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第七十八話 何事にも一生懸命な雛鳥 その一

皆様、お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 私達から向かって左手奥にはこのデケェ街を守る為に聳え立つ城壁が悠々と眼下に広がる王都を見下ろし、右手にはそれと比べると随分低い壁が奥にずっと続いている。


 右手側の壁はボケナスが所属する軍の訓練施設を囲む物であると理解出来るのだが……。その長さから容易に敷地面積が広大であると看破出来た。


 この大陸最大の街でこれだけの面積を誇るって事はだよ?? それなりに潤沢な資金がなければ設置は不可能だ。つまり!! あのインチキ宗教団体の後ろ盾が無ければ此処まで御立派な面積の施設は出来なかった訳になるのよね。



 奴等がこの国に与える影響。



 その末端を可視化させた長々と続く壁を眺めつつ、無人で簡素な道の上を普段と変わりない速度で歩んでいた。



「何か、人の声が聞こえて来たね」



 高揚な足取りで私達の先頭を行くルーが壁の方へ耳を傾けて話す。


 ここからでは正確な距離は窺えぬが、随分と気合の入った声が私の耳にも届いている。


 恐らく訓練中の声だろう。


 その中には野太い声やら、憤りを覚え躍起になっている声もある。


 いいわねぇ。


 技と技、力と力。


 互いの持つ限りをぶつけ合う猛々しい声と微かな打撃音が私の心を擽った。



「此処らで覗いて見るか??」



 ユウが歩みを止めて壁を見上げる。



「覗くって言ってもねぇ。私じゃ背が届かないし……。ユウも無理でしょ??」


「ちと無理だな」



 壁の高さは凡そ、ニメートル強程。


 人の姿の私達じゃ背伸びして届く距離じゃない。龍の姿に変わってふわりと浮けば容易に覗けるのだが、アイツに魔力を感知されてしまう恐れがあるのでそれは御法度だ。


 例えこっそり上手く魔物に姿を変えたとしても容易に向こう側が覗けるのはこの中ではミノタウロスの血を引くユウだけ。


 覗く、じゃあ無くて見下ろすか。


 森の中で初めて見た時はまぁまぁデカイ姿に驚いたものさ。


 それが街中に突如として現れたら翌日の新聞の一面にデカデカとこう記載される事であろう。



『怪奇!! 街中に巨大な生物が出現!! 白昼堂々軍部へ殴り込みか!?』



 新聞に載るのは当然で更にボケナスからまたうざってぇ説教を受ける事は必然。


 向こう側を覗く良い案は無いものかしら。



「よじ登って見つかったら不味いし。何かいい方法は無いかしらね??」



 壁を見上げつつ誰とも無しに問うてみる。



「う――ん。何か良い方法は無いかなぁ……」



 お惚け狼が腕を組んで空っぽの頭を駆使して妙案を捻り出す素振をみせ……。



「そうだ!! 肩車だよ!!」



 素振では無くて本当に考えていたのか。


 これぞ最良の案だと自画自賛してしまうような明るい声を放った。



「成程。でも、それだけじゃ届かないわよ??」



 ざっと簡単に高さを見繕うが……。肩から伸びる上半身でも壁の向こう側は見られないだろうさ。



「だから――。肩に、もう一人の足を乗せればいいんだって――」


「「お――っ!!!!」」



 私とユウが同時に声を上げた。


 それなら余裕で届きそうね!!



「肩の上で屈んで、壁際から目元だけ覗かせれば良いのか。ルーにしては上出来だぞ」


「リュー。もうちょっと褒めよ??」


「よっしゃ。リューヴはあたしと組んで、マイはルーと組め。大体、体型的にも似た者同士で組んだ方がいいだろ」


「はいはい。ルー、どっちが先に乗る??」



 右隣りのお惚け狼に問うてみた。



「私っ!!!!」


 でしょうね。


 さっきから陽性な感情を抑えきれない様子だし。


 まかり間違って尻から尻尾が生えてはち切れんばかりに左右へ振ってしまいそうだもの。



「リューヴ。お先にどうぞ」

「あぁ、悪いな」



「おら。さっさと乗れや」

「むぅ――。ユウちゃんみたいに優しく言ってよね」



 私はそこまで思いやりが無いとでも言うのかしら??


