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第四十話 押すなよ!? 絶対、押すなよ!?

お疲れ様です。

連休最終日、いかがお過ごしでしょうか?? 本日も少し早い投稿になります。


最終日に相応しいかどうかは分かりませんが……。少しでも楽しんで頂ければ幸いです!!


それでは、どうぞ!!




 重い両の足を器用に動かし倒木を跨ぎ、枯れ木を踏まぬ様に細心の注意を払いつつ進む。


 戦闘前の緊張感からか。


 喉が異様に乾き、垂れ落ちる汗の量も心なしか増えている気がする。



「アオイ。まだかな??」



 少し前を普段と変わらぬ所作と歩行速度で進む彼女の背へ問う。



「もう間も無くですわ」


「そっか」



 小一時間程度の移動が数時間にも感じてしまいますね。


 自分でも気付かない内に、緊張しているのであろう。



「アオイ」



 右隣りで此方と同じく大粒の汗を流して歩くカエデが話す。



「何ですか??」


「ちょっと気になったのですが。平地で人間の男性を捕え、洞窟の中で飼育したりはしないのですか??」



 いつも通りの口調でサラリと恐ろしい言葉を放ちますね??



「その様な無粋な真似は致しません。たぁっぷりと己が腹に命を注いで頂き、此処迄戻って来るのです」



「成程ねぇ……。態々平地まで向かうのは大変じゃないのか??」



 おっと、危ない。


 倒木に躓きそうになってしまった。



「平地に向かうのは難儀ではありませんが。強き雄を見付けるのが難儀なのですわ。優秀な血と体を持つ雄。うふふ……。えぇ……。それはもう困難を極めると申しても宜しいかと」



「でしょうねぇ。ただでさえ人と魔物は言葉を交わせないんだ。例え、条件が合った人と出会っても声を掛ける訳にはいかないし」



 それならばどのようにして、男性と愛を交わすのだろうか??


 想像しませんよ。


 恐らく、そういう事だと考えますので。



「糸で絡め取り、魂までも蕩けさせる甘い夜を与えれば男性も喜んで命を注いでくれますわよ」



 魂までも、ね。


 想像すると背筋がゾクリとしますね。



 どういった行為を行うのやら。



「アオイの父親は分からないのか??」



「えぇ、知りませんわ。恐らくある程度優秀な雄を見つけ、母が犯したのでしょう」


「お、犯す……。も、もうちょっとマシな言い方があるのじゃないのかな??」


「んふふ……。御免あそばせ」



 例えば……。


 愛を奏でた、とか。


 体を重ねた、とか。



 直接的に言い過ぎですよっと。




「レイド、ちょっといい??」


「ん?? どうした。カエデ」



 彼女が俺の袖をクイっと掴み、その場に留めた。



 そして、耳打ちをする様にちょこんと背伸びをして。右手を此方に向ける。



『作戦が終了しましたのならレイドは私達と寝食を共にして下さい』



『どうして』



『あなたは愚か者ですか??』



 カエデに比べればそうですけども……。



『今の会話を聞いて何も感じなかったの??』


『大変な思いをして子供を授かるんだなぁっ。としか……』


『はぁ……。いいですか?? 今現在、その大変な思いをして手に入れる雄が里に駐在しているのですよ??』



『――――。あっ』



 そういう事か!!



