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第七十九話 指導教官の唐突な発言

皆様、お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 心地良い疲労によって滲み出て来た重たい汗がシャツに染み込み、皮膚で衣服の重さを察知出来てしまう質量へと変化。体の奥から湧き上がる熱が指導の疲労度を物語り、大きな疲労の塊を口から吐き出して新鮮な空気と交換すると幾分か気分が楽になって来る。


 たどたどしく、そしてまだまだ未熟であると自負出来てしまう技術指導を滞りなく済ませ。訓練生よりも一足先にビッグス教官と共に大食堂へ向かって歩みを進めていた。



 朝一番からの講義、それに加え気持ちの良い運動をした所為か随分と腹の機嫌が悪い。


 己の意思と無関係に腹を満たそうとして、前へ前へと進もうと逸る足を宥めるのも一苦労だな。



「どうだった?? ひよっこ共の様子は??」



 大食堂の東出入口の扉を潜り抜けると隣のビッグス教官が俺の心情を察した様に柔らかく口を開く。



「皆一生懸命で真剣でしたね」


「それがあいつらの仕事だからな。どうだ?? この際指導教官を目指してみては。この二日間を見て思ったんだが……。良い指導者になると思うぞ」


「いやいや。人に物を教える程、まだ人間は出来ていませんよ。それに……。自分自身がまだまだ未熟者ですからね」



 うん。


 それは痛烈に感じている。


 此処にいる者達には強者として見られていようが、師匠やマイ達に比べると俺なんかまだまだ脆弱でちっぽけな存在だ。



 その差を埋めるまで人に物を教えるなんて烏滸がましいよ。



「そうか?? 良い線行くとおもうんだけどなぁ」


「指導教官への道は考慮しておきますよ。さて!! ビッグス教官。本日の昼食は如何致しましょう」



 職員専用の受け取り口に到着すると同時に声を上げる。



「えっと……。豚肉の蕎麦焼き定食、揚げ物定食、ニンニクパスタか。迷うなぁ……」



 ビッグス教官が腕を組み可愛くウンウン唸っている横で、俺も給仕のおばちゃんの背後にある本日の献立を睨んだ。



 先程からずっと腹の虫が鳴き叫んでいる。


 早く栄養を与えないと機嫌が治りそうにない。


 この腹の空き具合を考慮すると……。



「いらっしゃい。何にするんだい??」



「「揚げ物定食。御飯特盛りで!!」」



 教官と一字一句違わず、声を揃えて言った。



「あはは!! あんた達、似た物同士だね!! 直ぐ作るから待ってて!!」



 全くの偶然なんですけどね……。


 自分自身の卑しい気持ちを誤魔化す様に頭をガシガシと掻いてしまった。


 料理が運ばれて来るまで時間がありそうだし、この時間を利用して昼からの予定を確認してみるか。



「昼からの模擬戦なんですけど。自分はどうすればいいですか??」


「どうするって……。相手の鉢巻きを奪い尽くせ。それだけだ」



 ふんっと鼻息を荒げて話す。



「いやいや。それだと一組の皆の為にならないでしょう?? 自分はあくまで飛び入り参加なんですから」



 相手は軍属の者とはいえ訓練生だ。


 己自身を鍛える為に模擬戦へ参加するってのにその機会を奪うのは一指導者としてどうかと思うのです。


 俺に与えられた任務はあくまでも指導、ですからね。



「俺の立場を理解しての発言か?? もし、負けたらこの体がどうなるか。昨日から気が気じゃないんだよ」



 スレイン教官の手料理、ね。


 事情を何も知らない人は口を揃えてたかが料理だと話すだろうが、されどそれは人の生命をも脅かす代物。


 安易に口へ運んではいけない物なのです。



 ま、この点に関して俺は完全完璧に他人事だから放置して。


 問題はレンカさん達だよなぁ。


 もし鉢巻きを取られたら一日中彼女達の要望に付き合わされちゃうし……。



「お待たせ!! 揚げ物定食、御飯特盛りだよ!!!!」


「「おぉぉ!!」」



 巨大な丼に盛られたほかほかの御飯、大皿に野菜炒めと鶏の唐揚げ、そして野菜の天ぷらがこんもりと盛られている。


 肉と野菜と白米。


 男の欲張り三点盛りに我儘なお腹もさぞ満足する事だろう。


 模擬戦の事はさておき今は己の腹を満たしましょう!!


