な頭脳の持ち主の方がさ、生まれて来る子供も優秀になるとは思わない?? 今なら……しっかりとあなたの子を孕んであげるわ……」


「お、およしなさい!!!!」



 お父さんはそんな風に育てた覚えはありませんよ!?


 甘い吐息をフっと耳に吹きかけて来るものだから声が上擦ってしまった。



「さっきから黙って聞いておれば……」


「ん――?? なぁにぃ?? 御荷物婆??」



 さて、と。今の俺の力で抑えきれるかな??



「儂の弟子に……。触れるなぁぁああ――――ッ!!」



 刹那に九本に増えてしまったモコモコの尻尾。


 その内の一本が俺の体を掴み明後日の方角へと放り投げてしまった。


 地面が無情に非情に。


『さぁ、お前さんは今から激痛を味わうのだぞ??』 と。



 俺に向かって随分とゆっくりとした口調でそう伝えて来た。




「ばごすっ!!!!」



 地面にしこたま腰を打ちつけてしまい目を白黒させる。



 ここに来てからあの二人はずっとこの調子だし……。


 あの人達は協調性って言葉をどこかに置いて来たのかな?? それともまだ習っていないのか。


 いずれにせよ、二人が半径十メートル以内に同時に存在する場合は接近してはいけませんね。



「飛びましたね??」


「あ、うん」



 カエデが隣にちょこんと座り、こちらの様子を窺う。



「避けるな!!」

「あんたが遅いのよ」



「はぁ……。あれが私達の師だと思うと情けなくて泣けてきませんか??」



 緑に囲まれた部屋で暴れ狂う二人を見て大きな溜息を吐き出して此方に同意を求める。



「まぁ……うん。多くは語らないけど、ね??」


「ほとぼりが冷めるまで。若しくは、あの御二人の体力が尽きたら向かう??」


「あの二人の体力が尽きる訳ないだろ。アレクシアさんが待っているし、直ぐに出発だ」



 立ち上がり、尻に頑張ってしがみ付く森の土を払って言ってやる。



「よし!! 皆、出発しよう!!」


「はいは――い!!」


「はぁ……。やっと到着かぁ。お腹空いた……」


「おいおい。あたしのパンをふんだくっておいて、それは無いだろう」


「あれは……。そう!! 気休めよ!!」



 各々が重い腰を上げて赤の花へと向かい始める。


 一方。



「死ねぇぇええ――!!」


「うわ、くっさ。ちょっとあんた、まだ臭いんですけど??」



 暴れ狂う二人は置いて行きましょうかね。


 正解の色も知っている事ですし。


 と、言いますか。今の攻撃、良く避けたな。



「先生――。行きますよ――」



 呆れ声でカエデが一応、出発の意を伝える。


 俺も一応言っておこうかな。後で怒られたくないし。



「師匠。行きますよ――」



「…………ふんっ。戯れはここまでじゃな」

「そうねぇ。いい汗かいたし」



 あれが準備運動と言うのかい??


 目で追えるのがやっとの戯れでしたよ??



「ねぇ、レイドぉ。汗かいちゃたし、私と一緒に水浴びしていかない??」


「結構ですっ!! 先を急いでいますので!!」



 軽い運動の汗で濡れて大変ケシカラン胸元を悪戯に見せつけて来るのでそそくさと退散してやった。



 これ以上、厄介事に巻き込まれるのは勘弁願いたいのが本音ですからね!!



 さぁ、漸く目的地に到着だ!!


 アレクシアさん、もう直ぐ帰りますからね!! どうかそれまで御体御自愛下さいませ!!



 絡みつこうとする横着で柔らかいお肉を振り払い、皆に続いて新たに現れた通路へと大股で進んで行ったのだった。



お疲れ様でした。


皆さんの考えは当たっていましたか??


プロットの段階で難し過ぎてもいけませんし、簡単過ぎてもいけない。その微妙な塩梅の問題制作に物凄く苦しんだのは良い思い出です。


もう間も無くこの長編は終了するのですが、現在次の御使いのプロットを誠意制作中です。


日常編も長く、そして御使いも長くなってしまう構想なのでどうしたものかと悩んでいるのが本音ですね。



そして、ブックマークをして頂き有難う御座います!!


軽い夏バテになっている体に嬉しい励みとなりました!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

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