表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
425/1237

第四十七話 黒き感情を糧にするケダモノ

お疲れ様です。


本日の投稿になります。


それでは御覧下さい。




 青き月明りに照らされた三名の闘士が放つ闘気が戦場の熱を高める。


 森の中を通り抜けて行く微風が高まり続ける熱を冷まそうとするが……。その程度の風量では高まった戦意を下げる事は叶わず。


 戦闘が始まる前まで心地良く歌声を放っていた夜虫達も固唾を飲んで俺達の状況を見守っていた。



 さぁ、どうする??


 一対一の戦いに拘るべき状況ではないから二人で女首領の相手を務めるべきか……。


 それとも第二段階ニューフェイズを発動させて一気苛烈に無力化させるか……。



 判断に躊躇していると、デイナが静かに口を開いた。



『掛かって来ないのならこっちから向かうけど??』



 長剣の柄を握り締め、俺とトアを交互に見つめながら話す。



「はぁ?? 何言っているか分からないわよ」



 トアが彼女の突撃に備え、中段の位置に長剣を構えて彼女の言葉に答える。



『五月蠅い女ねぇ。折角優しい私が説明してあげてるってのに』


「うわ、うっざ。その顔……。あんた今、私の事馬鹿にしたでしょ」


『雑魚は無視ね』


「おい!! どこ見てんのよ!!」



 言葉が通じなくても何となく意思の疎通は図れている様で何より。


 只、両者の意思はどちらとも恐ろしいものですけどね。



 デイナが切れ長の目で俺を捉えると。



『私はお楽しみは最後まで取っておきたいんだ。そこの男は後で私が頂くとしてぇ……』



 御馳走を前にした犬の様に、粘度の高い液体を纏わせた舌で唇を淫らに濡らす。



 負けたらお持ち帰りされるのかな??



『そこのうっとおしい女を先に排除しましょうか。おい、男を相手しろ。殺すなよ?? 後で美味しく頂くから』



 あ、やっぱりそうなんだ。



『へい。姉御も好きですねぇ』


『そりゃあそうさぁ。前会った時に唾を付けておいたから。ちゃんと覚えているわよねぇ――??』



 そんな覚えはないのですけども……。


 と、言いますか。それ以上厭らしい目で此方を見つめないで下さい。


 何故なら。



「そこのボンクラ」


「――――。はい、何でしょう??」


「あの女、何であんたの事厭らしい目で見つめているのよ」


「皆目見当も付きませんね」



 彼女の怒りの矛先が此方に向けられてしまうのですよっと。



『へへ、姉御の力はお前達じゃあ受け止められないぞ』



 槍を携えた一体の大蜥蜴が意気揚々と一歩前に踏み出すと、デイナが放つ雰囲気が様変わりした。



『さぁ……。仕事の時間の始まり、始まり』



 全身の肌が泡立つ程の気迫、殺気、そして闘気。


 歴戦の戦士足る者が纏う雰囲気に思わず固唾を飲んでしまう。



「来るわよ!!!!」


「あぁ!! トア、集中しろよ!!」



『あははははは!!!! 人間風情がぁっ!! 頭が高いんだよぉ!!』



 甲高い笑い声を上げると、デイナがトアへと目を疑いたくなる速さで間合いを詰めた。



 はっや!!


 マイと戦った時よりも一回り速くなっていないか!?



 風を纏った長剣の初撃を剣身の腹で受けるが。



「うっそ!? ウグッ!!」



 突進力と筋力を合わせた力の波がトアの体へと襲い掛かり後方へと吹き飛んでしまう。



『良く受け止めたね!! 褒めてやるわよ??』


「こ、この野郎……。また私の事を馬鹿にしたわね!?」



 言葉が通じぬとも嘲笑う表情から内容を汲み取ったらしい。


 体の中から沸き上がる怒りがトアの瞳に憤怒の炎を宿らせた。



 良し!! いいぞ!!


