第四十二話 真相は闇の中へと
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それでは、御覧下さい。
白い靄に意識が包まれ、朧げに揺れていた体が徐々に明確な形を形成。確固たる意識と感覚を取り戻して踏み応えの無い大地に足を下ろす。
固く閉ざされていた瞼を開くとそこは、何処までも広がる白い絨毯の上とでも呼べばいいのか。
きっと天国という非現実的な場所が存在すればこんな温かい場所なのだろうと、想像力豊かな人にそう思わせる光景の中に一人佇む。
空は青く澄み渡り春の陽射しにも似た光が降り注ぎ。体を包む温かくそして心地良い風に身を委ねていた。
何だろう。
凄く、心地良いや。
何処までも広がる白き平原をあても無く進んでいると……。
突如として景色が一変した。
温かい陽射しが刹那に消失し漆黒の闇に包まれ。空からは深紅に染まった月明りが降り注ぎ、心地良さが途端に霧散してしまった。
そして、不気味さを醸し出し。恐怖感を絶大に募らせる風景の中に突如として二体の形容し難い化け物が出現した。
な、なんだ!? アイツらは!!
黒く染まった人擬きの体に生える多腕。その中の二つの腕に小太刀を手に取り、此方に向かって恐ろしい殺意の波動を放ち。
もう一体の体色も同じく漆黒。鋭い牙が生えた口からは訳の分からん言葉を叫び此方を威嚇していた。
形容し難い化け物の出現に狼狽えていると……。
『アイツらは敵よ』
男の心をぐっと掴む声が空から響いた。
敵??
『そう、敵。あなたの命を涸らそうとする愚か者よ』
敵、か。
それなら……。殲滅すべき対象だな。
アイツ等はこの大陸を跋扈する醜い豚の亜種なのだろう。俺達の命を奪おうとせんとする化け物に慈悲を与える必要は無い。
アイツ等も此方に慈悲を与えないのだ。当然であろう……。
右手に持つ刀に力を籠め。
そして……。龍の力を解放して対峙してやった。
『いい子ね。さぁ、敵を殲滅しましょう』
あぁ、勿論だ。
敵は殺さなければ……。
小太刀を構える化け物に向かい、何の遠慮も無しに天から刀を叩きつけてやる。
『っ!!』
へぇ。
良く受け止めたな。
そんな細い腕で。
小太刀と刀が衝突し、火花が舞い散る。
衝突音が耳を楽しませ、手に伝わる衝撃が殺意を湧かせ、宙に舞う火花が心に闘志を焚き付かせた。
いいぞ、お前!!!!
敵ながらやるじゃないか。
小太刀の感触を存分に楽しんでいると……。
『……』
もう一体の敵が魔法を詠唱。
鋭い氷の刃が俺の頬を掠めて行った。
ふぅん……。
俺の首を刎ねようとしやがったな??
小太刀を持つ個体の腹を蹴り、後方へと吹き飛ばしてやると同時に。魔法を詠唱した敵と対峙した。
ふんっ。
生意気にも魔法かよ。
カエデと比べればあんな魔法……。いいや、比べるのも失礼か。
賢明な彼女の姿を思い出そうとすると。
「つっ!?!?」
頭の中に激痛が走った。
いってぇ……。
何だ、この頭痛。
『余計な事を考えないで?? 今は敵を倒すことに集中しましょう』
集中、敵を倒す。
あぁ、了解だ。
鬱陶しい痛みから逃れる様に頭を激しく振り意識を正常に戻し。改めて敵と対峙すると、魔法を使用する化け物が風の刃を此方に向けて放った。
遅いぞ!!!!
刀を左手に持ち替え、右手の鋭い龍の爪で空気を切り裂く鋭い風の刃を打ち消してやった。
おぉ!!
凄いぞ!! この力!!
まるで木の端くれを叩き切ったみたいだ!!