『理解出来ましたか?? お馬鹿さん』


『了解しました、司令官殿。恥ずかしながら皆様と行動を共にさせて頂きます』



 俺が若干仰々しく話すと。



「宜しい。私の命令は絶対ですからね??」



 俺の鼻をピンっと撥ね。


 悪戯心満載な笑みを浮かべた。



 何と言いますか……。


 カエデが偶にこうしておふざけをすると異様に可愛く…………。



「レイド様。到着しましたわ。此処から西へと進みます」


「あ、あぁ。うん」



 アオイが深い森の中で立ち止まり、此方を促す。



「後は……。開戦を待つのみか」



 木の幹にもたれ、ちょっとだけアオイから離れた位置から話す。



「もう既に西は開幕していますよ??」


「え!? もう!?」



 カエデの一言に思わず前のめりになる。




「馬鹿げた魔力が二つ、此れでもかと激しく燃え盛っています」


「その様ですわね。全く……。今から飛ばして最後まで体力がもつのか心配ですわ」


「あの二人なら大丈夫だよ。それより、南側の主部隊は……」



 俺がそう話すと。



「「……」」



 二人の表情が刹那に厳しい物へと変化した。



「どうした??」



「戦闘が開始されました」


「その様ですわね。主部隊へ向かい、南南東の敵も向かい始めましたわ」



「よし。それじゃあ俺達も進撃を開始しますか」



 頭上を見上げ、月の位置から方角を見定め。


 西へと向かった。




「ある程度少なくなったとは言え、それでもまだ数百の敵は存在します。油断しないで下さい」


「了解。アオイ、凹地までの先導を頼む」


「畏まりましたわ。レイド様っ」



 右腕に絡みつく女性特有の柔らかさ。これだけはいつまで経っても慣れる気がしませんね。



「駄目ですっ!! 作戦に集中しなさい!!」



 十二分に育ってしまった肉の山から腕を引っこ抜いて話す。



「はぁいっ。レイド様っ」



 何でしょうかね。


 里の皆さんが居らっしゃる前では凛とした佇まいなのですが……。


 こうして二人きり……。



「私も居ますからね」



 基。



 人が少ない状況だと妙に人格が変わると言いますか、甘えん坊になってしまうと言いますか。


 兎に角!!!!


 そういった行為は作戦行動中には了承出来ないのです!!



 日常生活でも駄目ですけども……。



「ふふっ。驚いた御顔を浮かべていますわよ??」


 怪しい黒の瞳が此方を見上げる。


「集中しなさい。何処に敵が潜んでいるのか分からないのだから」


「えぇ。それはもう……。糸を張り巡らせている様に集中していますわ……。よっ!!」




 アオイが裾の中から何かを取り出し、暗闇へと投擲すると。




「グアァァァ…………」



 空気を鋭く切り裂く音の後、獰猛な獣の嘯く声が放たれた。



「い、今のは??」



 俺がそう話すと、裾の中へと手を入れ黒く鋭利な先端が目立つ鉄の塊を取り出した。



「これを投擲しましたのよ??」


「それは??」



 短剣をもう一回り小さくした感じだな。



「クナイ、ですわ。物凄く鋭利ですので取り扱いには注意して下さいまし」



「凄いな……。武器も何も持たないと思ったのに……」



 丸腰で戦場へ赴くのは……。


 あぁ、俺以外の仲間ですね。彼女達には不要なのかも。


 馬鹿げた威力の継承召喚という武器がありますのでね。




「女には幾つもの引き出しが御座いますの。行く行くは、レイド様にその全てを曝け出して見せましょう」



 その背筋がゾクゾクする瞳は止めて下さい。



「おしゃべりはそこまでです。来ますよ!!!!」



 カエデが叫ぶと同時に。



「「「「アアアアァアアアアアアアア!!!!」」」」



「いいっ!?」



 数十を超えるオークが森の中を突き進んで来た!!



「くそっ!! 食らええっ!!!!」



 弓の弦を強く引き、視界に映る標的に対し我武者羅に撃つ。



 考えるよりも手を動かす。


 正確に言えば考える暇がないのですけどね!!!!



 矢筒から矢を取り、弦を引き、撃つ。



 この繰り返しだ!!