 相手の気迫に飲まれていない!! 俺も今からそっちへ……。



「トア!! 今から加勢…………。おわっ!!」


『よぉ兄ちゃん、こっちの存在を忘れちゃ困るぜ??』



 闇夜に激しい火花を散らす闘士達の戦いへ向かって飛び出そうとするが、鋭い槍がそれを阻む。


 正に、横槍って奴だな!!



「レイドは自分の相手を倒しなさい!! コイツは私が……。倒す!!!!」



 己を鼓舞して剣を中段に構える。


 良い気迫だ。


 敵の放つ圧に飲まれていないぞ。それ処か……。相手を飲み込もうとする気迫を放っている。


 アイツ……。また一段階強くなっているな。



『かかって来なさい?? おじょ――ちゃん??』


「私を……。見下すなぁ!!!!」



 気迫、感情の昂りは鬼気迫るものがある。


 しかし……。

 

 冷静さを見失っては勝機を掴めない!!



「トア!! 自分を見失う……どわっ!!」


『おいおい。俺は無視か?? 遊ぼうや』



 くそっ!!


 激戦の戦地へと向かおうとすると、間髪入れずに鋭い槍の突きが体に襲い掛かって来やがる!!


 それどころじゃないってのに!!



「このぉ!! 避けんな!!」



 トアの鋭く正確無比な剣筋がデイナを襲うが。



『あはは。鬼さんこちらよ?? ほぉら。後少しぃ』



 彼女はトアの剣筋が襲い掛かる前にそれを予測して容易に回避してしまった。



「そのにやけ面……。叩き切ってくれる!!!!」



 重心の取り方、絶妙な間合いの位置、そして卓越した選別眼。


 相手の攻撃を誘う事が異常に上手いな……。強いて言うならば蜘蛛の御姫様、アオイの戦い方に似ている。


 まぁ、彼女は両利きの分。もっと厄介ですけども。



 まだトアの剣筋に陰りは見えない。つまり、デイナは相手の攻撃に隙が生まれるのを必要最低限の動きで待ち続けているんだ。



 こ、このままではやられる!!


 トアへ加勢しに再三向かおうとするが。



『おらぁ!!!!』


「うぉっ!!」



 鼓膜をつんざく突風が頬を掠め、皮一枚を削ぎ取って行った。


 生温かい液体が頬を伝い落ちて地面を赤く穢す。



『どうしたぁ?? 余所見は駄目だぜ??』



 こ、この野郎!!


 向こうの戦闘へ意地でも向かわせないつもりだな!?



『そらそらぁ!! 此処から先へは行かせませ――んっ!!』



 鋭い穂先の中段突きが空気の壁を突き破って襲い掛かり。



「くっ!!」



 それを一つずつ丁寧に躱し、短剣で往なす。


 こ、コイツを相手にしている場合ではないってのに!!




「邪魔だ!! 退けよ!!」


『あらよっと!!』



 俺が攻めに転じようとすると、此方の間合いから遠ざかり。



『絶対退かないもんね――っ!!!!』



 俺の間合いの範囲外から長い穂先をチクチクと刺して来る。



 あぁ、鬱陶しい!!!! もう面倒だ!! 一気に片付けてやる!!



 もう一段階龍の力を解放しようとした刹那。



『隙、み――つけたっ!!!!』


「アグッ!!」



 人間の急所の一つ。


 頭部を支える首へデイナの上段蹴りが撃ち込まれ、木の棒で生肉を叩いた様な。鈍く嫌な音が響き渡ると共にトアが後方の木へと吹き飛ばされて行ってしまった。



「ト、トア――ッ!!!!」



 今の音はやばい!!


 彼女の身を案じ、我を忘れて疾風の如く駆け寄った。



「し、しっかりしろ!!」



 壊れた人形のようにピクリとも動かないトアを抱きかかえ、首にそっと指を添えて脈を計る。



 た、頼む!! 無事でいてくれ!!!!



