第四十一話 気乗りしない任務の開始 その二
お疲れ様です。
本日の投稿になります。
それでは御覧下さい。
顎から鳴ってはいけない音が微かに鳴り響くと、痛みから逃れる為に洗いざらい全て告白してしまえと弱気な俺が甘い囁きを放つ。
それに従おうとして真実を告白しようとするが……。
『シエルさんとの破廉恥な行為。アレを……。ありのまま話したら貴様の人生は終わりを迎えるぞ』 と。
一時の痛みから逃れる事は出来るがその後は保証されていない事を賢い自分が伝えてくれた。
今もグイグイと俺の顎を握り潰そうと画策する女性に対して、何んとか逃れる術は無いのかと必死になって考えを巡らせていると。
「あ、あのぉ。大丈夫ですか……??」
たどたどしく、弱々しい声が鼓膜をやんわりと刺激した。
「ん?? どなたですか??」
少し離れた場所でシエルさん達と何やら難しい顔を浮かべて打合せをしている彼等と同じ白いローブを羽織った一人の女性がトアの背後からやって来る。
薄い水色の長い髪を後ろに束ね、頼りない体つきは目の前で俺の顔を掴んでいる女性とは正反対の弱さを醸し出している。
黒の丸い瞳にすっと伸びた眉が可愛らしい顔を装飾していた。
年齢は俺達とそう変わらないだろう。
「えっと。今回の遠征にお供させて頂きます。リフィレ=ストレルと申します」
ぴょこんと頭を下げて可愛らしい声で挨拶を放つ。
「リフィレさん。私は今、調教しているの。この駄犬に」
「誰がだふぇんだ!!」
「ま、まぁその辺りで。もうすぐ遠征が始まりますから仲良く行きましょうよ」
額に汗を浮かべてトアを御してくれる姿は天使にも見えてしまった。
「ま。リフィレさんの言う通り、か」
そう話すと漸く地獄の痛みを与えて来る恐ろしい手を放してくれた。
「いたた……。おい、顔が潰れたらどうしてくれるんだ」
「大丈夫よ。人間の体は頑丈に作られているんだから。頬の一つや二つ、潰れても問題無いでしょ??」
「大ありだっ!!!!」
声を荒げて答えてやった。
「ふふっ。仲が宜しいのですね」
「訓練生時代からの付き合いだからね」
ジンジンと痛む頬を擦りながら言ってやった。
顎、大丈夫だよね?? 取れていないよね??
「こいつとは同期なのよ。宜しくね、リフィレさん」
「はいっ!! こちらこそ宜しくお願いします!! レイドさんと、トアさんで合っていますよね??」
肯定の意味を込めて二人仲良くコクコクと頷く。
「今回の護衛の任務。承諾してくれてありがとうございます。何分、野盗が出没していると噂が流れていまして……」
「それで?? どうしてパルチザンに態々護衛を引き受けさせたの??」
トアが少しばかり、憤りを籠めた声色で話す。
そりゃ前線へ戻ろうとした時、いきなりいけ好かない奴等を護衛しろと言われたらそうもなろう。
只、君も立派な大人ですのでね。そこはグッと堪えて大人らしい態度で話なさいよ。
「野盗が現れたと報告がありまして。万が一の事を考えて、そう窺いましたよ」
「じゃあ何。襲われる危険があるからパルチザンの手練れをここへ寄越した訳??」
「そう、なりますね」
そんな怖い顔しないの。
ほら、リフィレさん恐ろしい獣に睨まれた小動物みたいに怖がっているじゃないか。
「その野盗はどこに出没したって聞いてる??」
声色に優しさを滲ませて話す。
俺はコイツと違って人畜無害ですからねぇ。安心して話してくれても大丈夫ですよ――??
「えっと……。レンクィストからメンフィスの中間地点、そしてメンフィスの手前の森で襲われたらしいです」
ふむ……。任務開始前に受けた説明通りだな。
野盗共は移動しながら襲っているのか??
