第百五話 与えられた最後の課題 ~読者様へ贈る細やかな挑戦編~
お疲れ様です。
本日は趣向を変えて問題編からの投稿になります。
俺達の前に次々と現れる色の取捨選択の数々、それを勘のみで選んで行くのであれば途方に暮れてしまう膨大な数の選択肢が生まれてしまう訳なのだが。
正解である補色の色さえ理解していればどうという事は無い。
所々記憶が曖昧な色の補色はカエデとエルザードが代わりに答えてくれたので難を逃れたが……。
こうも順調だと逆に不安になるのは俺だけだろうか??
好事魔多し、じゃないけども。順風満帆な時程、慎重に凪と天候を見定めて目的地へと向かうべきなのです。
到着地点までの完璧な道標が示されているのに、余裕綽々に構えて足元を掬われたらそれこそお笑い種だよ。
そしてその不安の種からぽっと芽を咲かせてしまいそうな雰囲気が緑の通路内には漂っていた。
「何じゃ、答えが分かっておるのなら余裕じゃのぉ」
「ねぇ――。ユウ。そのパンちょっと齧らせて」
「はぁ?? さっき食べたばかりだろ」
「ふふ――ん。あ!! この花綺麗だよ!!」
何人かはお気楽道中なので気が気じゃない。
ここは一つ、弛んだ気持ちを引き締めて頂きましょうかね。
「ここではぐれたら一大事だ。ちゃんとついて来いよ??」
隊の後方で陽気な声を上げる赤き龍へと言ってやった。
「大丈夫だって――。も――らいっ!!」
「あぁ!! 返せ!!」
お願いしますから集中して下さい。
此度の目的は楽しい楽しい森の中の遠足じゃなくてアレクシアさんを救う手立てを請いに来たのですよ??
アイツは絶対にその目的を履き違えているぞ……。
「あらふぁぁん……。もいひぃ――」
ユウから奪ったパンを美味そうに食み、目尻をトロンと下げている愚か者を捉えていると悲しい溜め息が出て来てしまった。
「いっその事、はぐれてしまえばいいのですわ。どうせ色の順番もろくに覚えていない事ですし。レイド様と一緒に過ごす時間が増えて一件落着ですわぁ」
「はぐれたら悪戯に進んで来そうだろ。森を壊しかねないし……。後、歩き難い」
「ふふっ、レイド様は恥ずかしがり屋さんですわね」
右肩にそっと頭を乗せるアオイの頭を優しく押し返してあげた。
ここまで赤紫、赤みの橙、黄みの橙等々。
驚く程順調に正解を重ねている。そして次が七つ目の部屋だからマウルさんの問い掛けも最後って訳だ。
その甲斐もあってか、小隊の雰囲気は頗る良好なんですよねぇ。
「そう言えば、カエデ」
俺の前方をスタスタと軽快な足取りで進み続ける彼女の小さな背に話し掛けた。
「何です??」
「カエデは補色の事、どうやって知ったの??」
「王立図書館の本から知識を得ました。興味をそそる内容でしたので思わず食い入る様に読んでいました」
ふむ、大方予想通りってとこだな。
「因みに。本の題名は??」
俺みたいに料理の本かしらね??
「色彩とその効果、ですね」
うぅむ……。何とお堅い内容の題名だ。
例え目立つ色の表紙だとしても間違いなく俺は手に取らないだろう。
「お堅い本ばっかりじゃなくてさぁ。偶には砕けた本も読みなさいよ」
カエデの隣で歩くエルザードが彼女の頼りない肩をちょんと突く。
「砕けた?? 例えば、どんな内容です??」
「そうねぇ。例えばぁ裸の男女がぁ……」
「結構です」
カエデの厳しい口調が如何わしい言葉の流れを刹那にプッツリと遮断してしまった。
間髪入れずに突っ込むねぇ。師弟関係の深さが垣間見えた瞬間ですよ。
まぁ……。こんな下らない事で息の合った姿を見たくは無かったが。
「ん!? おぉ!! 見えて来たぞ!!」
後方のユウから陽性な声が此方に届いたので茶色の大地から正面に視線を移すと。
まるで春の陽気にも似た柔らかい光が俺達を誘う様に手招きをしていた。
優しい光を捉えると胸を撫で下ろし、その光に誘われ軽い足取りで光の下へと向かって行く。
「とう!! 到着っ!! さぁ……。レイド!! お次はどこが正解かな!?」
一番乗りで部屋に到着した狼さんが四つの足を楽しそうに動かして部屋の中を駆け巡る。
陽性な感情を惜し気も無く醸し出す狼とは対照的に、補色の正解を知っている俺達は一様に顔を顰めてしまった。
あ、あれ?? どういう事だ??