 …………。



 よ、良かった。心臓は動いているぞ。


 だが撃ち込まれた箇所は青黒く変色し、今しがた放り込まれた一撃の重さを体現していた。



 良くぞ、良くぞ……。無事でいてくれた。



「……」



 上着を脱ぎ、静かに横たわるトアに被せてやった。


 そこで少し休んでろ。


 ここからは俺一人で何とかするからさ。




「――――。なぁんだ、残念っ。生きてたのか。しぶとい女ね」



 静かに立ち上がると、背後から聞き捨てならない台詞が鼓膜へ届いた。




「……………………。おい。今、何て言った??」



「しぶとい女って言ったの。殺す気で打ったのに直撃する刹那、後ろへ飛んで躱して……。もっと強く打てば良かったなぁ」



 その言葉を受けた刹那、俺の中で何かが弾け飛ぶと。



「お前は……。絶対に、絶対にぃ……。許さん!!!!」



 胸の中の黒い感情が燃え上がり灼熱の業火が俺を奮い立たせた。


 この糞野郎が!!


 良くも……良くも!! 大切な仲間を傷付けやがったな!!!!!!!!



「はぁぁああああ!! ずぁぁああああ――――っ!!!!」



 龍の力を解放すると体の中から熱が湧き上がる。


 身を焦がす熱が指先から肘まで広がり、全ての歯を食いしばりそれに耐えた。


 トアが感じた痛みに比べればこれくらい……!!




「はぁっ!? ちょ、ちょっと何よ!? ソレ!!」



 此方の圧を受けたデイナが目を丸めて叫ぶ。



「ここからは手加減無しだ。本気でかかって来い」



 全力に近い第二段階ニューフェイズを維持出来るのは良くて数分。


 その間にケリをつけてやる!!!!



「増々気に入ったわよ!! 絶対、私の物にしてやるんだから!!」



 来た!!


 胸元から銀のナイフを此方に向かって投擲。寸分違わず急所へと一直線に向かって来る。



「…………っ!!」



 当然、これは目くらましだな。


 デイナはこれに視線を集める為、ワザと躱せる速さで投擲した筈。



「貰ったぁぁああ!!」


「見えているぞ!!」


「キャッ!!」



 振り返ると同時に背後から襲い掛かる長剣を己の武器で真っ二つに切り裂いてやった。



「ちぃっ!! 速いじゃない!!」



 リューヴやマイに比べたら俺の速さなんてたかが知れている。


 俺が速過ぎるのでは無くて、お前が遅過ぎるんだよ。


 そんな事も分からないのか?? コイツは。


 井の中の蛙は可哀想だな……。世の中の広さを知らないのだから。



「姉御!! 剣です!!!!」



 横槍を続けていた大蜥蜴がデイナへと向かって剣を投げ渡し、森の中へと下がって行く。


 後でお前にも痛みを与えてやるからな??


 それまでそこで待っていろ。



「速さだけじゃないぞ。一撃の重さもお前より上だ」


「お前って……。あぁ、ゾクゾクするじゃない!!」



 大蜥蜴から受け取った剣が俺の体に襲い掛かる。



 短剣で迎撃し、互いの一撃が衝突すると周囲に火花が飛び散り闇夜を刹那に照らした。



 斬撃の速さは……。マイ以下だな。


 いや、比べるのも失礼に値する。


 今の俺なら鋭い剣筋で襲い掛かる切っ先を指先で摘まめてしまえそうだ。



「――――。ねぇ??」


「何だ??」



 襲い掛かる斬撃を華麗に回避し続け、その合間に言葉を漏らす。



「私の男になってよ。いい夢見させてあげるわよ??」


「断る。お前にそんな感情は湧かない」




 仲間を傷付ける奴に容赦はしない。例え、それが知り合いだとしてもだ。


 全身を打ちのめし、地面に這いつくばらせ、己の行為を懺悔させてやる。


 それとも、腹を引き裂いて腸を引きずり出して……。お前の目の前に晒してやろうか??


