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第四十話 苦い思い出が残る街へ到着

お疲れ様です。


本日の投稿になります。


それでは、どうぞ。




 蹄が地面を捉えると小気味の良い音を奏で心が柔和な気持ちに包まれ、車輪が等間隔に地面を食む音がそれを装飾する。


 地の彼方から靡く風は草々の香りをそっと乗せて鼻腔を楽しませ、空一杯に広がる青が爽快な気分にさせてくれた。


 主街道を使用して移動を続けているので人の往来は程々に多く。すれ違う彼等の顔もこの自然豊かな光景と天候に当てられたのか朗らかな表情を浮かべている。



 これから得るであろう利益を頭の中でどんぶり勘定しているのか、ニッコニコの笑みを浮かべて御者席に座って手綱を操る恰幅の良い男性。


 少し高価な馬車の先で客或いは御主人様を牽引する馬の息遣いも軽快だ。



 皆様はこれから普段通りの日常を繰り広げるのでしょうが、俺達は非日常で危険を孕んだ任務へと赴くのです。


 まぁ、今回の任務はいけ好かないけども。彼等の笑みを守る事に繋がると信じて臨むとしましょうかね。



 御者席に座り直し、背筋を伸ばして正面に顔を移すと。王都と然程変わらぬ高さの壁が見えて来た。



 はぁ……。到着かぁ。


 今度は理不尽な暴力を受けなきゃいいけど。



「トア、見えて来たぞ」



 初冬らしからぬ陽気な気候の中。落ち着いた様子でリクに跨るトアへ話しかけた。



「そうね。あそこがレンクィストかぁ……。初めて入る街だからちょっと緊張しちゃうな」



 こいつにも緊張という言葉が胸の内に存在するのか。



「らしく無いじゃないか」



 にやりと笑って言ってやる。



「五月蠅いわね。大体、おいそれとは入れない街でしょ?? 誰だって緊張するじゃない」


「まぁ、気持ちは理解出来るよ」



 貴族、富裕層、果ては王族。


 俺達一般庶民とは一線を画す者達が大枚を叩いて根城にしている街だ。


 物価も違い過ぎるし、庶民が住めるとは到底考えられないのが本音かな。


 それに……。


 あまり良い思い出が無いから近寄りたくないんだよなぁ。


 また殴られやしないか、気が気じゃない。



「どしたの?? 頬抑えて??」


「ん?? あぁ。さっき食べたパンが美味くて、思い出していたんだよ」


「あはは。何よ、それ」



 あの街で受けた理不尽な暴力は言う必要無いな。


 余計な杞憂は与えたくない。


 咄嗟に思いついた言い訳を話してやった。



「そこの者達、止まれ」



 御高くとまった街の南門に接近すると、屈強な体付きの門兵が俺達に声を掛けて来た。



 そりゃあ軍服を着た見知らぬ者達が来たら怪しみますよね。


 手綱を少々強く引き、ウマ子をその場に停止させる。



「何者だ」



 警戒心を抱き、右手に持つ槍を掴む手に力を籠め。猜疑心を籠めた瞳でこちらを見つめていた。



「我々はパルチザンの者です。皇聖シエルさんの指示により此方へ参りました。こちらが入場許可証になります」



 御者席から降車。


 鞄から一枚の紙を取り出し門兵に渡してあげた。



「シエル様が?? おい、そちらの者もそうか??」



 トアの方をじろりと睨む。



「…………トア。お前も入場許可証持って来たよな??」


「勿論。はい、どうぞ」



