第六十二話 気乗りしない返報
お疲れ様です。
連休中の深夜にそっと投稿を添えさせて頂きます。
それでは御覧下さい。
ボケナスがあの女兵士と合流を果たす為に部屋から出て行った後も、私達は地獄の苦しみに悶え打っていた。
踝から可愛い脹脛ちゃん、そして足の裏。
その全てがジンジンとした痺れを伴って得も言われぬ痛さとくすぐったさを与えており。
「んぎぎぃ……!! う、動けぇ!!」
「や、やっべぇ。あ、あたしの足なのに自分の足じゃないみたいだ……」
「わ、私もまだまだ鍛え足らない証拠だなっ!!」
うら若き乙女達が放つ苦しみ悶える声が阿鼻叫喚の図を完成させていた。
うぐぅ……。あ、足の自由が効かぬ!!
長時間の正座って拷問に近いものがあるわよね……。
解放されたのなら痺れが取れるまで我慢すればいいのだけども、生憎それをヨシとしない生物が私達の後ろを楽し気な雰囲気を放って右往左往している。
「ぬっふふっふ――!! さぁ、悪い子は誰かなぁ!?」
クソっ!!!! このお惚け狼めがっ!!
楽しい楽しい刑の執行は本来であれば私の役目なのに、一人だけ楽しみやがってぇ……。
「や、止めろ」
ユウが己の右足を抑えつつか細い声を放つ。
そして、その口調が気に食わなかったのか。
「むっ!? ユウちゃん!! 命令形ですか!?」
「ちょ、違うって!! きゃはは!!!! 止めろって――っ!!!!」
「うりうりうりうりぃ!!」
モフモフの灰色の毛に覆われた二本の前足と、無駄にデケェ黒い鼻頭が容赦なくユウの足に襲い掛かる。
いいぞ。そのままそいつの足を砕いてしまえ。
私はもう直ぐ回復するぞ……。
「はぁぁ――。たのしっ。…………。あ――、マイちゃんそろそろ回復しそうだねぇ??」
こ、この!!
そういう所は鋭いな!!
「リュ、リューヴの方がいいんじゃない??」
「マイ!! 貴様、友人を売るのか!?」
「リューは暫く動けないよ?? あぁ見えて正座苦手だからさ」
真面目そうに見えて。
そういう意味で宜しいだろうか??
「昔ね?? 私が遊び過ぎてリューと一緒に怒られた時、お父さんの目の前で正座させられてさぁ。ジワンジワンが中々取れなくて泣いてたもん」
「貴様の所為で私も罰を受ける破目になったのだ!! 大体、何故貴様の馬鹿さ加減で私まで怒られればならぬだっ!!」
「あっそう。はい、リューにお代わりねっ」
むぅっと顔を顰めると狼の両前足がリューヴの右足を捏ね繰り回してしまった。
「あはは!! よ、止せ!! 笑い死ぬだろうが!!」
う、うしっ!! い、今の内に避難だっ!!
もう一人の自分の足を執拗に攻撃しているお惚け狼から背を向け、匍匐前進で移動を開始した。
「はぁっ……。はぁっ……」
「お――……。リュー、色っぽい顔しているねぇ」
何ですと??
普段からずぅぅっと眉を尖らせている強面狼の豹変ぶりは是非とも拝んでおきたいわね。
その場でピタっと止まり背後へ振り返ると。
「ふ、ふぅ……」
整った線の頬を朱に染めて大変甘そうな吐息を唇から漏らし。翡翠の瞳は若干潤み見方によっては恍惚とも受け取れるた――い変いろっぺぇ顔を浮かべていた。
「事後かっ!!!!」
「あ、次はマイちゃんね。失礼しま――すっ!!」
し、しまった!!
ついうっかり突っ込んだらお惚け狼に見つかってしまった!!
「ギャハハ!! 無理無理ぃっ!! 足もげるって――!!」
言いようの無いくすぐったさが足全体を襲う。
床を這いつくばり、逃げようとしても狼の攻撃はそれを許してはくれなかった。
「…………。はぁ、はぁっ」
「おぉ――。言い表情だねぇ。顔真っ赤にしちゃってぇ」
「いつか…………。殺すっ!!!!」
キャンキャン情けねぇ声が出るまでテメェの尻尾に噛みついてやっからな??
覚えてろよ??
