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第六十三話 栄養補給は適宜適量に

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 人間の力は彼等の前では無に等しい。


 彼等に出来る唯一の事、それは恐ろしい悪魔達が只早く去る事を願うのみ。


 人々は目の前に広がる朽ち果てた土壌に絶望を抱き、死が待ち構える未来を想像して嘆き、ぶつけようの無い憤怒を空へと咆哮する。


 痩せ細ったみすぼらしい大地から厄災が飛び去ると、再びあの悪魔達が訪れる事の無い様に神へと祈りを捧げた。


 悪魔の咀嚼音が耳にいつまでも残りそれが彼方へと消え行くまで、人間は己達の無力を噛み締め。太陽を覆い尽くす程の巨大な黒い影を悲しみの雫で歪んだ瞳で見送ったのだった。




 …………。


 お、おのれバ、飛蝗めぇ!!!!


 私の食料を食らい尽くすとは一体どういう了見だ!!


 一冊の本を読み終えると一人静かにプンスカと怒り、乱雑に本を閉じてやった。




 私が読んだ本の大まかな内容はこうだ。


 都会から離れた田舎の村に一人の女魔法使いが現れた。


 彼女が言うには。



『間も無く、厄災を振り撒く悪魔共が此処を襲うであろう。食料を纏めて早く此処から去れ』



 当然、村人は妄言だと決めつけて彼女に酷い仕打ちを与えた。



 そりゃそうでしょう。見ず知らずの怪しい女に突然出て行けと言われたら誰だって拒否するわよ。まぁヒノキの棒で叩くのはやり過ぎだとは思うけどね。



 彼女を見捨てる事が出来なかった村の青年が女を助けて村の外へ運び出す。


 彼は彼女を匿い食料を与え、傷が癒えるまで女魔法使いの面倒を見るがその姿を青年の婚約者に見られてしまう。



 そう……。彼は女魔法使いに恋をしてしまっていたのだ。



 彼は魔法使いと共に愛の逃避行をしようと決断するが……。青年は村の男共に命を断たれてしまう。


 それを見た魔法使いは怒り狂い、村にある魔法を仕掛けてそこを去った。



 その魔法こそが破滅を呼ぶ物であった。



 数日後、空を覆い尽くす飛蝗の大群が押し寄せて村中の食料を、そして土地を食らい尽くし村は全滅。


 残された彼等は途方も無い現実に茫然とし、己達が行った行為を後悔。愕然と立ち尽くした所で物語は終わっていた。



 私だったら飛蝗が飛んで来たら大切な食料が食らい尽くされる前に奴等を炎の熱で滅却してやるわ。


 人様の御飯を食べるなんて許されたもんじゃない。


 ま、この作者はそこに注点を置いていないでしょうね。



 人の話は早とちりせず、最後までちゃんと聞く。



 そして、その原因となる数多の物を咀嚼して考えなさいと言っているのだろう。


 本を読み終えて何気なぁく想像したのが、あの皇帝さん達が大群でこの街へ襲ってきたらどうなるかだ。


 きっと食料だけじゃなくて、人間達も『むしゃらむしゃら』 と食べちゃうだろうなぁ。



 鋭い顎で人間の胴体をプチッと切断して、体内から零れる五臓六腑にむしゃぶりつき、滴る血液をジュルジュルと吸い上げる。



 おえっ……。想像したら吐き気がしてきた。



 いつもの七人でこの街を守る事が出来るのかしら??


