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第三十三話 予想だにしなかった訪問者 その一

お疲れ様です。


本日の投稿なります。


それでは、どうぞ。




 何処までも広がる青き空に浮かぶ柔らかい綿雲の上で四肢を伸ばして、心地良いお日様の陽光を浴びて体を弛緩させると。王様が使用するベッドでもこれ程の効用は得られないと確信出来る心地良さに包まれていた。



 きっと仕事を頑張って仕上げたご褒美として体が俺にこの素敵な夢を与えてくれるのでしょう。



 正に夢心地の気分に浮かれながら睡眠時において最上位に位置しているであろう睡眠を享受していると……。



 その感覚が立ち処に霧散。



 温かいお日様の感覚の代わりに背筋そして全身の肌がゴワゴワする妙な感覚に包まれ、鼻腔には空の澄んだ空気では無くて何やらしっとりと湿った粘度の高い香を捉えていた。



 不快とも快適とも捉え難い感覚を受けて不意に目を覚ますと。俺が寝ていたのはいつもの丁度良く汚れている宿の部屋では無く、石造りの狭い部屋の中であった。



 凡そ、五メートル四方の狭い部屋。


 この狭い部屋に置かれている家具は今も横になっているベッドと、部屋を怪しく照らす蝋燭のみの質素な部屋だ。



 まだ夢の中かな??


 夢を見ているのに、夢の中で目を覚ますって変な感じですね。




「ふぁ、此処はどこだろう」



 大きな欠伸を放ち、上体を起こしてガシガシと後頭部を掻く。



「まぁいっか。夢の中だろうし……。また寝ればいつかは起きるでしょ」



 等と楽観的な言葉を出して、再び目を瞑りふかふかのベッドに体を預けた。


 さてと!! 素敵な二度寝の始まりですよ――!!



「――――――。夢の中で目を覚ますって変な感覚じゃない??」



 心地良い微睡が訪れるとほぼ同時、聞き覚えのある声色が静かに響いた。



「そうだな。でも、妙に現実味がある感覚で驚いているよ」



 その声へ律儀に返事を返すのは生真面目な己の性格の所為か、将又これが夢であると確証付けてそれを元にして適当に返答している所為か。


 何はともあれ、ぼぅっとした意識のままで素敵な女性の声の持ち主へ己の感想を端的に述べてあげた。




「そうねぇ。大成功って感じかしら」


「大成功?? それって…………。んんんん!?!?」



 この声質……。そ、それに体に絡みつく大変淫らなこの空気……。


 そっと静かに瞳を開くと。



「やっほ――。レイド、元気??」



 この世で五指に入る美貌を持つ女性が太陽の輝きを持つ笑みを浮かべて手をヒラヒラと振っていた。


 何で夢の中に淫魔の女王様が出て来るんだよ。


 俺の無意識はいつの間にか彼女の淫らな力によって彼女色に侵蝕されてしまったのだろうか。


 兎に角、現状を把握する為に起きましょうかね。



「エルザード何して……。ちょ、ちょっと!! 服を着なさいよ!!」



 起きるんじゃなかった!!


 美しい肢体が目に飛び込んでくると同時に、彼女の体を隠すのはやたら無意味に面積の少ない布地のみだと気付いてしまう。



 彼女から慌てて視線を外して目をぎゅっと瞑った。



「え――。夢の中だから別にいいじゃん」


「良くありません!! 大体、俺は何でこんな夢を見ているんだよ!!」



 自分で自分に突っ込むのは如何な物かと思うが、叫ばずにはいられなかった。



「んふふ。私の事考えてくれていたんだ。嬉しいよ??」



 ベッドが静かに軋む音と共にエルザードの香と声が近付いて来る。



「そいつはどうも。これは夢、何だよね??」


「ん――。夢でもあるし、夢ではないとも言えるわね」



 ごめんなさい。


 魔法に疎い自分には理解に及びませんのでもう少し親切丁寧な説明を所望させて頂きたい次第であります。



「ふぅむ。つまり、現実世界から離れた場所でもあると??」


「まぁ及第点をあげられる答えね」

「っ!?」



 妙に生物的な感触の尖った何かが足の甲をツツ――っと這う。



「えへへ。どう――?? こそばゆいでしょ――」


「くすぐったいから指を離しなさい!!」


「目を開けてくれるまで止めませ――んっ」



 こ、この横着な女王様め!!