 教官と共に素早く盆を受け取り、昨日と同じ席へ移動を開始した。



「おっ。腹を空かした猛獣共がやって来たぞ」



「やった――!!!! 一番乗りだぜ!!」


「おばちゃん!! 俺、ニンニクパスタ超大盛!!!!」

「俺は豚肉の生姜焼き定食!!」


「おう!! ちょっと待ってな!!」




 ビッグス教官が席に着くと、泥と汗で塗れた訓練生達が我先にと受付の前に並ぶ。


 鬼気迫る表情が彼等の空腹具合を如実に体現していた。



「腹ペコなんですよ。自分も彼等と同じく毎日腹を空かせていましたからね」



 訓練を終えた後に食う飯と来たら……。


 格別の味がしたんだよなぁ。今でも十分美味しいけどさ。


 空腹は最高のおかずって訳だね。



「さて、俺達は先に頂くか」


「そうですね。冷めちゃいますし」


「「頂きます!!」」



 俺達の様子を羨望の眼差しで見つめて来る訓練生を尻目に食事を始めた。


 どれどれ??


 先ずは……。白米を頂きましょうか!!


 甘い蒸気を放つ白米の中へそっと箸の先端を潜らせてすっと掬い、優しく御口に運んであげた。



「美味い……」



 優しい仄かな甘味と適度な粘度で御口の中が幸せに包まれていますよ。


 農家の方々に感謝しないとな。


 こんなに美味しい御米を作って頂きありがとうございました、と。



「この白米。美味しいですね」


「あぁ。美味しく炊くコツと、米自体が良いんだろう」



 美味しく炊くコツか。


 出来れば手厚く指導して頂きたいものだ。


 これだけ美味しく炊ければどこぞの龍も満足するだろうに。



 …………。


 やめやめ。何でアイツの為に米を炊かにゃならんのだ。


 それこそ増長してもっと寄越せと強請って来るに決まっている。


 あくまでも自分の為に学ぶべきだな。



「レイド先輩っ。隣、失礼しますね」


「え?? あぁ、どうぞ」



 農家の方々が作り上げた宝石に舌鼓を打っていると、ミュントさんが左隣に着席する。


 今も変わらず運動着のままだ。



「よいしょ。わっ、凄い量ですね??」


「そう?? これくらい食べないと体出来ないぞ??」



 俺の持つ丼を見て只でさえ大きな目を更に目を丸くしている。



「そ――そ――。ミュントはもっと食べなきゃいけないよ」



 ミュントさんの隣、シフォムさんが美味しそうに白米を口に運び話す。



「これでも食べれるようになったんですよ??」



 その言葉を受け、彼女の盆を見るが……。



「その倍の量を食べなさい」


 普通の量の白米に思わず吐露してしまった。


「え――。そんなに食べたら太っちゃいますよ」


「…………。レイド先輩の言う事は間違っていない。私達の仕事は体が資本だから栄養を摂るのは必然です」



 いつの間にか正面に座ったレンカさんが静かに口を開く。


 そんな彼女の盆の上には、レンカさんの倍程の量の白米が鎮座していた。



 うむ!! 良い心掛けだ!!