 血涙で溢れ返った敗北の瞳で血に塗れた己の臓物を見つめながら……。



 惨たらしく、死ね。



































『……………………フフッ。いいね――。そのドス黒い感情っ』



「つっ!? 今、何か言ったか!?」



 こめかみに微かな頭痛が生じると。聞き覚えの無い声が頭に響き、思わず心に浮かんだ言葉を口に出してしまった。



「は?? 別に何も言っていないけど??」



 デイナが斬撃を止め、半歩下がりそう話す。


 お、俺の勘違いか??




『――――。もう、酷いなぁ。聞こえているんでしょ??』



 ほら!! また聞こえた!!


 中性的な明るい声が頭に響く。



『ま、別にいいけどさ。ねぇ、レイド君――。目の前の敵、私がやっつけてあげようか??』



 え、えっと……。


 頭の中で鮮明になりつつある声に応えても宜しいものなのだろうか??



 も、物は試しだ。一言二言応えてみよう。



『――――。喧しい。俺の相手だ』



 騒がしい声におずおずと声を返すと。



『わぁっ!! 聞こえていたんだ!! 嬉しいなぁ!!』



 太陽も顔を背けたくなる明るい声が返って来た。


 自分にしか聞こえない声に返事をしてしまっていい物だろうか??



「ほら!! 行くよ!!!!」



 あっぶね!!


 今は戦闘中だった!!



「ふんっ!!!!」



 半身の体勢で切っ先を躱し、流れた相手の体へ右拳を打ち込む。



「残念っ。外れよ??」


「くっ!!」



 避け様、猫の如く体を柔らかくしならせた背面蹴りが顔面を掠めて行った。


 今のは危なかった……。



「お――。良く避けたわね?? 私の必殺技なんだけど」


「つべこべ言わずにさっさと来い」



『ね――。見ていてもつまんないから代わってよ――』


『喧しい!! あいつは俺の仲間を傷付けたんだ!! これが許せるか!!』



 朧だった声が徐々に、そして鮮明に頭の中に響き渡る。


 今はこの声よりも目の前の戦いに集中しろ!!



「感じちゃうじゃないさ!!」


「だあっ!!」



 上段から振り下ろされた刃を短剣の剣身で受け、丁寧に柔らかく左へと流す。



「わわっ!!」



 やっと…………。やっと一撃放り込める場所へ足を置くことが出来た。


 これで!! 決まりだ!!!!



「でやぁぁああっ!!!!」


「ぐぅっ!!」



 柔らかい腹部へ右の拳を遠慮無しに打ち上げてやる。


 拳が柔らかい肉を押し上げ、五臓六腑に衝撃が広がり、相手は堪らず踏鞴を踏み後退し始めた。



「カッハッ……!!」



 口から粘度の高い液体を垂らし、憤怒の表情を浮かべてその場に踏み留まる。


 へぇ……。俺の一撃を食らってもまだ立っていられるんだ。



「おい。まだやるか??」


「ゼェ……。ゼェ……」


「根性だけは褒めてやるよ」



 瀕死の一撃に繋がる攻撃を受けるも決して地面に膝を着けようとはしない。


 きっと彼女の視線では硬い筈の地面が柔らかいベッドに見えるのだろうさ。


 柔らかいベッドに飛び込んでしまいたいという甘美な誘惑を振り払い立ち続ける闘志、敵ながら天晴だな。



「ふ、ふふ……。アハハハハハ!!」



 どうした??


 痛過ぎて頭がおかしくなったのか??



「ねぇ。忘れてない?? こっちには人質がいるのよ??」


「何をするつもりだ」



 しまった!! 俺に勝てぬと踏み切って人質を盾にするつもりか!!



「女の命が惜しかったら武器を捨てて、抵抗を止めなさい。大人しく私に服従するのよ!!」



 悪党らしい戦法を取りやがって!! 正々堂々と戦えよな!!



