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第七十七話 お手本は出来るだけ忠実に再現すべし

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 いつもの薄暗い裏路地から活気と陽気に満ち溢れている西大通りへワクワクした感情を胸に抱いたまま抜け出ると、相変わらずの人の多さに思わず驚きの声が漏れてしまう。



『ほぉ――。相も変わらず人だらけねぇ』



 人が多ければ多い程経済活動が潤沢に交わされ、自ずと活気に満ち溢れて来る。


 凛とした風光明媚な自然溢れる光景も好きだけど人と文化が溢れ返るこの街の光景も好きだな。


 流れて行く人の顔を見るだけでも飽きないし何より、これだけ人が多ければそれだけ美味しい御飯が作られる訳なのだから……。


 人間達よ、今日も私の為に美味しい御飯ちゃんを作ってね??



『もう直ぐ昼なんだし人が多いのは当たり前だろ。でも、出て来たのはいいけどさ。レイドはどこにいるか分かるのかよ??』



 隣のユウが疑心暗鬼の様子で私を見下ろす。


 むっ!? その目はまさか私の今後の行動を見越しての目付きか!?


 今は御飯以外の目的を持って行動しているのでちゃぁんとそれに従ってあげるわよ。勿論、『今は』 だけどね。


 ボケナスの慄き慌てふためく顔を一通り満喫したらあんたらの財布を頼りに沢山のご飯を食べる予定なのさっ。


 これこそが幾多の戦場を経験してきた策士もあっと驚く私の作戦。


 んふふ――。ちょいと遅めのお昼ご飯は何にしようかしらねっ。



『確かこの街の北西区画って言っていたでしょ?? そこまで散歩気分で歩いていけば見つかるって』


『そうだな。近付けば主の匂いや力の源も察知出来るであろう』



 リューヴがいつも通りにキっと眉を尖らせて話す。


 常々思うのだけど、あんなに眉を尖らせて疲れないのだろうか??



『わぁ――。今日も人で一杯だねぇ』



 雷狼の片割れは常にニッコニコのだらしねぇ表情を浮かべているし。


 その中間地点というか丁度良い塩梅を見付けて欲しいと思う訳なのよ。


 人波を掻き分け、馬車の往来の邪魔にならぬ様に広い車道を颯爽と駆け抜けて北へと向かう。



『我々では主にある程度接近せねばその力を掴み取る事が出来ぬ。遠方の位置から確認する為には、やはりカエデやエルザード殿が使用している感知魔法が必要になるのか』


『そうねぇ。あそこまで高度な索敵力ってなると一朝一夕じゃ習得出来ないからなぁ』



 日が暮れ、月が何度も頭上に顔を覗かせても私では習得に至らないだろう。


 と言うか。


 途中で嫌になって絶対投げ出しそう。



『あたしも魔法は苦手だからな。そっち系はアオイとカエデに任せるよ』


『ちょっと。カエデは分かるけど、何でそこで蜘蛛の名前を出すのよ』



 ユウの脇を肘で突いてやる。


 おほっ、丁度良く柔らかっ。私の肘も大層満足しておりますよ??



『も――。マイちゃんもいい加減認めなよ。アオイちゃんだって凄い魔法使えるんだからね?? カエデちゃんがちょっとアレだから目立たないだけ、だけど。私達からして見れば十分凄いんだよ??』



 うんぬぅ。


 お惚け狼も蜘蛛の肩を持つのか。



『こいつとアオイは犬猿の仲なんだよ。お互いの事を認めていても絶対口に出さないからな』



 いや、犬猿の仲じゃなくて。龍と蜘蛛の仲なんだけど??


