表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
409/1225

第三十三話 予想だにしなかった訪問者 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。


それでは、どうぞ。




「…………。おらぁ!! 何してんだぁぁああ――!!!!」


「いっでぇぇええ――っ!!」



 誰かさんの怒鳴り声が響くと右耳に激痛が迸り慌てて体を起こした。



「こんにゃろう。良くもまぁ、いけふぁふぁと」


「ち、千切れるって!!」



 この声と激痛。


 マ、マイか!?



「ふんっ。やっと起きたか。卑猥の権化め」



 俺が上体を起こすと目の前にずんぐりむっくり太った雀が現れた。


 どういう訳か知らんがその瞳の色は憤怒に塗れ、何かきっかけがあれば彼女の激情が噴煙を撒き散らして天を轟かす程の大噴火が訪れてしまうであろう。



「あのなぁ。何もしていないのにその言い草……。ん??」



 これ以上火山を刺激せぬ様、大変静かな声色で話すと。



「――――。レイド、おはよぉ」


「っ!!!!」




 シーツの中から裸の美女が這い出て来た。


 その人物は言わずもがな、先程夢の中で会敵した淫魔の女王様だ。


 ゆ、夢の中と現実って微妙に繋がっていたのか!? あ、いや。繋がるとは意識の話であって。肉体関係の事ではありませんよ??



「何してんだよ!!」


「こうしないと、強い繋がりを保ったまま精神世界に入れないのよ。ふあぁぁ」



 シーツを胸元に巻いて大きな欠伸を始める。


 ったく!! 要らんことをして!!



「んぅ?? 五月蠅いなぁ……。あぁ!! エルザードだ!!」


「きゃっ」



 床で眠りこけていた陽気な狼が起き上がり、彼女の美麗な顔に飛び掛かり陽性な音を振り撒くと。



「んがっ……。何だ?? おぉ――。エルザードかぁ」


「喧しいと思ったら……」


「まぁ!! レイド様に何て姿をお見せしているのですか!?」



 この喧噪に気付いた部屋の住人が夢の世界から此方の世界へと帰って来た。


 そりゃこれだけ五月蠅くしたら起きるよね。



「元気してた?? お馬鹿な狼ちゃん」


「うん!!!! 後、馬鹿は余計かなっ」


「先生、突然どうしたのですか??」


「おはよう、カエデ。って凄い寝癖よ??」



 綺麗な藍色なのは相も変わらずだが、重力に反発して有り得ない角度に直進。そしてカッコイイ角度で折れ曲がって天へ向かって伸びていた。


 毎度思うのですけど、カエデの寝癖ってどうしたらあんな風にしっちゃかめっちゃかになるんだろう。




「後で直します。それより、用件の程を」


「今日来た理由はね。ほら、グシフォスの所で開催した釣りの大会覚えている??」



 そりゃ勿論。


 ガイノス大陸でヘンテコな魚を釣ってしまった大会だ。


 でもあの人面魚、見てくれは悪かったけど美味かったよな。あ、でもグシフォスさんはお馬鹿な娘さんの所為で一口しか食べられ無かったな……。


 また機会があれば是非とも皆で肩を並べてしたいものさ。



「えぇ」


「で。私優勝したじゃない?? だから今日レイドとデートしに来たのよ」


「はぁ!? 何でそうなるのよ!!!!」



 マイがすかさず噛みつく。



「何でって……。そりゃ当然の権利だから実行するに決まっているじゃない」



 そういや、そうだったな……。


 寝起きで回らない頭で記憶を必死に手繰り寄せると、エルザードとマイが同率優勝した姿が頭の中に映し出された。



「どうして今日なの??」



 取り敢えず寝惚け眼の半裸の女性に聞いてみた。



「ん――。クソ狐の所で温泉入っててさ。あっ、そうだ!! デートしなきゃ。って思い立った訳なのよ」



 思い立った場所には些か疑問が残りますけども。



「そっか。エルザードには色々世話になっているし。うん、別に今日で構わないぞ」



 明後日提出する予定の報告書も書き終えたし、今日の予定は幸か不幸か一日空いている。


 それに俺が倒れていた時、エルザードは己の魔力がほぼ底を尽きるまで使用して治療してくれたし。その御礼と御詫びも兼ねて、という感じかな。




「レイド様!? 私という妻を御持ちでありながら他の女性と……」


「本当!? やったぁ!!」



「だからそういう事は止めなさいって!!」



 たった一枚のシーツを巻いただけの体で飛び掛からないの!!