「ふぅ……。凍てつく鼓動。闇を纏いし凶悪な影を穿て!! 氷槍アイスジャベリン!!!!」



 カエデが右手を掲げると濃い青の魔法陣が浮かび、その中から無数の氷の槍が出現。


 鋭い切っ先が放射されると。



「「「ギィヤアアアア!!!!」」」



 断末魔の叫びをあげ、醜い豚共が黒灰へと還る。



「やりますわね。では、私も……」



 カエデに背を合わせ、反対方向の敵に対しアオイが右手を翳すと深紅の魔法陣が浮かぶ。


 そして。




「愚かな者共よ、抗うな。頭を垂れ悔やみ続けろ。灼熱の業火でその身を焼き尽くせ!! 乱れ牡丹!!!!」



 幾つもの火弾が出現し、宙を舞う。


 その火弾が標的を確認すると。



「「「グァアアアアア!!!!」」」



 一直線に襲い掛かり、着弾すると同時に着火。


 炎に包まれたオークの体は瞬時に形状崩壊を果たしてしまった。



 すっげぇ……。


 青と赤の共演だ。



 鋭い氷柱が敵を穿てば、灼熱の火弾が敵を焦がす。



 周囲に漂う戦火の匂いが俺の闘志に火を灯した。



「負けていられるか!!」



 防御を捨て、襲い来るオークに対し抜刀。



「はぁっ!!!!」



 肩口から一気苛烈に刀の一閃を叩き込む。



「クアァァッ……」



 もっと抵抗を感じるかと思ったら……。


 凄いな。この刀……。



 切れ味が支給された長剣とは段違いだよ。



「レイド!! まだ来ますよ!!」



「分かってる!! 接近を許した敵は俺が対処する!! 二人は撃ち続けてくれ!!」



 弾幕をすり抜けた個体の腹へ切っ先を突き刺し。



「邪魔だぁあああ!!」



 黒灰へと変わる前に、後方から再び現れた個体目掛け蹴りつけてやる。



「グッ!?」


「遅いぞ!!」



 相手が死にかけた個体を受け止めると同時に、胸の中央へ刀を突きさしてやった。



「「グァァァ…………」」



 刀に付着した黒灰を振り払い、中段の構えを取る。



 よし!! 次!!



 体力の続く限り、抗ってやる!!


 何処からでも掛かって来やがれ!!



 美しくも恐ろしい魔法を奏でる二人へと、凶器の刃を穿とうとする愚か者に対し。月明りを怪しく反射させる刀の刃面を突き立て、永遠に湧き続ける狂気を討ち払い続けた。








   ◇








「ぜぇ……。ぜぇ……」



 黄金の槍を地面に突き立て、それを頼りに地面に立ち。


 疲労の塊を吐き捨て新鮮な空気を取り込む。



 想像していた疲労よりも……。数倍疲れたわね。



「ユ、ユウ。何体ぶっ潰した??」


「はぁ……。はぁ……。しらねっ。百体を越えた辺りから数えるのも面倒になっちまったからな」



「何だ。私と一緒じゃん」



 ちょっと休憩。


 そう考え、地面に可愛いお尻ちゃんをくっつけ。木々の合間から零れ落ちる月明りを見上げた。



「あ――。疲れた……」



 これで西と、北西の部隊は殲滅したからお次は凸地へと向かうのか。



「ユウ――」


「何??」



「お水頂戴」



 今は此処から一歩も動きたくないのよ。


 背嚢を背負っているのはユウだし。多少甘えても構わんだろうさ。



「自分で取れよ、ったく」



 彼女が背負っていた背嚢を下ろし、そこから竹筒を取り出すと。



「んっ!! んっ!! …………。ぷっはぁ!! んめい!!!!」



「ちょ、ちょっと!! 何勝手に飲んでんのよ!!」



 私の分が無くなっちゃう!!