 リクから流れる所作で下馬すると。俺と同じく鞄から紙を取り出して門兵に渡す。



「確認する。少し待っていろ」



 はいはい。


 穴が開くまで見て貰っても構いませんよっと。



「――――。嘘だろ!? 引き留めて申し訳ありませんでした!! どうぞお進み下さい!!」



 前回同様、シエルさんの印章を見付けると大きく目を見開き驚愕の表情を浮かべる。


 これ一枚で何でも出来そうになるから困ったものさ。



「では、お邪魔しますね」



 許可証を受け取るとウマ子の手綱を引き、堂々と門を潜った。



「ねぇ。本当に入っていいの??」


「当たり前だろ。その為にこの許可証があるんだからさ」



 堂々と入る俺に対し、おずおずと周囲の様子を窺いながら街への第一歩を踏み出す。


 俺も前回はあんな感じだったんだろうなぁ。


 トアの様子をどこか温かい視線で見つめていた。



「一旦厩舎へ馬を預けてから向かおうか」


「了解。厩舎はどこ??」


「南門を抜けて、左手だから……。ほら、あそこだよ」



 遠くに見える大きな建物を指差す。



「ちょっと。何で知っているのよ」



 そりゃ気になるよね。



「いや、実は今回で二度目なんだ。此処に来るのは」


「二回目?? 前回は何しに来たの??」


「んっと。シエルさんに呼ばれてさ、任務について色々聞かれたんだ」



 正確に言えばちょっと違うけど。


 トアには余計な心配は掛けたく無いし。



「え?? 任務の内容って話しちゃいけないでしょ」


 至極当然とばかりに話す。


「そりゃそうだけど……。正式な任務だったから仕方なく、ね」


「資金援助受けているからって上層部も甘いわねぇ」


「背に腹は代えられないって」


「世知辛い世の中になったものね。うわぁ――……。すっごい綺麗な街並み」



 視線を正面に戻すと、前回と変わらぬ姿の建物がこちらを待ち構えていた。



 整然と整理された車道と歩道には美しい石畳が敷かれ、街並みも景観を損なわぬ様にキッチリと区画に沿って建てられている。


 上品な方々がお召しになるのは彼等の為に職人が魂を込めて制作した特注の服、値段を聞くのも億劫になる宝石。


 正に上流階級の方々が住む為に作られた街並みに俺とトアは時が過ぎるのも忘れてその景色を頭の中に焼き付けていた。



 っと。


 此処でぼぅっと突っ立ていたらまた厄介な奴が絡んでくるぞ。



「トア、行こうか」


「あ、あぁ。うん……」



 俺とトア、そして二頭の馬は絢爛豪華な街並みを前にして左折。


 それから暫く道なりに進んで行くと、見えて来た厩舎の入り口からは清楚な街に似つかわしくない獣臭が漂い。嗅ぎ慣れたそれがどこか落ち着きを与えてくれていた。



「すいませ――ん。誰かいますかぁ――!!」



 入り口付近から大声を上げて係の人の所在を確認する。


 流石に勝手に入ったら不味いし。



「はぁい!! ただいま――!!」



 一人の男性がこちらに息を荒げて駆け寄って来てくれた。


 すいません、お仕事中に。


 彼に対して詫びの一言を放とうとすると。



「あの――。申し訳ありません。一般の方はここの厩舎を御利用出来ないんですよ」



 彼が申し訳なさそうな顔を浮かべて俺達を交互に見つめた。


 前回も同じ展開でしたよねぇ……。

 


