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第四十六話 前哨戦は手心を加えて

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 森の中へ突入すると、右手に持つ松明の明かりでは少々心許ない程の深い闇が待ち構えていた。


 地面に横たわる天然自然の障害物を避け、水気を含んだ土を後方へ蹴り飛ばし、足が縺れそうになるのを必死に堪えて前へと突き進む。


 厳しい自然を相手に四苦八苦するも、幸か不幸か。


 大蜥蜴達が残して行った足跡はくっきりと地面に刻まれていた。


 それを頼りに追っている訳なのだが……。



「トア、付いて来れそうか??」


「勿論。まだ体力には余裕があるわよ」



 彼女の存在が気掛かりだ。


 右手に革の手袋を嵌めているけど、この範囲を越える龍の力を発動すれば当然確知されてしまう。



 複数の大蜥蜴を相手取り、しかも女首領もいる筈。


 ほんの少しの解放で奴等の相手が務まるものだろうか……。


 不安が心を侵食し、得も言われぬ感情を胸に抱く。



 もしも……。


 俺が常軌を逸した力を有していると知ったらトアはどんな表情を浮かべるのだろう。


 化け物を見る目で俺を見るのだろうか??


 オーク同様、異形の存在と見なして切りかかってくるのかな。


 俺は勿論抵抗する気は無い。


 この手で友人を殺める訳にはいかない。そうなる位なら切られた方がマシだ。



「レイド、開いた場所に出るわよ」


「あぁ。気を引き締めよう」



 彼女の声を受けて俯いていた顔を上げると。


 数十メートル先に開いた空間が大きな口を開けて俺達を待ち構えており、月明かりが柔らかく射し込んで緑と茶の森を淡い青色に染めていた。



 木々の間をすり抜け茂みを突破して、久方振りに見る夜空を仰いだ。



『…………ちっ、やっぱり付いてきやがったか』



 リフィレさんを抱えた個体が後方に一体。


 この暗さでも目立つ赤きマントを羽織った個体、それと手斧と長剣を持った個体。計四体が俺達を待ち構えていた。



 やっぱり、って事は当然追跡を想定していたのだろう。


 そうなると……。罠、か??


 ぐるりと周囲を見渡すがそんな様子は見受けられないけどな。



『ここまでよく追って来たな。その勇気だけは褒めてやるよ!!』


『たかが人間相手に、俺達が負ける訳ねぇ』



『お、お前ぇ!! あ、藍色の髪の女は何処だ!? さっさとあの子に会わせろ!!』



 申し訳御座いません。


 我らが分隊長殿は現在王都でぐっすりと……。眠ってはいないだろう。


 彼女は真面目な性格だ。きっと眠い目を擦って書物に視線を泳がしているよ。


 マイ達は調査も程々に眠っていそうだからね。



 と、言いますか。


 カエデにちょっかい出そうとして、程よく焼かれたのにコイツはそれでも懲りずにまた手を出そうというのか??


 紺碧の海を彷彿させる素敵な藍色の髪、思わず守りたくなる細い肩、澄み切った瞳。


 容姿端麗、才色兼備の彼女にホの字なのは理解出来ますが。しつこい男は嫌われるんだぞ。



『いや、だから。アイツ一人だって言ったじゃん』



 赤いマントを羽織った個体が鼻息を荒げて俺の答えを待つ個体の肩をペチリと叩く。



『あ、あぁ……。そうだったな。段取り通りに事を進めよう』


『やい!! そこの優男!!』



 優男……。もう少し真面な呼び方で呼んで欲しいのが本音であります。



『俺様達の命令を無視した事を後悔させてやるぜ!!』



 右手に持つ鉈をブンッ!! と一つ振り下ろすと。三体が武器を手に取り俺とトアを囲む。



 敵性対象は三体……か。



「トア、俺の背後の一体を頼めるか??」


「別に構わないけど……。二体を相手にするつもり??」


「女性に負担を掛けさせたくないからね」


「ふふっ。こういう時に限って男らしい台詞を吐くんだからさ」



 え??


 俺っていつも女々しい台詞吐いているの??


 ちょっと心外なんですけど……。



「こいつらはオーク共と違って『意志』 を持っている。出来る事なら殺めたくない。俺の我儘だけど……。殺さないと約束してくれるか??」



 この事件を発端に人と魔物の軋轢が深まる事だけは避けたい。


 それに……。犯罪行為を繰り返しているとはいえ、コイツ等も真っ当に生きる権利を持っている。


 それを奪うのはちょっと……ね。


 更生させる機会を与えれば、万が一。奥が一にも良い方向へ向かってくれるかも知れないのだから。



「殺したくない、か。うん、出来るだけご期待に添えますよ」


「すまん」



 よし……。いきますか!!!!