根城が近くにあるのかもしれない。
こりゃ予想以上に疲れそうな護衛になりそうだ。
「らしいって。ちゃんとした報告じゃないの?? それ」
「グランドの方々がそう仰っていましたので間違い無いとは思いますけど……」
「「グランド??」」
初めて聞く単語に二人で声を合わせ、これまた仲良く首を傾げた。
「教団の幹部達の呼び名です。この際ですから軽くイル教の構成を説明しますね」
いや、別に興味は無いのですが……。
しかし、俺達には鼻息を荒げて威勢良く話し出す彼女の口を閉ざす術は持ち得なかった。
「イル教に入信致しましたのなら、先ずメスティアと呼ばれます。メスティアは入信したての見習い信者とでも言いましょうか。そして時間を掛け、教団の教えを噛み締め理解を進めるとパラディムと呼ばれるメスティアを一纏めにする役職に着きます」
ふぅむ。
見習いと、それを纏める者か。
「パラディムは街やその地域のイル教信者を管轄しています。その上にはトーテムと呼ばれ、各地方のパラディムを包括的に纏める役職があります。彼等は教団の幹部であるグランドからの伝達事項をパラディムに正確に伝える仕事もあります」
段々ややこしくなって来たぞ……。
「幹部であるグランドは教団の運営、布教活動の指導やその他諸々の仕事を一手に引き受けています。大体分かりました??」
「えっと……。何んとなく??」
「下から順に、メスティア、パラディム、トーテム、グランド。そうでしょ??」
トアが得意気に話した。
申し訳ありませんね。頭の回転が遅くて。
「そうです!!」
「で、それぞれ何人くらいいるのかしら??」
「メスティアは約一万七千名、パラディムは約二百名、トーテムは百名、グランドは五十名です。各々が役割を果たし、教団は成り立っているのです」
ほぉん。
それだけの人数を纏めるのが、あそこにいるシエルさんって事か。
今もルトヴァンさんと気難しい顔を浮かべて何やら話し合っている。
「リフィレさんはどの位に位置するの??」
疑問に思った事を尋ねてみる。
「私は、メンフィスの街のメスティアを纏めるパラディムですよ」
「へぇ!! 結構お偉いさんなんだ」
これには驚いた。
年も若いのに苦労しているのだろう。
「い、いえ。まだ成り立てで……。今回の遠征は、勉強を兼ねているのです」
褒められて嬉しかったのか、両手を前で組みもじもじと指を無意味に動かしている。
そんなに指を合わせていると絡まって外れなくなっちゃいますよ??
「私達、末端の兵士とは違うのねぇ」
「幼い頃から入信していまして。偶々ですよ」
年功序列なのかな??
まぁ、俺には一切関係無い事ですけれども。
「レイドさん、トアさん。少々宜しいでしょうか」
リフィレさんの背後からルトヴァンさんがこちらへやって来る。
満足そうな顔色からしてどうやら話は纏まったようだな。
「えぇ。構いませんよ」
「此度は私共の願いを引き受けて頂き、誠に有難う御座います。御多忙の中、苦労を掛けるとは思いますが何しろ事情が事情でして……」
その事情は恐らく……。
「野盗。ですよね」
この一点に限るでしょうね。
「えぇ。何でも物凄くデカイ野盗共らしく、食料や金品を根こそぎ奪って行ったそうです」
「どんな人相か、窺っていませんか??」
デカイという情報だけでは頼りない。
そう考え質問してみた。
「それが……。襲われたのはいずれも深夜。自分の手元も見えない闇の中らしく、薄っすらと見えたのは大男と思しき人影達と荒々しい吐息のみらしいのです」
「う――ん……。そう、ですか」
参ったな。
それだけじゃ相手の正確な人数も、使用している武器も分からないじゃないか。
「情報量が圧倒的に少なく対策を講じるのが難しいと考え、手練れである御二方にお願いしたのですよ」
「信頼して頂くのは嬉しいですが。私達二人でも限界はありますよ??」
俺と同じく難しい顔を浮かべているトアが話す。
「そこも考慮してあります。我々の中から護衛者四名もこの遠征に同行させます。護衛者は御二人を合わせて計六名で警護に当たる事になりますね」
イル教の護衛者、ね。
果たして信用出来るのかな。
「ほら、あそこにいる四名ですよ」
ルトヴァンさんが指差した方向に視線を移す。
そこには快活そうな青年二名と女性二名が立ち、何やら緊張した面持ち相談していた。
う……む。
線も細ければ、歴戦の戦士足る雰囲気も感じられない。
あ、いや。一人の女性だけは少し武を齧った事があるのかな??