待ってろよ?? お前……。
今直ぐ殺してやるから……。
続け様に飛来した火球を宙へ飛んで躱し、背の高い木々の幹を利用して方向転換。
落下する加速度を利用し。衝突を受けて地面に倒れた化け物に跨ってやった。
『……』
あはは!!
どうした!?
今更命乞いか!?
気色の悪い腕を我武者羅に動かし、最後の抵抗を続ける化け物の姿がまぁ可笑しい事で。
安心しろ。
今、楽にしてやるから……。
両手に力を籠め、刀の柄を握り締めた。
あれ??
刀が折れてる……。
さっきの小太刀と衝突した時に折れたのかな??
半分に折れた刀でも殺傷能力はあるだろう。
湾れ刃に映る己の顔を見ると……。
俺の顔の後方に誰かが朧に立ち、此方の様子を窺う様に映っていた。
誰だ?? お前……。
『――――――。あはっ。見えた!?』
見えた??
『今はまだ君には時期尚早だからねぇ。そんな事よりも、君。友達を殺しても良いの??』
友達??
この化け物が友達な訳ないだろう??
どこからどう見ても殲滅すべき敵じゃないか。
『まぁ私的にはどばぁっと血が噴き出すのが好きなんだけどぉ。う――ん。どうしようか』
その者が特に悩む様子を見せない声色で話す。
『助けてあげたいのは山々だけどさ、君はまだ私の力に耐えられないからねぇ……。一応、忠告だけはしたからねっ!!』
そう話すと、その者が霞みの如く消失してしまった。
そして、再び襲い掛かる頭痛。
ぐっ……。くっそう……。
あ、頭が割れそうだ!!
頭を抱え、頭痛から逃れようとするとまたあの心地良い声が響いた。
『ころ、し、なさい』
誰だ!?
止めろ!? 頭が割れそうなんだ!!
心地良い筈だった声が途端に棘を持ち、悪戯に頭の中を傷付けて来る。
『ま、けない……。で』
て、敵が喋った!?
俺の下でのたうち回る敵が恐ろしい口を開き、人の言葉を話しやがった。
『そいつは敵、よ』
『帰って、来て』
化け物が手を伸ばすと俺の腕にそっと優しく重ねた。
何だろう……。
コイツの腕、温かいぞ。
真冬の凍てつく風で凍えきった体を温めてくれる暖炉の柔らかい炎。
あの温かい揺らめきにそっくりだ。
温かい感覚が体の芯まで侵入すると、頭痛が途端に止んでしまう。
こいつに従えば……。いいのか??
『殺せ。殺せ!!!!』
『帰って来て!! お願い!!』
止めろ!! 同時に叫ぶな!!!!
頭が割れそうなんだ!!!!
この苦痛から解放されたい。
現実の下へ帰りたい!! 仲間の下へ帰りたい!!
頭を抱え、切なる懇願を頭の中で叫んでいると背後からもう一体の化け物の声が響いた。
『負けないで下さいまし!!!!』
この声は……。アオイか!?
いや、でも。
先程蹴り飛ばした個体は敵だった……。
彼女の声を聞くと、作戦会議室での会話が脳裏にふと浮かぶ。
『相手を越える魔力を解放するか、常軌を逸した痛みを己に与えるか』
そうか。
これは……。幻なのか??
だが、此処で選択を間違えれば敵に優位を与えてしまう事になる。
己を傷付けるか、敵を殺すか。
その二者択一に迷いに迷った俺は……。
両手で握り締めた刀の柄を猛烈な勢いで振り下ろしてやった。
「――――――――。お帰り、レイド」
「くっ…………。た、た、只今。カエデ……」
右足に走る激痛に耐え、腹の奥から振り絞る様に声を出してやった。
や、やっぱり幻術だったのか!!