 俺の対峙する相手の武器は……。鉈と手斧。


 攻撃力の高さを考慮しミルフレアさんから頂いた?? 腰の短剣を抜剣して右手に構えた。


 体を斜に構え、心静かに。澄み切った心の水面へ相手の一挙手一投足を映せ。



 落ち着いて対処すれば大丈夫……。


 自分にそう言い聞かせて戦闘開始の合図を待った。



『うふぇへ。かわいこちゃんの相手で良かった』


『おい。代わってくれよ』



 手斧を持った個体がトアへ近付く個体へと話し掛ける。



『やなこった。どこから舐め舐めしちゃおうかなぁ』


「何、コイツ。厭らしい目付きね」



 あ、言葉は分からなくても雰囲気で分かるんだ。


 でも……。残念ながらお前さんの思い通りにならないと思うよ。


 トアの実力は折り紙つきだ。生まれつきの膂力の差があるが、こいつらでも大苦戦するのは必至。



 過小評価して相手の実力を見誤るな。



 そう言いたいのは山々ですけど、相手に態々塩を送る訳にもいかん。


 その身を以て思い知るがいいさ。



『服ひん剥いて、その美味そうな肌舐め尽くしてやらぁああ――!!』


「来るわよ!!」


「おぉう!!」



 口から卑猥な液体を零しながら雄叫びを上げると、それが開幕の狼煙となった。



『食らいやがれ!!』



 先ずは手斧の奴か!!!!


 大きく右腕を振り上げ、鋭利な刃が遥か頭上から降りかかって来る。



 こりゃ真面に受け止めたら不味いな。



「ふっ!!」



 明かりの役目を終えた松明をその場へと放棄して、半歩下がり初太刀を躱す。


 眼前を通過した空気を切り裂く甲高い音がその速さと威力を物語っていた。



 ふぅむ……。


 以前見た時よりも攻撃の速さと威力は増しているな。


 体がデカイ分、俺達よりも当然間合いも広い。巨躯を活かした長い間合いと、思わず唸りたくなる太さの腕から繰り広げられる破壊力。


 この二つは要注意なのだが、速さには目を見張るものが無い。



 よしっ。


 持ち前の体力と懐へ侵入する速さで相手を務めよう。



『ほぅ。俺の一撃を躱すとは……。身の熟しだけは褒めてやろう』



 そりゃどうも。



『だが……。俺は手先の速さには自信があるんだ!!』


 大蜥蜴の腕が微かに膨れ上がると縦、そして地面と水平に斬撃の雨が体に降りかかる。


「くっ!!」


 襲い掛かる手斧の刃先を短剣で往なし、体を屈め、反らして狂気の一閃を通過させた。


 い、意外と速いな!!



『はっはっはぁ!!!! 避けてばかりじゃ勝てないぞ!?』



 仰る通りで!!


 龍の力を解放せず、俺の拳だけであの装甲を貫けるかな??


 物は試しといきたい所だが、ここは確実に仕留めておきたい。


 手の甲までの解放だから……。ほんの少しだよな??


 後方へ飛び下がると右手に龍の力を集中させ、僅か水滴一滴程の力を集約させた。



「すぅ――。ふぅ――……。んっ!!!!」


『うん!? お前……。何か雰囲気変わったな??』



 多少なりにも俺から魔力が漏れているんだ。


 こいつらが構えを深く取った事がそれを証明している。



「……うん。これなら大丈夫」



 さり気なく革の上着の袖を捲って見ると。


 右手に感じる熱さは変わらず、しかし手首から肘までは人の肌であった。


 自画自賛じゃないけど、俺も大分上手く龍の力を制御出来るようになったもんだ。



『特に形態変化した訳でもないのに……。えぇい!! 考えるのは性に合わん!! くたばれや!!』



 そうやって無策で突撃してくるのは誤算だぞ!?


 相手との間合いを図り、彼の攻撃範囲の淵に触れる瞬間まで脚力を最大限に溜める。


 もう少し……。まだ焦るなよ??


 極限まで相手との間合いを計るんだ!!



『死ねやぁぁああ!!』



 きたぁ!! 俺の間合いの円に、相手の円が触れて互いの円が重なった。


 それと同時に身が竦んでしまう斬撃が頭上から降り注ぐが……。



「んっ!!」



 勇気と気力を振り絞り相手の斬撃を掻い潜ると、瞬き一つの合間に相手の懐に身を置いた。



『うおっ!!』


 当然、相手は驚いて俺の小さな体に目がけ手斧を振り翳すよな??


