第六十七話 怒れる龍への供物
お疲れ様です。
本日の投稿になります。
素敵な紙の香りと若干の埃が混ざり合った独特の空気を胸一杯に取り込み、ほぼ完成に近い形にまで仕上げた原稿を疑問に近い声色でおずおずと言葉に出して読み続ける。
真正面で俺の言葉を淡々と咀嚼する彼女は仕上げた原稿に合点がいく部分と、いかない部分があるらしく??
「……」
審査委員長殿は俺の声を聞いては時折頷き、そして時折首を傾げていた。
「…………。以上で講義を終えます、ご清聴有難う御座いました。一応、大まかな内容はこんな感じかな??」
ふぅっと大きく息を漏らして肩の力を抜く。
カエデの真剣な目って緊張するんだよなぁ。
いつも通り怒られやしないかと内心、そして傍から見ても容易に判別出来る程の戦慄き具合で彼女の感想を待った。
『中々興味心をそそる講義内容ですね』
どうやら及第点を頂けたらしく??
大変御堅い端整な顔の力をふっと抜いて、微かに口角を上げてくれた。
「おっ、それなら俺の生徒になる??」
彼女の柔和な口角へ向かって揶揄いを放つ。
『私が使用するよりも高度な魔法、難解な術式の構築そして魔力の容量。これら全てを上回る様でしたらレイドの下で勉学に励みます』
冗談に対して真面で返して来るとは。
「一生掛かっても無理そうです」
『ふふっ、冗談ですよ。話が逸れましたね。講義の内容としては良いと思います。しかし、文章の途中に当事者以外は分かり難い部分がありましたので。そこを直したらどうでしょう』
分かり難い??
どこだろう……。
原稿へ視線を落として指摘された部分を必死に探して視線を泳がせる。
『…………。ここ、ですよ』
「ここ??」
机の上で前のめりになったカエデが紙に書かれた一行を指す。
「えぇと……。あ、大蜥蜴達の様々な武器ってとこか」
『そうです。レイドが指導を施すのは軍人の訓練生です。武器の扱いに長けた彼等には相手がどんな武器を使用しているのか、その詳細な説明が必要だと思われます。そうすれば使用している武器から相手の間合いや対処法等。具体的な対処方法を頭の中で構築すると思われますよ??』
そう言われてみればそうだな……。
「でもさ、詳細を教えたら駄目なんじゃないの??」
『あ…………』
俺の顔を見つめて、しまった。そんな表情を浮かべる。
「あはは。ついつい教えたくなっちゃうよね??」
『これは……。まぁ、そうですね。レイドの後輩だと考え、つい熱が出てしまいました』
「ありがとうね。それ位なら構わないでしょ」
カエデの指摘した箇所に今しがた受けた指南を書き記して話す。
「でもさ、言葉だけだと分かり難いから……。ハーピーや大蜥蜴の絵も描いてあげた方が分かり易く無い??」
『挿絵、ですか??』
「そうそう。一枚の絵を見せてあげればそれだけでも印象は違うだろうし。カエデ、絵は上手い方??」
『得意とは言い難いですね』
ほう、非の打ち所がないカエデにも苦手な物があるのか??
これは新たなる発見ですね。
「よし。じゃあ、試しに描いてみよう!! ほら、ここに描いて」
一枚の紙、そして書式道具一式をカエデの手元に置いてやる。
『やるからには本気を出しますよ??』
「よぉし。受けて立つ!!」
肩をぐるりと回し、自分の頭の中に残る彼等の姿を自由に描き始めた。
えっと……。
ピナさんは普通の人間の姿で、魔物の姿に変わると背中に羽が生えていたな。
こんな感じかな??
お次は大蜥蜴か。
マントを羽織っていた奴を描いてみますかね。
馬鹿みたいデカイ巨躯と、鱗……。
あっぶね、太い尻尾を描き忘れていた。
あれ??