 柔らかいお肉と朝一番に相応しく無い香りが体に密着すると心臓が嬉しい叫び声を上げてしまった。



「おぉ?? 左耳もいっとくか??」



 ほらぁ!! こうなるから!!



「と、兎に角。先ずは服を着てくれ。それから詳しい時間とか決めよう」


「んもぅ。服を着ればいいのよね?? それじゃ……。こういうのはどうかしら??」



 此方の心の準備が整う前にシーツをはらりと脱ぎ捨て。



「っ!?」



 当然、その光景を捉える前に俺は後ろを振り向く。直視なんてしてみろ。



「ガルルゥ……。卑猥な性格の癖に大変御立派な体付きしやがってぇぇ……」



 猛犬同士の喧嘩勃発前によく耳にするあの嘯く声を放つ龍に心臓を引っこ抜かれてしまいますのでね。


 おいそれとは見てはいけないのです。



「はぁ――い。着替え完了よ――」



 部屋に淡い光が広がり、それが収まると発光源である淫魔の女王様から謁見の許可を頂いたので体を元の位置へと戻した。



「どう?? ちょっといつもより裾を短くしてみましたっ」



 初冬の寒さに相応しくない純白のワンピースを着用して、その上に黒の上着を羽織る。そして、さぁどうですかと言わんばかりにクルっと一回転。


 彼女が言うように大分裾が短いので回転した勢いで下着が見えそうになってしまった。



 只でさえ彼女の華麗さは男の視線を集めるんだ。


 もうちょっと裾の丈を長めにして肌の露出を控えて欲しい。




「ん――。ちょっと短過ぎじゃないか??」


「露出が激し過ぎますね。先生はいい歳なのですから分相応な服を着用すべきです」


「女々しい服だな」


「あたしだとちょっと似合わないかなぁ??」


「レイド様の目に毒ですわ」


「別に私はこれでも良いと思うな――」


「却下よ、当然ッ却下!!」



 狼二頭さんがキチンとお座りして口を開けば、黒き甲殻を備えた蜘蛛が俺の右肩で辛辣な言葉を放ち。


 ミノタウロスのお嬢さんがだらしない姿でねそべり、その頭の上に留まっている龍が眉を顰める。


 更に彼女の生徒である海竜さんは鋭い鷹の目付きで先生の私服を酷評。



 いつの間にか、俺のベッドの上から淫魔の女王様の私服の品評会が始まった。



 皆さん、この部屋のベッドは狭いのですから自分のベッドの上で意見を述べて下さいよ……。



「そっかぁ。じゃあ、こっちは??」



 再び閃光が迸りその光が止むと白から黒のワンピースに早変わりするが、先程の純白の奴より大分ぴっちりしている。


 その所為か、彼女の淫靡な体の線がこれでもかと強調されていた。



 すっげぇ色っぽいけども。ちょっと普段着には……。




「舞踏会に行くんじゃないんだから。もっと普段着っぽい慎ましい服を着用しなさい」


「先生って意外と良い体していますよね」


「もうちょっと筋肉付けて欲しいかなぁ」


「しっかり食って体動かしているか??」


「鍛錬を怠っている様では鋼の肉体は出来ぬぞ」


「ぐぬぬ……。負けていませんわ!!」


「発情期の雌犬じゃあねえんだからよぉ――。色気振り撒いて何する気よ」



 あ、あはは。皆さん辛辣ですね。




「あのねぇ。服の感想が圧倒的に少なくない?? 後、カエデ。意外とって何よ」


「語弊です」


「まぁいいわ……。不評だから次に行くわよ――。えいっ」



 おぉ!! これは悪くないぞ。



 秋らしく淡い栗色の上着に黒のシャツと紺のズボン。此処に来て初めて真面な服装を着てくれた。



 そして、機能性を重視した服装は俺の好みですからね!!