 まぁ揚げ足を取る訳にもいかんだろうし、大らかで優しい私が貴様の間違いを流してやろう。



『はぁ?? 認める?? んな訳あるか』


『怒らないから言ってごらん?? 大丈夫だよ――?? 怖くないからねぇ――??』


『おい。その無駄に育って今にも破裂寸前の乳、噛み切るぞ??』



 お道化るユウに自慢の歯を剥き出しにして言ってやった。


 流石にここで龍の姿に変わる訳にはいかないし。


 本当は龍の牙で噛みついてやりたい所よ。



『ご、ごめんって。穴を開けるのだけは勘弁して』


『ふっ。宜しい』



 胸を両腕で隠し………きれていないけど。


 防御の構えをして私から一歩離れる。



『マイちゃんに噛まれると跡残っちゃうからなぁ。ねぇ、まだ着かないの??』


『ん――。もう少しよ』



 本当に小さな米粒程度だけど、ボケナスの力の源を徐々に捉え始めた。感覚的には数百メートル先って所かな。



『もう少しぃ?? 全然それらしき気配……。ん?? なぁにぃ?? あの人達』



 ルーが目を細め。正面、遠くに見える二人に焦点を合わせた。


 堅牢な門の前に何だか素人丸出しの構えで二人の男女が姿勢を正して警戒している。


 そして、彼等の後ろには二メートル程の高さの壁が聳え立ち左右にぐるりと展開していた。



『多分あそこじゃない?? ほら、何かそれっぽい施設だし』



 開かれている門の先。


 そこには大きな木造二階建ての建物が腰を据えており、今も忙しなくその中へ人々が駆けこんでいる。



『壁伝いに……。裏手に回ってみるか??』


『ユウちゃんにさんせ――。真正面からだと絶対入れてくれないし』


『了承した。これから先は主に念話を聞かれてしまう恐れがある。矮小な声に切り替えるぞ』



「はいは――い。右と左、どっちから回る??」



 ん――。二者択一か、迷うわね。



「…………。正面の門番以外の匂いは掴み取れん。どちらから向かっても見つからないだろう」



 リューヴが整った形の鼻をスンスンと動かす。



「じゃあ、左側から行こうか。バレそうになったら速攻で逃げればいいし」


「そうだな。うしっ!! 早速行動開始と行きますか」



 門番の死角から左方向の路地に抜け、その先に続く道を捜索する。


 ふふ――んっ。楽しくなって来たわよ。


 さぁ……。ボケナスやい。私達の思い出の中にハッキリと残る情けない顔を見せなさいよね!!























 ◇




 これから始まる技術指導で今回の任務は終了、か。


 着替えを済ませ、ベッドに腰かけて一息付いていると講義とはまた違う緊張感の種が芽を咲かせてしまう。


 彼等の前での戦闘の実演、訓練生達へ組手の指導。果てはスレイン教官のデートを賭けた模擬戦闘への参加。


 技術指導並びに実演は任務だからやむを得ないとして……。何で俺が訓練生達の模擬戦闘に参加せにゃならんのだ。


 それも全てビッグス教官の所為だ。あの人が俺に対して提示した賭け事が諸悪の根源。


 鉢巻を奪取されてしまったらミュントさん達の言いなりになってしまう。


 任務が終われば忌々しい紙との格闘が待ち構えているってのに、その時間を割いて彼女達の相手をしなければならない。


 只でさえ時間が足りないのにあの子達の相手を務めていたらそれこそ心労祟って倒れちゃうよ。


 強制的に受けてしまった一連托生の罠の事を思い出すと何だか胸の中にモヤモヤした憤りの雲が流れて行く。それを必死に宥めて澄み渡った美しい空を保とうと心掛けていると、扉から乾いた音が響いた。



 ビッグス教官かな??



「はい。どう……ぞ」



 え?? 誰??



「入るぞ――。おっと危ない。そろそろ技術指導を開始する。準備は出来たか??」



 あ、ビッグス教官か。



「え、えぇ。既に準備は整っていますけど……」


「よし!! 行くぞ!! ぬぉっ!! いかんな……。まだ高さに慣れん」


「了解しました。というか……それ。御自分で制作したのですか??」


「え?? そりゃそうさ。こいつのお陰で今日は寝不足って訳よ!!」



 黒みがかった緑色の大蜥蜴擬きの頭をスッポリと被ったビッグス教官が己の頭らしき場所をポンっと叩いて話した。



 材質は恐らく厚紙。


 俺の報告とビッグス教官の想像力で大蜥蜴の顔を模した被り物を制作したらしいが……。


 とても精巧に作られたとは言い難い不細工な顔立ち、鋭く尖った目は何だか柔和に垂れ下がって弱々しく映り、左右の形が異なる口元と妙に丸い牙が見ている者に虚脱感を与えてしまう。



 このヘンテコな顔をあいつらが見たら絶対怒るぞ。


 余りの似て無さに思わず溜息が漏れてしまった。


 せめて恐ろしい顔付きだけは再現して欲しかったのが本音です。アイツ等と特徴が一致するのは体表面である黒みがかった緑の鱗だけじゃないですか。



「むぅ……。歩き難いのが難点だな。うおっ!?」


「それ、作る意味ありました??」



 訓練場へと向かい静かな通路を歩きながら話す。


 彼は足元が覚束ないのか、時折妙な躓き方をしていた。



「当り前だ!! この顔は兎も角。頭の中に強烈な印象が残るだろう?? こいつらと対峙した時。あ――!! ビッグス教官が作った被り物と似ているなぁ、って。初めて会っても驚かない様に工夫を凝らしたのさ!!」



 いや、その被り物を被って胸を張って言われましても全然説得力が足りませんよ??