もうちょっと尻尾は長くて凛々しかったような……。
頭の中に浮かぶ情景を思い出しながら描くのは意外と難しいものだと、紙と悪戦苦闘を繰り広げながら認識。
そして何度もアレコレと書き足した結果、我ながら上出来な絵が完成した。
「出来た!!」
『こちらも出来ましたよ??』
「ほぅ?? それでは……。御開帳!!」
二人同時に絵を机の上に披露する。
「「……」」
絵は確かにカエデの方が上手い。
けれど何んと言うか……。
「カエデの絵ってさ。何か……。妙に可愛いよね??」
ピナさんを描いたのだろうが彼女の目はやたらクリクリしていて、着用している服もやたらモコモコしている。
羽の大きさも無駄に丸みを帯びて俺が持つ印象とは随分と違う様相を呈していた。
『こ、これはその……』
そして問題は大蜥蜴だ。
アイツ等の目は立てに割れた鋭い瞳孔に、目元がキッと尖っている。普通の人間が奴等と目線一つ合えば動悸が激しくなり、恐れをなして逃げ出してしまうであろう。
それに対し、カエデ大先生が描いた目はどうだい??
この世の罪、邪悪、負の感情。それらを一切合切知らぬ無垢な少女の煌びやかな瞳を浮かべているではありませんか。
アイツ等は決してこんな優しい目をしていない。
ゴツイ巨躯も無駄に丸みを帯びているし、そして赤ちゃんみたいなちいちゃな御手手にはこれまた殺傷力が皆無の人に優しいプクっとした武器を持ち。それが多分に笑いを誘う一因と成り果てていた。
猛々しいという印象が大変強いのに、カエデ巨匠が描く大蜥蜴は思わずクスっと笑えてしまう程の愛おしさを放っていた。
え?? 何、コレ。
小さいお子様が欲しがる御人形さんの絵じゃん。
幼気な少女はこの大蜥蜴の御人形さんを大事に小さなお胸にキュっと抱きかかえて眠りに就くのだろうさ。
『レイドの絵も大概ですよ?? 線は太かったり細かったり。的を射る所は射ていませんし……』
「いやいや。どこからどうみてもピナさんと、大蜥蜴でしょ」
此方が正解だ。
そう言わんばかりに自分の描いた絵を彼女の前に掲げた。
『それに比べ、私の絵の方が的確に要所を押さえています。ピナさんの羽の丸み。そして大蜥蜴の鱗の艶』
何で鱗の中にハートを描くのかと思えば……。これ、艶だったんだ。
『まさに正確無比な写実と言っても過言では無いでしょう』
ふんすっ!! と、まぁまぁ大きな鼻息を付いて胸を張る。
「そ、そうか。まぁ、後で皆に協力して貰おっか?? 誰にでも得て不得手はあるし??」
頭に浮かぶ、最大限の擁護を言う。
『いいですよ。それでも私が一番上手いという事実は揺るぎませんからねっ』
絵でも彼女の負けず嫌いが発動するのですね……。
カエデの前で張り合うのは金輪際止めた方が賢明だな。収拾がつかなくなっちゃうよ。
「お、おう。よし!! 講義も纏まった事だし、一旦宿に帰ろう!! マイの誤解も解かなきゃいけないしさ!!」
机の上の資料をテキパキと纏め、鞄に詰めて話した。
『ついでに宿で昼食を摂りましょう。マイはきっとお腹を空かせていると思いますので』
昨日から何も口にしている様子も無かったし。
元気が無いのは十分に大事件なのだが……。食べ物を口にしていない方が更に驚きなのだよ。
何処までも果てしなく広がる青い空の中を美しく舞う鳥、澄み渡った紺碧の海の中を悠々と泳ぐ魚。
彼等は誰からも教わらず、体に埋め込まれた生まれつき備わっている機能を駆使してそれを実行するが……。心という存在は果たして誰からも教わらずに自由自在に扱えるのだろうか??
