第九十一話 羞恥に塗れる訓練場 その一
お疲れ様です。
本日の投稿になります。
それでは御覧下さい。
伊草の香りと山の新鮮な空気が絡み合った爽やかな香りが鼻腔を擽り深く眠っていた体の覚醒を促す。
しかし、我儘な体は温かい布団の中から決して動かないぞと駄々をこねてしまう。
俺の頭を優しく撫でて早く起きなさいと覚醒を促す母なる自然、もっと眠っていても良いのよと温かい抱擁で甘やかす温かい布団。
心を惑わしてしまう相対的な二つの反応に対して俺が取った行動は……。
「ふわぁぁ……。起きますかね……」
体温で温めた柔らかい空気が籠る布団を蹴り飛ばして上体を起こした。
早朝の冬の山の空気は想像以上に冷えて思わず筋肉が硬直してしまう程だ。
誰に話し掛ける訳でも無く独り言をポツンと漏らして襖を開けると。
「「「……」」」
六名の女性が心地良い眠りを享受する大部屋へと静かに足を踏み入れた。
ふむ、皆さん中々に贅沢な睡眠を摂取していますね。
「すぅ……。すぅ……」
恐ろしい抱き癖のあるユウはキチンと布団を被って眠り。
「んっ……」
その隣で眠るアオイも彼女と然程変わらぬ姿勢で甘い吐息を漏らして熟睡。
「……」
分隊長殿の寝相は宜しいのですが、有り得ない寝癖の片鱗が既に現れ始め。
「んぎゅぅ……」
「ふっ……。んっ……」
雷狼の御二人の寝相も年相応の女性として相応しいものであった。
昨日は然程激しい運動はしていなかったけど、それ相応に疲れが溜まっているからゆっくり眠っているのでしょうね。
さて、けたたましい音を奏でる世話焼き狐さんが訪れる前に顔でも洗って眠気を吹き飛ばしましょうか。
足音を立てずに平屋の外の井戸へ向かおうとすると。
「ンガラッピィ……」
とんでもない寝相の女性の姿を捉えてしまった。
だらしなく開いた口元からは粘度の高い液体が零れ落ち、その口元からは思わず首を傾げたくなる摩訶不思議な音が奏でられ。
「ウンガッ……!!」
冬の寒い季節だというのに素敵な温かさを提供してくれる布団を蹴り飛ばし、ガリガリと己の腹を掻く始末。
蹴り飛ばされた布団の行方は。
「ん……。んんっ……」
大変寝相の良いミノタウロスの御姫様の顔面であった。
突如として発生した息苦しさにくぐもった苦悶の呼吸音が布団越しに聞こえて来る。
コイツの寝相の酷さは重々承知していたが、まさか此処までとは。
龍の攻撃の範囲外に足を止めてその様子をじぃっと監視。
「グワファッ……。ふぁらぁん……」
何か美味い物でも食っている夢でもみているのか。口の中の虚空をむにゃむにゃと噛み、満足のいく量と味だったのか。
「フヒヒッ……」
ニィっと柔らかく口角が上がってしまった。
う、む……。
気持ち悪いと言えば気持ち悪いし、可愛いと思えば可愛く見える寝相ですね。
これ以上監視していたら予想外の攻撃が襲い掛かって来る恐れもあるのでさっさと外へ出ましょう。
体に甘く絡みつく女の香を振り払い、冷涼で新鮮な山の空気が漂う外へと躍り出た。
「いい天気だな」
本日も快晴なり。
山の天気は変わり易いと良く耳にするが、此処ではそれは迷信の類なのかもしれない。
雲は彼方へと消え去り、早朝に相応しい薄い青がどこまでも続く。
そして東からは太陽がのそのそと起き上がり始め、快活な朝の挨拶を俺に交わしてくれていた。
「…………。つめてっ!!」
井戸から水を汲み上げて桶に移し、そして勢い良く顔を洗うと数舜で目が醒める。
平地の水と山の水はこうも違うのか。
でも……。冷たくて美味い。
乾いた喉を潤してご機嫌な朝の準備を整えていると背後から足音が近付いて来た。