「じゃあ目を開けたらこの夢から解放してくれる??」


「……」



 無視かっ!?


 俺の提案を受けるとクスクスと柔和な笑い声が静かに、そして微かに部屋の中に響いた。



「クスス……。ほぉら、夢の世界の統率者である私に答えをおねだりすれば教えてくれるかも知れないわよ??」



 ちぃっ、そう来たか。



「ふぅ――……。世界最高の魔法使いであり、由緒正しき九祖の血を受け継ぎ、麗しき御姿であられる淫魔の女王様。どうかみすぼらしい一般人にこの世界から脱出方法を教えて下さいませ」



 これで大丈夫でしょう。



「え?? ヤダっ。だってこの空間は私がレイドと二人っきりになる為に作った空間だもん」


「すべからく辛辣だなっ!!!!」



 折角頑張って褒めたってのに!!



「うふふ、ごめんね??」



 エルザードがそう話すと、太腿にこそばゆい感覚が広がる。



「くすぐったい」


「目を開けないと、どんどんくすっぐたくなるわよぉ??」



 くっ!! そう来たか!!



「よいしょっと……」


「乗らない!!」


「だってぇ。久々に会うから……。昂っちゃって」



 今度は俺の胸元に五指……。じゃあないな。頑張って十指を器用に操って何んとか此方の目を開けさせようと躍起になっているな。



「久々って。ルー達の里で会ったじゃん」


「一緒に居られたのはほんの少しじゃない。こうしてさ、二人っきりで会うのは久々なのっ」



 リューヴ達の祈りの舞いが披露される時には里に居なかったし。


 そう言われて見れば面と面を合わせて話すのは久し振りなのかも知れませんね。


 あ、いや。目を瞑っているので面と面を合わせているというのは少々語弊があるな。



「それより何の用件で来たの??」


「用件?? 用が無いと来ちゃ駄目??」


「いや、別に構わないけど」



 エルザードも大切な仲間であり友人の一人だ。


 確かに、彼女が言う事は一理あるかも知れないが問題は方法だよなぁ。


 こうして俺の意思を無視して拉致監禁するのは例え友人であっても了承出来かねますからね。



「ならいいじゃない。これ、邪魔ね……」


「服を脱がそうとしない!!!!」



 シャツを捲ろうとするので慌てて手で制してやった。


 男の服を脱がして何をするんだよ!!



「え?? 服を着たままするのがいいの??」


「そ、そうじゃない!! 俺の服を脱がして何をするんだよ!!」


「何って。ナニよ??」


「尚更駄目に決まってんだろ!!」



 こいつの頭の中にはそれしかないのか!?


 流石、淫らな魔物の頂点に立つ女性なだけはありますね!!



「むぅ。別にいいじゃ――ん。夢の中なんだし――……。二人でさ、魂まで溶け落ちてしまう極上で素敵な気持ち良い事……しよ??」



 うっ!!


 跨っている状態からパタリと俺の体の上に倒れ込んで来たみたいだ。


 柔らかい二つの餅が体に当たり、気が気じゃ無くなってきたぞ。




『んおっ!? 朝一からおっぱじめるのか!? ハハッ!! こちとらぁ……。四六時中準備出来てるぜぇぇええ!!』



 ほ、ほら!!


 性欲という名のお馬鹿さんが無意味に腕立て伏せを始めちゃったじゃないか!!