 まぁいい。


 すっとしゃがみ込んで、ルーの足を肩に乗せてやった。



「行けそう??」


「壁に手を当ててっと……。うん!! 大丈夫!! 立って良いよ!!」


 へいへい。


「せいっ!!!!」



 大殿筋に気合を注入し、勢い良く立ってやった。



「わわわ…………。どれどれぇ?? レイドはどこかなぁ??」


「主は……。いたっ!!!!」


「え!? どこどこ!?」


「訓練場の中央少し右だ」


「…………。あ――!! 本当だぁ!! あはは!! 困った顔してるなぁ!!」



 ちぃ!!!!


 陽性な雷狼の声が私のイケナイ何かを刺激する。早くも足を掴んでぶん投げて無理矢理交代してやりたい気分だ。


 アイツの困った顔か………。是非とも見てみたいわね。



「ユウ。重くない??」


 右隣りのユウに話す。


「いんや?? 軽過ぎて欠伸が出そう。リューヴ。もうちょっと筋力付けろよ」


「善処しているつもりだ。ふふ、主め……。そこはもっと大胆に拳を振り抜くべきだぞ??」


「ね――。私だったらひょいっと避けちゃうよ――」



 あ――、もう――。


 早く見せなさいよ。



「ルー。まだ交代しないの??」


「もうちょっとかな――。あはは!! おっかなびっくり女の子に教えてる――!!」


「おら、私にも……。ぬぅっ!? ルー。その下着、新しい奴??」



 何気なく目の前の無表情な壁から視線を見上げると、私の瞳が彼女の薄い桜色の下着を捉えてしまった。


 三角形の下着の形に何やら不要な布地がくっついて女性らしさを醸し出せば、プリンとした尻を強調させるように尻側の布地も柔らかく仕上がっている。


 やけにふわふわとした形ねぇ……。



「ちょ、ちょっと!! 覗かないでよ!!」


 顔を赤らめ両手で慌てて隠すが、残念無念。真下からは当然バッチリ見えてしまっているのよ。


「スカート履いて来る方が悪いのよ。大体、女同士だから見られても構わないでしょ??」


「そ、そういう問題??」


「ほら、ユウも見てみなよ」



 お惚け狼を担いだままちょいと右側へ移動してやる。



「ん――。おっ、何だルー。まだお色気付く年頃じゃないだろう??」



 器用に頭を動かしてお惚け狼のスカートの中を覗きながらユウが話す。



「ユウちゃんも酷いよ!! 私はもう子供を産める体なんだからね!?」


「そんな事言ったらあたしら全員産める体じゃん」


「そうだけどもぉ。女の子なんだから可愛い下着の一つや二つ持っていても良いでしょ??」


「まぁ――、そうだなぁ」


「あはっ!! ユウちゃんは体に合う大きさが無いから大変だよねぇ――!!」


「――――。マイ??」


「ん――」



 親友が放った数秒間の沈黙で全てを察し、私の肩の上から逃げられぬ様。お惚け狼の踝付近を万力で掴んでやった。



「ちょっ……」



「お前さんはあたしの体を馬鹿にした。そして、あたしはものすご――くっ心が傷付いた」

「つまりユウにはあんたを好きに虐めて良い権利が生まれる訳よ」



「どんな理屈!?」



 さぁ、慌ただしく狼狽えて。顔を真っ赤にして憤死するがよい。



「その可愛い下着を是非とも白日の下へ晒してやろうじゃないか」



 ユウがツツ――っと左腕を上げて、お惚け狼のスカートの末端を掴む。


 そして、敢えてゆるりとした速度で引きずり下ろし始めてしまった。



「やぁ――!! 脱がさないでよぉ!!」


「はっは――。無駄無駄。ユウの馬鹿力に敵う訳ないじゃん」



 ずり落ちて行くスカートを両手で必死に抑えているが……。もう既にお尻ちゃんの上辺りが燦々に光り輝く太陽ちゃんの光を浴びてしまっている。



「も、もう!! それなら下りるだけだよ!! とうっ!!」


「あ!! ちっ……。足りない頭で考えやがったわね」



 私の拘束を解くと華麗に地面に着地。



「は――。恥ずかしかった」



 そして真っ赤に染まったまぁまぁ可愛い顔でスカートを元位置へと戻してしまった。



「お待たせ!! マイちゃん、変わろうか」


「おう!! それじゃあ、失礼して……」



 私の前に跪いたルーの肩に両足を乗せ。



「良し、立て!!!!」



 世界最高の君主である私が愚民へ命令を出してやった。



「何だか妙に偉そうだけども……」



 地面から体がせり上がり、ちょうど壁の上に目元が出る形になる。



「ユウ。良いか??」


「おう。宜しく――」



 向こうも私達と同じ態勢になり、ユウが少し屈んだ状態で壁の向こう側を覗き込んだ。


 さてと!! あの大馬鹿者はどこかしらね??


