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第四十三話 形容し難い物を食事に添えて

お疲れ様です!!


大っっ変お待たせしました!! 本日の投稿になります!!


とある食材について加筆修正していたらこんな夜更けの投稿になってしまいました……。


少々長めの文になりますので御了承下さい。



それでは、どうぞ!!




 体内で膨張してしまった熱を口から逃し、額から零れ落ちる汗を手拭いで拭う。


 戦闘とは違い。労働に費やす汗はこうも心地良いものなのですねぇ。



 太陽が随分と傾いているってのにこの暑さ。


 密林の暑さを侮ってはならないな……。



 一日の終わりに近づいた密林の光景にしみじみとした感情を抱いていると、喧しい声が上空から響き渡った。




「おらぁっ!! 受け取れや!!」


「もっとゆっくり投げろ!!!!」



 上空から落ちて来た果実擬きを咄嗟に受け取り、入り組んだ木々の枝の奥に浮かぶ愚か者へと叫んでやった。



 あぶねぇ。


 もう少しで直撃する所だったぞ。



「ふふふ。楽しそうですね??」



 黒髪の女性が上品に笑いながら、此方の可笑しな姿を見つめる。



「楽しくはありませんよ。毎度毎度……。こっちの言う事なんか聞きやしないのだから」


「そうなのですか??」




「その通りです。言う事を聞かないのならまだしも。食料を食い漁り、人の頭の上で眠りコケ、剰え人の傷口を蹴る。彼女の親に怨みはありませんけどね?? いつかこう言ってやりたいです。あなたの娘さん。猛烈に人に迷惑を掛けていますよ、と」



 カクンと小首を傾げる彼女へそう話してやった。



「まぁ……。それは大変なのですね」


「半分は移動の疲労、もう半分はアイツの迷惑。毎日の体力はそうやって削られてしまうのです……。よがばっ!?」



 上空から飛来したナニかが脳天を直撃。


 舌と頭皮が突如として発生した衝撃によって顰めっ面を浮かべてしまった。この衝撃を与えた人物を特定する為。


 上空へと顔を向けると。



「聞こえてんぞ、ボケナスが……」



 悪鬼羅刹も思わず上体を引いて慄いてしまう、恐ろしい顔を浮かべる太った雀が木の天辺から降りて来てしまった。



 まぁ凡そ、コイツだろうとは思っていたけども。


 もう少し優しく投げてくれませんかね!!!!



「あのなぁ……。何も投げる事ないだろ!?」



 地面に落ちてしまった、これは果実ですか?? と、問いたくなる代物を籠の中に入れつつ言ってやった。








 激戦を終え、痛む足を引きずり洞窟前に帰って来ると。既に戦闘を終えた蜘蛛の皆さんが俺達を大歓声で迎えてくれた。



 喜びを一頻り共有した後、その足でフォレインさんの下へと移動し此度の作戦の報告を行った。



 彼女曰く。



『そうですか……。私を狙っていた可能性もあるのですね?? ほら、私。こんな細い体ですからきっと一太刀で負けてしまいます……』



 と、開口一番目は。あははと笑みを浮かべてしまうものでしたが。




『彼女の意図が汲めない以上、此処で戦い続ける必要はあります。ですが……。厄介な存在を撃退して頂いたお陰で幾分か楽になるでしょう。ミノタウロスとの交易も再開させて頂く便りも送らせて頂きますわね』