「おい!! 女をこっちに連れて来い!!」



 仕方が無い。


 機を窺い、数舜でこいつの意識を断ち切ってやる。


 しかし、待てど暮らせど……。



「「…………っ??」」



 森の中で待機している二体の大蜥蜴が此方へ来る気配は無く。


 風の音が只静かに俺達の周囲に流れていた。



 どうしたんだろう??


 まさか、リフィレさんが目を覚まして脱出してそれを追いかけて行ったとか??




「聞こえてるの!? 早く持って来なさいよ!!」



 デイナが振り返り叫ぶと、俺の想像した姿とは違う形で一体の大蜥蜴が月明りの下に現れた。





「バ……。化け物……」



 そう一言話し、白目を向いて力無く地面に倒れてしまう。



 えっ!? な、何があったの!?


 まさか、違う野盗が此処にいるのか!?



「ちょ!! 起きなさいよ!!」



 デイナが大蜥蜴の体を掴み、激しく揺さぶるが起き上がる気配は一向に現れない。


 余程の一撃を食らったんだな。顎の下が滅茶苦茶腫れ上がっているもの。



「………なぁ。退散したら??」



 何が起こったのか理解出来ないが……。


 奥の手を封じられた彼女に残された術はそれだけだろう。



「は?? 何でよ」


「いや、だってさ。残る戦力はデイナ一人だけでしょ??」


「あ、私の名前覚えていてくれたんだ……」



 いや。論点はそこじゃないでしょ。


 それに頬を染める場面でもありません。



「まぁ、初対面って訳じゃないし。それより、もう戦う余力も無いよね?? 命まで取らないから今日は大人しく退散しなさい」



 龍の力を収めると胸の中のドス黒い感情が霧散、頭の中が澄み渡って来た。


 一時は激情に身を任せ、殺す勢いで拳を振ったけど……。


 やっぱ駄目だな。


 師匠の教え通り、冷静さを持たないと。



「ふんっ!! 負けた訳じゃないからね!! ほら!! お前達!! 引き上げるよ!!」


「へ、へい……」



 トアが倒した個体が後方の森から、酔っ払いを彷彿させる歩みでヨロヨロと此方へ向かって歩いて来ると。



「お、おい。行くぞ……」



 未だ気を失っている仲間を抱え、痛そうに頭を抑えながら背後の暗闇へと姿を消して行った。



 これにて一件落着……。



「あ!! おい!! もう野盗なんかするなよ!!」



 危ない。


 釘を刺す事を忘れてしまいそうだった。



「それは出来ない相談だねぇ。好きな時、好きな様に暴れるのが私達なのさ。またねっ、色男」



 ったく。懲りない連中め。


 デイナの姿が消え失せ、額の汗を手の甲で拭う。



 良かった……。俺一人でも勝てたぞ。


 重く、しかし爽快な安堵の息を漏らそうとしたのですが。



「お、おい!! 一人忘れてるって!!」


「グゥゥ……。ううん……」



 赤いマントを羽織った個体が気持ち良く、剰え鼾を掻きながら眠っているのを見付けてしまった。


 良くもまぁこんな気持ち良く寝れるもんだな。


 仮にも戦闘中だったんだぞ??



「おい!! 起きろ!! 置いて行かれるぞ!!」



 流石にこんなデカイ蜥蜴を王都へ持ち帰る訳にはいかない。


 妙に硬い鱗が覆う胸辺りを揺すって覚醒を促してあげた。



「んふふ。もうちょっとぉ……」


「何寝ぼけてんだよ!! 起きろって!!」


「んあぁっ??」



 目が薄っすらと開き、夢現の状態で俺を見上げる。



「起きたか??」


「ぁぁ、おはよう?? …………って!! お前どこ触ってんだよ!!」


「は??」



 俺の手を強引に押し退けて慌てて立ち上がる。


 種族的に触っちゃいけない場所だったのかな??