 無駄な努力までとは言いませんが、その情熱を違う方向に向ければ良かったのに。



「違う意味で彼等は驚くと思います」


「は?? どういう意味だ??」


「全然似ていません。本物はもっと獰猛な感じでした」


「な、何を言う!! こいつだって……。ここか?? カッコイイ牙があるじゃないか!!」



 大蜥蜴の右頬辺りを指して憤りの声を放つ。



「そこ、頬です」


「あ、ここか。細かい事はいいんだよ!! 大事なのは想像力さ!!」



 これを相手にする俺の身にもなって下さい。



「さぁ!! 俺の最高傑作を披露する時が来たな!!」


「教官。そっちじゃなくてこっち」



 十字路に差し掛かり、直進しようとする教官の肩をグっと掴んで訓練場へと続く北出口に体を向けてやる。



「おぉ。すまんすまん」


「どこから見ているんです??」


「ここだよ。ここ」



 教官の指を追うと……。



「あ、そこですか」


 大蜥蜴の喉の中腹辺りに極小の穴が開いていた。


「もっと大きく開ければ良かったのに」


「それじゃあ人間が入っているって分かっちまうだろ!!」



 変な所で細かいですよね。もう好きにして下さい、自分はそれに合わすだけですから。



「ほら。出口ですから頭下げて」


「む?? どあっ!!!! いてて……。レイド。もう少し早く言え」


「無茶言わないで下さい」



 大蜥蜴の喉を抑えながら慎重に北出入口を潜り抜けて太陽の下へと躍り出ると、訓練場には既に訓練生並びに教官達が全員揃い俺達の到着を待っていた。


 なだらかに下る坂をビッグス教官と共にゆるりとした歩調で進んで行くと当然ながら陽気な声が上がり俺達を迎えた。



「ぎゃはは!! ビッグス教官!! それ何ですか!!」


「不細工過ぎます!!」


「あはは!! 可愛い――!!」



 ほらぁ、絶対こうなると思ったんだよ……。


 肩を竦めてしまう大変居たたまれない気持ちで全員の前に到着してしまった。



「待たせたな!! これから、技術指導を行う!!」



 むんっと胸を張り偽大蜥蜴が声を張り上げた。


 偉そうにしないで下さい。


 余計可笑しく見えちゃいますから。



「と言う訳で、レイド!! 先ずは大蜥蜴と会敵した様子を伝えろ!!」



 あ――。はいはい。


 了解しましたよっと。



「皆さん、只今から技術指導を行わせて頂きます」



 先ず訓練生、並びに指導教官の方々へキチンとお辞儀を交わし偽大蜥蜴から少し距離を取った。



「自分が出会った大蜥蜴は先ずこちらを見下し、あからさまに格下と決めつけ余裕の構えを取りました。教官お願いします」



「へ?? それもやるの??」


「えぇ。そういう流れと御伺いしましたよ??」



 勿論。これは即興で思いつた仕返しだ。


 俺が多大に覚えている羞恥を共有して下さい。



「こ、こうかな?? ウェハハ!! 俺様はテメェよりもつえぇんだぞ!?」



 腕を組んで嘲笑い、傍から見ても腹が立つ構えを取る。



「「「あははははは!!」」」



 それと同時に湧き起る笑い声。


 勘弁して下さい……。俺達は道化じゃないんですよ……。



「自分の装備は弓矢と短剣でした。あ、これ使っていいんですかね??」



 訓練場の乾いた砂の上には鏃の抜かれた矢と弓。そして木製の短剣の模造刀が置かれていた。



「し、使用しても構わないわよ」



 口元をクニャクニャに歪めているスレイン教官が肯定してくれる。


 愛しの彼の可笑しな姿を捉えて何の遠慮も無しに笑いたいのだが。訓練生達の手前、込み上げて来る笑いを必死に抑えている感じですね。


 無理しないで笑えば良いのに。



「有難う御座います。えっと……。相手は大きな鉈、此方と距離があるというのに向こうはそれでも余裕の構えを解きませんでした」



 俺がそう話すと。



「ふふんっ」



 偽大蜥蜴が背中から厚紙で制作した鉈?? を器用に取り出した。


 それも作ったんですか??