「――――。おはよう、主」
「お――、リューヴ。おはよう」
灰色の髪を靡かせ、まだ少し眠さの余韻が残る表情でこちらへと歩いて来る。
「顔、洗うか??」
「あぁ。そうしよう」
躊躇なく水に手を入れて端整な顔に水を掛けていく。
「ぷはっ。ふぅ……。ここの水は良い」
「ほい、手拭い」
「むっ。すまぬな」
濡れた顔を拭き、大きく息を漏らすと拭き残しの水滴が白い肌を滑り落ちて細い顎の先端へと伝う。
それは重力に引かれ、音を立てずにそっと静かに零れ落ちて行くが。俺が見ていたのは矮小な水滴では無く彼女の横顔であった。
横にすっと線を引く整った眉、美しい曲線を描く頬に丸い瞳は良く似合っていた。
翡翠の瞳が朝日を煌びやかに反射すれば世の男は誰でも魅入ってしまう事であろう。
これを端的に言い表せば、朝が良く似合う横顔ですね。
「どうした??」
『貴女のカッコいい横顔に見惚れていました』
「え?? あ――……。うん。今日の予定を考えていた」
急に振り向くものだから心の言葉とは真逆の言葉を伝えてあげる。
いきなり振り向くのは反則ですよっと。
「そう言えば……。昨日の夜は散々だったようだな」
「散々どころかもう滅茶苦茶だったよ。湯は静かに浸かりたいってのにアイツらと来たら……」
そう。昨晩の爪痕はまだ俺の体にしっかりと刻まれている。
地面にしこたま打ちつけた臀部と、恐ろしい飛翔速度で襲い掛かって来た石突によって顎がまだズキリと痛むのだ。
一晩寝れば回復するだろうと思っていたが……。深紅の龍の力を甘く見過ぎていました。
「はは。それは災難だったな??」
「災難じゃなくて厄災だよ。それより、昨日のルーとの組手はどうだった?? 俺は自分の事が手一杯でそっちの様子が見られなかったからさ」
師匠との組手は刹那にでも油断すると死に直結してしまいますからね。
他所の心配よりも自分の生命の危機を優先した結果なのです。
「中々充実していた……。と、言いたい所だが。ルーの奴め。ひらひらと躱してばかりで拳が肉の感触に飢えてしまったぞ」
「そりゃぁ、リューヴ相手だし。誰でも真正面から向かおうとは思わないよ」
井戸の前から訓練場へと続くなだらかな階段を降りながら会話を続ける。
「だが、アイツは避けるのが各段に上手くなった」
「へぇ。初めてリューヴ達と出会った頃より??」
「勿論だ。アオイ程では無いが、避ける事に専念した奴の動きを捉えるのは難しい事だろう」
ほぉ。
普段はお茶らけているが、やるべき事はちゃんとやっているんだな。
「俺の実力じゃ当てるのはもう無理かな」
「何を言う。主も驚く程成長しているぞ?? 仲間内で一番成長しているのは主だ。気付かないのか??」
「まぁ……。底辺にいる分、上昇する幅が多いから自然とそうなるんだろう」
訓練場に到着すると体全体の筋力を解して午前の稽古に備える。
ちゃんと体を動かしておかないと怪我の元になるからね。
「謙遜し過ぎだ。体、押そうか??」
「ん。頼む」
地面に腰を下ろし、上体を前に倒しているとリューヴが背後に回ってくれる。
「大体……。イスハ殿の攻撃を食らって翌日には回復して普段通りに動けるのが驚きだ」
俺の上半身をぐいぃぃっと遠慮なく地面へと向かって押し続けて来る。
「頑丈さには定評があるんだよ。ちょ……そこで止めて」
地面に近付くにつれて腰、股関節が徐々に怪訝な顔を浮かべて背後のリューヴへと苦言を呈していた。
「硬いぞ。関節の硬さは怪我に直結する。もっと柔軟に時間を割くべきだ」
「生まれつきこういう体質なの。リューヴはどうなの?? 体は柔らかい方??」
「では、交代しようか」
