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第六十五話 原因究明の開始

お疲れ様です。


本日の投稿になります。


それでは御覧下さい。




 気分が良い目覚め、並びに爽快な朝を迎える為には健全なる精神状態が必要であると思う。



 お惚け狼さんの獣臭がふんだんに含まれた舌撃、及び横着な蜘蛛の御姫様の唐突な来襲等々。



 人の心地良い眠りを妨げる事象が起こらず、普段通り眠りに就けば大抵の場合それを享受出来るのだが……。


 昨晩の一件を受けて本日の目覚めはとても良好とは言い難いものであった。



 取り出そうとしても取り出せないナニかが胸の中で渦巻き、頭の中ではアイツが不機嫌に至った凡その考え得る現象を幾百、幾千と模索。


 そんな状態で眠ったとしてもスッキリした朝は迎えられないだろうさ。



「…………」



 朝の香りを徐に受け取り、頑丈な糸で括り付けられた様な重たい瞼を開けると窓から光が差し込んでいる姿を捉えた。



 いつもなら馬鹿みたいに口を大きく開いて欠伸を放ち、徐々に目を覚ます各々へ一日の始まりに相応しい言葉伝えるのだが……。今朝の場合は流石にそうはいかなかった。


 矮小な音さえも立てずに上体を起こしてマイの方を見つめる。



「……」



 寝てる、な。


 彼女の小さな体の上に覆い被さっている布団が今も呼吸に合わせてゆっくりと上下しており、安らかな眠りを享受している事が安易に窺えた。



 人の気持ちも知らないで熟睡して……。


 こっちはお前さんの不機嫌な理由を探っていて寝不足なんだよ。



 そう声を大にして、人の姿で大人しく寝ているマイへと言い聞かせてやりたかった。



 まぁそんな事を言った日にはもっと機嫌が収集付かなくなりますからね。絶対言いませんよ??


 俺は彼女と違って分別の付く大人なのです!!



 ベッドから足を投げ出して本日の行動の準備に取り掛かろうとすると。



「……。おはよ」



 カエデがシーツの中から微睡んだ瞳を覗かせて此方を見上げていた。



「おはよう。起こしちゃった??」


「ううん」


「そっか」



 そう話すと立ち上がり、早速着替えに取り掛かる。



 俺が居たらマイの気分を害すだろうし。


 鬼の居ぬ間に……、じゃあないな。


 鬼が静かに寝ている間に出て行くのが正解だ。


 アイツの不機嫌な理由、それと明日の講義の資料。そのどちらも今日中に解決しないと……。


 はぁ――……。今から頭が痛くなっちゃいますよ……。



「もう、行くの??」


「え?? あぁ……。何かアイツが不機嫌だし。俺が居たら空気悪くなるからな」


「そっか」



 過ごし易い寝間着から普段着へと着替えを済ませ、壁に掛けられている上着を手に取る。



「おっ。乾いてる」



 昨日の雨の影響がまだ残っているかと思われたが……。どうやら杞憂で済みましたね。


 水分をたっぷり吸い込んだ上着は海竜様の素晴らしい魔法を受けてしっかりと乾いていた。



「水気、飛ばしましたからね……」


「ありがとうね。朝御飯適当に食べてから図書館に向かうよ。カエデも時間が出来たら来てくれるか?? ほら、昨日言っていた……」


「資料と講義の内容の確認ですよね??」


「そうそう。時間が厳しいなら構わないよ」


「いえ。大丈夫です」



 ゆっくりと頷いて了承の意図を伝えてくれた。



「頼ってばかりでごめんね。それじゃ、行って来るよ」



 鞄の中へ適当に荷物を詰めて、肩から紐を掛け。



「いってらっしゃい」


 そしてカエデの大分眠そうな声を受けて部屋を後にした。



 いかんなぁ。俺も多少なりに苛ついている。


 これも全てあの龍の所為だ。



 大体、俺が一体何をしたって言うんだよ。


 トアと行動を共にした事に腹を立てているのか?? だとしたら言ってくれなきゃ分からんだろう……。



 しかし、あれ程の憤り。行動を共にして初めて見るかもしれない。


 いつもはアオイと喧嘩しても次の日には冬眠明けの蛙みたいにケロっとしているし。御飯を多く食べられなくてもあぁはならない。


 今回アイツが受けた憤りは更にそれを越えるものなのだ。


 では、一体何を受けたのか?? それが分からないでいるから俺のモヤモヤも解消しないのですよ。



 正に終わる事のない負の連鎖だ。



 アオイの小言にも無関心。


 親友であるユウの言葉も聞かず、剰え夜飯を抜いたと聞いた。



 アイツにとって飯は何より大切な物。それを抜くという事は俺の想像よりも遥かに強い怒りを感じているのだ。



 飯を抜く事自体が彼女にとって、そして俺達にとって重大事件だからね。それが何よりの証明。



 今日、空から黄金の槍が降って来ないだろうな??