さり気ない身の置き方、そしてしっかりとした重心がそれを彷彿させた。
「あの四人。何か武術の心得はあるので??」
堪らず速攻で質問してみた。
「いえ。そのような事は窺っていません。志願した四名を採用しただけです」
はぁ…………。こりゃ駄目だ。
俺とトアで護衛するしかないな。
俺と同じ気持ちを抱いたのか、トアがあからさまにがっくりと肩を落としている。
人前でそんな姿を見せるんじゃありません。
「お役に立てるかどうか分かりませんが……。彼等は強い信仰心を胸に抱き、護衛についています。余り無下にしないようお願い致しますね??」
信心深いのは結構な事ですけども。信仰心だけで人は守れませんよ??
戦いの最中に地面へ両膝を着けて、居もしない神へ祈りを捧げてみろ。
頭から真っ二つに叩き切られてしまうからね。
「了解しました」
「それでは、間もなく出発致します。もう少々お待ち下さい」
そう話すとリフィレさんを従えて中庭の中腹へと戻って行った。
「なぁ。あの四人、役に立つと思う??」
「思う訳ないでしょ。何よ、あの細い腕は。鶏ガラじゃあるまいし」
「酷い言い方するねぇ。ま、前方か後方。どちらかについて貰って哨戒に当たってもらうか」
「それが無難そうねぇ。で?? レイドの武器は何??」
「俺か?? この二刀の短剣と、荷馬車に積んである弓矢だよ」
腰の革袋から短剣を取り出し見せてやる。
「おぉ!! どっちも業物じゃない!!」
一目でこの素晴らしい武器の雰囲気を感じ取るとは、流石武芸に通ずる者なだけはあるな。
「だろ?? 用途に分けて使用しているんだ」
「この太い柄の奴……。そうそうお目に掛かれない業物ね」
それが腹に突き刺さり、生死の境を彷徨いました。
そうは言えず、只目を輝かせて短剣を触っている彼女を見つめていた。
「レイドさん!! トアさん!! 出発しますよ!!」
「あ、はい!! トア、行くぞ」
「了解。ほい、短剣返すわね」
二刀を革袋にしまい、ルトヴァンさんの下へ駆け出す。
彼の目の前には豪華な馬車が止まり、出発を心待ちにしていた。
この中に重要人物が乗り込んでいるのかな??
見事な装飾が施されている扉を見つめていると、その扉が開き一人の女性が降りて来た。
「お久しぶりですレイドさん。此度の護衛を引き受けて頂きありがとうございます」
薄緑色の長髪、額の真ん中できっちり左右に分け深い青い色の瞳が俺達を真っ直ぐに捉えた。
背筋を伸ばし、降車する姿はどこか真面目な印象をこちらに与える。
「どうもお久しぶりです」
以前、王都内のシエルさんの屋敷で見かけた彼女へ小さく頭を下げる。
『ちょっと……。知り合いなの??』
トアが俺の脇腹を小突き、小声で問う。
『前にちょっと挨拶した程度だよ』
「レイドさん。そちらの女性の方は??」
「申し遅れました。私は彼と共に護衛の任に就くトアと申します」
意外と真摯的に頭を下げて挨拶を交わしたので驚いてしまう。
そのお辞儀が出来るのならシエルさんにも同じ所作で頭を垂れなさいよね。
「ふふ、礼儀正しいのですね。私はエアリア=カサージョと申します。トアさん、レイドさん。宜しくお願いしますね」
エアリアさんが真面目な表情から一転し、柔和な笑みでこちらを見つめ口角を上げる。
前と変わらぬ物腰柔らかな人だな。
「護衛対象はエアリアさんだけですか??」
「私を含め三名です。あそこのリフィレとアズファ、両名も護衛対象ですよ」
彼女の視線を追い、今も難しい顔を浮かべて話し合いをしている両名を視界に捉えた。
任務説明の時、護衛対象は七名と受けていたが。その内の四名は彼等にとって護衛者だから……。
イル教の護衛者四名と護衛対象者三名、そして俺達二名を合わせて計九名っと。
うん。
任務の説明を受けた時と同じ数だ。
数字の誤差が無い事にどこか安心感を覚えた。
「私共だけでは不安でしたので手練れである御二人が参加して頂き、心強く感じています。何か不都合や御不満な点が御座いましたのならいつでも申し付けて下さいね??」
「は、はぁ……」
柔らかく温かい手で俺の右手をきゅっと包み込みながら話す。
その……。
何んと言うか、距離感がですね?? 間違っていません??
