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第九十四話 森の賢者の所在地

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 アレクシアさんの状態、そして師匠が仰っていたやっかいな話。


 この両者が胸の中に得も言われぬ不安感の芽を咲かせてしまい、一抹の不安を抱えたまま。心休まる爽やかな木の香りが漂う階段を降りて一階へと戻る。


 そして階段を降りて屋敷の入り口の正面、少し古ぼけた木の扉の前でピナさんの歩みが止まった。



「ここが大部屋になります。どうぞお入り下さい」



 両開きの扉に彼女が手をかけると木の温もりを感じさせてくれる音が奏でられ扉が開かれた。



 大部屋の中に足を踏み入れて先ず目に入って来たのは、中央に置かれている広い円卓の机だ。


 机を囲む様に沢山の椅子が置かれており、この部屋はどういった機能を有しているのか一目瞭然であった。


 部屋の奥の壁際には背の高い本棚が立ち並び、本や紙の束が整然と並べられており中には相当古い物も見受けられる。


 左手側には窓が備えられており、冬の温かな陽射しが小さく部屋を照らす。



 そして、その窓際に一人の壮年の男性が物静かに目を細めて外を見つめていた。



「……」



 長い白髪の髪が彼の生き様を現し、柔和な目付きが人に好印象を抱かせる。


 漆黒の服に身を包む彼が静かに振り返りこちらを真っ直ぐ捉えた。



「おや。お客様、ですか??」



 小さくも、しかし耳にはっきりと残る声色で話す。



「ランドルトさん、申し訳ありません。私の独断で彼女達をここへ招きました。どうしても女王様……。ううん。アレクシアの容体を一刻も早く治療してあげたかったので……」



「構いませんよ。おぉ……。イスハ様とエルザード様ではありませんか」



 二人を捉えると柔和な目が更に丸くなる。



「久しいのぉ、黒翼こくよくの騎士。元気じゃったか??」


「お陰様で生き永らえておりますよ」


「師匠。お知り合いですか??」



 師匠へ小さく耳打ちして問う。



「女王の身の回りの世話を行う執事じゃよ。先代と会った時以来じゃなぁ」


「では、アレクシアさんのお母様の代からの執事さんなので??」


「そうですよ。申し遅れました。ランドルト=グリファンと申します」


「レイド=ヘンリクセンと申します」



 お手本にしたくなる程の綺麗なお辞儀をするので此方も慌てて彼に倣った。



 物腰柔らかな所作、初対面でも否応なしに好感を抱かせる優しい声色と面持ち。


 紳士とは彼の様な事を指すのだと数舜で理解出来たのだが……。瞳の奥には勇士足る強き魂が宿り。武に通じ、その道を極めんとする者が持つ空気を身に纏っていた。



 この人……。かなり出来るぞ。


 服の下に隠された彼の肉体構造をじっくりと観察していると。



「貴方様が……。そうですか。いつぞやは里をお救い頂き誠に有難う御座いました」



 此方の視線の意味を理解したのか。


 手合わせの機会はまた後程に、と。


 じゃれようとする子供をあやす様に、やれやれといった感じで少しだけ口角を上げてくれた。



「い、いえ。自分は何もしていませんので……」



 容易に俺の気持ちを見透かされてしまい慌ててランドルトさんから視線を外し、己の羞恥を誤魔化す様に頭を掻く。



「そうよ。私達が快刀乱麻を断つ活躍で皆を正気に戻したんだから」



 得意気にフフンっと鼻を鳴らしてマイが小さな胸を張る。



「皆様のお陰で里は救われました。まだ恩を返しきれていないのに……。再び頼る形になってしまい誠に申し訳ありません」


「アレクシアさんは自分達にとって大切な友人ですからね。その彼女が病に臥せているとなれば手を差し出すのは当然の事ですよ」


「ふふっ、左様で御座いますか。――――。ふむ……」



 柔和な目付きが刹那に鋭い眼光を帯びて俺の体に突き刺さると。



「お噂通り……。中々に素晴らしい心と体の持ち主で御座いますね」



 どうやらランドルトさんのお眼鏡に適ったのか。及第点と頷ける御言葉を頂けた。



「あ、有難う御座います」



 目上の人に褒められるのは慣れていない所為か。体温が数度上昇してしまい、何だか頬が熱くなってきた。



「良き心には良き友が現れ。良き体には良き武が備わる。素敵な指導の賜物という奴ですかな??」


「ふふんっ。まぁのぉ――。他の誰でも無いこの儂が!! 手取り足取り指導しているからのぉ!!」


「あぁ、成程。イスハ様の御指導で御座いましたか。それなら……」



 ランドルトさんの瞳が再び俺の体を捉えると。



「立ち話も何だし。ほら、皆座りましょう」



