第六十八話 憐れな人身御供
お疲れ様です。
週末の深夜にそっと投稿を添えさせて頂きます。
それでは御覧下さい。
慣れ親しんだ裏路地がいつもよりも酷く暗く感じるのは気の所為だろうか??
空は程々に晴れ渡っているっていうのに目の前の通りは暗雲が立ち込め、質量を帯びた黒い雷雲が閃光を放ち俺の行く手を阻め。そして子供の頭程の大きさの鉄球を足に括り付けられたみたいに足取りが重たい。
勿論、その原因は周知の通り。怒れる龍の機嫌を宥めに向かっているからである。
お伽噺の類では、俺はさながら龍へ捧げられる憐れな生贄なのだろう。
辺境の村人の粗相が龍の逆鱗に触れてしまい怒り狂った彼女を鎮める為、人々から選出された栄えある人身御供。
一説によると贄は名誉ある存在だと知られているが……。実際の所は選出された本人しかその心情は分からない筈。
きっと。
『はぁ。俺の人生も短かったなぁ……。こんな事になるんだったらもっと美味しい物を食べておけば良かった』
等と思っているに違いない。
俺も贄となった彼と似た様な心情を胸に抱き、彼女の機嫌を伺うには心許ない慎ましい量の供物と共に怒り狂う龍の下へと一歩ずつ確実にその距離を詰めていた。
『大丈夫ですか??』
「へ?? 何が??」
俺の心情を見越したのか、カエデが優しい声色で話し掛けて来る。
『顔色が優れませんよ??』
「あ、うん。生贄になる人はこんな気持ちなんだなぁって思ってた所」
『ふふ。それは大袈裟ですよ』
いやいや。
大袈裟じゃないって。
『私は機を伺って部屋へと戻ります。レイドは思いついた理由の経緯をしっかりと説明して彼女の誤解を解いて下さい』
「ち、因みに。何分程で救出しに来てくれるの??」
『そう、ですね……。早過ぎてもいけませんので』
そこは早く来てくれると助かります。
時間が経過するにつれて五体満足でいられる可能性が消失されていきますので。
『三十分から、一時間といった所でしょうか』
「な、長くない!?」
よ、余裕で撲殺される時間じゃないか!!!!
撲殺処か、綺麗さっぱり惨たらしい遺体を焼却して一切合切の証拠を消し去る事も出来るし!!
『適度だと思いますよ?? 私とずっと一緒に居ると思われたらそれだけでへそを曲げてしまうと思います。私とレイドは図書館を出てから別行動をして、私は一人で宿へと戻って来た。そういう筋書きなのです』
「う、うむ……」
そうやって簡単に言いますけどね??
不機嫌な龍と対話するのは自分なんですよ??
どうしようもない不安な吐息を撒き散らしていると……。ついに龍の居城が見えて来た。
「き、来てしまった」
経年劣化を感じさせる宿は石作りの居城へと変化を果たし、暗黒が包み込む城には途轍もなく酷い臭気が立ち込め。城の主である龍が放つ覇気が城のおぞましさに拍車を掛けて進む事を躊躇させてしまう。
い、今からあの中へ突入しなければならないのか……。
どうせなら世界最高の装備を整えて突入を開始したいが、装備はパンと日用品が入った鞄のみ。
小説の中で不可能に挑まざるを得ない登場人物の心が今ならはっきりと理解出来てしまいますよ。
『最終局面ですね。これ以上近付いたら私の匂いを感知されてしまう恐れがありますので、私は此処で失礼します』
「お、おう。それでは、カエデ殿、出発して参ります」
確と頭を下げ、大袈裟に言ってやった。
『健闘を祈ります。生贄……いえ。勇者よ』
おっ、カエデにしては乗りがいいな。
「はは。情けない勇者ですけど、龍の機嫌を必ずや元に戻してみせます!!」
そして、無事に帰還を果たしてこじんまりとした村で慎ましい余生を過ごすのです!!
『達成の暁には、私を……。妃として迎える事を許可しましょう』
「その御言葉、励みに…………。え?? 妃??」
もしもし?? カエデさん??
そんな筋書でしたっけ??
