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第五十四話 矢継ぎ早に下される新たなる任務 その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。



 人はどうして山に登るのか。


 それは頂上を目指して達成感を得る為。将又、趣味の為か。


 少なくとも苦難の果ての充実感を得る為に登頂するのだと俺は考えている。


 本日、聳え立つ山の頂上であるレンクィストの街が見えて来ると安堵にも似た息を大きく漏らすと同時に大きな充実感を得た。



 やっと……。やっと、到着したぞ。



 気の許す仲間との行動では無く、警戒するべき者達との行動を続けていた所為か。


 今回の登頂はかなり体に堪えてしまった。


 任務とは言え相対関係に位置する彼等と行動を共にするのは肩が凝るよ、全く。



「到着したね」


「あぁ。これでやっと肩の荷が下りるな」



 愛馬リクに跨り隣を進むトアに言ってやる。



「そんなに張りつめていたの??」


「ん?? あぁ――。まぁそんな所かな」


「お偉いさんもいるし、それも当然か」



 正確に言えば、ちょっと違うけどね。


 相対する位置に存在する者共との行動、並びに俺が魔物と行動を共にしている事を世へ明るみに出したく無いのさ。



「レイド様。宜しいですか??」


「只今!!」



 また俺かよ。


 今回の護衛任務で呼び出されたのはこれで何度目だろう。


 これで最後にして欲しいものだ。



「私達はこのまま本部へと向かいます。御二人は馬を厩舎に預けた後、本部へお越し下さい」


「このまま解散では不味いですか??」



 早く帰って休みたいのが本音です。


 それに彼等を無事に送り届けるのが今回の主任務。


 警備が街の隅から隅まで行き届いているいけ好かない街中で襲われる心配も無いだろうし。



「シエル様に御一言伝えてからの方が宜しいかと。そう思いましてね」



 ルトヴァンさんが意味深な声色で此方にしか聞こえない声量でポソっと話す。


 あぁ、そういう事。


 こちらは資金提供を受けている身。


 その最高指導者へ恩を売っておいても損は無いぞって事ですか。



「了解しました」


「では、御先に失礼致します」



 軽く会釈すると、豪華な馬車と護衛はそのまま門を潜り。街の大通りへ向かって進んで行った。



「何だって??」


「シエルさんに一言挨拶を交わして解散だとさ」



 今しがた受けた説明をそのまま話してやる。



「え――。もう解散でいいじゃない」


「俺もそう伝えたよ。けどさ、シエルさんにおべっかを使って恩を売っても罰は当たらない。あの目はそう言っていたよ」


「あ――。成程ね」


「そういう事はお偉いさん方に任せていればいいのに。何で俺達がせにゃならんのだ」



 大きな溜息を漏らして門へと進む。



「これも任務だと思って諦めなさい」


「へいへい。あ、門兵さん。このまま進みますよ??」



 見れば出発した時と同じ男性門兵が此方を見上げている。



「構いませんよ、どうぞ、お進み下さい」



 先程までの行動を見ていたのか、態々許可証を見せずとも入場を許してくれた。



「ねっ」


「ん――??」



 厩舎に進みながらのんびりした声で返事をする。



「このまま帰っちゃおう、か??」



 もしもし?? お嬢さん??