『こ、このチビが!!』



 ほらね!!


 斬撃に合わせて己の左足を相手の右脇へと動かし、正面から側面へと体を入れ替えた。



 好機到来っ!!!!


 一撃……。


 これで仕留めて見せる!!!!!!



「ずああぁぁああ――――っ!!!!」


『何!? ぐぶっ!!!!』



 人体の弱点。


 こいつらにもそれは共通しているのか。腹部に突き刺さった拳を驚愕の目で見つめ、体がくの字に折れ曲がる。


 此処であの恐ろしい方々は身の毛もよだつ大追撃を開始するのですが……。俺はそこまでする気はしません。


 不必要な暴力は以ての外ですから。




『がっはっ……。こ、この俺が……。一撃で……』



 口から透明な液体を零し、両膝を着くとそのまま力無く地面に倒れ込んだ。


 ふぅ。良かった。


 どうやら俺の攻撃力は通用するみたいだな。



『ちぃっ。その女置いて姉御達を呼んで来て』



 マントを羽織った個体がリフィレさんを抱えている個体へと話し掛けて指示を出すと。



『あぁ。分かった』



 そいつはにっと笑って背後の闇へと姿を消した。


 ちょっと待て。今、『達』 って言ったよな??


 まだ伏兵がいるのか??



 以前会敵した時は女首領も含めて六体だった。


 一体は俺が無力化して背後の森では。



『姉ちゃん!! ひょいひょい避けないでよ!! 傷付いたら美味しく頂けないだろ!?』


「気持ち悪い声と息を漏らすな!!!! この変態蜥蜴!!!!」



 一体がトアとちょっと首を捻りたくなる台詞を吐いて戦っているから……。想定される増援は今消えた奴も含めて三体、か。



『よぉ、待たせたな。お前に負けてからずぅっと鍛えてきたんだよ』



 そりゃ御苦労様でしたね。


 無言のままマントと対峙していると。



『……安心して話せ。後ろの姉ちゃん達は森の中でやりあっているよ』



 俺の気持ちを見越してくれたのか、背後へと顎をクイっと指す。


 気を切らさずに背後へ刹那に視線を送る。



『この野郎ぉぉおお!! いい加減食らいやがれ!!』


「剣筋が甘いっ!!」



 暗闇の中、金属と金属が衝突して閃光が瞬き。静寂を切り裂く激しい戦闘音が鳴り響いていた。


 トアの奴、大丈夫かな……。


 増援に加わりたいけど、余計な手出しは無用として跳ね除けられそうだし……。



「…………。次はお前が相手??」



 普段より抑えた声量で話す。



「そうさ!! この鉈で!! お前の腸を引きずり出し、地面に零れさせてやるよ!!」



 出鱈目に鉈を振って己の力を誇示した。



 想定される三体の増援、並びにリフィレさんの奪還。


 トアと合流するまで待った方が良いのか?? それとも俺がコイツを速攻で無力化してトアと合流するか……。


 速攻となるとかなりの力でコイツと対峙しなければならないし、増援を見越して体力は少しでも多く温存させておきたい。


 それに、暴力的な解決方法は好ましくないからね。



 会話を継続させて時間を稼いでトアと合流しよう。




「怖い事言うなぁ。俺、お前にそんな酷い事しなかっただろ??」



 構えを解き、自然体の状態で話し掛けた。



「へ?? まぁ……。そう、だな」



 地面に深く埋められ、糸で雁字搦めにされ、炎で焦がされ、顔の形が変形するまで殴られた個体はいるけど。


 俺は少なくともこいつには大怪我をさせていない。抗魔の弓で足を穿っただけだからね。



「それなのにお前は俺の事を殺すって言うのか?? 体の小さな俺を殺して何の得になる??」


「いや……。別に、その……。そういう訳じゃないけど……」



 地面へ視線を落として忙しなくキョロキョロとしている。


 やっぱりいい奴なのかもしれない。



「俺は出来るだけ穏便に済ませたいの。お前だって嫌だろ?? いきなり敵意を向けられたら」


「そりゃあ……まぁ、そうだな」


「だろ?? 悪い事は言わない。武器を置いてさ、一緒に飯でも食えば楽しくなるって」


「飯、か。うん、それも……。あり……。な訳ねぇだろうがぁ!!!!」