こんな別嬪な御姫様と結ばれるのなら勇者も本望でしょうが……。
『ルー達みたいに悪乗りしただけです。ほら、時間がもったいないですからちゃちゃっと済ませて来て下さい』
早く行って砕け散って来いと言わんばかりに手を一度、二度軽く振る。
「聞き分けの無い子供をお使いに出すみたいに言わないの。それじゃ、行ってきます」
『安心して下さい。マイはきっとレイドの言う事を聞いてくれますよ。優しい人ですから』
ぎこちない所作で右手を上げてカエデと別れると大きく息を吸い込み龍の居城の扉を開けた。
優しいねぇ。
カエデにとってはそう感じるかもしれないけど、俺から見れば……。
『おらぁ!! 今日の飯、全然少ないじゃねぇか!! 何度言えば私の適量を覚えるんだ!? ああんっ!?』
まぁ、皆まで言うまい。
あの龍は優しいの反対側に位置すると思うのですよ、えぇ。
「すぅ――……。ん――……」
営業時間内だというのに受付内で豪快に居眠りをかましているおばちゃんを尻目に、歩き慣れた廊下を進む。
「……」
床の軋む音が怒り狂う龍の下へ確実に近付いている事を証明。そして、部屋の扉の前に到着すると不穏な空気を直ぐさま感じ取った。
うぉう……。まだ怒ってるな。
長く行動を共にしている所為か、姿を見ずとも不穏な空気は感じ取れるようになってきた。
そして、その主は確実に中に存在する。
扉の隙間から視認出来てしまう程のおっそろしい空気が漏れていますからね!!
ふ、ふぅ――…………。
よしっ!!
生贄は生贄らしく、華々しく散ってやる!!
大きく息を吸い込み。心に烈火の闘志を宿して勢いそのまま!!
門限を破って家に帰って来たうだつの上がらない夫の様に、そぉぉっと扉を優しく開いた。
「た、ただいま――」
声、ちっちゃ!!!! 今の、俺の声なの!?
これには本当、正直に驚いた。
まさか自分の声がこんなにも弱々しい物だとは。
部屋に静かに入室して周囲を確認するが……。不機嫌な龍以外は存在しない。
彼女は出た時と変わらぬ姿でベッドの上で此方へ背中を見せて横たわっていた。
物言わずとも背中から恐ろしいまでの怒りが伝わって来ますよ。
「……」
だ、だって、それ以上近付くなって言っていますもの……。
だが!! 此処で足を止めてしまっては人身御供の役割を果たせない。
足音を立てず、遅々とした歩みで彼女のベッドの近くへと歩み寄った。
「…………。マ、マイ。ちょっといいか??」
「……。何」
こ、こ、こぇぇええええ――――ッ!!!!
は、早く此処から逃げないとっ!!
もしも、俺が空間転移を詠唱出来るのなら今確実に使用していた。
背中、語気、纏う空気。
そのどれにも身の毛もよだつ憤怒が込められている。
「ちょ、ちょっと長くなるから腰かけるぞ」
「……」
沈黙は了承の合図、かな??
出来るだけ彼女の怒りを逆撫でないよう、微塵も振動を起こさないで腰かけた。
「じ、実は。昨日の晩から、マイが不機嫌になった理由を俺なりに考えていたんだよ」
よし。出だしはこんなもんだな。
「死ぬ程考えて、それで……、その。俺なりに思いついた話をさせて貰うよ??」
「……」
お願いします。
沈黙が一番怖いから、何か一言でもいいから話して下さい。
暫く経っても返事が返って来ないって事は、了承の合図で良いのだろうか??
ええい!!
黙っていても考えが伝わる訳じゃない!!
玉砕覚悟で向ってやる!!
「もしかして、もしかしてだけど…………。俺とトアの会話、聞いていた??」
俺の言葉を受けた刹那。
「……っ!!」
彼女の肩がピクリと矮小に動いた。
おぉ!! カエデと導き出した答えの通りかな??
「そこでさ、多分だけど。俺の好みの話。聞いたよね??」
「…………。うん」
はぁぁぁ。良かったぁ。
俺とカエデが導き出した解答は正解だったようだ。
「それが何よ。私に態々言いに来たの?? カエデの事が好きって」
「へっ??」
好き??