 カエデの範囲魔法でしょ?? 蜘蛛の糸である程度の防御策を講じて。


 私とユウ、ルーとリューヴが前線で暴れ回る。


 んで、ボケナスは臨機応変に行動して人間共の避難の指示。



 ――――。


 駄目ね。範囲が広過ぎてとてもじゃないけど守り切れない。


 イスハ、エルザード、後は……。まぁ父さん達がいれば何とかなりそうな雰囲気になりそうね。



『お。読み終えた??』


『ん――。何んとか』



 ユウが二冊目を手に取り話す。



『どんな話だった??』


『あぁ、これ?? 内容は……』



 今しがた読んだ内容。並びにもしも、この地に大量の皇帝さん達が襲来したらどういった対応策を取るのかを話してあげた。



『……ってな訳で。この街の人間達はムッチャムッチャと食べられちゃうのよ』


『うぇ、想像したら気持ち悪くなって来た。皇帝さんってあのバカでかい飛蝗だろ??』


『そうよ。並大抵の力じゃ抑えきれないし……』


『煙を焚いたら逃げていかないなかぁ??』



 私達の話を聞いていたのか、ルーがちょっとだけ陽性な感情を籠めてそう言った。


 そして、お惚け狼よ。本が上下逆さまさだぞ……。


 お前さんの頭じゃ本の調査は無理だろうから、せめて読んでるフリでもしろや。



『あのなぁ。ルーも見ただろ?? あの大きさ。ちっぽけな火と煙じゃ逃げないって』


『そっかぁ――』


『…………。私だったら結界を張りますね』



 おっ。


 珍しくカエデが乗って来た。



『結界を張ってどうするのよ??』



 今も本に視線を落としているカエデに問う。



『私とアオイで街全体を覆い尽くす結界を構築。マイ、ユウ、ルー、リューヴ、レイドは街の外に出て死力を尽くして敵の数を減らして貰います』


『ふんふん!!』



 ルーが興奮気味でコクコクと頷く。



『待て待て。常軌を逸した数だぞ?? 私達の体力は無尽蔵では無いのだ』



 これに待ったを掛けたのは強面狼だ。


 私もこの作戦には乗る気じゃないわね。自殺しろと言っているものだし。



『この作戦はここからが本番なのですよ。そして、ルー。本の向きが反対ですよ??』


『へっ!? あ――!! 本当だっ』



『『本番??』』



 えへへと笑みを浮かべる馬鹿を放置してユウと声を合わせた。



『えぇ。ある程度の飛蝗……いえ、皇帝さんは結界に張り付くと思われます。しかし、大半の皇帝さんはマイ達の周りに群がりその肉を食らい尽くそうとします』



『ユウちゃんの体なら食べ応えありそうだね!!』


『どこ見て言ってんだよ……』


『マイ達には戦いながらある地点を目指して貰います』


『ある地点??』



 要領を得ないわね。



『あぁ……。そういう事ですの』



 はい!! 出ました――!!!!


 私は貴女の考えを早くも理解出来ましたよ――って得意気な顔!!!!



 苛つくわねぇ……。あの横っ面に激烈な超強い拳を何の遠慮も無しに捻じ込みてぇ……。



『皇帝さんが飛来するまでに恐らく数日以上の期間があると思われます。その間、私とアオイが設置型魔法陣へ魔力を注ぎこみます。そうですね……。何も無い広大な場所が適しています。マイ達が皇帝さんの群れをそこへ誘導し、機会を見計らって私とアオイが魔力を解放。皇帝さん達へ灼熱の業火を浴びせ一網打尽にします。後は残存戦力を刈り取るのみ。必ず勝てる戦です』



 うむぅ……。


 ぐうの音も出ない作戦内容だ。


 個人の力量、役割を完璧に理解していなきゃ立てられない案ね。



『凄いなぁ。直ぐに考えちゃうんだもん』


 早くも読書を放棄したルーが机の上に顎を乗せて話す。


『皆さんの力を信用していなければこの作戦は通用しません』


『因みに、第二案は??』



 カエデなら用意しているでしょ。



『第二案は、全軍退却です。この作戦は誰一人欠けても成立しない。つまり、一人欠けた時点で詰みなのです。レイドに通訳を頼み、出来るだけ多くの人を街から脱出させます』



『随分と冷めているわね??』



 アイツだったら。



『何んとしてでも守ってやる!!』



 とかいって無理を通そうとしそうだけどさ。



『物はいつでも作り直せます。しかし、命ある者を創造するのは不可能です』



 ま、それもそうか。



『いいえ!! 命ある者を創造する方法はありますわ!!』



 はいはい!! 無視無視っ!!



『…………一応、御伺いしますけど』



 カエデがある程度の返答を予想して話す。



『それは勿論レイド様の子種を頂き、受せ……』


『はぁ!! お腹空いたなぁ!!!! あ――!! もうこんな時間だぁ!! 昼ご飯食べに行かなきゃなぁ!!』



 最後まで言わせるかっつ――の。


 それに壁に掛けられた時計は私が待ちかねていた正午を知らせている。


 腹の虫も機嫌が悪いし、一旦休憩といこうじゃないか。



『そうですね。食事にしましょうか』


『御飯だ御飯っ!! さっさと行くわよ!! 子分共っ!!』


『ちっ……。喧しいまな板め』


『あんっ?? 何か言ったか??』


『ふん……』



 この野郎め……。


 いつかそのすかした態度をぎゃふんと言わせてやる……。



『では、皆さん行きましょうか』



 カエデが席を静かに立つと、私達は彼女を先頭に出口へ向かって出発した。



 何を食べようかな??