 これなら仲良く肩を並べて移動しても変な目で……。は見られそうだな。


 例え服で着飾らなくても本体が途方もない価値を備えていれば男女問わず視線を集めてしまう訳ですからね。



「うん!! いいじゃないか」



 腕を組み、ウンウンと頷きながら素直な感想を述べてあげる。



「ふふん。これには超ビックリする仕掛けがあってね?? ほ――らっ!!」



「「「ぶはっ!!!!」」」



 俺を含む何人かが同時に吹いた。


 それもその筈。



 見てくれが真面なのは正面だけで、背後までに服装は回っていなかったのだから。


 背まで伸びた濃い桜色の長髪に隠された粉雪を彷彿させる純白の肌の背中、ツルツルで丸みを帯びた臀部、誰もが羨む長い足の裏側が丸見えになっているのだ。



「あ、あんたは馬鹿なの!?」



 普段はその宜しく無い口調を咎めるが、今だけは彼女の意見に賛成ですよ。



「洒落よ、洒落。分かっていないわねぇ?? ほ――ら、フリフリっと」



 摩擦係数が少なさそうなスベスベで柔らかそうな臀部を揺らして話す。



「わ、分かったからしまってくれ」



 両手で目を覆い、視覚を塞いで懇願した。


 これで何度目だよ、視界を防ぐのは。



「はいはい。よっと……。これなら文句無いでしょ」



 うん。服装は変わらず、正面は真面。


 問題は背後だ。



「エルザード、後ろを見せてくれ」



 大変硬い固唾を飲んで注文した。



「は――い」



 のんびりした声でくるりと背中を見せるが違和感は見られなかった。



「うん。これなら問題無さそうだ」


「何よ、問題って」



 むぅっと唇を尖らせて話す。



「人間の街に繰り出すんだぞ?? 目立っちゃ駄目だろ」


「あら。この街に来るのは初めてじゃないし。少なくともレイドより長生きしているんだからそれ位重々承知しているわよ」


「はぁ、まあいいや。それで、何時出発するの??」


「今は……。七時過ぎか」



 窓の外の明るさを見て凡その時間を計る。



「じゃあ十一時位に西大通りの銀時計下で集合は??」


「あぁ、それで構わないよ」


「やったぁ!! それじゃ時間通りに来てね!! 待ってるわよ――!!」



 そう話すと、エルザードの足元に魔法陣が浮かび眩い光が放たれ。彼女の姿は忽然と姿を消した。


 空間転移でどこへ向かったのだろう??


 まぁ、アレだ。女性は男性と違って用意するものが多いから準備に時間が掛るのだろうさ。



「はぁ――……。疲れた」



 一気に疲れが押し寄せて、ベッドに仰向けで倒れ込んだ。


 ちょっとの時間でこの疲労感。


 エルザードと一緒に街中を歩いてて、疲労や気苦労で倒れやしないかな。強い杞憂が心の内を占めて行く。



「ねぇ、レイド。エルザードとデートするの??」


「どうしたルー?? 心配なのか??」



 目の前にぬぅっと生えて来て俺の視界を大幅に占める大きな顔の灰色に言ってやった。



「だってぇ。ずるいじゃん」


「そうですわ!! レイド様と二人きりであんな事やこんな事をしようと画策しているに決まっています!!」


「あのねぇ。そこまで横柄じゃ……」



『や――んっ!! レイド!! あそこで休んで行こうよっ!!』



 いや、あり得る所が怖いな。


 人目に付かない薄暗い場所にグイグイと引っ張られて行く姿が容易く想像出来てしまった。



「ま、兎も角。普通に御飯食って、普通に買い物する位だろ」


「いいなぁ……」


「私も付いて行きますわ!!」


「辺鄙な場所へ飛ばされるぞ」



 怒り狂った大魔の逆襲が怖い。


 俺もそれに巻き込まれやしないかな。



「ぐぬぬぬ……。気を付けて向かって下さいね!! いいですか!! くれぐれも!!!! 如何わしい事を考えぬように!!」


「あんたに言われちゃお終いよ」


「喧しいですわよ!! まな板!! 無能な貴女は黙っていて下さいまし!!」


「あぁ!? 朝っぱらから私に喧嘩売るなんて良い根性してんじゃない!!」



 もうヤダ。


 夢の中から現実まで五月蠅さが付き纏い、体中が悲鳴を上げている。


 幸い時間もあるし、もうひと眠りしておこう。


 頭からすっぽりとシーツを被り時折腹を、そして背中を蹴られながら慎ましい休息を得る事にした。

























 ◇




 約束の時間が刻一刻と迫り、名残惜しむ様にベッドから起き上がる。


 さてと、そろそろ向かうとしますかね。


 服装は……、いつも通りでいいかな??