ちょっとだけ自信あり気な表情を浮かべて地面に座るので、リューヴの背後へと回り背中を両手でゆっくりと押し始めた。
「…………。おぉ」
「どうだ??」
両足を開脚した空間に上半身全てが一切の隙間なく地面に接着。
海の中の狭い場所へ身を隠す蛸も思わずほぅっと唸ってしまう柔軟さだ。
柔らかいを通り越して逆に心配になるぞ、これだけ柔軟だと。
「幼い頃から父上に稽古が始まる前には必ず柔軟をするように指導を受けていたのだ」
「成程ねぇ。ネイトさんの指導の賜物って訳か。ルーも柔らかいの??」
「私程では無いが、少なくとも主よりかは柔軟だな」
左様で御座いますか。
「関節を柔らかくする稽古も受けなきゃなぁ」
「いきなりは無理だぞ?? ゆっくり、体に馴染むように日々行うといい」
「参考にさせて貰うよ」
これまた日々の精進、か。
龍の力の制御、魔力の使用、極光無双流の稽古。そして新たに課せられた柔軟。
克服しなきゃいけない課題が山の様にある。これじゃ体が幾つあっても足りないよ。
「おはよさ――ん!! 朝から精が出ますなぁ」
「おはよ!!!! リュー達、早いねぇ」
「ふわぁぁ。あ゛――……。ねっむ……」
二人で柔軟を引き続き行い、リューヴの柔らかさに舌を巻いていると遅れてマイ達が朝の気怠さを引きずり訓練場へとやって来る。
「おはよう。ってか全員眠さ全開だな??」
「そうですか?? 結構清々しい目覚めでしたけど??」
毎度おなじみ、藍色の髪の毛があらぬ方向を向いているカエデが話す。
「そ、それならいいけど」
いつも思うのですけどその寝癖、一体どうなってるの??
「お――。皆の者、揃っておるな??」
「師匠、おはようございます」
素敵で不思議な寝癖から視線を外し、姿勢を正して我が師匠を迎える。
母屋の部屋に放り込んだ時と同じ道着の姿だが、寝癖は無く普段通り華麗な姿そのままであった。
「「「おはよう――ございま――す」」」
マイの声を中心に気の抜けた朝の挨拶が訓練場にぬるりと響く。
「いつも伸ばすなと言っておるじゃろう。戯け共が」
気怠さを隠しもしない面々に師匠が呆れた声を漏らした。
「師匠。朝の稽古は如何程に?? いつも通り外周を走れば宜しいですか??」
「そうじゃのぉ。今日はちと違う事をしてみるか」
違う事?? 何だろう。
「ほれ。レイド、お主が先ず先頭に立て。後は適当に並べ」
師匠の仰るまま訓練場の外周上で隊列を組む。
「これで宜しいですか??」
「構わんよ。では、今から説明する。先頭を走る者はゆるりと走り、最後尾の者は先頭の者を追い抜くまで全力で走れ。そして新たに先頭へ躍り出た者がゆるりと走る。これを絶え間なく続けろ」
「つまり、最後尾の者が代わる代わる先頭へ向かって走れば宜しいのですね??」
「そうじゃ。耐久力、それと仲間との息の合った行動。両方を鍛えるのにお誂え向きじゃよ」
ほぅ、これは参考になる。
いつかまた訓練生へ指導を施す時がくれば是非とも取り入れてみよう。
「目標は……。先頭に立つのを一人五十回じゃ」
「うげ――。五十回も全力で走るの??」
後方からマイの声が聞こえて来る。
「当然魔法は禁止じゃぞ?? 己の脚力のみで走破せい」
「はいはい。おら――。先頭――。さっさと走れ――」
はいはい、分かりましたよっと。
「では、出発します!!」
「ん――。ちゃんと数えておるからな――」
師匠がそう仰ると三本のフワモコノ尻尾を揺らしながら踵を返し。土手にちょこんと座り呑気な声を上げた。
「よし。行くぞ!!」
足に力を籠めて普段より数段遅い速さで走り出す。
多分、これ位で良いよな??