その答えは否、だ。
心の痛みを知らなければ他人の痛みを理解出来ない。心の喪失感を知らなければ相手を労われない。
『心身一如』
そう、つまり。心と体は決して切り離せない程に強い絆で繋がっている。
己の心の痛みは身体的に受けている物なのか、将又心の傷そのものによって体が参っているのか。
それを理解しない限り対処方法が分からないのだ。
恐らく、アイツは生まれて初めての出来事に面食らっている筈。己の生き様といっても過言では無い食欲を喪失しているのが良い証拠だ。
その対処方法が分からないので苛ついているのかも知れないな……。
とどのつまり、彼女が心の安寧を取り戻す為にはそのきっかけを幾つか提示してあげる必要がある。
その手助けの為に魔法使いさんが教えてくれた素敵な呪文を唱えなければならない。
果たして俺の呪文を受けた彼女は制御不能に陥った己の心の制御を取り戻す事が出来るのか。
そこへ注意点を置いて話を進めよう。
「了解。ココナッツのパンにしようか。丁度、ここからの帰り道だし」
『いいですね。マイの好物の一つです』
それで機嫌が治れば万々歳、ってとこだな。
鞄を肩に掛け、大分人の姿が目立つ様になった二階を進む。
誤解を解く……か。
今回の事の顛末は、詰まる所アイツの早とちり。いや、俺が誤解を招く発言をした事も含まれているな。
流石に聞き耳を立てられているとは普通思わないだろう。
大体何で腹を立てているんだよ。カエデの事が嫌いなのか?? アイツは。
和を重んじて、協調性を大事にして貰いたいものだ。
「う――む。晴れているのか、曇っているのか。中途半端だな」
図書館の扉を開けて空を見上げるが今しがた発言した通り。
厚い雲の隙間から青が見え隠れしていた。
『昨日は雨でしたからね。その影響でしょう』
カエデの当たり障りの無い台詞を受け、肩を並べて南へと向かう。
お昼時の時間帯という事もあって気持ちの良い空間は早朝と比べて大分削られていた。
ま、昼時はこんなもんでしょう。
「ココナッツ、空いているかな??」
『この時間は厳しいかと思います。只、屋台の濁流に比べれば大分ましかと』
それもそうだな。
看板娘さん、元気にしているだろうか??
そう言えば、前会った時は妹さんと買い出しに出掛けたっけ。
それでお薦めの店を探して貰って……。懐かしいなぁ。
『見えて来ましたよ』
「ん?? お――。予想通り盛況だな」
カエデの声を受けて、店に視線を送ると。
「このお店のパン美味しいんだよね――!!」
「そうそう!! 何か食べる物に困っているとついつい足が向いちゃうのよね」
今も出入口からは頻繁に老若男女問わず、沢山のお客さんが行き来していた。
お店の稼ぎ時って感じですね。
「味もさることながら、値段も財布に優しいからな。あの店は」
『レイドがいると、『何故か』 割引してくれますよね』
うん??
何だ、今の言い方。ちょっと棘があるような。
ちらりと隣のカエデを見下ろすが。
「……」
特に変わった様子は見受けられない。
気の所為かしらね。
「いらっしゃいませ――!! こちら新作のパンになりま――す!! 是非お試しくださぁ――い!!」
うむっ!! 今日も元気で何よりです!!
扉の先から軽快な看板娘さんの声が今も漏れている。
その元気な声に誘われるように扉を開いた。
ほぉ……。こりゃまた中々の盛況ぶりで。
店内には凡そ二十名程のお客さんが豊潤な香りを放つパンを品定めしている。
ある者は香りに負けたのか、柔らかい笑みで。ある者は個数を考慮したのか、顰めっ面で。
様々な表情がこの店の商品の魅力を伝えて来てくれるようだ。
「いら……レイドさん!! いらっしゃいませ!!」
「こんにちは。凄いお客さんだね」
元気にこちらへ歩み寄って来てくれた看板娘さんにそう話す。
頭の上に頭巾をちょこんと被り明るい茶の髪を後ろにキュっと纏めている。良い塩梅に少しだけ仕事の汚れが付着した白の前掛けが彼女の快活な雰囲気を更に装飾していた。
これぞパン屋の店員さんの正装という姿に一つ大きく頷いてしまう。
しかし、仕事着云々よりも俺を含めた数多多くのお客さんは彼女の溌剌とした笑みと雰囲気を待ち望んで此処に足を運ぶのかも知れないね。
現に。
「本当ですよ。忙し過ぎて目が回っちゃいそうです」
えへへと笑うその笑顔を受けると、心のシコリがすっと溶け出す感覚に陥ってしまいますもの。
「おねぇちゃん!!!! パン焼き上がってるよ!!」
