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第四十五話 新たな随伴者

お疲れ様です、本日の投稿になります!!


それでは、どうぞ!!




 顎を大きく開き。


 朝一番の所作を行うと顎下にズキンっとした痛みが軽快に走る。



 いてて……。


 まだ痛むな……。



 顎を擦り、痛みを誤魔化していると。



「はよ――」



 ユウが通路を抜け、大きな歩幅で此方へとやって来る。


 今日も元気そうで何よりです。



「おはよう」



 眠気の余韻が残る彼女を朝に相応しい言葉で迎えてやった。



「皆は??」


「んっ」


 ユウが後方へクイっと親指を向けると。



「くあぁぁぁ。ねみぃ……」


「マイ。顎が外れますよ??」


「私の顎は無限に開くから安心せい」



 いつも通りの姿を浮かべて両名がやって来た。



「もう少ししゃきっとしなさい。今から出発の挨拶をするんだから」



 円蓋状に開いた空間で彼女達を迎えつつ話す。



「はぁ??」



「ま、まぁ。うん……。朝だからね、仕方がないですよね」



 恐ろしい瞳からサっと視線を外してそう話す。



 昨日の事もあり、強く言えない自分が恨めしい……。



 勿論、非があるのは俺自身なのですが。半ば強制的にあぁいう状況に追い込まれた事も加味した罰を与えて欲しい物だ。



 ――――。


 罪を与えられる事を前提として考える方もどうかしているよな……。




「あはは!! 昨日は災難だったみたいだしな!!」


「災難処か……。命が危かったよ」



 バシバシと此方の背を軽快に叩くユウへそう話す。



「命が危い……。レイド。言葉が間違っていますよ??」



 出発に備え、自分の荷物を持ったカエデが此方を窺う。



「間違っている??」


「えぇ。正しくは、命を作り出す。です」



「…………」



 こ、こえぇ……。


 お願いしますから、命の輝きが失せた瞳で此方を睨まないで下さい。



「まっ!! 何事も無かったんだし?? 次からは気を付けろよ!?」


「あ、あぁ。有難う」



 こういう時、ユウの笑みは助かるよ。


 安心しきった声でそう話すも。



「あ、でも……。もし、間違いを起こしたら……。首、こうな??」



 快活な笑みを浮かべつつ手をクルっと回転させた。


 つまり、俺の首を一回転させるぞという意味なのだろう。



「ユウ、甘いって。一回転じゃなくて、捻じ切って脊髄全部引き抜かないと」


「おぉ!! それ、良いな!!」



 良くありませんっ!!