「敵意を剥き出しにした訳でもありませんでしたので、様子を窺う為に相手の大腿部へと矢を穿ちました…………。よっと」



 弦を引き、教官の大腿部へ目掛け矢を放ってやった。



「いって!!!! おい!! 撃つなら言え!!」



 プンスカと怒りを露わにして鉈を振り回す。



「あ、丁度いいですね。今しがたビッグス教官が取った行動。それに似た行動を大蜥蜴もしました。それはまるで。おい!! 卑怯だぞ!! そんな風に言っているようでした。ほら、教官。やって見せて下さい」



「えぇ!? こ、こうだな!!」



 右手に持つ鉈をしっちゃかめっちゃかに振り回し、地団駄を踏む。



「そうそう。良い感じです。感情の無い生物はこんな動きをしませんよね?? ここで自分は相手にも様々な感情があると確信しました。当然、怒り狂った相手は俺に目掛け襲い掛かって来ます。教官。鉈が届く距離に近付いて下さい」


「はぁっ……。はぁっ……」



 やたらめったらに鉈を振り回して、既に息を荒げている偽大蜥蜴に声を掛けた。



「おう!! 行くぞ!!」


「違います。反対です」


「お、おう……」



 クスリと誰かが笑いを漏らした音が俺の羞恥心を擽る。


 早く終わらせないと……。


 でもなぁ。これは一応、指導だし。


 此処で誰かに質問を投げかけた方がいいよな。



「はい、そこで止まって下さい。皆さん。今から戦闘を開始するに至って幾つかの選択肢があります。思いつく限りを答えて下さい。じゃあ……そこの君。答えてくれる??」



 一番手前に座る黒髪の男性に当ててみた。



「はっ!! 自分は弓を装備したまま距離を取り、攻撃を続けます」



「うん。悪くない選択だね。当然、相手は遠距離攻撃を仕掛けて来ない。距離的優位を保つのは良い事だ。じゃあ……アッシュ君。答えて??」



 列の一番奥。


 相変わらず斜に構えた態度でこれ見よがしに手を上げる彼に当ててみた。



「俺だったら……。相手の鉈を剣で受け止めて、蹴りを放ちますね。それで隙が出来た腹や喉元に剣を突き刺してやらぁ」



 おやおや。


 どうやらアイツ等の怪力を甘く見ているようだな。



「う――ん……。その選択肢は余りお薦めしないかな。相手の腕力は人のそれを遥かに凌駕するんだ。昨日説明しただろ?? 地面が抉れるくらいに凹んだって。君は鍛えているかも知れないけど、まだ受け止められる段階じゃないかな??」


「ちっ……」



 舌打ちをして不貞腐れた様に座ってしまうと。



「……っ」



 スレイン教官の鷹の目が彼を慄かせた。


 相変わらず学ばない子だなぁ……。



「次は……。はい、レンカさん」



 アッシュ君から少し外れ、しっかりと腕を伸ばして挙手している彼女に当ててやった。



「自分は、相手の斬撃を躱し人体の弱点でもある脇へ短剣を突き刺します。中途半端な距離は相手の腕の長さを考慮するとこちらが不利になります。敢えて、超接近戦を挑み距離の不利を克服します」



 おぉ。


 昨日教えた通りの事を言ってくれたな。



「うん。それも正解の選択肢の一つだよ。だけどさ、今の大蜥蜴は不細工面だけど」


「不細工じゃない!! カッコイイだろっ!!!!」



 あぁ、もう。


 収集が付かなくなるから黙ってて下さいよ。




「…………。得も言われぬ姿だけど、本物はもっと獰猛な面構えをしているんだ。それはもう猛獣だと断言していい。それに対して接近戦を挑むのは正気の沙汰じゃないと思われるかもしれない。けど、今レンカさんが言った通り長い腕の内側に入ればある程度の攻撃は予測出来るんだ。教官、今から懐に入りますから適当に鉈を振り下ろして下さい」


「適当?? 上段からでいいか??」


「えぇ。それで構いません」



 よし。


 一丁動きますか。


 足首を解し、脚力を解放する準備を始めた。



「よぉし……。どらぁ!!」



 ビッグス教官が鉈を天高く構え、俺に向かって一気苛烈に振り下ろす。



 おぉ!! 早い!!


 鉄では無く厚紙で作られた分、重さが軽いのか。


 想像より一段速い速度で鉈が襲い掛かる。



 んっ!!


 脚力を解放して、鋭い速さの攻撃を潜り抜けて彼の右半身に体を置いた。


 さて、後は右手に持つ模造刀で偽大蜥蜴のお腹をちょんと刺して……。


 大変優しく止めを刺そうとした刹那。



「甘い!!」


 ビッグス教官の鍛え抜かれた左の拳が俺の顎目掛けてせり上がって来た。


 ここまでやるとは聞いていませんでしたよ!?