選択肢を間違えなくて良かった……。
「そ、そんな。私の魅了を跳ね除けるなんて……!! 有り得ない!!」
「俺一人だったら有り得ないだろうさ。でもな?? カエデやアオイが居てくれたから可能になったんだ……」
頭がおかしくなりそうな激痛に耐えながら立ち上がり、息も絶え絶えに。慌てふためく女にそう言い放ってやった。
「レイド様っ!! 御無事で御座いますか!?」
「ありがとう、アオイ。あの助言が無かったら危なかったよ」
右腕を掴み、痛いほどに細い指を俺の皮膚に食ませる彼女へと話す。
「ちっ!! 手負いのあんたたちなら私は負けな…………。っ!?」
彼女が此方に向けて深い紫色の魔法陣を浮かべると同時に……。
黄金の槍が空気を切り裂き、彼女の足元に突き刺さった。
「じゃじゃ――ん。本家本元の超悪役の登場で――――――――すっ」
月明かりの下に深紅の髪を揺らしつつ堂々と姿を現し。
いつも通り片眉をクイっと上げて話す。
はは。
あいつ程悪役が似合う人はいないだろうなぁ。
「あのな?? お前さんが悪役だったらあたしまで悪役になっちまうだろ。よ――!! お待たせ――!!」
「ユウ!! 来てくれたんだな!!」
大戦斧を肩に担ぎ、本家本元の悪役さんの後ろに立つ彼女へ叫ぶ。
よし!!
形勢逆転だ!!
「役者が揃いましたね。――――。さぁ、終演です。諦めてお縄について下さい」
カエデがそう口を開くと同時に、彼女を取り囲む様に皆が配置した。
さぁ、どうする??
お前さんの逃げ場は無いぞ!!
「く、くそう!!!! いつか、いつか!! お前達も必ず人間を忌み嫌う様になる!! その日が来ても遅い!! 後悔する前に、根絶やしにする事ね!!!!」
「ふんっ。ぐちゃぐちゃとうるせぇ蝿ね。言い訳は後で聞いてやる」
マイがそう話すと。
「だな。あたし達を苦しめた罰、その身を以て分からせてやらぁ……」
ユウがそれに続き、彼女を取り囲む輪が縮小。
捕縛する為にいざ飛び掛かろうとすると……。
「人と魔物は相容れぬ存在なのよ!!!! それを……。決して忘れるな!!」
彼女の体から網膜を焼き尽くす程の閃光が放たれた!!
「「「「「っ!?」」」」」
暗闇に目が慣れていた所為か。
咄嗟に瞼を閉じ、光から逃れる為に腕を翳した。
「――――――――。逃しましたね」
カエデの一言を受け、目を開くと。
そこに居た筈の彼女の姿は消失し、怪しい月明かりが虚しく地面を照らしていた。
「ちっくしょう。あんな魔法があるんなんて……。知っていたら目を瞑っていたのに」
「マイ。仕方がありません。手負いの獣は時に此方が考えている以上に力を発揮する時がありますので」
あの女を逃してしまったのは痛手だな……。
捕縛出来ていたら貴重な情報を入手出来ていたのに……。
「ふんっ!!!! んっ?? んんっ!? おい!! ボケナス!!!!」
きっと俺の事だろうが……。
敢えて無視しましょう。
此処で返事をすれば認めたと同義なので。
折れた刀を納刀し、地面に横たわっていた空っぽになった矢筒を背負うと。
「無視すんな」
「いっっっっっっでぇええええええええええええ!!!!」
大馬鹿龍が今も血が滲み出る足を蹴りやがった!!!!
「大袈裟な奴ねぇ。出血した位で大袈裟なのよ」
「あのなぁ!! これ!! これが刺さったの!!!!」
今し方納刀した刀を取り出し、俺の血がべっとりと付着した刃面を見せてやる。
「何で刺さったのよ」
キョトンとした瞳を浮かべる大馬鹿野郎に事情を説明してやった。
「ふぅん。じゃあ、自業自得じゃん」
「はい??」
俺に非があるとでも言うのですか??