 そう叫びたいのですが……。何分、自分に非があるので強く言えません……。




「では、皆さん。行きましょうか」



 カエデ声を皮切りに。


 フォレインさんがいらっしゃる部屋へと続く洞窟の入り口へと向かう。



「「へ――い」」



 それに続く女性達の背後に回り、大変静かな歩みで続いた。



 堂々と肩を並べて歩く勇気はありませんのでね……。



「どうぞお進み下さい」



 女王の間へと続く入り口を守る二人の了承を得て進み、本日も変わらぬ構えを見せている扉を開いた。




「――――。おはようございます、フォレインさん」



 娘と同じく本日は黒の着物をお召しになる彼女へと朝に相応しい言葉を添えた。



「おはようございます。レイドさん」




 昨晩とは様相がガラリと変わった声色と態度でそう仰る。



 御風呂場での淫靡な姿が本物の彼女なのか。


 女王としての風貌を備えている彼女が本物なのか。


 女性と言う生き物は幾つもの顔を備えてるのですね。今の姿を見ると、男とは別種の生き物であるとさえ考えてしまいますよ。




「お伝えしたと存じますが、今を以て我々は北へと出発します。今日まで大変お世話になりました」



 しっかりと腰を折り、正しい所作で彼女へと礼を送る。



「いえ、世話になったのは此方の方です。では、アオイ」


「はい、お母様」



 フォレインさんが左手側に立つ彼女を促すと。



「それが先日申していた迷いの平原でも正しい方位を指す方位磁石です。お役に立てれば……」


「有難うございます。大切に使用させて頂きますね」



 アオイからそれを受け取り、大切に両手で保持した。


 大人の手の平に乗る程度の大きさ。漆塗りの美しい箱を開けると、普遍的な方位磁石が箱と一体化して備えられていた。



 箱は綺麗だけど、中身は普通だな。


 問題は迷いの平原で機能するかどうかだな。




「そして、もう一つ。レイドさんに贈物を……」



 フォレインさんの後方で待機していたもう一人の女性が古ぼけた弓を此方に運ぶ。



 ん?? 何だろう……。



「あの……。これは??」



 彼女から大弓を受け取りつつ話す。



「それは抗魔こうまの弓です」



「抗魔の弓??」



 幾百年もの空気に晒され灰色に経年劣化した灰色の木。


 大人の手でも掴みきれぬ太い樹木で作成された大弓だ。



 二対の樹木の枝が絡み合う様に美しい螺旋を描き湾曲、上弭うわはずから弦輪つるわにかけて黒き弦が張られている。



 随分と古い大弓だな……。


 重厚感溢れる大弓だが、重さは俺が使用する弓とほぼ同じ。



 うん。


 これなら使えそうだ。



「生物は勿論の事、魔力を持つ者に大変有効な攻撃を与える事が出来ます。試しに、弦を引いてみて下さい」



「こう……。ですか??」



 握をしっかりと左手で掴み、誰も居ない岩肌に向けて狙いを定め。


 弦を力強く引くと。



「うおっ!?」



 光り輝く深紅の矢が弦から突如として出現した。



「な、何ですか!? これは!!」



 慌てて弦を戻すと、矢も消えてしまう。



「その矢が対象に突き刺さると相手の魔力を抑制させ、抵抗力を奪います。矢を放つのには大量の体力を消耗しますので連続の発射は困難になるかと思いますが……。レイドさんの素晴らしい御体であれば数射の発射に耐えられるかと」



 淫靡な瞳から視線を外し、抗魔の弓へと視線を落とす。



 これがあれば魔物の抵抗力を奪う事が出来るのか……。非殺を心掛ける攻撃を加える時には便利だな。



「ありがとう御座います。大切に使用させて頂きますね」



 大切に右肩に掛け、温かい声色でそう答えた。




「さて!! 今日でお別れなのですが……。皆さんに一つお願いがあります」



 フォレインさんがぱっと明るい顔になって話す。


 恐らく……。


 と言いますか。確実に……。



「我が娘、アオイを皆様に御同行願えないでしょうか?? 娘はいつか、この里を統べる事を想定しております。しかし……。それにはあまりにも経験不足なのです。世界を知り、人を知り、遍く知識を吸収してこそ人の上に立つ資格があると私は考えております。私の我儘かと存じますが、どうぞ良しなに……」



「お、面を上げて下さい!!」



 フォレインさんが静々と頭を下げたので慌てて声を上げる。



「私はアオイを連れて行く事には賛成しております。魔法と近接戦闘そのどちらも熟せる彼女の存在は大きいです」



 不必要な密着については黙秘しましょう。


 この場に相応しくありませんので。



「先日の戦闘もカエデとアオイが作戦を練り、その甲斐もあって見事成功しました。仲間想いで、思慮深く、冷静な判断を下せる彼女の存在は私達にとって大変大きいですからね」



 そう話し、フォレインさんの左手側に佇む彼女を見つめると。



「レイド様……」



 黒き瞳を輝かせて此方を見つめ返してくれた。



「皆もいいよな??」



 意見を求める為に振り返ると。



「当然!! アオイ!! 宜しくなっ!!」


「魔法についての意見を交わせる人の存在は助かります。宜しくお願いしますね?? アオイ」



 ユウとカエデの反応は此方の予想通り、上々。


 しかし、問題は……。



「却下!! 絶対却下よ!!!! なぁんであんたを引き連れて歩かなきゃいけないのよ!!」



 あの人ですよねぇ。



 拳をぎゅっと握り、誰にでも分かりやすい拒絶の言葉を送る。



「マイ。多数決だ」


「だな――。人が増えればそれだけ楽しいじゃん」


「その通りです。ですが……。五月蠅すぎるのは了承しませんけどね」




 ってな訳で……!!!!