 エルザードがスパっと会話を切り上げ、遠慮無しに席へ着く。


 時間が惜しいとは言え、もう少ししっかり挨拶くらいさせなさいよね。


 全く、礼儀がなっていないんだから。



「では皆さん。こちらを御覧下さい」



 全員が席に着くのを見届けるとピナさんが近辺の区域を精細に書き記した大きな地図を円卓の上に広げた。



「今、私達は此処にいます」



 地図の下方に印てある小さな点を指差す。


 広大な森の中でここは点としか表せない程矮小な存在か。それだけこの大陸南部に広がる森の面積は広いのだ。



「森の賢者がいると噂されているのは、ここから北上したこの辺りの地点です」



 大まかな位置へ向かって指を動かして行き、彼女の指先が何も無い森の中でその動きを止めた。



「ここってさ。ピナ達の地元なのよね?? だったら上空を飛んでいる時に何か気付くんじゃない??」



 マイが尤もらしい事を言う。



「それが……。全く何も気付かないんですよ。それに、森の賢者が住むと思われる場所は危険を孕んでいる地域ですので。よっぽどの事が無い限り私達は近寄りません」



 これかな??


 師匠が仰っていたやっかいな話って。



「危険?? 野生の熊が住み着いているの??」


「マイちゃんなら狩って食べちゃいそうだよね」



 伝え聞いたあの馬鹿デカイ飛蝗は兎も角、熊程度だったらそうなるだろうさ。



「森の賢者が住むとされる森は……。『食人の森』 と呼ばれ。この大陸でも危険な場所として儂らには認知されておるのじゃうよ」



「しょ、食人?? ちょっと怖いかなぁ??」


「ルー、情けないぞ。気を強く持て」


「私はリューみたいに戦闘馬鹿じゃないもん」



 お嬢さん?? それはちょっと言い過ぎですよ??



「具体的に何がいるのですか?? その食人の森には」



 右隣りに座る師匠へと尋ねた。



「ん――。何んと言ったらよいか……。兎に角、植物が襲い掛かって来ると思えばいいじゃろ」



 端的ですねぇ。


 もう少し相手の姿形の詳細を知りたいです。



「それならピナさん達に協力して頂き、飛行して森の賢者を探せば宜しいのでは?? 態々危険な森を進む事もありません」



 カエデが的を射た発言をする。



「そうしたいのは山々じゃが……」


「その森の賢者が上空から発見されない様に、住処の森中に結界を張っているのよ。しかも、私でも感知出来ない程うす――く。弱々しい奴でね」


「エルザードでも困難なのか??」



 思わず驚嘆の声を漏らして発言元の左隣に視線を送った。



「時間を掛ければ不可能じゃないけど……。今は時間を割く場合じゃないし。魔法の威力は私が断然勝っているけど、知識量は悔しいけど負けているわね」


「先生を越える知識ですか……。興味が湧きますね」



 カエデが興味津々といった様子で話す。


 向上心の塊であるカエデがそれを見逃す訳は無い、か。



「森の賢者。その名はマウル=ストラストじゃ」


「私達より大分年上のふくろうの魔物よ。長生きしている分、知識は豊富。この大陸で一番の物知りと言っても過言じゃ無いわ」


「ふぅん。で?? そのマウルとやらには森を突っ切って行かなきゃいけないのよね??」



 マイが興味津々といった感じで問う。



「そうじゃ。しかも難儀な事に、奴に会う為にはある仕掛けを潜って行かねばならぬじゃよ」




「「「ある仕掛け??」」」




 俺を含む何人かが声を同時に上げた。



「食人の森に到着すると、どういう訳か森の中に別れ道が幾つか出現するの。それの正しい道筋を辿って行くと会えるのよ。そしてぇ、危険な植物は分かれ道を進んだ先に居るわ」



 森の中に道筋??


 縦横無尽に広がる森に別れ道が突如として現れるのでしょうかね??



「奴が作り出した森の道。その正しい道筋は虹色を辿って行けば到着するのじゃよ」


「虹、ですか」


「うむ。レイド、虹は何色じゃ??」



 俺の言葉を受けた師匠が問うてくる。



「えっと……。七色、ですね」



 頭の中に残る虹の姿を確認して答えた。



「そうじゃ。その外側の色を順に辿って行けば自ずと辿り着こうぞ」



 ふぅむ。


 何となく分かって来たぞ。


 マウルさんに会う為には食人の森と呼ばれる森へ赴き、突如として現れる別れ道を正しい順序で進み。危険な植物を撃退しつつ進まなきゃいけないんだな。



 師匠が仰っていた通り確かにやっかいな話だ。



「何偉そうにふんぞり返っているのよ。あんた、正しい順序言えるの??」



 俺越しにエルザードが師匠へ鋭い視線を送る。



「当然じゃ。えぇっと……。最初はぁ……」



 師匠、お願いします。


 分かれ道に到達してからうろ覚えで進まないで下さいよ??