「こわっ。お次はぁ、アオイちゃん!!」
「お止めになりなさい!!」
はぁ。
全く、何でこんな事されなきゃいけないのよ……。
昨日は夜遅くまでアイツの説教を聞かされ、起きた後はカエデの説教。
説教に続く説教にいい加減耳も、心も体も降参しかけていた。
大体!!
アイツの事を心配して着いて行ってやったのに何で怒るのかねぇ??
カエデを一人残して出て行ったのは悪いとは思うよ?? でも、さ。礼の一つや二つあっても良かろう??
それなのにガミガミとうざって言葉を吐き捨てやがって……。
世界中に遍く存在する優しさの集合体である私でも我慢の限界ってもんがあるのさっ。
「ルー。その辺で」
「え――。もっとしたい――」
「そろそろ出発しましょう。時間は有効に使いたいですからね」
出発!? この足で立てと言うのですか!?
「カ、カエデ。もう五分待って」
「待って??」
「待って下さい」
くっ……。
その目は止めなさいよ。
凍てつく大地も肩を窄めて震えあがる、そんな冷たい視線が私の体に突き刺さった。
「すぅ――。うんがっ!!!! な、何んとか、立ち上がれたわ」
両足に渾身の力を籠めて立ち上がったのだが、その姿勢のままでは不安を感じたのでボケナスのベッドへと腰かけた。
「ぅぅうう!! でいやぁっ!!!!」
「ユウは二着ね!!」
「何の勝負だよ」
私と同じ姿勢になり、ベッドに腰かけた親友へ言ってやる。
流石はミノタウロス。私と同程度の回復力に舌を巻かざるを得ないわ。
いや、執拗な攻撃を受けていた分私よりも回復が遅れたのか。いつもなら誰よりも先に回復しちゃうもの。
「ルー。貴女には恐ろしい仕返しが待ち構えている事をお忘れなく」
「そうだ。二度とこんな愚行が行えない様、その体へと恐怖を刻み込んでやる」
蜘蛛とリューヴが生まれたてのヒヨコみてぇな頼りない足取りで何んとか立ち上がり、形的には出発する体制が整った。
だが、この足で歩けと言われたら不安が残る。
まだ足の奥底に痺れが残っている感覚がするわ。
「さ、行きましょうか」
当然、そう来るわよね??
足に不安を残す私達を尻目に一人でスタスタと扉へと歩み出す。
「……ん。何んとか行けそう」
はぁ、良かった。
これなら気兼ねなく屋台巡り……。
そ、そうだ!! 今日は図書館に行かなきゃいけないんだった。
カエデには既に尾行の分と、さり気なぁく部屋から逃げ出して新たなる貸しをもう一つ作っちゃったし。
大人しく従おう。今日だけは。
「よっしゃ。あたしも行けるぞ」
「流石、この土台を支える脚力は伊達じゃないわねぇ」
聳える山を軽くペチンと叩いてやったが。
「いてっ。おいおい、邪険に扱うなよな――」
私が放った衝撃を受けた双子の魔王様が目を疑う揺れ幅でバルンダルンと動く。
こ、こっわ!! その揺れ幅、こっわ!!!!
「何であたしの胸を叩いてんだよ」
「マイ、行くぞ??」
「へ?? あぁ、うん……」
リューヴの声を受けて我に戻るといつもより頼りない足取りの彼女達の背を追う。
未だに手に残る感触が忌々しい。
そっと捏ね繰り回すとふにふにの柔らかさなのに、叩くとカチンッ!! と弾かれてしまう。
一体どういう仕組みなんだろう??
物は試し、じゃあないけども。自分の胸にそっと手を添えるが……。
「――――。む、むぅっ……」
ちょんとした感触しか掴み取れなかった。
うん……。
夏終わり、木の幹に寂しくしがみ付くカッピカピに乾いた蝉の抜け殻よりかはマシね。
人よりも少しだけ沢山御飯を食べているのにどうして大きくならないんだろうなぁ……。
や、止め止め!!!! 考えても無駄よ!!
ユウのはインチキなの!! 大体、デカいからって得する訳ないじゃん!!
肩は凝るし、それに合う下着を探すのも一苦労だし!!
それに比べれば、私は……。
はぁぁぁ……。良いわよねぇ、大きいと。
私は仲間内で一番背が低くて。そ、そ、そのアレの大きさも残念ながらぶっちぎりで最下位。
それに加え、良く食うし、人目も憚らず汚い言葉を使う。
別に今更自分を変えようとは思わないが、アイツは果たしてこの事をどう思っているんだろう??
