第七十四話 偽りの評価
お疲れ様です。
週末の深夜にそっと投稿を添えさせて頂きます。
それでは御覧下さい。
大食堂で大変わんぱくな子犬との戦いに勝利を収めたのは良いが……。
さ、流石に食い過ぎた。
重い腹に四苦八苦しつつ、息苦しい呼吸を続けて鈍重な体を引きずる様にして通路を進んでいた。
少しでも気を抜けば口から何かが零れ落ちてしまいそうな気がする……。
「あ、レイドせんぱ――い!! もう皆さん集まっていますよ――!!」
一回生の一組からミュントさんが陽性な顔を覗かせて此方に催促する。
はいはい。
今行きますから待っていて下さいね――。
弱々しい足取りで教室の前に辿り着き扉を開けると。俺の想像より遥かに多い人数が教室の中で待機していた。
蝋燭の淡い橙の色に照らされた教室内の席は既に満席状態。椅子に座れない訓練生達は最後方の壁際に立ち見をしている。
うわぁ、こりゃ怒涛の質問攻めに遭って暫く解放されそうにないな……。
「ごめん。お待たせしました」
教壇に上がると先ずは謝罪の言葉を述べる。
「えぇっと……。こうして質疑応答の時間を設けてくれたのは教官達の嬉しい計らいがあっての事です。けどさ、俺は皆と歳もそう変わらないし階級もまだまだ低い。だから、何でも気兼ね無く質問して下さい」
周囲を見渡してそう話す。
おっ、リネア達二回生も来てくれたのか。
彼女と目が合うと。
「……っ」
自然な柔らかい笑みを返してくれた。
二回生達の中には見知った顔がちらほらと見受けられ、その顔は普段と変わらぬ落ち着いたものであるが。
まだ一回生の子達を中心に硬い表情が見られる。
多分、教壇の上から見下ろしているからどうしても硬くなってしまうのだろう……。
よし、皆の緊張感を解す為。一つ工夫をしましょうかね。
「今から始めるのは座学でも訓練でも無い、只の質疑応答だ。皆で輪を作って話をしたいと思う。と、言う訳で……。全ての机と椅子を教室の端に寄せようか」
教壇から降りて、率先して作業を始めると皆も俺に倣ってくれる。
申し訳ありませんね。手伝って貰って。
作業は滞りなくあっと言う間に終わり、各々が床に腰を下ろして大きな一つの輪が出来た。
うんうん、いいぞ。
これぞ一致団結しているって感じだ。
「手伝ってくれてありがとうね。じゃあ、早速質疑応答を開始します。何か質問がある人はいますか??」
当然ながらこの場にいる全員が挙手をする。
誰を当てようかな……。
さり気なく見渡して考えていたが、これじゃ収拾が付かなくなると考え。左隣りに座るリネアを当てた。
「リネアを最初に当てたけど、人数が多いからこのまま時計回りで質問を受け付けて行くよ?? いいね??」
人で形成された輪をざっと見渡すが特に文句が返って来る様子も無い事に一つ息を漏らす。
「じゃあ、リネア。質問を」
「はいっ。レイド先輩はオークと戦闘を繰り広げる時、何に注意を払って戦闘を継続させていますか??」
「そう、だね。先ず注意するのは相手の数かな。正確な数を掌握して、常に変わる状況を見定め理解する。状況判断を行えば死に直結するからね。覚えておくように」
「有難う御座いました」
いえいえ、どういたしまして。
「じゃあ、次は君だね」
一回生の赤毛の男性を当てる。
「はいっ!! オークの具体的な攻撃方法が知りたいです!!」
「あいつらは基本的に武器に頼った攻撃方法を取るよ。まぁ、個体差はあるけど基本的にはそう捉えて貰っても構わない。武器を持っていないからって油断はするなよ?? 素の力でも人間の体を裂くのは可能なんだから」
「き、気を付けます!!」
礼儀正しい子だなぁ。
態々お辞儀をしなくてもいいのに……。
「素手での攻撃方法は一体どんな感じなのでしょうか!!」
おっと。
その説明はしていなかったな。
次の質問の番の子が威勢良く話す。
「そうだね……」
これは言葉で説明するよりも実際に見て貰った方が早いでしょう。
「リネア、ちょっと立って」
「あ、はいっ」
彼女と二人で輪の中央に歩み、数歩程の距離を取った。
「オークは武器を携行しているのが常だけど、戦闘中に失った場合。素手に切り替えるんだ。鋭い爪と剛力。普通の人間なら容易く絶命させる程の力を有している。リネア、構えて??」
「了解です」
正面に向けていた体を斜に構え、戦闘態勢を整える。
