第四十一話 気乗りしない任務の開始 その一
お疲れ様です。
本日の投稿になります。
それでは御覧下さい。
その道を極めた職人が手掛けた銀の燭台、透明度が桁外れに素晴らしい窓硝子、何処までも続くながぁい赤き絨毯。
鼻腔からそして全身の肌から気品溢れる香りが体の中に染み込んでくる。
視線を動かせば直ぐ目に付く高級な品々が俺と彼女との地位の差を改めて認識させてくれた。
この屋敷に足を踏み入れたのは二回目ですけども……。
下手に手を触れたら不味い場所ばかりだな。
例えば、右手側で後方へと流れて行くこの窓硝子。
まかり間違ってパリンっと一枚割ったら俺の一か月分の給料は確実に吹き飛ぶだろうし。
足元の赤い絨毯を破いてしまったら年収では足りないのかも知れない。
高級なだけあって大変素敵な踏み心地に足の裏は大満足していますが、可能な限り汚したくないという庶民の心はもっと慎重に歩けと叫んでいる。
まるで麻袋一杯に水を詰めた様な柔らかさの廊下を進み暫くすると、案内役である女性が前回と同じ扉の前で歩みを止め。
「シエル様。レイド様をお連れ致しました」
中に居る人物に不快感を与えない声量と声質で俺の到着を告げた。
「――――。通して」
「では、レイド様。お入り下さい」
「分かりました。すぅ――……。ふぅっ」
硬い息を吐き尽くし、肺へ柔らかい空気を送り込んで気持ちを整えてから扉を開いた。
「失礼します」
「お久しぶりですね、レイドさん」
漆黒の暗闇も羨む黒の長髪、善悪を見極める事を可能とした曇り無き眼。そして、万人の心を掴んでは離さない澄んだ声質が俺を迎えた。
「御無沙汰しております」
大きな執務机の前で姿勢を整えてから小さく頭を下げて返事を返す。
「ふふ、そこまで畏まらなくても宜しいですよ??」
一体お幾らですかと問いたくなる椅子に腰かけて彼女が話す。
貴女はそうかも知れませんけどね。こちとら、しがない最下級の兵士であり。貴女様の御機嫌を損なえばとんでもない損失を軍部に与えてしまうのですから。
そりゃあ畏まるのは当然でしょう。
「御話を聞かせて頂く前に、今回の依頼を承諾して頂き有難うございました」
『自分以外の者を回して欲しかったです』
「いえ、任務ですので」
心の声とは異なる言葉で彼女の礼に答えた。
「出発まで余り時間がありませんので単刀直入に質問させて頂きます」
上辺の挨拶は此処まで。いよいよ本題ですか。
彼女の質問に対して、身と心を引き締めて待ち構えた。
「もう既に御存知でしょうが……。私達はコールド地方へ三名の者を派遣しました。彼等は予定していた期間を経過してもスノウへ帰還せず。彼等の身に何かが起こり、そして遭難してしまったと考えて軍部へ救助の申請を送りました」
救助ではなくて、様子見の間違いでは??
そう言いたいのをグっと堪えて次なる言葉を待つ。
「そこからはレイドさんも理解している様に、彼等はあの地で消息を絶ち。生存は絶望かと思われたのですが……」
「先日。不意に帰還して驚いている、と??」
彼等の身を案じて机の上に視線を落とした彼女へと問う。
「その通りです。レイドさん、本当にあの地で彼等の姿は見つからなかったのですか??」
澄み切った黒き瞳が俺の瞳の奥をじぃっと捉える。
「仰る通りです。私は指示された捜索個所を隈なく捜索しましたが……。彼等の痕跡は発見出来ませんでした。彼等の存在以外に発見出来たのは、あそこは人がおいそれとは近付いてはいけない危険を孕んだ地域であると言う事です。険しい大自然、どこからともなく聞こえて来る狼の遠吠え。正に未開の地に相応しい場所でした。生存は絶望的と考え、捜索期間一杯まで捜索した後、帰還しました」
例え惨たらしい拷問を受けたとしても、神器の存在は決して口外しないぞ。
狼さん達の、そして。リューヴ達の愛する故郷を守らなければならないのだから……。
「そう、ですか……」
何やら考える仕草を取り。
「うん、分かりました。任務開始前に態々呼び寄せて申し訳ありませんでしたね」
「あ、いえ」
それを解くと異性の心を魅了してしまう笑みを浮かべて俺の労を労ってくれた。
あれ?? 意外とすんなり質疑応答を終えましたね??