好みと、好きは全然違うけど…………。
「別に私に言わなくて結構よ。どうぞ、好きなだけカエデと楽しい事したらいいじゃない」
「ふ……。あはは」
「はぁっ?? 今笑う所じゃないでしょ??」
マイが此方へ振り返り。
冬眠中の熊さんもおいおいマジかよ?? と。大きなお目目をキュッと見開いて驚いてしまう真っ青なクマが目立つ目元で俺を睨みつけた。
重傷患者もそれよりかはマシだと思える程に酷くやつれた顔だな……。
その顔で街中を歩いていたらきっと赤の他人から病院へ行くことを勧められるぞ。
「あぁ、ごめん。実はさ、これには色々訳があるんだよ」
「訳??」
「うん。同期の奴に……。そいつに色々勘ぐられるのが嫌でね?? あの中で俺の好みだって言っても怒りそうにない人。つまり色々と取捨選択した結果がカエデなんだよ」
げっそりとやつれたマイの顔へ優しく言ってやると。
「…………。ェ゛ッ」
ポカンと口をあんぐり開けてしまった。
「何でそれを聞いたマイが不機嫌になるのか知らないけど。兎に角、カエデの事は大切な仲間だと思っているし。そういう関係になりたいと思って言った発言じゃないんだ。強いて言えば冗談って奴さ」
「へ、へ――。ふ、ふぅ――ん。そ、そうなんだ」
またそうやって人に背中を向けて。
人と話す時は顔を見て話しなさいよ。
「だから……。ごめんな?? 不機嫌な気持ちにさせて」
何で俺が謝らなきゃいけないのか分からんが、取り敢えず謝罪の言葉を述べる事がこの雰囲気では正しい選択だろう。
「べ、別に……。気にしていないしっ」
「はぁ……。早とちりもいいとこだよ。大体俺がカエデと付き合える訳ないだろ??」
「そんな事。分からないじゃん……」
猛々しい覇気のあるいつもの声と比べて随分と尻窄んだ声ですなぁ。
いつもそうやってしおらしくしていれば良いのに。
「向こうは超優秀な魔法を使えて、しかもこの星の生命を生み出した御先祖様の末裔。それに対し、こっちは何の変哲もない……は語弊だな。半分人間、半分龍の中途半端な存在。釣り合わないって」
片や豪華な血統の貴族、片やしがない田舎街出身の孤児。
自分を卑下する訳じゃないけど、彼女達の御先祖様の事を考えるとどうしても己と彼女達の血統を秤にかけてしまうのです。
そしていつも秤は向こう側へ傾いてしまう。
悲しい事にこれが現実なのだ。
現実を受け止められない、認められない餓鬼じゃないし。そこは一人の大人として現実を認めて一線を引くべきなのでしょうね。
「そ、そうね。あんたはもうちょっと不真面目な人と付き合うのがお似合いよ」
「喧しい。…………。もう機嫌治ったか??」
「え?? …………うん。なお……っ!?!?」
マイがそこまで話すと。
『メ、飯を寄越せぇぇええ――ッ!!!!』
いつもと比べれしおらしい彼女の代わりに腹の虫が咆哮を上げて、彼女の機嫌が通常に戻った事を知らせてくれた。
この世に生まれて二十二年。その中で最大級の音量に思わず陽性な声が漏れてしまう。
「はははは!!!! そう来ると思ったよ!!」
「うっさい!!!!」
「ほら、これ食え。昨日の夜から何も食べてないだろ??」
先程調達したココナッツのパンの紙袋を開封して匂いの元を盛大に解き放ってやった。
「よ、寄越せっ!!!!」
「うおっ……。そんな乱暴に奪うな」
こちらに背を向けたまま一瞬で振り返ると袋を受け取り、そして再び向こう側を向いてしまう。
「はわぁぁ。ココナッツのパンだぁ」
「しっかり味わって食えよ」
「勿論!! いっただきま――す!!」
上体を起こし、ベッドから足を放りだしてパンに噛り付く。
「ウ゛ンッ!! ン゛ッ!!!! ガッフォ!! ンバッハァァッ!!!!」
背中越しでも常軌を逸した咀嚼音が部屋一杯に響き渡る。それは本来の彼女が戻って来た証拠でもあった。
「美味いか??」
「フンフンッ!!!!」
俺の問いにコクコクと無言で頷く。
返事をする時間も惜しむ程、咀嚼に時間を割いているので。
「あ、そうそう。新作の南瓜パンが入っていると思うんだけど。それは残しておいてね」
一応釘を差すが……。
「……」
『あんたが言ったのは、これでしょ??』
そう言わんばかりに、目的のパンを右手で摘まみこちらへ見せつけるかの如くヒラヒラと動かしていた。
ま、まさか。
「お、おい。それ限定商品だから楽しみに……」
「ふぁむっ!! ん――!! おいしっ!! ほんのりとした甘さが堪えるわぁ」
「おい――!! 楽しみにしていたんだぞ!!」
「私を怒らせた罰よ」
「まぁ……。うん。それで喜んで貰えればパンも本望だろうさ」
「ふふっ。何よ、ソレ」
「何でも無い。全部食っていいからな」
こいつのご機嫌伺いに大量の体力と気合を消費して所為か、食欲が失せた。
お腹が空いたらまた買いに行こう。
いや、日に二度も同じ店に通ってもいいものだろうか??