おっ、中々良い構え方だな。
隙の少ない構えに思わず頷いてしまった。
「先ず、この距離なら向こうは腕を使った攻撃を試みるだろう。愚直に、真っ直ぐ。何の遠慮も無しに突撃してくる」
リネアに向かい、ゆっくりと右腕を前に突き出しながら進む。
「オークの弱点は人間のそれと差異は無い。隙を見付けて強打を叩き込めば相手は土に還る。冷静に攻撃方法を見定め、的確な位置に攻撃を当てる。リネア、避けて攻撃してみて?? 当てるなよ??」
「ふふ。分かっていますよ」
皆に分かり易い様に左の拳を真っ直ぐに突き出す。
すると彼女は左足を一歩前に出して攻撃を躱し、俺の右半身側に身を置いた。
「彼女が今いる位置は絶好の攻撃を与えられる場所だ。こちらが攻撃を仕掛けて来る事を予想して、それを掻い潜って顎に一撃を与えるか。それともこのままアバラをへし折ってやるか。判断は各々に委ねるよ」
俺の体の中心をいつでも打てる彼女の顎へ向かってゆっくりと右の拳を突き上げてやる。
リネアは俺の拳を素早く回避。己の右の拳を俺の顎先にピタリと止めた。
「顎に拳を当てて相手の顔が跳ね上がったら後は好きなだけ殴れ。携行している短剣で殺傷するのも選択肢の一つだ。相手を見ても畏れない、慄かない、引かない。勇気ある行動が己の窮地を救うと信じてくれ。リネア、付き合ってくれてありがとうね」
彼女の拳に右手をそっと合わせて呟くと。
「い、いえ……」
この部屋暑いのかな??
彼女の頬がぽっと朱に染まる。
「はいっ!! は――――いっ!!!! 次は私の番ですっ!!」
今度はミュントさんの番か。
こちらの方を向いて勢い良く手を上げている。順番通りに当てる予定ですからそこまで仰々しく挙手する必要はありませんからね??
「はい。ミュントさん、どうぞ」
「多数に囲まれた時の対処方法を教えて下さい!!」
多数、か。
「多数に囲まれた。そんな絶望的状況を作り出さない事の方が大事だけど。包囲された時の対処方法は死角を出来るだけ作らない事。それと一点突破を心掛け、速やかにその窮地から脱出する事だ」
「良く分からないから実戦形式で教えて下さい!!」
語彙力が至らず申し訳ありません……。
「構わないよ。ミュントさん、リネア。そのまま前後で俺を挟撃してくれるかな??」
「は――い!!」
「分かりました」
ミュントさんが軽快な足音を立て俺の背後に身を置き。
リネアがそのまま真正面で俺と対峙する。
「前後に挟撃されてしまうと、どうしても背中側は死角になってしまう。この時大切なのは相手の気配を察知する事だ。呼吸音、足音、そして殺気。五感を最大限に高めて相手の位置を常に把握しながら集中力を切らさない事。……よし。二人共、自由に向かって来て」
相手は訓練生だと決めつけ、嘗めて掛かると火傷を負う恐れもあるな。
ちょっと集中しましょうかね。
大きく息を吸い込み、此処は戦場であると己の身に言い聞かせて集中力を高めた。
「行きます!!」
リネアが鋭い踏み込みと共に右の拳を前に突き出す。
「ふっ!!」
此方の体に直進して来る彼女の的確な攻撃を左手の甲で弾き微かに軌道を逸らす。
「わっ!?」
そして微かに生まれた隙を見逃さずにリネアの襟を掴み、背中側へと力の限りに引っ張ってやった。
「たぁっ!! って!! リネア先輩そこ邪魔です!!」
「「キャァッ!!!!」」
俺の背後から迫って来たミュントさんの体とリネアが仲良く衝突。
二人は縺れ合う形で床に倒れ込んでしまった。
「ふぅ、上手く出来たな。今見た様に相手の体を利用して向こうの勢いを相殺するのも一つの手段だ。これで挟撃の状況は無事に突破出来た。引き続き警戒を続けて包囲の死角を無くして各個撃破に務めなさい」
「も――。レイド先輩酷いですよ――」
「いたた……。ちょっと、ミュント!!」
「え?? あわわぁっ!!」
衝突の衝撃を受けて開けてしまったシャツを慌てて直して恥ずかしさを誤魔化す様に素早く立ち上がる。
「もう……。まさか狙ったんですかぁ??」
「い、いいえ。そこまで器用じゃありません」
「「あははは!!!!」」
俺の返しの言葉に陽性な笑い声が上がる。
嫌いな空気じゃないな。只、ちょっと気が抜け過ぎな気もするけどね。
さて!! この調子で彼等の質疑応答に応えて行きましょうか!!