 痛んだ木製の宿の扉を開けて空を見上げるが……。程よく青く染まっている空がニッコニコの笑みを以て俺を見下ろしていた。



 それにどことなく安堵の息を漏らし、大通りへと向かい歩み続ける。



 う――ん……。


 俺があんな風に拗ねる、いや。怒りを覚えるのは何をされたらそうなるんだろう。


 視点を変えて考察してみよう。



『馬鹿にされる』


 馬鹿にして来た相手次第だが、大抵の事は笑って流すかな。


『無理矢理仕事に付き合わされる』


 これは別に……うん。


 そこまで怒らないと思う。


 相手との親密度を考慮すると、寧ろ手伝おうとさえ思うだろう。




『仲間を傷付ける』



 恐らく、今一番怒りを感じるのはこれだろう。


 マイ達を何の理由も無しに傷つけたりしやがったらきっと俺は誰構わず手を出してしまうに違いない。


 例え、その相手が人間だとしてもだ。


 あれこれ考えるが、そのどれもがアイツには当て嵌らなかった。



 参ったなぁ……。女性の考える事は正直難し過ぎるよ。



「いらっしゃい!! 今日一日元気に過ごす為、うちのおにぎり食べて行ってよね!!」



 おっと、もう中央に到着しちゃったか。


 店主の朝一番の声を受けて思わず歩みを止めた。



 まだ早い時間の為か、普段のそれと比べて数段少ない人々が中央屋台群の中を歩き回っている。


 おにぎり、か。



『うひょ――!!!! 愛しの三角形ちゃんっ!!』



 いつもなら口喧しくおにぎりに向かって行く人物がいないとそれだけで寂しく感じてしまう。



「おはよう!! お兄ちゃん!! おにぎり、どうだい!?」



 此処でボ――っと突っ立ていても何も始まらない。


 これからの仕事に備えて栄養を摂りますか。



「二つ下さい」


「毎度!! 塩味と梅干し入り。どっちにする?!」


「じゃあ一つずつで」


「はいよぉ!!」



 元気でいいなぁ。今は彼の爽快な姿が大変羨ましく見えてしまう。



「はい、お待たせ!! 朝割引で百ゴールドだよ!!」



 安っ。


 御釣りが出ない様に現金を渡して移動を開始。


 屋台群を抜けて北大通沿いのベンチに腰掛けておにぎりを頬張った。



「はぁ――……。美味い」



 おにぎりについての感嘆なのか将又、現状の精神状態を現した吐息なのか。


 そのどちらとも捉えられる息を漏らして塩気が含まれた白米を咀嚼する。



「――――。すっぱ!!」



 こっちが梅干し入りでしたね。


 突然の酸味の襲来に口の中が驚きの声を上げてしまった。



『…………。朝から忙しそうですね』


「あれ?? カエデ、どうしたの??」



 清らかな声が頭の中に響くと、有り得ない寝癖の角度をキチンと整えた藍色の髪の女性が静かに隣へ腰掛けた。



 未だ部屋で微睡んでいると思っていたのに。



『一人よりも二人、ですよ。私もマイの状態が気になっています。それに資料作成も私が手伝えば早く済みますので』



 成程、理に叶っているね。



「そういう事か。ほい、朝ご飯まだだろ??」



 姿勢を正してベンチに腰掛けている彼女へもう一つのおにぎりを渡してやる。



『いいの??』


「あんまりお腹減っていないんだ。朝飯、まだでしょ??」


『えぇ。では、御言葉に甘えて』



 細い手でおにぎりを受け取り、小さな御口へと運ぶ。



「美味い??」


『美味しいです……』



 細い顎を頑張って動かして上品にモムモムと咀嚼している。


 アイツだったら……。



『うひょ――!! いっただきっま――す!! ふぁむ!! うむ!! 今日も米が美味い!!』



 何て、馬鹿みたいに目尻を下げてたった一口でおにぎりの面積を半分程まで減らすだろう。


 体が小さい癖に一口は誰よりも大きいんだよねぇ。



『どうしました??』