「エアリア様、お待たせ致しました。出発の手筈が整いましたので出発致します」
「そう。では、宜しくお願いしますね」
「了解しました」
俺の手を放すと、くるりと踵を返して豪華な馬車へ静かな所作で乗り込む。
ふぅ、びっくりした。
「私共の護衛者が先頭と馬車の両脇に着きますので、レイドさんとトアさんは最後方の警戒を頼んでも宜しいでしょうか??」
「勿論です。ルトヴァンさんとリフィレさんは馬車に乗車するのですよね??」
「その通りです。メンフィスまで三日、街道を沿って進んで行きますが何せ途中で立ち寄る街もありませんので夜は天幕を張り一夜を過ごします。夜間、並びに日中と苦労を掛けるとは思いますがどうか御助力頂けると幸いです」
「こちらも交代で哨戒に当たりますのでそこは御心配なさらないで下さい。あ、厩舎に馬を預けていますので出発の際。立ち寄っても構いませんか??」
「畏まりました。そのように伝えておきます」
よし、これである程度纏まったな。
俺達は後方の警戒、並びに夜間の哨戒任務に当たれって事だ。
眠くなるんだよなぁ。夜間の哨戒って。
「では、出発します。リフィレ、乗車しなさい」
「は、はいっ」
ルトヴァンさんに促され、いそいそと荷馬車に足を掛け乗り込んで行く。
えっと、トーテムだっけ?? パラディム??
役職についたのはいいけど色々と学ぶ事が多そうだな。
今回の遠征もその勉強の一環なのだろうよ。
「出してくれ」
「畏まりました」
馬車の御者席に座る騎手へ指示を出すと、車輪が軽快に地面の上を回り始める。
おっと?? 人数は騎手も合わせて十人じゃないか。
一人多いぞ。
騎手の彼もイル教の白いローブを羽織っているし。ま、でも一人程度。しかも騎手くらいなら数え間違いも致し方あるまい。
平屋一軒を建てても御釣りが来るであろう価値のある馬車が護衛である信者達を引き連れて進み出す。
「随分と足が速いな」
それもその筈。
四名のイル教護衛者は馬に跨り、対してこちらは徒歩。
「置いて行かれないように早足で行くわよ」
「了解。丁度良い運動になりそうだな」
小気味の良い蹄の音、車輪が石畳を食む音に置いて行かれまいと早足のまま門を潜り表の大通りに出ると。
歩道を歩く人々が馬車とすれ違う際、静かに頭を垂れ一瞥をしていた。
誰が乗っているか分かっているみたいだな。
それに……。
「「あぁ……」」
馬車を見た街の人々の表情はどこか満ち足りている様子だった。
それだけイル教がこの街に与えている影響が強いのだろう。
直接本人を見た訳でも無いのにあんな大袈裟な表情を浮かべているのだから容易に察する事は可能だ。
一万七千を超える信者を抱え、この大陸に多大な影響を与えている教団幹部が乗り込んでいるのだ。
彼等は馬車の中の人物の幻影を見られただけでも運が良いと思っているのかもしれない。
勿論、街く人全員が頭を垂れている訳では無いが。その所作が余りにも目立つのでついついそちらへと視線が向いてしまうのです。
「レイド、門が見えて来たわよ」
「おう。ウマ子達を引取りに行こう」
大通りの脇から正面奥に視線を合わせると、トアが話す通り聳え立つ城壁が近付き道の終着を。そしてあの下を潜り抜けたら任務が始まる事を此方に知らせていた。
「すいません!! 馬を引取りに行くので止まって貰っても構いませんか!!」
馬車の背後から出来るだけ大きな声で、周囲に迷惑を掛けない程度の大きさで話し掛けた。
「畏まりました。おい、止まってくれ」
馬車に備え付けてある窓が開きアズファさんが騎手に声を掛ける。
「はい」
馬車がするりと止まり、それに続く形でイル教の護衛者の馬も停止した。
「では、行って参りますので少々お待ち下さい!! トア、行くぞ」
「うん。分かった」
早足から駆け足に変わり、その場を離れた。
さてと、ここからが任務本番ってとこだな。
滞りなく、安全且安心を確保させて遠征を成功させなきゃなぁ……。
余り気乗りしないが一応、任務は任務。
将来敵対するかもしれないが軍属である以上、任務には忠実に従わなければならない。
歯痒いとは思うけどね。
そこは大人としてしっかり区別しなければいけないだろう。
彼等に言いたい事は山程あるが、胸中をぶちまける程子供じゃないし……。