「安心しなって、お前さんの分は……。ほれ」


「っと」



 放り投げられた竹筒を受け取り、キュポンっと栓を抜くと。


 勢い良くお水さんを喉の奥へと流し込んでやった。



「んぐっ!! んぐぅぅっ!! どばっはぁっ!! あ゛――。いきがえっだ!!」


「変な声出すなよ。うっし!! 休憩お終い!! おら、さっさと立て」



「え――。もうちょっと休憩しようよ。南側と……。東側も盛大に弾けている事だし??」



 開幕を務めたのは良かったのだが……。


 まぁ――襲い掛かって来る敵が多い事。


 呼吸するのも憚れる量の敵が押し寄せ、それを蹴散らし、跳ね飛ばし、抗い続けていたのだ。



 もう少し位休んでも文句は言われまいて。



「この間にも皆は戦っているんだ。それならあたし達がもうひと頑張りして、敵の親玉を倒せば皆が楽になるだろ??」



 背嚢を背負い、東へと進みつつ話す。



「私達は楽にならないじゃん!!」



 悪態を付き、すんばらしい黄金の槍を肩に担いで彼女の後に続いた。



「誰かが泥を被るんだよ。そして!! その役目はあたし達って訳」


「泥よりもあっめぇ蜂蜜を浴びたいわね」


「アレクシア達から貰った蜂蜜、まだ残っていたっけ??」



 細い顎ちゃんに指を当てつつユウが話す。



「あ――。残っているけど。カエデかボケナスが管理しているからねぇ」



 私がお目当ての物を探そうものなら……。



『勝手に食うな!!』



『皆で分け与える物です。此方の許可を得ずに食すのは了承出来ませんね』



 と。


 速攻で出鼻をくじかれてしまったのだよ。



 別にいいわよね?? 私達にくれた物なんだから、私が食べても。



「お前さんは誰かが止めないと、無限に食っちまうからなぁ」


「ふんっ。んで?? 凸地まではどれ位??」



 俯瞰して見た限りではそこまで離れていないと思う。


 戦闘中にちょいと東寄りに移動しちゃったから直ぐに到着すると思うけども……。




「大雑把に見繕って、十分位だろ」


「あ――。そんなもんか。所で、さ」



 地面に生える草を見下ろしつつ声を漏らす。



「ん――??」


「アイツ。大丈夫かしらね??」



 カエデと……。鬱陶しい蜘蛛が一緒に居るのだからまぁ大丈夫だとは思うけど。


 ほら、一応ね?? 心配になる訳じゃんか。私がアイツの体を変えちゃった訳なんだし。



「レイドの事?? 大丈夫だろ。カエデ達が付いているんだし」



「いや、そっちの心配はしてないのよ。アイツ、無理して前に出る癖があるし。余計な手出しして余分な負傷するかも知れないじゃん??」



「ほぉ――ん……??」



 足をピタリと止め、嫌らしい笑みを浮かべる。



「な、何よ」



「普段はぶん殴ったり、蹴ったり。不必要な暴力を与えているのにど――して心配しているのかなぁ――??」



 ちぃっ!!


 賢しい奴め!!



「違うのよ!! わ、私以外が傷付けるのは駄目って意味なの!!」


「ほほう?? 私、以外、ね――」



「あ――もう!! 違う!! そういう意味じゃねぇ!! もういい!!」



 顔があっちぃ!!


 ちくしょう……。


 何だか無性に腹が立って来たわね。



 大体……。


 アイツはこっち側に来ればよかったのよ。


 あ――んなきしょい蜘蛛と一緒に行動するよりかは楽だろうし。




「あ、おい。待てって」




 私の目の届かない所で怪我をされても困る、のか??


 例えばぁ……。そう!!



 飼い犬が他所の家で横着をして、他所の家の持ち主に迷惑を掛けてしまう。



 おぉ!! うん!! その感覚だ!!



 そうよ!! それよ!!



 はぁ――。すっきりした。



 自己解決を果たし、何だか妙に開いている空間へと無警戒で躍り出た。






「「「「「……………………」」」」」




 数十メートル先。


 台形状にこんもりと盛り上がった大地の上で、弓を構える無数の豚共と目が合ってしまった。




「あ、あはは。やっほ――……」



 取り敢えず、挨拶。


 うん。


 常識よね。



 だが、相手は非常識な連中だ。




「「「「っ!!!!」」」」



 私を見付けるなり弦を引き、矢を穿つではありませんか!!!!



 やっべぇ!! 出遅れた!!



「馬鹿野郎!! 下がれ!!」



「へっ?? ぬおわっ!?」



 ユウに腕を引かれ、後方の木の影へと引っ張られてしまった。



「散歩気分で呑気に歩く奴がいるか!!」


「ごめんって!! ――――。んっ!? ユウ、あんた……」



 上空から矢が襲い続ける中。


 彼女の腕に注目すると。



 一本の矢が突き刺さり、深く刺さった鏃の隙間から痛々しい赤い筋が零れ続けていた。



「あ?? あ――。怪我したな。ちっ、どうすっかなぁ……。アイツら」


「ご、ごめん。大丈夫??」



「あぁ、いいって。別に」


「良くない!! 私のミスでそうなったんだから!! ほれ、見せてみろ!!」



 ユウの左腕を手に取ろうとするが。



「お前さんは余計な怪我を与えてくるからな。そっとしておいてくれ」



 ぱっと腕を放してしまった。



「な、何よ!! 人が親切にしてやって……。のわっ!?」



 あっぶねぇ!! 木の影から出た途端に撃って来やがった!!



「アイツ等、あたし達をずっと狙ってるな??」


「そうみたいね」



「頂上まで何メートル位か分かる??」



 ん――。


 パッと見だと此処から麓までは十五メートル。傾斜は大体四十五度位、ほいでもって頂上まではぁ……。



「――――。分からん。覗いてみるわ」



 右目だけちょいと覗かせて様子を見ると。



「ふぅむ……。目測で二十五メートル位かし……。いぎゃっ!?」



 や、野郎!!


 片目だけでも覗かせるかってかぁ!?



 横顔を覗くと同時に。


 木の幹に、鋭い鏃が備わった矢がビィィっと突き刺さった。




 じょ、上等じゃん!! 真正面から突撃して蹴散らしてやらぁ!!