「……。ほいほい――!! とぁっ!!」
はっや。
最後尾はルーだったのか。
大空の中を鋭く飛翔する燕も目を丸くするであろう速さで俺の前に躍り出ると、ゆるりとした速度で走り始める。
「へへ――ん。先頭は気持ちいいねぇ」
「そうか?? 後ろの人の事も考えてゆっくりね」
「はいはい。分かっていますよ――」
「おっとっと……。あぶねぇ。通り過ぎる所だった」
お次はユウか。
特に表情を変えずに先頭へと躍り出た。
「ユウちゃん。おっぱい邪魔だよね??」
「喧しい。でも、まぁ……。邪魔だな」
でしょうね。上下左右にありえない弾み方で揺れ動いているし。
「…………。ふぅ、こんな物か」
「リューはもう少し手を抜いたら?? そんなんだとあっと言う間に疲れちゃうよ??」
「稽古はこれ位でいいんだ」
「相変わらずお堅いねぇ……。むっ。硬いで思い出した。昨日の温泉でさぁ」
ルーが此方へ振り返りニヤリと笑う。
ちょっと。人前で何を話すおつもりですか?? しかもまだ朝も早い時間帯ですぞ??
「温泉?? あ――。マイが大暴れしたって話か?? 聞いたよ、それ」
「んっふふ――。実はさぁ……。カエデちゃん!! 頑張って――!! オホン。実はこれには面白い話がくっついているのですよ」
「面白い?? ルー。詳しく話せ」
リューヴが前を見続けながら話す。
「どぉぉりゃぁぁああ――!!」
マイの奴……。馬鹿みたいに飛ばしてるな。
あの勢いだと最後までもたないぞ。
「いやね、実は。マイちゃん!! 頑張って!! マイちゃんが槍を投擲した後でさぁ」
誰にも言ってはいけないと念を押されたのに、その秘密の御話を友達に話そうとしてしまうお子様の雰囲気を纏う彼女の声色に嫌な予感が止まらない。
「ルー、それ以上は話すな」
可能な限り声を低くして強面風に念を押してやった。
「ルー、面白そうだ。そのまま話して構わんよ――」
「さっすがユウちゃん。分かってる――!!」
分からないでも宜しいですよ??
「はぁ……。どうして私が朝も早くから駆けなければならないのですか……」
「マイちゃんが投擲した後にね。アオイちゃ――ん。遅いよ――。お湯がさ――。弾け飛んだんだよねぇ」
おいおいおいおい。
まさかとは思うが……。
「レイド様――。此方に来て下さいまし――」
あ、はいはい。行きますよ。
「ふぅっ!!!!」
先頭を走るアオイの声を受けて脚力を解放した。
おぉ……。見た目以上にキツイぞ、これ。
走る隊列は自然と前へ伸び、此方の予想以上に先頭へ躍り出るまでの時間を要してしまう。
それだけ全力で駆ける時間も長くなる訳だ。
「ふぅ……。ルー、いいぞ――!!」
「かなり体に堪えますわね」
後ろで走るアオイの額には既に薄っすらと汗が浮かんでいた。
「朝からはちょっとキツイかもね」
「もう少し、手加減をして欲しい物ですわ」
「師匠にそれは通用しないって」
「と――うっ!! 到着っ!!」
陽気な狼に自由に走らせたら地平線の向こう側まで永遠と走って行きそうだ。
アオイの疲弊した声に対し、ルーはまるで堪えておらず意気揚々と笑顔を振り撒く。
寧ろ、走っている方が楽しそうだ。
「――――。で?? レイドがどうしたって??」
ユウが先頭に躍り出てルーの方へ振り返る。
「あ、リューが来たら話すよ。何か聞きたそうだったし」
「……待たせたな」
うぉう、もう先頭か。
「リュー速いねぇ。そんなに話を聞きたかったの??」
「べ、別にそういう訳じゃない」
でしたら何故背中から高揚感がこれでもかと滲み出ているのですか??
狼の姿であったのなら間違いなくはち切れんばかりに尻尾を振っている事だろうさ。
「んで――。お湯が吹き飛んでさ。レイドがお湯の中から立ち上がったんだよ。それでぇ――。えへへ。私、見ちゃったんだぁ――」
こ、この横着な狼さんめ!!
「ルー!! それ以上は駄目だ!!」
目の前で揺れる灰色の長髪へ念を押す。
「減るもんじゃないし、別にいいでしょ?? レイドのその……。アレは凄かったよ??」
ぐぁっ!! こ、このお惚け狼さんめぇ!!
「凄い?? もっと具体的に聞かせてよ」
ユ、ユウさん??
これ以上は聞かなくても結構ですよ??