「ん――……。あ!! 赤じゃ!!」



 恐ろしい面持ちと腕組みを解除して、ハッとした顔で思い出してくれる。



「いきなり間違える程馬鹿じゃないわよね――。じゃあ次は??」


「この腐れ脂肪が……。次は勿論、き……黄色じゃ!!」



 間違いない!!


 そんな表情で仰る。



「はい、不正解――。正解は橙でした――」


「誰にでも間違いはあるわ!!」


「それから順に、黄、緑、青、藍、紫ですね」



 カエデが静かに話す。



「そ。流石私の生徒ね――。どこぞの誰かと違って優秀な頭脳の持ち主で助かるわ――」


「ぐ、ぐぬぬぅ……!!」


「し、師匠。堪えて下さい」



 今にも淫魔の女王様へ噛みついてしまいそうな狐の女王様を必死に宥める。


 ここで一戦が勃発したら、折角修復した屋敷があっと言う間に解体されてしまいますからね。



「色を辿るのは分かったけどさ。どんな感じで色を見付けるんだ??」



 要領を得ない感じでユウが首を傾げる。



「森を進んで行くと四方向に別れる道が現れるの。その方向に色の違う花が咲いていてね?? その色を目印にするのよ」



 あ、そういう事か。



「間違えたらどうなるんだ??」



 眉間に皺を寄せる師匠とは違い、若干得意気に舌を回すエルザードへ問う。



「一番初めの別れ道に戻されるだけ。…………、確かね」


「確かって。でもまぁ、答えを知っているし大丈夫だろう。森の植物に警戒を払いながら進めばいいんだな??」



 俺一人なら兎も角。これだけの実力者がいるのだ。


 余程の事が無い限り間違いは起こらないだろうさ。



「そうよ。でも、安心して?? レイドが危なくなったら私が焼き払ってあげるからぁ」



 左腕に男の性をどこまでも擽る柔らかさの双丘をやんわりとくっつけてしまうので。



「燃え広がる恐れがあるのでお止めください」


 右手で彼女の体をそっと押し退けてあげた。


「んもぅ。冷たいわね……」


「師匠。その森へはここから徒歩何日で到着します??」



「んむぅ……。二日あれば十分じゃな」



 それ程離れていないのか。これは朗報だ。



「マウルから情報を入手。その後、空間転移の魔法を使用して此処へ戻る。以上が大まかな行程じゃ」


「分かりました。では、準備を整えて早速出発しましょうか」


 善は急げってね。


「了解です!! 食料と天幕はこちらでご用意致しますので。三十分後に、東門の外で落ち合いましょう!!」


「ありがとうね。色々用意してくれて」



 希望に満ちた表情を浮かべるピナさんへ話す。



「これくらい当然です!! では、早速用意してきますので!!!!」



 そう話すと慌ただしく足を動かして部屋を出て行ってしまった。


 ピナさんも俺達同様、アレクシアさんの事を大切に思っているのだな。


 そんな足運びであった。



「はぁ――……。なぁ――んか怖いよねぇ」



 気が乗らない。


 そんな表情で円卓に顎を乗せ。情けなく眉が垂れ下がっているルーが何とも無しに話す。



「そう?? 私は不謹慎かもしれないけど、ワクワクしているわよ?? ほら、私の生まれ故郷の森に行くみたいじゃない??」


「あそこと比較してもなぁ……」



 確か……。


 マイの故郷、ガイノス大陸には常軌を逸した生物がウヨウヨと生息していると聞いたな。


 幸か不幸か。


 龍の力の暴走によって意識が無かったのでそれを体験する事は無かった。



「先生。その森には具体的にはどんな植物が生息しているのですか??」


「ん――。美味しそうに生血を啜る奴でしょ?? それとぉ、体を溶かして食べちゃう奴もいるわねぇ」



「ほらねぇ。絶対危ない所だと思ったんだよ……」



 ルーががっくりと肩を落として机の上に溶け落ちてしまった。



「ここまで来たら腹を括れって」


「そ――そ――。私達に敵う者なんていやしないんだからさ!!」


「その自信が羨ましいよ……」



 明るく話すユウとマイに対して溶け落ちたまま答える。


 マイ達程明るく、意気揚々と構えは出来ぬが……。


 アレクシアさんを救う為だ。


 多少の危険は承知の上。


 それに、俺を救ってくれた恩を返す時が来たのだと思えば暗い気持ちも晴れるであろう。


 もう少しだけ我慢して下さいね?? 直ぐに朗報を持って帰って来ますから。


 気持ちを改めて引き締めると天井を見上げ、床に臥せているアレクシアさんへ向かって心の中でそう呟いた。
























 ◇




 意気揚々と屋敷を後にした師匠の後に続いて大通りを南下。そして待ち合わせに指定された場所を目指して交差する通りを東へ向かって進む。


 その道中、見知った里の者達が俺達の姿を確認すると挨拶がてら一言二言声を掛けてくれた。



『もう体は大丈夫なのですか??』



 俺の体を心配してくれる笑顔が眩しい青年。



『以前は有難う御座いました。今日は一体どんな用件で??』



 俺達がどんな一件で来たのかを確認する若い女性。


 女王の容体は知れども、その問題を解決する為に俺達がここに来たのは知らぬようであった。


 別に恩を振り翳す訳じゃ無いけど、アレクシアさんを救う手立てを探す為に北へ向かいます。普段通りの口調でそう説明すると皆一様に目を丸くしてこう答えた。



『『あ、あそこの森に行かれるのですか??』』 と。



 地元の者、しかも人間では無く魔物が目を丸くする程。


 里の人達の反応を伺い近付く事さえも億劫になる危険な場所であると、疑念から確信へと変わった。



 俺達は今から危険が漂う食人の森へと向かおうとしている。普通の精神を持つ者であるのならば進んで危険に近付こうとはしないだろう。だが、俺達にはそこへ向かわなければならない重い使命が課せられているのだ。