粘度の高い蜂蜜の様にネチネチと粘着質な質疑応答が襲い掛かって来るかと思っていたのに。
「今、もう終わりですかって思いましたよね??」
流石上に立つ人間とでもいうべきか。
心の空模様が顔へ直ぐに出る者の心情は瞬き一つの間に看破出来てしまいますよね。
「拍子抜けしてしまったのが本音ですね。もっと詳しく聞かれると考えていましたから」
「詳細はレイドさんが私達の為に心血を注いで制作してくれた報告書に目を通しますので。私が一番知りたかったのは……」
「――――。自分が虚偽の報告をしているのか。その見極めですか??」
まぁ恐らくこれが此処に呼び寄せた大まかな理由であろう。
報告書に記載された無機質な文字、記号、数字よりも。人間の生きている表情を見れば容易く虚偽を看破出来るのだと考えたのだろうさ。
「限りなく正解に近いです。レイドさんは嘘を付くのが苦手ですから直ぐに看破出来てしまうので……。ふふっ、少ない労力で助かりますよ」
柔らかい笑みを浮かべて話す。
「昔から馬鹿真面目な性格ですからね。それより、王都に帰って来た三名の容体は如何でしょうか」
折角此処まで足を運んだのだ。
彼等のその後の情報を入手しておきたい。
「彼等から事情を聴いた後、家へと帰しました。その後も体調不良を訴える知らせもありませんので恐らく普段通りに生活していると思いますよ??」
鵜呑みには出来ないけど、ムートさん達は淫魔の女王様の魔法を受けても然程体調面に変化は見受けられないのか。
よし、準備運動は此処まで。
本題に入りましょうかね。
「一つ御伺いしても宜しいでしょうか??」
可能な限り感情を殺した声色で問う。
「何でしょう??」
「あの三名をどうして未開の土地へ派遣したのですか??」
いきなり核心に迫る質問だが致し方あるまい。
こういう時は単刀直入に聞いた方が効果はある……筈。
「彼等を向かわせた動機、ですか。ん――……。どうしましょうかねぇ」
難しそうな顔を浮かべて細い腕を組む。
部外者である俺に内部の情報を教える訳にはいきませんよね。
まぁ、大方察しはついていますから構いませんけど。
「やっぱり内緒にします。レイドさんは教団関係者ではありませんので」
ほらね??
どうせ肩透かしを食らうと思っていたさ。
聖域に神器が存在すると踏み切り、彼等にそれが存在すると仄めかす資料を提供して依頼する。
そして、ムートさん達はイル教から提供された資料と今まで収集した歴史的資料を重ね合わせ。己が仮説を証明したいが為に依頼を引き受けたのだ。
これら一連の流れの中で未だに判明していないのは……。
神器を発見して何をしようとしているのか、その動機は依然不明のままだ。
これ以上足を踏み込んでもその動機は教えてくれそうにないし。結局の所、真実は闇の中へと消えてしまうのですよ。
イル教から提示された資料って見る事は出来ないのかな??
俺ならその資料の文字を解読出来るかも知れないのに。大昔に編纂されたものだろうから文字の形も変わって読めない確立が高そうだけどさ。
「もし……。前もお誘いしましたが……。入信するのであれば、何でもお教え致しますよ??」
「何でも??」
間者として教団に潜り込むのもアリかな??