 柔和な御顔で此方にそう告げ。



『激戦の疲れを癒し、北へと出発して下さい。此処を去る時に約束の方位磁石をお渡しします。この度はお力を添えて頂き、真に有難う御座いました』



 最後は恐縮ですと猛烈な勢いで手を振り、報告は幕を閉じた。




 その後。


 賢い司令官の指令通りに四人一部屋で眠りに就こうとしたのだが……。




『がびぃ……』



 深紅の龍のとんでもない鼾の所為で中々眠りに就けず、ユウが盛大な舌打ちを放った後。


 彼女を魔境へと誘い俺達は事無きを得て、安眠を享受した。




 泥の様に一日中眠り、気が付いたら翌、翌朝。




 流石に他人様の家で惰眠を貪る訳にもいかぬ。



 そう考えて彼女達の仕事を手伝う事になり、こうして密林の中を移動し。果実擬きの採取に勤しんでいるのだ。



 勿論。



 此れにはお詫びも兼ねている。



「よいしょっと……。うんっ、沢山取れましたね」



 俺の隣で嬉しそうに汗を掻く彼女。



 彼女から御借りした刀をポッキリと折ってしまったそのお礼なのです。



「申し訳ありませんね、シズクさん。刀を折ってしまって」



 これで謝るのは何度目だろうか。



 優しい彼女は。



『い、いえいえ!! 戦いにそういった事はつきものですからね!! お気になさらないで下さい!!』



 と、焦燥した汗を飛ばしつつお許しを頂けたのだが……。



 武器は兵士の魂と同義。


 それを打ち砕いてしまった俺には責任があるのですよ。



「だ、大丈夫ですよ!! 私は元々後方支援の隊ですから!! それにあの刀もそろそろ草臥れてきていたので……」



 それは嘘でしょう。


 振った感じではそんな感覚は得られなかったので。



「レイドさ――ん。この子、あんまり甘やかし過ぎないで下さいよぉ?? 優しそうな外見していますけどぉ。裏ではあくどい事を堂々としていますからぁ」


「こらぁ!! 私、そんな事してないもん!!」


「あはは!! ごめんねっ!!」



 良い笑顔ですねぇ。


 勝利を収めたご褒美は無限の価値を誇る宝物や、贅を尽くした食事よりも。明るい笑顔の方が嬉しいな。



 腰に手を当て、うら若き女性達のじゃれ合いを満足気に眺めていると。



「レイド様、此方で御座いましたか」



 緑を掻き分けてアオイが此方へとやって来た。



「どうかしたの??」



「間も無く夕食が始まりますのでお呼びに参りましたわ」


「夕食――――――――!!!! でやぁっ!!」



 上空でふわふわと浮かんでいた太った雀が彼女の言葉に反応し、木々を掻き分けて洞窟の方へと飛翔して行った。


 飯の事に対しては。誰よりも早く、そして誰よりも敏感に反応しますからね。アイツは。


 もう少し、ほんの少しでも良いから遠慮って言葉を覚えた方がいい。



 もう見えなくなってしまった赤の軌跡をジロリと睨んでやった。



「そっか。じゃあ、行こうか」



 果実……。


 なのかな??


 兎に角。物凄く濃い紫色を放っている果実を満載した籠を背負おうとするが。



「レイド様。御怪我に障りますので……」



 アオイが手で此方を制した。



「いや、大丈夫だよ。これ位しないと……。よいしょっと!! シズクさんの刀を折ったお礼を返さないとね??」



 ちょっとだけ口角を上げてシズクさんの方へと振り向くと。



「え、えぇ。有難うございます」



 此方に倣い、微かにそして柔らかく口角を上げてくれた。


 良い笑みですね。


 親しき人に浮かべる笑顔だ。



「――――。左様で御座いますか。レイド様。早急に戻りましょう!!」



 右腕をぐっと掴まれ、細い体からは想像出来ない力で引っ張られてしまう。



「へ?? ちょ、ちょっと!! 引っ張らないで!!」


「レイド様は優し過ぎますわ!! 私以外に色目は使ってはいけませんのです!!」


「そんな事していないよ!!」



 傷跡がしかめっ面を浮かべる速度で草木を掻き分けて進んでしまう。



 これの所為でまた傷口が開くんじゃないのか??