「ねぇ!! 早く選びなさいよ!!」
狂暴龍の咆哮が正解である選択肢を早く答えろと急かすのだが。
正面に緑、右に赤、左に青、そして後方は紫。
「無い……。よな??」
「はい。紫の補色である黄緑色はありませんね」
カエデと肩を並べて四方の色を見渡すがどこにもその存在は確認出来なかった。
一体、どういう事だ??
『ほっほっほっ――!! どうやら苦戦しているようじゃな??』
俺達の様子を見越してか。
マウルさんの声が大部屋に響く。
「ちょっと。正解の色が無いんだけど?? あんた何したのよ」
エルザードが顰め面で辛辣な言葉を宙に放つ。
『そう急くな、混沌。そこの男、良くぞ補色の事に気付いたのぉ』
「どういたしまして」
宙へ向かって軽い会釈と共に頭を下げる。
『このまま続けても良かったが……。最後はもっと思考を凝らして貰おうと思ってな。儂からのお茶目な贈り物じゃよ』
『余計な事を……』
この場にいる全員が同じ思いで宙を睨んだ。
『駄目じゃよ――。睨んでも』
「はぁ……。分かったわ。下らないおふざけに付き合ってあげるから早く問題を出しなさい」
『混沌よ。お主はもう少し年上を敬う事を覚えろ。昔からまっったく変わっておらぬでは無いか』
何となくは想像出来たけど、エルザードのそういう所は変わっていないのか。
人は生まれた環境下で性格が形成されると良く聞く。
つまり、淫魔の里は無秩序且無頼漢が跋扈する所なのでしょうかね。お邪魔せて頂く際には細心の注意を払って足を踏み入れよう。
「五月蠅いわねぇ。捻り潰すわよ??」
『こわやこわや……』
「マウルさん。問題をお願いします」
このままでは下らない話の堂々巡りと考えたのか。
カエデが問題提起を促した。
『よし!! それでは最終問題を発表する!!』
さぁ、これを解けばマウルさんの下に到着出来るぞ。
気を引き締め、彼から提示される問題を受け取る姿勢を整えた。
『最終問題は……』
「「問題は??」」
マイとルーがゴックンと生唾を飲み込み、その時を待つが……。
『――――。えっと、何じゃったっけ??』
意外とお茶目な森の賢者様から緊張感漂うこの場に不釣り合いな惚けた声が響いてしまう。
これには流石の俺も思わずその場でずっこけてしまいそうだった。
こんな時にまで茶目っ気を出さなくても宜しいですのに……。
「テメェ!! 無意味な間を作るんじゃねぇ!! 本気で尻を蹴飛ばすぞ!?」
そこまで怒る必要な無いと思いますけど、無意味な間だけは同意できますね。
『おぉ!! そうじゃ!! 問題は一度しか言わん。良く聞くのじゃ。コホンッ!!』
はぁ、やっと問題にありつけるな。
この無駄なやり取りでどれだけ時間を浪費した事やら……。
『青き深淵に向かう七人の勇敢なる戦士達。七人の戦士達の中で一番初めに消え去りし者を救え』
青き深淵。七人の戦士……。
一体何を指しているのだろう。
「助言はありませんか??」
要領を得ない問題を受け取り、宙へ向かって請うた。
『助言?? ん――。そうじゃなぁ。こことそこでは見え方が違うとでも言おうか』
見え方??
視点、の話なのでしょうかね。
「ちょっと。それだけ??」
エルザードが腕を組み、顔を顰めて言う。
『そうじゃよ――。後は知恵を振り絞って正解に辿り着け。色を間違えたら振出しに戻るからの。努々忘れぬ様に。それじゃ、首を長くして待っておるぞ――』
「あ、ちょっと!!」
エルザードが引き留めようとしたが、それ以降彼の声は響く様子は全く無かった。
さぁ……。最後にまた厄介な問題が提示されたな。
マウルさんから受け取った問題を頭の中で細分化させて、正解へ繋げる為に解体と構築を開始。
しかし、それでも文字はその意味のままでどの色が正解なのか。はっきりとした正解は浮かんでこなかった。
それはこの場に居る者全て等しく当て嵌まり、皆一様にして難しい顔を浮かべていたのだった。
お疲れ様でした。
以前のお化け屋敷編ではありませんが。何色が正解なのか、考えて下されば光栄です。
現在解答編を執筆中ですので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。