 エルザードの柔肉とイケナイ香り、そしてじわぁっと体に伝わる彼女の体温が男性の象徴足るアレを活性化。


 それを悟られまいとして、微妙に腰を動かす。


 幸か不幸か。


 今は倒れ込んでいるから腰の異常事態に気付かれていない。このままどうか気付かれませんように!!




「しません」

「するの」



「しないの!!」

「するの!!!!」


「己は子供か!!」



 体はどこにでも……、基。


 こんな体がどこにでもいたら世の中美女だらけになってしまう。


 体は大人でも、頭の中は駄々を捏ねる子供そのままじゃないか。


 齢三百を超えているのだから、女王の気概を見せなさいよね。



「ここまで強情な男は初めて見るわ。仕方が無い、本当は自分から目を開けて欲しかったけどぉ……」


「強情なのは生まれつき……。お、おいおい。目が勝手に…………っ!!!!」



 エルザードが何やら口元で囁くと己の意思に反して鉄の扉が徐々に歪な音を奏でて開いて行き、暗闇の中に一筋の明かりが差し込んでしまった。



「…………」



 視線のその先。そこには一人の美女がいつもは良く動く口を閉ざして。柔らかい目元を浮かべて俺を見つめていた。


 薄い桜色の髪を気怠そうに垂らし、髪の隙間から妖艶な瞳が此方を覗き込む。


 絶世の美女でさえも思わずヒュっと息を飲んでしまう美貌に俺は時間の概念を忘れ去り、只々彼女の姿に魅入ってしまっていた。



「おはよっ。レイド」


「あ、うん。お早うございます」



 彼女が口を開けば熱い感情が籠った吐息が届き、それを吸い込むと体内の全てを彼女色に染めてしまう。



「ね。どう??」


「どうって??」


「私といて楽しくない??」


「こういう事をしなければ楽しいと思うよ」



 しなやかな指が体を這えば、男の性が沸々と奥底から湧き起こり。



『くっは――!! 堪んねぇぜ!! ほ、ほら!! 早く早くぅぅうう!!』



 大馬鹿野郎を更に暴走させてしまった。



 こ、これ以上此処に居るのは危険だ!! 自我を保てん!!!!



「私は楽しいよ??」


「そ、そりゃ良かった」



 ど、何処かに脱出口はある筈!! 諦めるな!!


 両の目玉を必死に動かして黒き壁の綻びを懸命に探すが……。視界に映る範囲ではその様な場所は見つかりませんね!!



 最終手段として壁をぶち抜いて逃げるべきか……。それとも己の感情に逆らわないで目の前の美女を思う存分に食らい尽くすか……。


 仮に後者を選択した場合。



『はいは――い。テメェの罪はぁ……。これから約二百年間、ずぅぅっと私にボコられ続ける事だぁぁああ!!』



 俺の体は原形を留める事が不可能な程の暴力を受けて爆散してしまう確率が大いに高いので選ぶべきでは無いのだが……。


 体と本能は理性を凌駕して食らえと命じてくるのだ。



 あぁっ!! くそう!!


 正常に思考が働かない!!



 今も俺の体に身を預ける彼女を抱き締めようとする両腕の筋肉を必死に御していると。




「ぎゅって……………………。して??」



 彼女の瞳に怪しい光が灯り、俺の腕が柔肉をより強く密着させてしまった。



「あ、あれ?? な、何で勝手に!?!?」


「んっ。そう、いい子ね??」


「おい。何かしただろ」


「…………。知らないっ」



 顰め面で問うと、頬を膨らませてぷいっと顔を背けてしまう。



「大体、レイドが悪いんだよ?? 私がこうして迫ってるのに無視するから」


「無視はしていないだろ」


「むっ。でもさ、何か落ち着くよね」


「…………。まぁ、な」



 夢の中だからなのか。


 体がふわつき、熟睡した後の微睡に似た感覚が体中を包み込んでいる。



「ここは私の場所なのっ」


「俺は物じゃない」


「そうなの?? 貴方の体の所有権は私にあるんだけど」



 それ、初耳ですよ??