 肉?? お米?? それともパン??


 はぁ……。困った事に今から迷っちゃうわね。


 紙の匂いと暫しのお別れを告げ、少し重たい雲が目立つ空の下へと躍り出てその足で中央屋台群へと進む。



 どれどれ??


 私の楽園の様子はどうかしら。


 期待に胸を膨らませ、遠目に見えて来る主戦場に視線を送ると。



『お、おぉっ……!!!!』



 蠢く人間共と店主達の威勢の良い声が、もう随分と初冬の気候に染まった清涼な空気を灼熱の熱波へと変貌させていた。


 そしてその中でも微風に乗って届く馨しい香ちゃん達が私の心を掴んでは離さない。



 ふふふ。


 私はここに永住しても構わないわ。


 そんな気持ちさえ抱かせる程心地が良い。




『マイ。先頭は譲ります』


『おぉう!! ここは私の独壇場よ!! 皆の者、我に従え!!』



 尻窄むカエデに対し、私の心に烈火の闘志が灯る。


 待ってなさいよ。


 私が満足のいく物を選び抜いてあげるんだから!!



『マイちゃんま――た変な顔しているよ――』


『あぁなっちまったアイツは仕方が無いって。あたし達は大人しく付いていこう』


『混雑は苦手ですのに……』


『同感だ』



 ふっ。好きなだけ喚くがいいさ。


 私が選抜した逸品で貴様らの口を歓喜の坩堝に叩き落としてくれようぞ!!



「いらっしゃい!! お昼の定番はこれさ!! さっぱりしたクルミパンはどうだい!?」



 ちぃ!!


 つい数時間前に私の後ろ髪を引いたたパンが早くも胃袋に問いかけて来た。



『ほら、朝食べそこなったパンだぞ』



 ユウが私の体を肘でちょいちょいと突いて来る。



 分かってるわよ。


 でも、安易に胃袋の声に従っちゃ駄目なのよ。玄人は鋭い直感と豊富な経験で決めなきゃいけないの!!



 クルミパンはアイツの好物でもあり、当然私も好きな品だ。


 だが……。


 今はその時では無いと言っている。



『マイちゃん、買わないの――??』


『買わんっ!!』



 一々躊躇する言葉を掛けおって。


 私の判断は揺るがないわよ!?



『もう――。早く決めようよ――』



 このお惚け狼め。


 一体何度言ったら私の崇高な考えを理解するのだ。


 これだから素人は全く以て度し難いわね。



『私も朝ご飯抜きでお腹減っているんだよ??』



 んな事は分かっているんだよ!!


 此処で妥協したら玄人の名が廃るっ!! 私は魂が真に欲している物を探し求めているのだっ。


 何処なの?? 何処に居るの?? 私の魂の拠り所は……。


 ほぉらっ、恥ずかしがらずに出ていらっしゃい??



『いっつも最初の一品目に時間掛けてさ――。偶にはちゃちゃっと選ぶのもぉ……』

『ベヌバスッ!!!!』


『びゃっ!! な、何っ!?』



 き、き、来たぁぁああ――――っ!!


 これだ、この匂いだ!!


 私の頭の中にとんでもねぇ特大の雷が直撃してしまった。



 甘く切ない……。けどしっかりと存在感を示しているこの香り。


 どこにいるの?? ほら、私はここよ??




『またあの気味の悪い顔ですか。見ていて吐き気を催しますわね』


『まぁそう言うなって。あの変顔具合から察するに、きっとあたし達が満足のいく物を見付けたんだろう』


『ユウ、貴女まさか。あれの度合が分かりますの??』


『え?? うん。一応……』



 おう??


 こっちか……。


 通路の端っこをせせこましく移動している鼠の毛一本の香りも逃さない最高な鼻をヒクヒクと動かして人の波をかき分け。匂いの下へと確実に距離を詰めて行くと……。



 あ、あそこだ!!



 私の心を誘惑するイケナイ香りを放つ屋台が漸くお目見えした。



「いらっしゃい!! あま――いお芋は如何ですか!?」



『あれ?? 普通の焼き芋??』



 ルーがあっけらかんとした声を上げるが私は既に見抜いていた。


 あそこの屋台は一味違う事を。



『えっと……。揚げアゲ芋、だってさ』



 ユウが屋台脇に置かれている看板を見つめて話す。



 揚げアゲ……、芋??