 明日には出発したいのに……。



 彼女の口からは早口で愚痴にも似た小言が発せられ、俺はそれを聞き流し。これ以上要らぬ負傷を負わない様に懸命に努めて移動を続けていた。







   ◇







 温かい橙の明かりが揺らめき、此れから始まるであろう素晴らしい食事の雰囲気を高めてくれる。



 食事を待ち侘びているのか、それともそれまでの時間を潰す為なのか。


 豪華な白い敷布が被さった食卓を囲み。


 そこかしこで部屋を照らす橙よりも明るい声が行き交っていた。




「ねぇ!! ユウ!! こっち見て!!」


「ぶっ!! あはは!! な、何だよ!! その顔!! どうやってやるんだ!?」




「カエデ。お腹空いた??」


「それなりにですかね」



 それなり、ね。


 声色は焦燥感に駆られていますよ?? もう少しの辛抱ですからね。



 岩肌に包まれたそれなりに広い部屋の中。




 燭台の上で揺らめく炎に照らされた藍色の髪を何とも無しに見ていると。キュルルっと可愛い音が軽快な会話の合間を縫って虚しく響いた。




「……」



 まぁ、恐らく貴女でしょうねぇ。


 俺の左側。


 ユウの左側に座る彼女が咄嗟に腹を抑え、空腹を誤魔化す様に机の上に配膳されているコップを手に取り一気に水を飲み干した。




「ぷはっ。はぁ――――。腹減ったぁ……」



 ドンっ、とコップを机の上に置き。一切の装飾を付け加える事無く己が心情を話す。



「もう少しの辛抱だって。我慢しろよ」



 ユウが腹ペコで横着者の頭をポンっと叩く。



「分かってるわよ……。ほら、お昼ご飯のおにぎりだけじゃあ足りないからさ!!」



 分け与えてくれるだけでも有難いと思わないのかな??


 あの食いしん坊は。




「しかし……。何であの人は此処を襲ったんだろうな??」




 食いしん坊の空腹を誤魔化す為、敢えて難しい話題を提供してみた。




「一つの目的はフォレインさんを倒す事。それ以外の目的の方が気になりますね」



 俺の右手側に座るカエデがポツリと漏らす。



「それ以外??」



 細い顎に指を当てつつ頭の中で推理を繰り広げているカエデに問う。



「此処を落としたとして。オークを率いて東側に侵攻するのには障害が多いですから……。その線は薄い、ですね」



「それは……。あぁ、ハーピーの里。並びに、ボーさん達が居るからか」



 恐らく、そういう事でしょう。



「その通りです」



 良かった。


 当たってた。



「態々強敵が待ち構えている場所を通過するのは不利益しかありません。侵攻を画策するのであれば平地から侵攻すればいいだけ」




 強力な魔物を相手にするよりも、脆弱な人間を相手にした方が楽だろうけど。


 人間も黙って殺される訳では無い。


 その最たる例が西の防衛線だ。



 第一次防衛線から、最終防衛線まで。幾重にも北から南へと防衛線を張っている。


 その防衛線の突破の難易度と、森の中を横断する難易度を比べたのかも……。



 いずれにせよ。


 これを伺う機会は失われてしまったのであくまでも推測の域を出ませんがね。




「ん――。じゃあぁ……。一番しっくりくる答えは。あの結晶体を使用した実験、か」



 ユウが難しそうな顔を浮かべ、腕を組んで話す。



「あの女。結晶体を持っていたっけ??」



 幻術を掛けられてしまったのでその詳細は覚えていないのです。



「持っていましたよ。懐に仕舞ってあるのを捉えました」



 あれま。


 いつの間に。



 ふんすっ、っと。得意気にカエデが話す。



「でも、アレクシアさんみたいに操られていた訳じゃないから……。あの女の意思である事には変わらないのか」




 厄介だよなぁ……。


 同じ魔物を殺そうとする輩がいるのだから。




 人間の場合、無差別殺人以外の殺人にはそれ相応の動機が必要だ。


 金、殺意、憎悪。


 負の感情が衝動を引き起こし、罪を犯す。



 それならば、彼女もそれ相応に人間を憎んでいる筈。



 そこまでに至った経緯は??


 彼女を教唆した人物は??