私の事女として見ていない、かな??
何だかそれはそれで釈然としないけど、自分の普段の生活態度を鑑みれば当然の報いであろう。
『マイ、どうかしましたか??』
部屋の外に出ると、普段の会話から念話に切り替えたカエデの声が届く。
『ん?? あ――。別に??』
『今日はこのまま図書館に向かいます。屋台を回るのは昼御飯の時になりますので、悪しからず』
『りょ――かい』
カエデが私の言葉を受けると先頭に歩み出て、宿の扉を開けた。
『お――。まずまずな天気じゃん』
ユウが胸一杯に朝の香りを吸い込み、気持ち良さそうな声を漏らす。
『…………。うん?? これって』
鼻に纏わり付く微妙な湿気を受けて、家屋に囲まれた狭い空に浮かぶ雲をじっと見つめた。
『マイちゃんも気付いた??』
『そのようだな』
おっ。狼二頭も私と同じ考えに至った様だ。
『何です??』
カエデが藍色の髪をフルンっと揺らし、此方へ振り返って問う。
『もう暫くすると、家屋の中から出る事に中々踏ん切りが付かない事象に苛まれるわよ??』
『そ――そ――。びみょ――にやだな――ってなっちゃうね!!』
『もっと要領を得た話し方をしろ。風向き、雲の形状、そして湿気。恐らく雨雲がゆっくりと此方に近付いている。暫くはもつと思うが、なるべく早く作業に取り掛かった方が賢明だ』
『成程……。分かりました。御忠告ありがとうございます』
『どういたしまして――!!』
そのままカエデを先頭に、狭い裏路地を突き進み西大通りへ向かい始めた。
アイツが居ない時はカエデが率先して私達を纏める。
揺るぎない統率力、冷静な判断力、そして計算し尽くされた行動。
そのどれもが私を大きく上回っているし、私はそれに対抗しようとも思わない。
結局の所。
隊の全行動を彼女に任せきっているのだろう。
甘え……、では無いと思う。
カエデなら。
そんな思いが私の中で勝っているのだ。
私よりも数段女の子らしい彼女の後ろ姿をじっと見つめそんな事を考えていた。
『どした??』
『何――??』
私の隣を歩くユウがこちらに視線を送って話す。
『いや、何か元気無さそうだったからさ』
何かあれば言ってくれ。
そんな温かい瞳だ。
『今日の昼ご飯、何にしようか考えていたのよ』
『んだよ。心配して損したじゃん』
ユウらしい軽快な笑いが若干草臥れている私の心を温かくしてくれた。
本当に、こ奴と来たら……。
私がこの大陸に渡って来て出会った、無二の親友。
お互いの事を何も言わなくても何となく理解出来てしまう。
ユウと出会って過ごす内にいつの間にか構築された揺ぎ無い友情だ。
馬が合うって奴よねぇ。
蜘蛛と違い、ユウの揶揄いはそこまで腹が立たない。
寧ろ。何度もお代わりしたい程だ。
『とうっ!! ん――っ!! 今日もまぁまぁな賑わいだねっ!!』
『余り騒ぐな。目立つだろう……』
雷狼の二頭を先頭に西大通りへ出ると、本日も平常通りの人波に乗って私の楽園が待つ街の中央へと流れて行く。
慎ましい日常会話を続けていると、私の瞳が最高な光景を捉えてしまった。
『うぇ――。今日もあそこ通るのぉ??』
この街へ来て何度も見た光景にルーが苦言を呈す。
アンタにとっては辟易するかも知れないけど、私にとっては寧ろ活力がグワングワンと湧く光景なんだけどね。
『勿論迂回します』
で、ですよねぇ――……。
海竜ちゃんのちゅめたい念話が頭の中に響くと、迂回路としてあの楽園をグルっと囲む歩道を進んで行ってしまう。
あ、あぁ……。目と鼻の先に楽園があるってのに。
一歩踏み出せば美味しい御飯が食べられるってのにぃ!!!!
「いらっしゃい!!!! クルミパンは如何かなぁ!!」
屋台群の中から思わず歩みを止めてしまう声が右耳ちゃんに届いた。
沢山のお金は持っていないけど、クルミパン程度なら買えるお金を持っているしっ。
ちょ、ちょっと位なら立ち寄っても良いわよね??