 ふぅむ。


 それだとこの香りは証明出来ないわね。


 焼いたお芋さんは、甘くて美味しい。


 けれど、それを只普通に揚げただけではここまでの香りを放つ事はあるまい。


 何かが足りないのよね。


 まっ、取り敢えず並んでみましょうか。



 十人程出来ている列の最後方に並び、店主の一挙手一投足を食い入るように見つめた。



「揚げアゲ芋二つ下さい」


「あいよ!! 直ぐに出来るからねぇ!!」



 ぬぅっ!?


 な、何よ……あれは。



 長方形に細く切られた黄色が目に嬉しいお芋さん。それを熱した油の中に投入する。


 その脇には更にもう一つの鍋が熱せられており、店主が白い雪のような物と水を同時に投入した。


 お芋が綺麗なお化粧をしてパリっと揚がると、それを掬い上げて余計な油を落として脇へ。


 そして既に揚げ終えて冷ましたお芋ちゃん達を隣の鍋へと入れる。



 するとどうだろう……。



 粘度の高い透明な液体を身に纏い、麗しい姫君となって私達の前に参上するではないか!!



『あれってさ。飴だよね??』



 ルーが私の視線を追い、クンクンと鼻をひくつかせて話した。



 飴ぇっ!!!!


 そう来たか!! そうだ、あれは飴だ。お芋の優しい甘味に、砂糖がたっぷり含んだ飴を更に絡める。


 甘さを甘さで包むなんて……。


 おっそろしい悪魔でも考え付かない悪の所業ではないかね!?


 あの店主め、イカツイ顔のくせに中々やりおるわ。



「お待たせ!! お嬢ちゃん達、幾つ買うんだい??」



 私達の番となり、黙ったまま六本の指を上げてやる。



「六つだね?? ちょっと時間かかるけど構わない??」



 勿論さ。


 私は大きく、そして焦りを悟られまいと静かに頷いた。



『あぁ……。良い匂いだなぁ』


『えぇ。美味しそうです』



 ユウもカエデもきっと気に入るわよぉ??



『甘い飴が絡んでは甘過ぎやしないか??』


『リュー、甘くて食べられなかったら私が食べてあげるから心配しないで!!』



 安心しなさい、リューヴ。


 あんたは悟られまいとしてだんまりを決め込んでいるけど、甘い物好きなのは周知の事実。


 そして、甘い物が好きなら揚げアゲ芋はきっとその舌に応えてくれるだろうから。


 私の直感を信じなさい。



「…………。はぁい!! お待たせ!! 千二百ゴールドだよ!!」



 予め、カエデから渡されていた現金を渡し。各々が紙袋に入った麗しい姫君を受け取る。


 私は人目も憚らず超最速でうざってぇ人の波の合間を縫い。




「出たなぁぁああ――っ!! 交通違反常習者!! あんたいい加減にしなさいよね――!!!!」




 本日は東側でひぃこら汗を流しているあの交通整理の姉ちゃんの声を無視して、最寄りのベンチへと進み。



 椅子という物が出来て生まれたその上に腰を下ろすという所作。



 有史以来何万、何億回と繰り広げられたその所作の中で恐らく史上最速であろうと位置付け出来る速さで腰かけてやった。


 きっとベンチに意識があれば目ん玉が裏返る程に驚いている事だろうさ。



『待ってよ――!!』


『ったく。いつも置いて行くなって言ってるだろ!!』



 ふんっ。私に置いて行かれるちみ達が遅いのだよ。



『呆れた食欲です事』


『ここなら落ち着いて休憩しながら食べられますね』


『ほぉ、いい香りだ……』



 よぉし。


 カエデ達も到着した事だし、頂くとしますか!!


 ジャブジャブと溢れる生唾をゴッキュンと喉の奥へと流し込み、意を決して紙袋を開けた途端。



『あらふぁわらぁぁんっ…………』



 私の頭がクチャクチャに蕩けてしまった。



「何だよ、マイ。顔にトロトロに溶けた牛脂を沢山塗られた子犬みたいな顔して」



 超絶爆乳娘よ。


 それは顔に張りついた牛脂を舐めようにも舐められない、そんなジレンマに塗れた何とも言えない子犬の顔であると解釈して宜しいか??



『この香りはやばいわ。皆、気を付けて食べなさいよ?? 優しい顔してきっと獰猛な野獣みたいな奴だから』



『大袈裟だって』



 我が親友は私の忠告を鼻で笑うが……。


 油断大敵と言われる様に。


 私はその言葉を噛み締めて、一本の揚げアゲ芋さんを指で摘まんで御口に入れた。



『…………。く、くぁぁぁぁっ』



 歯、歯が……。溶けた!?!?