「前は逃げちゃって答えは聞けませんでしたから。私達の事、色々知りたいのではないのですか??」
イケナイ心を誘う瞳をこちらに向けて口元を柔らかく曲げる。
止めて下さい、その目は。
以前、あそこのソファの上で行われた破廉恥な行為が頭の中に過って行った。
「熟考させて頂きますね。それでは今回の護衛者達と行程の打合せがあるので失礼致します」
俺に絡みつこうとする怪しい空気を礼儀正しいお辞儀で霧散させ、扉へと引き返した。
「あ、私もお見送りに参りますよ」
「そう、ですか。では中庭へ参りましょう」
此処で跳ね退けるのは失礼に値しますからね。
シエルさんを先に廊下へと通し、再び無駄に長い廊下へと出て中庭へ通ずる扉へと向かった。
「大丈夫ですか??」
「何がです??」
右隣りで歩く彼女へと問う。
「ほら、任務から帰って来たばかりなのに直ぐに次の任務を受けて」
「大丈夫ですよ。こう見えて体力には人一倍自信がありますので」
貴女達が余計な頼み事をしなければ今頃もっと有意義な任務に就けていますよっと。
「ふふ、流石男の人ですね。羨ましいなぁ……」
「体力を付けたければ小さな事の積み重ねが大事です。雨垂れ石をも穿つ、ですよ」
一朝一夕で漲る体力は決して身に付かない。
日々の鍛錬の積み重ねが必要不可欠であり、それを継続させる事が一番の近道だ。
「それは走る、とかですか??」
「最初は短くても構いません。走る行為に慣れて来たら今度は距離を伸ばし、ある程度の距離に慣れて来たら今度は走行速度を上げる。様々な工夫を凝らして体に、心に飽きが来ない様にするのも一考です」
この華奢な体躯ではいきなり長距離は走破できないだろう。
先ずは自分に適した距離を見付ける事が課題ですかね。
まぁ、そんな暇は無いだろうけども。
「今度の休みの日にでも走ってみましょうかね!! 私、こう見えて意外と体力があるんですよ??」
見ていて心配になる細い腕をムンっと曲げて蟻の頭程度の力瘤を作る。
「因みに、次の休みの日は??」
「えぇっと……。年内はありませんから、来年になりそうですね」
今日が十二ノ月の二日だから、一か月以上は休みが無い訳だ。
お互い忙しいですよねぇ……。
「本当はもっと休みが欲しいのですけど。会わなければならない人達に予定を合わせている所為か、中々休みが取れないのです。この前も……」
どこぞのお偉い人達との会食、上流階級特有の付き合い等々。
そんな下らない事に態々時間を掛ける必要はあるのかと首を傾げたくなる愚痴がまぁ出るわ出るわ。
上に立つ者も大変だなぁっと。
うだつの上がらない末端の兵には到底理解に及ばない愚痴を聞かされながら中庭へと戻って来た。
「ん――……っ!! いい天気ですね」
グンっと体を伸ばして凝り固まった筋力を解し、朗らかな笑みを浮かべて空を仰ぐ。
漆黒の瞳を細めて空を眺めるその姿は一人の女性にしか見えない。
う――む。
こうやって見ると普通に見えるんだけどな……
でも、此処で油断は禁物です。
魔物排斥を理念に動く彼女へ俺は、いや俺達は隙を見せてはいけないのだ。
「よ――っす。お帰り――!!」
俺の姿を見付けたトアが軽快な足取りでやって来る。
「トア待たせたな」
「本当よ。待ち過ぎて眠くなって来ちゃった」
こらこらお嬢さん。
今から任務開始なのに大欠伸をしてどうするの。
「レイドさん。そちらの方は??」
シエルさんが直ぐ後ろから声を掛ける。
「彼女は同期の……」
「あ、申し遅れました。私はこの木偶の棒と共に護衛を務めさせて頂きますトア=フリージアと申します」
そう言いながら俺の胸を拳でドンっと叩く。
誰が木偶の棒だ。
「あぁ。そう言えばもう一名来ると仰っていましたねぇ。大丈夫ですか?? レイドさんと比べるとぉ……。何だか随分と『頼りなさそう』 に見えますけど」
その言葉を受け、トアの眉がピクリと動いた。
「御安心下さい。前線で何十体ものオークを八つ裂きにした経験を持っていますので――」
目は笑っているが態度は笑っていない。
『頼りなさそう』
その一言が彼女の闘志に火を点けてしまったみたいだ。
このままでは喧嘩が勃発してしまいそうなので……。
『お、おい。彼女はイル教の最高指導者のシエルさんだぞ』
徐々に機嫌が悪くなりつつある彼女へと耳打ちをする。
「は?? それがどうしたの??」
『いや、だから!! 此処で彼女の機嫌を損ねたら色々と不味いだろ??』
頼むから穏便に済ませて下さいよ!!