「俺の話、聞いてた??」


「聞いてたよ。でもさぁ、やっぱり気が進まないわよ。今回の任務は護衛でしょ?? よぉく考えたらあの憎たらしい女に会う必要ないじゃん」



「あのねぇ。そりゃあ俺もそうしたいよ?? だけど挨拶を交わすと言った以上、約束は守るべきさ。あの――!! すいません!! 馬を預かって貰えませんか!!」



 厩舎の入り口に到着すると、建物の奥へ届く声量で叫ぶ。


 すると、これまた出発時と変わらぬ厩舎の担当者さんが軽快な笑みと足取りで俺達の下へとやって来てくれた。



「は――い!! 承りますね!!」



「宜しくお願いします。ウマ子、ちょっと待っていてくれ」

「リク、言う事聞くんだよ??」



『あぁ、早く行って来い』

『……』



 ウマ子は頭を上下に振るとリクと共にその足で厩舎の奥へと向かって行った。


 聞き分けのある子で助かるな。


 普通の馬だとこうはいきませんからね。



「約束ねぇ……。良く考えるとさ、今回の任務。どうして私達パルチザンに依頼したんだろう??」



 トアと共に肩を並べながら大通りを歩く。


 いつもと同じく静かな佇まいの建物と、街を歩く人々の好奇の視線が身に染みた。



 この突き刺さる視線と整い過ぎている街の外観。


 何度来ても慣れる気がしませんよ。



「手練れが必要だったんだろ」


「それだったら別に傭兵でもいいじゃない。傭兵の手練れなんて腐る程いるわよ??」



 それも……、そうだな。


 トアの言葉に何か引っかかる物を感じた。



「それと……。レイド、あの大蜥蜴を相手にするの初めてじゃ無かったでしょ??」



 相変わらず鋭い事で。



「どうして??」


「だってそこまで緊張していなかったし。それにどことなく戦闘方法を熟知していたもん」



 本当は軍規で任務内容は例え仲間でも言っちゃいけないんだけどね。


 同じ大蜥蜴と対峙したトアなら大丈夫か。



「実はさ……」



 以前、あいつらがスノウへと続く補給路を襲っていた話を伝えてあげた。



「――――。へぇ、そんな事があったの」


「まぁね。あの女首領は初見だけど、対峙した中に同じ個体はいたよ」



 報告書には大蜥蜴としか記載していない。


 後に矛盾しない為にもデイナとの会敵は今回が初めてだと伝えておかないと。



「それって、あのマント着た奴??」


「そうそう」



 アイツ……。ちょっと間抜けな奴だけど、野盗の割には良い奴なんだよな。


 捕まえて師匠の所へ捨て置けばきっと更生してくれる筈。



『この軟弱者めがぁぁ――!! 貴様は図体だけの能無しかぁ!?』


『や、やめ!! うげぶっ!?』


『立て!! 貴様の腐った性根……。儂が叩き直してくれるわぁぁああ――っ!!!!』




 師匠の所は不味いな。


 足腰立たなくなるまで殴られ続け、更生する処か。


 善の道へ戻る前に違う道を辿って向こうの世界へ旅立ってしまいそうだし。


 何より、そんなデカイ蜥蜴を置いて行くなと鋭い御指摘を受けてしまいそうだもの。



「だから勝てたのね?? 情報があるなら言ってよ……」



 むっとした表情で俺を睨んでくる。



「ごめんって。トアとは友人でもあり仲間でもあるけど、任務の内容をおいそれとは口外出来ないんだよ。知っているだろ??」



 これは建前。


 本音は……。こっちの問題に大切な友人を近付けたくないのだ。


 人間と魔物では力に差があり過ぎる。トアの実力ならある程度の敵を相手に出来るが、一般兵となれば話は別だからね。



 人は人の、魔物は魔物の問題を解決するべきなのですよっと。



「んむぅ……。許す!!」


「何様だ。ほら、見えて来たぞ」



 話題を変えようとして前方に見えて来たイル教の本部へ指を差してやる。


 俺達が来ることを門番に伝えておいてくれたのか、門は開いたままになっていた。



「おかえりさいませ。レイド様、トア様」


「ど、どうも……」



 満面の笑みで迎えられるのてちょっと恥ずかしいな。


 門の両脇の二人に歓迎を受けてその足でやたらと広い中庭へ進むと。



「「「……」」」



 既に到着した者達は荷物を降ろし、何やら話し合っている様子であった。



「皆忙しそうね」


「片付けやら報告やらで四苦八苦。って所か」



 護衛を務めた俺達とは違い、向こうで得た情報の共有をして、それから書類に纏めて……。


 否応なしにいつもの報告書の山が頭の中に浮かぶ。


 今回の任務。


 どれぐらいの高さになるんだろうなぁ。


 今から心配になってくるよ。



「あの女がいないじゃない」


「シエルさん?? ん――――。施設の中じゃないかな??」



 ルトヴァンさんは護衛を務めた信者達に何やら指示を出して荷物を纏めさせ、恐らく彼等を迎えたであろう他の信者もその作業を手伝っている。



 忙しい身だし、やっぱり今日は帰ろうかな??



「邪魔しちゃ悪いし、帰ろうか??」


「そうね。一応ルトヴァンさんに挨拶を…………。ちっ」



 え?? 舌打ち??


 俺、何か悪い事したかしらね。



 少しだけ動悸が早まるのを覚えつつ正面の屋敷へ視線を動かすと、夜空も羨む漆黒の髪を揺らして一人の女性が此方に向かって歩いて来る姿を捉えた。


 女性らしい丸みを帯びた肩、端整な顔に合った弧を描く眉、そして嫋やかでありながらもどこか威厳を感じてしまう歩き姿。


 この人はいつ見ても変わらないな。



「お帰りなさい、レイドさん。それと…………。えぇっと……」


「トアです」


「あぁ。そうでしたね」



 ぎゅっと握っているトアの手が微妙に揺れ動く。


 お願いだからその拳を抑えて下さいよ?? 相手はこの国を動かす程の資金を蓄えている団体の最高指導者なのですから。


 横っ面に一発見舞ったら首が飛ぶ処か、とんでもない慰謝料を請求される恐れがありますからね。



「如何でした?? 新しい教会は??」


「えぇ。見事な細工の扉でしたね」



 中には入れなかったし、外見しか褒める所が無いのが少しだけ不憫に感じてしまう。


 どうせならついでに中も覗きたかったけどさ。エアリアさんも、ルトヴァンさんも信者の対応でてんてこ舞いって感じだったし。



「まぁ!! やはりそう思います?? 良かった、御覧になって頂いて……」



 いや、だから普通の距離感を覚えて下さいって。


 通常の距離から一歩前に踏み出して悪戯に空間を削って来た。



「オホン!! 護送は滞りなく済ませました。私達二人!! の大活躍で、大蜥蜴の襲来も退ける事に成功しましたよ」



 そこ、強調する所かしら??