「その……。え、えっと。わ、私も、ごめん。か、感じ悪かったわよね??」
くるりと此方へ振り返り、たどたどしく話す。
お、パンを食った所為か顔色が随分良くなったな。
「全くその通りだ。明日から任務が始まるってのに、要らん心配の種を残したまま出発したくなかったし」
「悪かったって言ってるじゃん……」
「ま、機嫌が治って良かったよ。これで俺も安心して赴けるって訳さ」
「そふぁ結構なふぉとで」
「物を食いながら話すな。……ってかもう全部食ったの!?」
「え?? うん。お腹空いていたしっ」
あっけらかんとしてそう話す。
嘘だろ??
軽く三人前はあった筈なのに……。
「あ――。安心したら食欲湧いて来ちゃった。ねぇ、もっと買って来てよ」
「自分で買って来い」
「嫌よ。今日は動かないって決めたもん」
左様でございますか。
安心したら、か。
コイツもコイツなりに想う所があったのだろう。それが何かは知らないけど。
そして不機嫌な原因を究明して制御不能に陥っていた心の制御を取り戻した。
願わくば、今回の一件で心と感情の扱い方を学んで頂ければ幸いです。もう二度と人身御供の役割を担いたくないのが本音だからね。
「夜までまだ時間もあるし。ルー達が……」
「やっほ――!!!! たっだいま――!!!!」
噂をすれば影とは良く言ったもので??
いつもの喧噪を引っ提げて元気の塊達が帰って来たので。
「お帰り」
その塊に迎えの言葉を言ってやった。
「あ――っ!! マイちゃんが復活してる!!」
「何!? おぉ!! 本当だ!!」
軽快な足取りのルーの後にユウも続きマイのベッドへと駆け寄った。
「どうしたの?? もう苛々どっかいっちゃった??」
「そ、そうね。そんなとこよ」
「心配掛けるなよ――。あたし達、心配したんだぞ??」
「悪かったって言ってるでしょ?? もうばっちり、完全回復よ!!」
そりゃようございましたな。
周囲が喧しくなってきたので、自分のベッドへと戻り豪快に横になる。そしてそのまま、胸の蟠りが解けた安寧の心を持って天井を仰ぎ見た。
はぁ。疲れた……。
まだ眠るのには早過ぎる時間帯だけど、このまま眠ろうかな。
「マイちゃん何で怒ってたの??」
「ほっ!? あ――……。そのぉ――……。何んと言いますかぁ……。そ、そうよ!! 龍族はほんとぉぉに!! 偶に!! 唐突に!! 稀にっ!! 史上最強の天才でも理解が及ばない部分が心に影響を及ぼして機嫌が悪くなる習性があるの!! そ、それでイラっとしちゃった訳!!」
「ふぅ――ん。私達らいろ――と違って面倒な種族なんだねぇ。あ、でもさ!! 天才は無理なんだから馬鹿なマイちゃんは機嫌が悪くなる習性を理解出来るんじゃないの!?」
「テメェにだけは馬鹿呼ばわりされたくねぇっ!!」
「あいだっ!!!! ちょっと!! 何で私の頭ブツの!?」
「あはは!! 良い音したじゃん」
「ユウちゃんも笑ってないで私を庇ってよ!!」
五月蠅いなぁ……。
機嫌が元通りになったのは良いけど、此処は公共の場なのだからもう少し静かに。粛々と過ごそうとは思わないのだろうか。
ギャアギャアと騒ぐ華やかな花達の言葉を何とも無しに聞き流して天井を眺めていると。
「――――。レイド」
「ぬわっ!! カエデ。いつの間に……」
突如として覗き込んで来たカエデの端整な顔が視界の大半を覆い、心臓が胸から飛び出してしまいそうになってしまった。
『上手くいったみたいですね??』
周りに聞こえぬ様、蟻でさえも思わず耳を傾けてしまう程に静かに話す。
『カエデのお陰さ』
『これで安心して任務へ向かえますね』
『全く……。その通りだよ』
「と――う!! レイドとカエデちゃんは何のお話してるの??」
「ぐぇっ」
灰色の狼が自慢の脚力を生かし、ベッドを飛び越えて俺の腹の上に跨る。
後ろ足で立つと大人の男性よりも大きな雷狼さん、ちょっと痛かったんですけど??