受付で天手古舞のパーネさんがこちらへと叫ぶ。
彼女は明るい表情というより、参っているって感じかな。
整った顔付きが忙しさで酷く恐ろしい物へと変化していますもの……。
接客業なのですから、看板娘さんを見習い朗らかな笑みを浮かべるべきかと思われます。
「今行く――!! すいません、ごゆっくり選んでくださいね」
「そっちも頑張ってね」
「は、はい!!」
去り際に強烈な光を残し、奥の扉の先へと小走りで向かって行った。
うぅむ、完璧な営業の姿だ。
接客業を営む者は今の笑みを参考にすべきだと俺は思う。
爽快であり、尚且つ此方に陽性な感情を湧かせる。
あの笑みが見られるのなら毎日通っても苦痛ではない、そう感じさせる笑顔だった。
彼女が残して行った素敵な雰囲気を満喫していると。
『……。素敵な笑みでしたね』
「ひゃぁっ!!」
感無量の沈黙を破ったのは俺の情けない声とカエデの冷たい声だ。
『ひゃぁっ??』
「い、いや。急に声を出すから驚いちゃってさ」
『そうですか。ほら、早く選びましょう。売り切れちゃいますよ??』
入り口脇に置かれている盆を持ち、スタスタと店内へ進む。
その後ろ姿から滲み出る負の感情が大変怖いです、はい。
カエデの話した通りいつまで見ていても決まる訳じゃないし……。
肩口から恐ろしい圧を零す彼女に倣い入り口付近の積まれている盆を手に取り、店内を遊泳し始めた。
『当店自慢のクルミパンです!! さくっとした食感がきっと気に入りますよ!!』
あれ?? こんな紙なんか添えられていたっけ??
パンの紹介文だろうか。
陳列されているパンの手前に小さな紙が添えられ、女性らしい文字で商品の説明がそれとなくされていた。
勿論クルミパンは買うとして。
他のパンも覗いてみよう。
『ベーコンの塩気、パンの甘味。この二つは最強の組み合わせです!!』
はい、買います。
文字を読むだけで口の中で味が再現され、唾液がじゅわっと湧いてきてしまった。
当然、店内に漂う香りも影響していると思うけどね。
ベーコンパンはマイも好きだった筈。
多めに買っておくか。
それから適当に見繕い、次々に盆へと乗せていくと……。
「う……、む」
うわぁ、何だか凄い事になっちゃったぞ。
あれも、これもと選んで盆に乗せたら子供頭よりも高いパンの山が形成されてしまった。
俺、意外とお腹空いていたんだな。
『それ、全部食べるつもりですか??』
会計の列に並んでいると背後からカエデの声が聞こえて来る。
「まさか。アイツの分も兼ねているよ。カエデはそれだけ??」
見ればクルミパン一つとアンパン、そして見覚えの無いパンが盆の縁に横たわっていた。
「…………。それ、何てパン??」
『新作の南瓜パンらしいです。季節限定であそこに置いてありましたよ??』
彼女が指差した一角に視線を送る。
確かにそこにはカエデの盆に乗せられているパンが置かれており、そして俺を物欲しそうな瞳で見つめていた。
ふふ、見付けましたよ??
「ごめん。ちょっと並んでて」
『分かりました』
限定と聞いちゃ捨て置けませんよね!!!!
目的地へと大股で歩み、既に満席状態の盆に二つを上乗せ。自分でも驚く速さで列へと戻ってやった。
『速いですね』
「ふっ。南瓜パンが俺を呼んでいたからさ」
『口調が段々マイに似て来ましたよ??』
「嘘でしょ?? 俺はあそこまで横暴じゃないって」
心外だ。
そんな感情を込めて話す。
『比喩ですよ。独特な言い回しがそんな感じを持たせるのです』
ふぅむ。そんなものかね。
刻一刻と前列が短くなって行くと、漸く俺達の番が回ってきた。
「あぁ!! レイドさんだ!!」
受付に盆を乗せると、先程まで忙しさで参っていたパーネさんが明るい笑みを取り戻す。
「こんにちは。忙しそうだね??」
「もう大変ですよ!! 次から次へとお客さんが舞い込んで来て!!」
昼時ですから多少の忙しさは目を瞑って下さい。
「会計ですよね?? そちらの方もご一緒に??」
カエデを見つめてそう話す。
「そうだよ。宜しくね」
「は――い。……………………いいんですか?? レイドさん」
パーネさんが二つの盆の上に乗せられているパンを数えながら話す。
「何が??」
要領を得ない疑問に、疑問形で返す。
「お姉ちゃんと私がいるのに女の人を連れて来て――。しかも滅茶苦茶可愛いじゃないですかぁ――」
「行動を共にしている仲間だよ。そういう関係じゃない事は確かです」
「へ――。ふぅ――ん」
何??