「え?? あぁ。上品に食べるなぁって」


『そうかな??』



 しっかり咀嚼を続けて話す。


 あ……。



「米粒付いているよ??」



 己の唇の右端を指して言ってやった。



「??」


「違う。こっち」



 まぁ左右反対だから仕方ないよな。


 カエデの唇の端に引っ付いていた米粒を取り、己が口へと運ぶ。



 お――。こっちの塩気も捨てがたいな。



 さてと、今日の作業は何時まで掛かるんだろうなぁ。


 青き空の中の流れゆく雲を見上げて頭の中で大雑把な計算を続ける。



「出来るだけ遅くならない様に作業を続けようかと考えて…………。どした??」



 ふと隣を見ると。



「……っ」



 カエデの顔全体が熱っぽく赤らみ、柔和な線を描く頬がポっと朱に染まっていた。



「え?? 風邪でも引いた??」



 海竜でも風邪引くのかな??



『違います』



 自分は貴女の親の仇ではありませんからね??


 もうちょっと声色、優しくしよっか。



「そ、そっか……」



 きっと、食べている所を見られて恥ずかしがっているんだろうな。


 誰だって食事風景をマジマジと見つめられたら食べ難いだろうし。



『ご、御馳走様でした』


「御粗末様です。そろそろ図書館開くかな??」


『間も無く開館ですね』


「少し早いけど、向かおうか」


『分かりました』



 二人ほぼ同時にベンチから腰を上げて、大分人通りの少ない北大通を北上する。



 朝の時間はどちらかと言えば、食関連の多い南大通りが混雑しているからな。


 その分、こっちは空いているし。


 勿論。


 職場に向かう人、家に向かう人は存在する訳だからある程度の人はいますよ??


 それでも朝らしくゆっくりした速さで歩けるのは心地が良い。


 のんびりとした歩調が胸の中の鬱陶しい存在を紛らわしてくれる様だ。



 俺達も通行人に倣い、ゆるりとした歩調で雑談を交わしながら歩き続けていると開店前の王立銀行が見えてきた。


 あぁ、そう言えば……。



「カエデ、先日そこの銀行で強盗事件があったのって知ってる??」


「「……」」



 恐らく警備強化の為なのだろう。


 銀行の入り口脇に立つ筋骨隆々の警備員御二人を見つめて問うた。



『え、えぇ。知っていますよ。図書館に入る前にこの道を通ったら凄い人集りが出来ていましたので』



 へぇ……。そうなんだ。



「事の顛末は分かる??」


『え、っと……。駆けつけた警察官達が銀行を包囲。逃げ場が無くなった彼等は銀行の背後の壁を破壊。そして背後の建物を通り抜けて脱出しようと企てました』



 ほぉん……。裏口から脱出ねぇ。



『しかし、欲に目が眩んだのか。仲間割れが生じて倉庫内で全員が倒れていたと新聞には掲載されていましたよ??』


「仲間割れか。お金の力は恐ろしいねぇ」



 仕事仲間、或いは信を置く仲間に裏切られるのだ。


 人の心に優しく語り掛けて来る悪魔的な力を有しているとも言えようさ。



『全くです。ですが、私達の場合はお金という存在の所為で仲間割れが生じるとは到底考えられません。その点に付いては喜ばしい事かと』


「お金よりも御馳走の方が俺達の場合は不味いね」



 御馳走を目の前にした金色の狼が大きな御口から涎を垂らしてそれに齧り付こうとすると、ずんぐりむっくり太った雀がそれを奪取。


 縦横無尽に駆け巡る一頭の狼と龍。


 彼女達が暴れ回ると誰かがその犠牲となり、その犠牲の連鎖が最終的に俺の身に降りかかり。とんでもない痛みに耐えながらカエデと共に横着共へ説教を放つ。


 何度も繰り返されてきた惨劇擬きだが……。


 何だかこれが無いと落ち着かない自分が居る事に驚いてしまう。


 アイツの不機嫌が直ればまた始まるのだろうか?? もしもこのままずっと不機嫌が直らなければ??