 いや、それだと偶然鉢会ったパルチザンの仲間に揶揄されるかも知れない。


 適当な私服で行こう。


 鞄の中から黒の上着を取り出し、寝間着から私服へ。ちょいと肌寒い空気の中で着替えを済ませていく。



「あれ。いつもの服で行かないの??」



 ルーが己のベッドから顔を上げて話す。



「軍から支給された服だと面が割れちゃうかも知れないからね。それに、仲間から揶揄われたくないし……」



 これが本音です。



「ほぉん。おっかなびっくり街中を歩く訳ね??」


「別にそういう訳じゃないって。てかマイ、そのパン一つくれ」


「嫌よ!!」



 左様で御座いますか。



 俺が寝ている間にマイ達は食事へと出掛けたらしいのだが……。


 全く気が付かなかった事に驚きを隠せなかった。


 それだけ疲労が蓄積されているのだろうよ。



「じゃ、行って来る。夜御飯は……。まぁ適当に済ませて帰って来るから」


「ほいよ――。精々楽しんで来てな??」



 ユウが意味深な笑みを浮かべて此方を揶揄う。



「不気味な笑みを浮かべるんじゃありません。それじゃ」



 軽く手を上げて部屋を後にして細かな埃が舞う廊下へと躍り出た。



 勢いで了承しちゃったけども……。よくよく考えてみたら女性と二人っきりでその……。デートなるのものは初めてするから要領が分からんな。


 先ずは飯?? それとも買い物か……??



「――――。分からんっ!!」



 教えられた事は実践出来ますけども!! 教えられていない事は出来ません!!


 不器用ですからね!!


 と、取り敢えず。街行く男女の会話と所作を参考にして、その中から正しい男女の間柄に相応しい物を取捨選択して使用しよう。


 う、うん。これで間違いは起こらない筈……。



 決して軽くは無い足取りで爽快に晴れ割った空の下へと出て、人が蠢く西大通りへ向かって北上を開始した。













 ――――。




 レイドが何だか重い足取りで部屋を出て行くと、扉の向こう側から仕事で疲れて足を引きずって行く音が聞こえて来た。


 疲れているのに行動に至った理由は……。凡そ、受けた恩を律儀に返そうと思って今回のデートの件を了承したのだろうさ。まぁ、釣り大会の景品にされた事は可哀想だとは思うけどね。



 それから暫く。


 機会を見計らった様に上体を起こして口を開いた。




「…………、よっしゃ。尾行開始するか??」


「当然。変な事したら両耳噛み千切ってやる!!」


「勿論行くよ!!」


「相伴しよう」


「お供致しますわ」


「行きます」



 あたしの第一声に皆が食いついて来た。


 普段は意見がぶつかり合って真面に纏まらないけど、こういう所は意見が一致するんだなぁ。


 不思議なもんさ。



「でもさ、相手はエルザードだぞ?? 魔力感知されたら一瞬でバレちまうだろ」



 そう、問題はここだ。


 相手は山を軽く消し飛ばせる魔力を持った桁外れの化け物。


 あたし達の行動等、お見通しかもしれない。



「そこは私に任せて下さい」


「何々?? カエデちゃん秘策とかあったりするの??」



 ルーがカエデの長いスカートの裾を前足でちょいちょいと突きながら話す。



「皆さんの魔力を出来るだけ小さく抑え込みます。先生でも魔法を詠唱しないと感知出来ない程に」


「おぉ!! そりゃ凄いな!!」


「ですが、この魔法には一つ弱点があります」



「「「弱点??」」」



 一堂が声を合わせて首を傾げる。



「詠唱するのに時間が掛かるのと……。私が滅茶苦茶疲れます」


「な――んだ、そんな事かぁ。早く詠唱してよ!!」




「ルー。そんな事とはどういう事ですか?? 私、一人が疲弊するのにあなた達は水を得た魚のように街中を跋扈出来るのですよ?? 策も無しに先生相手に尾行を始める等愚の骨頂です。綿密な計画を立てて、一人一人がその役割を担い、遂行する事が成功へと導く鍵なのです。大体、何でも私一人に押し付け……」