『マイ、足を止めるな』
刹那に足を止めると、私の行動を見透かしたのか。
恐ろしい強面狼の指示が頭の中に響いた。
『うぐぅ……。とんでもねぇ魔法が直撃して図書館が消失しないかしら??』
『その現象が起きたのなら、我々も無事では済まないだろう』
『本気で想像すんな。はぁ…………、昼まで我慢か』
朝ご飯も抜きで昼までもつのかしら??
杞憂を越え、重い危惧に似たザラついた感情が心を塗り潰していく。
でも、我慢した方が御飯は美味しいって聞くし……。
偶には朝ご飯抜きもいいわよね??
右手側に首や足が動きそうになるのを必死に御し。
それでも向かおうとする足に特大の拳骨をブチ込んで、北へ向かって行く流れの中を泳ぎ続けた。
◇
賢い海竜ちゃんを先頭に図書館へお邪魔させて頂くと、私が常日頃鼻腔に感じている香りとは正反対の匂いが体を優しく包み覆う。
頭にガツンと稲妻が轟き、意外とお茶目な胃袋を鷲掴みにされてしまう感覚では無く。
どこか厳かで知識欲を高めようとそっと背中を押してくれる柔らかい匂いだ。
私がこの街で常々求めている感覚とはちょっと違う匂いと雰囲気がだだっ広い空間に漂う。
空腹の促進、食欲の迷走、活力の源を求めている私にとってこの場所は酷く似つかわしくない。
自分でそう感じているのだから他人から見れば如実にそれを感じ取るであろう。
現に。
『マイちゃんって、図書館似合わないよねぇ??』
お惚け狼が私の背をちょいちょいと突いて揶揄う。
『喧しい。…………。でも実は私もそう思ってた所よ』
『ほらね!!』
ふん。何とでも言うがいいさ。
私はカエデに借りを返す為に此処へ来たのだよ!!
いつまでも借りを作りっぱなしでは忍びないし。奥歯に物が挟まる様な感覚を早く解消したいのが本音だ。
それに。
この借りを良い事にアレコレと命令されるのも勘弁願いたいし。
『カエデ、どこで本を読むの??』
いつもよりも若干速足で先頭を歩き、此処に不慣れな私達を先導しているカエデに聞いてみた。
『いつもの場所で構わないでしょう』
あ――。二階の開いた空間か。
まぁ、いいんじゃない??
石造りの階段をスタンスタンと昇り、古紙の匂いが漂う本の山の間を通り抜ける。
『ふむ……。そこまで混雑していませんね』
彼女の声を受けてぐるりと空間を見渡すが。
二階の閲覧場は空席が目立ち好きな場所に陣取れそうであった。
『んで、そのお伽噺とかの類はどこにあるのよ??』
ちょいと傷が目立つ机に荷物を置いてカエデに問うと。
ン゛ッ!?
この感じ……。そしてこの匂い……。
アイツが近くにいるわね。
何千回と嗅いだ匂いは強烈に私の鼻腔を刺激して陽性な感情を湧かせてしまう。
「「「…………っ」」」
あ――。当然、皆も気付くわよねぇ。
ルーとリューヴは鼻。カエデと蜘蛛はボケナスの中に存在する魔力。
んで、ユウは……。何となくって所かな。
皆一様に手を止め、どことなく落ち着かないでいた。
『…………皆さん、作業を開始しましょうか』
この得も言われぬ雰囲気を打ち破ったのはカエデのピリっと引き締まった声だ。
『そ、そうだねぇ。本、読まないと』
『集中せねばな!!』
『あぁ……。レイド様ぁ。私は此処にいるのですよ?? 寂しさに潰されて可哀想な姫を奪いに来て下さいましっ』
はい、キモイ蜘蛛は無視っ。
『レイドには届かない様に念話を遮断しておきました』
『すっげ。そんな事も出来るの??』
ユウがきゃわいい目をきゅっと見開いて話す。
『慣れれば簡単ですよ。さ、案内します。此方へどうぞ』
魔法戦が不得手な私達にとってあんたの慣れはとんでもなく難しい部類に含まれるんだけど??