 アイツも一人の大人の女性だから流石にそれは無いかと思われるが、可能な限り早く機嫌を直して欲しいものさ。



「さて、先ずは明日の資料作成だな」



 話題を変えて軽快に話す。



『そうですね。どういった講義内容を考えています??』



 う――ん……。どういったと言われてもなぁ……。



「万人に受ける講義内容、かな??」


『それはまた難題ですね』


「本来なら指導を受ける身だよ?? それなのにいきなり後輩の指導をしろなんて言われてさ。無茶もいいとこだよ」



 ふんっと鼻息を漏らして言ってやった。



『それだけレイドに掛かる期待が大きいって事ですよ。喜ばしい事じゃないですか』


「むっ……。そう捉える事も出来るのか」


『ですが。その分危険な任務に就く可能性も無きにしも非ず、です。心配しているのですよ??』


「危なくてもカエデ達が一緒にいてくれれば心強いし。出来る事ならこのままずっと一緒に行動を共にしたいよ」



 任務だけでは無く、この大陸全土に問題を及ぼすかも知れない神器や魔女。そしてイル教の問題もある。


 この問題全てを俺一人で解決しようとは毛頭思わない。仲間達と共に解決していくべき重大な問題だからさ。



『ここまで来たら、乗り掛かった舟。この世界の未来をこの目で確かめたいと考えています。結果はどうあれ、最後までお付き合いします』



 此方を見上げてそう話す。



「ありがとう。その言葉、万の言葉より嬉しく感じるよ」


『どういたしまして』



 カエデには珍しく、明るい笑みを漏らして話す。


 どこか心が落ち着く笑みだ。


 喧噪な感情を抱いている身としては、ありがたい感情をさり気無く与えてくれた。



『むっ……。どうやら丁度開館時間のようですね』



 彼女の視線を追うと、図書館の扉が大きな御口を開けて沢山の人々を飲み込んでいた。



「朝一番から沢山の人が利用しているんだな」


『留守の間、私も彼等同様朝一番から通っていましたよ??』



 おぉう……。


 今の言葉はどう捉えればいいんだ??



『それだけ苦労したのに、見返りは無いのですか??』


 とか。


『あなたの所為で私は自由に時間を使えなかったのですよ??』


 とか、かな……。




「申し訳ありません。結果的にカエデに押し付ける形になってしまいました……」



 取り敢えず、こういう時は謝罪に限る。


 しっかりと頭を下げて、彼女に礼を述べた。



『…………。どうしよっかなぁ??』



 あ、あれ?? 何ですか?? その小悪魔的女子の口調は。


 いつもとは大分違う陽性な声が聞こえて来た。



 キチンと折り畳んだ腰から視線だけ見上げると。


 いつもは四角四面の彼女がにっと笑い俺の謝罪する姿を楽しそうに見下ろしていた。



 お、おいおい。


 此処に来て淫魔の女王様の性格が移ったのか??


 あの人の悪い所を手本にしないで下さい……。聡明であられる貴女様は反面教師にすべきなのですよ??



「出来れば、痛く無い感じでお願いします」


『はい??』


「ほら、エルザードや師匠みたいに無茶振りを要求してきそうか顔していたからさ」



『ふふ……。それもいいですけどね。安心して下さい。私にはまだそんな嗜虐心は湧きませんよ』


「そっか。それなら……」



 まだ??


 それってどういう意味かしら??



『では行きましょう。場所は……二階で良いですよね??』


「りょ、了解しました」



 図書館の扉を開くと、毎度御馴染の香りが俺とカエデの体の中を通り抜けて行く。


 古紙の香りが漂う一階は既に多くの利用客の姿が見受けられた。


 資料作成の為、多くの時間を費やしそうなので人気の本が置かれている一階の席を長時間陣取るのは憚られる。


 カエデの言う通り二階の方が良いかな。



「それで構わないよ。所で、さっきさ。まだって言ったけどその意味って……」


『私、そんな事言いました??』



 あっけらかんと話して先を行く。



「いやいやいや。言ったから。その真意を伺いたいのですけど……」


『気にしたらいけませんよ?? 詳細を気にし過ぎますと、大局を見逃しますから』



 えぇ……。


 カエデが将来エルザードみたいになるのか??