「はい、そこまで」


「あばぶっ!?」



 袖を捲り、意気揚々と木の影から出ようとしたら大戦斧に頭を叩かれてしまった。



「何すんのよ!!」


「あたしに良い考えがある。乗るか??」



 ニッと笑い、左手を此方に差し出す。



「おうよ!!」



 いつも通り、その手をパチンと鳴らして乗ってやった。



「あたしが超凄い魔法をアイツらに叩き込む。んで、一瞬の隙が生まれるからそれに乗じてマイが頂上まで駆け上がれ」




「そして、頂上で上等かましている連中を殲滅して作戦成功っと。突撃するのは構わないけど……。その超凄い魔法って何よ。あんた、カエデみたいに放出系の魔法詠唱出来ないじゃん」



「ちっちっちっ――。接近戦しか能が無いお前さんと違ってぇ。可愛いくて、つよぉい、ユウ様は詠唱出来るんだなぁ」



 可愛いと、強いと、様。付ける必要あった??



「まぁ、見てなって!! 一発ド派手にぶちかましてやっからさ!!」



 そう話すと。



「んふふ――。ふふんっ」



 夜のお散歩気取りなのか。


 鼻歌を口ずさみながら後方へと歩いて行く。



「どっち行くのよ。敵は向こうよ――」



 視界が届くギリギリの範囲でユウが立ち止まると。



「マイ――。敵はどの辺りに居る――??」



 こっちに向かって大声を上げた。




「丁度私の直ぐ右横よ――」



 ユウから直線状だと……。まぁ、その位置でしょうね。



「了解――!! 魔法を放ったら直ぐ駆け抜けろよ――」


「あ――い」




 ユウの魔法、ねぇ。


 何だろう。


 もう既に嫌な予感しかしない。



 地面を引っこ抜いてぶん投げるのか?? それとも木々を切り倒して投擲するのか??



 三割ワクワク。七割ガッカリ感の心で待っていると。




「すぅ――――。ふぅ……。おっしゃああああ!! 行くぜぃ!!!!」



 ユウの体に深緑の魔力が纏い、それが大戦斧へと到達。


 体から染み出る魔力を先端に集約させ、そして……。



「食らいやがれぇぇえええええ!!!! これがあたしの……。特大魔法だぁああああ!!」




 大戦斧の柄を両手で掴み、天へと叩く掲げた!!




「いっっっっけぇえええええ!! 大地烈斬アースクェイク!!!!!!!!」




 大戦斧が大地に突き刺さると同時に、鋭い剣山が地面から隆起。


 そして、剣山が波打つ様に大地を駆けて行く。


 大地に突如として現れた凡そ五メートルの剣山の波。



 超ド迫力の光景に思わず魅入ってしまった。




「今だ!! 行ってこい!!」





 おっと。


 のんびりと観戦しているのは頂けないわよね。



「おっしゃああ!! 行ってきま――――すっ!!」



 黄金の槍を肩に担ぎ、風を纏って颯爽と飛び出す。



 うっひょ――……。


 剣山が台形状の凸地を駆け上がって行ったのか!!


 頂上付近にいたオーク共が右往左往しつつ剣山を見上げている。



 そしてぇ!!


 隙だらけな姿を見逃す私ではぬわぁぁあい!!



 一歩、二歩で斜面を駆け上がり!!







「よぉ。私の大切な友達の腕を攻撃した奴は……。だぁぁああれだっ??」



「「「「っ!?」」」」



 何体かはユウの魔法?? によって消滅。


 残る十体のオークが私の声に反応し、咄嗟に剣を、槍を構えた。



「おっせぇええ!!」



 構える前の体に槍を突き刺し。



「ふんっ!!」


 引き抜いた勢いを生かして石突を地面に突き立て。



「であぁっ!!!!」



 柄を握り締め、体を宙にふわりと浮かして烈脚を周囲に叩き込む。



「御釣りは……。いりませんよぉぉおおおおお!!!!」



 最後に生き残った個体の脳天に穂先を穿ち!!





「だあぁああああ!! 大勝利ぃぃぃいいいい!!」





 怪しい明かりを放つ月へ向かって勝利の咆哮を上げてやった。


 最強は龍族で決まりっ!!