うん。割り切って任務に励もう。
自分の中の有耶無耶に踏ん切りを付けて我が相棒が待つ厩舎へと向かった。
――――。
「…………リフィレ。少し外してくれないか??」
「はい。分かりました」
彼女が静かに扉を開けると馬車の中は静寂に包まれた。
そしてそれを見計らった様にルトヴァンが静かに口を開いた。
「あの人が……。運命の子なのですね」
「えぇ、そうよ。シエル様……いいえ。私達にとって大切な存在なのです」
エアリアが静かに言葉を漏らす。
「私にはそうは見えませんけどね。只のしがない兵にしか見えませんよ」
「あらそう?? 私はとても愛おしく見えるわ。彼の黒い髪、優しい瞳、そして……逞しい体。彼の髪の毛、いえ。爪の先の垢まで全てシエル様の物よ」
エアリアが昂る感情を抑えきれずに己が体をひしと抱きしめて話す。
「計画は滞りなく、全て順調に進んでいるわ。だから何も心配せず己の役目を果たしなさい」
「そうは言いますけど。魔女、あの忌むべき存在を排除するのが最優先事項では無いのですか??」
「勿論それは私達イル教、そして全人類の悲願なのは変わりません。ですが……。それよりもあの人が大切なのですわ、シエル様にとって」
「計画の主旨全体は貴女方、三皇女に一任していますが。我々グランドにも多少なりとも情報を提供して頂けますか?? 私は貴女の直属の部下ですからある程度の情報は入手出来ますが……。一部の方々が不平不満を漏らしているのです」
ルトヴァンが溜息と共に話す。
「ふふ、安心なさい。ちゃあんと情報は提供します。然るべき時、然るべき場所で。それまでは我々に一任なさい」
「仰せのままに」
「はぁ……。あの体……。何て愛おしいのでしょうか。完全にシエル様の物になる前に少しだけ味わってみたいものですわ」
彼等が向かった厩舎へ淫靡に細めた視線を送る。
「宜しいのですか?? 背信行為とみなされますよ」
「多少の物理的接触くらいなら許されましょう。唇を奪い、味わい尽くし、魂まで私の色香を染み込ませ……。んっ……。うふふ、私は悪い女ですわ。想像しただけで昂る感情が制御出来なくなってしまいます」
体をくねらせ、昂る感情を表現。それを抑え付ける様に両の手で情熱を放つ体を抑えた。
「抑えて下さい。彼にこれ以上不審な思いを抱かせる訳にはいきませんよ。大体、この前の一件で既に不審を抱いているのですから」
「いいえ。もっと早い段階で彼はこちら側に不信感を抱いている筈よ。抜けてそうな顔をしているけどその実、鋭い。もしかしたら私のイケナイ姿を既に感知しているかも。あぁっ!! どうしましょう!? 彼に抱かれ、極上の甘い一時を想像している私を見透かしているのですか!? いけませんわ!! 子を孕んでしまいます……」
「お戯れを……」
再びルトヴァンが溜息を付くと、リフィレが静かに扉を叩いた。
「レイドさん達が戻って参りました」
「…………。すいません!! 遅れました!!」
「いいえ。では、出発しましょうか」
エアリアが咄嗟に表情を変え。いつもの柔らかい笑みを浮かべて窓から顔を覗かせる。
「有難うございます!!」
それを見た彼は何の不信感を抱く事も無く列の後方へと移動を開始した。
「あの無垢な体を……。何処までも汚して、魂までも貪り尽くしたいわ……」
静かに彼を見送ると淫靡な液体を纏わせた舌で己が唇を汚す。
「リフィレ、戻って来なさい」
「畏まりました」
「おい、馬を出せ」
彼女が再び馬車に乗り込みルトヴァンが騎手へ出発の合図を送ると車輪が静かに動き出して目的地へと向かって出発。
その様は幾つもの運命という名の歯車が円滑に回り、何の障害も無く噛み合っているようであった。
お疲れ様でした!!
本日も花粉が大量に飛散して本当に辛い一日でした……。
そして、追い打ちをかけるかのように。私が良く足を運ぶカレー屋さんの料理の価格が上昇してしまう事を知ってしまいました。
それは微々たる物ですが、十食、百食ともなれば話は別です。
ですが!! それでも私はチキンカツカレーを食しにあの黄色い看板目指して進むのです。
こんな夜中に何を言っているんだと読者様に横っ面を叩かれてしまいそうですね。
それでは皆様、お休みなさいませ。