◇
奴の心配をして来てみれば……。
「前後に挟撃されてしまうと、背中側は死角になってしまう。この時大切なのは相手の気配を察知する事だ。呼吸音、足音、そして殺気。五感を最大限に高め、相手の位置を常に把握しながら集中力を切らさない事……」
俺の想像以上に的確な指示を与えて育成に励んでいるじゃないか。
通路側の窓の影からそっと教室の様子を窺っていたが……。どうやら俺の杞憂で済みそうだ。
「――――。どうですか?? 教え子の様子は??」
足音、そして気配を完全に消した所作で闇の中からスレインが現れ。俺と同じく教室内の様子を窺う。
ちょっと驚いちゃったからもう少し気配を滲ませて接近して欲しいのが本音だ。
「スレインか。うん、驚く程素直にアイツの言う事を聞いているよ」
「現役の兵から直接話を聞ける機会は少ないですからね。それでかもしれません」
「いや、これはアイツの指導力だよ。一人一人に対してしっかりと向き合っている。指導する側に向いているのかもしれんな」
奴の階級、及び年齢ではまだ早いかも知れんが。幾多の戦場を経験して、年を重ねれば俺よりもきっと優秀な指導者へとなってくれるだろう。
「ビッグス教官。私は彼に対して……」
スレインが周囲へ刹那に目配せをすると。
「正直に申しますと、彼に下された評価には納得していません」
俺にだけ聞こえる声量で話した。
「お前もか??」
「はい。ここを出る時、彼の成績は下から数えた方が早い程評価は低かったです。私は正直、首席卒業のトアと遜色無い成績だと考えていましたが……」
「評価を下すのは軍の上層部になっているが……。知っているか?? 今から約三年前の異常なまでの助成額を」
教室から視線を外して彼女の横顔を見つめて口を開く。
「いえ、知りません」
「三年前、我が軍の最大資金提供者であるイル教からいつものそれに比べて膨大な額が軍部へ助成された。オーク共は徐々に沈静化の一途を辿っていたがそれでも活動資金は多いに越したことはない。上層部の連中はある条件を飲む事にそれを受け入れた……」
「条件??」
「あぁ、その条件は」
彼女から視線を外して教室内で熱弁を揮っている教え子を捉えて話す。
「前線の配備転換、階級の付与等々。厄介な条件が提示されるかと思いきや。提示されたのは間も無く入隊するであろうニ十期生達の成績の評価、並びに卒業時の配属を自由に決める事だ。たかが訓練生達の評価と新人達の配属だ。上層部の連中は涎を垂らして飛びついたのさ」
「初耳ですね、その情報」
「ちょっと前に本部で手癖の悪い同期と会ってさ。そいつと食事に出た時に調べてくれる様に頼んだんだよ」
食事以外にもアレコレと買いやがって……。物凄く高い買い物になってしまったけど、その事実を知るだけでも見返りは十二分であった。
事実は理解出来た。しかし、その目的が今でも理解に及ばない。
何故アイツ等はたかが訓練生の評価と配属の為に大枚を叩いたのか。
ニ十期生達だけなのも気掛かりの要因の一つだ。
「成程……。彼等の試験結果を精査せず。只単に纏めて提出していたのはそういう訳だったのですか」
「その通りだ。俺も不審に思っていたがそういう背景があったとはな……。レイドは己自身の評価を正当であると信じて訓練に励んでいた」
「私達の予想では学科は常に上位、しかし下された評価は頗る芳しくない。剣技、馬術は私達の予想通り並み程度。そして、卒業試験である体力測定では歴代最高値を叩き出した……」
「それでも評価は下だ。流石に俺はおかしいと考えたさ」
今思い返すだけで腸が煮えくり返る。
人の努力を蔑ろにして、正当な判断を下せない程上の連中は腐っているのか。