 い、いや。


 ちゃんと残っているわね……。


 舌で前歯の後ろ側をクニっと押して確認したが、以前と変わらぬ位置に存在していた。



 はぁ――、びっくらこいた。余りの甘さに歯が溶け落ちたかと錯覚したわ。



『うっま!!』


『あま――い!!』


『あら。本当に美味しいですわね』


『体に染み入る甘さだな』


『美味しいですね』



 そうだろぉぅ、そうじゃろぉ?? その通りであろう??


 甘さに目尻を下げている皆に向かい心の中で言ってやる。



 トロリと溶けた粘着力の強い飴を潜り抜けると、少し噛むだけでホロリと崩れる柔らかいお芋さんを舌が迎える。


 強烈な甘さの飴、しかし、それがかえっていいのかもしれない。


 このお芋さんは普段口にするお芋さんより機嫌が悪い。


 つまり。


 ご機嫌斜めなお芋さんを甘やかして素直にしているのだ、この飴さんが。


 揚げ芋専用に作られたお芋さんなのかもしれないが、二人の相性は抜群であった。



『でもふぁ。ちょっと歯にくっふくのが難点ふぁね』



 ルーが歯に密着した飴を、指で取りながら話す。


 ふっ。これだから素人トーシロは。



『あのねぇ。飴は指で取るんじゃないの。舌で溶かしてあげるのよ??』


『ふぉうなの??』


『指で横着するから飴さんも不機嫌になっちゃうの。だから、舌の温かさで彼等が抱く憤りを溶かしてあげなくちゃ……』



 うふふ。


 ほら、上顎の奥歯に隠れている飴ちゃん?? 出て来なさい??


 私がぁ……。うぇははは!!!! ぜぇんぶ溶かしてやっからよぉぉおお――っ!!



 土の中で穏やかに暮らす蚯蚓も思わずドン引きする勢いで舌を巧みに動かして口内の飴を一掃。


 次なる揚げアゲ芋を手に取って口へ迎えた。



『ふぅん……』


『ルー。真に受けるなよ??』



 我が親友よ。その言葉は如何なものかと思うぞ。


 でも……。


 本当に美味しいなぁ、この揚げ芋。


 お昼まで御飯を我慢した甲斐があるわ!!



『よし!! 初手は完璧!! お次を探しに行くわよ!!』


『へっ!? もう食べたの!?』



 お惚け狼が金色の瞳を丸めてそう話す。



『当り前じゃない。ほら』



 空になった袋の開け口を開き、今もモムモムと芋を食むルーへ見せてやった。



『早いよ――。これ美味しいんだけど、食べ難いのが難点だなぁ』


『その食べ難さも食の楽しみなのよ』



 これが分からない内は、素人と言われても仕方が無いだろうさっ。



『ふぁむっ!! ……ふぅ。御馳走様!!』


『よし、マイ。付き合うぞ』



 ルーが食べ終わるのを見終えてからユウがゆっくりと立ち上がる。


 こういうさり気ない優しさがユウの良い所よね。



『お待たせ!! あれ?? カエデちゃん達は行かないの??』


『此処で待機しています。どうも人混みは苦手ですので』


『カエデに付き合いますわ』


『私も相伴しよう』



 へっ、これだから雑魚は……。


 戦力外は蚊帳の外で大人しくして貰おうか。



『美味しい物買って来てあげるから待っててね!!』



 ルーの声を皮切りに、私達は気合を入れ直した。


 いよっし!!!!


 第二陣、出陣だ!!


 私は拳をぎゅっと握り、これから始まる大混戦に大いなる期待と微かな不安を胸に抱き。人の濁流の中へと飛び込んで行った。




お疲れ様でした。


本日を以て連休が終了してしまいましたね……。皆様は思うような連休を過ごせましたか??


私の場合は今回の御話、懐古と指南編とでも呼びましょうか。


その全プロットの執筆を終えた事に喜びを感じています。


もう間も無く指導が始まるのですが、訓練所で登場する人物。そして指導内容に多くの時間を割いてしまったので余り出掛けられなかったのが悔やまれます。


ですが、買い物。そしてちょっとしたお出掛けも出来たので及第点の連休を過ごせたと評価しても良いでしょうかね。



いいねをして頂き有難う御座いました!!


これからも温かい目で彼等の冒険を見守って頂ければ幸いです!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

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