「私は太りやすい体質なの!!」



 太り易い体質でも動いて失った栄養は補給しないといけないと思うのですよ。


 食べて体を大きくするのも俺達の仕事の内。


 それをもう少し理解して欲しいものさ。



「所で、アッシュ君の様子はどうかな??」



 美味しい御米さんを柔らかく咀嚼しながら正面のレンカさんへ尋ねた。


 午前中の技術指導の際、彼の為を思って親切丁寧にこの世の道理を分からせてあげた。


 流石に顔面を殴打する訳にはいかないのでお腹を中心にコツコツ不必要なまでに叩いてあげると。



『う、うげぇぇ……』



 深夜まで浴びる様に酒を飲んだ翌朝のお父さんの顔よりも更に酷い顔になって嗚咽し続けていたのだ。


 地面に蹲って倒れて、再び立ち上がったらまたお腹をポンっと叩いてやる。


 その繰り返しを続けていると彼の体内から素敵で粘度の高い液体が止めどなく溢れ出てきてしまった。


 彼が立ち上がって来る以上、俺には彼の行為に応える必要があるので流石にちょっとやり過ぎかなぁっと思いながらも熱い指導を与えてあげたのですよっと。




「通常通り会話が出来ていましたのでそこまで酷く無いかと。只」


「只??」


「いっその事、顔面を殴って意識を刈り取ってくれた方がマシだと言っていましたよ??」



 腹部への打撃は相当の威力を受けないと気絶出来ないからねぇ。


 まぁ、それを見越してネチネチと粘着質に腹へ攻撃を与えてあげたのです。


 彼のひん曲がった性格を矯正する為にもアレは必要不可欠な指導だったのですよ。



「彼の高くなった鼻をへし折って頂き有難う御座います」



 レンカさんが静かに頭を下げるので。



「あ、いえいえ。どういたしまして」



 彼女に倣って静かな所作で礼を返してあげた。



「レイド先輩!! レンカばかり構っていないで私も構って下さいよ!!」



 構っているというよりも只の質問だったのですが??



「普通に会話していただけでしょ」



 俺の左腕の裾をクイクイと引っ張る甘えん坊のわんぱくなワンちゃんの言葉を無視して食事を続ける。


 んむっ!! 野菜の揚げ物も美味いっ!!



「あ……。えへへっ、そうだ」



 ミュントさんが陽性な笑みを浮かべてこちらを見上げる。


 何ですか?? その良い悪戯を思い付いてしまった横着なお子ちゃまの嗜虐心に塗れた顔は。



「ねぇ、レイド先輩っ。沢山御飯食べたら、ココ。成長するのかなぁ??」


「ぶっ!!」



 シャツの襟をくいっと広げ、見えそうで見えない双丘の末端を此方の視界の端にちらりと映す。



「し、しまいなさい!!」



 人の往来があるところで……。破廉恥ですよ!!



「ひっど――い!! 勇気出したのにぃ!!」



 そんな勇気ならいりません。相手に立ち向かっていく勇気を身に付けなさい。



「そんな事より、レイド先輩。先程の実技指導の事なんですが」


「あ、はい。何です??」



 気分を落ち着かせ、此処で初めて出会った時よりも大変冷たい瞳に変わったレンカさんを見る。



「アッシュの拳を何度も受けて立たれていましたが……。その耐久力はどうやって培ったのです??」



 あぁ、あれの事か。



「――――。レンカ、人の拳には色んな想いが籠っているのよ?? ビッグス教官。隣、失礼しますね」



「お、おぉ」



 スレイン教官がするりと、そして静かにビッグス教官の隣に座りレンカさんへ話す。



「想い、ですか」


「そう。アッシュ君の拳は軽いんだ」



 十分痛かったけどね。



「私は彼の拳を受けてもレイド先輩の様に、恥ずかしながら立っていられませんでした。アッシュの拳は教官やレイド先輩が仰る様に軽い物とは思えません」


「軽くは無いよ?? 寧ろ、この中じゃ強い部類に入ると思う」


「だったら……」



 何かを言いかけるレンカさんの言葉を断ち、続け様に話した。



「訓練中にも言ったけど、彼の拳は軽いんだ。いい?? この広い世界には幾らでも強者はいる。そして彼等の拳は決まって重い。何故だか分かるかい??」



「…………鍛錬に励み。厳しい環境に身を置いているからでしょうか??」



「違う。この世界の強者の拳には幾重にも積み重なった熱い想いが宿っているんだ。殺気、決意、意志、自尊心。厳しい鍛錬に励みこの想いを重ね、拳を重くそして鋼の心を作り上げるんだ」