 そして俺の体の所有権は己自身にありますので、貴女に譲渡した覚えはありません。



「ほらっ、手。繋ごう??」



 己の意思に反して腕の拘束が解かれると二人の指が甘く絡み合い、体温が溶けあい。そして魂までもが混ざり合い。


 二つの体が一つのモノになる錯覚に陥ってしまった。



「レイドの手。おっきい」


「普通だと思うけどね」


「そう?? 私、この手。大好きだよ」



 やめて!!


 そんな甘ったるい声を出すのは!!



「あったかくて……。大きくて……。男らしい手」



 不意に手を上げると、しっとりと湿った口内へ俺の指を誘う。



「た、食べないの!!」


「私から逃げないで……??」



 うぅ。いかん。


 このままじゃ……。確実に食われる!!



「私の髪の毛、爪、顔、胸。全部レイドの物だよ?? 好きにしていいんだよ?? 奪っていいんだよ??」



 その目を止めなさい。


 男を淫猥にさせる瞳を浮かべ、熱い吐息が気を動転させる。


 これ以上は不味い!!



「じゃあ好きにさせて貰おう」


「本当!? じゃあ、しよっ!!」


「待てい!!」



 慌てて俺の服を脱がし始めるので、再び手で制して話す。



「なぁに??」


「全部俺の物なら此方の命令に従いなさい。このままじっと何もせず、俺の意識を現実に還しなさい」



 これで全て丸く収まる……。



「…………やだ!!」



 訳は無いですよね!!!!



「ちょ、ちょっとぉ!!」



 痺れを切らしたエルザードがガバっと上体を起こして面積の少ない布地を脱ぎ捨てて、戦闘態勢を整えてしまった。



 慌ててシーツを被り、襲い掛かる災害から身を隠す。



「こうなったら無理矢理してあげるわ!! ほら!! さっさと脱げ!!」


「普通逆だろ!! その台詞!!」



 シーツを引っぺがそうと女性とは思えない力で俺の体を白日の下へ晒そうとする。


 何て力してんだよ!!



「安心しなさい!! 気持ち良くしてあげるから!!」


「勘弁して下さい!!」


「男らしく、出すもの出せ!! パンパンに腫れてんの知ってるのよ!?」


「横暴だって!!」



 お願い、誰か、助けて……。



「そぉぉ――れぇぇ――!!」


「いやぁぁああああ!!」



 シーツが部屋の隅に吹き飛び体が表に晒されてしまった。


 女神さえも魅了してしまうエルザードの裸体を見ぬよう、土中から間違えて地表に出てしまったモグラさんみたいに慌てて両手で視界を塞いだ。



「ぜぇ……ぜぇ……。力仕事は苦手なのに……。よくも掻きたくも無い汗を掻かせたわね」


「そっちが勝手にしたのでしょう??」


「汗を掻くのは……。そういう事をした時よ。さ、繋がろうか」


「朝御飯を食べる時みたいに、軽く言わないの……」



 精一杯の強がりを言ってやった。



「まぁ、御飯みたいなものよね。じゃあ……頂きますっ」


「駄目ですぅ!!」



 外敵から身を守るダンゴムシの様に体を丸め、最後の悪あがきを始めた。



 このままじゃ確実にく、食われる!!



「どう料理してあげようかしらねぇ……。ありゃ?? ちっ!!!! レイドついているわね」



「へ?? 何??」


「向こうで誰かが私達を起こそうと躍起になっているみたいよ。ほら、覚醒するわ」



 エルザードがそう話すと同時に体が闇の中に落ちて行った。


 この感覚。


 あの天使擬きであるセラの所から帰る時に酷似しているな。


 そんな事を考え、沈み行く闇の中に身を委ねた。




お疲れ様でした。


現在後半部分を作業中なのですが、日付が変わる頃までに間に合えばと考えております。


もしかすると疲労困憊で寝落ちしてしまうかも知れませんのでその時はお許し下さいませ。

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