 そのどれもが分からずじまいなのですよねぇ……。



 全く、逃した獲物は大きいな。




「ユウ達の里では小規模な戦闘を想定、ハーピーの里では魔物を利用した戦闘、そして此処ではより広域な戦闘を想定……。 戦略を想定した計画であると考えますと、矛盾はしません……」




 正面。


 主人が座るべき場所に静かに座すアオイがそう話す。




「問題は一体誰が……。この馬鹿げた計画を企てたか。着目すべきはその一点ですわね」




「淫魔の女王は?? ほら、自由に過ごせって命令を下した」



 難しい表情を浮かべているアオイに話す。



「淫魔は人間と魔物と対立してはいないので動機は見当たらないのですが……。あの淫魔が人を憎んでいた様に。淫魔の女王も人を憎んでいるのかも知れませんね」



「カエデの話す通りですわ。一度、淫魔の女王を捕まえて此度の件について問い詰めた方が宜しいかと」



 一族の代表を捕えて問い詰める、ですか。


 それだけこの里が受けた痛みは大きいのだろう。



「あんた達さぁ――。あれこれ想像してるけど。証拠が無い以上、机上の空論に過ぎないじゃん」




 ほっっとうに、偶にですけど。


 あなたは的を射た発言をしますよねぇ。


 あれこれと話しても意味が無いだろう?? そう言わんばかりに片眉をクイっと上げた。




「羨ましいですわぁ。頭の中が空っぽでぇ、何も考えないで良い人はぁ」



「――――――――。はぁぁああ??」



 視覚が消失していない限り、誰にでも理解出来てしまう憤怒を表してアオイを睨む。



「マ、マイ!! 落ち着けって!! もう直ぐ御飯だから!!」



 一触即発の雰囲気になる前に抑えないと!!



「うっせぇ!! 私は飢えた犬か!!」



 その通り!!



「その通りですわぁ」



 いや!!


 例え思ったとしても口に出したら駄目ですからね!?



「こ、この野郎……」



 プルプルと肩を震わせ、椅子から立ち上がると。




「――――。お待たせ致しました、アオイ様。お食事をお持ちしました」



 まるで此方の機会を窺ったかの様に、数名の女性が食事を乗せた盆を手に持ち部屋に入って来た。




 有難うございます!!!!


 本当に素晴らしい機会での登場ですよ!!



 恐ろしい瞳を浮かべていた彼女も。



「わぁぁ……」



 食事を前にして恍惚の表情を浮かべ、憤怒は何処かへ飛び去ってしまった。



「はぁ……。助かった……」



 食事の前に余計な疲労は御免被りたいのです。


 人知れず胸を撫で下ろし、椅子の背に体を預けて大きな溜息を吐いた。



「どうぞ、レイドさん」


「あ、どうも!!」



 此方の前に食事を運んでくれたシズクさんに軽快な声と共に礼を述べる。



「有難うございます、態々運んで頂いて」



 食料の採取だけじゃなくて、配膳の仕事も担当しているんだ。


 日中の仕事で草臥れているのに……。お疲れ様です。



「いえ、これが私の務めですので」



 そう話すと、配膳をしつつ心が温まる笑みを送ってくれた。



「オホンっ」



 アオイが静かに咳払いを放つと。



「っ!! そ、それでは御楽しみ下さいね!!」



 叱られた子犬の様に慌てて下がって行ってしまった。



 まだ仕事が残っているのかな??



「では、皆様。細やかな礼になりますが……。食事を始めて下さいまし」



 アオイがそう話すと。



「「「頂きます!!!!」」」



 いつもの三名が声を合わせて素晴らしい夕食の開始を告げた。



 先ずはどれから手を着けようか。



 ホカホカの蒸気を揺らすお米さん?? それとも……。



 この一枚肉かしら。



 白の皿の上に大人の手の平大に切り分けられたお肉さんがぐぐっと食欲を湧かせる。



「アオイ、この肉は??」



「猪の肉で御座います。周囲の森で獲れましたので新鮮ですわよ??」



 ほぅ……。


 猪の肉か。



 フォークとナイフで一口大に切り分け、絶え間なく沸き続ける唾液を堪え。


 美しい焦げ目が目に嬉しいお肉さんを口に迎えてあげた。



「――――――。うんっ!! 美味しい!!」



 独特の臭みはあるけれども。


 肉本来の噛み応えと、溢れ出る肉汁が舌を。そして歯を喜ばせてくれる。


 ピリっとした香辛料が食欲を此れでもかと湧かせる一因を担い、早く次の肉を寄越せと胃袋が叫ぶ。



「んっめぇえええ!! 肉、美味い!!」



 端的だが、確実に的を射貫く発言をマイが放つ。



「ほっ。猪か。それなら食べられそうだ」



 うん??