「っ!!!!」



 空気を切り裂く音を奏でる拳。


 武に通ずる者なら等しく頷くであろう威力と速さを兼ね備えた塊を間一髪上体を逸らして回避。


 左の拳が空を切るとほぼ同時に短剣の模造刀を教官の腹へ突き立ててやった。



「「「おぉっ……」」」



 それと同時に訓練生達から感嘆の声が漏れる。


 そこまで凄く無いと思うけど??



「今お見せした通り、相手の攻撃の後には必ず隙が生まれます。その一瞬を見逃さず攻撃に転化して下さい」



 模造刀の切っ先をすっと外して訓練生達の方を向く。



「オ、オホン!! 皆、見たか?? 今レイドが取った行為は簡単そうに見えて実は大変な勇気が必要なんだ。相手に向かう勇気、それを決して忘れず訓練に励んで欲しい。では、各訓練生は二人一組を組み。組手を開始してくれ」


「「「はいっ!!!!」」」



 威勢のいい声を上げた訓練生達が、互いの組同士が衝突しない距離を取って組手を開始した。



「レイド。お前は自由に動き回って組手の様子を見てやってくれ。何か気になる事があれば指導を加えろ」


「了解しました」



 よし、これで道化の役目はお終い!!


 後は皆の動きを見て気になる点があればそれとなく伝えて行こう。


 教官の声を受け、訓練場の上で鋭い声と拳が交わされている輪へと向かい歩み始めた。


















 ――――。




「…………ビッグス教官」


「何だ??」



 被り物を外すとスレインが俺の隣に立ち何やら意味深な小声で話し掛けて来た。


 昼からの模擬戦闘の事かしら??



「さっきの拳。本気で打ちましたよね??」



 あ、そっち。



「あぁ。アイツはそれを容易く躱しやがった」


「えぇ。正直……。彼の素早さと身の熟しに肌が泡立ちましたよ」


「完璧に捉えたと思ったんだけどなぁ。これの所為か??」



 両手で大事に抱える素敵な被り物を見下ろして話す。



「それは関係無いと思います。あの完璧な軌道、威力、速さ。私も確実に捉えたと思いましたから」


「ふぅむ。レイドの奴め。余程厳しい指導を受けたな??」


「指導??」



 小首を傾げてこちらに問う。



「任務地で武術の心得がある者に師事したらしいんだ。あの動き、踏み込みの速さ。良い師を持ったな」


「雛鳥の飛翔がいつの間にか親鳥のそれを超す。嬉しいようなもどかしいような。複雑な気分ですね」


「俺は嬉しいぞ?? 教え子が俺の教えを越えたんだ。親鳥は温かい眼差しで目を細めて子の成長を見守るのさ」




「う、うん。今ので良いと思うよ」



 訓練生の輪の中へ入り、たどたどしく助言を放つレイドを見て言ってやった。



「これからの成長が楽しみ、ですね」


「まだまだ伸びしろはある。願わくば、俺達の目の届く範囲で活躍して貰いたいものだよ」


「ビッグス教官!!!! ちょっと手伝って下さい!!」



 親鳥よりも数段上の力を持つ雛鳥が俺に助けを請う。



「ふふ。あの慌てた顔。やはりまだまだ親鳥は安心出来ませんね」


「だな。分かった!! ちょっと待ってろ!!」



 強さは頷けるが、指導者としてはまだまだひよっこよ!!


 俺が指導はどうあるべきか。


 その神髄の欠片を見せてやるとしますかね!!


 心血注いで制作した被り物を大切にそっと地面へ置くと。誰よりも高く、鋭く、速く飛べる筈なのにその技術を伝える事が本当に不器用な雛鳥の下へと駆け寄ってやった。




お疲れ様でした。


皆さんはこの作品の中で気に入っている登場人物はいらっしゃいますか??


私がそれを言ってしまうと贔屓して登場させていると思われてしまいますので言えませんが、勿論筆者もお気に入りの登場人物は存在します。


このサイトでアンケート機能でもあればそれを利用して投票数が最も多い登場人物を決めて、番外編の特別編として執筆出来るのですがね……。


そして、第一部での魔物側のヒロインはほぼ出尽くしたのですが……。人間側のヒロインはまだ四人しか出ていない状況なのでやきもきしている状態が続いております。


その人物が登場するのはずぅっと後の御話になるのでそれまで気長に待って頂ければ幸いです。




評価して頂き誠に有難う御座いました!!!!


気持ちが萎えてしまう週の始まり。そんな下向きな気持ちを払拭してくれる嬉しい励みとなります!!


今週も頑張って投稿させて頂きますね!!


それでは皆様、お休みなさいませ。

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