「その剣で切り裂いたのですか??」
シエルさんが静かに口を開いてトアの左腰に下げている剣を見下ろす。
「勿論です。首を刎ね、胴に突き刺し、極上の苦痛を与え土に還してやりましたよ」
「野蛮ですねぇ。女性の方がそのような事を軽々しく仰るものではありませんよ??」
「伺われたので答えたまでです」
喧嘩腰にならないの。
「そうですか。それに……その逞しい胸板と腕の筋力には目を見張る物がありますよ?? 私も、鍛えたいのですが……。どうもこれが邪魔をして……」
「ぶっ!!」
俺は慌てて澄み渡った空の彼方へ視線を合わせた。
シエルさんがトアへ向かい、両手で胸を下から持ち上げこれ見よがしに豊満さを強調したからだ。
こんな真昼間から何をしているんだ。この人は……。
「へ、へぇ。邪魔ですよねぇ」
うわぁ……。
トアの怒りが沸点に近付き、腕の筋力が準備運動を始めている。
両腕の筋力、肩。
上半身の筋力が隆起し今にも飛び掛かりそうな勢いだ。
両者共に口角は上がっているけども、目は決して笑っていない。
一触即発の雰囲気が漂い始め、これを何んとか収めようとするが……。心が止めておけと頭に命令する。
自ら死地へと飛び込む物好きでは無いのでね。此処は静観させて頂きます。
二人の女性の視線が宙で衝突すると激しい火花が飛び散る。
俺は居たたまれない思いを胸に抱き、その火花を間近で浴びせられ続けていた。
「そうなんです。あ、そうだ。今度トアさんに鍛えて貰おうかしら??」
「ぜんっぜん構いませんよ?? 血反吐を吐き、人生で味わった事の無い身体的苦痛を御教え致します」
それ、鍛えるというより虐待じゃないの??
「有難う御座います。若い内は垂れないかも知れませんが、筋力が衰えると垂れてしまいますからね」
何が、とまでは窺わない。
「う、うふふ。そうですよねぇ。垂れちゃいますよねぇ」
「もう困ったものです。レイドさんはどうですか??」
「へ??」
突然の問いかけに声が上擦ってしまう。
「大きい方と、その……クスッ。小さいとも大きいとも言えない中途半端な有象無象の物。どちらがお好きです??」
何で一回トアの胸を見て笑ったのですか。
怒りの矛先がこちらに向かうからそういった態度を取るのは止めて下さい。
後生ですから。
「え、えっとぉ……」
どうしよう。どう答えるのが正解なのだろうか。
シエルさんの御機嫌を伺い大きな方が好きと言えば、機嫌が良くなった彼女はこれからも資金提供を続けてくれるだろうが。代わりに体の何処かへ恐ろしい痛みが襲って来る。
反対に。
小さい方が好きと言えば、恐ろしい痛みが襲い掛かって来る事は無いが。機嫌を損ねた彼女が資金提供を出し渋り。上層部から更なる御機嫌伺いへ行けと命じられる可能性もある訳だ。
たった一言の答え次第で俺の運命が決まってしまう。
豊満な肉かそれとも庶民的な麺類か。
本日の夕食に摂るべき献立を決めるかの如く、唸りながら腕を組んで熟考を繰り広げた。
「ほら。早く答えろ」
それに痺れを切らしたのか。
同期の女性が太腿の裏に蹴りを捻じ込んで来たので。
「お、大きさには余り拘っていません。自分はその人の人柄で判断していますから」
熟考の末に辿り着いた持論を述べた。
これが己が今選択すべき無難な答えだろう。
「ふぅむ。そうですか」
「中々良い事言うじゃない!!」
余り強く肩を叩かないでくれる??
肩の関節が外れそうなんだけど??
「では、質問を変えましょう。私の胸と、そこの凡百な胸。どちらがお好きですか??」
「はぁっ!? 何でそんな質問するのよ!!」
ついに怒りの沸点を越えたみたいだ。
トアの素の性格が表に現れ、シエルさんに食って掛かろうとする。
「ま、まぁまぁ!! 落ち着いて」
後ろから腕を掴み、慌てて御した。
「それで?? お答えは??」
「どっちなのよ」
え――っと。どうしても答えなきゃ駄目かしら??