「アオイ!! 一緒に行こう!!」



 彼女に向かって右手を差し出した。



「レ、レイド様っ!! はいっ!! 宜しくお願いしますわ!!」



 彼女が此方へ向かって駆け出し、手を取ると思いきや。



「ちょっとぉお!!!!」



 駆け出した勢いそのまま。



 俺の首に両腕を回し、正しい男女間の距離とは肯定できない場所へ身を置いてしまった。



「は、離れなさい!!」



 胸の中へポスンっと顔を埋め、嫌々と顔を横に振る彼女に注意を促す。



 余程嬉しかったのだろうなぁ。


 そうじゃなければ凛とした佇まいが似合うアオイがこんな事をする訳無いし。



「嫌ですわっ。ふふ……。これから私とレイド様、二人で愛の軌跡をこの大陸に刻みましょう」



 胸からすっと顔を離し、温かい笑みを此方に送って話す。




「愛、では無くて。任務での移動が主ですよ」


「ご謙遜なさらず……。ほら、私の心の臓が嬉しくて……。トクッ、トクッと五月蠅く鳴いていますわ」



「駄目ですっ!!」



 右手を掴み、魅惑的な双丘へと誘おうとする手を振り払う。


 こうした事をしなければ素直に尊敬しますのに……。



「よぉ――。レイドぉ」



 ん??


 ユウの声だ。



「どうした??」



「さっきからさぁ、黙って見ているんだけど。いい加減、離れね??」



 右手をすっと掲げ、クルっと回す。



 その意味を察して顔の血の気が引いてしまった。



「は、はい!! アオイ!! 離れて!!」



 か細い肩を掴み、嬉しい柔らかさを与えて来る体を引き離そうとするが。



「あんっ、嫌ですわ。もっと私の体を……。味わって下さいまし」



 腰に両手を回して不退転の構えを取ってしまった。




「ほぉん?? ユウ、首もぎ取って――」


「ん――。マイは脊髄引き抜けよ――」


「あ――い」



 いやいやいやいや!!


 死んじゃいますって!! そんな事したら!!!!