「ユウ。肉は食べられないの??」



 チラリと横を窺いつつ話す。



「食べられない事は無いよ。只、牛肉だけは食べてはいけないんだ」


「ふぉれはふぁつ耳ね」



 ちゃんと飲み込んでから話しなさい。



「どうして??」



 次の肉を切り分けながら話す。



「理由はあたしも知らないよ。種族的に禁忌なんだってさ」



 ふぅん。


 そうなんだ……。牛肉も美味しいんだけどねぇ。


 勿体無い。



「じゃあ!! 次から牛肉が出て来たら私が食べてあげるからね!?」


「へいへい。んぉっ!! 美味い!!!!」



 ユウがはむっ!! とお肉を口に放り込み。


 数度咀嚼後には満面の笑みを浮かべた。




「御飯!! お代わり!!!!」


「只今お持ちします」



 扉付近で静かに佇んでいた給仕の女性がマイの言葉を受け、部屋を後にする。



「やっべぇ……。このまま永遠に食べ続けられそう……」



 この一言を受け、あの人の運命が決まってしまった。


 これから何十往復も部屋を右往左往しなければならないのだから。


 仕事よりもきっと疲れますからね??


 もう既に消失してしまった彼女の幻影に向け、心の中でお悔やみ申し上げた。






 ◇






 素晴らしい食事会もどうやら終わりに近づいた御様子で??