「あんたが気を付けていれば、魅了に掛かる事も無かったし。相手が女だからって油断したんでしょ??」
「いや、まぁ……。森の中で倒れていたらそりゃ誰だって気掛かりになるだろう?? ユウの場合もそうだったし」
マイの後ろで背嚢を背負い直している彼女へと視線を送る。
「まぁ、そうでしたの?? ユウ」
彼女の隣、アオイがちょっとだけ意外。そんな意味を籠めた瞳でユウを見つめた。
「あ、あぁ。うん。そうだったな……」
「空腹で倒れていたユウとは違って、こんな危険な場所だし。流石に腹ペコで倒れている訳が無いとは思うけれど…………。もぅっ!?」
訝し気なマイの顔を見て話していたら何かが顔に飛来。
思いの外、その物体は硬く。乾いた音と共に顔が後方へと仰け反ってしまった。
「何すんだよ!! ユウ!!」
これ以上の出血は了承出来ません!!
「うっせぇ!! さっきから腹ペコ、空腹とか!! あたしの恥部を堂々と話すんじゃねぇ!!!!」
「本当の事じゃないか!!」
「ユウ――。恥部ってぇ。ここの事ぉ――??」
悪戯心を満載した笑みで、マイがユウの双丘を鷲掴みにする。
「触んなぁあああああああ!!」
「あれぶぅっ!!!! いってぇなぁ!! 脳みそが耳から零れたらどうすんのよ!?」
「出すつもりでぶん殴ったんだよ!!」
零れる程の勢い、ですか。
俺だったらきっと失神してしまうでしょうねぇ……。
「ささ、レイド様。洞窟へ帰り、治療を開始しましょう」
「あ、うん……。申し訳無いけど。もうちょっと離れて」
こんもりと盛り上がってしまった着物に挟まれた腕を引き抜いて話す。
「あんっ。駄目ですわっ……。レイド様ぁ。私、ソコが弱いのですよ??」
知りません。
そして、教えて頂かなくても結構で御座いますわよ??
五月蠅く鳴く心臓を宥めていると、後方から恐ろしい獣の声が二つ。
普段の日常を取り戻し。しんっと静まり返った密林に強烈に、そして猛烈に鳴り響いた。
「「死ねぇえええええええええええ!!!!」」
「ぎぃいやあああああああああ!!!!」
背骨がペキっと乾いた音を立てて体が地面と平行に飛翔。
大きな樹木さんに優しく受け止めて頂き、やっと体が地面に到着してくれた。
どうしてあなた達は言葉よりも先に手を出すのでしょうか??
戦闘以外での負傷が目立つこの体を見ても何とも思わないのだろうか……。
深紅と純白が月光の中で激しく入り乱れる光景を眺めつつ、普段の生活態度を改めようと俺は人知れず決心した。
百戦錬磨の兵士達もあの声を聞いたらきっと恐れをなして此処から踵を返すであろう。
深い密林の中で行われる男女の愉快な姿が此度の戦闘の終了を知らせる。
密林の木々達もこんな夜更けに何をやっているかと呆れた顔を浮かべていた。
そして。
前後左右に飛び回る深紅と深緑と純白だが、藍色の彼女だけは冷静さを保ち。お上品に両手を添えて大きな欠伸を放った。
つぶらな瞳を二度、三度ゆっくりと閉じては開き。悪戯に過ぎる時間に苛立ちを募らせ。いつまでも鳴りやまないとついに確信したのか。
周囲の密林の木々達が勘弁して下さいと懇願する圧の魔力を放つと、漸く森に静寂が訪れたのだった。
お疲れ様でした。
明日の投稿なのですが……。帰宅時間が少々遅くなりそうなので早い時間の投稿は間に合わないかも知れません。
投稿したとしても深夜の投稿になる可能性が高いです……。
そして、間も無く第一章の終盤へと突入致しますので。第二章のあらすじを端的に活動報告へ記載させて頂きます!!
宜しければそちらも御覧下さい。