カエデが静かな足音と軽快な所作で移動。私達は若干重い足取りで彼女の後に続いた。
『はいは――い。久々だなぁ。本をしっかりと読むのは』
『あんたも私と一緒で、似合っていないわよ?? 本読むの』
お惚け狼の陽気に歩く後ろ姿を捉え、さっきの件を揶揄い返してやった。
『別にいいも――ん。似合っていなくても』
はいはい。左様でございますかっと。
「此処です」
カエデが歩みを止めたのは何の変哲も無い本の山の前。
一つの棚の高さは……。私一人と半分といった所か。そして横幅は五メートル程。
それが幾つも整然と並べられると、何だか威圧感にも似た錯覚を此方に与えるわね。
『ふぅん。結構多いわね』
一番近くの本を手に取り、何気なく開いて話す
『そこ一帯の本は既に調査済みです。此処から先を今日は調べて行きます』
残り四分の三?? いや、五分の四?? 程の位置から指を差し、大まかな残りの本を示した。
『うっそ!! これだけの量、一人で調べたの!?』
『えぇ。それが何か??』
おいおい。あっけらかんとして言っていますけども。
一つの棚はざっと計算するだけで百冊以上はあるからぁ、それが横に十個。
それをたった一人で……。
『流石本の餌だね!!』
『褒め言葉として捉えておきましょう。そして、それを言うならば本の虫です』
『えへへっ、間違えちゃった』
大馬鹿野郎の言葉も程々に、指定された箇所の本を手に取り重ねて行く。
『あたし達も仕事に取り掛かろう』
『うむ。カエデに迷惑を掛けたのだ。今日中で終わらすぞ』
呆れる程やる気ねぇ。
続々と本を取って行く皆を何んとなく見つめていた。
何だろう。
いつもは、よっしゃ!! やるぞ!! とやる気を出す所なのだが。今日は何故かその活力が湧いてこない。
風邪、かな??
いやいや。生まれてこの方病気なんか引いた事無いし。
お腹が減った……。
ん――、これが当て嵌まりそうなんだけども。何だかちょいと違うわね。
昨日のボケナスの説教とカエデの説教が堪えているのかな??
多分、というか。恐らくこの所為でしょうね。
疲れ切った体に流石にあれは堪えたもの……。
『マイちゃん!! これ持って!!』
『お、おぉ……』
ルーが適当に取った数十冊を私に手渡すと、颯爽と踵を返して件の本棚の前へと戻って行く。
そして各々が数十冊の本を抱え先程の席へと舞い戻った。
これ、全部読むの……??
机の上に置かれた量に早くも辟易して大分座り心地の悪い席に着く。
『さ、皆さん。始めましょう』
『は――い!!』
仕方が無い。
カエデに借りを返す為、そして一応はアイツの依頼だ。
全然気乗りしないけど読み始めるとしますかね……。
適当に積まれている一番上の本を手元に置き目次を開く。
えっと……。何々??
題名を確認すると。
『蜘蛛のレチャンの大冒険』
と、簡素な文字で書かれていた。
蜘蛛……。
は――い、却下で――っす。
何があってもこの本は読みませ――んっ。
「……っ」
私は右隣の本の山へ、そっとバレない様に本を積み重ねると次の本を手に取った。
何で蜘蛛が出て来る話なんて読まなきゃいけないのよ。
只でさえ気分が沈んでいるのに……。
『あ、おい。あたしの所に置くなよ』
ちっ。気付いたか。
『それ読んで。代わりにこれ読んであげるから』
ユウの目の前の本の山から一冊手に取って言ってやった。
『はぁ?? 別に本の差異なんて……。ははぁん。成程ねぇ』
私が置いた本の目次を開くとユウが、仕方が無い。
そんな感情を込めた息を漏らす。
『お分かり頂けただろうか??』
私がいつも通りに片眉をクイっと上げてやると。
『十二分に』
ユウもきゃわいい笑みを浮かべてくれた。
有難うね?? その笑みで幾らか気分が楽になったわ。
さて!! 気分を変えましょう!!
何気なく本を開くとそこには。
『数多の恐怖』 と。簡素な文字でそう書かれていた。
沢山の恐怖……。はっ、所詮は人間が考えた恐怖よ。
私の様な世界最高で最強な者を文字でビビらせようなんて烏滸がましいのさっ。
どれどれぇ?? 人間達が描く恐怖を感じてみましょうかねぇ。
先程の忌々しい本よりも大きな興味を抱くと私は紙を捲り、作者の多大なる血と汗が作り上げた物語の中へと進んで行ったのだった。
お疲れ様でした。
こんな時間まで執筆を続けていると微妙にお腹が空きますよね。
太るから夜食は断っていますが果たしてこの空腹のままで眠れるかどうか。
夜食にぴったりな食べ物があれば是非とも教えて頂きたいものです。
それでは皆様、お休みなさいませ。