「この書類見て貰っていいですか??」



 何度目かの既視感を覚えながら彼に書類を渡してあげると。



「――――っ!!!! す、すいません!! 奥の馬房を御利用下さい!!」



 シエルさんの印章を見付けると丸い目が更に丸くなり、眼球が飛び出るのでは無いかと余計な杞憂が心を支配した。



「すいませんね。利用させて頂きます」



 係の者に軽く会釈して中にお邪魔させて頂いた。



「う――む。藁の香りと咽返る程の獣臭。いやに落ち着くな」



 御者席から降りたままウマ子の手綱を引いて奥へと進む。



「この街と正反対な感じがするけど、馬が無ければ移動もままならないし」


「まぁ、そうだな。いてっ……。おぉ!! グレイスじゃないか!!」



 道幅が広い通路を奥へ進んで行くと、美しい白馬が俺の肩を食み進行を止めてしまった。



「久々!! 元気してた!?」


『……』



 美しい白馬との再会を喜び、首筋から体にかけて手を擦ってやった。



「この子、グレイスっていうんだ」


「そうそう。前、ここで会ってさ。何でも?? お偉いさんの馬らしいんだ。ははっ!! くすぐったいって!!」


『っ』


 生温かさとしっとりとした液体が顔を襲う。



「綺麗な馬なのに甘えん坊なのねぇ」


「リクは甘えたりしないの??」



「ん――。偶にって感じかな?? 基本的には大人しい子だから。ね??」



 トアが振り返ると……。


 リクが静かに相槌を打つかのように首を小さく上下させた。


 ほぅ。うちのウマ子と似て随分と賢いな。



「こら、もう行くから放して??」



 腕を食むグレイスの顔をそっと押し退けるが、甘えん坊の彼女からは放す気配は見られなかった。



「どこぞの誰かに似て、甘えん坊……。いっでぇ!! ウマ子!! 首食むなって!!」


『喧しい!! 行くぞ!!』


「分かった!! 分かったよ!!」



 俺の背中を前足の膝でグイグイと押し、奥へと催促を強制する。



『人の御主人様に手を出すんじゃないよ』



 グレイスの馬房を通過する際に、きっと横目で睨みつけていた。



「おい。そこまで睨まなくてもいいじゃないか」


『ふんっ。甘い顔をするお前が悪いんだ』



 鼻息を荒げて俺をじぃっと見下ろして来る。



「レイド――。馬の尻に敷かれているようじゃ、まだまだ甘いわよ」


「うっさい。大体、他の馬とじゃれ合うくらい良いじゃないか」


『ほう?? もう一回、食らうか??』



 これ見よがしに、前歯を剥き出しにしてくる。



「すいません。シエルさん達と打ち合わせをしてきますので、此処で暫くお待ちください」


『ふん。分かればいいのだっ』



 何で動物にせっつかれなきゃいけないんだよ……。


 今回の任務はマイ達がいないから気楽に行けると思った矢先にこれだもんな。


 いつ襲い掛かるやもしれない前歯と膝を警戒しながらウマ子を奥へと導いて歩み出した。




















 ◇




 朝方に寒さを覚えてしまう季節だというのに太陽は私の予想を良い意味で裏切ってガハハと笑い私達を照らし続けている。


 気持ちの良い天気に相応しく威風堂々と肩で風を切りながら進みたいのは山々だが……。遥か前方を進み続ける野郎に見つかる訳にはいかないので、街道の脇をみみっちぃ速さで進む。


 いつもならボケナスの胸ポケットか、ユウの頭の上でのんびりと移動出来るってのに。何で態々二本の足をせせこましく動かして進まなきゃいけないのよ。



 しかも!!


 街道の脇は微妙に草が生えて、泥が溜まって歩き難いんだよ!!!!


 悪路と肩苦しい所作が悪戯に体力を消費するので心の中に言い表しようの無いムカつきが芽生え始めた。



 こうなったら……。



「ねぇ、ユウ」



 右隣りで全然可愛い顔のままで歩き続ける我が親友へ声を掛けた。



「ん――?? どした??」


「肩、乗っていい??」



 この妙に歩き難い街道から逸れて歩けば見つかり難くなるし、更に!!