よっぽど殴り込んでやろうかと思ったが……。
俺も軍属の身。
ぐっと堪えて上層部の判断に素直に従う事にしたが。まさか裏にそんな事情があるとは知る由も無かったからな。
「ビッグス教官は食い下がったじゃないですか。正当な判断を下せって」
「アイツは前線に向かう事を志願していた。俺はその後押しをしたかったんだけど。金の力の前には勝てないって事さ」
「恐らく……。というかほぼ確実に彼が配属された部隊。そこに何か思惑があるのでしょうかね。ほら、急に出来たじゃないですか」
「だろうな。手癖の悪い同期も面食らっていたよ。本部の机に噛り付いていたのに、いきなり新設された部隊を受け持つ事になっちまった。ってね」
「その人もイル教関係者ですか??」
「いいや、無宗教且無神論者だ。自分が信じる物しか信じない奴さ」
『この世の生物を超越した存在するかもどうか怪しいインチキな神様よりも、私は目の前の数字を信じるよ』
此処で共に汗を流している時、レフは口を酸っぱくしてそう言っていた。
『人には時に縋る物が必要かも知れんが、それでも神に縋るのはお門違いって奴。無駄な行為に縋るよりも、金持ちに媚び諂って揉み手をして御機嫌伺いした方が十分有意義じゃあないかい??』
自他共に認める超現実主義者。
俺はそこが気に入って時間が過ぎるのも忘れて話していたものさ……。
「後方勤務の上官と訓練所上がりの新人。たった二人の部隊だけど……。驚く程の戦果を挙げている。奇妙ですね??」
「まぁな。でも、ほら見てみろよ」
リネアとミュントの挟撃をいとも容易く躱し、しかも。
怪我をさせない勢いに殺して前後からの脅威を無効化した。
「へぇ。見事な状況判断力ですね」
「それだけじゃないぞ。まるで後ろに目があるみたいだった。リネアを掴み、体勢を崩し。後方から襲い掛かるミュントの足元へ狙ったかのように誘導させる。やれと言われて、出来る事じゃない」
「激戦が彼を鍛えた、と??」
「食事中に聞いたのだが、任務中にとある武術の心得がある者に指南を受けたそうだ。その人物は素晴らしい指導者なのだろう」
極光無双流、だったか。
出来れば俺もアイツを鍛えたくれた師範に指導を請いたいさ。
「軍は……。いえ、イル教の奴らは彼に何をさせたいのでしょうかね??」
「さあな。人間一人で出来る事なんてたかが知れている。その背後に隠れている思惑の方が俺は気掛かりだよ」
自分達の手の届く所に置きたければ最後方の防衛基地にでも配備して、息の掛かった者を付ければ良い筈なのに……。
それをしないという事は自由に使える駒が欲しかったのか??
最終試験でレイドの結果を加味してその考えに至ったのか。将又、入隊すると同時に目を付けていたのか。
全ては俺の想像の域を出ないが、少なくともイル教のお偉いさん達はレイドに対して何か特別な感情を抱いているのは間違いない。
一体何故彼だけに固執するのだろう……。
それが分からないでいるから胸の中がモヤモヤするのだろうさ。
「いつまでも気掛かりな教え子で困りますね??」
「ふふ……。そうだな」
ふっと口元を緩めると、中の訓練生と目が合ってしまった。
「あぁ!! ビッグス教官とスレイン教官!! 二人で仲良く手を繋いでいるぞ!!」
「はぁ!? んな訳……。ス、スレイン教官??」
彼女は一人の訓練生の言葉を受けると、俺の手に右手を甘く絡ませてきた。
「……っ」
そして、この機を逃して堪るものかと。何やら意味深な感情を込めて俺の瞳を見つめる。
「あ――。こういう時はそっとしてあげるのが大切なんだよ?? 察しと思いやりって奴さ」
あ、あの馬鹿教え子が!!!!