「あ――。カエデはあたしが背負うよ。それなら文句ないだろ??」



 このままでは夜まで説教が続きそうだ。



「……異論はありません」



 ほっ。良かった。


 どうやら長時間の説教は回避出来た様だな。



「じゃあ皆さん、出来るだけ魔力を抑えて下さい。この魔法は私より強い魔力の者には効きませんので。それとマイ、ルーとリューヴは人の姿に戻って下さい」



「それならこのままでいいんじゃない??」



 人の姿に変わったマイが己の腹を見下ろして話す。



「魔力が小さければ小さい程、私の負担が減ります」


「あぁ。そういう事。じゃ、抑えますかね。ん…………」



「「「……」」」



 各自が目を瞑り、己の内に秘める力を御し始めた。



「マイ、ユウ。もっと抑えて」


「難しいのよ!!」


「解放するのは簡単だけどさ。抑えるのって、あたしは苦手だな」



 敵がやって来たらぐぁっ!! と丹田に力を籠めて激烈に上昇させた魔力でブチのめす!!


 普段からその行動に慣れている所為か。本当に苦手なんだよね……。



「不器用ですわねぇ」


「喧しい」



 右隣りで既に米粒大の魔力に抑え込んでいるアオイへ言ってやった。



「ふむ……。それ位で構わないでしょう。では、行きます!! 大いなる力の鼓動、闇の力にて制圧せよ!!!! 魔力制御サプレッション!!!!」



 カエデが右手を翳すと黒き魔法陣が宙に浮かび、そこから眩い光が放たれる。


 そしてその光があたし達の体を包み込むと。



「おっめぇ!!!!」



 目に見えない巨人の巨大な腕で両肩の上からぎゅぅっと抑え込まれている感覚に陥ってしまった。



「ぜぇ……。ぜぇ……。ま、全く……。皆さんの魔力が高過ぎるのも問題ですよ」



 詠唱を終えたカエデが床の上に可愛いお尻をペタンと着けて座り込む。



「馬鹿みたいに食べた翌日の早朝みたいに体が重たいけど……。それ以外にこれといって変化は見当たらないわね??」



 マイがパチパチと瞬きを繰り返して自分の体を見下ろす。



「簡単な魔法はもう既に詠唱出来ませんよ」


「じゃあ試しに龍の姿に変わってぇ……」



 カエデの声を受けたマイが太った雀に変身しようとするが……。



「ぐぎぎぎぃ!!!! だ、駄目だっ!! 魔力が捻り出せん!!!!」



 それは失敗に終わり、地団駄を踏んで己が悔しさを分かり易く示してくれた。



「すっげぇ魔法だな。これを敵に詠唱すれば完封出来るじゃん」


「ユウ。この魔法の成功条件は相手が私よりも魔力が低い事と、それともう一つ。その場から数分以上動かない事が条件なのですよ」



 あ、そりゃ無理だな。


 戦場でぼぅっと突っ立っている敵なんかいやしないし。



「おっしゃ。では、移動を開始しますか!!」



「者共!! 私に続けぇぇいい!!」


「待ってよマイちゃん!!」



 マイを先頭に続々と部屋から出て行く。



「んじゃ、カエデ。あたしが背負ってやるからな」


「有難うございます。部屋の鍵を渡して宿を後にしましょうか」


「ん――。了解」



 カエデがあたしの背に体を預けると、まるで空気を背負っている様な錯覚に陥ってしまった。



「かっる!! お、おいおい。カエデ。もう少し体を大きくしなきゃ駄目だぞ??」


「これが適正体重なのですよ。皆さんが少々重過ぎるだけなのです」



 ってか、さり気にあたし達の事重いって言ったよね??



「ほぉん……。どうせあたしはブヨブヨに太った可哀想な牝牛ですよ――っと!!!!」



 ちょいと傷付いた心を癒す為。


 両手を器用に動かしてカエデのお尻に悪戯を仕掛けてやった。



「キャハハ!! ちょ、ちょっと!! 触らないで下さいっ!!」



 ポコポコとあたしの頭を叩くが、その威力がまぁ――可愛い事で。



「あたしを揶揄うともっと酷い目に遭うからな??」


「以後気を付けます」



「ん――。では……。出発っ!!」



 よっしゃ。レイド、待ってろよ??


 あたし達がちゃ――んと監視してやるからな!?


 何だかイケナイ事をしている様な高揚感を胸に秘めてあたし達は部屋を後にした。




お疲れ様でした。


さて、これから淫魔の女王様とのデートが始まり。それを終えると御使いへと出発します。


御使い前の日常パートを楽しんで頂ければ幸いです。


それでは皆様、お休みなさいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