 私も楽が出来る。


 正に一石二鳥じゃあないか。



「駄目に決まってんだろ。偶には自分の足で歩けって」



 わ、わぁ……。速攻で拒絶されちった……。


 少しは考える素振くらい見せなさいよね。



「そうだよ。私だって早く狼の姿になりたいのに我慢しているんだからね」


「結構な数の人とすれ違っているからなぁ。ほら、また来たぞ」



 爆裂巨乳大魔神が話す通り、この街道は王都と北の街を結ぶ主要路なので。


 荷馬車を引いた行商人や、若い兄ちゃん姉ちゃん、果ては子供まで多岐に渡る人間が利用していた。


 人間共とすれ違い様。



「「……」」



 街道の端を歩いている此方に向かって怪訝な顔を浮かべているが、今日は許してやろう。


 そんな下らねぇ事に構っていたら私の堪忍袋の緒は速攻でプチっと切れちまうだろうからさ。



「ふんっ。怪訝な顔を浮かべていたな」



 リューヴが眉を顰めて話す。



「リュー、あんまり怖い顔しちゃ駄目だよ?? 只でさえ怖い顔なのに。それを見た人間が驚いて逃げちゃうよ」


「そんな怖い顔浮かべていたか??」


「そりゃあもう。こ――んな目してたよ!!」



 お惚け狼が己の顔の目元を両手でキュっと掴んで吊り目にしてお道化ると。そこにもう一人の強面狼が現れた。



「うはっ、瓜二つじゃん」


「え、えぇ。ビビる位にそっくりね……」



 ユウと共にその顔を見て素直な感想を話す。



 忘れがちだけど、こういつらは一つの体で生まれて来たのよねぇ。


 生まれ育った環境、友人達、生き様。


 一緒の筈の顔がそれらによって形成された性格でこうも変わろうとは。恐ろしいものよねぇ……。心ってものは。



 朗らかな気持ちになれば人を温め、憤怒で腸が煮えくり気持ちを抱けば人を慄かせる。



 心の空模様で人の性格だけではなく、人生そのものが変わってしまうのかも。


 私も可能な限り優しい感情を抱いておきましょ。


 そうすれば素敵な御飯にたぁ――くさんありつけるだろうからね!!




「言い過ぎだ。はぁ、主の残り香がするのに追いつてはいけないこのジレンマ。何んとかならないものか……」



「リューヴ。宜しいのですのよ?? 今から引き返しても」



 鬱陶しい蜘蛛が何やらほざいているが。


 私は今し方草むらから飛び出て来た虫へ視線を落として、敢えて聞かない事にした。



「それは了承しかねる。まだ出発して数時間。残り八日間も図書館で調査は……。流石に体が鈍ってしまうからな」



 まだ数時間かぁ。


 この先、大丈夫かしらね。


 こんな喧しい連中を引き連れて歩いていて。


 無謀な戦いに挑む哀れな弱者の気持ちを胸に抱き重い足を動かしていると、彼方に黒い影が見えて来た。



「ん?? あそこがレンクィストだっけ??」



 ユウが目を細めて正面を見つめる。



「そうですわ。レイド様を痛め付けた不届き者が住んでいる憎々しい街ですわよ」



 そう言えば、前に傷ついて帰って来たっけ。


 良いように殴られても手を出さない辺りがアイツらしいけど……。


 私だったら無理ね。


 横っ面を殴り返して、前歯全部叩き折って、左右の脇の骨を一本ずつ丁寧にへし折って……。


 この世に生を受けた事を後悔させてやるもん。


 例え、それが人間だとしてもだ。



「あの雑木林の影なら門から死角になるよ」


「でかしたぞ、お惚け狼」



 どうやらボケナスともう一人の御仲間は既に街へと入って行ったみたいだ。


 影も形も見当たらない。


 街道から少し外れ、街の門が遠くに見える此処で出て来るのを待つのが賢明か。



「中に入れたらいいのになぁ」



 私の気持ちをルーが代弁した。



「ま、気長に待とう。ユウ、お昼ご飯にしよ??」


「お――。いいね。木陰に入って休むとするか」



 荷物の山を降ろし、その手で本日の昼食を皆の前に出す。



 ほほぅ!! 本日の昼食はパンと、クルミか!!



 悪くないわね!!