 中央やや右って言っていたわね。


 ずぅっと向こうのだだっ広い訓練場の上では親指の爪程の大きさの人達が二人一組になり格闘を繰り広げているが……。



 うんぬぅ……。あれが、訓練なのかしらね??


 拳の突き出す速さ、上段蹴りの威力、そして体捌き。


 そのどれもが目を覆いたくなる程チンケなものであった。


 蟻の駆け足の方がまだ速いし、雀のちいちゃな翼のビンタよりも弱いし、蝸牛の匍匐前進よりもとろい。


 あ――んな動きじゃ私を捉える事は到底不可能ねぇ。


 ま、訓練生って言ってたし?? 見るに堪えないのは致し方ないか。


 私が一人であそこにいる全員を相手しても、余裕で御釣りが来るだろうなぁ……。



 その脇、黒い服を着ているのが指導教官かしらね。


 黒を目印にして視線を動かしていると。



「いたっ!!!!」



 慣れない仕事なのか、あの馬鹿タレが得も言われぬ表情を浮かべ。悪戦苦闘を繰り広げて訓練生を相手取っていた。


 おどおどしながら拳を繰り出す型を取り。


 訓練生が拳を突き出すと、敢えて大袈裟に頷いてやっている。



「ははは!! レイドの奴。苦戦しているみたいだな」



 ユウも私と同じ考えなのか、陽性な声を出して笑っていた。



「まぁ仕方ないでしょう。アイツにしては良くやっていると思う……。はぁっ!?!?」



 おいおいおいおい。


 アイツは何をしているんだい??


 一人の女性訓練生が拳をボケナスへ向かって繰り出す。


 しかし。


 飛び出した勢いが強過ぎたのか、あの阿保と体がぶつかり二人の体は縺れ合う形で地面に倒れてしまった。


 そしてあろうことか、女性訓練生がニッコニコの笑みを浮かべて馬鹿タレにしがみ付くではありませんか!!


 はい、後で死刑。



「グルルゥゥ……」



 嘯く声を放ち、思いっきり壁の天井付近を握りしめて心の中で沸々と湧く憤りを誤魔化してやる。



 あの女訓練生のだせぇ速さ……。私に比べれば月とスッポンいや。美の女神と薄汚れた雑巾の切れ端位の差がある。


 淫猥男は随分と私の速さに慣れて来た。組手の最中にも私の動きを目で追ってちゃんと防御の体勢を取っていたからね。


 つまり!! 野郎は女の柔らかさを堪能する為に敢えて!!!! 躱さなかったのだろう。



「お――お――。レイドの奴めぇ。あたしには抱き着かせないのに、あの女には抱き着かせるのかぁ??」


「ユウ。後でアイツに仕置きをするわよ??」


「合点だ」



 容易に死ねないこの世の地獄をたぁぁぷりと味合わせてやる。


 苦痛で顔を歪め地べたを這いずり、涙を流して咽び泣き。喉を涸らして許しを乞うても私は許さないわよ??



「マイちゃん代わって!! 見たい見たい!!」


「ユウ!! 代われ!!!!」



 二頭の狼もアイツの様子が気になる様子だ。


 逸る声が足元から漏れて来た。



「滑稽よぉ?? あんたも確とその目に焼き付けて、アイツを懲らしめる力を蓄えなさい」


 地面に飛び降り、再びお惚け狼のあんよを担いでやった。


「…………あぁ!! 本当だぁ!! いいなぁ――!! 私もレイドに抱き着きたいぃ!!」


 全く……。


 ルーの頭の中は御花畑ね。微塵も復讐する事を考えていない。


 ま、いいでしょう。


 私が死神もケツ捲って逃げ出す死刑執行を行えばいいのだから……。


 沸々と湧き起る復讐心を溜め込み。一気呵成にボケナスへ向かって放出させる算段を頭の中で繰り広げていたのだった。




お疲れ様でした。


後半部分は現在編集中ですので、深夜の投稿になるかと思われます。


今暫くお待ち下さいませ。

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