 いや、全く……。


 圧勝じゃないか。


 私ってやっぱり、この世で一番強いのかしらねぇ。



 黄金の槍を肩に担ぎ、勝利の余韻を楽しんでいると。



「お――。勝ったか――」



 斜面の上を登り難そうな顔を浮かべつつ、よっこらえっこらと。ユウが上がって来た。




 何だろう……。


 このウズウズ感。




「ちょっと待ってろ。あたしもそこに登って……。おわっ!! 勝利の景色を眺めるからさ」




 あぁ、分かった。


 きっとこういう事だろう……。




「ユウ。もうちょっとよ――」


「ん――」




 彼女が右足を頂上に乗せた刹那。


 私の右手が頭の命令を無視して勝手に動いてしまった。





「えいっ」


「はっ!? おわわっ!!」



 両腕をブンブンと回し、必死にその場に留まろうとするが。



「わあああぁぁぁぁぁぁ…………」



 体制を崩した体はコロコロと楽しそうに斜面を転がって行ってしまったとさ。



「あはは!! ユウ――!! 楽しそうね――!!」


「こ、この野郎!!!! 誰のお陰で怪我をしなくて済んだと思ってんだぁ――!!」



 そりゃあ後少しで登り切る所で押されたら怒るわよねぇ。



「悪かったって!! ほら、早く!!」



 満面の笑みを浮かべ、右手を差し出してあげた。



「ったく。二度手間だっつ――の……」


「まぁまぁ!! いつもの事じゃん!!」



「転がる身にもなってみろって」



 後少しで到着ね。


 そして、ふとまたあのイケナイ心がぬるりと湧いて来てしまう。



 二度目は流石に駄目、か??


 いや!! ユウなら許してくれる筈!!!!



 意地悪な心を誤魔化していると。



「手ぇ」



 普段は可愛い顔が恐ろしい物に変化してしまった。


 二度目は駄目だったか。



「あ、うん……」



 ちょっとだけ怖い顔のユウが手を此方に向けて差し出す。


 そして私は、何の警戒を持たずに彼女の手を掴んでしまった。



「にしっ」


「へっ!? ばむぐぅっ!?」



 大変わっっるい笑みを浮かべたユウの顔が消えたと同時に、真の暗闇が顔面を襲った!!



 ま、不味いぃいい!!


 此処は一度入ったら抜け出せない魔の領域では無いか!!!!




「ヴぁなぜ!!!! ごろずぎがぁ!!」



 脇腹をポコポコ殴るものの。


 腰の入っていない拳等、ユウの前には児戯に等しい。




「おっし。一緒に転がって落ちようか!!!!」


「ン゛!?!?」



 こ、この上……。


 転がり続けるだとぉ!?



「ヴぃや!! ジンじゃうっでぇ!!」


「大丈夫だって!! ほっと!!」



 ユウが地面を蹴り、ふわりと浮かぶと。



「ヴィィィィィヤぁああああああ!!」



 肉の壁が耳を、鼻を、そして口を襲い!!!!


 穴という穴から私の体内に入ってこようとするではありませんか!!


 体が転がるに連れ。



『プシュ――』 っと。



 谷間から空気が抜ける音が響くと同時に呼吸が困難な物へと変化。



「カッヒュッ……」



 最後に残った空気を吸い込み、口を。んっ!! と閉じても。




『させるか、弱者め』



 そう言わんばかりにお肉ちゃんが口を開かせ、頬を押し出し。


 肺から最後の空気を吸い取ってしまった。



 あぁ……。


 地面がふわふわするぅ……。




「っと。下に到着したな。見てみろよ!! ほら!! お月様も満面の笑みであたし達を見下ろしているぞ!?」



 見れる物なら見てやりてぇが……。


 如何せん。


 もう体が言う事を聞いてくれねぇのよ……。



「あはは!! いやぁ、良い景色だ。こっちには敵の親玉がいなかったし。ちょいと休憩したら向こうに行くか。――――。ん?? お――い。いい加減、起きろ――」



 起きたいのは山々だ。


 だが、起こす気がるのなら両腕を外してくれ。


 意識を失う前の刹那にそう懇願しようとしたが……。



 彼女の胸は私の願いを叶えさせることは無く。忘却の彼方へと私の意識を誘ってしまったのだった。


お疲れ様でした!!


さて、先日お知らせしました新しい作品ですが。三話まで書き終えました。


五話、六話程度まで書き終えたら投稿しようかと考えておりますのでその折には此方からお知らせ致しますね。


それでは、失礼致します。

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