 呑気に間延びする声とは裏腹に恐ろしい圧が室内一杯に放たれる。


 それでも離れない彼女に目を白黒させていたが、深紅の髪の女性の素晴らしい攻撃によってこの体が宙を舞い。


 深緑の彼女が体を拘束し、悪戯に首を引っこ抜こうと画策。



 首が悲鳴を上げ、痛みが心の中に土砂降りの雨を降らす。



 常軌を逸した光景の中。



 白き髪の女性は嫋やかに髪を整え、俺の瞳を見つめてこう言ったのだった。



「レイド様。――――――――。幾久しく、ですわ」



 此方こそ宜しく、と伝える前に背骨が嫌な音を立ててしまったのでそれは叶わなかった。



 此処を出発して、傷が癒えたら確と伝えよう。



 硬い岩の地面が高級ベッドにも感じてしまう感覚に身を委ねながらそんな事を考えていた。



















   ◇






 岩肌に包まれた通路に小さな足音が響く。


 女性と思しきその足音がピタリと鳴りやむと同時に重厚な扉が開かれた。



「只今戻りました。フォレイン様」



 静かに女王の座に就く彼女に対し片膝を着け、頭を垂れる。



 従者と女王。



 身分は違えど静かな部屋で行われたその所作は、両者の間に確固たる信頼関係が結ばれているのが容易に窺える程に酷く当て嵌まっていた。




「お帰りなさい」


「西の部隊は殲滅致しました。此れで暫くは憂いを感じる事は無いかと」



 従者が立ち上がり女王を捉えて口を開く。



「そう」



 従者から放たれた言葉は、本来であれば作戦の成功を告げる喜ばしい報告。


 だが、蜘蛛の女王は一定の警戒心を持ったままその者を見下ろし続けていた。



「それで……。アオイ様は何処へ??」



 従者が問う。



「彼等と共にこの地を去りました」



「そう、ですか。それは……。寂しくなりますね」



 女王の御言葉を受け、口角を上げつつ話す。



「これも必要な寂しさですからね。――――――――。所で。いつまで猿芝居を続けるおつもりですか??」



 蜘蛛の女王から漆黒の魔力が溢れ出し彼女の体を刹那に包む。


 放たれる圧は周囲の空気を震わせ、天上の岩肌からは細かい砂が振るい落ち続ける。



「何の事で御座いますか?? フォレイン様??」



 大気が肩身を窄ませる程の圧を受けても従者は普段通り。


 日常会話の延長線上の声色で女王へと問うた。




「魔力、姿、形を模倣しても。体の奥底から滲み出るあなたの咽返る匂いは消せません。猿芝居を続けるおつもりであれば……。話を強制的に終了させますけど、宜しくて??」



 蜘蛛の女王の魔力が爆ぜる臨界点まで上昇すると。



「――――――――。あはっ!!!! やっぱりあんたは騙せないか!!」



 従者の静かな口調が豹変。



 軽快な口調へと変わると同時に、女の体が泥の様に溶け落ち。


 その中から美の女神も嫉妬する美しい女性が現れた。



「じゃ――――んっ!! 私、登場っ!!」



 窮屈な肉の装甲から解き放たれた彼女は濃い桜色の髪を左右へと振り。体に纏わり付く残留魔力を振り払った。



「何が登場ですか……。普通に入って来る事は出来ませんのですか?? あなたは」



「だってぇ。此処に淫魔が来たんでしょ?? 門前払いを食らうのも面倒だし。ちゃちゃっと挨拶だけ済ませて帰りたいからこうして潜入したんじゃない」



「それで?? 久しぶりに会った友人である私に何か伝える事でも??」



「先ずは謝罪を送らせて貰うわ。ごめんねぇ、うちの子が迷惑を掛けてぇ」



 両手をパチんっと合わせ片目を瞑る。



 謝意とは見えぬ姿に蜘蛛の女王の顔に陰りが発生。



「それが謝る態度ですか」



 端整な鼻からは呆れにも似た息が漏れてしまった。



「女王である私がこうして直接来ただけでも十分じゃん。んで?? どうしてあんたが直接出なかったのよ。本当の目的はこれを聞きに来たの。謝罪は二の次。あんたが出れば二秒でケリがついたでしょ」



 飄々とした口調から一転。


 相手に真意を尋ねる声色で蜘蛛の女王に問う。



「娘に経験を積ませたかったのですよ」



「それが建前でぇ??」


「――――。本心は雑魚の後ろに控える者を引きずり出す為ですね。蜥蜴の尻尾を切り落としても只の徒労に終わりますのでね」



「あはっ!! やっぱりそうか。私も此処に来るついでにおいたを働いた子を探したんだけどね?? あの子。魔力消失だけは上手でさぁ……。上空からは見付けられなかった。今、私が連れて来た部下が残留魔力を捜索中――」