「「……っ」」



 俺の言葉聞き、教官二人も頷いてくれている。



「では、私達に足りないのはその想い。だと??」


「そう。詰まる所、最後に物を言うのは折れない心だ。鍛えた心は決して折れない。その想いを相手にぶつけるんだ」



「じゃあ、アッシュがレイド先輩に負けたのはアイツが単純に弱いって事なんですか??」



 ミュントさんがもむもむと食事の手を進めながら話す。


 頑張って頬に餌を詰めている栗鼠みたいですね??



「いいや、彼は弱く無いよ。この中じゃ頭一つ抜けた実力だね。だけど、それ以上でもそれ以下でも無い。悪戯に力を振り翳す拳じゃ、俺は倒せないって事だよ」



「成程……。勉強になります」


「俺が彼の攻撃に耐えられたのもそれ以上の攻撃を受けた経験があるからだ。それに比べればアッシュ君の攻撃は優しい物だよ」



 そう。師匠の痛烈な一撃に比べれば優しいものさ。



『馬鹿者ぉっ!! 判断が甘過ぎじゃぁぁああ――っ!!!!』



 彼女の常軌を逸した攻撃を思い出していると背中に嫌な汗がじわりと滲んでしまった。



「レイドが話した様にお前達はまだ心の鍛錬が足りん。容赦なく鍛えてやるからそのつもりでいろ」


「ビッグス教官の仰る通りよ。三人共、これからはもっと厳しくしていくつもりだから」



 教官二人の発言にあからさまに三人の表情が曇る。


 まぁ、厳しく指導すると言われたらそうなるよね。



「心の鍛錬ねぇ。じゃあ、ビッグス教官は折れない心を御持ちなんですか??」



 ミュントさんが俺越しに質問を投げ掛ける。



「当り前だ。前線を退いたが鍛錬は怠っていない。俺の鋼の心は何人も曲げる事は出来ん!!」


「ふぅん。あっ、そうだ。スレイン教官」


「何??」



「私達、レイド先輩から鉢巻きを奪ったらレイド先輩を一日自由に使える権利を頂けるそうです。スレイン教官もおまけで何か貰ったら如何ですか??」



 お、おいおい。


 とんでもない事をさらりと言うな。



「レイド。そうなの??」


「はい。何故か、ビッグス教官と運命共同体になってしまいまして……」


「それは……。面白そうね」



 御免なさい。ちっとも面白くありません。



「は、話が盛り上がっている所で申し訳ないが。あの約束は食事に付き合うだけじゃないのか??」



 ビッグス教官がおずおずと申し訳無さそうに口を開く。



「それだけじゃ物足りないと考えていました。手料理を頂いて貰う事は完遂させるとして」



 あ、それは外せないんだ。



「そう……ですね。じゃあ私達の組が勝利を収め。そしてレンカ達がレイドの鉢巻きを奪取したら…………」



 何やら頬を朱に染めてその先を言い淀んでいる。


 こんな表情のスレイン教官見た事ないぞ。




「け……」



 け??