「そんな事より、皆帰って行ったぞ??」


「うっそ!! み、皆!! 待ってくれ――――!!」



 見当違いな方向へと駆け出そうとするので。



「違う。あっち」



 彼女達が去って行った正確な位置を親指でクイっと指してやった。



「おぉ、悪い悪い。それじゃあ、あばよぅ――!!!!」



 相も変わらず、憎たらしい程気持ちが良い去り際だな。



 さてと……。トアの容体を確認する前にリフィレさんを探すか。



 森の奥へと進み、零れて来る月明りを頼りに捜索を開始すると。目標であるその人物は気持ち良さそうに木の幹にもたれ静かな寝息を立てていた。



「リフィレさん、起きて下さい」



 優しく肩を揺すってやる。



「う……ん。きゃぁああ!!」



 俺の顔を大蜥蜴に間違えたのか、目を丸くして力の限りに叫ぶが。



「は、はれ?? レイドさん?? 大きな蜥蜴達は??」



 自分の間違いだと気付き周囲をキョロキョロと見渡した。



「安心して下さい。俺とトアで撃退しましたよ」


「本当ですか!? はぁ……。怖かったぁ」



 だろうね。


 あんなデカイ蜥蜴に襲われて慄かない一般人が居れば見てみたいものさ。



「立てます??」



 ちょこんと座る彼女へ向かって手をすっと差し出した。



「あ、はい。んしょ」



 彼女は俺の手を掴み、重い腰を上げて立ち上がる。


 うん、怪我も無さそうだし。普通に歩けるみたいだな。



「トアさんはどこですか??」


「相手の重撃を食らっちゃってね。今は気持ち良く寝ているよ」



「えぇ!? 大丈夫なんですか!?」


「アイツは普通の奴と鍛え方が違うからね。そうそう死にやしないって」


「それならいいですけど……。あ!! いましたよ!!!!」



 先程の開けた場所に戻ると、トアは先程と同じ姿勢で横たわっていた。


 リフィレさんが慌てて駆け寄り、容体を確認する。



「はぁ……。良かった、ちゃんと呼吸しています」


「でしょ?? 体が鉄で出来ているから頑丈なんだ」



 気絶しているからいいけど。


 起きている時に言ったら顎が真っ二つに割れてしまう鉄拳が飛んで来るな。



「うふふ。酷い言い草ですね?? 起きたら言っちゃおうかな??」


「それは勘弁して下さい。俺の命の炎が消え失せてしまいますよ」



 そう言いながらトアを抱きかかえる。


 あら?? 思ったより軽いな。



「リフィレさん。申し訳無いけど、トアの武器持ってくれる??」


「あ、はい」



 寂しそうに横たわっている長剣と弓矢を手に取り、俺の後に続く。



「何だか、御姫様抱っこみたいですね??」


「揶揄わないの。それに、こいつが御姫様?? 魔人王の間違いじゃない??」


「もぅ。聞いていたら怒っちゃいますよ??」


「あはは。そうだね。おっと……」



 いかん。


 松明の明かりが無いんだ。


 暗闇の中、木の幹に足を引っ掛けて姿勢を崩しそうになってしまった。



「足元、気を付けて下さいね」


「了解であります」



 街道へ戻ったら襲撃に備えて、引き続き哨戒任務に就くべきだな。警戒を怠る訳にはいかん。


 トアにはこのまま眠って貰って怪我の治療に専念させよう。



 俺の腕の中。


 安らかな表情を浮かべて眠る彼女へ向かい静かに、そしてリフィレさんに聞こえぬようそっと呟く。




『よく頑張ったな』




 生きていてくれて有難う。そして、ごめんな?? 俺がもっと強ければ傷を負う事も無かったのに……。


 腕の中の彼女の温もりが光り瞬いている喜びを噛み締め、彼女の眠りを妨げぬ様。暗き森の中を慎重な歩みで進み続けたのだった。



お疲れ様でした。


本編で彼に語り掛けた人物なのですが、もう間も無くその正体が明らかになりますのでその時までお待ち頂ければ幸いです。



ブックマーク、そして評価をして頂き有難う御座いました!!


日に日に弱って行く鼻と心に嬉しい励みとなります!! 本当に嬉しいです!!!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