「ほ、ほら!! お前達!! そろそろ消灯時間だぞ!! さっさと宿舎に帰れ!!」
咄嗟に少々強めに俺の手に絡みつく彼女の手を振り払い、大声で叫んでやった。
「スレイン教官が悲しんでいますよ!!」
「へ??」
「シクシク……」
振り払われた右手を嫋やかに抑えてわざとらしく痛がり、仰々しく女性らしさを強調。
しかも表情はどこか悲し気な様子を醸し出していた。
い、いやいや。
その辺の男なら目線一つで慄かせる兵士が取る所作じゃないよね!?
此処は恐ろしい瞳を浮かべる場面じゃないの!?
「ちょ、ちょっと。ずるくない??」
「何がです??」
訓練生達に見えないよう、俺にだけ見える位置で舌を少しだけ出して話す。
「責任取って下さいよ!! 教官!!」
「そ――そ――!! 女を泣かせる男は最低ですよ!!」
止めて!!
もっと増長するから!!
「ひ、酷いです……。私……。男の人にぶたれた事、無いのに」
嘘を付け!! 嘘を!!
「あ――!! もう!! ほら、解散だ。解散!!」
悲しむ女性の雰囲気を醸し出す彼女から離れて大股で教室に入り、憤りを放出してやった。
「甲斐性無しですね――」
「男らしくないですよ――」
「弱虫」
女性訓練生の辛辣な声が耳に痛い。
「喧しい!! 後誰だ!? 弱虫って言ったのは!! 大体、男より強い女なんだぞ!! 泣きたいのはこっちの方だ!!」
「じゃあ、今日はここで解散しようか。机と椅子を綺麗に並べてね」
レイドが纏めの一言を放つと各々が腰を上げ、滞りなくそして素早く整頓を行い教室から出て行く。
「ビッグス教官。スレイン教官に謝らないと」
「あのなぁ。こんな事で泣く奴じゃないって知っているだろ?? あれも演技なんだよ、演技。もっと女らしい女性なら喜んで頭を下げて謝ってもいいけどさ。ハハハ……」
レイドの声を受けてやれやれ。そんな感じで両手を上げるが。
「……っ」
サっと血の気が引いた顔でレイドが黙って背後の窓を指す。
その真意を窺う為に何気なく後方を振り返ると……。
「…………」
窓の外。
大変くらぁい廊下には地獄の業火も温いと感じる程の怒りを瞳に宿した一人の鬼がいた。
「あぅっ……」
「処理はお任せします」
スレインが俺に向かい、人差し指でクイクイと手招きする。
「お、俺。死にたくない……」
「大丈夫ですよ。きっと死なない程度に手加減してくれますから」
俺の肩をポンっと叩き唯一残っていた援軍がさっさと。そして何の未練も無い足取りで部屋を出て行ってしまう。
正に孤立無援。退路も、そして補給路も断たれ援軍も望めない状況に絶望し。
「……」
歪な口元を浮かべた鬼神が静かに教室内に入って来ると俺は一人静かに、誰にも決して届かぬ救済の祈りを捧げたのだった。
お疲れ様でした。
レフ准尉とビッグス教官なのですが本話で出てきた通り、彼女から情報提供を受けてその事実を知る事が出来ました。
その時に彼女から主人公が作成した報告書の謄本を見せて貰っています。
許可無く報告書の謄本を作成する事自体が軍規違反なのですが……。そこはぐっと目を瞑ってあげて下さい。
この話を番外編に載せようかと考えましたが余りにも蛇足過ぎるので止むを得ずカットさせて頂きました。
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それでは皆様、よい週末をお過ごし下さいね。