「け、け、結婚を前提に付き合って下さい」




「「「ぶふぅっ!!!!!!」」」



 スレイン教官が放った驚愕の発言に、この場にいる全員が盛大に口の中の物を吹き出してしまった。



「キャ――!! スレイン教官!! それって、愛の告白って奴じゃないですかぁ!!」


「ひゅ――。おめでとうございま――す」



 ミュントさんとシフォムさんが間髪入れずに場を盛り上げる。


 訓練よりも彼女達はこっち方面の方が得意そうだな。



「御二人共、おめでとうございます」

「結婚式には是非、招待して下さいね??」



 レンカさんと同時に祝言を放ってやった。



「勿論よ。式はここで挙げるのもいいわよね。広いし、それに私達の思い出が一杯詰まった場所ですもの……」



 両頬に両手を当てて嬉しそうに嫌がって話すスレイン教官は、恋をする女性と何ら変わりなく。


 一人の女性として十分過ぎる魅力を放っていた。


 しかし。



「…………」



 ビッグス教官は驚愕の発言を受けるとあわあわと口を開き、生気を失った瞳で恋焦がれるスレイン教官を見つめていた。



「はっ!!!! あ、あのなぁ!! 俺の了承を得もしないのに勝手に盛り上がるな!!!!」



 まぁそりゃそうですよね。


 勝手に婚姻関係を結ばれたら誰だって憤りますよ。



「女性が勇気を出して言ったんですよ?? 男らしく受けないと」


「そ――そ――。据え膳食わぬは男の恥ですって――」


「喧しい!!!! 俺の意志を尊重しろと言っているんだ!!」



 揶揄うミュントさんとシフォムさんに速攻で噛みつく。



「据え膳……。私、食べられちゃうの??」



 ポッと赤くなった顔でスレイン教官が話す。



「食うか!!!! どうせ食うならもっと甘そうで、柔らかそうな女性を食うよ!!!!」



 おうっ。やっべぇ。


 今の発言内容は如何な物かと思いますよっと。


 ビッグス教官から左へ僅かに尻をずらし、大噴火に備えた。



「…………。今の発言はどういう意図が含まれているのでしょうか??」



 凍てつく氷も裸足で逃げ出しそうな、冷たく暗い瞳でビッグス教官を見つめる。



「あ……。いえ、他意はありませんよ?? 何と言うか、ぽろっと口から出ちゃったのかなぁ――って。あ、あはは」



 乾き、冷えた笑い声が更に場の空気を凍らせてしまう。


 教官、それ以上の発言を控える事をお薦めします。


 これ以上口を滑らせれば墓穴を掘る処か自分自身が収まる棺を制作して、更に友人並びに親族へ丁寧に訃報を送る様なものですからね。



「ぽろっと?? そうですか。ビッグス教官はポロっと女性を食っちゃう様な人なんですね。これは由々しき事態です。式を挙げる前に修正しないといけませんねぇ」



 スレイン教官がにぃっと口元を歪めて話すと。



「キャァッ!!」



 うんっ、今日も可愛く慄いた声を聞かせてくれましたね。



「安心して下さい。私の手料理を食べれば……ね?? 直ぐにでもそのおかしな考えを改めますから。では、昼からの準備があるので失礼します」



 静かに腰を上げてこの場を去る。


 しかし、彼女が残した冷たい空気は払拭出来ずにいつまでも此処に残り続けていた。


 この空気、どうするんですか?? 教官。


 居たたまれずにもそもそと米を咀嚼していると女性陣が罵詈雑言を浴びせ始める。




「ビッグス教官。今の発言は女性に対してどうかと思いますよ??」


「そうですよ――。スレイン教官傷ついちゃったじゃないですか――」


「些か場の空気にそぐわない発言かと思われます。好意を寄せる女性に配慮すべきだと思われます」



 うへぇ。


 やっぱ女性は敵に回すべきじゃないな。


 俺だったら速攻で尻尾巻いてこの場から逃げ出すよ。



「や、喧しい!! 良く考えてみろ!! け、け、結婚したらアイツの手料理を毎日……グスッ。毎日食べなきゃいけないんだぞ!?」



 何で鼻を啜ったんです??