 皆幸せそうに食後の満腹感を堪能していると。



「レイド様。食後の甘味は如何ですか??」



 アオイが此方の目を捉えつつ尋ねて来た。



「甘味?? ん――。皆、どう……」


「ふぁべる!!!!」



 いや、あなたは確実に肯定するから聞かなくもいいのですけども。



「少し位なら」



「だな――。あたしも少しなら入りそうだ」



 そうそう。


 この御二人の意見を伺いたかったのですよっと。



「じゃあ、頂こうかな」



 俺がそう話すと。



「畏まりました。では、お持ち致します」



 此方の様子を窺っていた、額に大粒の汗を浮かべている彼女が扉から出て行く。



 可哀想に……。


 これでもう何度目の往復だろう。



『お代わりっ!!』



 と、太った雀がそう話せば空っぽのお椀を手に取り齷齪と部屋を出て。



『もう一杯ぃ!!』



 お馬鹿さんが再びお米を所望し、お椀を受け取って帰って来ると。彼女が持って帰って来たお椀に変化が現れた。



 そう、お椀から丼に変化したのです。



 田舎のおばあちゃんが盛る量の米を持ち。



『さぁ、食えるものなら食ってみろ』 と差し出したのだが……。



『わぁぁぁあ!! やったぁ!! 特盛だぁ!!』



 此れでもかと口角を上げて、ペロリと平らげ。


 彼女は信じられないといった表情を浮かべ、ぎゅっと奥歯を噛み締めて再び扉を出て行ったのだ。




 彼女にも何か礼を返さねば。




「所、で。レイド様。出発はいつを予定していますか??」



 頭の中で様々な方法でのお返しを考えていると、アオイが此方に尋ねて来る。



「そうだな……。明日の朝には発とうと考えているよ」



 これ以上長居をしたら皆様に迷惑を掛けてしまう。


 無限に飯を食う奴をこれ以上此処に置いておく訳にはいかんからね。



「明日、ですか。ふぅむ……。成程……」



 細い指を口に当て、何かを考える仕草を取る。



「どうした?? 何か伝えたい事でも??」


「いえ。大丈夫ですわ」



 そう話し、温かく嬉しい笑みを送ってくれた。



「お待たせ……。はぁ、はぁ……。しました。滋養の実をお持ちしました」



 息も絶え絶えにそう話すと、本日採取して来たあの果実擬きを机の上に置く。



「これ、食べられるの??」



 てっきり染料か何かに使うものかと考えていたのに。



「これは滋養の実と申しまして……。この周囲の森でしか生えない実ですのよ?? 適度な甘味が舌を喜ばせ、果肉から溢れ出る果汁が喉を潤してくれるのです」



 アオイがお皿の上から果実擬きを一つ取り、机の上に置かれていた果物ナイフで器用に両断すると。



「「「……………………」」」



 濃い紫色の外皮の中から現れたのは、これまた濃い紫。


 いや……。


 黒に近い紫、か??



 果肉からトロォリと溢れる紫の果汁が大変お硬い生唾を溢れ出させ。




『ゴクリ』



 と、喉の奥に無理矢理流し込んだ。



 あ、アレを食うのか??


 いや、食い物と断定しても宜しいのだろうか……。



「ささ!! レイド様。あ――――んっ」



 アオイが颯爽と立ち上がり、カエデと俺の間の狭い空間に体を捻じ込み。



 これまた恐ろしい物体を俺の口に捻じ込もうとする。



「い、いや。お腹空いていないから……」



 右手をすっと掲げ、やんわりと果実をカエデの方へと差し向けた。



「美味しいですのよ??」



 味は兎も角。



『これは食すべき物ではない』 と体が拒絶しているのです。



 さて、どうやって断ろうと次なる一手を考えていると。



「ふぁむ…………。んぶっ!?」



 変な声が背後から届いた。



「マイ、それどうよ??」



 唇から粘度の高い紫色の汁を零す彼女に対し、ユウが問う。



「んぐぐ……。んっ。ぷはっ!!!! 美味い!!」



「「いやいや。美味いだけじゃなくて、その他諸々を聞かせてくれ」」




 一字一句間違わずユウと声を合わせて話す。



 息、ピッタリですね??




「一噛みするとすんげぇ果汁が溢れ出て!! それをゴクゴクと飲み干す!!」



「「ふんふん」」



「果汁の味は甘さ控えめの優しい味ね!! ふぁむっ!!!!」



 四分の一に切り分けられた果実を意気揚々と手に取り、大変幸せそうな表情で口へと運んだ。



 続けて二つ目、か。



 あいつが食っても大丈夫なら……。



「はいっ、あ――んっ」



 白い髪の女性は嬉しそうな顔してるし。



 此処は一つ、頑張って食べてみましょうかね。



「あ、あ――ん」



 アオイに差し出された果肉を恐る恐る口に含み。


 祈る想いで口を閉じた。



「んぶっ!?!?」



 林檎に似た硬さの果肉を咀嚼した刹那。



 頬がこれでもかと膨らんでしまった。




 な、何だこれ!?


 何処にこんな量の果汁が潜んでいるんだ!?



「如何ですか?? レイド様??」


「も、もうひょっと待って。飲みきれない……」



 ゴクっ……。ゴクっ……っと大量に湧き出る果汁を飲み終え。



 そして。



「ぷはっ。うん!! 形と色は兎も角、美味しいよ」



 俺の体と思考は有難い事に合格点を叩き出してくれた。



「まぁっ!! 喜んで頂いて光栄ですわ!!」



 どういたしまして。


 そんな感じで一つ頷き、クルリと方向転換。



「はい、ユウ。どうぞ」



 切り分けられた果肉を一つ手に取り、彼女へと差し出した。



「は?? あ――……。お腹一杯だから」



「「……ほう??」」



 その声を受け、俺とマイの目がキラリと光った。



「ユウ――。好き嫌いは駄目なのよ――??」



「ちょ……。何をする!?」



 ユウが後方から羽交い絞めにされ、目を白黒させる。



「マイの言う通りだ。ユウ、好き嫌いは良く無いぞ」


「いやいや。近付けないで、ソレ」



 全く……。


 この子は……。



 何を習って今まで生きてきたのやら。



「いいか?? ユウ。俺達は命を頂いて生きているんだ」



 お分かり??