 あ、あはは。やっぱり懐柔は無理みたいだね。


 空気を断裂する勢いの鉈が鼻先を掠めると、遅れて通って行く分厚い風圧を肌に感じた。



「あっぶねぇなぁ。当たったらどうするんだよ」



 相手の間合いの外へと身を置き、再び構えを取って話す。



「当てる為に振っているんだろうが!! 優しい声色で語り掛けて来やがって!!」


「そう?? 自分ではそう思わないけど」


「いいか!? 俺様はお前達を倒して全部奪い尽くしてやるんだよ!!」


「それは了承しかねるな。俺達も任務の途中でね?? 完遂しなきゃならないのさ」



 波打つ心を鎮め、息を整え、相手の攻撃に備えた。



「野盗は奪う!! 好きな様に生き、従わない者には暴力を!! 敗北を糧にして……。強くなった俺様の攻撃を食らいやがれぇぇええ――っ!!」



 体全身の筋力が隆起して一回り大きく変化。


 目は血走り、口からは憤怒を籠めた吐息が漏れ、昂る感情のままに俺へと襲い掛かる。



 血眼になって我武者羅な攻撃を仕掛けるのは愚策だぞ??


 だが……。殺意に満ち溢れた攻撃は人の心を揺れ動かす程の威力を持っていた。



「だあぁぁああああっ!!!!」


「くっ!!!!」




 目は血走り、気力が篭った声を上げると鋭い斬撃が目の前を通過する。


 相手の気迫に気圧され、知らぬ内に後方へ加重をかけてしまう。


 刹那。


 師匠の言葉が頭の中をふと過った。



『のぉ――。もっと足を広げろ。儂が座れぬでは無いか』



 この後でしたね。過った言葉は。



『追い詰められた草食獣は時に肉食獣を凌駕する程の力を発揮するのじゃよ。相手の力を見誤るな。己の力を過信して驕るな。この言葉、確と心に刻め』



 俺は肉食獣になったつもりも、強者になったつもりも毛頭無いが、敗戦を糧にして体を鍛え抜いて再戦に備えて来たのは真実のようだ。


 草食獣の思わぬ反撃に短剣を握る手に重苦しい汗が滲んだ。



「はっ!!」



 上空から降り注ぐ鉈の一撃を短剣で受け……。片手じゃ不味い!!



「んっ!!!!」



 右手で柄を持ち、剣身の腹を左手で支えて襲い掛かる一撃を防いだ。



 すっげぇ重たい一撃だな……。


 衝撃が肩から抜けて足の裏まで駆け抜けて行ったぞ……。



「ふっ…………。小さい体の割に中々良い筋肉しているじゃないか」


「鍛えているからな。ほら、どうした?? もっと腰を入れて打ち降ろして来い」


「こ、この野郎!!」



 危ねぇ!!!


 鉈の切っ先が腹先を掠め、服の一部が千切れ飛んだ。


 反応が遅れていたら本当に腸が飛び出てたな。



「ぜぇ……。ぜぇ……。小さい体の癖に……。早くやられちまえ!!」


「おいおい。まだ始まったばかりだぞ?? もう体力の限界か??」



 肩で息をして、生臭い口臭を周囲に撒き散らして話す。



「う、うるせぇ!!」


「走り込みが足りない証拠だな。足腰を鍛え、己を追い込む鍛錬を怠るから直ぐ息が上がるんだ」



 ま、それは俺にも当て嵌まる事だけどさ。


 まだまだ鍛え足りないからね。



「喧しい!! 人間相手なんて数撃でカタが付くと思うだろ!!」


「普通の人間ならそうじゃない?? けど、俺鍛えているもん」


「えぇい!! 二度も負けてたまるかぁああぁ!!」



 体力が無くなったら気合、気合が尽きたら……。己の魂で戦う。


 悪くないと思うぞ。



 けどな??


 怒りに任せ、燃え上がる闘志で身を焦がすのは時に大きな隙を生むんだよ!!



「だああぁあああ!!」



 両手で鉈を掴み、全筋力を解放して乾坤一擲をこちらに振り下ろす。


 風と一体となり敵の乾坤一擲の一撃を躱すと……。地面が大きく窪み、土飛礫が周囲に飛び散った。



 へぇ!!


 威力は目を見張る物がある。


 だが……。


 大技の後ってのは必ず隙が生じるんだよ!!



「はぁぁああっ!!!!」



 空気の壁を突き破り、ありったけの魂と気合を込めた右の拳を腹へ捻じ込んでやった。


 手応えありッ!!!! どうだっ!?