 ちらりと横目で見ると……。


 半分涙目になっていた。いや、ほぼ泣いていますね。



「ま、まぁそこは愛情で乗り切って下さい」


「料理教えたらいいじゃないですか――」


「試練は二人で乗り切るべきです」


「ひ、他人事だと思って!! レイド!! 頼む!! 勝ってくれ!! お前だけが頼りなんだ!!」



 大粒の涙を瞳に宿し、哀愁漂う表情で俺の肩を掴み激しく揺らす。



「善処はしますよ。さっきも言いましたけど、自分は飛び入り参加の身ですからね」



 美味しく食事を続けながら言ってやった。


 別にいいじゃないですか。


 スレイン教官、美人だし。


 それにその……。料理も教えれば何とかなるんだしさ。



「そ、そんな……。それならこっちも考えがある。おい、ミュント、シフォム、レンカ。こいつの鉢巻きを取ったら一年中好きに扱っていい。俺が許可する」


「はぁっ!? それは幾ら何でもやり過ぎですよ!!!!」



 堪らず数舜で噛みついてやった。



「えぇ!? それって……。あんな事や、こんな事もしていいんですかぁ!?」


「勿論だ、ミュント。穴という穴に如何わしい物を突っ込んでも構わん」


「ぶっ!! な、何をさせようとしているんですか!!」



 とんでもない事を言いますね!!


 人の往来がある場所ですよ!!



「えへへ、レイド先輩っ。私達、絶対奪って見せますからね??」


「全力で逃げます」



 左腕にしゅるりと絡みつこうとするミュントさんから逃げて言ってやった。



「ミュント。レイド先輩の食事の邪魔をしないで」


「レンカがあんな事言ってますけど――?? 私ってお邪魔ですか――??」



 丼を持つ俺の左腕をグイグイと掴んで話す。



「丼が微妙に動いて白米が取りにくい事以外は大丈夫です」



 今の状況で言える最大限の苦言を吐いてやった。


 ここでもし逆らってみろ。


 より難儀な要求を吹っ掛けられる筈。


 俺は此処で学んだのだ、口は禍の元であると。



「ほら。邪魔じゃないって。んふっ、昼から楽しみだなぁ――」



 陽気な声を上げる彼女に対し、俺の心の空模様はどんよりと重い雲が広がり心底疲れ切ってしまっていた。


 その想いを反映させた瞳で隣のビッグス教官をジロリと睨むが……。



「はぁぁぁ――……。どうしてこうなっちまったんだよぉ……」



 俺以上に彼の心は悪天候のようだ。


 まるでこの世の終わりが訪れ絶望に打ちひしがれた者の様に両手で頭を抱えて机に伏してしまっていた。


 お互い苦労しますねぇ……。


 心の中で彼に対して労いの声を掛け。



「ねっ、ねっ!! レイド先輩っ!! わざと負けてくれたら色々凄い事シテあげますよ!?」



 ミュントさんの感情の起伏と同調する様に、徐々に振れ幅が大きくなっていく丼に狙いを定め食事の手を進めていった。



最後まで御覧頂き有難う御座いました。


先日借りて来たB級ホラー映画の他にも借りて来たものがありまして……。本日はそれを視聴しつつ編集を続けていました。


そのタイトルは……。そう、知る人ぞ知る『本当にあった!! 呪いのビデオ』 シリーズです!!


何決め顔で言ってんだよと読者様からの鋭い声が光る画面越しに聞こえてきそうですね。この作品はまぁ上手く作られている動画と、やたら偽物臭が漂う動画まで幅広く特集してあるのでついつい癖になって見てしまうのですよ。


もう間も無く夏が訪れますので、地上波でも恐らく多々あるシリーズの中からピックアップされてホラー特集として放送されるかと思われます。


勿論!! 地上波で放送されるのであれば録画して穴が開くまで視聴させて頂きます。



いいねをして頂き。そしてブックマークをして頂き有難う御座いました!!!!


執筆活動の励みとなります!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

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