「いっただきま――す。はむっ!! リューは食べないふぉ??」


「後で食べる。誰かが門を監視していないと見逃す恐れがあるからな」



 木にもたれ、正面奥の門を翡翠の瞳でじぃぃっと見つめている。



「じゃあ先に食べてるね。ユウちゃん、クルミ割って――」


「ん――。あらよっと!!!!」



 乾いたクルミを二つ右手に握り、ちょいと力を籠めると硬い殻が渇いた音を立てて割れた。


 相変わらずの馬鹿力。



「ありがと――!! サクサクして美味し――!!」



 小麦の甘味とクルミのさくっとした食感を楽しむ、細やかな昼食会となった。


 ふぁやく出て来ないかなぁ。


 モッチャモッチャと顎を動かし、素敵な咀嚼を続けながら呑気にその時を待ち続けた。






















 ◇




 この街は相変わらず静かだ。



 大勢の客を引こうとする店主達の鎬を削る戦い、一ゴールドでも安く値切ろうとする主婦と店主の苛烈な声もしないのは何だか物足りない気がする。


 もっと喧しくて、喧噪が飛び交って、言葉の荒々しい波が無いと寂しく感じてしまうな。


 静謐な街を行き交う清楚な人達とのすれ違い様。



「……」



 珍しい生き物を見付けた様な瞳を浮かべて通り過ぎて行った。




「この制服、珍しいのかな??」



 その視線の意味を感じ取ったのか、トアが己の服に手を当てて話した。



「珍しいみたいだよ?? 前歩いていたらそうやって声掛けられたし」


「んん?? それって…………。女の子だったりするの??」



 そうだったらどれだけ良かった事やら。



「男連中三人組だよ」



 にやっと笑う隣の女性に話してあげた。



「うはっ。きつそう」


「まぁ……。確かにきつかったな」



 顔の至る所から出血するまでしこたま殴られたし。


 アイツら。


 今日は会わないだろうな?? もう顔も見たくないのが本音だ。



 ど――かこのまま何事も無く到着出来ますように!!



「あ!! この服可愛い!!」



 服屋の前を通る間際、トアが透明なガラス越しに陳列されている服を見付け陽性な声を上げた。



「止めといた方がいいよ?? ここの物価、目ん玉飛び出る位高いから」


「またまたぁ。たかが服だよ?? そんな大袈裟に……。うっそぉ!! これ、五万ゴールドもするの!?」



 どれどれ??


 トアが見つめていたのは薄いピンクのワンピースだ。


 右胸に可愛らしい華が刺繍され、使われている素材も高価で全体的に気品漂う感じだ。


 俺達が着用している制服は皮を基本とし耐久性に優れているが、トアが物欲しそうに見つめている服にそれは微塵も感じられなかった。


 凡そ、お偉いさん達が集まる社交場に着て行く用だな。



「うむむ……。食費を抑えれば……。いや、この一着の為に犠牲を払い過ぎかしらね」


「おい。作戦行動前でも任務中なんだからな??」


「いいじゃない。少しくらい見たって」



 どうも女性という生き物は買い物が楽しくて仕方が無いらしい。


 買わぬ物を見て何が楽しいんだ??



「でも……。本当に可愛いなぁ」


「そうか?? こんな薄い材質の服なんて直ぐ駄目になるぞ」


「分かっていないなぁ。可愛いから欲しいんだぞ??」



 ふんっと鼻息を荒げ、気品溢れる服から俺に体の正面を向ける。



「俺には理解出来ないかも」


「服は機能性って言ってたもんね――??」


「うっさい。ほら、時間も迫っているし。行くぞ」



 その場から中々動こうとしない横着者を置いて北へと前進を開始した。



「あっ。ちょっと待ってよ!!」



 此処にいたら服を買う様に強請られて、体の良い言い訳を餌にして手痛い出費が襲い掛かるかも知れませんからね。


 服に五万もの大金を払ったら俺の首は間違いなく有り得ない角度に曲がってしまうだろう。



『服に五万だぁ!? そのお金があったらどれだけ食えると思ってんのよ!!』



 頭の中の深紅の龍が、俺の首をグイグイと締め上げる姿が容易に想像出来てしまった……。



 そうだよなぁ。


 五万もあれば美味い飯何回食えるだろう??