四つの鋭い瞳が俺の顔に突き刺さる。
「だから、大きさには問題無いかと……」
お願い。誰か助けて。
春先の空を華麗に飛ぶ燕の飛翔をも越える速度で視線を右往左往させていると。
「――――。シエル様。行程の確認をしたいと思いますので、こちらへお越しください」
正に渡りに船!!
一人の男性がシエルさんの背後から声を掛け、この何とも言えない雰囲気を払拭してくれた。
ありがとうございます!! 貴方の一言の御蔭でこの大陸に住む人は救われましたよ!!
心の中でしっかりと頭を下げ、彼に感謝……。
ん??
あの人、ルトヴァンさんじゃないか。
今回の遠征に同行するのかな。
「では、レイドさん。失礼しますね。またお話をお聞かせ下さい」
「え、えぇ。了解しました」
笑みを浮かべる彼女に合わせ、口角を出来るだけ引っ張って言ってやった。
「…………。ねぇ」
「はい」
この声色は不味い。
そう考え、出来るだけ相手の感情を逆なでさせぬよう己の感情を殺して返答した。
「あの人と……。どんな関係なのよ」
「任務、そう任務で何度か会っただけです」
「何度か会っただけで、あんな親し気になるものなの?? 何かあったでしょ」
じろりとこちらを睨む。
ど、どうして女性という生き物は男の嘘に敏感に反応出来るのだろうか。
幾ら考えても理解に及びませんよ。
「…………。皆目見当もつきません」
「今の間は何よ!!!! 答えろ!!」
「あ、あふぉが外れるっふぇ!!!!」
右手で俺の頬を鷲掴みにすると、頬肉が勘弁してくれと激痛を訴えた。
こ、こいつ!! 何て握力だよ!!
前線で鍛えた腕は伊達ではありませんよね!!
「だいふぁい。トファにはかんふぇい無いふぁろ!!」
「大いにあるわね。私達パルチザンをぎゅうぎゅうと牛耳ろうとする輩なのよ?? アイツは。親し気にしていい物じゃないの。お分かり??」
その意見には賛成します。
ですが、暴力に訴えるのは如何な物かと。
「そうふぁけど」
「で??」
で??
とは一体……。
「なんですふぁ??」
「アイツと何したの。正直に答えないと、硬いパンが暫く食べられなくなるわよ??」
いかん。
この目は本気だ。
以前、訓練施設の食堂で大立ち回りした時と同じ目をしている。
「…………え、えっふぉ」
「ん?? 怒らないから行ってごらんなさい??」
小首を傾げ、笑みを浮かべて話す。
ありのまま話したら絶対、怒るし。そういう顔色浮かべているし!!
「だかふぁ、何もふぁいって。んぶっ!!」
「へぇ?? そう……」
俺って嘘がバレやすいのかな。
生者を恨めし気に呪わんとする幽霊が目に涙を浮かべて踵を返してしまう怒気を放つ同時に、常軌を逸した痛みが頬肉に生じた!!
「ン゛――ッ!! つ、潰れじゃうっで――ッ!!!!」
「ほ――らっ。早く言えば楽になるわよ――」
頬肉を潰しに……。いや、奥歯を粉砕しようとして更に握力を籠めて来た。
この激痛から逃れたいのが本音だが……。あの出来事を話したらもっと恐ろしい痛みが全身を襲うのです。
決して破廉恥な出来事は口外しないぞと。
鼻から変な音を奏でつつ必死に空気の循環を行い。目の端っこに涙を溜めながら、頑とした態度で痛みに耐えていた。
最後まで御覧頂き有難う御座いました。
此処で一つ裏設定を御紹介致します。この御使いのプロット作成時、狂暴龍さん達は怖い海竜さんの監視の下、キチンと王都内でお留守番をしており。お使い中一切出番は無い予定でした。
しかし。よくよく考えてみたら我らが分隊長殿が仰っていた通り、勝手にいなくなりそうな行動力の塊さん達でしたので。急遽予定を変更して今現在も尾行を続けている次第であります。
加筆修正を余儀なくされる彼女達の行動力に少々困惑していますよ。
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