 存在するかどうか怪しい怪生物に尻窄む。恐怖で腰が引ける。己の命が惜しい。



 そんな泣き言を言っていたら人は救えない。


 俺達の行動如何で彼女の命運が変わってしまうのだと己に強く言い聞かせ、気持ちを強く引き締め。集合場所である東門の外でピナさんを待ち構えていた。



「お、お待たせしましたぁ」


「お――。また多い荷物じゃのぉ」



 大量の木箱に大人数用の天幕の布、そして弓と矢に剣。


 我々は今から戦地に赴くのですか?? と。


 大粒の汗を額に浮かべるピナさんを先頭に里の人達が首を傾げたくなる量の物資を協力して運んで来てくれる。



「お、おっも!!」



 大量の剣を持つピナさんが歩く度に鉄同士が擦れ合う甲高い音が鼓膜を鋭く、細かく振動させた。



「弓と矢。それに剣は要らぬ。置いていけ」


「え?? あ、そうか。皆さんは継承召喚でしたっけ?? 武器を召喚出来るのでしたよね??」



 よっこいしょ、と若い者には似合わぬ声を上げて草むらの上に荷物を降ろして額の汗を拭う。



「そうそう。食料と天幕だけでいいわよ――??」



 積まれて行く荷物をのんびりとした姿勢で眺めているマイが口を開く。



「分かりました。では、皆さん運ぶ準備に取り掛かって下さい!!」


「了解しました」



 だらしない姿で休む彼女とは真逆の所作で率先して荷物へと歩み寄り、重そうな木箱に手を掛けた。



「そこの木枠に括り付けて、背負って移動します」



 普段よく見かける……。というか頻繁過ぎて若干見飽きた木枠に幾つもの木箱を乗せ、ずれ落ちない様に固定していくと。



「手慣れていますねぇ」



 里の若い女性が感心した声で此方の手元を観察していた。



「仕事柄何度も扱っていますので。ん……、よっと!!!!」



 体の前で縄を固定して脚力を解放して立ち上がる。


 おぉ、結構重たいな。



「これの中身って何です??」


「それは……。蜂蜜ですね」


「蜂蜜っ!?!?」



 この単語に一瞬で絡んできたのは言わずもがな。


 俺の背後に飛び付き、木箱の中身を何とかして見ようとあれこれ画策。



「ど、どこの木箱!? 私の蜂蜜ちゃんは何処にいるの!?」


「おい、揺れる」



 このままでは出発前に全ての蜂蜜を奪取される可能性があるので、普段のそれよりも数段声を低くして背にしがみ付く横着者へ注意を放ってやった。



「う――ん。匂いも、姿も見えないわねぇ……」


「零れない様にしっかりと瓶に蓋を被せてありますからね。本日の夕食に出す予定ですよ」



 少しばかり離れた場所からピナさんが話す。



「夜、か。我慢出来るかしらね??」


「数時間前にあれだけ食ったんだ。十分もつだろ??」


「冗談。歩くんだから直ぐにお腹が減るわよ」



 でしょうねぇ……。


 任務中、食事を終えて移動していても絶えず何かを食らおうとあれこれしているし。


 こいつにとって蜂蜜は寂しい口を誤魔化す為に最良の食材なのだろう。



「我慢しろ」


「夕食になったら私が一番に食べるんだからね!? 絶対だからね!?」



 周囲から送られる非難の視線、そしてこれ以上強請っても無意味だと理解したのか。漸く木箱から下りてくれた。



「おぉ――!! ユウちゃんの荷物一杯だね!!」


「自分の荷物に加えて皆の荷物を運ばなきゃいけないからなぁ。ってか、ルーはもう少し多く持てよ」



「あら?? カエデ。いつもより少し多くありませんか??」


「気分転換」