「何故、あなたが捜索しないのですか??」



「ここ暑いし、面倒――」



 長き髪を搔き上げ、間延びした吐息と共にそう話す。



「はぁ――……。話は以上、ですよね?? 私は執務があるので戻らせて頂きます。貴女と違って私は多忙を極める身なので」



「ちょっと待ったぁ!!」


「何ですか」



「彼!! どうだった!?」



「彼?? んふ……。えぇ、それはもう……。立派な男性でしたわ。優しい顔には似合わない逞しい体。私の女の性が溢れ出てしまい……。抑制させる事に精一杯でしたので」



 大好物を食した感覚を思い出す様に。


 たっぷりと唾液を含んだ舌で舌舐めずりを始める。



「――――――――。ちょっと。手ぇ、出していないわよね??」



 その所作を見つけた彼女が険しい声色で尋ねた。



「さぁ??」


「ふんっ。まぁいいわ。彼、何処に行ったか分かる??」



「北です」



「北?? 北って言っても広いじゃん。目的地を教えてよ」



「タダで教える程私は安い女ではありませんのよ??」



「え――。じゃあぁ……」



 淫魔の女王が潤んだ唇に指を当て、静かな室内を移動しつつ話す。



「フォレインの娘。鍛えてあげる。それでどう!?」



 ピタリと足を止め。


 高揚感溢れる笑みを浮かべて蜘蛛の女王に条件を提示した。



「貴女の下に師事ですか。まぁ、些か不安は残りますけど……」


「うっわ。天下無双の魔法使いの私に向かってそんな事言ってい――の??」



 むぅっと頬を膨らませて話す。



「そういう所ですよ。――――――。分かりました、条件を飲みましょう」



 暫しの沈黙の後。


 蜘蛛の女王が眉を顰めて苦渋の決断に至った。



「やったねっ!!」



 その言葉に合わせ、濃い桜色の女性が嬉しさを表す様にピョンっと一つ跳ねる。



「彼等は北へと向かい、迷いの平原を抜け。人間の防衛線の拠点の一つ、ファストベースと呼称される地へと向かいました」



「ふぅん!! ちゃちゃっとその辺の人間捕まえて場所聞いてこよ――っと!! 有難うね――!!」



 淫魔の女王が右手を高く掲げると、蜘蛛の女王の間を覆い尽くす魔法陣が地表に出現。



「じゃあまた遊びに来るから――!!」



 一族を統べる者とは到底思えない所作で手を振り、閃光が迸ると淫魔の女王の姿が消失した。



「空間転移、ですか。久しぶりに見ましたけど、相変わらず桁違いの魔力をお持ちで……」



 蜘蛛の女王が長い溜息を吐き、女王の椅子に背を預けると。



「フォレイン様。宜しいでしょうか」



 扉の奥から数分前に放たれた同一の声色が室内に届く。



「どうぞ」



「失礼します」



 背まで流れる漆黒の長髪、前髪も後ろ髪に比例して伸びているのだが。分け目は無く。


 己の両目を隠している。


 そして、本来の従者と女王が行うべき所作を行った。



「只今戻りました。作戦通り西から侵攻を企てた敵を殲滅、持ち場を後続部隊に任せ一時帰還しました」



「御苦労様でした。二、三日は体を休めなさい」


「はっ…………。ところ、で」



 彼女が静かに立ち上がり、前髪に隠された顔の奥で訝し気な表情を浮かべ周囲へと視線を送る。



「この咽返る程の残留魔力。そして、私を見て驚いた蜘蛛の兵士達。これらから察するに……。淫魔の女王がどうして此処に??」



「此度の件についての謝罪だそうですよ」



「謝罪……。あの、エルザード様が??」



 意外。


 そんな顔を浮かべて話す。



「彼女は一応、種族を纏める地位に居ますからね。他種族に禍災を与えた事に矮小ながら謝意を覚えたのでしょう」



「左様で御座いますか……。アオイ様は??」



「既に出発しました。ふふ……。娘が居なくなり寂しいのでは無いですか??」



「いえ。アオイ様は私の事を避けておられますので……。では、執務に戻ります」



「執務を終え次第休みなさい。――――――――。良いですか?? シオン」




「はっ、畏まりました。フォレイン様」



 彼女が静かな所作で頭を垂れ、女王の間から姿を消した。




 蜘蛛の女王は嬉しそうな吐息をふぅっと漏らし、ぼんやりと宙を見つめる。


 その先に浮かんだのは娘の成長した姿なのか。


 将又、娘が彼と共に命を生み出し。新しい家族を持ち帰って来た姿なのか。




 前者とも、後者とも捉えられる笑みを浮かべて。暫くその姿を堪能した後。




「さて。これから忙しくなりそうですね」



 陽性な感情の笑みを浮かべたまま椅子から立ち上がると、その足で後方の執務室の扉へと進み。


 キィっと木が軋む音を奏でると蜘蛛の女王の間には真の静寂が訪れたのだった。


お疲れ様でした!!


今回の話を以て蜘蛛の里の話は暫くお休みです。



いよいよ北へと向かった彼等を待ち構えているのは果たして……。


引き続き、楽しんで頂ければ幸いです!!

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