 快気祝いをしたペイトリオッツで七人、名一杯食って二万越えだから最低でも同じ店で二回も腹一杯食える計算だ。



 あそこのお店、美味しかったな。


 特に一枚肉が美味そうだった……。


 今度行くときは絶対大盛で頼もう。幾らかかってもあの服よりかは安くつくし。


 頭の中の御馳走に舌鼓を打っていると。



「ね、あそこがイル教の本部じゃない??」



 トアが俺の肩を叩いて正面へ指を差した。



 前回来た時と変わらぬ姿で此方を待ち構えているのは高い城壁と、堅牢に閉じられた門。


 何人も通さぬと確固たる意志を貫く門の前には白のローブを羽織ったイル教信者が両脇に立ち、警備に勤しんでいた。



「あぁ、そうだよ」


「城壁で囲まれた街に現れた城壁、か」


「何でも?? この街を建造する際、この壁も同時に作られたんだって」



 前回シエルさんから聞いた言葉をそっくりそのまま彼女へ伝えてあげた。



「……………………。レイド様、トア様ですか??」



 俺達が近付くと、右の男性が何か思い出したかのように此方へ話し掛けて来た。



「はい、そうです。シエルさんに此方へ窺う様に。そして護衛任務の為に参りました」



 右手に光り輝く槍を持つ彼に対して一つ丁寧に頭を下げて端的に説明した。



「お待ちしておりました。中庭へお進み下さい。今回の護衛対象、並びにシエル様も居られると思います」



「分かりました」


「本日から宜しくお願いしますね。おい、開けてくれ!!」



 男が声を張り上げると、堅固な門が左右に開いて行く。



「では、失礼します。トア、行こうか」


「う、うん」



 若干緊張した面持ちの彼女と共に重低音を響かせて開いた門を潜ると、左右に大きく開いた空間が出現。



 正面に白を基調とした木造二階建ての建築物は相変わらずの存在感を放ち、中庭の広い空間はそのまま。


 そして左右に建てられている質素な木目の建造物も依然見た時と変わらぬ姿で俺達を迎えてくれた。



 中庭に敷かれている石畳の上を進んで行くと、十数名の教団関係者が難しい顔を浮かべて話耽っていた。


 今日の行程の相談でもしているのかな??


 彼等の様子を見守りつつ移動をしていると、その中の一人が俺達の下へ駆け足で向って来た。



「レイド様、トア様で宜しいでしょうか??」


「えぇ、そうです」



 頼りなさそうな肩幅から想像出来ない低い声の彼に肯定の意を表してあげる。



「現在護衛の行程について最終確認をしておりますので、トア様は此処で暫く待機して下さい。そして、レイド様はシエル様との面会をお願いします」



 任務が始まる前に、先ずは先の任務の事情聴取ね。



「分かりました。トアちょっと行って来るな」


「あぁ、うん……」



 件の女性と一体何の話をするのか。


 気になって仕方が無い顔を浮かべているな。



「後で話すから。今は彼の指示に従ってくれ」


「了解ですよ――っと」



 ブスっとした顔を浮かべる彼女は渋々と了承して頷き。



「では御案内致します」



 俺は苦笑いを浮かべてそれを見送ると、礼儀正しい彼の後に続いて屋敷へと向かい始めた。



「御待ちしておりました、レイド様」



 白を基調とした豪華な屋敷の門の前で静々と立つ二人の女性が俺を見付けるとキチンと頭を下げてくれる。



「あ、どうも」


「シエル様の御部屋まで御案内致しますのでついて来て下さい」


「分かりました。失礼します」



 豪華な木製の扉が美しい色を奏でて開かれると、お金持ち御用達の赤い絨毯が迎えてくれた。



 これから始まる任務を前にしてボロを出すのは愚の骨頂。


 しっかりと気持ちを入れ替えて説明義務を果たしましょうかね。



 だらしない心を蹴飛ばして体の外へ放り出して真摯な心に入れ替えると、高価な木材の香が漂う屋敷の中へとお邪魔させて頂いた。



お疲れ様でした。


相変わらず花粉症が酷いです。皆様の鼻の調子は如何でしょうか??


市販の薬を服用して、鼻に丸めてティッシュを捻じ込んで文字を叩き続けている次第であります。




いいねをして頂き有難うございます!!


そして、評価をして頂き誠に有難う御座いました!!!!


思わず体が海老反りになってしまう程に光る画面の前でガッツポーズをしてしまいました。


そんな事をしている暇があればさっさと話を書けよ。という声が画面越しに聞こえてきますので。寝る前までもう少し頑張って書かせて頂きますね。



それでは皆様、お休みなさいませ。

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