ちょっと雰囲気が怖いんですけど……。
「彼女さんじゃないのは理解出来ました。しかしですね?? 女性を連れて、しかも二人っきりで。それはどうかと思うな――」
「いやいや。だから、そういう関係じゃないって」
「まぁ――別にいいですけどねぇ――。…………んふっ。そ――だ」
何かを思いついたのか、にやりとして俺の顔を見つめる。
「ねぇ、御仲間さん。実はこの前ぇ、レイドさんと一緒に買い物に出掛けまして……」
ちょっと、止めて??
この人を怒らせるととんでもない事になってしまうのですから。
「その最中にこれを贈って頂いたのですよ――??」
白いシャツの中から銀細工の風車を取り出していつもより若干鋭い眉の角度のカエデに見せつける。
「ほ、ほら!! 買い物付き合って貰ったお礼だよ!!」
無駄に汗を流し、カエデの表情を窺うと……。
「……」
そこにいつもの彼女はいなかった。
いつもは余り表情を変えない彼女だが時折見せてくれる笑みが心に安寧を与えてくれる。だが今は……。凍てつく大地がどこまでも続き生命の息吹さえも感じさせない無表情を越えた虚無の表情へと豹変していた。
「しかも、お姉ちゃんにも買ってくれましたよね――??」
「分かったから、早く会計を済ませよ??」
自分でも理解出来ないが……。咄嗟に防衛本能が働いたのか、両手で己の臀部を庇いながら話す。
「えっとぉ――。二千五百ゴールドです」
早く会計を済ませて此処を立ち去ろう!!
それが今俺に出来る最善の策なのだから!!
「あ、そうだ。お姉ちゃんも毎日これを着けているんですよ――??」
「へ、へぇ。そうなんだ……」
くそっ!! 財布はどこだ!?
鞄の中に手を突っ込むが……。
『へへ――ん。俺様はこっちだぜ――』 っと。
いつもは直ぐに見つかる筈の小僧が巧みに体を隠してしまい中々探り当てる事が出来なかった。
「しかもぉ、時間があれば服から取り出して見つめているんです。乙女ですよねぇ??」
あぁ!! もう!!
集中しているから話し掛けないで!!
「当然、私も見ているんですよ?? それなのにぃ……」
「は、はい!! どう――ぞ!!」
漸く発見に至った財布から現金を取り出し、目を疑う速さで受付へと置いてやった。
「そんな焦って――。聞かれちゃ不味い事でもあるんですかねぇ?? ……あ!! お姉ちゃん!! こっち!!」
「ん?? どうしたの??」
追加のパンを盆に乗せて運んで来た看板娘さんをこちらへと召喚する。
「ほら、この前さレイドさんに首飾り買って貰ったじゃん??」
「え、えぇ。そうね」
途端に頬が朱に染まる。
動きっぱなしで暑いのかな??
「それでぇ。お姉ちゃんが毎日見つめている事話しちゃった」
えへっと笑い、舌をペロリと出す。
普通の人から見れば可愛い顔の上に出た剽軽な表情にふふっと笑みが漏れてしまうのですが。
俺には非情の宣告にしか見えなかった。
さ、さぁ――……。奥歯を食いしばれ!! 絶対声を出すなよ!?
「ちょ!! 何言ってんのよ!! そんな事していませんからね!!」
看板娘さんが妹さんに食って掛かると。
「そ、そうなふぉっ!?!?」
「何?? 今の音??」
店内にパチッ!! と。酷く乾いた音が響く。
店内の皆様、今の音の正体は雷の力です。
今、そんな物が店内を縦横無尽に迸ったら危ないじゃないか!! と思われましたよね??