「うぶぐぇっ!!!! く……そ……。また負け、かよ……」



 深く突き刺さった右の拳を引き抜くと、巨躯が地面へと横たわり澄んだ空気の中に土埃が舞い上がった。



「十分強かったよ。素のままだと危なかったかもな」


「ちっ……。次は……負けない、よ」


「あぁ、何度でも相手になってやる」


「減らず口……が。あふっ……」



 張りつめていた糸が途切れると、意識は遥か彼方へと飛翔。静かに瞼を閉じて安らかな呼吸を始めた。



 よしっ!! これで二体とも無力化出来たな。



 短剣を使用する利点は柄を掴み、己の得意とする徒手格闘へ直ぐ様移行出来る事だ。



 順手で柄を持って相手の凶器を受け止める事も出来れば、逆手で持って攻撃を受け流す。柄を握った手に力を籠めれば普段通りの拳で相手を殺傷する事無く制圧する事も可能だ。



 師匠から教わった体術、心得、心構え。


 その全てを遺憾なく発揮する事が可能な攻防一体の武器がこれなのかも……。




 ミルフレアさんから頂いた短剣に視線を落として一人静かに手応えを感じていた。



 残るはトアが相手を務めている奴と、もう間も無く訪れるであろう三体。


 増援がやって来る前にトアへ加勢して敵を無力化して迎撃態勢を整えるのが最善の選択だな。


 戦闘に加勢する為、妙に静かになった背後へと振り返ると。




「…………。お待たせ。うん!? もう二体やっつけたの!?」



 額に戦闘の汗を滲ませたトアが此方へ向かって来た。



「無事だったか!!」



 怪我を負った感じは……しないな。



「勿論よ。嫌らしい蜥蜴は私の峰打ち受けてきも――ち良くおねんねしているわ」



 初見で一体撃破か。


 相変わらず、ずば抜けた戦闘能力だな。



「力には舌を巻いたけど、剣筋が駄目ね。もっと鋭く、的確に相手の急所に叩き込まないと」



 それをコイツ等に聞かせてやりたいよ。


 ま、でも失神しているから無理ですけどね。



「良し。リフィレさんを追うぞ!!」


「了解!! このまま全員私が退治してやるわ!!」



 先程の個体が去った後を追い、暗闇に駆け出そうとすると……。それを澄んだ声が阻んだ。



『…………人間にしちゃあやるじゃないか』



 暗がりから現れたのは一人の女性と二体の大蜥蜴。


 此方の予想通り、増援は三体か。



 リフィレさんは気を失ったまま、森と開いた空間の狭間に身を置いている二体の大蜥蜴の間に横たわっていた。



『ふふ……。血が滾るねぇ……』



 柔らかい黄緑色の髪を揺らして此方へと歩み寄り、切れ長の目で鋭い視線を俺達へ向ける。


 前回は短刀二本であったがマイに武器を破壊された為、左の腰に長剣を収めていた。


 女性らしい体付きだが、纏う武の雰囲気は本物。


 彼女の全身を隈なく観察したいのは山々ですけども、相も変わらず派手に胸元を開いた黒色のシャツを着用しているので。


 そこ以外へと視線を送り続けていた。



『おやぁ?? あんたこの前の男前じゃないか』



 デイナが俺を見つめそう話すが返事を返す訳にはいかない。



「…………」



 沈黙を貫き、いつでも戦闘を開始出来る様に短剣を構えて重心を落とした。



『あはは。だんまりかい?? ま、それもいいさ。さてと……』



 地面に横たわる二体のリザードを見つめ、大きく息を吐く。



『我ながら情けない部下だねぇ。ちんけな人間に負けるなんて。それとも、あんた達二人が余程の手練れ、か』



 俺とトアを交互に見つめる。



「レイド。こいつ、強いわよ」


「あぁ。気を引き締めろ」



 デイナの体から滲み出る気迫に気付いたのか。


 トアの声色に緊張が走る。



『この落とし前、どうしてくれようか』



 腰の長剣を抜剣して構える。


 鋭利な切っ先が月明りを怪しく反射すると同時に俺達の集中力と闘志が高まった。


 来るぞ、トア。


 集中力を切らすなよ!?



 目に見えないピンっと張り詰めた緊張の糸が縦横無尽に戦場に張り巡り、俺達はその糸に絡め取られまいとして最大限にまで集中力を高め。


 怪しい月光の下で不敵な笑みを浮かべる彼女と対峙し続けていた。



お疲れ様でした。


今回の御使いも間も無く佳境へと突入致します。


そして、番外編の執筆活動も順調に進んでいますので御安心下さいませ。



ブックマークをして頂き有難う御座いました!!


執筆活動の嬉しい励みとなります!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

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