『レイド!! 私の言う通りに行動しなさい!! 頭を焦がしますよ!?』



 う――む。想像付かないけど。


 それでも九祖の血を引く者だ。ある日、突然豹変して俺を顎で使う日が来るのかもしれない。


 出来ればそんな残酷な未来は訪れて欲しく無い物さ。


 頼りなくか細い背中を見つめ、俺の拙い願いを彼女の背に唱えつつ石作りの階段を昇って行った。























 ◇




 胸の中に痛々しい棘のある不機嫌な感情を抱いたまま眠りに落ちると目覚めも当然、最悪よね。



 いつもなら素敵な朝ご飯を求めに軽快な足取りで宿を後にするのだが、今は体が鉛の様に重くて寝返りを打つ力さえ出て来ない。



 一体どうしちゃんだろう……。私の体。



 倦怠感が体に圧し掛かり、何をするのにも億劫になる程に無気力感に苛まれてしまう。


 この原因は病気でも、怪我でも無い。


 強いて言うなら……。心が疲れ切っているとでも言えばいいのかしらね。



 指先一つさえも動かすのが面倒で何も無い空間を見つめ、只過行く時間を悪戯に消化していた。



「マイ。起きたか??」



 ユウの声が聞こえると、少しだけ体をずらして彼女の温かい声に応える。



「マイちゃん!! 私達、今から朝ご飯に行くんだけどさ。一緒に行かない??」



 いつも通り明るいルーが私のベッドの側へ近寄り、陽性な表情で私の顔を見下ろして来た。



「…………。いい」



 今の私にとってその表情は眩し過ぎる。


 シーツの中に潜って視界を塞いでやった。



「も――。昨日の夜から何も食べていないじゃん。お腹減らないの??」



 空腹??


 おかしいわね、そんな欲求は微塵も感じていない。



「…………。減って無い」


「マイ、貴様らしくないぞ」


「そうですわ。卑しい豚の如く食べる姿がお似合いですのに」



 蜘蛛は無視をするとしてリューヴが話す通り。今の私は、自分でも私らしくないと感じている。


 でも、駄目なんだ。体が言う事を聞いてくれないのよ。


 これは一体、どんな感情って言えばいいのかな??


 それすらも分からないから自分自身でも困惑しているんだ。



「何も食べられないのなら、食べ易い物でも買ってこようか??」



 私の体調を気遣ってくれるユウが優しい声色で話してくれるが。



「……。要らない」



 ユウの温かい声も、ルーの明るい顔も、リューヴの気遣う嬉しい思い。


 その全てを体が拒絶してしまっている今、何かを食べる気さえも起こらない。



「そう……か。何かあったら直ぐに知らせろよ?? あたしが直ぐに飛んで来るから」


「…………。うん」



 ユウがぽんっと私の体に手を乗せてくれる。


 彼女の手から温かい感情が流れ出て疲れ切った体にそっと染み渡るようだった。



 疲れ切っている私を想って折角声を掛けてくれたのに、邪険に跳ね返しちゃって……。


 ごめんね?? ユウ。我儘だよね、私って。



「ユウちゃん、行こうか」


「おうよ」


「所で、主はどこだ??」


「恐らく、カエデと図書館でしょう。明日からの資料を作成すると仰っていましたので」


「それじゃあ後で覗きに行こうよ!!」


「主の邪魔になるだろう……」



 彼女達の去り際に聞こえて来た単語が私の心をチクンと刺激した。



 そうよ、この痛みだ。


 目に見えない鬱陶しい痛み。この所為で私は動けないでいるんだ……。


 いっその事、鋭利な刃物で刺された方がマシよ。


 この痛みに比べれば……。刃物なんて……。



「はぁ……」



 寝返りを打ちシーツから顔を覗かせると、狭い視界がカエデとボケナスのベッドを捉えた。



 何でアイツはカエデを選んだんだろう。


 やっぱり顔?? それとも性格??



 きっと今頃二人っきりで楽しくしているんだろうな。



 良かったじゃない。気に入った子と一緒に仕事が出来て。


 私とじゃなくて、カエデと……。


 机を挟み、微笑ましい笑みを交わしている二人の姿が頭に勝手に浮かぶ。



 その笑み。私にはもう向けてくれないのよ、ね??



 だって、昨日あんな風に言っちゃったし……。何であんな冷たい言い方しちゃったんだろう……。


 分からない。もう全部分からないよ。


 彼等の微笑ましい姿が私の胸を苦しめて鬱陶しい痛みを発生させる。


 無気力な私には痛みに抗う術は残されておらず、心の中にいつまでも存在し続ける原因不明の憂苦に一人悶え苦しんでいた。




お疲れ様でした。


皆様もお気付きの事だと思いますがこの作品は他の作品に比べて進行速度がやや……。というよりも、かなり遅いです。


私的にも日常パートを削っていきなり御使いを始めたいと考えてはいますが、皆様には出来るだけ彼等の冒険の詳細を知って頂きたいと考えていますので細かい部分も掲載させて頂いております。


その点に付いては大変申し訳なく思いますがその分、投稿はしっかりとさせて頂きますので御了承下さい。



それでは皆様、お休みなさいませ。

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