「報告は受けました。レイドさんのご活躍で撃退したと御伺しましたわ。うふふ……。やっぱり頼れるのは殿方ですよねぇ」



 か細く白い指で俺の胸をトンと突いて来る。



「何かお礼をさせて頂けませんか??」



 若干潤んだ瞳で俺を見上げてそう話す。



「そのお気持ちだけで十分です」



 シエルさんの魅惑的な瞳が俺の鼓動を速めるのは当然の理かと思いきや、この心臓が五月蠅い現象にはもう一つの理由があった。



「……っ」



 ちらりと今見えてしまったのだが……。怒りの矛先を方向転換させたトアの右手が俺の臀部へと向かい、二つで十分の尻を四つに割こうと画策しようとしているからなのです。


 お願いします。


 どうか、痛みが訪れませんように。


 信仰心の欠片も持たない俺が祈り、居もしない神へ助けを請うてしまった。



「う――ん、でも人命だけでは無く。遠征もレイドさんに助けられたから……。あっ!! そうだ。うふふ……」



 何かを思いついたのか、体の前で両手をポンっと合わせて端整な唇を柔らかく曲げる。



「本当にお気持ちだけで構いませんからね??」


「後日、改めてお礼の品をお贈りさせて頂きます」



 いや、要らないって言っているんですけど。



「シエル様。報告した事がありますのでこちらへ」



 ルトヴァンさんが此方に向かって話す。



「今行きます。楽しい時間はあっと言う間に過ぎてしまいますね……。暫くレイドさんに会えないと思うと身を焦がす想いです……」


「そうですふぁっ!! 呼んで頂ければ直ぐにでも駆けつけまぁっす!!」



「?? ふふっ。可笑しな顔」



 シエルさん。


 それ以上彼女を刺激する仕草、言動、並びに行動を慎んで頂けますでしょうか!!


 臀部に蜂、いや。


 大蛇が噛みつき俺の尻に火が点いてしまっているのですよ!!



「では、失礼します」


「ふぁ、はい!!!!」



 陽気な足音を立てて去るシエルさんを見送ると、打ち立てられた牙が引き抜かれ苦痛が過ぎ去った。



「おい!! 何するんだよ!!」



 彼女が立ち去り、俺達からある程度の距離を置いた所で憤りを籠めた声色を放つ。



「へ?? 何??」


「惚けるな。俺の尻、抓っただろ」


「さぁ?? 幻痛じゃない?? それより、早く帰ろうよ。今出れば夕方に間に合うよ」



 あっけらかんとして話すトアに呆れ、重い空気を吐き出した。



「はぁ……。了解、帰還しようか。それでは失礼しますね――っ!!」



 中庭で作業を続ける彼等に向かい、一礼をして踵を返した。



「あの女。どうしてレイドにちょっかいだすのよ」



 牙は放してくれが、まだ怒りは体の中で燃え続けている。


 憤怒の残り火が灯った瞳で俺を睨みつけた。



「知らないよ」


「知らない訳ないでしょう?? 何か理由がなきゃアンタが美人にモテる訳ないもん」



 御免。それってちょっと酷く無い??



「もうちょっと包んで話せ」


「嫌よ。だって真実だもん。ほら、理由を吐け」


「…………本当に知らないんだって」


「今の間は何??」



 残り火が勢いを増して、彼女は今現在怒りに満ちていますよと容易に確知出来る雰囲気と目の角度で俺を睨んだ。



「言葉を探して話したから間が開いたの」


「嘘ね。目がそう言っている。良し、二回目いこうか??」


「止めて!! 本当に割れるって!!」



 これは本格的に不味い。


 そう考え、駆け足で門を抜けて街の出口へと突き進んだ。



「あ!! 待てこら!! 四つにしてやるっ!!」


「割れる訳ないだろ!!!!」



 この二人の状況を見た門番はきょとんした瞳を浮かべ。


 あぁ。他愛の無い痴話喧嘩なのだろう。


 と、勝手な解釈を頭の中で想像し。街の出口へ向かって勢い良く掛けて行く二人の男女を見送ると彼等の仕事の一環である門をそっと閉じた。


お疲れ様でした。


後半部分は今から編集作業に入りますので、日付が変わる頃の投稿になります。


それまで今暫くお待ち下さいませ。

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