 そんな感じで話す。



「そうだな」



「うむ。そして、命を頂く礼儀として食べ尽くす事が求められているのも理解しているよな??」



「理解はしているけど。それとこれは別の話じゃん」



「いいや!! 違わないね!! ってな訳で。はいっ、あ――んっ」



 右指で果実を摘まみユウの口へと運ぶ。




「止めろ!! いらないって!!」


「ユウ――。美味しいから食べてみなって」


「マイの言う通りだ。ほれ、どうぞ」




 ぷるんっと丸みを帯びたユウの口に当てるが。



「ん――っ!!」



 あれま。


 閉じちゃった。



「マイ、宜しく」


「おう!! おりゃおりゃおりゃあああ!!」



 羽交い絞めを刹那に解除。


 ユウの両脇を馬鹿げた速さの両手が襲い。



「ぎゃはは!!!! ど、何処触って!!」



 その得も言われぬ感触に口が開閉。




 貰ったぞ!!


 刹那に開いた絶好機を狙いすまし。大笑いを継続させる御口に果実を捻じ込み。



「んぐっ!?」


「はぁい、咀嚼しましょうね――」



 右手で口を塞いでやった。



「ん――!! ん――んっ!!」



 ほう??


 断ります、と??



 目に涙を浮かべて顔を横に振る。



「駄目ですよ――。好き嫌いしちゃあ」



 左手で優しく顎を押し上げてやると。



「――――。んぶっ!?!?」



 此方の予想通り、頬がポンっと膨らんでくれた。



「どうだ!? 美味いだろ!?」



 ぱっと手を離し、満面の笑みで言ってやった。



「ゲホッ!! コホッ!! あ、あぁ……。美味かったよ……」



 嗚咽した後、振り絞る様に声を出す。



「それは良かっ……。ほ!?」



 満足気に頷くと同時に、右腕をユウに掴まれてしまった。



 ど、どうしたのかしら??


 お怖い顔ですよ??



「お返し……。しなきゃなぁ……」



 滋養の実を『丸ごと』 手に持ち。此方へとぐぐっと差し出す。



「いやいや。もう食べたから。それに、その大きさを噛んじゃうと危ないですよ??」



 四分の一程度で頬が溢れたのだ。


 それを一個丸ごと食べたらどうなることやら。



「あたしが食べる訳じゃないし……」


「ご、御免。謝るからさ!! 放してぇええ!!」



「うるせぇ!! これ食って黙ってろ!!」



「ばむぐっ!?」



 大変力強い腕に引き寄せられ、一瞬の隙を狙った一撃が口腔を襲った。



「マイ!! 今だ!!」


「おぉう!!」


「ヴァメデ!!!!」



 ユウの脇から出現した愚か者が俺の顎を両手で掴み、そして……。


 天へと上昇させた。




 予想通りと言いますか。




 馬鹿げた量の果汁が口の中に溢れ、それに収まりきらない量は鼻から。


 そして、口から飛び出して目の前の深緑を穢してしまったのでした。




「バッッッッフゥウ!!!!」


「ぎゃあああ!! お、おい!! 吐き出すなよ!!」


「こっちまで飛んで来たじゃねえか!?」




「う、五月蠅い!! お前達が悪いんだぞ!? 馬鹿な事をして!!!!」




 喚き散らす三名。


 もうこの光景になれてしまったのか。


 藍色の髪の女性は、ふわぁっと大きな欠伸を放ち。シパシパと瞬きを繰り返す。



 そして、お上品に口元をハンカチで拭き取り。


 御馳走様でしたと矮小な声と美しい所作でお辞儀を放ち、喧しく鳴り響く音を一人楽しんでいたのだった。


如何でしたか??


さて、次の話では蜘蛛の里を出発し北へと向かいます。


深夜の投稿になってしまい、申し訳ありませんでした。

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