 北に存在する食人の森へと向かう為、各々が身支度を整えていると。




「――――。皆さん、準備は整いましたでしょうか??」



 ランドルトさんが静かに佇みこちらを見つめていた。



「あ、はい。間もなく出発します」



 いつからそこで立っていたのだろう。


 全く気配を感じ無かったぞ……。



「そう、ですか。一度ならず二度まで私共に手を貸して頂き誠に有難う御座います。里の者一同を代表して礼を述べさせて頂きます」



 言葉を切ると同時にお手本にしたい位の綺麗な角度で頭を下げる。



「頭を上げて下さい!! アレクシアさんは自分達にとって大切な友人です。それに彼女には以前助けて頂いた恩もありますので……」



 慌てて彼にそう話した。



「ふふ、アレクシア様が仰っていた通り。お優しい方ですね」


「お節介の塊みたいな奴なのよ」



 マイが俺の肩に拳をコツンと軽く当てる。



「誰がお節介だ」


「皆さ――ん!! 出発しますよ――!!」



 龍へ苦言を吐くのと同時。


 北の森へと続く畦道の先からピナさんがこちらへ向かって叫んだ。



「分かりました!!!! では、行ってきますね」


「くれぐれもご用心して下さい。我々も余程の事が無い限り近付かない危険な場所ですので……」



 えっと……。それは今話す必要はありましたか??


 まぁ危険な場所なのは重々承知しているが。森の恐ろしい噂を知る地元民でありそして武に通ずる人から直接言われると信憑性が増すというか……。真実味があるというか。


 出来ればランドルトさんの御口から直接耳にしたくはありませんでしたね。



「おらぁ!! 行くわよ!!」



 はいはい。


 こいつには杞憂なんて言葉は無用の長物なのだろう。


 肩で風を切り、威風堂々と遠慮なしに道を進んで行く。


 師匠やエルザードもいるし。それに頼れる仲間達がいるのだ。


 大船に乗った気持ちで、嵐が待ち受ける大海へ向かって漕ぎ出すとしますか!!



 胸の中で渦巻く不安を懸命に払拭させ。



「ねぇ――。ユウぅ――……。私ぃ、クッキー食べたいなぁ――」


「その辺の道に生えてる草でも食ってろ」


「なっ!? 何よ!! ちょっとくらい分けてくれてもいいじゃん!!」



「さぁ皆さん!! 私の後について来て下さいねぇ!――!」



「何だか頼りない道案内人ねぇ」


「貴様よりかはマシじゃろ」


「はぁっ?? 年齢詐称婆はついて来ないでよ。臭くて鼻が曲がりそうなんだけど」


「き、き、貴様の鬱陶しい女の匂いの方が百倍臭いじゃろうが!!!!」



「「はぁ――……」」



 五月蠅く喚く指導者二人の生徒である俺と海竜さんが仲良く長い溜息を吐き、気苦労という負の感情によって重みを増してしまった荷物を背負い。まるで鉄球を括り付けられた様な重たい足を引きずって命の危険が待ち構えている恐ろしい森へ向かって行くのであった。



お疲れ様でした。


さて、本編でも少し触れた通り。彼等は危険な森へと旅立つ訳なのですが……。


その中で読者様達にも楽しめる様にとある仕掛けを施してあります。彼等と一緒に是非ともその仕掛けを楽しんで頂ければ幸いで御座います。



いいね、そしてブックマークをして頂き誠に有難うございました!!


執筆活動の嬉しい励みとなりました!!


所によっては暑い日が続いていますので体調管理には気を付けて下さいね。


それでは皆様、お休みなさいませ。

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