「ん――。何て言えばいいのかなぁ?? ほら、リュー。昔さお父さんと一緒に温泉に入ったよね。覚えてる??」
「あぁ、懐かしいな」
「お父さんのアレはさ。地面にデロ――んって垂れてたけど。レイドのは……。こうピンってんぐむ!?!?」
「そこまでだ!! それ以上は許さん!!」
走りながらルーの口を両手で覆ってやった。
俺の醜態を晒そうとする横着者を黙って見過ごす程俺は甘く無い。
「いいふぁん!! せつふぇいしろっふぇ言われているんふぁから!!」
「――――。それはまるで大地に聳え立つ巨木が如く。それはそれはもぅ大変御立派な物でしたわぁ……」
「ア、アオイ!! 何て事言うんだ!!」
微かに朱に染まった頬へ両手を当て、嫌々と嬉しそうに顔を揺らしつつ背後で走るアオイが話す。
「そ――そ――。立派だったねぇ。例えるなら……。成長し過ぎちゃった人参?? あ、いや。大根??」
「「大根……」」
ユウとリューヴが怪訝な顔を浮かべ俺の一点を見つめた。
き、君達!! 一体どこを見てるの!?
「ほら、アオイちゃん前に到着したから次はレイドの番だよ??」
えぇい!! あれこれ考えるな!!
今は稽古に集中だ!!
肺に大きく空気を取り込み、先頭へ向かって一陣の風を纏い躍り出てやった。
「ぷはっ!! ぜぇ……。ぜぇ……」
きっつぅ……。
朝一番から全力疾走は堪えますな。
「まだ二回目だよ?? 今から息が上がっているようじゃ駄目だなぁ」
「はっや。もう来たの??」
俯いていた顔を上げると、相変わらずの明るい笑みを浮かべているルーが此方へ振り返っていた。
「――――。フンガッ!! そ、それで?? 大根がどうなったって!?」
「…………。ルー!! 続きを早く聞かせろ!!」
ユウとリューヴもそれに続く形で颯爽と参じる。
「も――。皆レイドの大根に興味津々だねぇ。良いでしょう!! 私が目撃した大根の形、色の詳細を話してあげますからねっ!!」
「「頼むっ!!!!」」
「長さは大根っ、太さはぷっくりした茄子でぇ……。刀もあっと驚く角度でそそり立っていてぇ。色は……」
「「い、色は!?!?」」
「勘弁してくれよ!!!!」
頼む。誰かこの狼の口を塞いでくれ。
「ほら、レイド。前に走る番だよ――」
くそうっ!!
少しでも早く前に躍り出て不必要な会話が交わされる時間を削ってやる!!
「おっしゃ!! 到着……」
「もっと聞きたいよね――??」
「も、もっと詳しくっ!! 細かい描写を聞かせてくれ!!」
「あ、あぁ。主の体について私は詳しく知っておく必要があるからなっ」
体が燃える様に熱いのは堅牢な大地を強く蹴って走り続けている所為か。将又、己の羞恥心によるものなのか。
まぁ十中八九後者ですよね。
今度からは己の行動に細心の注意を払って湯に浸かろう……。
女性達の驚嘆の声、そして煌びやかに光り続ける瞳から逃れる様に全力で隊の前へと躍り出るが……。
「とう!! 到着っ!!!!」
「だから色は!? どうだった!?」
「は、早く聞かせろ!!」
そうはさせまいとして、好奇心の塊達が刹那に前方へと到着。
大きな羞恥心と喜々として向けられる好奇の目からは決して逃れる事は叶わず、抗う事を諦めた俺は口を閉ざし。流れ行く地面へ視線を落として只単調な走行を繰り返し続けていた。
お疲れ様でした。
本日の執筆の御供は……。
その一。その生物に光を当てるな。
その二。深夜に餌を与えない事。
その三。決して水を与えるな。
この三つでピンと来た方もいらっしゃるかと思います。
そう……。本日の御供は『グレムリン』 でした!!
日曜日のお出掛けの帰り道にふらっと立ち寄ったお店で借りて来まして。つい先程まで鑑賞していた次第であります。
久々に見ましたけど、やっぱり面白かったですね。そして、劇中で使用されるテテテテ―ーンテテ、テテテテ―ーンテテ。テッテテテテテーーテンッ。この旋律が今も脳内でプレイバックされて困っています。
それでは皆様、お休みなさいませ。