「明日の抗議の纏めだよ」
「ふぅん。後輩さん達に話をしに行くんだよね??」
「そうだよ」
「レイドも偉くなったねぇ。私達の指導のお陰だよ」
うんうんと、しみじみと頷く姿がこちらへ多分に笑いを誘う。
「無きにしも非ずってとこかな」
そっと額に手を添えて撫でてやった。
「えへへ。あ、ついでに耳の裏もおねが――い」
はいはい。
こっちで宜しいですか??
「お――。そこそこ!! 私の気持ち良い所、掴んできたねぇ」
「何だよそれ。所で、アオイとリューヴはどこにいるんだ??」
ふわふわの左耳を撫でながら言ってやる。
「ウ゛――……。あっ、リュー達?? なんかね、リューが美味しいお肉の屋台を見つけて。そこのお店のお肉を沢山食べたいって言うからアオイちゃんが残ってくれた」
へぇ、あのリューヴがねぇ。
その店のお肉が相当美味いのだろう。
「ちょっと、ルー。その台詞は聞き捨てならないわね。私達も肉を食べに行くわよ!!」
そしてこれは大方予想出来た内容です。
「え――。今帰って来たばかりじゃん。それにぃ、もう少しこの心地良さを感じていたいというか、継続させたい訳でありましてぇ」
「んなもんいつでも出来る!! ほら、カエデも立って!!」
「ふぅ。お付き合いしましょうか……」
今し方開いた本をパタンと閉じてそう話す。
「あたしも付き合おうかね。レイドはどうする??」
「このまま昼寝するよ。明日は向こうで泊まるだろうし」
多分だけど何となくそうなる気がするんだよな。
指導期間は二日間。態々宿に戻るよりもそっちの方が効率が良いってビッグス教官が言いそうだし。
「おら。早く人の姿になれ!!」
「いったい!! ちょっと!! 尻尾引っ張らないでよ!!」
「喧しい!!」
君が一番喧しいですよ??
そう言いたくなるのをぐっと堪え、意気揚々と扉へ向かって歩み出す朱の髪の女性の後ろ姿を見つめた。
「もぅ、強引だなぁ。じゃあ行って来るね――??」
「いってらっしゃい。気を付けてね」
既に重たい瞼を全力で開いて騒がしい花達を見送ってあげる。
自分で思っている以上に疲れているのかもしれん。明日から始まる任務に備えてゆっくり眠ろうとしましょうか。
「いざ、しゅぱ――――っつ!!」
「はいはい。人前で余りはしゃぐなよ」
「そ――そ――。元気になったらなったで変な心配が湧くんだよねぇ」
「それはルーにも言える事ですよ??」
「カエデちゃん!? それは酷いよ!!」
陽気な女性陣が立ち去り、部屋に静寂が訪れると全身の力を抜いてベッドに体を預けた。
う……む。素晴らしきかな、静寂とは。
聞こえて来るのは俺の呼吸音と、外から滲み入る人の声。
心からの平穏を享受して静かに目を閉じた。
マイの機嫌も完治出来たし、これで思い残す事なく任務へと出発出来る。
口は災いの元。
これを教訓に普段からより一層の注意を払う事にしよう。
でも……。マイが怒る理由が俺には伺い知れなかった。
別に?? カエデの事が好みでもいいじゃないか。実際、可愛いし……。
きっとアイツはこういう女々しい所に腹を立てたんだろうなぁ。
等と自分勝手に解釈をして瞼を閉じた。
『お、おいおい。まだ営業時間外だぜ??』
やたら散らかっている受付所内で、とてもお客さんに見せられないだらしない姿勢で新聞を開いて読んでいる夢の世界の案内人さんがぎょっとした瞳で開店前に現れた俺に文句を告げるが。
『仕方ねぇなぁ。ほれ、さっさと行って来い』
そこを何んとかお願いする形で夢の世界へと繋がる扉を開いて頂き、紆余曲折あったが。晴れて心地良い安眠を手に入れる事に成功したのだった。
お疲れ様でした。
本来であればこの日常パートは大幅にカットする予定でしたが後の話に必要になると考えてプロットに加筆修正して投稿させて頂きました。
次の御話から指導編が始まりますので彼が後輩達へ四苦八苦しながら指導する様を御覧頂ければ幸いです。
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それでは皆様、良い週末をお過ごし下さいね。