御安心下さいませ。
彼女は魔法の扱いに長けておりますので、極少の範囲にのみ雷の力を与える事が出来るのです。
そして、その範囲は言わずもがな。
「んっ!! んぎっぃ!!」
激痛が何の遠慮も無しに臀部へ直撃。
それが頭の天辺、指先、そして爪先へと駆け巡り体が一瞬硬直してしまう。
命令を受け付けない体の中、視線だけをカエデの方へ向けると……。
凍てつく大地は、彼女の怒りによって溶け出し焦土と化していた。
しかも。他所から見られぬよう、掌で上手い事魔法陣を隠している。
ご、ごめんなさい。
後で土下座でも、靴でも舐めますからその力の放出を止めて頂けないでしょうか??
い、痛過ぎて失神してしまいます!!
「お姉ちゃん嘘は駄目だよ?? ほら、この前もさ――。また一緒に行こ……。んぐぅ!?」
「そこまで!!!! レイドさん!! 今から袋に包みますのでちょっと待って下さいね!!」
看板娘さんが妹の口を塞ぎ、恐るべき速さでパンを詰めて行く。
「分かりました。出来ればばっ!!?? 早めにしていただっぐど!!!! だすがりまず!!」
「うん?? えぇ、出来るだけ早く詰めますけど……」
じ、じぬ!!!! 誰がだずげで!!
体が雷の怒りを受けてまるで言う事を聞いてくれない。臀部どころか体中が綺麗に焼き上がりそうだ。
パン屋で綺麗に体を焼き上げるのはどうかと思いますよ!? 海竜様ぁっ!!!!
「はい、お待たせしました!!」
「ど、どうも」
ビリビリとした痺れと若干の焦げ臭さが残る手で紙袋を受け取ると、その場からぎこちない歩き方で出口へと向かう。
「「ありがとうございました――――っ!!」」
そして姉妹の息の合った明るい声を受け、命を保ったまま外へと脱出する事に成功した。
「…………。カエデさん??」
『何』
こ、こえぇぇ……。
無表情が恐怖心をこちらに容赦なく抱かせた。
「あのね?? ほら、この前さ。俺の快気祝いで御飯を食べに行きましたよね?? 彼女達にはお店を探す手伝いをして貰って。そのお礼として、あの首飾りを贈ったのですよ。それに、いつも割引して貰っているから普段の礼も兼ねているのです。はい」
「……」
無言で藍色の瞳がじろりと見上げて来る。
「た、他意は無いんです!! 本当です!!」
お願いします、これ以上は明日の任務に支障をきたすので勘弁して下さい。
「…………はぁ、分かりました」
「あ、ありがとうございます」
心から安堵の息を漏らす。
人前じゃなかったらきっと膝から地面に崩れ落ちている所だろう。
「でも、許した訳じゃありませんよ?? 今度は雷に炎の属性を付与させて痺れさせますから」
「止めて!! それは無理!!」
「ふふっ。冗談ですよ??」
ごめん。
カエデの冗談は時に冗談に聞こえないんだよ??
無意識の内に彼女から一歩余分に距離を置き、これ以上体を傷つかせない様細心の注意を払い。不機嫌な龍が待機している宿屋へと向かった。
お疲れ様でした。
ゴールデンウイーク中の出来事なのですが……。ほぼ執筆活動に休日を費やしていたのですが、プロット作成に飽きたらコントローラーを握り。ある程度ゲームが進行したらプロット作成を続ける。
この繰り返しをしておりました。
そのゲームの名は……。そう!! 銀河系最強のエンジニアが活躍する『デッドスペース』です!!!!
PS3の古いゲームで本体を引っ張り出して久々にプレイしたのですが、これがまぁ面白いのなんの……。
ゲームのジャンルとしてはサバイバルホラーアクションに分類されるのでしょうかね。
一作目は宇宙空間に漂う宇宙船、二作目はとある惑星の都市。
そこでネクロモーフと呼称される奴等と工具を駆使して戦うゲームです。
何でエンジニアが戦うんだよと気になった方、そして心臓に毛が生えた精神力のお強い御方は是非一度プレイしてみてください。人間の手汗の凄さを実感出来ますのでお薦めですよ。
後、CEROがZ指定ですのでその年齢に満たない方はご遠慮下さいませ。
いいねをして頂き、そしてブックマークをして頂き有難うございました!!
これからも引き続き投稿を続けさせて頂きますのでどうか宜しくお願い致します!!
それでは皆様、お休みなさいませ。